説明

鉄とクロムを含む酸性廃液の処理方法

【課題】 鉄とクロムを含む酸性廃液の中和処理によって析出する鉄とクロムからなる金属水酸化物を種類毎に分離し、それぞれ、鉄源、ステンレス原料として十分使用できる、鉄とクロムを含む酸性廃液の処理方法。
【解決手段】 クロム系ステンレス鋼板を酸洗した際に発生する少なくとも3価クロムイオンと2価鉄イオンとを含んだ酸性廃液を、第1の反応槽に連続的に供給し、アルカリ剤にてpH4.5〜6.5の範囲に調整し、水酸化クロム主体の粒子を析出させ液体部から分離し回収する。液体部は第2の反応槽内に投入し、生物学的酸化手段又は化学的酸化手段により、2価鉄イオンを酸化し、水酸化鉄(III)主体の粒子を析出させ分離し回収する。また、第1の反応槽内で析出したスラリーにより、6価クロムイオン含有廃液を還元処理し、粒子中のクロム濃度を上昇させ、回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2価鉄イオンとクロムイオンを含む酸性廃液を処理して、酸性廃液中のクロム分と鉄分とを分離・回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロム系ステンレス鋼板の圧延を施す際に、鋼板の表面に生成したスケールを酸洗処理にて除去している。また、各種金属製品の表面処理あるいは皮膜工場で6価クロムイオンからなるクロム酸塩が使用されている。
【0003】
クロム系ステンレス鋼板の酸洗処理では、硫酸を含む酸性の液を用いるため、クロム系ステンレス鋼板中の鉄・クロムなどの金属を溶解した酸性の廃液が発生する。
【0004】
また、電子部品製造業、機械部品製造業、自動車用鋼板製造業、ステンレス鋼製造業、皮膜工場などにおいて、6価クロムイオンを含有するクロム酸塩が表面処理に使用されるため、6価クロムイオンを含む廃液が発生する。この廃液は、6価クロムイオンを亜硫酸ソーダや硫酸第一鉄などの還元剤で還元処理した後に、アルカリ液を加えてpH6〜9で中和処理してから、凝集剤を添加してシックナーなどの沈殿池を利用して金属水酸化物を沈殿させてスラリーとし、このスラリーを脱水してスラッジケーキに加工する。よって、スラッジ中には鉄以外にクロムなどの金属を含んだケーキとなり、鉄源としては成分的にリサイクルし難いものとなる。また、これら金属水酸化物は粒子が小さく沈降速度が遅く、スラリーを脱水処理した際に生成するスラッジケーキの含水量も高く、使用する際スラッジケーキの乾燥が必要になる。しかもそのスラッジは、多量に水を含んだ状態で搬送するため輸送費用が増加する等の問題がある。
【0005】
これに対し、特許文献1に示される方法があり、これは、クロム濃度が高い硫酸酸洗廃液に金属鉄粉を添加して、溶液中のフリー硫酸を中和してpH2〜4にする第1工程と、この第1工程で得る溶液に更に金属粉を添加してpHを4〜6に調整して水酸化クロムを生成させる第2工程と、この生成した水酸化クロムを溶液から沈降分離させる第3工程と、第3工程で流出した溶液を濾過する第4工程と、続いて第4工程から流出した溶液から酸化鉄を得る工程からなる処理を行うものである。特許文献1は、クロムをほとんど完全に除去して、不純物のない高純度酸化鉄粉原料を得ることを目的としている。
【特許文献1】特開平3−146422号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、金属粉として鉄粉で中和する場合、その中和反応速度は遅く、第1工程と第2工程では中和に必要な理論当量より多くの鉄粉を投入する必要があり、第3工程で分離した水酸化クロム中には、未反応の鉄粉が混じってしまい、分離された水酸化クロムの純度を低下させてしまう。よって、特許文献1では、第3工程から回収された水酸化クロムを含む固形物は、クロム原料として十分に使用できるほどクロム濃度を高く安定的に維持することはできない。
【0007】
そこで、本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、鉄とクロムを含む酸性廃液の中和処理によって析出する鉄とクロムを主に含有する金属水酸化物を種類毎に分離し、水酸化クロムについては、ステンレス製造時のクロム成分調整時に使用できるクロム濃度、もしくは、クロム酸製造時に経済的に十分使用できるクロム濃度とし、鉄化合物については、クロムをほとんど含まず、鉄源として十分使用できるスラッジにして有効利用を図ることができる鉄とクロムを含む酸性廃液の処理方法を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明は、電子部品製造業、機械部品製造業、自動車鋼板製造業、ステンレス鋼板製造業、あるいは、皮膜工場から排出される6価クロムイオン含有廃液を水酸化クロム主体の粒子を含むスラリーと混合し、6価クロムイオンを還元した後に、クロムを析出させ、水酸化クロム主体の粒子中のクロム濃度を更に上昇させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために、クロム系ステンレス鋼板を硫酸で酸洗処理した際に発生する少なくとも3価クロムイオンと2価鉄イオンとを含んだpH3以下の酸性廃液(以下、単に「酸性廃液」ともいう)と電子部品製造業、機械部品製造業、自動車鋼板製造業、ステンレス鋼板製造業、あるいは、皮膜工場から排出される6価クロムイオンを含んだ廃液を対象に、鋭意検討した結果、次のことが判明した。
【0010】
酸性廃液に水酸化マグネシウム、苛性ソーダ、炭酸カルシウム、生石灰、消石灰などの中和剤を使用して、pH4.5〜6.5に調整することで、主に水酸化クロムを析出させることができる。好ましくはpH5〜6に調整することで、酸性廃液中の3価クロムイオンのほとんど全量が水酸化クロムとして析出する。その際、2価鉄イオンは一部が析出するが、大部分は溶解したままである。鉄粉などの金属粉と比較して、これらの中和剤は反応速度が大きく、ほぼ理論当量の投入量で中和でき、未反応の中和剤が水酸化クロムと混在しているような状況にはなりにくい。このように析出した水酸化クロムはコロイド状であり、脱水しにくく、脱水後のケーキは、60〜80%の含水率のケーキとなる。
【0011】
前記ケーキを、ステンレスなどの用途に使われるクロム原料としてリサイクルする場合、乾燥などの前処理を省略または簡略化し、かつ、湿潤状態でのCr含有率をより向上させるために、前述の通りにして析出させた水酸化クロム主体の粒子に、更に3価クロムイオンを接触させて前記水酸化クロム主体の粒子表面に析出させて、粒子径を大きくすることにより、脱水性と濾過性を改善できることを見出した。これにより、脱水後の水分は、20〜50%へと大きく改善でき、よりリサイクルに適したものとすることができる。また、濾過性が向上したことにより、固液分離の手法として、通常用いられる沈澱方式や遠心分離方式以外に、濾過による濾過速度が向上して濾過法を適用できることが判明した。
【0012】
さらに、前述の通りにして析出させた水酸化クロム主体の粒子中には、2価鉄イオンを含む化合物を含有していることを発見し、電子部品製造業、機械部品製造業、自動車鋼板製造業、ステンレス鋼板製造業、あるいは、皮膜工場で発生する6価クロムイオン含有廃液を投入することで、粒子中の2価鉄イオンからなる化合物が6価クロムイオンを3価クロムイオンに還元し、3価クロムイオンをその粒子表面で水酸化クロムにして結合させることにより、粒子中のクロム濃度をさらに上昇させることができることを見出した。
【0013】
さらに、前述の通りにして析出した水酸化クロム主体の粒子を液体部から分離し、その液体部中に溶解している2価鉄イオンを生物学的酸化手段又は化学的酸化手段を用いることによって、2価鉄イオンを3価鉄イオンに酸化し、水酸化鉄(III)を析出させ、分離することによって、鉄分を液体中より分離できることを見出した。
【0014】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下のとおりである
(1)第1の反応槽に、2価鉄イオンと3価クロムイオンを含む酸性廃液を投入した後又は投入すると共に、アルカリ剤を添加して前記酸性廃液をpH4.5からpH6.5の範囲に調整し、水酸化クロム主体の粒子を析出させた後、固液分離操作により濃縮して、前記水酸化クロム主体の粒子を含有するスラリー又はケーキとすることを特徴とする鉄とクロムを含む酸性廃液の処理方法。
【0015】
(2)前記水酸化クロム主体の粒子に、更に3価クロムイオンを接触させて粒子径を増大化し、その後、固液分離操作することを特徴とする前記(1)記載の鉄とクロムを含む酸性廃液の処理方法。
【0016】
(3)前記第1の反応槽内の溶存酸素濃度を0〜2mg/Lにすることを特徴とする前記(1)または(2)記載の鉄とクロムを含む酸性廃液の処理方法。
【0017】
(4)前記固液分離操作は、分離膜を用いた濾過であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか1つに記載の鉄とクロムを含む酸性廃液の処理方法。
【0018】
(5)前記分離膜の孔径が1〜100μmであることを特徴とする前記(4)記載の鉄とクロムを含む酸性廃液の処理方法。
【0019】
(6)前記酸性廃液は、製鉄工程のクロム系ステンレス鋼板の酸洗処理時に発生する酸性廃液であることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれか1つに記載の鉄とクロムを含む酸性廃液の処理方法。
【0020】
(7)前記固液分離操作によって生じる前記2価鉄イオンを含む液体部を、第2の反応槽内に投入し、化学的酸化手段により、前記2価鉄イオンを3価鉄イオンに酸化して水酸化鉄(III)主体の粒子を析出させた後、固液分離操作により濃縮して、前記水酸化鉄(III)主体の粒子を含有するスラリー又はケーキとすることを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれか1つに記載の鉄とクロムを含む酸性廃液の処理方法。
【0021】
(8)前記固液分離操作によって生じる前記2価鉄イオンを含む液体部を、第2の反応槽内に投入し、アルカリ剤を添加して第2の反応槽内のpHを3から5に制御し、生物学的酸化手段により、前記2価鉄イオンを3価鉄イオンに酸化して水酸化鉄(III)主体の粒子を析出させた後、固液分離操作により濃縮して前記水酸化鉄(III)主体の粒子を含有するスラリー又はケーキとすることを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれか1つに記載の鉄とクロムを含む酸性廃液の処理方法。
【0022】
(9)第3の反応槽内に、前記水酸化クロム主体の粒子を含有するスラリー又はケーキと、6価クロムイオンを含む廃液とを投入して混合し、前記スラリー又はケーキ内に残存する2価鉄イオンを含む化合物で6価クロムイオンを3価クロムイオンに還元して、前記水酸化クロム主体の粒子表面に前記3価クロムイオンを析出させ、水酸化クロム主体の粒子中のクロム濃度を上昇させることを特徴とする前記(1)〜(8)のいずれか1つに記載の鉄とクロムを含む酸性廃液の処理方法。
【0023】
(10)前記第1の反応槽内に添加する前記アルカリ剤が、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、および水酸化マグネシウムからなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする前記(1)〜(9)のいずれか1つに記載の鉄とクロムを含む酸性廃液の処理方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明の2価鉄イオンとクロムイオンを含む酸性廃液の処理によれば、水酸化クロム主体の脱水ケーキと水酸化鉄(III)主体の脱水ケーキに分離することができ、それぞれ、ステンレス原料や製鉄業における鉄源として有効利用することができる。さらに、水酸化クロム主体の粒子を大径化した緻密な粒子にすることにより、それを含むスラリーの濾過性や脱水性を改善できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
【0026】
本発明に係る鉄とクロムを含む酸性廃液の処理方法は、2価鉄イオンと3価クロムイオンを含む酸性廃液をその処理対象とする。
【0027】
前記酸性廃液は、望ましくは、製鉄工程のクロム系ステンレス鋼板の酸洗処理時に発生する酸性廃液を用いる。一般的な酸性廃液は、pHが4以下、好ましくは3以下で、Fe、Cr、Ni等の金属を総量で0.1〜10質量%含み、これらの金属のほとんどは金属イオンとして存在している。
【0028】
図1に、2価鉄イオン、3価クロムイオンをそれぞれ23,000mg/L、3,000mg/Lを含む溶液のpHと排水中元素の残存比率の関係を示す。図1より、3価クロムイオンはpH4以上において析出し、2価鉄イオンは、3価クロムイオンがpH4〜5で析出すると同時に一部析出し、pH7以上でほぼ全量析出する。
【0029】
本発明において、2価鉄イオンと3価クロムイオンを分離するためには、まず、2価鉄イオン、3価クロムイオンを含んだpH4以下の酸性廃液を第1の反応槽に投入した後または投入すると共に、アルカリ剤を添加して前記酸性廃液をpHを4.5〜6.5に調整することで、水酸化クロム主体の粒子を析出させた後、固液分離操作により濃縮して、前記水酸化クロム主体の粒子を含有するケーキ又はスラリーとして固体部を回収することにより行われる。
【0030】
第1の反応層において析出させた前記水酸化クロム主体の粒子は、前記粒子の全量に対して、水酸化クロム(III)を好ましくは20〜40質量%含有する。
【0031】
また、2価鉄イオンが残留する分離した液体部は、第2の反応槽内に投入し、化学的酸化手段などを用いて、前記2価鉄イオンを3価鉄イオンに酸化して水酸化鉄(III)主体の粒子として析出させた後、固液分離操作により前記水酸化鉄(III)主体の粒子を含有するスラリーまたはケーキとするのが望ましい。前記化学的酸化手段として、具体的には、分離した前記液体部のpHを7〜10に調整しながら、前記液体部に空気もしくは酸素をエアレーションすることで、前記液体部に残存する2価鉄イオンを3価鉄イオンに自然酸化し、水酸化鉄(III)として析出させる手段が好ましく用いられる。これにより、鉄とクロムとに分離することができる。ここで、エアレーションは化学的酸化手段の1つである。前記水酸化鉄(III)主体の粒子は、前記粒子の全量に対して、水酸化鉄(III)を好ましくは75〜100質量%含有する。 2価鉄イオンを酸化して水酸化鉄(III)を析出するには、前記化学的酸化手段の代わりに、鉄酸化細菌などを用いる生物学的酸化手段を利用することができるが、その場合の反応槽内のpHは鉄酸化細菌などの細菌の育成に適した3〜5に調整すると良い。鉄酸化細菌としては、チオバチラス・フェロオキシダンス(Thiobacillusferrooxidans)等が使用できる。具体的には、上記と同様にして固液分離操作によって生じた2価鉄イオンを含む液体部を、第2の反応槽内に投入し、アルカリ剤を添加して第2の反応槽内のpHを3から5に制御し、生物学的酸化手段により、2価鉄イオンを3価鉄イオンに酸化して水酸化鉄(III)主体の粒子を析出させた後、固液分離操作により濃縮して前記水酸化鉄(III)主体の粒子を含有するスラリー又はケーキとする手段が好ましく用いられる。
【0032】
図1において図示していないが、3価鉄イオンはpH3以上で析出し、3価クロムイオンと析出する範囲が近いために、3価鉄イオンと3価クロムイオンとは分離しにくい。そこで、水酸化クロム主体の粒子中のクロム品位を高くするためには、2価鉄イオンを酸化させないように、または、酸化し生成した3価鉄イオンを還元するのが望ましい。
【0033】
2価鉄イオンを酸化させないためには、第1の反応槽内の溶存酸素濃度を0〜2mg/Lにすることが望ましい。溶存酸素濃度を低下させる手段としては、亜硫酸塩などの脱酸剤を添加したり、窒素ガスやアルゴンガスなどの酸素を含まない気体を通気したり、反応槽上部に蓋を設置し、空気と反応槽内の液体部との接触を断ちながら、機械攪拌を行なうなどの手段がある。
【0034】
酸化し生成した3価鉄イオンを還元するためには、酸性廃液中に還元剤を投入し、還元することができる。還元剤としては、鉄粉、チオ硫酸ソーダ、塩酸ヒドロキシルアミン、亜鉛末を使用することができる。水酸化クロム主体の粒子を含むスラリーまたはケーキを脱水後、ステンレス原料として活用するために、ステンレス製品中のクロム元素に対する鉄元素の質量比(Fe/Cr)が約8倍以下とするのが望ましいことから、還元処理後の水酸化鉄(III)主体の粒子における3価鉄イオン濃度は、クロム濃度に対し8質量倍以内に制御する方がよい。好ましくは、より低倍率に制御すれば、ステンレス原料としてより利用しやすくなる。
【0035】
第1の反応槽に投入する中和剤(アルカリ剤とも言う)としては、水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)、水酸化カルシウム(消石灰)、酸化カルシウム(生石灰)、炭酸カルシウム(石灰石)、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムなどの水溶液又はスラリーが使用できる。これらの中和剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。しかしながら、第1の反応槽内で析出する水酸化クロム主体の粒子中のクロム品位を高くするためには、中和剤としては、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムが好ましい。それは、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウムは、それらを含むアルカリ水溶液又はスラリーのpHは11〜13と非常に高く、第1の反応槽内に投入されたアルカリ剤周辺のごく狭い領域はpHが上昇し、2価の鉄イオンが水酸化鉄(II)として析出する。一度、析出した水酸化鉄(II)は第1の反応槽内のpHが4.5〜6.5の状態になっても溶解速度が小さく溶解しにくい。一方、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムを含むアルカリ水溶液又はスラリーは、pH9〜11程度と、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウムを含むアルカリ水溶液又はスラリーよりpHが低いため、第1の反応槽内に投入した際、アルカリ剤周辺のごく狭い領域でpHが上昇するものの、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウムを含むアルカリ水溶液又はスラリーと比べて、その影響度合いは低いため、水酸化鉄(II)の析出量は少なくなる。また、クロム系ステンレス酸洗用に使用される酸として、硫酸、弗酸が使用されるが、アルカリ剤が水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸カルシウムであると弗化カルシウムやセッコウが析出し、水酸化クロム主体の粒子中のクロム品位を高くすることはできない。よって、第1の反応槽で使用するアルカリ剤は、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムが適当である。
【0036】
本発明において、第1の反応槽内で析出した水酸化クロム主体の粒子に、さらに3価のクロムイオンを接触させて粒子径を増大させるのが望ましい。具体的には、第1の反応槽内で析出した水酸化クロム主体の粒子を、固液分離操作で液体部のみを第2の反応槽に抜き出した後、水酸化クロム主体の粒子を含む固体部を第1の反応槽内に残したまま、第1の反応槽内に2価鉄イオンと3価クロムイオンを含有した酸性廃液を連続して投入し、第1の反応槽内pHを4.5〜6.5、好ましくは、pH5.0〜6.0に調整することで、先に析出した水酸化クロム主体の粒子の表面に、さらに3価クロムイオンを接触させて水酸化クロムを析出させることで、前記水酸化クロム主体の粒子の粒子径を大きくすることができる。このように前記水酸化クロム主体の粒子の粒子径を増大させることで、脱水性や濾過性を改善することができる。また、3価クロムイオンを接触させる手段としては、2価鉄イオンと3価クロムイオンを含有した酸性廃液を連続して投入する代わりに又は追加して、3価クロムイオンを含む水溶液や、液中で溶解して3価クロムイオンを生じるクロム(III)化合物を投入してもよい。
【0037】
また、第1の反応槽で析出した水酸化クロム主体の粒子中には、前述したように、2価鉄イオンを含むが、前記2価鉄イオンは化合物(主に水酸化鉄(II))として含まれ、その2価鉄イオンで6価クロムイオンを還元できる能力を有している。そこで、第1の反応槽で析出した水酸化クロム主体の粒子を含むスラリー又はケーキを第3の反応槽内に移し、6価クロムイオンを含有した廃液を投入して混合することで、6価クロムイオンを3価クロムイオンに還元し、これにより生じた3価クロムイオンを含む水酸化クロムは、第1の反応槽から移した水酸化クロム主体の粒子表面で析出し、前記水酸化クロム主体の粒子中のクロム濃度を上昇させることができる。6価クロムイオンの処理能力は、第1の反応槽で析出した水酸化クロム主体の粒子中に含まれる2価の鉄量の3倍モル以下である。
【0038】
第3の反応槽においてクロム濃度を上昇させた前記水酸化クロム主体の粒子は、前記粒子の全量に対して、水酸化クロム(III)を好ましくは30〜55質量%含有する。
【0039】
前記6価クロムイオンを含有した廃液としては、特に制限されないが、電子部品製造業、機械部品製造業、自動車用鋼板製造業、ステンレス鋼製造業、皮膜工場などにおいて鋼板の表面処理工程から排出される廃液などが挙げられる。前記廃液は、6価クロムイオンを総量で好ましくは1〜30g/L含有する。
【0040】
続いて、本発明を具体化した実施の形態について図2を用いて説明する。 図2には、本発明の鉄とクロムを含む酸性廃液の処理方法に係る処理装置の一例を示す。
【0041】
図2に示すように、本発明の一実施の形態に係る鉄とクロムを含む酸性廃液の処理方法に適用される廃水処理装置10は、クロム系ステンレス鋼板を硫酸で酸洗処理した後の廃液の一例である酸性廃液11を一旦貯蔵する酸性廃液タンク12と、酸性廃液タンク12からポンプ13を介して酸性廃液11を受け入れてクロム成分を分離する第1の反応槽14と、苛性ソーダ、炭酸カルシウム、生石灰、消石灰、水酸化マグネシウム等の中和剤の水溶液又はスラリーを入れたアルカリ剤タンク27と、アルカリ剤を第1の反応槽14に添加するためのポンプ28と、第1の反応槽14内に循環流をおこす攪拌機16と、第1の反応槽14内のpHを測定するpH計24と、溶存酸素濃度を測定する溶存酸素濃度計25と、第1の反応槽14からスラリーを引抜きぬき、第3の反応槽43に送るためのポンプ40と、第1の反応槽14内のスラリーから液体部を濾過する分離膜を有する濾過体17と、その液体部を吸引し、第2の反応槽30へ送水する吸引ポンプ18と、濾過体17表面に形成されたケーキ層をある一定厚さで削り取るスクレーパー19と、スクレーパー19を固定する支持台20と、支持台20を上下に稼動させる駆動装置21と連結器22とを有し、第1の反応槽14の上部には空気との接触を防ぐため、蓋26を設置している。
【0042】
固液分離操作として用いられる濾過体17は、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリル、ポリビニールアルコール、ステンレス等の素材からなる分離膜(ろ過布とも言う)を用いるのが望ましい。また、前記分離膜の孔径は、望ましくは1〜100μmである。孔径が1μmより小さくなると、水酸化クロム主体の細かい粒子が詰まって濾過速度が著しく低下する恐れがある。一方、孔径が100μmより大きくなると、濾過膜の孔をそのまま通過する粒子が増加し、水酸化クロム主体の粒子の回収効率が低下する恐れがある。 スクレーパー19により、濾過体17表面に堆積したケーキ層表面を削り取ることで、ケーキ厚みを一定にし、循環流により、その削り取ったケーキを濾過体17間の空間より排出することにより、高い濾過速度を得ることができる。また、時間が経過するにつれて、濾過体17表面に形成されたケーキ層は緻密になり、濾過性能が低下するため、一定時間ごとに、濾過体17内部に洗浄水又は圧力空気を逆洗用ポンプ23にて圧入し、濾過体17表面に堆積したケーキを剥離する。
【0043】
第2の反応槽30には、第2の反応槽30内を攪拌し、かつ、酸素を送るための散気管31と、第2の反応槽30内のpHを測定するpH計33と、苛性ソーダ、炭酸カルシウム、消石灰、水酸化マグネシウム等の中和剤を入れたアルカリ剤タンク34と、アルカリ剤を第2の反応槽30に添加するためのポンプ35と、第2の反応槽30から排出された水酸化鉄(III)主体のスラリーから液体部を分離する固液分離装置32と、液体部を除去したスラリーを第2の反応槽30に戻すポンプ36とを有している。
【0044】
第3の反応槽43には、6価クロムイオン廃液41を第3の反応槽43に送水するポンプ42と、第1の反応槽14から引抜いた水酸化クロムスラリーと6価クロムイオン廃液41とを混合する攪拌機44と、第3の反応槽43内の酸化還元電位を測定するORP計45と、6価クロムイオン廃液を処理した後のスラリーを脱水機におくるためのポンプ46とを有している。
【0045】
次に、図2に基づいて、本発明である鉄とクロムを含む酸性廃液の処理方法の一実施形態について説明する。
【0046】
クロム系ステンレス鋼板を硫酸で酸洗処理した後の酸性廃液と、鋼板上に残存した酸を水で洗い流した際に発生するリンス廃液(前記硫酸で酸洗処理した後の酸性廃液がおおよそ100〜1000倍に希釈された廃液)との混合液11とを酸性廃液タンク12に貯蔵し、連結したポンプ13を作動して、酸性廃液11を第1の反応槽14内に6〜3000m/hで連続して投入を行うことが好ましい。6m/h以下の場合は、対象水量が小さく、本発明を実施する投資額に対してメリットが小さく経済的でない恐れがある。一方、3000m/h以上の場合は、固液分離装置が大きくなりすぎ固液分離装置の安定的な操業の維持が難しくなる恐れがある。一般的な酸性廃液11は、pHが3以下で、Fe、Cr、Ni等の金属を総量で0.1〜10質量%溶解しており、これらの金属のほとんどは金属イオンとして存在している。
【0047】
第1の反応槽14内には、酸性廃液11を連続して投入し、第1の反応槽14内で攪拌される。アルカリ剤タンク27に連通したポンプ28を作動して、苛性ソーダ、炭酸カルシウム、生石灰、消石灰、水酸化マグネシウムのいずれかからなるアルカリ剤の水溶液又はスラリーを添加して、第1の反応槽14内のpHを4.5以上6.5以下の範囲に調整する。より好ましくは、pH5以上6以下に調整する。ここで、pH4.5以下になると、酸性廃液中の3価クロムイオンの析出が悪くなる恐れがある。一方、pH6.5以上になると、2価鉄イオンが析出しやすくなり、水酸化クロム主体の粒子中のクロム品位が落ちる恐れがある。
【0048】
第1の反応槽14内で析出した直後の水酸化クロム主体の粒子径は小さいが、これらの粒子が分離膜を有する濾過体17で固液分離され、固体部のみ第1の反応槽14内に滞留している。第1の反応槽14内は攪拌機16で攪拌状態にあり、これらの粒子は浮遊状態である。その中に、酸性廃液の連続的な供給により、水酸化クロム主体の粒子表面に、廃液中に含まれる3価クロムイオンが接触して、粒子の表面にさらに水酸化クロムを析出させることや、水酸化クロム主体の粒子同士を結合させることができ、粒子径を大きくすることができる。水酸化クロム主体の粒子を所望の粒子径とするには、酸性廃液の供給量、クロム濃度、第1の反応槽容量にもよるが、数日から1ケ月かかる。
【0049】
攪拌機によって生じる循環流の流速は、0.05〜10m/秒がよい。0.05m/秒以下だと、第1の反応槽14下部に水酸化クロム主体の粒子が沈積する恐れがあり、10m/秒以上では、攪拌に電力がかかりすぎる恐れがあり経済的でない。
【0050】
炉過体17上で析出した水酸化クロム主体の粒子は、堆積してケーキ状となり、スクレーパー19により、所定頻度で所定のケーキ厚になるように掻き落とされ、酸性廃液を含んだスラリー又はケーキとして第1の反応槽14の下部からポンプ40等により回収される。
【0051】
次に、第2の反応槽30内には、第1の反応槽14で処理された酸性廃液を連続して供給するとともに、第2回目の中和処理として、アルカリ剤タンク34に連通したポンプ35を作動して、苛性ソーダ、生石灰、消石灰、水酸化マグネシウムのいずれかからなるアルカリ剤の水溶液又はスラリーを添加して、望ましくはpHを6以上10以下の範囲に調整する。第2の反応槽30下部に設置している散気管より、空気もしくは酸素を吹き込み、第2の反応槽30内を攪拌するとともに、酸性廃液中の2価鉄イオンを3価鉄イオンに酸化し、水酸化鉄(III)を析出する。あるいは、第2の反応槽30内に、予め、低pH領域で2価鉄イオンを酸化できる能力を有する鉄酸化細菌をいれ、第1の反応槽14で処理された酸性廃液を連続して供給するとともに、第2の反応槽30内のpHを3〜5に調整し、酸性廃液中の2価鉄イオンを酸化して、水酸化鉄(III)を析出することもできる。
【0052】
第2の反応槽30から排出された水酸化鉄(III)を含むスラリーは固液分離装置32(遠心分離機、シックナー等)で液体部と固形部に分離され、液体部は廃棄される。望ましくは、固形部を再度、第2の反応槽30に戻す。第2の反応槽14内で酸化し、生じた3価鉄イオンは、第2の反応槽30に戻された固形部表面で析出し、水酸化鉄(III)主体の粒子は大きくなる。大きくなった水酸化鉄(III)主体の粒子を含むスラリーは、固液分離装置32で分離し、間欠的に、脱水機(フィルタープレス脱水機、真空脱水機、遠心分離機など)によって脱水処理される。
【0053】
次に、第1の反応槽14から引抜かれた水酸化クロム主体の粒子を含むスラリーを、第3の反応槽43に投入し、その後、普通鋼鈑の表面処理工程から排出される1〜30g/Lの6価クロムイオンを含有する廃液41をポンプ42によって、第3の反応槽43に投入し、攪拌機44によって攪拌する。水酸化クロム主体の粒子を含むスラリー中には、2価鉄イオンからなる化合物(主に水酸化鉄(II))が存在し、6価クロムイオンと酸化・還元反応を起こし、3価鉄イオンと3価クロムイオンになり、両イオンとも水酸化物として析出する。その結果、水酸化クロム主体の粒子を含むスラリー中のクロム濃度は上昇する。
【0054】
ポンプ40によって引抜いたスラリー中の液体部には2価鉄イオンを含んでいる。添加した6価クロムイオン含有廃液は、まず、スラリー中の液体部に含まれる2価鉄イオンによって還元処理され、水酸化鉄(III)と水酸化クロムが3モル倍(鉄/クロム)で析出する。第1の反応槽から回収した水酸化クロム主体の粒子中のクロム濃度をより上昇させるために、スラリーを、水洗や遠心分離機による濃縮などの操作によって、2価鉄イオンを含むスラリー中の液体部を分離してもよく、これにより水酸化クロム主体の粒子は6価クロムイオンを還元処理することができる。 第3の反応槽43内には、酸化還元電位計を設置することにより、酸化還元電位で、水酸化クロム主体の粒子による6価クロムイオン還元能力の有無を判断することができる。第3の反応槽43内のpH条件によって、酸化還元電位は異なるが、pH4では約600mV以下(標準電極)、pH5では約500mV以下(標準電極)、pH6では約400mV以下(標準電極)であれば、6価クロムイオン還元能力を有していると判断できる。また、第3の反応槽43中の液体部における2価鉄イオン濃度を測定することで、6価クロムイオン還元能力を有しているか判断できる。これは、水酸化クロム主体の粒子から、少量の2価鉄イオンが溶出することにより起こる現象である。このように6価クロムイオンの処理に使われた水酸化クロム主体のスラリーは、スラリー中のクロム濃度を上昇することができ、ポンプ46によって引抜かれ、脱水処理され、クロム原料として使用することができる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
【0056】
本実施例は、実廃水と相関関係を取りながら、室内実験で行った実施例であり、この実験結果は、スラッジリサイクル上、望ましい結果であり、実廃水と何ら相違ないものと考える。
【0057】
クロム系ステンレスの硫酸酸洗後の酸性廃液(pH1.4)として、表1に示す2価鉄イオン、3価クロムイオンを含む溶液を使用し、図2の処理装置を用いて、この酸性廃液の処理を行った。第1の反応槽、第2の反応槽、第3の反応槽の容量はそれぞれ、3L、3L、0.5Lである。
【0058】
【表1】

【0059】
酸性廃液を第1の反応槽14に20mL/分で連続的に供給するとともに、水酸化マグネシウムスラリーを第1の反応槽14内に添加して、第1の反応槽14内の酸性廃液のpHを5.2で制御し、さらに、攪拌機16で第1の反応槽14内に循環流を起こし、第1の反応槽下部における流速は20cm/秒とした。これにより、第1の反応槽14内に投入された酸性廃液中の3価のクロムイオンは水酸化クロム(III)として析出すると同時に、酸性廃液中の2価鉄イオンの一部が析出する。析出した粒子は濾過体17で液体部と分離され、第1の反応槽14内に残留する。
【0060】
酸性廃液を第1の反応槽14に連続的に供給することにより、粒子表面上に新たに水酸化クロム(III)と一部の水酸化鉄(II)が析出し、粒子径は緻密化し、また、分子間力等によって粒子同士が凝集状態にある凝集態粒子群を析出物で一体化することで、粒子径を大きくした。第1の反応槽14で余剰となった液部分は、濾過体17で固液分離し、濾過液はポンプ18で吸引した。また、濾過体表面に堆積したケーキ層の厚みを制御するため、スクレーパー19を30秒に1回上下に動かすことによって、ケーキ厚みを約10mmに制御した。
【0061】
濾過液は、第2の反応槽30に投入し、苛性ソーダによって第2の反応槽内のpHを7.5に維持した。第2の反応槽30下部よりエアレーション(0.5NL/分)を行い、第2の反応槽30内を攪拌するとともに、2価鉄イオンを酸化させるための酸素供給を行ない、2価鉄イオンを全量酸化した。第2の反応槽内のスラリーは、固液分離装置32(シックナー)で固液分離を行い、回収した固形分は、再度、第2の反応槽30へ戻して、析出する水酸化鉄(III)の粒子径を増大化した。間欠的に、固液分離装置32で回収したスラリーの一部を0.5MPaの加圧力を有するフィルタープレス脱水機で脱水して、脱水ケーキとした。
【0062】
第1の反応槽から水酸化クロム主体の粒子を含むスラリーを、1日1回75ml引抜き、第3の反応槽に投入した。この中に6価クロムイオン廃液(6価クロムイオン濃度:10,000mg/L)を1日1回270ml投入し、攪拌した。その際、第3の反応槽内のpHは4.0で、酸化還元電位(標準電極)は580mVであり、2価鉄イオンも10mg/Lあり、6価クロムイオンは検出できなかった。第3の反応槽から間欠に引き抜き0.5MPaの加圧力を有するフィルタープレス脱水機で脱水して、脱水ケーキとした。
【0063】
この際の第1の反応槽14からの濾過水質(処理水水質)、第2の反応槽30からのスラリーを固液分離した後の処理水水質を表2に、第1の反応槽14内、第2の反応槽30内および第3の反応槽43内における固形物の成分の割合(Fe元素換算、Cr元素換算としての質量%)を表3に示す。また、第1の反応槽の定常状態における大径化した粒子の平均粒子径を同じく表3に示す。なお、表3において、表記成分の合計が100%にならないのは、大径化した粒子は主に水酸化鉄(III)、水酸化鉄(II)、水酸化クロム(III)からなるためである。
【0064】
第1の反応槽からの濾過液中には、3価クロムイオンはほとんど検出されず、酸性廃液中の7割程度の2価鉄イオンが含まれており、第1の反応槽14内では3価のクロムイオンがほぼ全量析出し、2価鉄イオンは3割程度しか析出していないといえる。また、第1の反応槽中の平均粒子径は、10.5μmであり、増大化している。酸性廃液中の鉄濃度に対するクロム濃度の重量比は、0.14であるが、第1、3の反応槽中の固形物成分から鉄濃度に対するクロム濃度の重量比は、それぞれ0.45、0.74であり、明らかに、クロム成分が上昇していることがわかる。
【0065】
なお、従来技術(特許文献1)に示すように、金属鉄粉でpH調整をした場合、つまり、第1の反応槽14に水酸化マグネシウムの代わりに金属鉄粉(試薬)を添加して、第1の反応槽14内の酸性廃液のpHを5.2で制御し、水酸化クロムを析出させ、余剰となった液部分を濾過体17で固液分離した場合、第1の反応槽14内における固形物の成分は金属鉄粉のアルカリ剤としての反応性が悪いため、Fe:68%、Cr:7%と鉄分を多く含むケーキとなった。
【0066】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】2価鉄イオン、3価クロムイオンを含む溶液のpHと排水中元素の残存比率の関係を示すグラフである。
【図2】鉄とクロムを含む酸性廃液の処理方法に供する装置の1例の概略図である。
【符号の説明】
【0068】
10・・・鉄とクロムを含む酸性廃液の処理方法に適用される廃水処理装置
11・・・酸性廃液
12・・・酸性廃液タンク
13・・・ポンプ
14・・・第1の反応槽
15・・・整流壁
16・・・攪拌機
17・・・濾過体
18・・・吸引ポンプ
19・・・スクレーパー
20・・・支持台
21・・・駆動装置
22・・・連結器
23・・・逆洗用ポンプ
24・・・pH計
25・・・DO計
26・・・蓋
27・・・アルカリ剤タンク
28・・・ポンプ
30・・・第2の反応槽
31・・・散気管
32・・・固液分離装置
33・・・pH計
34・・・アルカリ剤タンク
35・・・ポンプ
36・・・ポンプ
40・・・ポンプ
41・・・6価クロムイオン含有廃液
42・・・ポンプ
43・・・第3の反応槽
44・・・攪拌機
45・・・酸化還元電位計
46・・・ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の反応槽に、2価鉄イオンと3価クロムイオンを含む酸性廃液を投入した後又は投入すると共に、アルカリ剤を添加して前記酸性廃液をpH4.5からpH6.5の範囲に調整し、水酸化クロム主体の粒子を析出させた後、固液分離操作により濃縮して、前記水酸化クロム主体の粒子を含有するスラリー又はケーキとすることを特徴とする鉄とクロムを含む酸性廃液の処理方法。
【請求項2】
前記水酸化クロム主体の粒子に、更に3価クロムイオンを接触させて粒子径を増大化し、その後、固液分離操作することを特徴とする請求項1記載の鉄とクロムを含む酸性廃液の処理方法。
【請求項3】
前記第1の反応槽内の溶存酸素濃度を0〜2mg/Lにすることを特徴とする請求項1または2記載の鉄とクロムを含む酸性廃液の処理方法。
【請求項4】
前記固液分離操作は、分離膜を用いた濾過であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の鉄とクロムを含む酸性廃液の処理方法。
【請求項5】
前記分離膜の孔径が1〜100μmであることを特徴とする請求項4記載の鉄とクロムを含む酸性廃液の処理方法。
【請求項6】
前記酸性廃液は、製鉄工程のクロム系ステンレス鋼板の酸洗処理時に発生する酸性廃液であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の鉄とクロムを含む酸性廃液の処理方法。
【請求項7】
前記固液分離操作によって生じる前記2価鉄イオンを含む液体部を、第2の反応槽内に投入し、化学的酸化手段により、前記2価鉄イオンを3価鉄イオンに酸化して水酸化鉄(III)主体の粒子を析出させた後、固液分離操作により濃縮して前記水酸化鉄(III)主体の粒子を含有するスラリー又はケーキとすることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の鉄とクロムを含む酸性廃液の処理方法。
【請求項8】
前記固液分離操作によって生じる前記2価鉄イオンを含む液体部を、第2の反応槽内に投入し、アルカリ剤を添加して第2の反応槽内のpHを3から5に制御し、生物学的酸化手段により、前記2価鉄イオンを3価鉄イオンに酸化して水酸化鉄(III)主体の粒子を析出させた後、固液分離操作により濃縮して前記水酸化鉄(III)主体の粒子を含有するスラリー又はケーキとすることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の鉄とクロムを含む酸性廃液の処理方法。
【請求項9】
第3の反応槽内に、前記水酸化クロム主体の粒子を含有するスラリー又はケーキと、6価クロムイオンを含む廃液とを投入して混合し、前記スラリー又はケーキ内に残存する2価鉄イオンを含む化合物で6価クロムイオンを3価クロムイオンに還元して、前記水酸化クロム主体の粒子表面に前記3価クロムイオンを析出させ、水酸化クロム主体の粒子中のクロム濃度を上昇させることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の鉄とクロムを含む酸性廃液の処理方法。
【請求項10】
前記第1の反応槽内に添加する前記アルカリ剤が、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、および水酸化マグネシウムからなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の鉄とクロムを含む酸性廃液の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−212580(P2006−212580A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−29587(P2005−29587)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】