説明

鉄−炭素−マンガン合金からなるストリップ

【課題】従来の方法よりも迅速にかつ低廉に製造する方法によって得られる高マンガン鋼からなるストリップを提供する。
【解決手段】鉄-炭素-マンガン合金からなる厚さ1.5〜10mmの薄いストリップが鋳造機械において溶融金属から直接鋳造され、溶融金属の組成は、重量%で、C0.001〜1.6%;Mn6〜30%;Ni≦10%;(Mn+Ni)16〜30%;Si≦2.5%;Al≦6%;Cr≦10%;(P+Sn+Sb+As)≦0.2%;(S+Se+Te)≦0.5%;(V+Ti+Nb+B+Ta+Zr+希土類)≦3%;(Mo+W)≦0.5%;N≦0.3%;Cu≦5%;および鉄と製錬から生じる不純物からなる残部;であり、ストリップは一つまたは二つ以上の工程において10〜90%の加工度で冷間圧延され、そしてストリップは再結晶化焼きなましを受ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鉄系合金からなるストリップの製造に関する。より詳しくは、本発明は、薄いストリップの形での直接鋳造による鉄-炭素-マンガン合金からなるストリップの製造に関する。
【背景技術】
【0002】
Fe-Mn(11〜14%)-C(1.1〜1.4%)からなるハッドフィールド鋼は、「高マンガン鋼」とも称されるが、古くから知られている。これは非常に強度が高く、また繰り返し加えられる摩擦力または衝撃の影響下で時効を受け得る、という特徴を有する。また、ハッドフィールド鋼とFe-Cr-Niオーステナイト系ステンレス鋼(これにおいてはニッケルがマンガンによって段階的に置換され、クロムがアルミニウムによって段階的に置換される)から同時に誘導されるFe-Mn(15〜35%)-A1(0〜10%)-Cr(0〜20%)-C(0〜1.5%)のタイプのオーステナイト鋼も知られている。これらの高マンガン鋼は、高い強度レベルと優れた延性を同時に備えることを可能にする高い加工硬化性によって特徴づけられる。従ってこれらは、自動車工業において引抜き加工や打抜き加工によって製造される強化要素の製造のために有効に用いることができる。これらの鋼における高い加工硬化性は、γ→εマルテンサイト変態によって強化されることがある機械的双晶をよりどころとしている。双晶は伝播によって塑性変形を促進するが、しかし、相互に妨害するとき、それらは降伏応力を増大させるのにも寄与する。
【0003】
様々な文献がそのような高マンガン鋼の組成と製造について論じていて、例えばWO93/13233、WO95/26423、WO97/24467がある。これらの鋼はこれまでは常に、厚さがおよそ200mmの厚スラブの連続鋳造/熱間圧延/冷間圧延/焼きなまし/酸洗い/スキンパスという慣用のプロセスによって製造されてきた。このプロセスは本質的に三つの欠点を有する。第一にコストの問題であり、これは、非常に大きな投資を要するプラントであるストリップミルの使用と、スラブを圧延する前に強く再加熱する必要があるために大量のエネルギーを消費することによる。第二に、この再加熱の間にストリップが高温割れを起こす危険性があることであり、この間に厚いスケールの層も形成され、これは製品の表面品質と製造プロセスの冶金効率の両者について好ましくない。第三に、全体として、それは長い製造プロセスであり、そのため顧客の側からの強い要求に常に迅速に対応することを可能にはしない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、高いマンガン含有量を有する鉄系合金からなるストリップを公知の従来の方法よりも迅速にかつ低廉に製造し、そしてそのような従来の方法による製品と少なくとも同等の品質を有する製品を得ることを可能にする方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的のため、本発明の主題は、鉄-炭素-マンガン合金からなるストリップを製造するための方法であり:
厚さ1.5〜10mmの薄いストリップが鋳造機械において溶融金属から直接鋳造され、前記溶融金属の組成は、重量%で、C0.001〜1.6%;Mn6〜30%;Ni≦10%;(Mn+Ni)16〜30%;Si≦2.5%;A1≦6%;Cr≦10%;(P+Sn+Sb+As)≦0.2%;(S+Se+Te)≦0.5%;(V+Ti+Nb+B+Ta+Zr+希土類)≦3%;(Mo+W)≦0.5%;N≦0.3%;Cu≦5%;および鉄と製錬から生じる不純物からなる残部;であり、
前記ストリップは一つまたは二つ以上の工程において10〜90%の加工度で冷間圧延され、そして
前記ストリップは再結晶化焼きなましを受ける。
本発明はまた、上記方法によって製造され得るストリップに関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
すでに理解されたように、本発明は、第一に、溶融金属を薄いストリップの形で直接鋳造するための方法の使用をよりどころとしている。この薄いストリップは、小さなサイズのプラントを用いてインライン(直列)の熱間圧延を受けることができ、このプラントの製造コストと運転コストはストリップミルのコストよりもずっと小さい。さらに、ストリップミルにおける熱間圧延の省略によって、上述した再加熱の間の高温割れの危険性が解消されるだろう。次いで、冷間圧延、焼きなまし、および任意のスキンパスの操作が行われ、これらの操作は、後に詳述する態様によって、所望の製品特性が得られることを可能にする。
【0007】
本発明は以下の記載を読むことによってさらに明確に理解されよう。
【0008】
厚さ1.5〜10mmの薄い鋼ストリップを直接鋳造する方法は、現時点で、特に「2ロール鋳造(twin-roll casting)」と呼ばれる形で周知である。溶融した鋼は近接した二つの水平なロール(これらは内部で冷却されて反対方向に回転している)の側壁に接して凝固し、そして凝固したストリップの形でロールの下に出てくる。凝固したストリップは直接コイル状に巻くことができ、次いで冷却処理プラントに送られ、あるいはコイル巻きされる前にインラインの熱間圧延を受ける。本発明によれば、そのような方法を用いることによって、ストリップミルに通すことが省略されるために、高マンガン鋼からなるストリップを製造するプロセスを短縮することが可能になる。一方、このストリップミルに通すことは、スラブを鋳造することから開始する従来の方法においては必須のことである。この省略は、高マンガン・オーステナイト鋼が冷却されている間に相変態を生じないことによって特徴づけられるものであるときには、なお一層好都合である。これは、フェライト系炭素鋼またはフェライト系ステンレス鋼の熱間圧延の通常の作用の一つが、相変態が起こる直前でのミクロ組織の調質(微細化)だからである。しかし、成形温度において最良の強度/延性の折衷を提供する高マンガン鋼は、少なくとも変形を行う前には、凝固した時点から冷却の終了までの間、完全にオーステナイト相を呈する。従って、高マンガン・オーステナイト鋼の熱間圧延には顕著な冶金上の利点はない。その作用は、冷間圧延することが可能なストリップを得るための製品の単純な厚さの低減に限定される。従ってそのような場合、最終の厚さに比較的近い厚さを有するストリップを、薄いストリップの鋳造によって得ることには、鋳造された後にこのストリップにいかなる中心気孔も存在しない限り、何らの欠点もない。上述したような軽いインラインの熱間圧延は、そのような気孔を閉鎖するのに十分なものである。
【0009】
本発明は、重量%で下記の組成を有する高マンガン鋼の製造に適用される:
炭素の含有量は0.001〜1.6%であり、好ましくは0.2〜0.8%である。0.2%未満の含有量では溶融した鋼のプールを脱炭しなければならず、これは実行するのに費用がかかり、特にマンガンがすでにかなりの量で存在するときにそうであり、さらに、この0.2%という最少量は、炭素と転位の相互作用が起こるのを許容し、炭素は、転位を固定することによって、双晶よりも強い硬化を生じさせ、そして引張り強さを50〜100MPa改善させる。0.8%を超える量では、最適な機械的特性を得る目的で添加される他の合金元素の含有量を最適にするのが困難になる。
【0010】
マンガンの含有量は6〜30%である。ただし、マンガンとニッケルの含有量の合計は16〜30%であり、ニッケルの含有量は10%以下である。
ケイ素の含有量は2.5%以下であり、ただし、この元素は任意に添加される。
アルミニウムの含有量は6%以下であり、ただし、この元素は任意に添加される。
クロムが存在する場合、クロムの含有量は10%以下である。
【0011】
リンの含有量は0.2%以下であり、存在する可能性のあるスズ、アンチモン、およびヒ素は、この観点から、鋼の組成の中でリンと類似していてリンと両立することが知られている。この含有量を超えると、ストリップの偏析領域に欠陥が生じる危険性があり、これらの欠陥は偏析が起こる位置での凝固の遅れによって生じ、もし溶融状態にある金属が製品中の特定の場所に依然として存在している間に製品が熱間圧延されるならば、その結果、ミクロ組織の凝集力が失われる危険性がある。
【0012】
硫黄、セレン、およびテルルの含有量の合計は0.5%以下である。
バナジウム、チタン、ニオブ、ホウ素、タンタル、ジルコニウム、および希土類は、窒化物と炭窒化物を析出させるが、これらの含有量の合計は3%以下である。
モリブデンとタングステンの含有量の合計は0.5%以下である。
窒素の含有量は0.3%以下である。
銅の含有量は0.3%以下である。
【0013】
本発明によれば、上で定義した組成を有する高マンガン鋼(その組成の典型例はFe−C:0.55%−Mn:21.5%)が、溶融金属から直接、厚さ1.5〜10mmの薄いストリップの形で鋳造される。この目的のため、厚さ約3〜4mmのストリップの2ロール鋳造が、本発明に従う方法を実施するのに特に適している。
【0014】
ストリップがロールを出るとき、ストリップはガス中で吹き付けられることによって不活性化されたチャンバーのような領域を通過するのが好ましく、その中でストリップは非酸化性の環境(不活性な窒素またはアルゴンの雰囲気、あるいはこれを還元するために特定の割合の水素を含む雰囲気であってもよい)にさらされ、それによってその表面上でのスケールの形成が防止または制限される。鋳造タイプの鋼はスケールの形成に特に感受性が高く、そして溶融金属から直接鋳造される薄いストリップ上でこの形成を制限することは、通常の連続鋳造プラントで鋳造しなければならずそして次いで熱間圧延される前に再加熱される厚いスラブ上でこの形成を制限することよりも困難ではない、ということが認められている。この不活性領域の出口には、ショットブラストまたは表面上への固体CO2のブラスト(blasting)またはブラシング(brushing)によってストリップのスケール除去を行うための装置を設けてもよく、それによって、用心を払ったにもかかわらず形成されたスケールを除去することができる。ストリップの周囲の雰囲気を不活性化しようとするのではなく、スケールが自然に形成されたままにして、次いでこのスケールを上述のもののような装置によって除去することを選択することもできる。
【0015】
ストリップが不活性化プラントまたはスケール除去プラントを出た直後、できるだけ早く、このストリップをインラインの熱間圧延に供するのが好ましい。しかしこれは、ストリップが気孔と表面仕上げに関して直ちに満足できるものである場合は、必須のことではない。かなりの程度まで、スケールの形成を防止するかまたは制限するか、および/または形成されたスケールを除去するのに好ましく採用される処置を正当化するのが、この圧延である。その理由は、スケールの層を有するストリップでこの熱間圧延を実施すれば、ストリップの表面の内部にスケールがちりばめられる可能性があり、それによってその表面品質が劣化するからである。この熱間圧延の本質的な役割は、ストリップが凝固する間にそのコア部分に形成されやすい気孔の全てを閉鎖することと、(特に、粗さの高い鋳造ロールが用いられたときに)ストリップの表面に存在する粗さのピークを平坦化することによって表面仕上げを改善することである。気孔が正しく閉鎖されることを望む場合、この熱間圧延の間にストリップに適用されるべき最小の加工度は10%であり、典型的には20%である。しかし、(一つまたは二つ以上の工程で得られる)60%までの加工度も考えられ、特に、表面粗さの高いストリップが所望される場合、あるいは厚さが非常に小さい最終製品を得ることが所望される場合に、そうである。この熱間圧延が実施される際の温度は、冶金的見地からはあまり重要ではない。というのは、すでに述べたが、この鋼はあらゆる温度においてオーステナイト組織を有し、従って熱間圧延の品質上の結果に影響する相変態を受けないからである。
【0016】
この任意であるがしかし好ましい熱間圧延の後、ストリップをコイル巻きしてもよい。この際にも温度は実際的な見地から以外にはあまり重要ではない。というのは、コイル巻きされたストリップが小さな速度で冷却される間に、結晶粒成長以外には、顕著な冶金的変態は起こりにくいからである。いずれにしても、結晶粒成長は限られた程度にしか起こらず、その影響は、後に行われる冷間圧延と焼きなまし操作によって容易に消すことができるだろう。任意に、ストリップがコイル形状にある間の時間は、炭化物、窒化物、および炭窒化物の析出を完了させる機会となる。
【0017】
鋳造されたストリップは、次いで熱間圧延され、次いで(直ちに、またはコイル巻きとコイル巻き出しの操作の後)冷間圧延され、好ましくは冷間圧延の前に、ストリップの良好な表面仕上げが得られるのを可能にする酸洗い(例えば塩酸中で)が行われる。この冷間圧延の間に適用される加工度は10〜90%であり、典型的には約75%である。それは一つまたは二つ以上の工程で得られる。出発製品が厚さ3〜4mmの鋳造されたストリップの場合、熱間圧延の後には2.5〜3mmの厚さに加工され、最終的に得られるのは典型的には厚さが約0.6〜0.8mmの冷間圧延されたストリップである。
【0018】
次いで、ストリップは再結晶化焼きなましを受けるが、これは高い引張り強さと延性の特性を付与する目的で行われる。この焼きなましは様々な方法で行うことができ、例えば下記の方法がある:
「コンパクト焼きなまし(compact annealing)」と称される焼きなましであって、これにおいては、ストリップは900〜1000℃または1100℃の温度まで約500℃/sの速度で加熱され、次いで直ぐに100〜6000℃/sの速度で冷却される。この冷却速度はストリップの厚さと冷却剤の特性に依存する。典型的には、1000℃に加熱された厚さ0.8mmのストリップは、ヘリウム中で急冷されるときは200℃/sで冷却され、水中で急冷されるときは5000℃/sで冷却される。
【0019】
連続焼きなましであって、これにおいては、ストリップは800〜850℃に加熱され、次いでこの温度に約60〜120秒間保持される。
【0020】
箱型焼きなまし(box annealing)であって、これにおいては、ストリップは700〜750℃に約10〜90分間保持される。
【0021】
全ての場合において、10μm未満のサイズの再結晶粒が得られる。一般に、本発明に従う高マンガン鋼は焼きなましの条件における広範囲の変化を許容する。というのは、結晶粒成長を妨げる合金元素の含有量が高いからである。
【実施例】
【0022】
表1は、下記の組成を有する鋼において得られた引張り特性を示す:C=0.57%、Mn=21.47%、Si=0.038%、Ni=0.03%、Cr=0.005%、Cu=0.003%、P=0.009%、N=0.034%、S=0.005%、Al=0.003%、およびMo=0.003%。この鋼は上述の本発明に従う下記の処理を受けた:厚さ4mmのストリップの2ロール鋳造、このストリップの厚さ2.6mmまでの熱間圧延、厚さ1mmまでの冷間圧延、そして最後の、90秒間800℃での連続焼きなまし。比較のため、表1はまた、C=0.53%、Mn=26.4%、Si=0.045%、P=0.013%、Al=1.6%、およびN=0.074%の組成の高マンガン鋼からなるストリップを製造するための従来の方法によって得られた対照の鋼の引張り特性も示している。これはWO93/13233に記載されたストリップに相当する。引張り特性は圧延方向に平行に測定された。
【0023】
【表1】

【0024】
この表は、特に、対照の鋼と比較して本発明の鋼において機械的強度が30%以上改善されたことを示している。結果における偏倚は4%未満である。機械的強度におけるこの改善は延性の低下を伴うものではなく、それとは全く反対である。というのは、破断点伸びはそれ自体かなり増大しているからである。
【0025】
ストリップを製造するプロセスは焼きなましの後に(あるいは焼きなまししたストリップを酸洗いした後に)停止することができ、あるいはこのプロセスは、通常の方法に従って行われるスキンパス操作によって通常に完了することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄-炭素-マンガン合金からなるストリップであって、前記鉄-炭素-マンガン合金が、重量%で、C0.001〜1.6%;Mn6〜30%;Ni≦10%;(Mn+Ni)16〜30%;Si≦2.5%;A1≦6%;Cr≦10%;(P+Sn+Sb+As)≦0.2%;(S+Se+Te)≦0.5%;(V+Ti+Nb+B+Ta+Zr+希土類)≦3%;(Mo+W)≦0.5%;N≦0.3%;Cu≦5%;および鉄と製錬から生じる不純物からなる残部;からなる組成を有し、
厚さ1.5〜10mmの薄いストリップが鋳造機械において前記の組成を有する溶融金属から直接鋳造され、
前記ストリップは一つまたは二つ以上の工程において10〜90%の加工度で冷間圧延され、そして
前記ストリップは再結晶化焼きなましを受ける、
以上の工程を含む方法によって製造されたストリップ。

【公開番号】特開2011−68997(P2011−68997A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−281215(P2010−281215)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【分割の表示】特願2000−206004(P2000−206004)の分割
【原出願日】平成12年7月7日(2000.7.7)
【出願人】(506166491)アルセロールミタル・フランス (43)
【Fターム(参考)】