説明

鉄筋連結用シール構造

【解決手段】 鉄筋連結装置において、継手と鉄筋との間のシール性を向上するとともに、シール部材の脱落を防止できる構造を提供する。
【課題】
鉄筋連結用の筒状継手5の端部内周と鉄筋の外周との間をシール構造6によりシールして、継手5内部に充填される充填材の漏出を禁じる。シール構造6は、ゴム製の環状のシール部材10と、C字形をなす鋼製の保持リング20とを備えている。シール部材10は、継手5の端部内周の装着溝5aに嵌め込まれる環状の基部11と、この基部11から径方向内方向に延びる環状の鍔部12,13とを有している。保持リング20は、シール部材10の基部11内に収容されるとともに、当該基部11の外周部11aより内側に配置されている.

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒状継手を用いて2本の鉄筋を一直線状に連結する際に、この継手の端部に装着されるシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一直線状に並べられた2本の鉄筋を連結するために、これら鉄筋の端部を筒状の継手に挿入した状態で、継手にモルタル等の充填材を充填することは公知である。このモルタル充填に際して、継手の両端部内周と鉄筋外周との間をシール部材でシールすることにより、モルタルの漏出を防止するようになっている。
【0003】
特許文献1に開示されているように、上記シール部材は、環状の基部と、この基部から径方向内方向に延びる環状の鍔部とを有している。この基部が上記継手の両端部内周の環状装着溝に嵌ることにより、シール部材が継手に装着される。
【0004】
上記鍔部の内径(内周縁の径)は鉄筋の外径より小さいため、鉄筋が挿入されると、鍔部の内周縁およびその近傍部が弾性変形した状態で鉄筋の外周に密着し、継手と鉄筋との間をシールする。
【0005】
上記シール部材の鍔部の内径と鉄筋外径の差は、鉄筋の挿入に支障をきたさない限り、大きい方が好ましい。上記鍔部の弾性変形量が大きくなり、密着性が高まってシール性が向上するからである。
特に、特許文献1のように継手にねじ込まれるボルトにより鉄筋の周面を押し付ける構成を採用する場合には、鉄筋が継手およびシール部材と同軸の位置から径方向に偏移するため、シール部材の鍔部の一部(ボルト側の部位)と鉄筋とのシール性が、上記同軸位置と比べて減じられる。それを補うためにも、上記鍔部の内径と鉄筋外径の差を大きくする必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−150049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、シール部材の鍔部の内径と鉄筋外径の差が大きいと、鍔部が鉄筋の外周に強く密着するため、2本の鉄筋を継手に挿入する工程において鍔部と鉄筋との間の摩擦が増大し、シール部材に大きな軸方向の力が作用する。その結果、シール部材が継手の装着溝から脱落するおそれが生じる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、鉄筋連結用の筒状継手の端部内周と鉄筋の外周との間をシールして、継手内部に充填される充填材の漏出を禁じるシール構造において、弾性材料からなる環状のシール部材と、C字形をなす弾性変形可能な保持リングとを備え、上記シール部材は、少なくとも一部が上記継手の端部内周の環状装着溝に嵌め込まれる環状の基部と、この基部から径方向内方向に延びる環状の鍔部とを有し、上記保持リングは、上記シール部材の基部内に収容されるとともに、当該基部の外周部より内側に配置されている。
【0009】
上記構成によれば、シール部材の基部が継手端部の装着溝に嵌め込まれた状態を、保持リングで維持できるため、シール部材に大きな軸方向の力が作用しても継手から脱落するのを防止できる。そのため、鍔部内径を鉄筋外径より十分に小さくすることができ、継手と鉄筋との間を良好にシールすることができる。また、保持リングがC字形をなしているので、保持リングを組み込んだシール部材に径方向に力を付与することにより、弾性変形を伴って縮径させることができ、シール部材を継手の装着溝に容易に装着することができる。
【0010】
好ましくは、上記シール部材の基部は径方向内側が開放した環状の収容凹部を有し、この収容凹部に上記保持リングが収容されている。
この構成によれば、シール部材と保持リングが別部品であっても、保持リングをシール部材に容易かつ確実に装着することができる。
【0011】
好ましくは、上記保持リングの少なくとも一部が、上記基部を介して上記装着溝に収容されている。
この構成によれば、鉄筋挿入時にシール部材に軸方向の力が作用すると、保持リングが装着溝に引っ掛かるために、より一層確実にシール部材の脱落を防止できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、継手と鉄筋との間の良好なシール性を実現できるとともに、継手からのシール部材の脱落を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(A)は本発明の第1実施形態に係わるシール構造を組み込んだ鉄筋連結装置の縦断面図、(B)は、同鉄筋連結装置の筒状継手の縦断面図である。
【図2】継手軸芯と直交する面に沿うシール構造の横断面図である。
【図3】図1(A)のシール構造の要部を拡大して示す縦断面図である。
【図4】(A),(B),(C)はそれぞれ本発明の他の実施形態を示す図3相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の第1実施形態をなす鉄筋連結装置1について図1〜図3を参照しながら説明する。図1に示すように、連結装置1は、一直線上に配置された2本の異形鉄筋2、3を、建築現場において連結するためのものである。これら異形鉄筋2、3は、図示のようにねじ節を有するねじ鉄筋でもよいし、軸方向に延びる縦リブと所定ピッチで形成された横リブを有する通常の異形鉄筋でもよい。
【0015】
図1に示すように、上記連結装置1は、金属鋳物からなる筒状の継手5を備えている。この継手5の両端部内周には環状の装着溝5aが形成されている。
さらに上記継手5の両端部には、上記一対の装着溝5aにそれぞれ隣接するとともにこれら装着溝5aより内側の位置に、継手5の周壁を貫通する注入口5bと排出口5cが形成されている。
【0016】
上記継手5の軸方向長さの中央と上記注入口5bの間、および同中央と排出口5cとの間には、継手5の周壁を貫通するねじ穴5dが形成されている。
上記注入口5b、排出口5cおよびねじ穴5dは、継手5の軸芯Lと平行をなす直線上に配置されている。
【0017】
上記継手5の内周において、ねじ穴5dの形成位置と対峙する領域(軸芯Lを挟んで反対側の領域)には、ほぼ180°の角度範囲にわたって周方向に延びる複数の支持リブ5eが、軸芯方向に間隔をおいて形成されている。また、ねじ穴5dの形成位置を含む領域には、ほぼ180°の角度範囲にわたって周方向に延びる複数の補助リブ5fが、軸芯方向に間隔をおいて形成されている。
【0018】
鉄筋2,3の連結に先立って、上記継手5の両端の装着溝5aには、本発明に係わるシール構造6が装着され、ねじ穴5dにはボルト7が浅く螺合され、注入口5bにはゴム製の逆止弁(図示しない)が装着されている。なお、ボルト7、逆止弁は後述する鉄筋挿入後に装着してもよい。
【0019】
上記構成をなす鉄筋連結装置1の作用について簡単に説明する。上述したように、シール構造6、ボルト7、逆止弁を装着した継手5を、予め一方の鉄筋2の端部に全長にわたって挿入しておき、この鉄筋2に他方の鉄筋3を接近させて一直線上に配置した後、継手5を当該他方の鉄筋3に沿ってずらす。これにより、継手5の全長の約半分ずつに2本の鉄筋2、3の端部が挿入された状態になる。
【0020】
次に、2本のボルト7をねじ込み、図1に示すように、その先端で鉄筋2、3を支持リブ5eに押し付ける。このようにして2本の鉄筋2、3を継手5に仮固定する。
上記の仮固定状態において、シール構造6は、鉄筋2,3の外周と継手5の端部内周との間をシールする。
【0021】
次に、継手5内にモルタル8(グラウト材、充填材)を充填する。鉄筋2、3が水平をなしている場合には、注入口5b、排出口5c、ボルト7を継手5の軸芯Lの上方に位置させ、注入ノズル(図示しない)を注入口5bの逆止弁に当て、この状態で、モルタル8の注入を開始する。
この際、継手5と鉄筋2、3との間は、継手5の両端部に配置されたシール構造6によりシールされており、両者の間からのモルタル8の漏出が防止される。
【0022】
上記モルタル8の注入作業は、排出口5cからのモルタル8の排出を確認することにより終了する。このモルタル8の硬化により鉄筋2,3はモルタル8および継手5を介して連結される。
【0023】
次に、本発明の特徴部をなすシール構造6およびその近傍部について、図2、図3を参照しながら詳細に説明する。
上記継手5の両端部に形成された装着溝5aは、横断面がほぼ矩形をなす主溝部5xと、この主溝部5xから継手5の端面に向かって径が小さくなるテーパ部5yとを有している。
【0024】
各シール構造6は、ゴム(弾性材料)製の環状のシール部材10と、鋼製(金属製)のワイヤ等からなる弾性変形可能なC字形の保持リング20とを備えている。保持リング20はシール部材10と比較すればバネ定数が遥かに高いことは勿論である。
シール部材10は、上記装着溝5aに嵌る環状の基部11と、この基部11と一体をなしその内周から径方向内方向に延びる一対の環状の鍔部12,13とを有している。
【0025】
図3に示すように、上記基部11は上記継手5の装着溝5aに対応した外面形状を有しており、外周部11aと、その両側縁に連なり上記軸芯Lとほぼ直交する両側壁部11b,11cと、継手5の端面に近い方の側壁部11cから端面に向かって径が小さくなるテーパ部11dとを有している。このテーパ部11dの軸芯Lに対する角度は、装着溝5aのテーパ部5yと等しいかこれより大きい。
【0026】
上記基部11は、上記外周部11aと両側壁部11b、11cとで形成された環状の収容凹部11eを有している。収容凹部11eは、径方向内側が開放されている。
【0027】
上記基部11の一方の側壁部11bには上記一方の鍔部12が連なっている。上記基部11の他方の側壁11bにはテーパ部11dを介して他方の鍔部13が連なっている。
上記鍔部12,13は、上記軸芯Lと直交する平膜形状をなしており、上記鍔部12,13の内周縁12a,13aは上記基部11と同心をなし、鉄筋2,3を挿入するための挿入口12x、13xをそれぞれ画成している。これら挿入口12x、13xの径(鍔部12,13の内径)は鉄筋2,3の外径より小さい。
本実施形態では、鍔部13の内径が内側の鍔部12より小さいが、両者が等しくてもよいし、逆であってもよい。
【0028】
上記保持リング20は、180°以上の角度範囲にわたり延びてC字形をなしており、その両端20aは周方向に離間している。
上記保持リング20は、上記シール部材10の基部11の収容凹部11eに収容されており、外周部11aの内側に配置されている。本実施形態において、保持リング20はこの収容状態でほぼ自然状態となっており、基部11の外周部11a,両側壁11b、11c(収容凹部11eの両側面)に接している。
【0029】
上記保持リング20を組み込んだシール部材10を、径方向内方向に力を加えて弾性変形させ、径を縮小させた状態で継手5の端部開口から挿入する。そして、シール部材10の基部11が継手5の収容溝5aに対応した位置で、上記径方向内方向の力を解除する。すると、保持リング20が弾性復帰して自然状態に戻り、これに伴い、シール部材10の基部11が装着溝5aに嵌め込まれる。なお、本実施形態では、保持リング20がシール部材10の薄肉の基部11を介して装着溝5aの主溝部5x内に位置している。
【0030】
前述したように、上記シール構造6を継手5の両端部に装着した状態で、上記鉄筋2,3の端部が継手5に挿入されるが、この挿入工程において、上記シール部材10の鍔部12,13の内周縁12a,13aおよびその近傍部は、弾性変形を伴ない異形鉄筋2、3の外周に密着した状態のまま、鉄筋2,3の外周を軸方向に相対移動する。その際、両者の間の摩擦によりシール部材10には軸方向の力が作用するが、保持リング20が、その径方向外側に位置するシール部材10の基部11の外周部11aの変形を抑えているため、基部11が継手5の装着溝5aから外れるのを防止でき、ひいてはシール部材10の継手5からの脱落を防止できる。
【0031】
上記のように保持リング20によりシール部材10の脱落を防止できるので、シール部材10の鍔部12,13の内径は、鉄筋2,3挿入時の摩擦に起因したシール部材10の脱落防止を考慮せずに決定できる。そのため、鉄筋2,3の外径より十分小さくすることができる。そのため、鍔部12,13の内周縁12a,13aが大きく弾性変形した状態で鉄筋2,3の外周に強く密着でき、モルタル8の注入圧に耐えてモルタル8の漏出を確実に防止することができる。
【0032】
また、前述したように鉄筋2、3を継手5に挿入した後、ボルト7をねじ込むと、鉄筋2,3は継手5の軸心より支持リブ5e側に偏倚するが、シール部材10の鍔部12,13の内径は鉄筋2,3の外径より十分に小さいので、ボルト7側でも隙間なく密着することができる。その結果、モルタル8の注入時に、モルタル8が漏出するのを確実に防止することができる。
【0033】
なお、本実施形態のように鍔部12,13が複数ある場合には、少なくともその一つが、鉄筋2,3と全周にわたって密着すればよい。
【0034】
次に、本発明の他の実施形態について図4(A)〜(C)を参照しながら説明する。これら実施形態において、第1実施形態に対応する構成部には同符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0035】
第1実施形態では、基部11、鍔部12,13にわたりシール部材10全体を薄肉に形成したが、図4(A)に示す第2実施形態では、シール部材10Aの基部11Aが厚肉をなしている。この基部11Aは、第1実施形態の基部11と外面形状が同じであるが、内面形状が異なる。この実施形態の保持リング20Aは、第1実施形態の保持リング20より径が小さく、主溝部5xから径方向内側に外れているが、その一部は装着溝5a内に配置されている。
【0036】
図4(B)に示す第3実施形態は、単一の鍔部13を有している点でのみ、第2実施形態と異なる。
【0037】
図4(C)に示す第4実施形態は、インサート成形等の手段で保持リング20Bがシール部材10Bの基部11Bに埋め込まれている。基部11Bにおいて保持リング20Bの径方向外側に位置する部位が、外周部11aとして提供される。
【0038】
本発明は上記実施形態に制約されず、種々の形態を採用可能である。例えば、保持リングは剛性の高い樹脂製であってもよい。
本発明は、継手の両端部のうち、一方の端部に装着されるシール構造にのみ適用してもよい。
本発明は、一方の鉄筋と継手がネジ結合され、他方の鉄筋と継手がモルタルを介して連結される場合にも適用できる。
シール部材の鍔部は3つ以上であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、モルタル等を用いて鉄筋を連結する装置のシール構造に適用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 連結装置
2,3 鉄筋
5 継手
5a 装着溝
6 シール構造
10,10A,10B シール部材
11,11A,11B 基部
11a 外周部
11e 収容凹部
12,13 鍔部
20,20A,20B 保持リング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋連結用の筒状継手の端部内周と鉄筋の外周との間をシールして、継手内部に充填される充填材の漏出を禁じるシール構造において、
弾性材料からなる環状のシール部材と、C字形をなす弾性変形可能な保持リングとを備え、
上記シール部材は、少なくとも一部が上記継手の端部内周の環状装着溝に嵌め込まれる環状の基部と、この基部から径方向内方向に延びる環状の鍔部とを有し、
上記保持リングは、上記シール部材の基部内に収容されるとともに、当該基部の外周部より内側に配置されていることを特徴とするシール構造。
【請求項2】
上記シール部材の基部は径方向内側が開放した環状の収容凹部を有し、この収容凹部に上記保持リングが収容されていることを特徴とする請求項1に記載のシール構造。
【請求項3】
上記保持リングの少なくとも一部が、上記基部を介して上記装着溝に収容されていることを特徴とする請求項1または2に記載のシール構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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