説明

鉄道車両用緩衝装置

【課題】通常の大きさの衝撃も非常に大きな衝撃も緩衝でき、小型であって車両への設置面積が小さくて済む緩衝装置を提供する。
【解決手段】鉄道車両用緩衝装置(3)を、シリンダ体(8)と、該シリンダ体(8)内に進退自在に設けられているピストン(10)と、このシリンダ体(8)内に封入されている粘性流体(11)とから構成する。シリンダ体(8)は、一方の端部が開口した第1のシリンダ(6)と、同様に一方の端部が開口し、第1のシリンダ(6)の開口部を所定の嵌め代で外嵌して液密的に封鎖している第2のシリンダ(7)とから構成する。ピストン(10)は、そのピストンロッド(18)が第1のシリンダ(6)側から挿入されており、ピストンヘッド(21)と第1のシリンダ(6)の内周面は所定の隙間(22)が形成されるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両用の緩衝装置に関するものであり、連結器を介して伝達される他の車両からの衝撃を緩衝する緩衝装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両には車両の前部と後部のそれぞれに連結装置が設けられており、複数台の車両は、それぞれの車両に設けられている連結装置によって相互に連結されるようになっている。連結装置は、従来周知のように連結器と、この連結器に接続されている緩衝装置とからなる。緩衝装置には色々なタイプのものがあり、例えば、交互に積層された複数枚の鋼板とゴム材とからなるゴム緩衝部材を備えたゴム緩衝装置が周知である。ゴム緩衝装置は車両側に設けられ、連結器は所定の接手部材を介してこのゴム緩衝装置に接続されている。従って他の車両からの衝撃は連結器、接手部材を介してゴム緩衝装置に伝達され、ゴム緩衝部材において弾性エネルギとして一時的に蓄積されることになる。従って車両には衝撃は直接伝達されず快適な乗り心地が提供されることになる。
【0003】
ところでゴム緩衝部材は、力が作用して変形するとき、その変形量に比例して反力が増大する。従ってゴム緩衝装置は変位量に比例して反力が増大し、変位量の二乗に比例して弾性エネルギが蓄積されるという特性を有することになる。そうすると衝撃のエネルギが大きい場合、ゴム緩衝部材に大量の弾性エネルギは蓄積されるが、大きな反力も作用するので車両に衝撃が伝達されてしまうことになる。そうすると必ずしも快適な乗り心地が提供されるとは限らない。これに対して、その変位量によらずに反力が一定であり、従って吸収できる衝撃エネルギが変位量に比例するような緩衝装置であれば、車両に衝撃は伝達されにくく安定的に快適な乗り心地を提供することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−20695号公報
【0005】
このような緩衝装置として、例えば本出願人の出願に係る特許文献1にも記載されているように、粘性緩衝装置や塑性緩衝装置が周知である。粘性緩衝装置は粘性流体の流動摩擦によって衝撃を緩衝するように、塑性緩衝装置は塑性変形によって衝撃を緩衝するように、それぞれ構成されている。これらの緩衝装置はいずれも反力の大きさが変位量に影響されず、吸収できる衝撃エネルギが変位量に比例するようになっている。粘性緩衝装置はシリンダと、このシリンダ内で軸方向に駆動自在に設けられているピストンと、シリンダ内に充填されている粘性流体とからなる。ピストンにはピストンヘッドが設けられ、シリンダの内径とピストンヘッドの間には所定の隙間が形成されている。そして粘性流体は、例えば樹脂系エラストマからなり、エラストマは粘性と弾性を備えている。軸方向の衝撃がピストンに作用すると、ピストンが駆動されてエラストマは圧縮される。エラストマはシリンダとピストンヘッドの隙間を流動して、いわゆるオリフィス効果によって圧力損失が生じエネルギが消費される。また圧縮による弾性変形によってもエネルギが一時的に貯蔵される。これらによって衝撃が緩衝されることになる。この緩衝装置は、走行時に生じる通常の大きさの衝撃を吸収するのに適している。一方、塑性緩衝装置は、金属製の第1、2の円筒体から構成されている。第1の円筒体は、その内径が第2の円筒体の外径よりわずかに小さいが開口部近傍において拡径されている。この拡径されている部分に第2の円筒体の端部が挿入されている。塑性緩衝装置に非常に大きな衝撃が作用すると、第2の円筒体が第1の円筒体の内部に押し込まれ、第1の円筒体は塑性変形によって拡径する。衝撃のエネルギがこの塑性変形によって消費され、衝撃が緩和されることになる。塑性緩衝装置は、衝突時等の非常に大きな衝撃を吸収することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
粘性緩衝装置や塑性緩衝装置は、それぞれ鉄道用緩衝装置として優れた点を備えているが問題点も見受けられる。具体的には、粘性緩衝装置は非常に大きな衝撃を吸収することはできないし、塑性緩衝装置は走行時における通常の大きさの衝撃を救出することはできないという問題がある。そこで、粘性緩衝装置と塑性緩衝装置を直列に設けるようにすれば色々な大きさの衝撃を吸収することができる。図3には、このような連結装置50が示されている。連結装置50は、他の車両と連結される連結器51と、緩衝装置52とから構成され、緩衝装置52は、所定のジョイント部材63を介して直列に接続された、粘性緩衝装置53と塑性緩衝装置54とから構成されている。粘性緩衝装置53はシリンダ56と、このシリンダ56内で軸方向に駆動可能なピストン57と、シリンダ56に充填されているエラストマとから構成されている。ピストン57は、ストロークLs1’だけ軸方向に移動できるようになっており、衝撃を緩衝できるようになっている。塑性緩衝装置54は、第1の円筒体59と、その一部が第1の円筒体59の開口部に入れられている第2の円筒体60とから構成されている。第1の円筒体59の内径は第2の円筒体60の外径よりもわずかに小さく、第2の円筒体60が押し込まれると第1の円筒体59は塑性変形して拡径することになる。つまり、この塑性緩衝装置54は、ストロークLs2’だけ変形して衝撃を緩衝できることになる。このような緩衝装置52の前方の端部には、所定の接手構造62が設けられ、接手構造62を介して連結器51が結合されている。従って連結器51は緩衝装置52に対して首振り自在になっている。
【0007】
連結装置50は、通常の走行時における衝撃も、衝突時等の非常に大きな衝撃も吸収することはできる。しかしながら問題点も見受けられる。第1の問題として、緩衝装置52は粘性緩衝装置53と塑性緩衝装置54とからなるので大型化してしまうという問題がある。粘性緩衝装置53は、エラストマが効率よく圧縮されるように保圧代Lp1’が必要でありストロークLs1’と合わせて軸方向にある程度の長さを要するし、塑性緩衝器54も少なくともストロークLs2’の長さは必要である。さらにジョイント部材53も設けられているので、緩衝装置52は軸方向に長く大型化してしまう。一般的に緩衝装置52は車両側に設けられるようになっているが、このように大型化すると設置面積を要してしまい、車両に設けられている他の装置の妨げになってしまう。第2の問題として、湾曲した軌道を走行しているときに効率よく衝撃を吸収できない問題もある。湾曲した軌道を走行すると、連結器51は緩衝装置52に対して首振りする。このとき連結器51から伝達される衝撃の向きは緩衝装置52の軸方向と一致しない。そうすると衝撃を効率よく吸収できないことになる。仮に粘性緩衝装置53と塑性緩衝装置54とからなる緩衝装置52を、接手構造62よりも前方、すなわち連結器51の後端に一体化させるように構成すれば、衝撃の向きは緩衝装置52の軸方向と確実に一致する。すなわち衝撃を効率よく吸収できる。しかしながら連結器51が大型化してしまい、およそ実用的ではない。すなわちこのような構成は採ることができない。
【0008】
本発明は、上記したような従来の問題点あるいは課題を解決した、緩衝装置を提供することを目的としている。具体的には、走行時の通常の大きさの衝撃を緩衝して快適な乗り心地を提供できるだけでなく、衝突時等の大きな衝撃も吸収して安全を確保することができ、小型であって車両への設置面積が小さくて済む緩衝装置を提供することを目的としている。また本発明は、湾曲した軌道を走行しているときでも、効率よく衝撃を吸収できる緩衝装置を提供することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために、粘性緩衝装置と塑性緩衝装置とを組み合わせたような鉄道車両用の緩衝装置とし、この緩衝装置をシリンダ体と、該シリンダ体内に進退自在に設けられているピストンと、このシリンダ体内に封入されている粘性流体、例えばエラストマとから構成する。シリンダ体は、一方の端部が開口した第1のシリンダと、同様に一方の端部が開口し、第1のシリンダの開口部を所定の嵌め代で外嵌して液密的に封鎖している第2のシリンダとから構成する。ピストンは、ピストンロッドとピストンヘッドとから構成し、シリンダ体の第1のシリンダの閉鎖されている端面からピストンロッドを挿入し、ピストンロッドにピストンヘッドを設けるようにする。そしてピストンヘッドは、第1のシリンダの内周面との間に所定の隙間が形成されるようにし、ピストンが軸方向に駆動されると粘性流体が隙間を介して流動して衝撃を吸収するように構成する。また、第2のシリンダは、その内径が第1のシリンダの外径よりも小さくなるように形成する。第2のシリンダが、第1のシリンダが軸方向に駆動されると、塑性変形により拡径して衝撃が吸収されることになる。そしてこのような緩衝装置は、連結器と一体的に固定するようにし、所定の接手構造を介して揺動自在に車両に結合する。
【0010】
すなわち、請求項1に記載の発明は、上記発明の目的を達成するために、シリンダ体と、該シリンダ体内に進退自在に設けられているピストンと、前記シリンダ体内に封入されている粘性流体とから構成され、他の車両に連結される連結器に結合されて、該連結器からの衝撃を吸収する緩衝装置であって、前記シリンダ体は、一方の端部が開口した第1のシリンダと、同様に一方の端部が開口し、前記第1のシリンダの開口部を所定の嵌め代で外嵌して液密的に封鎖している第2のシリンダとから構成され、前記ピストンは、前記第1のシリンダの閉鎖されている端面から挿入されているピストンロッドと該ピストンロッドに設けられているピストンヘッドとからなり、前記ピストンヘッドは、前記第1のシリンダの内周面との間に所定の隙間が形成され、前記ピストンが軸方向に駆動されると前記粘性流体が前記隙間を介して流動して衝撃が吸収されるようになっており、前記第2のシリンダは、その内径が前記第1のシリンダの外径よりも小さく、前記第1のシリンダが軸方向に駆動されると、塑性変形により拡径して衝撃が吸収されるように構成される。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の緩衝装置において、前記粘性流体はエラストマであるように構成される。
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の緩衝装置において、前記緩衝装置は、前記連結器と一体的に固定され、所定の接手構造を介して揺動自在に車両に結合されるように構成される。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明によると、シリンダ体と、該シリンダ体内に進退自在に設けられているピストンと、シリンダ体内に封入されている粘性流体とから構成され、他の車両に連結される連結器に結合されて、該連結器からの衝撃を吸収する緩衝装置として構成されている。そしてシリンダ体は、一方の端部が開口した第1のシリンダと、同様に一方の端部が開口し、第1のシリンダの開口部を所定の嵌め代で外嵌して液密的に封鎖している第2のシリンダとから構成され、ピストンは、第1のシリンダの閉鎖されている端面から挿入されているピストンロッドと該ピストンロッドに設けられているピストンヘッドとから構成されている。このピストンヘッドは、第1のシリンダの内周面との間に所定の隙間が形成され、ピストンが軸方向に駆動されると粘性流体が前記隙間を介して流動して衝撃が吸収されるようになっているので、これらから、いわゆる粘性緩衝装置が構成されることになる。従って走行時に発生する通常の大きさの衝撃を効率よく緩衝することができる。そして第2のシリンダは、その内径が第1のシリンダの外径よりも小さく、第1のシリンダが軸方向に駆動されると、塑性変形により拡径して衝撃が吸収されるようになっているので、いわゆる塑性緩衝装置が構成されることになる。従って衝突時等の非常に大きな衝撃を緩衝することができ、安全を確保することができる。つまり粘性緩衝装置と塑性緩衝装置とによって通常の大きさの衝撃も、非常に大きな衝撃も吸収することができ、快適な乗り心地を提供でき安全性も高い。緩衝装置はこのように構成されているので、第1のシリンダが、粘性緩衝装置と塑性緩衝装置の共通の構成部材ということができる。従って軸方向の長さが短くなり、設置面積は小さくて済む。また他の発明によると、粘性流体はエラストマからなるので粘性だけでなく弾性も備えている。従ってピストンが軸方向に駆動されるとき、エラストマが圧縮されて衝撃のエネルギが一時的に弾性エネルギに変換される作用も有することになる。これによって更に効率よく衝撃を緩衝することができる。また他の発明によると緩衝装置は、連結器と一体的に固定され、所定の接手構造を介して揺動自在に車両に結合されているので、連結器からの衝撃の方向は、緩衝装置の軸方向と常に一致することになる。そうすると湾曲した軌道を走行中に受ける衝撃であっても、効率よく緩衝することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施の形態に係る連結装置を示す図で、その(ア)は連結装置の側面図、その(イ)は本実施の形態に係る緩衝装置の側面断面図である。
【図2】本実施の形態に係る緩衝装置の作用を模式的に説明する図で、その(ア)〜(エ)はそれぞれの状態における緩衝装置の側面断面図である。
【図3】従来例の連結装置を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本発明の実施に係る鉄道車両用の連結装置1は、図1の(ア)に示されているように、他の車両に連結される連結器2と、この連結器2の後端部に設けられている本実施の形態に係る緩衝装置3と、この緩衝装置3の後端部に設けられている接手構造4とから構成されている。以下便宜上、連結器2寄りを前方、接手構造4寄りを後方として説明する。連結器2は色々な形態のものを採用することができるが、本実施の形態においては連結器2は、いわゆるボルト締結型の連結器からなる。この連結器2に、次に説明する本実施の形態に係る緩衝装置3が一体的に固定されている。
【0014】
本実施の形態に係る緩衝装置3は、図1の(イ)に示されているように、第1、2のシリンダ6、7からなるシリンダ体8と、このシリンダ体8内に進退自在に設けられているピストン10と、シリンダ体8内に封入されている粘性流体11とから構成されている。シリンダ体8を構成している第1、2のシリンダ6、7は、いずれも一方の端部が開口し、他方の端部が閉鎖された円筒状を呈している。第2のシリンダ7の方が第1のシリンダ6よりも大径に形成されているが、第2のシリンダ7の内径は第1のシリンダ6の外径よりもわずかに小さくなっている。このような第2のシリンダ7の開口部近傍は符号13に示されているように、内周面がテーパ状に形成され、これによって開口部に向かって拡径している。一方第1のシリンダ6の開口部近傍は符号14に示されているように外周面がテーパ状に形成され、開口部に向かって縮径している。これらのテーパ状に形成されている部分13、14が嵌め合わされるようにして第1、2のシリンダ6、7は液密的に一体化され、シリンダ体8が形成されている。換言すると、第2のシリンダ7の内径は第1のシリンダ6の外径よりも小さいにも拘わらず、それぞれのシリンダ6、7の開口部近傍がテーパ状に形成されているので、第1のシリンダ6の開口部が第2のシリンダ7の開口部分によって所定の嵌め代で外嵌された状態で、シリンダ体8が組み立てられている。この第1、2のシリンダ6、7によって塑性緩衝装置が構成されることになり、第1のシリンダ6が軸方向に押し込まれると第2のシリンダ7が塑性変形して拡径することになる。第1のシリンダ6が押し込まれる長さ、すなわち緩衝ストロークLspは第1のシリンダ6の端部から第2のシリンダ7の底面15までの長さである。このような第1、2のシリンダ6、7は結合が解かれないように、ピン16、16、…によって留められている。これらのピン16、16、…は通常の剪断力によっては破断しないが、大きな剪断力が作用すると破断するようになっている。
【0015】
ピストン10は、このようなシリンダ体8の第1のシリンダ6側に設けられている。すなわちピストン10のピストンロッド18は、第1のシリンダ6の底部19から進退可能に挿入されており、このピストンロッド18の先端にピストンヘッド21が設けられている。ピストンヘッド21は、その外径が第1のシリンダ6の内径よりも小さく、ピストンヘッド21と第1のシリンダ6の内周面には所定の隙間22が形成されている。従ってピストン10が軸方向に駆動されると、粘性流体11が隙間22を介して流動し、いわゆるオリフィス効果によって粘性流体11の圧力が損失して衝撃が緩衝される。つまりシリンダ体8、ピストン10、粘性流体11によって粘性緩衝装置が構成されることになる。本実施の形態においては、ピストンロッド18にはピストンヘッド21の反対側に当接部材24が固定され、当接部材24が第1のシリンダ6の底部19に当接するまでピストン10が駆動できるようになっている。すなわちこの長さが緩衝ストロークLsvになっている。このような当接部材24は、連結器2の後端部に固着され、連結器2からの衝撃がピストン10に伝達されるようになっている。
【0016】
シリンダ体8に封入されている粘性流体11は、機械油等の非圧縮性粘性流体から構成することもできるが、本実施の形態においては樹脂系のエラストマから構成されている。エラストマは圧縮性を有し、衝撃のエネルギの一部を弾性エネルギとして変換して一時的に蓄積することができる。これによっても衝撃を緩衝することができる。
【0017】
このように構成されている緩衝装置3は、その後端部、すなわち第2のシリンダ7の後端部において所定の接手構造4を介して車両Sに接続されている。接手構造4は、例えば従来周知の球面軸受機構からなり、第2のシリンダ7から後方に延びている棒状の尾端部材26、前方が二股に形成されて連結部27、27になっている車両側固定部材29、尾端部材26に明けられている縦穴30内に設けられている球面座32、この球面座32に軸受けされている球状滑り軸受33、球状滑り軸受33に明けられている穴34を摺動自在に挿通していると共に連結部27、27に支持されている縦ピン35等から構成することができる。車両側固定部材29は車両Sに固定されており、この接手構造4によって連結器2と緩衝装置3は、車両Sに対して揺動されるようになっている。
【0018】
本実施の形態に係る緩衝装置3を備えた連結装置1の作用を説明する。図1の(ア)に矢印Y1で示されているように、他の車両から連結器2を介して衝撃が与えられる。そうするとピストン10には図2の(ア)に示されているように力Y2が作用する。緩衝装置3は連結器2と一体的に揺動されるので、緩衝装置3に与えられる力Y2の方向は緩衝装置3の軸方向と一致する。エラストマ11はピストンヘッド21によって圧縮され、第1のシリンダ6とピストンヘッド21の隙間22を介してピストンヘッド21より前方側、すなわち図2の(ア)において左側の部屋に流入する。エラストマ11が隙間22を流れるときの圧力損失と、エラストマ11の圧縮による弾性エネルギへの変換によってピストン10に作用する衝撃が緩衝される。衝撃が小さいときには、ピストン10が後方に押し込まれる長さ、すなわち図2において右方向に押し込まれる長さは比較的短く、衝撃が大きいときには、ピストン10が押し込まれる長さは長くなり、図2の(イ)に示されているように、当接部材24が第1のシリンダ6に当接する長さまでピストン10が押し込まれる。このようにピストン10が最大で押し込まれている状態でも、シリンダ体8内のピストンヘッド21より後方の長さは圧縮代Lpだけ確保されており、エラストマ11は適切に圧縮されることになる。走行時に生じる衝撃であれば、ピストン10が押し込まれる長さはこの範囲で足り、適切に衝撃を緩衝することができる。衝撃が緩衝された後にピストン10は前方に押し戻される。すなわち復元する。
【0019】
車両の衝突等の異常時には、連結器2から与えられる衝撃は非常に大きい。この場合、ピストン10が図2の(イ)に示されている位置まで押し込まれても衝撃を緩衝することはできない。そうすると当接部材24は第1のシリンダ6を後方に押す。ピン16、16、…に強い剪断力がかかり、ピン16、16、…は破断する。第1のシリンダ6は第2のシリンダ7の内部に押し込まれ、第2のシリンダ7は第1のシリンダ6が内部に押し込まれた長さだけ塑性変形SHする。この塑性変形SHによってエネルギが消費され、衝撃が緩衝される。なお、シリンダ体8内の体積は小さくなるのでエラストマ11は圧縮されることになり、さらにエラストマ11の一部が隙間22から前方に流動する。これらによっても衝撃が緩衝されることになる。塑性変形SHの長さは衝撃の大きさが大きいと長くなる。この塑性変形SHは、最大で緩衝ストロークLspまで達し、このとき図2の(エ)に示されているように、第1のシリンダ6の端部は第2のシリンダ7の底面15に当接する。
【0020】
本実施の形態に係る緩衝装置3を備えた連結装置1は、上記実施の形態に限定されることなく色々な形で実施できる。例えば、第2のシリンダ7が塑性変形SHするときにエラストマ11が外部に噴出するように変形することができる。上記実施の形態においては第1のシリンダ6が押し込まれて第2のシリンダ7が塑性変形SHするとき、エラストマ11は内部で圧縮されるように説明した。つまり、この場合シリンダ体8は液密が維持された状態で塑性変形SHする必要があるが、液密を維持するためにはシリンダ体8をより強固に形成しなければならず重量が増してしまう。これに対して第2のシリンダ7が塑性変形SHするときに、エラストマ11が外部に噴出されるようにすると液密を維持する必要がなく軽量化することができる。例えば第2のシリンダ7が塑性変形SHするときに、第1、2のシリンダ6、7の間に隙間が形成されるように構成することもできるし、第1、2のシリンダ6、7に所定の内圧によって外れる栓を設けるように構成することもできる。これらからエラストマ11が噴出するときには、流動抵抗が生じるので、これによっても衝撃を緩衝できる。
【0021】
緩衝装置3については他の変形も可能であり、例えば、ピストン10には当接部材24が固定され、この当接部材24が連結器2に固定されているように説明したが、当接部材24は必ずしも必要でなく、ピストンロッド18が直接連結器2の後端部に固定されていてもよい。また緩衝装置3の取付向きについても変形が可能であり、ピストンロッド18が接手構造4に結合され、第2のシリンダ7の端部が連結器2に固定されていてもよい。さらには緩衝装置3は連結器2と一体的に設けられているように説明したが、車体S側に設けられていてもよい。すなわち車体S側に緩衝装置3を設け、緩衝装置3と連結器2は接手構造4を介して接続するようにすることもできる。また、本実施の形態に係る緩衝装置3と、いわゆるゴム緩衝装置とを組み合わせることもできる。当業者であれば容易に理解されるので詳しくは説明しないが、例えばゴム緩衝装置を車体側に設け、ゴム緩衝装置の前方に接手構造を介して本実施の形態に係る緩衝装置3を結合し、緩衝装置3の前方に連結器2を設けるようにすることができる。
【符号の説明】
【0022】
1 連結装置 2 連結器
3 緩衝器 4 接手構造
6 第1のシリンダ 7 第2のシリンダ
8 シリンダ体 10 ピストン
11 粘性流体 16 ピン
18 ピストンロッド 21 ピストンヘッド
22 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ体と、該シリンダ体内に進退自在に設けられているピストンと、前記シリンダ体内に封入されている粘性流体とから構成され、他の車両に連結される連結器に結合されて、該連結器からの衝撃を吸収する緩衝装置であって、
前記シリンダ体は、一方の端部が開口した第1のシリンダと、同様に一方の端部が開口し、前記第1のシリンダの開口部を所定の嵌め代で外嵌して液密的に封鎖している第2のシリンダとから構成され、
前記ピストンは、前記第1のシリンダの閉鎖されている端面から挿入されているピストンロッドと該ピストンロッドに設けられているピストンヘッドとからなり、
前記ピストンヘッドは、前記第1のシリンダの内周面との間に所定の隙間が形成され、前記ピストンが軸方向に駆動されると前記粘性流体が前記隙間を介して流動して衝撃が吸収されるようになっており、
前記第2のシリンダは、その内径が前記第1のシリンダの外径よりも小さく、前記第1のシリンダが軸方向に駆動されると、塑性変形により拡径して衝撃が吸収されるようになっていることを特徴とする鉄道車両用の緩衝装置。
【請求項2】
請求項1に記載の緩衝装置において、前記粘性流体はエラストマであることを特徴とする鉄道車両用の緩衝装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の緩衝装置において、前記緩衝装置は、前記連結器と一体的に固定され、所定の接手構造を介して揺動自在に車両に結合されていることを特徴とする鉄道車両用の緩衝装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−166726(P2012−166726A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−30296(P2011−30296)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【Fターム(参考)】