説明

鉄筋補強水硬性硬化体

【課題】コンクリート等の水硬性硬化体の中に異形棒鋼を配筋してなる鉄筋補強水硬性硬化体であって、従来よりも異形棒鋼の長さ/直径の比が小さくても、補強効果を発揮することができ、また、異形棒鋼の長さ/直径の比が小さいことによって、鉄筋補強水硬性硬化体全体の軽量化を図ることができ、例えば、マンホール蓋を支持するための調整リングに好適に用い得る、鉄筋補強水硬性硬化体を提供する。
【解決手段】鉄筋補強水硬性硬化体20は、例えば、調整リングであり、(A)ブレーン比表面積2,500〜5,000cm2/gのセメントと、(B)BET比表面積5〜25m2/gの微粒子と、(C)細骨材と、(D)減水剤と、(E)水とを含む配合物の硬化体21中に、上記調整リングと同心の1本以上のリング状の長鉄筋22a,22bと、長さ/直径の比が5以上の異形棒鋼からなる短鉄筋23を配筋してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント等を含む水硬性硬化体中に鉄筋を配筋してなる鉄筋補強水硬性硬化体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築や土木工事等でコンクリートの補強に用いられる構造用鉄筋として、単なる丸鋼に比べて、コンクリートとの付着性や引き抜き力に対する抵抗が高い、異形棒鋼が多く用いられている。この異形棒鋼は、所定の径を有する棒鋼の外周面に対して、棒鋼の軸方向に一定の間隔で、周方向に延びるように多数配設された節状の突起(節)と、棒鋼の軸方向に延びるように複数(通常、2つ)配設された長尺の突起(リブ)が一体に形成されたものである(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平9−228551号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記の構造用鉄筋(補強効果のある鉄筋)として用いられる異形棒鋼は、コンクリートの補強効果を発揮させるためには、長さ/直径の比が一定の値以上(異形棒鋼の表面の形状にもよるが、少なくとも40以上)であることが必要とされる。例えば、前記の文献には、異形棒鋼が、10mm程度から数10mmの径、および、7〜8mの長さを有することが記載されており、この場合、長さ/直径の比は100を超えるものである。
しかし、長さ/直径の比が大きい異形棒鋼は、比較的長い鉄筋をコンクリート中に配筋することになるので、コンクリート構造体の質量が大きくなるという問題があった。
【0004】
ところで、土木工事等で用いられるコンクリート構造体としては、例えば、マンホールの首部構造を構築する調整リング等が知られている。
図10に示すように、調整リング60は、マンホール蓋65が地表面Aと同一面の上面を形成するように、該マンホール蓋65を支持する蓋受枠64の高さを調整するために、地中に形成された縦孔61の壁面を構成するマンホールブロック62の上端面(上床版)62aの上に載置されるものである。
従来のマンホールの首部構造は、図10に示すように、上床版62aの上に調整リング60を積み重ね、調整リング60の上に、高さを調整するための首部調整材63をさらに重ねて、該首部調整材63に鋳鉄製等の蓋受枠64を載置し、該蓋受枠64の上に鋳鉄製等のマンホール蓋65を載置した構造となっている。蓋受枠64は、蓋受枠64のフランジ部64aと首部調整材63に挿通した受枠固定ボルト66によって、調整リング60に固定している。
マンホールの縦孔の直径よりも直径の小さいマンホール蓋を載置するために用いられる調整リングは、マンホールの縦孔の壁面を構成するマンホールブロックの上床板から、縦孔の中心方向に向けて、調整リングが突出した状態で、マンホールブロックの上床板に積み重ねられる。このような状態の調整リングの上に、マンホール蓋が載置される。マンホール蓋の上に通行車両が通過して、上から大きな荷重が加わった場合、該マンホール蓋を支持している調整リングは、マンホールブロックから突出している調整リングの部分が、上からの大きな荷重によって破壊されやすくなる。そのため、調整リングは、マンホールの縦孔の直径よりも直径の小さいマンホール蓋を支持する場合でも破壊されないように、補強効果をより向上する一方で、より小型化することが望まれている。
【0005】
そこで、本発明は、コンクリート等の水硬性硬化体の中に異形棒鋼を配筋してなる鉄筋補強水硬性硬化体であって、従来よりも異形棒鋼の長さ/直径の比が小さくても、補強効果を発揮することができ、例えば、マンホールの縦孔の直径よりも直径の小さいマンホール蓋を支持するための調整リングとして好適に用い得る、鉄筋補強水硬性硬化体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の水硬性の配合物を用いることによって、従来よりも長さ/直径の比が小さい異形棒鋼を用いた場合であっても、異形棒鋼による補強効果を発揮することができ、その結果、鉄筋補強水硬性硬化体の薄肉化を図りうることができることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[9]を提供するものである。
【0007】
[1] (A)ブレーン比表面積2,500〜5,000cm2/gのセメントと、(B)BET比表面積5〜25m2/gの微粒子と、(C)細骨材と、(D)減水剤と、(E)水とを含む配合物の硬化体中に、長さ/直径の比が5以上の異形棒鋼を配筋してなることを特徴とする鉄筋補強水硬性硬化体。
[2] 長さ/直径の比が5〜20の異形棒鋼と、長さ/直径の比が20を超える異形棒鋼を配筋してなる上記[1]に記載の鉄筋補強水硬性硬化体。
[3] 上記配合物が、(F)ブレーン比表面積2,500〜30,000cm2/gで、かつ上記セメントよりも大きなブレーン比表面積を有する無機粒子を含む上記[1]又は[2]に記載の鉄筋補強水硬性硬化体。
[4] 上記無機粒子(F)が、ブレーン比表面積5,000〜30,000cm2/gの無機粒子Aと、ブレーン比表面積2,500〜5,000cm2/gの無機粒子Bとからなる上記[3]に記載の鉄筋補強水硬性硬化体。
[5] 上記配合物が、(G)金属繊維、有機繊維及び炭素繊維からなる群より選ばれる1種以上の繊維を含む上記[1]〜[4]のいずれかに記載の鉄筋補強水硬性硬化体。
[6] 上記配合物が、(H)平均粒度1mm以下の繊維状粒子又は薄片状粒子を含む上記[1]〜[5]のいずれかに記載の鉄筋補強水硬性硬化体。
[7] 上記鉄筋補強水硬性硬化体の圧縮強度が100N/mm2以上である上記[1]〜[6]のいずれかに記載の鉄筋補強水硬性硬化体。
[8] 上記鉄筋補強水硬性硬化体が調整リングである上記[1]〜[7]のいずれかに記載の鉄筋補強水硬性硬化体。
[9] 上記調整リング中に、該調整リングと同心の1本以上のリング状の長鉄筋と、異形棒鋼からなる短鉄筋とを配筋してなる上記[8]に記載の鉄筋補強水硬性硬化体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、特定の水硬性の配合物を用いているため、従来よりも長さ/直径の比が小さい異形棒鋼を用いた場合であっても、異形棒鋼による水硬性硬化体の補強効果を発揮することができ、その結果、鉄筋補強水硬性硬化体の軽量化を図ることができる。
また、本発明によれば、従来の異形棒鋼に設けられる両端のフックを形成させなくても、直線状の短尺の棒状体である異形棒鋼のままで、当該異形棒鋼を単体で、または他の鉄筋(例えば、丸鋼)と組み合わせて、種々の用途に用いることができる。
本発明によれば、セメント系の配合物によって本体を形成しているので、形状の設計の自由度が大きく、しかも、短時間で容易に、製品を製造することができる。
さらに、本発明によれば、配合物の成分組成や、鉄筋の長さ、位置、本数等を適宜定めることによって、要求される機械的強度、耐用期間及びコストに応じた最適の製品を製造することができる。
【0009】
本発明によれば、特定の配合物の硬化体によって本体を形成し、かつ、この本体が従来よりも長さ/直径の比が小さい異形棒鋼によって補強された鉄筋補強水硬性硬化体を得ることができるので、上記鉄筋補強水硬性硬化体を、例えば、マンホール蓋を支持する調整リングとして、好適に用い得ることができる。
本発明の鉄筋補強水硬性硬化体からなる調整リングは、長期間、ひび割れや破損が生じにくく、長い耐用期間を確保し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の鉄筋補強水硬性硬化体は、(A)ブレーン比表面積2,500〜5,000cm2/gのセメントと、(B)BET比表面積5〜25m2/gの微粒子と、(C)細骨材と、(D)減水剤と、(E)水とを含む配合物の硬化体中に、長さ/直径の比が5以上の異形棒鋼を配筋してなるものである。
本発明で使用するセメントとしては、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメントが挙げられる。
本発明において、水硬性硬化体の早期強度を向上させようとする場合には、早強ポルトランドセメントを使用することが好ましく、水硬性硬化体の硬化前の配合物の流動性を向上させようとする場合は、中庸熱ポルトランドセメントや低熱ポルトランドセメントを使用することが好ましい。
【0011】
セメントのブレーン比表面積は、2,500〜5,000cm2/g、好ましくは3,000〜4,500cm2/gである。該値が2,500cm2/g未満であると、水和反応が不活発になって、100N/mm2以上の圧縮強度が得られ難いうえ、長さ/直径の比が40未満の異形棒鋼を構造用鉄筋として使用することが困難になる等の欠点があり、5,000cm2/gを超えると、セメントの粉砕に時間がかかり、また、所定の流動性を得るための水量が多くなるため、硬化後の収縮量が大きくなる等の欠点がある。
【0012】
本発明で使用する微粒子としては、例えば、シリカフューム、シリカダスト、フライアッシュ、スラグ、火山灰、シリカゾル、沈降シリカ等が挙げられる。
一般に、シリカフュームやシリカダストは、そのBET比表面積が5〜25m2/gであり、粉砕等をする必要がないので、本発明の微粒子として好適である。
【0013】
微粒子のBET比表面積は、5〜25m2/g、好ましくは8〜15m2/gである。該値が5m2/g未満であると、配合物を構成する粒子の充填性に緻密さを欠くため100N/mm2以上の圧縮強度が得られ難く、また、25m2/gを超えると、所定の流動性を得るための水量が多くなるため、100N/mm2以上の圧縮強度が得られ難く、いずれの場合も長さ /直径の比が40未満の異形棒鋼を構造用鉄筋として使用することが困難になる等の欠点がある。
微粒子の配合量は、セメント100質量部に対して10〜40質量部、好ましくは20〜40質量部である。配合量が10〜40質量部の範囲外では、流動性が極端に低下する。
【0014】
本発明で使用する細骨材としては、例えば、川砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂等又はこれらの混合物が挙げられる。
細骨材は、粒径2mm以下のものを用いることが好ましい。ここで、細骨材の粒径とは、85%質量累積粒径である。細骨材の粒径が2mmを超えると、硬化後の機械的特性が低下するので好ましくない。
また、細骨材は、75μm以下の粒子の含有量が2.0質量%以下のものを用いることが好ましい。該含有量が2.0質量%を超えると、配合物の流動性が極端に低下し、作業性が劣るので、好ましくない。また、流動性や作業性の点から、75μm以下の粒子の含有量が1.5質量%以下である細骨材を用いることがより好ましい。
【0015】
なお、本発明においては、硬化後の強度発現性から、最大粒径が2mm以下の細骨材を用いることが好ましく、最大粒径が1.5mm以下の細骨材を用いることがより好ましい。
細骨材の配合量は、配合物の作業性や硬化後の機械的強度の観点から、セメント100質量部に対して30〜200質量部であることが好ましく、自己収縮や乾燥収縮の低減、水和発熱量の低減等の観点から、40〜190質量部、特に50〜180質量部であることが好ましい。
【0016】
減水剤としては、リグニン系、ナフタレンスルホン酸系、メラミン系、ポリカルボン酸系の減水剤、AE減水剤、高性能減水剤又は高性能AE減水剤を使用することができる。これらのうち、減水効果の大きな高性能減水剤又は高性能AE減水剤を使用することが好ましく、特に、ポリカルボン酸系の高性能減水剤又は高性能AE減水剤を使用することが好ましい。
減水剤の配合量は、セメント100質量部に対して、固形分換算で0.1〜4.0質量部が好ましく、0.3〜2.0質量部がより好ましい。配合量が0.1質量部未満では、混練が困難になるとともに、配合物の流動性が極端に低下し、作業性が劣るので、好ましくない。配合量が4.0質量部を超えると、材料分離や著しい凝結遅延が生じ、また、硬化体の機械的特性が低下することもある。
なお、減水剤は、液状又は粉末状のいずれでも使用することができる。
【0017】
配合物を調製する際の水の量は、セメント100質量部に対して、好ましくは10〜30質量部、より好ましくは12〜28質量部である。水の量が10質量部未満では、混練が困難になるとともに、配合物の流動性が極端に低下し、作業性が劣るので、好ましくない。水の量が30質量部を超えると、硬化後の機械的特性が低下する。
【0018】
本発明の配合物には、ブレーン比表面積2,500〜30,000cm2/gで、かつ前記セメントよりも大きなブレーン比表面積を有する無機粒子を配合することができる。無機粒子を配合することにより、配合物の流動性が向上し、かつ、硬化体の強度等を高めることができる。
該無機粒子としては、例えば、スラグ、石灰石粉末、長石類、ムライト類、アルミナ粉末、石英粉末、フライアッシュ、火山灰、シリカゾル、炭化物粉末、窒化物粉末等が挙げられる。中でも、スラグ、石灰石粉末、石英粉末は、コストの点や硬化後の品質安定性の点で好ましく用いられる。
無機粒子は、ブレーン比表面積が2,500〜30,000cm2/g、好ましくは4,500〜20,000cm2/
gで、かつセメント粒子よりも大きなブレーン比表面積を有する。
無機粒子のブレーン比表面積が2,500cm2/g未満であると、セメントとのブレーン比表面積の差が小さくなり、高い流動性を確保することが困難になる等の欠点があり、30,000
cm2/gを超えると、粉砕に手間がかかるため材料が入手し難くなったり、所定の流動性が得られ難くなる等の欠点がある。
【0019】
無機粒子がセメントよりも大きなブレーン比表面積を有することによって、無機粒子が、セメントと微粒子との間隙を埋める粒度を有することになり、高い流動性等を確保することができる。
無機粒子とセメントとのブレーン比表面積の差は、硬化前の作業性と硬化後の強度発現性の観点から、1,000cm2/g以上が好ましく、2,000cm2/g以上がより好ましい。
無機粒子の配合量は、セメント100質量部に対して55質量部以下、好ましくは5〜50質量部である。配合量が55質量部を超えると、配合物の流動性が低下し、作業性が劣る傾向にある。
【0020】
本発明においては、無機粒子として、異なる2種の無機粒子A及び無機粒子Bを併用することができる。
この場合、無機粒子Aと無機粒子Bは、同じ種類の粉末(例えば、石灰石粉末)を使用してもよいし、異なる種類の粉末(例えば、石灰石粉末及び石英粉末)を使用してもよい。
無機粒子Aは、ブレーン比表面積が5,000〜30,000cm2/g、好ましくは6,000〜20,000cm2
/gのものである。また、無機粒子Aは、セメント及び無機粒子Bよりもブレーン比表面積が大きいものである。
無機粒子Aのブレーン比表面積が5,000cm2/g未満であると、セメントや無機粒子Bとのブレーン比表面積の差が小さくなり、前記の1種の無機粒子を用いる場合と比べて、作業性等を向上させる効果が小さくなるばかりか、2種の無機粒子を用いているために、材料の準備に手間がかかるので、好ましくない。該ブレーン比表面積が30,000cm2/gを超えると、粉砕に手間がかかるため、材料が入手し難くなったり、所定の流動性が得られ難くなる等の欠点がある。
【0021】
また、無機粒子Aが、セメント及び無機粒子Bよりも大きなブレーン比表面積を有することによって、無機粒子Aが、セメント及び無機粒子Bと、微粒子との間隙を埋めるような粒度を有することにより、より優れた流動性等を確保することができる。
無機粒子Aとセメント及び無機粒子Bとのブレーン比表面積の差(換言すれば、無機粒子Aと、セメントと無機粒子Bのうちブレーン比表面積の大きい方とのブレーン比表面積の差)は、硬化前の作業性と硬化後の強度発現性の観点から、1,000cm2/g以上が好ましく、2,000cm2/g以上がより好ましい。
【0022】
無機粒子Bのブレーン比表面積は、2,500〜5,000cm2/gである。また、セメントと無機粒子Bとのブレーン比表面積の差は、100cm2/g以上が好ましく、硬化前の作業性と硬化後の強度発現性の観点から、200cm2/g以上がより好ましい。
無機粒子Bのブレーン比表面積が2,500cm2/g未満であると、流動性が低下する等の欠点があり、5,000cm2/gを超えると、ブレーン比表面積の数値が無機粒子Aに近づくため、前記の1種の無機粒子を用いる場合と比べて、作業性等を向上させる効果が小さくなるばかりか、2種の無機粒子を用いているために、材料の準備に手間がかかるので、好ましくない。
また、セメントと無機粒子Bとのブレーン比表面積の差が100cm2/g以上であることによって、配合物を構成する粒子の充填性が向上し、より優れた流動性等を確保することができる。
【0023】
無機粒子Aの配合量は、セメント100質量部に対して10〜50質量部、好ましくは15〜40質量部である。無機粒子Bの配合量は、セメント100質量部に対して5〜35質量部、好ましくは10〜30質量部である。無機粒子A及び無機粒子Bの配合量が前記の数値範囲外では、前記の1種の無機粒子を用いる場合と比べて、作業性等を向上させる効果が小さくなるばかりか、2種の無機粒子を用いているために、材料の準備に手間がかかるので、好ましくない。
無機粒子Aと無機粒子Bの合計量は、セメント100質量部に対して15〜50質量部が好ましい。
【0024】
本発明の配合物には、金属繊維、有機繊維及び炭素繊維からなる群より選ばれる1種以上の繊維を配合することができる。
金属繊維は、硬化体の曲げ強度等を大幅に高める観点から、配合される。
金属繊維としては、鋼繊維、ステンレス繊維、アモルファス繊維等が挙げられる。中でも、鋼繊維は、強度に優れており、また、コストや入手のし易さの点からも好ましいものである。金属繊維の寸法は、配合物中における金属繊維の材料分離の防止や、硬化体の曲げ強度の向上の点から、直径が0.01〜1.0mm、長さが2〜30mmであることが好ましく、直径が0.05〜0.5mm、長さが5〜25mmであることがより好ましい。また、金属繊維のアスペクト比(繊維長/繊維直径)は、好ましく20〜200、より好ましくは40〜150である。
【0025】
金属繊維の形状は、直線状よりも、何らかの物理的付着力を付与する形状(例えば、螺旋状や波形)が好ましい。螺旋状等の形状にすれば、金属繊維とマトリックスとが引き抜けながら応力を担保するため、曲げ強度が向上する。
金属繊維の好適な例としては、例えば、直径が0.5mm以下、引張強度が1〜3.5GPaの鋼繊維からなり、かつ、180MPaの圧縮強度を有する水硬性硬化体のマトリックスに対する界面付着強度(付着面の単位面積当りの最大引張力)が3MPa以上であるものが挙げられる。
本発明において、金属繊維は、波形又は螺旋形の形状に加工することができる。また、本発明の金属繊維の周面上に、マトリックスに対する運動(長手方向の滑り)に抵抗するための溝又は突起を付けることもできる。また、本発明の金属繊維は、鋼繊維の表面に、鋼繊維のヤング係数よりも小さなヤング係数を有する金属層(例えば、亜鉛、錫、銅、アルミニウム等から選ばれる1種以上からなるもの)を設けたものとしてもよい。
【0026】
金属繊維の配合量は、配合物中の体積百分率で、好ましくは4%以下、より好ましくは0.5〜3%、特に好ましくは1〜3%である。該配合量が4%を超えると、混練時の作業性等を確保するために単位水量が増大するうえ、配合量を増やしても金属繊維の補強効果が向上しないため、経済的でなく、さらに、混練物中でいわゆるファイバーボールを生じ易くなるので、好ましくない。
【0027】
有機繊維及び炭素繊維は、硬化体の破壊エネルギー等を高める観点から、配合される。
有機繊維としては、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、アラミド繊維等が挙げられる。中でも、ビニロン繊維及び/又はポリプロピレン繊維は、コストや入手のし易さの点で好ましく用いられる。
炭素繊維としては、PAN系炭素繊維やピッチ系炭素繊維が挙げられる。
有機繊維及び炭素繊維の寸法は、配合物中におけるこれらの繊維の材料分離の防止や、硬化後の破壊エネルギーの向上の点から、直径が0.005〜1.0mm、長さ2〜30mmであることが好ましく、直径が0.01〜0.5mm、長さ5〜25mmであることがより好ましい。また、有機繊維及び炭素繊維のアスペクト比(繊維長/繊維直径)は、好ましくは20〜200、より好ましくは30〜150である。
【0028】
有機繊維及び炭素繊維の配合量は、各々、配合物中の体積百分率で好ましくは10.0%以下、より好ましくは1.0〜9.0%、特に好ましくは2.0〜8.0%である。配合量が10.0%を超えると、混練時の作業性等を確保するために単位水量が増大するうえ、配合量を増やしても繊維の増強効果が向上しないため、経済的でなく、さらに、混練物中にいわゆるファイバーボールが生じ易くなるので、好ましくない。
【0029】
本発明の配合物には、平均粒度が1mm以下の繊維状粒子又は薄片状粒子を配合することができる。ここで、粒子の粒度とは、その最大寸法の大きさ(特に、繊維状粒子ではその長さ)である。繊維状粒子又は薄片状粒子を配合することにより、硬化体の靱性を高めることができる。
繊維状粒子としては、ウォラストナイト、ボーキサイト、ムライト等が、薄片状粒子としては、マイカフレーク、タルクフレーク、バーミキュライトフレーク、アルミナフレーク等が挙げられる。
繊維状粒子又は薄片状粒子の配合量は、セメント100質量部に対して35質量部以下が好ましく、1〜25質量部がより好ましい。配合量が35質量部を超えると、配合物の流動性が低下し、作業性が劣る傾向にある。
なお、繊維状粒子においては、硬化体の靱性を高める観点から、長さ/直径の比で表される針状度が3以上のものを用いるのが好ましい。
【0030】
次に、配合物及びその硬化体の物性(フロー値、圧縮強度、曲げ強度、破壊エネルギー)を説明する。
配合物のフロー値は、好ましくは230mm以上、より好ましくは240mm以上である。
また、無機粒子として無機粒子A及び無機粒子Bを用いた場合、配合物のフロー値は、好ましくは240mm以上、より好ましくは250mm以上である。特に、75μm以下の粒子の含有量が2.0質量%以下である細骨材を用いた場合には、該フロー値は、好ましくは250mm以上、より好ましくは260mm以上、特に好ましくは270mm以上である。なお、本明細書中において、フロー値とは、「JIS
R 5201(セメント物理試験方法)11.フロー試験」に記載される方法において、15回の落下運動を行わないで測定した値(本明細書中において、「0打フロー値」ともいう。)である。
また、前記フロー試験において、フロー値が200mmに達する時間は、好ましくは10.5秒以内、より好ましくは10.0秒以内である。当該時間は、作業性と粘性を評価する尺度として用いられる。
【0031】
配合物の硬化体の圧縮強度は、好ましくは100N/mm2以上、より好ましくは110N/mm2以上、特に好ましくは120N/mm2以上である。圧縮強度が100N/mm2未満では、長さ/直径の比が小さい(例えば40未満)異形棒鋼を構造用鉄筋として使用することが困難となる。
硬化体の曲げ強度は、好ましくは15N/mm2以上、より好ましくは18N/mm2以上、特に好ましくは20N/mm2以上である。特に、配合物が金属繊維を含む場合には、硬化体の曲げ強度は、好ましくは30N/mm2以上、より好ましくは32N/mm2以上、特に好ましくは35N/mm2以上である。
硬化体の破壊エネルギーは、例えば、金属繊維、有機繊維及び炭素繊維のいずれか1種以上を配合した場合において、好ましくは10kJ/m2以上、より好ましくは20kJ/m2以上である。
【0032】
本発明の配合物の混練方法は、特に限定されるものではなく、例えば、(a)水、減水剤以外の材料(具体的には、セメント、微粒子、細骨材(及び無機粒子))を予め混合して、プレミックス材を調製しておき、該プレミックス材、水及び減水剤をミキサに投入し、混練する方法、(b)粉末状の減水剤を用意し、水以外の材料を予め混合して、プレミックス材を調製しておき、該プレミックス材及び水をミキサに投入し、混練する方法、(c)各材料を各々個別にミキサに投入し、混練する方法等を採用することができる。
混練に用いるミキサは、通常のコンクリートの混練に用いられるどのタイプのものでもよく、例えば、揺動型ミキサ、パンタイプミキサ、二軸練りミキサ等が用いられる。
【0033】
本発明においては、上記配合物の硬化体中に、長さ/直径の比が5以上、好ましくは
6以上、より好ましくは7以上の異形棒鋼を配筋し、該異形棒鋼を構造用鉄筋として使用する。該比が5未満では、該異形棒鋼と水硬性硬化体との付着力が小さく、異形棒鋼による水硬性硬化体の補強効果を得難くなる。
本発明においては、長さ/直径の比が5〜20の異形棒鋼と、長さ/直径の比が20を超える異形棒鋼を組み合わせることもできる。
【0034】
本発明の鉄筋補強水硬性硬化体の製造は、型枠内の所定位置に鉄筋を保持し、該型枠内に配合物を打設後、養生する等の方法で行うことができる。前述したように、本発明で用いる配合物は、0打フロー値が230mm以上と流動性に優れるので、鉄筋補強水硬性硬化体の製造(特に成形)を容易に行うことができる。
なお、養生方法は、特に限定されるものではなく、気中養生や蒸気養生等を行えばよい。
【0035】
次に、本発明の鉄筋補強水硬性硬化体の実施形態の一例を、図面に基づいて説明する。
図1中、本発明の鉄筋補強水硬性硬化体1は、薄肉で細長い部材(例えば、ルーバー等)を示し、内部に配筋した鉄筋を点線で表している。また、図1中、(a)は正面図、(b)は底面図、(c)は(b)の部分拡大図である。
鉄筋補強水硬性硬化体1中の鉄筋構造体は、短尺の4本の異形棒鋼2(径:9.53mm、長さ/直径の比:16.8)と、長尺の2本の鉄筋3(例えば、丸鋼;径:10mm、長さ/直径の比が100を超えるもの)を、溶接により接合して作製されている。この鉄筋構造体は、本発明で規定する特定の配合物からなる水硬性硬化体4中に埋設されている。
なお、鉄筋補強水硬性硬化体1の寸法は、150cm(長さ)×20cm(幅)×4cm(厚さ)である。
鉄筋補強水硬性硬化体1は、水硬性硬化体4の代わりに、本発明で規定する配合物以外の配合物からなる水硬性硬化体を用いた場合と比べて、機械的強度が大きい。
【0036】
次に、本発明の鉄筋補強水硬性硬化体の実施形態の他の例として、本発明の鉄筋補強水硬性硬化体からなる調整リングの一例を、図面に基づいて説明する。
図2は、本発明の鉄筋補強水硬性硬化体からなる略円形の調整リングの平面図を示し、内部に配筋した鉄筋を点線で表している。
調整リング(鉄筋補強水硬性硬化体)20は、本発明で規定する特定の配合物からなる略円形のリング状の水硬性硬化体を本体21とし、該本体21中に、本体21と同心である略円形の閉じた棒状体である2本のリング状の長鉄筋22a,22bと、上記特定の配合物からなる水硬性硬化体(本体21)を補強するための8本の短鉄筋23からなる鉄筋構造体を配筋してなる。この鉄筋構造体は、上記の2本のリング状の長鉄筋のうち、一方を本体21の内周側に、他方を本体21の外周側に配置し、このリング状の長鉄筋22a,22bの周方向に等間隔を置いて、8本の異形棒鋼からなる短鉄筋23を、リング状の長鉄筋22a,22bに対して略垂直に交差するように配置している。
調整リングは、略円形のリング状のものに限らず、マンホール蓋や、マンホールの縦孔の形状に合致するように、例えば、略四角形のリング状のものや、略五角形以上の多角形のリング状のものであってもよい。
【0037】
調整リングの中に配筋するリング状の長鉄筋は、丸鋼(周面が滑らかな棒鋼)と異形棒鋼のいずれも使用可能である。
【0038】
リング状の本体(水硬性硬化体)を補強するための短鉄筋は、本発明で規定する特定の異形棒鋼からなる。この異形棒鋼の寸法は、該短鉄筋が埋設される調整リングの本体(水硬性硬化体)の大きさによって異なるが、調整リングの外周縁及び内周縁の各々と短鉄筋の間の適宜距離の確保(いわゆる、かぶり厚さの確保)を考慮すると、呼び名が好ましくはD6〜D19、より好ましくはD6〜D16、特に好ましくはD6〜D13であり、長さ/直径の比が好ましくは5〜20、より好ましくは6〜18、特に好ましくは7〜16である。
【0039】
リング状の本体(水硬性硬化体)を補強するための短鉄筋は、補強効果を向上させるために、リング状の長鉄筋に対して、略垂直に交差するように、リング状の長鉄筋に溶接等によって固着することが好ましい。
調整リング中に配筋する短鉄筋の特に好ましい本数は、3〜10本である。
また、リング状の本体(水硬性硬化体)を補強するための短鉄筋は、上方から加えられる荷重等に対して、補強効果を均等に向上させるために、リング状の本体中に略等間隔で配筋されるように、リング状の長鉄筋の周方向に等間隔を置いて、該長鉄筋に固着されていることが好ましい。
【0040】
次に、本発明の鉄筋補強水硬性硬化体からなる調整リングの使用方法を説明する。
図3は、図2に示す調整リング20を使用したマンホールの首部構造の一例を示す、断面図である(図3中、調整リング20中に配筋した鉄筋は図略)。図3に示すように、マンホールの首部は、地中に形成された縦孔30の壁面を構成するマンホールブロック31の上床版31aの上に、調整リング20を積み重ね、調整リング20の上端面に、高さ調整用のモルタルからなる首部調整材33をさらに重ねて、この首部調整材33に蓋受枠34を載置し、この蓋受枠34上に、地表面Aと同一の上面を形成する、マンホール蓋32を載置した構造となっている。蓋受枠34は、蓋受枠34のフランジ部34aと首部調整材33に挿通した受枠固定ボルト35で、調整リング20に固定している。
マンホール蓋32の上に通行車両などが通過して大きな荷重がかかった場合、最下段の調整リング20と上床版31aとの当接面には大きな圧力が加わる。
本発明の鉄筋補強水硬性硬化体からなる調整リング20を使用することによって、該調整リング20の機械的強度及び耐久性が向上されているため、マンホール蓋32の上に通行車両などが通過して大きな荷重が繰り返しかかっても、ひび割れなどが発生しにくく、長期間に亘り使用することができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により本発明を説明する。
[実施例1]
1.使用材料
以下に示す材料を使用した。
(1)セメント;低熱ポルトランドセメント(太平洋セメント社製;ブレーン比表面積:3,200cm2/g)
(2)微粉末;シリカフューム(BET比表面積:10m2/g)
(3)無機粒子;石英粉末(ブレーン比表面積:7,500cm2/g)
(4)骨材;珪砂(最大粒径:0.6mm、75μm以下の粒子の含有量:0.3質量%)
(5)金属繊維;鋼繊維(直径:0.2mm、長さ:13mm)
(6)繊維状粒子;ウォラストナイト(平均長さ:0.3mm、長さ/直径の比:4)
(7)減水剤;ポリカルボン酸系高性能減水剤
(8)水;水道水
【0042】
2.配合物及びその硬化体の性状
低熱ポルトランドセメント100質量部、シリカフューム32質量部、珪砂120質量部、石英粉末30質量部、ウォラストナイト5質量部、減水剤1.0質量部(セメントに対する固形分)、水22質量部及び鋼繊維(配合物中の体積割合:2%)を二軸練りミキサに投入し、混練した。
該配合物のフロー値を「JIS R 5201(セメント物理試験方法)11.フロー試験」に記載される方法において、15回の落下運動を行わないで測定した。その結果、フロー値は260mmであった。
また、前記配合物をφ50×100mmの型枠内に流し込み、20℃で48時間前置き後、90℃で48時間蒸気養生し、水硬性硬化体(3本)を得た。該硬化体の圧縮強度(3本の平均値)は230N/mm2であった。
さらに、前記配合物を4×4×16cmの型枠内に流し込み、20℃で48時間前置き後、90℃で48時間蒸気養生し、水硬性硬化体(3本)を得た。該硬化体の曲げ強度(3本の平均値)は47N/mm2であった。
【0043】
3.長さ/直径の比が10の異形棒鋼の補強効果の確認試験
(1)試験体の作製
直径9.53mm×長さ100mmの異形棒鋼(長さ/直径の比:10.5)を所定の位置に保持した幅100mm×厚さ70mm×長さ400mmの型枠内に、上記「2.配合物及びその硬化体の性状」の配合物と同様の配合物を流し込み、20℃で24時間前置き後、90℃で48時間蒸気養生して、鉄筋補強水硬性硬化体を得た。該硬化体の長手方向の中央部に下面から上方に向けて深さ20mmの切欠部を形成し、図4に示す試験体10(実施例)を作製した。
図4中、(a)は試験体10の左側面図、(b)は試験体10の正面図である。図4の(a)中、異形棒鋼11の正面10a又は背面10bからのかぶり厚さD1はそれぞれ45mmとし、図4の(b)中、異形棒鋼11の上面からのかぶり厚さD2は33mmとし、下面からのかぶり厚さD3は27mmとし、左右の側面からのかぶり厚さD4はそれぞれ150mmとした。なお、図中の符号12は水硬性硬化体を示し、符号13は切欠部を示す。
また、上記の試験体10とは別に、異形棒鋼を配筋しないこと以外は上記の試験体と同様にして、比較用の試験体(比較例1)を製造した。
(2)補強効果の確認試験
上記の試験体(実施例1、比較例1)に対して、次の試験を行なった。
(a)荷重と載荷点変位の関係の試験
「JCI-S-002-2003(切欠きはりを用いた繊維補強コンクリートの荷重-変位曲線試験法)」に準拠した切欠き3点曲げ試験によって、試験体(実施例1、比較例1)における荷重の増大に応じた載荷点変位の変化を測定した。結果を図5に示す。
(b)荷重と鉄筋ひずみの関係の試験
前記(a)の切欠き3点曲げ試験において、試験体(実施例1)における荷重の増大に応じた鉄筋ひずみの変化を、異形棒鋼11の中央部のひずみゲージによって計測した。結果を図6に示す。
【0044】
(c)試験結果の考察
図5に示すように、異形棒鋼を配筋した試験体(実施例1)は、異形棒鋼を配筋していない試験体(比較例)よりも最大荷重が1.5倍以上大きくなり、従来技術では補強効果が期待し得ない長さ/直径の比が10.5である短尺の異形棒鋼を用いた場合であっても、大きな補強効果が得られることがわかった。
また、図6に示すように、異形棒鋼を配筋した試験体(実施例1)は、最大荷重30kNまで鉄筋ひずみが増大し、優れた耐荷重性を有することがわかった。また、最大荷重を負荷した後は、荷重値が変化することなく鉄筋ひずみが緩和され、その後、荷重が低下して、最終的に破断した。このように、最大荷重を負荷した後も、直ちに破断せずに試験体が保たれたことからも、短尺の異形棒鋼による優れた効果が確認された。
【0045】
次に、本発明の鉄筋補強水硬性硬化体を調整リングに適用した場合の例について説明する。
[実施例2]
図2に示すように、実施例1の「1.使用材料」を用いて、実施例1の「2.配合物及びその硬化体の性状」の配合物を、2本のリング状の長鉄筋(異形棒鋼、呼び名:D13)と、上記配合物の硬化体からなる本体を補強するための8本の短鉄筋(異形棒鋼、径:9.53mm、長さ/直径の比:10.5)とからなる鉄筋構造体を所定の位置に保持したリング状の型枠内に流し込み、20℃で24時間前置き後、90℃で48時間蒸気養生して、上記配合物の硬化体からなる本体21中に、上記の鉄筋構造体を埋設した試験用の調整リング20を得た。
上記鉄筋構造体は、2本のリング状の長鉄筋22a,22bの周方向に等間隔を置いて、8本の短鉄筋23の各々を、2本のリング状の長鉄筋22a,22bに対して、略垂直に交差するように、溶接によって固着している。
【0046】
[比較例2]
図7に示すように、2本のリング状の長鉄筋42a,42bに、異形棒鋼からなる短鉄筋を固着しないこと以外は、実施例2と同様にして、実施例1の「2.配合物及びその硬化体の性状」の配合物の硬化体からなる本体41中に、2本のリング状の長鉄筋42a,42bを埋設した試験用の調整リング40を得た。
【0047】
[比較例3]
表1に示す配合及び材料を、二軸練りミキサに投入し、混練して、配合物を得た。図2に示すように、上記配合物を、実施例2と同様にして、上記配合物の硬化体からなる本体21中に、2本のリング状の長鉄筋22a,22b及び8本の短鉄筋23からなる鉄筋構造体を埋設した試験用の調整リング20を得た。
なお、上記の配合物について、「JIS A 1101」に準じてスランプを測定し、「JIS
A 1108」に準じて圧縮強度を測定し、「JIS A 1106」に準じて曲げ強度を測定したところ、スランプは8cmであり、圧縮強度は30N/mm2であり、曲げ強度は3.9N/mm2であった。
【0048】
【表1】

【0049】
[比較例4]
図7に示すように、2本のリング状の長鉄筋42a,42bに、異形棒鋼からなる短鉄筋を固着しないこと以外は、比較例3と同様にして、表1に示す配合及び材料の配合物の硬化体からなる本体41中に、2本のリング状の長鉄筋42a,42bを埋設した試験用の調整リング40を得た。
【0050】
[調整リングの静的荷重強度載荷試験]
上記の試験用の調整リング20又は調整リング40(実施例2、比較例2〜4)について、図8に示すアムスラー型200トン万能試験機を用いて、次に示す方法で静的荷重強度載荷試験を行った。
(1)調整リングの静的荷重強度載荷試験方法
図8に示すように、マンホールブロックの上床版を想定した台座50の上に、上面の複数個所にひずみゲージ(図示略)を設けた試験用の調整リング20を載置した。この調整リング20の上に、載荷板51を載置した。台座50,調整リング20,及び載荷板51を、アムスラー型200トン万能試験機52に設置し、該試験機52の200トンアムスラーヘッド52aによって、100kgf/秒(980N/秒)の載荷速度で、載荷板52上から調整リング20に、195トンまで荷重をかけ、調整リング20にかかる発生応力を、荷重の増大に応じたひずみの変化として、ひずみゲージによって測定した。結果を図9に示す。
【0051】
(2)試験結果の考察
図9に示すように、実施例2の調整リングは、最大荷重(195トン)を負荷した後も破壊されず、ひずみが増大しつづけており、2,000kN以上の耐荷重性を有していることがわかった。これに対し、比較例2の調整リングは、1,500kN程度の荷重で調整リングが破壊され、比較例3,4の調整リングは、両者とも500kN程度の荷重で破壊された。
すなわち、比較例3,4の調整リングは、リング状の長鉄筋のみからなる鉄筋構造体を硬化体中に埋設した場合と、リング状の長鉄筋及び短鉄筋からなる鉄筋構造体を硬化体中に埋設した場合では、耐荷重性が変わらなかったのに対し、実施例2の調整リングは、比較例2の調整リングと比較して、耐荷重性が1.2倍以上向上していた。
この結果から、本発明の鉄筋補強水硬性硬化体からなる調整リングは、比較例3のような、通常の水硬性硬化体に、異形棒鋼を用いた鉄筋構造体を埋設した調整リングからは、予想できない、優れた機械的強度及び耐久性を備えていることが確認できた。なお、実施例2の調整リングは、比較例3,4の調整リングと比較すると、耐荷重性が4.0倍以上向上していた。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】(a)は、鉄筋補強水硬性硬化体の一例を示す正面図であり、(b)は、その底面図であり、(c)は、(b)の部分拡大図である。
【図2】鉄筋補強水硬性硬化体の他の例を示し、鉄筋補強水硬性硬化体からなる調整リングの平面図である。
【図3】本発明の鉄筋補強水硬性硬化体からなる調整リングを使用したマンホールの首部構造の一例を示す断面図である。
【図4】(a)は、鉄筋補強水硬性硬化体の試験体の左側面図であり、(b)は、その正面図である。
【図5】荷重と載荷点変位の関係を示す図である。
【図6】荷重と鉄筋ひずみの関係を示す図である。
【図7】比較例の調整リングを示す平面図である。
【図8】アムスラー型200トン万能試験機を用いた静的荷重強度載荷試験方法を説明する図である。
【図9】荷重とひずみの関係を示す図である。
【図10】従来の調整リングを使用したマンホールの首部構造の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0053】
1 鉄筋補強水硬性硬化体
2 異形棒鋼
3 丸鋼
4 水硬性硬化体
10 試験体
10a 試験体の正面
10b 試験体の背面
11 異形棒鋼
12 水硬性硬化体
13 切欠部
20 調整リング(鉄筋補強水硬性硬化体)
21 本体(水硬性硬化体)
22a,22b リング状の長鉄筋
23 短鉄筋(異形棒鋼)
30 縦孔
31 マンホールブロック
31a 上床版
32 マンホール蓋
33 首部調整材
34 蓋受枠
34a フランジ部
35 受枠固定用ボルト
40 調整リング
41 本体(水硬性硬化体)
42a,42b リング状の長鉄筋
50 台座
51 載荷板
52 アムスラー型200トン万能試験機
52a 200トンアムスラーヘッド
60 調整リング
61 縦孔
62 マンホールブロック
62a 上床版
63 首部調整材
64 蓋受枠
64a フランジ部
65 マンホール蓋
66 受枠固定用ボルト
A 地表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ブレーン比表面積2,500〜5,000cm2/gのセメントと、(B)BET比表面積5〜25m2/gの微粒子と、(C)細骨材と、(D)減水剤と、(E)水とを含む配合物の硬化体中に、長さ/直径の比が5以上の異形棒鋼を配筋してなることを特徴とする鉄筋補強水硬性硬化体。
【請求項2】
長さ/直径の比が5〜20の異形棒鋼と、長さ/直径の比が20を超える異形棒鋼を配筋してなる請求項1記載の鉄筋補強水硬性硬化体。
【請求項3】
上記配合物が、(F)ブレーン比表面積2,500〜30,000cm/gで、かつ上記セメントよりも大きなブレーン比表面積を有する無機粒子を含む請求項1又は2記載の鉄筋補強水硬性硬化体。
【請求項4】
上記無機粒子(F)が、ブレーン比表面積5,000〜30,000cm2/gの無機粒子Aと、ブレーン比表面積2,500〜5,000cm2/gの無機粒子Bとからなる請求項3記載の鉄筋補強水硬性硬化体。
【請求項5】
上記配合物が、(G)金属繊維、有機繊維及び炭素繊維からなる群より選ばれる1種以上の繊維を含む請求項1〜4のいずれか1項記載の鉄筋補強水硬性硬化体。
【請求項6】
上記配合物が、(H)平均粒度1mm以下の繊維状粒子又は薄片状粒子を含む請求項1〜5のいずれか1項記載の鉄筋補強水硬性硬化体。
【請求項7】
上記鉄筋補強水硬性硬化体の圧縮強度が100N/mm2以上である請求項1〜6のいずれか1項記載の鉄筋補強水硬性硬化体。
【請求項8】
上記鉄筋補強水硬性硬化体が調整リングである請求項1〜7のいずれか1項記載の鉄筋補強水硬性硬化体。
【請求項9】
上記調整リング中に、該調整リングと同心の1本以上のリング状の長鉄筋と、異形棒鋼からなる短鉄筋とを配筋してなる請求項8記載の鉄筋補強水硬性硬化体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−290954(P2007−290954A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−69865(P2007−69865)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(000100942)アイレック技建株式会社 (45)
【Fターム(参考)】