説明

鉄系材料への塗膜形成方法とその塗膜

【課題】耐食性に優れ、環境汚染の不安がないドライプロセスによる鉄系材料表面の塗装方法を提供すること。
【解決手段】鉄系材料表面に塗膜を形成させる方法であって、亜鉛合金の粒子を該鉄系材料に高速投射して塗装下地処理を施し皮膜を形成させる工程と、前記下地処理を施した鉄系材料に粉体塗料による粉体塗装を施す工程とを備えた鉄系材料への塗膜形成方法、及び前記塗膜形成方法による塗膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛合金皮膜上に粉体塗装を施した鉄系材料に関し、特に産業機械、鉄道車両、荷物車両、乗用車の制動部材などに用いられる鉄系材料に関するものであり、より具体的には前記用途に使用される耐食性に優れた鉄系材料の塗装方法とその塗膜を有する鉄系材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用のディスクブレーキ装置としては、所謂、フローティング・キャリパ式のディスクブレーキ装置が普及している。このタイプのブレーキ装置は、通常、車輪と一体回転する円盤状のロータと、このロータを挟んで対向配置される一対の摩擦パッドと、これらの摩擦パッドをロータに押し付けるためのピストンを内蔵したキャリパボディと、車体側に取り付けられると共に前記キャリパボディをロータの軸方向に摺動可能に支持したサポートとを備えた構成をなしている。そして、前記キャリパボディは、前記ロータの上を跨ぐブリッジ部と、該ブリッジ部の一端側に装備されて前記ピストンを進退可能に収容したシリンダ部と、前記ブリッジ部の他端側に装備されて他方の摩擦パッドの背面を抑えるキャリパ爪とが装備された構成からなる。
【0003】
一方、従来からディスクブレーキ装置のキャリパやサポートには亜鉛メッキ及び六価クロメート処理が施されている。キャリパやサポートには球状黒鉛鋳鉄(FCD450相当材)が使用されるが、図3に示すようにFCD材の表面にZnメッキ及びクロメート(3価クロムまたは6価クロム化合物)処理が施され耐食性が確保されている。
しかし、六価クロムはクロメート処理した皮膜中に残留するため、人体への影響が懸念され、またその処理物が廃棄された後、六価クロムがその皮膜から溶出し、環境に蓄積されることが問題となっている。このような有害物質の使用による環境汚染が問題となり六価クロメート処理が規制され、三価クロメート処理へ移行しつつある。
【0004】
「特許文献1」では、亜鉛メッキ又は亜鉛合金メッキした鋼製のボルトを水洗した後、硝酸溶液あるいは塩酸溶液に浸漬することで酸活性処理を行い、水洗し、三価クロム、モリブデン酸、及びリン酸を含む溶液による一種の化成処理により、従来のクロメート皮膜に匹敵する化成処理皮膜が形成されることが開示されている。
しかし、「特許文献1」に記載された亜鉛メッキ処理は、処理工程毎に大量の水洗水が必要となるので環境面のみならず、廃液処理や設備の設置面積が大きくなるなどの問題をかかえている。そのため、キャリパやサポート等の鉄系材料の新しい表面処理方法として、ドライプロセスの開発が長い間望まれていた。
【特許文献1】特開2000−54157号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したような経緯から、キャリパやサポートのような鉄系材料の耐食性を確保するための表面処理方法として、環境面からドライプロセスによる粉体塗装が有効視されているが、粉体塗装のみの場合、耐食性に難があり、塩水噴霧試験では赤錆が発生するケースが多く、防錆対策としては不十分であった。
従って、本発明の課題は、鉄系材料の表面の塗装を行う前に、塗装下地処理として乾式による亜鉛合金層を設層して鉄系材料の耐食性を向上させることである。又、本発明のもう一つの課題は、製造工程から廃液のような廃棄物を出すことのない、乾式による塗装下地処理工程と塗装工程から成る塗装方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の課題は、下記の手段により解決された。
(1)鉄系材料表面に塗膜を形成させる方法であって、該鉄系材料に亜鉛合金による塗装下地処理を施し皮膜を形成する工程と、前記下地処理を施した鉄系材料に粉体塗料による粉体塗装を施す工程とを備えたことを特徴とする鉄系材料への塗膜形成方法。
(2)前記塗装下地処理は、前記亜鉛合金の粒子を鉄系材料表面に高速投射して皮膜を形成することにより行うことを特徴とする前記(1)記載の鉄系材料への塗膜形成方法。
(3)前記亜鉛合金が、亜鉛−アルミニウム合金、亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金又は亜鉛−アルミニウム−マグネシウムーシリコン合金の少なくとも一種であることを特徴とする前記(1)又は(2)記載の鉄系材料への塗膜形成方法。
【0007】
(4)前記亜鉛合金による前記皮膜の厚みが0.1〜2μmであることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の鉄系材料への塗膜形成方法。
(5)鉄系材料表面に塗装された塗膜であって、該塗膜は、亜鉛−アルミニウム合金、亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金又は亜鉛−アルミニウム−マグネシウムーシリコン合金の少なくとも一種の粒子を前記鉄系材料表面に高速投射して下地処理を施し皮膜を形成させた後、前記下地処理を施した鉄系材料に粉体塗料による粉体塗装を施して形成されたことを特徴とする鉄系材料の塗膜。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、下地層に亜鉛合金層が存在するため、万一塗膜層が破壊された場合、この亜鉛合金層が陽極犠牲作用をして素地の鉄系材料表面を錆から守る効果がある。又、下地層に合金層を被覆させる方法として、亜鉛合金粒子を高速投射することにより素地表面に緻密な亜鉛合金層の形成が可能となり、鉄系材料の耐食性が著しく向上する。
又、塗装下地処理工程と塗膜工程がドライ化され、使用する原材料も工程内で再利用できるため廃液等の処理設備が不要となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を図面も参照しながら詳細に説明する。
本発明に係わる鉄系材料表面の塗膜方法は、鉄系材料表面に亜鉛合金の粒子の高速投射して塗装下地処理を施し皮膜を形成させる工程、及び形成された前記亜鉛合金皮膜の上に塗料を粉体塗装して塗膜を形成させる工程からなる。本発明で使用される鉄系材料としては球状黒鉛鋳鉄(FCD)のような材質を挙げることができる。
本発明では、図1に示すように、粉体塗装で形成される塗膜3の下地処理層として亜鉛合金層2を鉄系材料表面1(素地:FCD450相当材)上に設けることで亜鉛合金層2が陽極犠牲作用をして耐食性が向上する。
しかも、下地処理として形成された亜鉛合金層2は鉄系材料素地1に亜鉛合金粒が高速で投射されるため、FCD表面1にZn合金が拡散浸透しており、素地1との界面に酸化膜がなく耐食性が良好である(図2参照)。本発明において実施される亜鉛合金層の膜厚は、鉄系材料の種類あるいは使用温度にもよるが、好ましくは0.1〜2μmである。
【0010】
次に、本発明で行う高速投射で下地処理を施す亜鉛合金層の塗膜方法について説明する。
本発明では、塗膜層の下地層として亜鉛合金層を有し、前記亜鉛合金層の成分がZn−Al合金、Zn−Al−Mg合金又はZn−Al−Mg−Si合金の塗膜である。合金の組成としては、Zn−Al合金の場合に、Alの含有率が5〜60%、Zn−Al−Mg合金の場合に、Alの含有率が5〜60%、Mgの含有率が0.1〜10%、Zn−Al−Mg合金に、Alの含有率が5〜60%、Mgの含有率が0.1〜10%、Siの含有率が0.1〜5%からなる亜鉛合金である。好ましくは、Alを6〜11%、若しくは50〜55%、Mgを3.0〜5.0%、Siを1.0〜2.0%含有する亜鉛合金を使用することが望ましい。
【0011】
Zn合金を投射するには、適当な形状の粒状物にする必要があるが、本発明では前記亜鉛合金単独の粒子状の投射材としてもよいし、鉄、鉄合金あるいはセラミック粒子等の核の周囲に亜鉛又は亜鉛合金を被覆した投射材として使用する方法もある。核を使用する方法が一般的であって、亜鉛合金の溶湯中に鉄合金粒子あるいはセラミック粒子を添加混合攪拌した後冷却し、粉砕して製造される。
例えば、粒度150〜600μmの鉄合金粒子を容器中の480〜650℃の温度に溶融した溶融亜鉛合金液に投入し、これを約20〜30分間攪拌して鉄合金粒子の周囲に亜鉛合金を合金化させて被着させ、容器から取り出して冷却、解粒、篩別して粒径400〜1500μmの投射材を製造する。
従って、得られた投射材は鉄合金粒子を亜鉛合金が被覆した形状となっているが、使用する核の大きさと形状は使用目的に応じて当業者の裁量で決定することができる。しかし、均一な表面とするには球状の投射材を使用することが好ましい。
【0012】
本発明で採用した亜鉛合金の投射材による塗膜(メッキ)方法は、上記の方法で製造した投射材を被処理物(鉄系材料)の表面に高速投射して皮膜を形成する処理方法で、高速度で粒子が被処理物の表面に衝突し、粒子の表層の一部が被処理物表面層と結合すると同時に粒子の表層部が破断し皮膜が形成される。しかし、投射条件の設定次第で投射材を繰り返し使用することは可能である。
【0013】
通常、高速投射に用いる投射材は平均粒子径が0.6mm〜1.5mmの亜鉛合金製の投射材を使用し、毎秒40m〜75mの速度で噴射ノズルに備えた噴射口から投射すればよい。投射距離は被処理物(鉄系材料)サイズにより適宜設定する。又、投射角度は、広い範囲として約45゜〜90゜、好ましくは60゜〜90゜であり、最もよい結果が得られる角度は約75゜〜90゜である。
【0014】
投射材により亜鉛合金の塗膜層が設けられた被処理物(鉄系材料)は粉体塗装の工程に移される。
粉体塗装には、塗料中に有機溶剤や水等の溶媒を用いず、合成樹脂、顔料を主成分とし、硬化剤、添加剤、フィラーなどを配合し、均一に加熱混練された分散物を冷却後、所定の粒径に微粉砕、分級した粉末の塗料を使用する。
塗装方法は、塗料の供給、搬送、及び塗装の手段として加圧空気を利用し、靜電粉体塗装法及び流動浸漬法を中心とした塗装が行われ、しかも、上記したように塗装工程で有機溶剤や水等の溶媒をいっさい使用しないので、廃液処理装置を設置しなくてもよい。又、使用した粉体塗料は回収して繰り返し使えるので、固形廃棄物も発生せず、大気を汚染することはない。以下に詳しく説明する。
【0015】
粉体塗装は、静電塗装法と流動浸漬法がある。静電塗装法における粉体塗料による静電塗装法の原理は、高圧静電発生機で得られる直流高電圧により粉体粒子を帯電させ、静電引力によりアースされた被塗物に付着させる。被塗物に塗着した塗料は焼付炉で加熟され溶融、硬化して連続被膜が形成される。オーバースプレーされた粉体塗料は回収し、再利用する。粉体塗料による静電塗装法には大別して2種類がある。
【0016】
a.静電吹付法
粉体塗料は、塗料供給槽より空気によってスプレーガンに送られる。また高圧静電発生機により得られた高電圧(通常−40KV〜−90KV)により、粉体塗料は、例えば、負の荷電を帯びる。一方被塗物はアースされており、ガン先端より吐出された粉体塗料は静電引力によって被塗物表面に付着する。この際、負に帯電した粉体粒子は電位の高い部分に強く働いて被塗物上に付着し粉体粒子が厚く付着するにつれて塗膜に負の電荷が堆積し、一定以上の厚さになると静電反発を生じて付着しづらくなる。被塗物に直進しない粉体塗料は一部が裏側に廻り込んで付着する。これらの現象によりある程度の厚さで均一な塗膜が得られると共に膜厚の限界も生ずる。また、摩擦帯電の原理を応用した摩擦帯電方式スプレー塗装は、高圧発生機が不要なことや付き廻り性や入り込み性が良く、静電反発が発生し難いことなどに利点のある塗装方法である。
【0017】
b.静電浸漬法
粉体塗料を充填する浸漬槽の底板は多孔板から出来ており、一定の間隔で電極が配置されている。槽内の粉体塗料は多孔質の底板より吹き上げられる空気によって流動状態となり、一方、高圧静電発生機より−40KV〜−90KVの高電圧が電極に印加され、イオン化された空気中に浮遊する粉体粒子は負に帯電して槽内を上部に舞い上り、アースされた被塗物に付着する。被塗物に付着しない粒子は重力で落下して再び帯電粒子となって上昇し、被塗物へ再付着するための運動をくりかえす。
【0018】
流動浸漬法は、底部に多孔質の板を置いた流動槽内で粉体をエアー流動させ、浮遊する粉体中に予熱された被塗物を浸漬し、被塗物表面に付着した粉体を熟溶融させることで連続した被膜を形成させる方法である。
この方法は、特別な機器を必要としないので設備費用が比較的安価であり、塗料損失が殆どなくまた250μm〜1000μmの高膜厚やエッジカバー性に優れた塗膜が容易に得られるが、被塗物の大きさと形状が制約され、被塗物の予熱(250〜300℃)が必須条件となる。
【0019】
本発明で使用される粉体塗料組成物は、粒子の平均粒径が15〜35μmであり、かつ50μm以上の粒径の粒子が30質量%以下であるものが好ましく用いられる。さらに好ましくは、100μm以上の粒径の粒子が5質量%以下であり、一方、5μm以下の粒径の粒子が15質量%以下である。このように、平均粒径が小さくかつ粒径を均一にすることにより、塗膜厚さが薄く、スコーチ処理性が優れたものになる。
【0020】
粉体塗料に用いられる粉体塗料用樹脂としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂があるが、本発明では、熱硬化性エポキシ樹脂あるいは熱硬化性エポキシ樹脂−ポリエステル樹脂を主成分とする粉体塗料が好ましい。
本発明の粉体塗料に用いられるポリエステル樹脂(A)は、−C(O)O−のエステル結合を有する樹脂であり、一般に、アルコール基(−ROH基)を持つ化合物と、カルボキシル基(−COOH基)を持つ化合物の脱水縮合反応によって生成される。
熱硬化性エポキシ樹脂/ポリエステル樹脂を使用する場合のポリエステル樹脂の配合量は、組成物全量基準で、10〜90質量%、好ましくは20〜50質量%である。
【0021】
通常、ポリエステル樹脂としては、例えば、エチレングリコール、プロパンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコールと、マレイン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバチン酸、β−オキシプロピオン酸等のカルボン酸とを常法に従って重合させたものである。
本発明においては、ポリエステル樹脂は、一般に、粉体塗料用の樹脂として、用いられているものであれば、特に限定されないが、平均分子量は、好ましくは500〜100,000、更に好ましくは2,000〜80,000である。OH価は、0〜300mgKOH/g、好ましくは30〜120mgKOH/gのものが、また、酸価は、0〜200mgKOH/g、好ましくは10〜100mgKOH/gのものが好適である。融点は、好ましくは50〜200℃、更に好ましくは80〜150℃である。
具体的には、ダイセルUCB社製の「クリルコート341、7620、7630」、大日本インキ社製の「ファインディックM−8010、8020、8024、8710」、日本コピカ社製の「コピカコートGV110、230」、日本エステル社製の「ER6570」、ヒュルス社製の「VESTAGON EP−P100」などが挙げられる。
【0022】
エポキシ樹脂の具体例としては、グリシジルエステル樹脂;ビスフェノールAとエピクロロヒドリンとの縮合反応物や、ビスフェノールFとエピクロロヒドリンとの縮合反応物等のグリシジルエーテル型樹脂;脂環式エポキシ樹脂;脂肪族エポキシ樹脂;含ブロムエポキシ樹脂;フェノール−ノボラック型又はクレゾール−ノボラック型のエポキシ樹脂などが挙げられ、好ましくはビスフェノールAとエピクロロヒドリンとの縮合反応物、又はビスフェノールFとエピクロロヒドリンとの縮合反応物等のグリシジルエーテル型樹脂である。
【0023】
具体的には、東都化成社製の「エポトート YD903N、YD128、YD14、PN639、CN701、NT114、ST−5080、ST−5100、ST−4100D」、ダイセル化学社製の「EITPA3150」、チバ・ガイギー社製の「アルダイトCY179、PT810、PT910、GY6084」、ナガセ化成社製の「テコナールEX711」、大日本インキ社製の「エピクロン 4055RP、N680、HP4032、N−695、HP7200H」、油化シェルエポキシ社製の「エピコート1001、1002、1003、1004、1007」、ダウ・ケミカル社製の「DER662」、日本化薬社製の「EPPN201、202、EOCN1020、102S」などが挙げられる。
【0024】
また、本発明の粉体塗料に用いられる硬化剤としては、ブロックドイソシアネート系、トリグリシジルイソシアヌレート(TGIC)系、エポキシ系(ポリエポキシド、エポキシ樹脂)のものなどが挙げられる。特に好ましくは、ブロックドイソシアネート系のものである。
ブロックドイソシアネート(ブロック化イソシアネート)系の硬化剤は、ウレタン結合(−NHCO−)を主体とする化合物で構成されている。本発明で用いられるブロック化(ポリ)イソシアネートは、(ポリ)イソシアネート化合物のイソシアネート基をブロック剤でブロックした、軟化点が20〜100℃、好ましくは25〜80℃の範囲のものであり、NCOの割合(%)は、5〜30%程度が好ましい。
【0025】
本発明の塗料組成物に、適宜配合される顔料又は体質顔料として、酸化チタン、ベンガラ、酸化鉄、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、キナクリドン系顔料、アゾ系顔料等の着色顔料や、タルク、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、沈降性硫酸バリウム等の体質顔料、或いは、クロム系顔料、リン酸塩系顔料、モリブデン系顔料等の防錆顔料などが挙げられる。
また、所望により、適宜配合されるレベリング剤(表面調整剤)としては、ジメチルシリコーンやメチルシリコーンなどのシリコーン類、アクリルオリゴマー等があり、具体的には、東芝シリコーン社製の「CF−1056」、モンサント化成社製の「モダフロー」、BASF社製の「アクロナール4F」、BYKchemie社製の「BYK−360P」、楠本化成社製の「チィスパロンPL540」などが挙げられる。
【実施例】
【0026】
以下、具体例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲はそれらに限定されるものではない。
【0027】
実施例1〜3
塗装下地処理のために使用した投射材の合金の組成(質量換算)は下記の通りである。
実施例1:Zn(87%)−Al(13%)
実施例2:Zn(85%)−Al(12.5%)−Mg(2.5%)
実施例3:Zn(42%)−Al(55%)−Mg(3.0%)
実施例4:Zn(87%)−Al(12.0%)−Mg(0.8%)−Si(0.2%)
塗装の下地処理は下記条件で一回投射を行い、球状黒鉛鋳鉄(FCD450相当)の試験片表面に形成された亜鉛合金塗膜量を測定した。その結果は第1表に示した。
装置: エヤーブラスト 圧力0.7MPa 、ノズル径:5mm
投射量: 3000g
投射距離: 150mm(ノズル先端より試験片表面までの距離)
試験片: 球状黒鉛鋳鉄 50mm×60mm×15mm
塗膜量の測定方法: アルカリ剥離法による。下記方法により塗膜質量を測定した。
投射後の試験片の質量を測定し、その質量を、Jとする。
試験片を80℃、20%NaOH溶液に浸漬、亜鉛の溶解終了後取出し水洗、乾燥した後質量を測定し、その質量をJとする。次いで、試験片の表面積を測定し、その表面積をAとする。
以上より塗膜量は次式より算出する。
塗膜量(g/m)=(J−J)/A
【0028】
上記の塗装下地処理を施した試験片の被塗面に粉体静電塗布(トリボ帯電方式)にて、カーボンブラック(平均200nm)20質量%配合、NBR40質量%で変性したエポキシ系粉体塗料を15〜20μm塗布した後、ポリ四フッ化エチレン(平均5μm)を15質量%配合したエポキシ/ポリエステル系粉体塗料を同じく粉体静電塗布(トリボ帯電方式)にて15〜20μm塗布し、180℃×30分の焼付けを行ない、評価サンプルを作成した。
【0029】
比較例1
実施例で使用した球状黒鉛鋳鉄試験片に厚み0.5μmに亜鉛メッキした後、クロメート処理を施して比較用サンプルとした。
【0030】
次に、実施例及び比較例サンプルの塩水噴霧試験を下記条件で行った。結果を第1表に示す。
[塩水噴霧試験]
・試験方法
塗装面にクロスカットを入れ塩水噴霧試験をJIS Z−2371に準じて実施した。実施例1〜4においては、クロスカット部に白錆が発生したが、赤錆の発生はなく、良好の結果であった。また、剥離試験においては、72時間後、セロハンテープをクロスカット部に密着させ、10分後セロハンテープを剥離し、下記評価基準にて評価した。試験結果を第1表に示す。
・試験結果の判定基準
クロスカット部より片側2mm以内の剥れ:○
クロスカット部より片側5mm以内の剥れ:△
クロスカット部より片側5mm以上の剥れ:×
【0031】
【表1】

【0032】
試験結果から分かるように、本発明の塗装下地処理を施した実施例のサンプルは比較例のそれより耐食性で優れた結果を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の塗装方法は密閉された工程で実施できるので環境を汚染する心配がなく、環境保全対策上の設備投資の負担が解消されるので自動車、鉄道車両、産業機械などのディスクブレーキ用キャリパやサポート等の鉄系材料の表面塗装工程に従来の設備に代えて導入される可能性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る塗装下地処理層(亜鉛合金層)と粉体塗装した塗膜が設層されたときの層構成を示す断面図である。
【図2】図1において、塗装下地処理層(亜鉛合金層)から鉄系材料表面に亜鉛合金が拡散浸透していることを示す断面図である。
【図3】鉄系材料に従来法による亜鉛メッキを施したときの層構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0035】
1 素地(球状黒鉛鋳鉄)
2 亜鉛合金層
3 塗膜
4 亜鉛メッキ
5 3価又は6価クロメート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄系材料表面に塗膜を形成させる方法であって、該鉄系材料に亜鉛合金による塗装下地処理を施し皮膜を形成する工程と、前記下地処理を施した鉄系材料に粉体塗料による粉体塗装を施す工程とを備えたことを特徴とする鉄系材料への塗膜形成方法。
【請求項2】
前記塗装下地処理は、前記亜鉛合金の粒子を鉄系材料表面に高速投射して皮膜を形成することにより行うことを特徴とする請求項1記載の鉄系材料への塗膜形成方法。
【請求項3】
前記亜鉛合金が、亜鉛−アルミニウム合金、亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金又は亜鉛−アルミニウム−マグネシウムーシリコン合金の少なくとも一種であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の鉄系材料への塗膜形成方法。
【請求項4】
前記亜鉛合金による前記皮膜の厚みが0.1〜2μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の鉄系材料への塗膜形成方法。
【請求項5】
鉄系材料表面に塗装された塗膜であって、該塗膜は、亜鉛−アルミニウム合金、亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金又は亜鉛−アルミニウム−マグネシウムーシリコン合金の少なくとも一種の粒子を前記鉄系材料表面に高速投射して下地処理を施し皮膜を形成させた後、前記下地処理を施した鉄系材料に粉体塗料による粉体塗装を施して形成されたことを特徴とする鉄系材料の塗膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−43897(P2008−43897A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−223330(P2006−223330)
【出願日】平成18年8月18日(2006.8.18)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】