説明

鉄塔用鋼管の製造方法

【課題】鋼板をプレス曲げ加工することによって、径厚比20以下かつ引張強度780MPa以上の鋼管を製造する際に、機械的特性の変化が小さい鉄塔用鋼管の製造方法を提供する。
を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.05〜0.20%、Si:0.03〜0.40%、Mn:0.5〜2.0%、P:0.02%以下、S:0.005%以下、Al:0.03〜0.10%、N:0.005%以下を含み、残部がFeおよび不純物からなるスラブを1100℃以上に加熱し、熱間圧延し、100℃以下まで冷却した後、再度加熱し焼入れし、続いて500℃以上650℃以下の温度で焼戻しして、厚鋼板を作製し、当該厚鋼板を500℃以上かつ[厚鋼板作製時の焼戻し温度−30℃]以下の温度で再加熱後、プレス曲げ加工を実施し、溶接することを特徴とする、径厚比20以下、引張強度780MPa以上の鉄塔用鋼管の製造方法。Feの一部に代えて、Cu、Cr、Mo、V、Nb、Ni、B、Tiのうち1種又は2種以上を含有してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板をプレス曲げ加工(プレスベンド加工)することによって径厚比20以下の厳しい加工をしても鋼管に成形した後の引張強度が780MPaから950MPa程度までのプレス曲げ加工鋼管の製造方法に関し、特に鉄塔用構造物に好適に用いることができるプレス曲げ加工鋼管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄塔などの建築用構造物に使用される鋼材に円形鋼管がある。円形鋼管を製造する方法としては、ラインパイプ用鋼管に好適なUOE(Uing press - Oing press - Expander)成形法の他、プレス曲げ加工法が一般的に採用されている。円形鋼管はUOE成形法によっても寸法精度よく成形可能であるが、建築用構造物に使用される円形鋼管についてはより加工能力の高いプレス曲げ加工法で製造されることが多い。ここで、プレス曲げ加工とは、鋼板を端部から順に型に押し当てて内側に曲げることによって、鋼板を円形に成形する方法である。ただし、鋼管の径Dが小さいほど、そして鋼管の板厚tが大きいほど、径厚比D/tが小さくなって、加工度が大きくなるため製造条件は厳しくなる。鉄塔に円形鋼管を用いる場合、外観の意匠性も求められることもあり、厳しい製造条件が求められることも多い。
【0003】
鋼材の機械的特性は鋼板からテストピースを採取し測定することが一般的である。しかし、鋼板として必要な機械的特性を満足していたとしても、鋼板から鋼管を製造することにより、例えばプレス曲げ加工により鋼板を鋼管に成形することにより、その機械的特性が変化することによって、鋼管として必要な特性が得られない場合がある。この場合、さらに成形後の鋼管に熱処理を施すことが必要となる。特に、径厚比D/tが小さいほどこの傾向が高い。
【0004】
このような鋼管への成形加工による機械的特性の問題を解決した発明として、例えば、特許文献1には、鋼板を鋼管に成形した後に、SR(Stress Relieving)処理を施さなくても所定の機械的特性を得ることができるプレス曲げ加工による鋼管の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−270304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように厚鋼板をプレス曲げ加工を施して鋼管を製造した場合、その機械的特性に変化が生じる。このときの機械的特性の変化を小さくすることができれば、製管後の機械的特性の予測がしやすくなり、意図する機械的特性を有する鋼管を製造しやすくなる。
【0007】
特に厚鋼板をプレス曲げ加工を施して鋼管を製造する際には、厚鋼板を鋼板メーカーで作製し、その厚鋼板から鋼管メーカーが鋼管を作製することが行われることが一般的である。製管時の機械的特性の変化を小さくし、鋼板メーカーで保証する機械的特性と同等の機械的特性を鋼管メーカーが保証できれば、鋼管メーカーとしてメリットは大きい。
【0008】
本発明は、鋼板をプレス曲げ加工することによって、径厚比20以下かつ引張強度780MPa以上の鋼管を製造する際に、機械的特性の変化が小さい鉄塔用鋼管の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の知見に基づいて完成したものであり、その要旨は、次の(1)〜(4)の鋼管の製造方法にある。以下、総称して、本発明ということがある。
【0010】
(1) 質量%で、C:0.05〜0.20%、Si:0.03〜0.40%、Mn:0.5〜2.0%、P:0.02%以下、S:0.005%以下、Al:0.03〜0.10%、N:0.005%以下を含み、残部がFeおよび不純物からなるスラブを1100℃以上に加熱し、熱間圧延し、100℃以下まで冷却した後、再度加熱し焼入れし、続いて500℃以上650℃以下の温度で焼戻しして、厚鋼板を作製し、当該厚鋼板を500℃以上かつ[厚鋼板作製時の焼戻し温度−30℃]以下の温度で再加熱後、プレス曲げ加工を実施し、溶接することを特徴とする、径厚比20以下、引張強度780MPa以上の鉄塔用鋼管の製造方法。
【0011】
(2) さらに、鋼管をプレス曲げ加工前の再加熱温度以上かつ当該厚鋼板の焼戻し温度以下の温度で焼戻すことを特徴とする、上記(1)の鉄塔用鋼管の製造方法。
【0012】
(3) Feの一部に代えて、質量%で、Cu:0.5%以下、Cr:1.5%以下、Mo:0.7%以下、V:0.09%以下、Nb:0.05%以下、Ni:1.5%以下、B:0.0030%以下の元素のうち1種又は2種以上を含有することを特徴とする、上記(1)または(2)の鉄塔用鋼管の製造方法。
【0013】
(4) Feの一部に代えて、質量%で、Ti:0.05%以下を含有することを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれかの鉄塔用鋼管の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、鋼板をプレス曲げ加工することによって、径厚比20以下かつ引張強度780MPa以上の鋼管を製造する際に、機械的特性の変化を小さくすることができる。
【0015】
したがって、最終製品である鋼管の機械的特性を予め厚鋼板の段階で予測することができる。特に、加工度の高い鋼管、すなわち径厚比が小さい鋼管では、製管に伴い機械的特性に変化が生じやすいが、このような鋼管であってもその機械的特性を予測することができる。さらに径厚比が低い鋼管を製造できるので、意匠性も必要とされる鉄塔用の鋼管としても好適に用いることができる。
【0016】
また、鋼板から鋼管を製造する際の切断代の残材から機械的特性を調査することができるので、最終製品を破壊し、機械的特性の検査をおこなうことを回避できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の構成要件について詳しく説明する。なお、各成分元素の含有量の「%」表示は「質量%」を意味する。
【0018】
(A)化学組成について:
まず、本発明において用いる鋼の組成を上記のように限定する理由を説明する。
【0019】
C:0.05〜0.20%
Cは、強度上昇に寄与する元素である。ただし、その含有量が0.05%未満では強度を確保することは困難である。また、0.20%を超えて多量に含有すると、成品の溶接性および靱性を劣化させる。したがって、Cの含有量は0.05〜0.20%とする。好ましいCの含有量の下限は0.07%であり、そして、好ましいCの含有量の上限は0.17%である。
【0020】
Si:0.03〜0.40%
Siは、脱酸のために必須の元素であるが、その含有量が0.03%未満では脱酸効果が少ない。ただし、0.40%を超えて過多に含有すると成品の溶接性を劣化させる。したがって、Siは0.03〜0.40%とする。好ましいSiの含有量の下限は0.05であり%、そして、好ましいSiの含有量の上限は0.35%である。より好ましいSiの含有量の下限は0.08%であり、そして、より好ましいSiの含有量の上限は0.30%である。
【0021】
Mn:0.5〜2.0%
Mnは、鋼の強度および靱性を確保するために必要な元素である。ただし、その含有量が0.5%未満ではこのような効果は少ない。また、2.0%を超えて多量に含有すると溶接性を劣化させる。したがって、Mnの含有量は0.5〜2.0%とする。好ましいMnの含有量の下限は0.6%であり、そして、好ましいMnの含有量の上限は1.8%である。より好ましいMnの含有量の下限は0.7%であり、そして、好ましいMnの含有量の上限は1.6%である。
【0022】
P:0.02%以下
Pは、不純物として鋼中に存在する元素である。その含有量が0.02%を超えると、粒界に偏析して靭性を低下させるのみならず、溶接時に高温割れを招く。したがって、Pの含有量は0.02%以下とする。好ましくは0.018%以下である。
【0023】
S:0.005%以下
Sは、不純物として鋼中に存在する元素である。その含有量が0.005%を超えると、中心偏析を助長したり、延伸したMnSが多量に生成したりするため、母材およびHAZ(Heat Affected Zone)の機械的性質が劣化する。したがって、Sの含有量は0.005%以下とする。好ましくは0.003%以下である。
【0024】
Al:0.03〜0.10%
Alは脱酸のために必須の元素である。ただし、その含有量が0.03%未満では脱酸効果が少ない。また、その含有量が0.10%を超えると、特にHAZにおいて靱性が劣化しやすくなる。これは、粗大なクラスター状のアルミナ系介在物粒子が形成されやすくなるためと考えられる。したがって、Alの含有量は0.03〜0.10%とする。好ましいAlの含有量の下限は0.35%であり、そして、好ましいAlの含有量の上限は0.09%である。
【0025】
N:0.005%以下
Nは、不純物として鋼中に存在する元素である。Nが鋼中に多量に存在する場合には母材およびHAZの靭性がともに悪化する。このため、Nの含有量は0.005%以下とする。好ましくは、Nの含有量0.004%以下である。
【0026】
本発明にかかる鋼管の化学組成は、上記の成分のほか、残部がFeと不純物からなるものである。ここで、不純物とは、鋼管を工業的に製造する際に、鉱石やスクラップ等のような原料を始めとして、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0027】
本発明に係る鋼管は、上記の合金元素の他に、Feの一部に代えて、Cu、Cr、Mo、V、Nb、NiおよびBよりなる群から選ばれた1種または2種以上を含有してもよい。また、Feの一部に代えて、Tiを含有してもよい。これらの元素の含有させてもよい理由とそのときの含有量は、次の通りである。
【0028】
Cu:0.5%以下
Cuは、必要に応じて含有させることができる。含有させれば、強度および耐食性を向上させる効果がある。また、Cuを含有させた上で、焼入れ−焼戻し処理を行えば、Cuによる時効効果が得られ、一層強度が高まる。しかしながら、0.5%を超えて含有させてもその効果は飽和するだけであって、コスト上昇に見合った性能の改善が見られないので、Cuの上限を0.5%以下とする。好ましい上限は0.4%である。なお、強度および耐食性を向上させる効果を確実に発現させるためには、0.03%以上含有させるのが好ましい。より好ましくは0.10%以上である。
【0029】
また、Cuを含有させた場合には、圧延時のひび割れ(Cuチェッキング)を防止するため、0.03%以上のNiを含有させることが好ましい。
【0030】
Cr:1.5%以下
Crは、必要に応じて含有させることができる。含有させれば、焼入性を高め強度を向上させる効果があるとともに、耐炭酸ガス腐食性を高める効果がある。しかしながら、1.5%を超えて含有させると、HAZの硬化の抑制が難しくなる。また、1.5%を超えて含有させても、耐炭酸ガス腐食性向上効果は飽和する。したがって、Crの含有量は1.5%以下とする。好ましくは1.3%以下である。なお、これらの効果を確実に発現させるためには、0.03%以上含有させるのが好ましい。より好ましくは0.40%以上である。
【0031】
Mo:0.7%以下
Moは、必要に応じて含有させることができる。含有させれば、高温強度の向上効果と高温での耐力を著しく上昇させる効果がある。しかしながら、0.7%を超えて含有させると、溶接性を損ない、大入熱溶接の際の靱性劣化を引き起こすおそれがある。したがって、Moの含有量は0.7%以下とする。好ましくは0.5%以下である。なお、これらの効果を確実に発現させるためには、0.03%以上含有させるのが好ましい。より好ましくは0.1%以上である。
【0032】
V:0.09%以下
Vは、必要に応じて含有させることができる。含有させれば、析出硬化による強度向上効果がある。しかしながら、0.09%を超えて含有させると、溶接性が低下する。したがって、Vの含有量は0.09%以下とする。好ましくは0.07%以下である。なお、この効果を確実に発現させるためには、0.003%以上含有させるのが好ましい。より好ましくは0.010%以上である。
【0033】
Nb:0.05%以下
Nbは、必要に応じて含有させることができる。含有させれば、析出硬化および変態強化による高温強度(耐火性)の向上効果と、粗粒化による靱性の向上効果がある。しかしながら、0.05%を超えて含有させると、大入熱溶接の際に継手靱性が劣化するおそれがある。したがって、Nbの含有量は0.05%以下とする。好ましくは0.03%以下である。なお、これらの効果を確実に発現させるためには、0.003%以上含有させるのが好ましい。より好ましくは0.008%以上である。
【0034】
Ni:1.5%以下
Niは、必要に応じて含有させることができる。含有させれば、焼入性を向上させて強度を高める効果と、固溶状態において鋼のマトリックス(生地)の靭性を高める効果がある。しかしながら、1.5%を超えて含有させても、これらの効果は飽和する。したがって、Niの含有量は1.5%以下とする。好ましくは1.1%以下である。なお、これらの効果を確実に発現させるためには、0.03%以上含有させるのが好ましい。より好ましくは0.10%以上である。
【0035】
また、本発明に係る鋼管は、必要に応じてCuを含有させることができるが、この場合には圧延時のひび割れ(Cuチェッキング)を防止するため、0.03%以上のNiを含有させることが好ましい。
【0036】
B:0.0030%以下
Bは、必要に応じて含有させることができる。含有させれば、焼入性を向上させて強度を高める効果がある。しかしながら、0.0030%を超えて含有させると、強度を高める効果が飽和し、母材、HAZともに靱性劣化の傾向が著しくなる。したがって、Bの含有量は0.0030%以下とする。好ましくは0.0025%以下である。なお、この効果を確実に発現させるためには、0.0003%以上含有させるのが好ましい。より好ましくは0.0010%以上である。
【0037】
Ti:0.05%以下
Tiは、必要に応じて含有させることができる。含有させれば、主に脱酸元素として作用し、Al、TiおよびMnからなる酸化物相を形成させ、溶接熱影響部の組織微細化させ、靭性向上効果を得ることができる。
しかしながら、0.05%を超えて含有させると、形成される酸化物がTi酸化物、あるいはTi−Al酸化物となって分散密度が低下し、特に小入熱溶接部熱影響部における組織を微細化する能力が失われるおそれがある。したがって、Tiの含有量は0.05%以下とする。好ましくは0.04%以下である。なお、この効果を確実に発現させるためには、0.003%以上含有させるのが好ましい。より好ましくは0.008%以上である。
【0038】
(B)製造条件について:
本発明に係る鋼管は、前述の化学組成を有するスラブから厚鋼板を製造し、その厚鋼板にプレス曲げ加工を施すことにより製造する。スラブの製造については、特にその鋳造条件を特定する必要はない。造塊−分塊スラブや連続鋳造スラブを用いることができるが、製造効率、歩留りおよび省エネルギーの観点から、連続鋳造スラブを用いることが好ましい。
【0039】
以下に、(B−1)厚鋼板の製造と、(B−2)その厚鋼板からの鋼管の製造に分けて説明する。なお、製造された鋼管は、必要に応じて、さらに(B−3)製管後熱処理(焼戻し)をしてもよい。
【0040】
(B−1)厚鋼板の製造
まず、(A)の化学成分を有するスラブを加熱しオーステナイト変態させる。このときの加熱温度は1100℃以上とする。1100℃以上であれば、鋼中の元素(例えば、Nb、Tiなど)をすべて固溶することができ、強度と靭性の確保を図ることができるためである。スラブがオーステナイト変態する温度域であれば、加熱温度の上限は特に問わないが加熱温度は1250℃以下とすることが好ましい。1250℃を超える温度での加熱は燃料コストが嵩むだけでなく、スケール発生も多くなり歩留まり低下、さらには生産効率が低下する。加熱温度の上限は1200℃であることが好ましい。
【0041】
続いて、加熱したスラブに対し熱間圧延を行う。熱間圧延は通常用いられる方法で行えば十分である。このとき、所定厚に仕上げる圧延終了温度は800〜900℃とすることが好ましい。800℃以上であればスラブの変形抵抗が小さいので圧延が容易であり、一方、900℃以下であれば靭性の低下のおそれがないからである。
【0042】
圧延後は、所定厚の厚鋼板(圧延後のスラブ)を100℃以下まで冷却する。冷却は放冷または空冷で十分である。たとえば、製造ライン上から厚鋼板をはずして(オフラインし)、載置すればよい。載置すれば放冷され、厚鋼板の温度はいずれ室温となる。ただし、室温まで温度低下を待つ必要はなく、厚鋼板を100℃以下まで冷却すれば次工程に進んで構わない。
【0043】
続く工程では厚鋼板を再度加熱し、焼入れを行う。再加熱および焼入れはオフライン熱処理炉で行えばよい。加熱温度は880〜930℃とすることが好ましい。880℃であれば焼入れにおいて十分な焼きが入って、目標とする780MPa以上の引張強度を得ることが容易である。一方、930℃以下であればオーステナイト粒の粗粒化を免れるので、靭性の低下を防止することができる。また、十分な焼入れ強度を得るために、水などの冷却媒体が鋼板面全体に均一にあたるようにして、板厚の中心部で、好ましくは1℃/s以上の冷却速度で、より好ましくは2℃/s以上の冷却速度で行うのがよい。
【0044】
最後に、この厚鋼板を500℃以上かつ650℃以下の温度で焼戻す。焼戻しにより、焼入れで生じた不安定な組織を安定なものに整え、靭性を向上させるとともに、狙いの強度に調整する。また、機械的性質が均一化し、後述する鋼管の製造工程で加工を施すことによる強度などの特性変化を小さくすることができる。なお、焼戻し温度は500〜650℃とする必要がある。500℃未満の焼戻し温度では機械的性質の均一化の効果が得られず、そして、650℃超の温度では一部フェライト変態が開始して、結局不安定な組織となるためである。
【0045】
(B−2)鋼管の製造
上記の(B−1)で得られた厚鋼板は、必要に応じて、所望の径の鋼管を得るために、切断してその幅を調整してもよい。この際、切断しても得られる鋼管の特性には影響はない。
【0046】
厚鋼板は500℃以上かつ[厚鋼板作製時の焼戻し温度−30℃]以下の温度で再加熱する必要がある。500℃未満の再加熱温度ではプレス曲げ加工により厚鋼板の表面に表面疵が形成される。一方、厚鋼板作製時の焼戻し温度を超える再加熱温度では鋼管の強度が低下する。そして、本発明においては、鋼管の強度低下の懸念から、さらに30℃の余裕を見て、[厚鋼板作製時の焼戻し温度−30℃]以下の温度で再加熱することとした。
【0047】
再加熱後はプレス曲げ加工を行う。具体的には加熱された厚鋼板を型に押し当てて、順次筒状に加工していくことで鋼管に成形する。プレス曲げ加工は厚鋼板の温度が350℃未満に低下する前に完了させるのが望ましい。350℃以上でプレス曲げ加工を行うと、強度の上昇などの機械的特性の変化を抑制する効果が大きいからである。
【0048】
その後、鋼管継ぎ目部を溶接することにより、径厚比20以下、引張強度780MPa以上の鋼管を得ることができる。溶接は従来の方法で行えば十分である。
【0049】
(B−3)製管後熱処理(焼戻し)
溶接後の鋼管に対しては、必要に応じて、さらに製管後熱処理(焼戻し)をしてもよい。焼戻しを行わなくても製管前後で機械的特性の変化は十分小さいが、さらに製管後に焼戻しを行うことで、鋼管全体の機械的性質が均一にすることができる。製管後熱処理(焼戻し)をする場合の温度は、プレス曲げ加工前の再加熱温度以上かつ当該厚鋼板の焼戻し温度以下とするのが好ましい。製管後熱処理(焼戻し)温度を、プレス曲げ加工前の再加熱温度以上とすると、鋼管全体の機械的性質を均一にする効果が得られ、また、当該厚鋼板の焼戻し温度以下とすると、鋼管の強度が厚鋼板の強度より低下することはなく、引張強度780MPa以上が得られやすいためである。
【実施例1】
【0050】
表1に示す化学組成を有する16種の鋼を通常の方法で溶製し、そして連続鋳造して厚さが250〜300mmのスラブにした。表1中の成分No.1〜16の鋼は、いずれも化学組成が本発明で規定する範囲内にある。
【0051】
【表1】

【0052】
表2に厚鋼板の製造条件およびその厚鋼板から製造した鋼管の製造条件を示す。表1に示す各種の鋼のスラブを加熱炉にて1150℃に加熱し圧延した。圧延は表2に示す板厚まで圧延終了温度が850℃となるパススケジュールを予め組んで行った。圧延後は冷却床に載置し、放冷により冷却し、冷却後、再度加熱炉に導入し、再加熱後、水冷により室温まで焼入れした。このときの冷却温度、焼入れ時の加熱温度および焼戻し温度は表2に示すとおりである。なお、冷却温度、焼入れ時の加熱温度および焼戻し温度は、被熱間加工材の表面における温度を指す。
【0053】
【表2】

【0054】
得られた厚鋼板から機械的特性を調査するための試料用に一部鋼板を切り出すとともに、鋼管を製造した。鋼管の製造に先立ち、所望の径厚比(D/t)を得るために厚鋼板を切断して、その幅を調整した。切断後は、厚鋼板を加熱し、プレス曲げ加工をして管状に成型し、継ぎ目部を溶接して鋼管を製造した。また、製造した鋼管のうち、一部については製管後熱処理(焼戻し)を施した。このときの厚鋼板の加熱温度、プレス曲げ加工完了温度、焼戻し温度は表2に示すとおりである。得られた鋼管からは機械的特性の試料を採取した。
【0055】
続いて、得られた各厚鋼板およびその厚鋼板から製管した鋼管から採取した試料について機械的特性としての引張特性の調査を行った。
【0056】
表3に、鋼管の製造条件および得られた鋼管から採取した試料についての引張試験結果を示す。
【0057】
【表3】

【0058】
引張特性は、JIS Z 2201(1998)に準じた引張試験片を、板厚1/4位置を中心として圧延方向と平行方向である「L方向」に採取(鋼管については管軸方向(厚鋼板のL方向にあたる方向)より採取)し、JIS Z 2241(1998)に記載の方法で室温での引張試験を行って調査し、降伏強度(以下、「YS」という。)と引張強度(以下、「TS」という。)を測定した。
【0059】
なお、上記のYSは、引張試験速度を10N/(mm・s)とした場合の下降伏点から求め、明確な降伏点が現れない場合には、0.2%耐力をYSとした。
【0060】
その結果、本発明の製造方法で製造した鋼管は、いずれも引張強度が780MPa以上であり、また、厚鋼板と鋼管における機械的強度の差、すなわち、|ΔYS|および|ΔTS|は、いずれも小さかった。
【0061】
一方、製管時に厚鋼板を[厚鋼板作製時の焼戻し温度−30℃]以上の温度に加熱したNo.4-2の鋼管は、製管後の機械的特性の低下が著しく、引張強度が目標値以下となっただけでなく、機械的強度の差、すなわち、|ΔYS|および|ΔTS|は、いずれも大きくなった。
【0062】
また、製管時に厚鋼板を450℃までしか加熱しなかったNo.6-1の鋼管は、逆に製管後の機械的特性が上昇して、機械的強度の差、すなわち、|ΔYS|および|ΔTS|は、いずれも大きくなった。
【0063】
さらに、製管後の焼戻し温度が高いNo.13-2の鋼管は、製管後の機械的特性の低下が著しく、引張強度が目標値以下となっただけでなく、機械的強度の差、すなわち、|ΔYS|および|ΔTS|は、いずれも大きくなった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、鋼板をプレス曲げ加工することによって、径厚比20以下かつ引張強度780MPa以上の鋼管を製造する際に、機械的特性の変化が小さい鋼管を製造することができる。径厚比が低いので意匠性が求められる鉄塔用の鋼管として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.05〜0.20%、Si:0.03〜0.40%、Mn:0.5〜2.0%、P:0.02%以下、S:0.005%以下、Al:0.03〜0.10%、N:0.005%以下を含み、残部がFeおよび不純物からなるスラブを1100℃以上に加熱し、熱間圧延し、100℃以下まで冷却した後、再度加熱し焼入れし、続いて500℃以上650℃以下の温度で焼戻しして、厚鋼板を作製し、当該厚鋼板を500℃以上かつ[厚鋼板作製時の焼戻し温度−30℃]以下の温度で再加熱後、プレス曲げ加工を実施し、溶接することを特徴とする、径厚比20以下、引張強度780MPa以上の鉄塔用鋼管の製造方法。
【請求項2】
さらに、鋼管をプレス曲げ加工前の再加熱温度以上かつ当該厚鋼板の焼戻し温度以下の温度で焼戻すことを特徴とする、請求項1に記載の鉄塔用鋼管の製造方法。
【請求項3】
Feの一部に代えて、質量%で、Cu:0.5%以下、Cr:1.5%以下、Mo:0.7%以下、V:0.09%以下、Nb:0.05%以下、Ni:1.5%以下、B:0.0030%以下の元素のうち1種又は2種以上を含有することを特徴とする、請求項1または2に記載の鉄塔用鋼管の製造方法。
【請求項4】
Feの一部に代えて、質量%で、Ti:0.05%以下を含有することを特徴とする、請求項1から3までのいずれかに記載の鉄塔用鋼管の製造方法。

【公開番号】特開2011−52307(P2011−52307A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−204452(P2009−204452)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】