説明

鉄道車両用ディスクブレーキ装置

【課題】 装置自体のコンパクト性の維持ないし向上と、ブレーキ性能の増大を高いレベルで両立し得る鉄道車両用ディスクブレーキ装置を提供する。
【解決手段】 2つのキャリパレバー6・6と、可動ロッド15を備えるアクチュエータ14と、を備える。また、2つのキャリパレバー6・6の間隔を拡大又は縮小する方向に可動ロッド15の動作を変換するとともに、その力を増加する増力変換機構を備える。増力変換機構は、キャリパレバー6・6に枢結された2本の伝達軸29と、2本の伝達軸29の内端側において伝達軸29に支持されたローラ30と、2本の伝達軸29の間の位置に配置されローラ30に接触する傾斜面を備えたクサビ体31と、を備えたクサビ機構を含んで構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両に用いられるディスクブレーキ装置の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のディスクブレーキ装置としては、例えば、特許文献1に開示されるものがある。この特許文献1のディスクブレーキ装置は、2つのブレーキテコ(キャリパレバー)の端部に設けたシリンダを作動させることにより、ブレーキテコの中間部に設けられたテコピンを支点として、ブレーキテコの他方の端部に設けたライニング(ブレーキパッド)を両側から挟圧してブレーキを作用させるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−201672号公報(第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなディスクブレーキ装置においては、近年、鉄道車両の高速化、制動距離の短縮等の観点から、益々強い制動力の付与とコンパクト化が求められている。
【0005】
この点、上記特許文献1の構成において大きなブレーキ力を実現するためには、上記のシリンダを大きくして推力を増大させるか、ブレーキテコのテコ比を増加させる必要がある。しかしながら、大型のシリンダを採用するにせよ、ブレーキテコのテコ比を増大させるにせよ、ブレーキ装置自体の大型化が避けられず、鉄道台車の狭い空間に設置し得るコンパクト性が失われてしまう。特に車軸にモータが設けられている動力車においては、設置スペースの制限が厳しいため従来の構成では対応できない。
【0006】
本発明は上記の点に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、装置自体のコンパクト性の維持ないし向上と、ブレーキ性能の増大を高いレベルで両立し得る鉄道車両用ディスクブレーキ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0008】
◆本発明の観点によれば、以下のように構成する、鉄道車両用ディスクブレーキ装置が提供される。ディスクを挟圧するブレーキパッドがそれぞれ取り付けられた2つのキャリパレバーと、進出方向又は退避方向の少なくとも何れか一方へ駆動される可動ロッドを備えるアクチュエータと、前記2つのキャリパレバーの間隔を拡大又は縮小する方向に前記可動ロッドの動作を変換するとともに、その力を増加する増力変換機構と、を備える。なお、本明細書で「増力」とは、小さい力を与えて大きな力を得ることをいう。
【0009】
これにより、アクチュエータの可動ロッドの軸線方向の進出動作を、増力変換機構によって増力し、キャリパレバーを、その間隔を拡大又は縮小する方向に強力に駆動することができる。この結果、キャリパレバーの部分に構成されるテコ機構のテコ比を増加させることなく、また、高出力の大型アクチュエータを用いることなく、大きな制動力を得ることができる。また、可動ロッドの動作方向を増力変換機構によって変換させた上でキャリパレバーへ伝達できるので、アクチュエータの配設位置及び配設向きの自由度を向上でき、コンパクトで制動性能に優れるディスクブレーキ装置を提供することができる。
【0010】
◆前記の鉄道車両用ディスクブレーキ装置においては、前記増力変換機構は、前記キャリパレバーの間隔を拡大又は縮小する方向に押動又は張引される伝動軸を含んで構成されていることが好ましい。
【0011】
これにより、簡素な構成のディスクブレーキ装置を提供することができる。
【0012】
◆前記の鉄道車両用ディスクブレーキ装置においては、前記増力変換機構はネジ機構、クサビ機構、又はカム機構を含んで構成されていることが好ましい。
【0013】
これにより、ディスクブレーキ装置を簡素な構成とすることができ、製造コストを低減することができる。
【0014】
◆前記の鉄道車両用ディスクブレーキ装置においては、前記アクチュエータは、前記2つのキャリパレバーに挟まれた位置に配置されていることが好ましい。
【0015】
これにより、ディスクブレーキ装置のコンパクト性を一層向上でき、鉄道台車に各種装置が多数取り付けられる鉄道車両においても、それらの装置と干渉させずに容易に配置することができる。
【0016】
◆前記の鉄道車両用ディスクブレーキ装置においては、前記アクチュエータは水平に対して傾斜するように配置されていることが好ましい。
【0017】
これにより、コンパクトなスペースにアクチュエータを設置できるので、ディスクブレーキ装置の更なるコンパクト化に寄与できる。また、可動ロッドの斜め方向の動作を、増力変換機構によって適切にキャリパレバーの動作に変換することができる。
【0018】
◆前記の鉄道車両用ディスクブレーキ装置においては、前記アクチュエータ又は前記増力変換機構に隙間調整機構が設けられていることが好ましい。
【0019】
これにより、ブレーキパッド部分の隙間を自動調整できる高機能なディスクブレーキ装置のコンパクトな構成を提供できる。
【0020】
◆前記の鉄道車両用ディスクブレーキ装置においては、前記アクチュエータは空圧式のアクチュエータに構成されていることが好ましい。
【0021】
即ち、油圧を使ったアクチュエータでは、ブレーキの摩擦熱により油内に発生した気泡がブレーキ力に悪影響を与えるため、熱源であるブレーキパッドからアクチュエータを十分に離す必要があり、ディスクブレーキ装置の小型化に限界がある。一方、空圧式のアクチュエータに構成されていれば、ブレーキの摩擦熱による悪影響はなく、更なるコンパクト化に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態に係るディスクブレーキ装置の全体側面図。
【図2】キャリパレバーの駆動伝達構成を示す要部平面図。
【図3】キャリパレバーの駆動伝達構成及び隙間調整機構を示す、側面側からみた一部断面拡大図。
【図4】カム板の形状を示す、図3における矢視A方向から見た図。
【図5】第2実施形態のディスクブレーキ装置において、キャリパレバーの駆動伝達構成を示す要部平面図。
【図6】第3実施形態のディスクブレーキ装置において、キャリパレバーの駆動伝達構成を示す要部平面図。
【図7】第3実施形態において、ブレーキチャンバに設けられた隙間調整機構を示す平面断面拡大図。
【図8】第4実施形態のディスクブレーキ装置において、キャリパレバーの駆動伝達構成を示す要部平面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、発明の実施の形態を説明する。図1は本発明の第1実施形態に係るディスクブレーキ装置の全体側面図、図2はキャリパレバーの駆動伝達構成を示す要部平面図である。図3は、キャリパレバーの駆動伝達構成及び隙間調整機構を示す、側面側からみた一部断面拡大図である。図4は、隙間調整のためのカム板の形状を示す、図3における矢視A方向から見た図である。
【0024】
〔第1実施形態〕
図1には第1実施形態のディスクブレーキ装置1の全体側面図が示され、このディスクブレーキ装置1は、図略の鉄道台車に固定されるブラケット2の下部に枢支ピン3を水平に支持するとともに、この枢支ピン3まわりに基体4を左右揺動可能に吊設している。図2の要部平面図に示されるように、前記基体4には左右一対の支点ピン5・5が垂直に支持されるとともに、この支点ピン5・5まわりに揺動旋回可能となるように、キャリパレバー6・6がそれぞれ支持されている。
【0025】
図1に示すように、一対のキャリパレバー6・6のそれぞれは、中途部を基体4に支持されるとともに、その一端にブレーキパッドを取り付けるためのブレーキヘッド7を備えている。なお、図1に示すように、この中途部はキャリパレバー6・6の中間部より、ブレーキヘッド7からやや離れた位置に配置されているが、中間部であっても良い。これらブレーキヘッド7・7は、鉄道台車に軸支される車輪(ディスク)Dを両側から挟圧可能に構成されている。
【0026】
それぞれのブレーキヘッド7は、キャリパレバー6の一端に取り付けられた旋回軸8まわりに旋回可能とされる。また、一対のブレーキヘッド7・7の下部同士は、リンク部材等からなる平行保持機構9を介して連結されており、基体4やそれに支持されるキャリパレバー6・6が左右に揺れたとしても、ブレーキヘッド7・7同士の平行度を保つように、またブレーキ作動時に車輪(ディスク)Dに対してブレーキヘッド7・7が同じように押圧するように構成されている。
【0027】
また、前記一対のキャリパレバー6・6は、そのブレーキヘッド7と反対側の端部同士が、伸縮軸10を介して連結されている。この伸縮軸10は図2等に示すように、適宜の長さの回転入力軸11と、この回転入力軸11の両端にそれぞれ設けたネジ孔12・12に螺合されるネジ体(伝動軸)13・13と、を備えている。このネジ体13・13は回転入力軸11と同心して配置されている。言い換えれば、このネジ体13・13は、キャリパレバー6の間隔を拡大又は縮小させる方向(車輪Dの軸線方向、キャリパレバー6・6同士やブレーキヘッド7・7同士が対向する方向、支点ピン5・5と垂直な方向)に、その長手方向を沿わせる向きに配置されている。また、ネジ体13・13の端部は、前記キャリパレバー6・6の端部に枢結されている。
【0028】
回転入力軸11の両端に開口されるネジ孔12・12は互いに逆ネジとなるように構成されており、それに螺合されるネジ体13・13も同様である。この結果、回転入力軸11を回転させると、ネジ体13・13が回転入力軸11に対して螺進/螺退し、伸縮軸10の伸縮動作によってキャリパレバー6・6を支点ピン5・5まわりに旋回させることができる。このようにネジ機構による増力変換機構であるため、高倍率の増力変換機構をコンパクトに構成することができ、装置全体のコンパクト化に寄与できる。なお、前記回転入力軸11の長手方向中央部の外周面には、スプラインが刻設される。
【0029】
図1に示すように、前記基体4は下方が蓋で閉じられている中空形状となっており、この内部空間であって、回転入力軸11と支持ピン5・5の間の空間には、アクチュエータとしてのブレーキチャンバ14が設置される。ブレーキチャンバ14は空圧式のアクチュエータとされており、斜め下方に進退可能な可動ロッド15を備えている。ブレーキチャンバ14は、その軸線を水平から傾斜させた状態で、基体4に固定されている。
【0030】
図1や図3等に示すように、前記伸縮軸10の回転入力軸11には、前記ブレーキチャンバ14の作動を当該回転入力軸11に伝達するための回転伝達アーム16が支持されている。この回転伝達アーム16の先端には前記可動ロッド15の先端が枢結されている。図3に示すように、回転伝達アーム16の基部は中空状に構成されており、その内部には、回転自在に軸支されたウォームギア17と、このウォームギア17に噛合するようにその外周の一部に歯を形成した隙間調整ギア18が配置されている。この隙間調整ギア18の軸孔の内周面にはスプラインが刻設されているとともに、当該隙間調整ギア18が、前記回転入力軸11の外周面に刻設したスプラインに対し、軸方向に摺動自在かつ相対回転不能に連結されている。
【0031】
また、前記ウォームギア17のギア軸は、回転伝達アーム16の基部の内部空間から外部へ突出しており、この突出部分にはカム板19が固着されている。図3の矢視A方向から見た図としての図4に示すように、このカム板19の外縁には欠切部20が形成されている。この欠切部20には、基体4に固設された隙間調整棒21の一端が挿通されている。
【0032】
以上の構成で、前記ブレーキチャンバ14に圧縮空気を供給すると、図3の矢印で示すように、進出方向に駆動される可動ロッド15が回転伝達アーム16のアーム部を押動するので、回転伝達アーム16の基部に配置された隙間調整ギア18が(ウォームギア17に係合した状態を維持しつつ)回転伝達アーム16と一体的に回転し、この隙間調整ギア18に係合している回転入力軸11が回転する結果、図2の矢印で示すように伸縮軸10が伸張することとなる。
【0033】
換言すれば、可動ロッド15の進出動作は、回転伝達アーム16によって回転入力軸11の回転動作に変換され、更に、前記ネジ孔12とネジ体13とで構成されるネジ機構によって、回転入力軸11の回転動作がネジ体13・13の外方への押出し動作に変換される。こうして、キャリパレバー6・6は、ネジ体13に連結されている部分同士の間隔を増大させるように図2の矢印で示す向きに対称的に旋回駆動され、ブレーキヘッド7・7に取り付けられたブレーキパッドが車輪Dに接触して適宜の制動力を発生させる。
【0034】
なお、前記キャリパレバー6においては、ネジ体13への連結部分を力点、支点ピン5の部分を支点、ブレーキヘッド7への連結部分を作用点とするテコ機構が構成されており、ネジ機構による増力変換機構とテコ作用を利用して強い制動を車輪Dへ付与できるようになっている。
【0035】
一方、使用に伴って前記ブレーキパッドが摩耗すると、ブレーキ作動時の可動ロッド15のストロークが大きくなり、また、回転伝達アーム16の回転ストロークも徐々に大きくなる。この点、本実施形態では、回転伝達アーム16の回転ストロークが所定の値を上回ると、そのストローク端部において前記隙間調整棒21が、前記カム板19(図4)の欠切部20の端部に接触して押動するので、前記ウォームギア17がカム板19とともに回転し、前記隙間調整ギア18が回転伝達アーム16に対して回転することとなる。この結果、ブレーキパッドの摩耗に伴う隙間調整が自動的に行われ、ブレーキ作動前の車輪(ディスク)Dとブレーキパッドとの間の隙間量が良好となるように常に維持される。隙間量がほぼ一定に保たれる結果、ブレーキ作動時間をほぼ一定に保つことが自動的に行えるようになるとともに、このように構成することで、自動隙間調整に係る機構をコンパクトにでき、装置全体のコンパクト化に寄与できる。
【0036】
以上に示すように第1実施形態のディスクブレーキ装置1は、ディスクとしての車輪Dを挟圧するブレーキパッドが取り付けられたブレーキヘッド7・7がそれぞれ取り付けられた2つのキャリパレバー6・6と、進出方向へ駆動される可動ロッド15を備えるブレーキチャンバ14と、前記2つのキャリパレバー6・6の間隔を拡大する方向に前記可動ロッド15の動作を変換するとともに、その力を増加する増力変換機構と、を備える。
【0037】
即ち、本実施形態では、回転伝達アーム16と伸縮軸10の組み合わせにより、可動ロッド15の進出動作が伸縮軸10の伸張動作(言い換えれば、ネジ体13・13の外側への押出し動作)に変換され、これによりキャリパレバー6・6は、その伸縮軸10への連結部分同士の間隔を拡大させるように駆動され、ブレーキパッドの制動を行うようにしている。しかも、ブレーキチャンバ14が発生させる動作力は、前記回転伝達アーム16や、伸縮軸10の部分に構成されているネジ機構によって増力された上で、キャリパレバー6・6に伝達されるように構成されている。
【0038】
従って、前記キャリパレバー6・6の端部(伸縮軸10に連結されている端部)を増力後の力で強力に旋回駆動できるので、キャリパレバー6の部分に構成されるテコ機構のテコ比を増加させることなく、また、大型のブレーキチャンバ14を用いることなく、大きな制動力を得ることができる。また、可動ロッド15の動作方向を増力変換機構によって変換した上でキャリパレバー6へ伝達できるので、ブレーキチャンバ14の配設位置及び配設向きの自由度が向上する。従って、従来と同等の制動性能をコンパクトなブレーキチャンバ14で実現することができる。言い換えれば、コンパクトで制動性能に優れるディスクブレーキ装置1を提供することができる。
【0039】
また、本実施形態では、前記伸縮軸10は、キャリパレバー6・6の間隔を拡大する方向に押動されるネジ体13・13を含んで構成されるとともに、上記のネジ機構によって増力及び動作の変換を行うように構成されている。従って、簡素なディスクブレーキ装置1の構成を実現できる。
【0040】
また、本実施形態においては図1に示すように、前記ブレーキチャンバ14は、前記2つのキャリパレバー6・6に挟まれた位置(キャリパレバー6・6の間の位置)に配置されている。従って、ディスクブレーキ装置1のコンパクト性が一層向上するので、車輪Dの周囲に各種装置が多数取り付けられる鉄道車両に好適である。
【0041】
また、本実施形態では、ブレーキチャンバ14は水平に対して傾斜するように配置されている。これにより、コンパクトなスペースにブレーキチャンバ14を設置できるので、ディスクブレーキ装置1の更なるコンパクト化に寄与できる。また、可動ロッド15の斜め方向の動作も、回転伝達アーム16や伸縮軸10によって適切にキャリパレバー6の旋回動作に変換することができる。
【0042】
また、本実施形態のディスクブレーキ装置1では、前記増力変換機構を構成する部材である回転伝達アーム16に、カム板19、欠切部20、ウォームギア17、隙間調整ギア18等からなる隙間調整機構が設けられている。従って、ディスク(車輪)Dとブレーキパッドとの隙間を自動調整できる高機能なディスクブレーキ装置1のコンパクトな構成を提供できる。
【0043】
〔第2実施形態〕
第2実施形態のディスクブレーキ装置1は、図5に示すとおり、伸縮軸10’を片ネジ式に構成したものである。なお、この第2実施形態では、第1実施形態と同じ構成部材については、同じ符号を付して説明を省略する。これは後述の第3実施形態以降でも同様である。
【0044】
図5に示すように、本実施形態の伸縮軸10’では、回転入力軸11’の一端のみに前述と同じくネジ孔12を形成してネジ体(伝動軸)13を螺合する一方、回転入力軸11’の他端には軸孔25を凹設して、この軸孔25に支軸(伝動軸)22が相対回転自在に連結される。この支軸22は、前記軸孔25に対し回転自在に嵌合される軸部24と、前記回転入力軸11’の端面に当接する鍔部23と、を一体的に備えている。
【0045】
前記支軸22は、その回転入力軸11’と連結される側と反対側の端部を、一側のキャリパレバー6に対し枢結している。回転入力軸11’に螺合される前記ネジ体13の頭部は、前記第1実施形態と同様に、他側のキャリパレバー6に枢結している。
【0046】
また、本実施形態の増力変換機構の伸縮軸10’は片ネジ式であるため、ネジのあるほうのキャリパレバー6がより揺動しやすく、その結果、両キャリパレバー6・6が同じように揺動せず、両方のブレーキパッドが同じようにディスク(車輪)Dに押圧するタイミングがずれてしまう可能性がある。これを防止するため、両キャリパレバー6・6の間には、キャリパレバー6・6の間の間隔を縮小させるように付勢する付勢バネ26が介設されている。他の構成は、前述した第1実施形態と同様である。
【0047】
この第2実施形態の構成でも、ブレーキチャンバ14の作動により回転伝達アーム16を介して回転入力軸11’が回転され、これによりネジ体13が螺進することで、ネジ体13及び支軸22がキャリパレバー6・6の間隔を拡大させる方向に押動され、キャリパレバー6先端のブレーキヘッド7に取り付けられたブレーキパッドにより車輪Dに制動力を付与することができる。
【0048】
〔第3実施形態〕
図6に示す第3実施形態のディスクブレーキ装置1では、第1実施形態の伸縮軸10や回転伝達アーム16を設ける代わりに、増力変換機構としてクサビ機構27が設けられている。このクサビ機構27について以下詳細に説明すると、前記基体4には中空状のハウジング28が固定されており、このハウジング28の両側壁に伝達軸(伝動軸)29・29がそれぞれ軸方向に摺動自在となるように支持されている。2本の伝達軸29・29は互いに突き合うように同軸上に配置され、その外端側はそれぞれのキャリパレバー6の端部に枢結される一方、内端側にはローラ30を支持している。
【0049】
また、このハウジング28にはブレーキチャンバ14’のチャンバ部32が固定されており、その可動ロッド15はハウジング28内部に突出されて、その先端にブロック状のクサビ体31が取り付けられている。このクサビ体31は、前記2本の伝達軸29・29の間の位置に配置されるとともに、前記ローラ30・30に接触する傾斜面を備えている。なお、本実施形態ではブレーキチャンバ14’は水平に配置されている。
【0050】
本実施形態ではブレーキチャンバ14’は隙間調整機構を内蔵したものに構成されており、その詳細な構成を図7を参照して説明すると、ブレーキチャンバ14’のチャンバ部32には前記可動ロッド15が軸方向摺動自在かつ回転自在に支持されるとともに、この可動ロッド15の端部にはフランジ33が形成されている。このフランジ33とチャンバ部32内壁との間には可撓性のダイアフラム34が介在され、このダイアフラム34によって、チャンバ部32の内部空間は2つの空間に区画される。また、前記ダイアフラム34と反対側においては、フランジ33とチャンバ部32内壁との間に戻しバネ35が介設されている。
【0051】
また、前記チャンバ部32の内部にはレバー36が枢支されており、このレバー36は動作杆37及び爪部38を備えている。更に、レバー36の通常時の姿勢を規定する付勢バネ39が設置されている。
【0052】
また、前記可動ロッド15の軸部の外周面には図示しないスプラインが形成されており、このスプラインを介して、歯車40が可動ロッド15に対して相対回転不能かつ軸方向摺動自在に設けられる。そして、この歯車40の外周に形成される歯部に対して、前記レバー36が備える爪部38が係脱可能になっている。
【0053】
更に、前記可動ロッド15の先端部にはネジ孔41が形成されるとともに、このネジ孔41にネジ棒42が螺合される。そして、このネジ棒42の先端に前記クサビ体31が固着されている。
【0054】
以上の構成で、通常時においては、ブレーキチャンバ14’のチャンバ部32に圧縮空気を供給すると、ダイアフラム34が戻しバネ35に抗してフランジ33を介して可動ロッド15を先端側に押動するので、クサビ体31がローラ30・30の間に食い込むように移動して伝達軸29・29を外側へ押し出し、キャリパレバー6・6の間隔が拡大する。この結果、ブレーキヘッド7・7に取り付けられたブレーキパッドが車輪Dを挟圧し、適宜の制動力が付与される。なお、チャンバ部32から圧縮空気を排出すると、可動ロッド15は戻しバネ35によって戻され、キャリパレバー6・6は付勢バネ26(図6)によって制動解除位置まで戻される。
【0055】
一方、ブレーキパッドが摩耗し、可動ロッド15のストロークが所定の値を上回ると、可動ロッド15の進出ストローク端部において、歯車40(図7)の歯部にレバー36の有する爪部38が係合するとともに、そのレバー36は、動作杆37が前記フランジ33によって押動されることで、付勢バネ39に抗して傾動する。すると、レバー36の爪部38が歯車40の歯部を押すために歯車40は回転し、これにスプライン係合する可動ロッド15も一体的に回転するので、この可動ロッド15に螺合しているネジ棒42が先端側へ螺進することになる。チャンバ部32から圧縮空気が排出され、可動ロッド15が戻しバネ35によって戻されると、爪部38と歯車40との係合が解除されるとともに、レバー36は付勢バネ39によって元の姿勢に戻る。この結果、ブレーキヘッド7・7に取り付けられたブレーキパッドの摩耗に伴う隙間調整が自動的に行われ、ブレーキ作動前の車輪Dとブレーキヘッド7・7に取り付けられたブレーキパッドとの間の隙間量が良好となるように常に維持される。
【0056】
以上に示すように、本実施形態のディスクブレーキ装置1は、クサビ体31やローラ30・30や伝達軸29・29を備えてなるクサビ機構27により、可動ロッド15の進出動作を伝達軸29・29の外側への対称的な押出し動作に変換し、キャリパレバー6・6の間隔を拡大させるように駆動してブレーキパッドの制動を行うようにしている。また、ブレーキチャンバ14’の動作力は、前記クサビ機構27によって増力された上で、キャリパレバー6・6に伝達されるように構成されている。
【0057】
従って、第1実施形態と同様に、前記キャリパレバー6・6の端部(伝達軸29に枢結されている端部)を増力後の力で強力に旋回駆動できるので、大きな制動力を得ることができる。また、可動ロッド15の配設位置及び配設向きの自由度を向上させることができる。従って、コンパクトで制動性能に優れるディスクブレーキ装置1を提供することができる。
【0058】
また、本実施形態では、伝達軸29がキャリパレバー6・6の間隔を拡大する方向にクサビ機構27を介して押動されることで、車輪Dに制動力を付与するように構成している。従って、構成が簡素なディスクブレーキ装置1を提供でき、製造コストの低減を図れる。
【0059】
また、本実施形態でも2つのキャリパレバー6の間にブレーキチャンバ14’が設置されているので、ディスクブレーキ装置1のコンパクトな構成を実現できる。更には、前記ブレーキチャンバ14’に、歯車40やレバー36等からなる隙間調整機構が設けられているので、自動隙間調整機能付きで且つコンパクトなディスクブレーキ装置1を提供できる。
【0060】
〔第4実施形態〕
図8に示す第4実施形態のディスクブレーキ装置1では、第1実施形態の伸縮軸10を設ける代わりに、カム機構43が設けられている。このカム機構43は、上下方向に配置したカム軸44に板カム(カム体)45を固着し、当該板カム45を挟むように従動軸(伝動軸)46・46を配置した構成となっている。
【0061】
それぞれの従動軸46・46は、図示しないガイド手段によって、軸方向摺動自在に取り付けられている。2本の従動軸46・46は同軸上に配置され、その外端側はそれぞれのキャリパレバー6の端部に枢結される一方、内端側には平坦な当接面47を形成している。それぞれの従動軸46の当接面47同士は、前記板カム45を挟むように相互に対向して配置されている。前記板カム45は略菱形に形成されており、回転することによって、両側の当接面47・47を対称的に外側へ押動できるように構成されている。
【0062】
前記カム軸44の外周面にはスプラインが刻設され、このスプライン上に回転伝達アーム16が支持される。そして、この回転伝達アーム16には、その軸線を水平(車軸と平行)に向けて配置された、ブレーキチャンバ14の可動ロッド15の先端が枢結されている。
【0063】
なお、前記回転伝達アーム16は、その配設向き、及び、前記可動ロッド15に連結されるアーム部の長さ及び向きが異なるほかは、前述の第1実施形態と同様のものに構成されているので、詳細な説明を省略する。なお、本実施形態では、回転伝達アーム16の基部の内部の隙間調整ギア18(図3を参照)は、前記カム軸44の外周面にスプライン係合している。
【0064】
この第4実施形態では、図8に示すようにブレーキチャンバ14はキャリパレバー6・6と立体的に交差するように配置されており、可動ロッド15の進出動作は回転伝達アーム16によりカム軸44の回転動作に変換され、この回転動作は、前記板カム45によって、従動軸46・46の外側への対称的な押出し動作に変換される。この結果、キャリパレバー6・6は相互の間隔を拡大させるように駆動されて、ブレーキパッドの制動が行われる。
【0065】
力の作用の観点で言えば、可動ロッド15の進出力は回転伝達アーム16により回転力に変換されてカム軸44を回転させ、また、上記回転力は板カム45によって、従動軸46・46を介してキャリパレバー6・6の間隔を拡大させる力に変換される。しかも、アーム部を長く構成した回転伝達アーム16や、前記カム板19によって、可動ロッド15の進出力は増力されてキャリパレバー6・6に伝達される。従って、第1実施形態および第2実施形態と同様に、コンパクトで制動性能に優れたディスクブレーキ装置1を提供できる。
【0066】
また本実施形態では、従動軸46・46は、キャリパレバー6・6の間隔を拡大させる方向にカム機構43によって押動され、これにより車輪Dに制動力を付与するように構成している。従って、ディスクブレーキ装置1の簡素な構成が実現されている。
【0067】
また、2つのキャリパレバー6・6の間にブレーキチャンバ14が配置されている点、増力変換機構を構成する回転伝達アーム16に隙間調整機構が設けられている点も、前記第1実施形態の特徴と同様である。
【0068】
〔変更態様〕
以上に本発明の好適な複数の実施形態を説明したが、上記の実施形態は、例えば以下のように変更することもできる。
【0069】
(1)上記の実施形態では、キャリパレバー6の一端同士の間隔を拡大する方向(拡開方向)に駆動することで、その他端に取り付けられるブレーキヘッド7に設けられたブレーキパッドに車輪Dを挟圧させることとしているが、これに限定されない。即ち、前記ブレーキチャンバ14,14’の可動ロッド15の進出動作(又は退避動作)が、キャリパレバー6・6同士の間隔を縮小する方向に変換されてキャリパレバー6・6に伝達されても良い。この場合、例えば第1実施形態では、伸縮軸10に構成されているネジ機構のネジの方向を逆に構成するとともに、伸縮軸10と支点ピン5の位置を交換すれば良い。
【0070】
(2)また、前記ブレーキチャンバ14は、圧縮空気を供給すると可動ロッド15が進出方向に駆動されるように構成したが、退避方向に駆動されるように構成しても良い。この場合、例えば第1実施形態では、伸縮軸10に構成されているネジ機構のネジの方向を単に逆に構成すれば良い。また、単動式でなく復動式に構成しても勿論差し支えない。
【0071】
(3)上記の実施形態ではブレーキヘッド7に設けたブレーキパッドは車輪Dに接触して制動するように構成したが、車輪とは別に設けたディスクを挟圧して制動する構成であっても良い。
【符号の説明】
【0072】
1 ディスクブレーキ装置
6・6 キャリパレバー
7・7 ブレーキヘッド
10 伸縮軸
11 回転入力軸
12・12 ネジ孔
13・13 ネジ体(伝動軸)
14 ブレーキチャンバ(アクチュエータ)
15 可動ロッド
16 回転伝達アーム
17 ウォームギア
18 隙間調整ギア
21 隙間調整棒
27 クサビ機構
28 ハウジング
29・29 伝達軸
30・30 ローラ
31 クサビ体
33 フランジ
36 レバー
37 動作杆
38 爪部
40 歯車
41 ネジ孔
42 ネジ棒
43 カム機構
D 車輪(ディスク)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクを挟圧するブレーキパッドがそれぞれ取り付けられた2つのキャリパレバーと、
進出方向又は退避方向の少なくとも何れか一方へ駆動される可動ロッドを備えるアクチュエータと、
前記2つのキャリパレバーの間隔を拡大又は縮小する方向に前記可動ロッドの動作を変換するとともに、その力を増加する増力変換機構と、
を備え、
前記アクチュエータは、前記2つのキャリパレバーに挟まれた位置に配置され、
前記増力変換機構は、
前記キャリパレバーに枢結された2本の伝達軸と、
前記2本の伝達軸の内端側において当該伝達軸に支持されたローラと、
前記2本の伝達軸の間の位置に配置され、前記ローラに接触する傾斜面を備えたクサビ体と、
を備えたクサビ機構を含んで構成されていることを特徴とする、鉄道車両用ディスクブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄道車両用ディスクブレーキ装置であって、
前記クサビ機構は、前記2本の伝達軸を支持するとともに前記クサビ体を収納する中空状のハウジングをさらに備えていることを特徴とする、鉄道車両用ディスクブレーキ装置。
【請求項3】
請求項2に記載の鉄道車両用ディスクブレーキ装置であって、
前記ハウジングに前記アクチュエータが固定されていることを特徴とする、鉄道車両用ディスクブレーキ装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までの何れか一項に記載の鉄道車両用ディスクブレーキ装置であって、
前記アクチュエータ又は前記増力変換機構に隙間調整機構が設けられていることを特徴とする、鉄道車両用ディスクブレーキ装置。
【請求項5】
請求項4に記載の鉄道車両用ディスクブレーキ装置であって、
前記隙間調整機構は、前記可動ロッドにそれぞれ設けられた、ネジ孔と、当該ネジ孔に螺合されたネジ棒と、を備え、
前記可動ロッドのストロークが所定の値を上回ると、前記ネジ棒が前記ネジ孔に対して螺進または螺退することで、当該可動ロッドに対して前記クサビ体が移動することを特徴とする、鉄道車両用ディスクブレーキ装置。
【請求項6】
請求項5に記載の鉄道車両用ディスクブレーキ装置であって、
前記隙間調整機構は、
前記可動ロッドに形成されたフランジと、
前記可動ロッドに対して相対回転不能に設けられた歯車と、
前記フランジに接触可能な動作杆、および、前記歯車の歯部に系合可能な爪部、を備えたレバーと、
を備え、
前記可動ロッドのストロークが所定の値を上回ると、前記歯車の歯部に前記爪部が係合するとともに前記フランジに前記動作杆が押動されることで当該爪部が当該歯車を回転させ、当該歯車の回転と一体的に当該可動ロッドが回転し、当該可動ロッドの回転により前記ネジ棒が前記ネジ孔に対して螺進または螺退することで、当該可動ロッドに対して前記クサビ体が移動することを特徴とする、鉄道車両用ディスクブレーキ装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6までの何れか一項に記載の鉄道車両用ディスクブレーキ装置であって、
前記アクチュエータは空圧式のアクチュエータに構成されていることを特徴とする、鉄道車両用ディスクブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−280386(P2010−280386A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−212033(P2010−212033)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【分割の表示】特願2005−136769(P2005−136769)の分割
【原出願日】平成17年5月10日(2005.5.10)
【出願人】(503405689)ナブテスコ株式会社 (737)
【Fターム(参考)】