説明

鉄道車軸軸受用グリース組成物及び鉄道車軸支持用転がり軸受

【課題】−50℃〜−40℃の極低温環境下においても流動し、良好な潤滑性を示す鉄道車軸軸受用グリース組成物を提供する。また、−50℃〜−40℃の極低温環境下においても潤滑性に優れ長寿命な鉄道車軸支持用転がり軸受を提供する。
【解決手段】鉄道車軸支持用転がり軸受においては、内部空間内に潤滑剤が封入されていて、円すいころ10と各軌道8,9との潤滑が行われている。この潤滑剤は、基油と増ちょう剤からなるグリース組成物であり、該基油は鉱油と合成油とを混合した混合油で、この混合油中の合成油の割合は50質量%以下である。また、この合成油は、ポリα−オレフィン油及びエステル油の少なくとも一方からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の車軸を回転自在に支持する転がり軸受の潤滑に使用されるグリース組成物(以降においては、鉄道車軸軸受用グリース組成物と記すこともある)に関する。また、本発明は、鉄道車両の車軸を回転自在に支持する転がり軸受(以降においては、鉄道車軸支持用転がり軸受と記すこともある)に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、鉄道車軸軸受用グリース組成物としては、鉱油を基油とし、金属石けん又は金属複合石けんを増ちょう剤とするものが主流である。金属石けんとしては、リチウム石けん,カルシウム石けん,バリウム石けん等が使用され、金属複合石けんとしては、リチウム複合石けん等が使用されている。なお、以降においては、上記のような鉱油を基油とする従来の鉄道車軸軸受用グリース組成物を、鉱油系グリースと記すこともある。
【0003】
一方、鉄道車軸軸受用グリース組成物については、現在まで種々の検討がなされ、優れた性能を有するものが提案されている。例えば特許文献1には、添加剤として有機金属化合物を含有するグリース組成物が封入された鉄道車両用軸受が開示されている。この有機金属化合物は、Ni、Te、Se、Cu、Feのうちの少なくとも1種を金属種として有する有機金属化合物である。特許文献1の鉄道車両用軸受は、前記のようなグリース組成物が封入されているため、耐久性が優れている。
また、特許文献2には、添加剤としてモリブデンジチオカーバメート及びポリサルファイドを含有するグリース組成物が開示されている。特許文献2のグリース組成物は、高荷重条件下でも摩耗を抑制する性質が優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−17884号公報
【特許文献2】特開平10−324885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年においては、中国東北部やロシア等の寒冷地にも鉄道や新幹線が敷設されるようになっているが、このような地域では、外気が−50℃〜−40℃程度の極低温となることもある。前記したように、鉄道車軸軸受用グリース組成物の現在の主流は鉱油系グリースであるが、この鉱油系グリースは流動点が−20℃〜−10℃程度であり、これ以下の温度では基油が固化し流動性が失われるため、前記のような地域では鉄道車軸支持用転がり軸受が潤滑不良となるおそれがあった。
【0006】
また、現在までに検討された鉄道車軸軸受用グリース組成物は、前記したように、耐摩耗性や耐久性の向上を目的とするものが多く、前記のような極低温環境下でも流動し良好な潤滑性を有するものは知られていない。
そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、極低温環境下においても流動し、良好な潤滑性を示す鉄道車軸軸受用グリース組成物を提供することを課題とする。また、極低温環境下においても潤滑性に優れ長寿命な鉄道車軸支持用転がり軸受を提供することを併せて課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明の鉄道車軸軸受用グリース組成物は、鉄道車両の車軸を回転自在に支持する転がり軸受の潤滑に使用されるグリース組成物において、鉱油と、ポリα−オレフィン油及びエステル油の少なくとも一方からなる合成油と、を混合した混合油を基油とし、前記混合油中の前記合成油の割合を50質量%以下とすることを特徴とする。
【0008】
このような本発明の鉄道車軸軸受用グリース組成物においては、前記混合油中の前記合成油の割合を10質量%以上30質量%以下とすることが好ましい。また、増ちょう剤としてリチウム石けんをさらに含有させ、その割合をグリース組成物全体の12質量%以上22質量%以下としてもよい。さらに、硫黄,亜鉛,及びカルシウムのうち少なくとも1種を含む添加剤をさらに含有させてもよい。
また、本発明の鉄道車軸支持用転がり軸受は、内輪と、外輪と、前記内輪及び前記外輪の間に転動自在に配された複数の転動体と、前記内輪及び前記外輪の間に形成される内部空間に配された潤滑剤と、を備え、鉄道車両の車軸を回転自在に支持する転がり軸受において、前記潤滑剤を上記鉄道車軸軸受用グリース組成物としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の鉄道車軸軸受用グリース組成物は、極低温環境下においても流動し、良好な潤滑性を示す。また、本発明の鉄道車軸支持用転がり軸受は、極低温環境下においても潤滑性に優れ長寿命である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る鉄道車軸支持用転がり軸受の一実施形態の構造を示す断面図である。
【図2】転がり軸受の耐久性試験の結果を示すグラフである。
【図3】混合油中の合成油の割合とグリース組成物全体における増ちょう剤の割合との関係を示すグラフである。
【図4】混合油中の合成油の割合とグリース組成物の見かけ粘度との関係を示すグラフである。
【図5】四球試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る鉄道車軸軸受用グリース組成物及び鉄道車軸支持用転がり軸受の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明に係る鉄道車軸支持用転がり軸受の一実施形態の構造を示す断面図(軸方向に沿う平面で破断した断面図)である。
図1の鉄道車軸支持用転がり軸受は密封型複列外向円すいころ軸受であり、この円すいころ軸受により、端部中間寄り(図1における右側)部分に固定した図示しない車輪と共に回転する車軸4の端部が、図示しない車台に設けたハウジングに対して、回転自在に支持される。
【0012】
前記円すいころ軸受は、前記ハウジングに固定される外輪5と、外輪5の内径側に同心に配された1対の内輪7,7と、を備えており、両内輪7,7は内輪間座6を介して軸方向に突き合わされている。この外輪5の内周面には、それぞれが円すい凹面状である1対の外輪軌道8,8が設けられ、各内輪7,7の外周面には、それぞれ円すい凸面状である内輪軌道9,9が設けられている。そして、これら各外輪軌道8,8と各内輪軌道9,9との間には、円すいころ10,10がそれぞれ複数個ずつ、保持器11,11により保持された状態で転動自在に配されている。
【0013】
車軸4の端部に外嵌された各内輪7,7及び内輪間座6は、その軸方向の位置決めを図るために、車軸4の端部中央寄り部分に形成された段部12と、車軸4の端面に固定された、前蓋と呼ばれる抑えプレート13との間に挟持されている。このため、段部12に、後蓋と呼ばれる円環状の間座14を突き当てるとともに、各内輪7,7の両側に、それぞれ油切りと呼ばれるスリーブ15,15を配置し、これら両スリーブ15,15と各部材7,6とを、抑えプレート13と間座14とで挟持している。
【0014】
この抑えプレート13は、車軸4の端面に対して複数本のボルト16,16により結合固定されており、これら各ボルト16,16を所定のトルクで緊締することにより、各円すいころ10,10に所望の予圧を付与している。なお、各ボルト16,16の頭部17,17の外周面に、これら各ボルト16,16を緊締後に座板18から曲げ起こした舌片19,19を当接させることにより、各ボルト16,16の緩み止めを図っている。
このような円すいころ軸受を密封型とすべく、外輪5と各スリーブ15,15との間に、それぞれシールケース20とシールリング21とからなるシール装置22,22を設けている。このうちのシールケース20は、ステンレス鋼板又は表面処理鋼板等の耐蝕性を有する金属板を断面クランク形に曲げ形成することにより、全体が略円筒状に構成されている。
【0015】
このようなシールケース20は、それぞれの基端部(大径側端部)が外輪5の端部に締り嵌めで内嵌固定された状態で、それぞれの中間部乃至は先端部の内周面が、各スリーブ15,15の外周面に対向している。そして、各シールケース20,20の先端部内周面と各スリーブ15,15の外周面との間に、シールリング21,21を設けている。このシールリング21は、弾性材を補強した芯金をカバーに内嵌してなる。
【0016】
そして、このうちの弾性材に設けた1対のシールリップ(図示せず)のうち、円すいころ軸受の内部空間寄りのシールリップを、スリーブ15の外周面に、ガータスプリングにより全周にわたり押圧するとともに、他方のシールリップもスリーブ15の外周面に全周にわたり摺接させて、各シール装置22,22を構成している。1対のシールリップのうち、内部空間寄りのシールリップが、主としてこの内部空間内に封入した潤滑剤が外部に漏洩することを防止し、他のシールリップが、主として外部に浮遊する塵芥や雨水等の異物が内部空間内に侵入することを防止する。また、前記内部空間寄りのシールリップは、前記他のシールリップ部分で発生するこのシールリップの磨耗粉が内部空間に侵入することを防止すると同時に、この内部空間内で金属同士の接触に基づいて発生した金属摩耗粉が、前記他のシールリップの摺接部に達することを防止する。
【0017】
このような円すいころ軸受においては、図示しない潤滑剤が内部空間内に封入されていて、円すいころ10と各軌道8,9との潤滑が行われている。この潤滑剤は、基油と増ちょう剤からなるグリース組成物であり、該基油は鉱油と合成油とを混合した混合油で、この混合油中の合成油の割合は50質量%以下である。また、この合成油は、ポリα−オレフィン油及びエステル油の少なくとも一方からなる。
【0018】
鉱油と合成油を混合した混合油は、鉱油単独の場合よりも流動点が低いので、低温流動性が良好である。そのため、該混合油を基油とする本実施形態の鉄道車軸軸受用グリース組成物は、鉱油系グリースよりも低温下での流動性に優れており、鉱油系グリースが固化してしまうような−50℃〜−40℃の極低温環境下でも固化せず、流動性を示す。よって、転がり軸受の潤滑に使用された場合には、例えば−50℃〜−40℃の極低温環境下においても安定して油膜を形成し、良好な潤滑性を示す。また、本実施形態の鉄道車軸軸受用グリース組成物は、極低温環境下でも流動性に優れるので、耐摩耗性及び低トルク性(特に起動トルク)も優れている。したがって、該鉄道車軸軸受用グリース組成物で潤滑される鉄道車軸支持用転がり軸受は、例えば−50℃〜−40℃の極低温環境下でも、良好な潤滑状態が長期間にわたって維持されるため長寿命である。
【0019】
以下に、本実施形態の鉄道車軸軸受用グリース組成物について、詳細に説明する。
〔基油について〕
前記したように、本実施形態の鉄道車軸軸受用グリース組成物には、鉱油と合成油を混合した混合油を使用する。鉱油の種類は特に限定されるものではないが、減圧蒸留,溶剤脱れき,溶剤抽出,水素化分解,溶剤脱ろう,硫酸洗浄,白土精製,水素化精製等を適宜組み合わせて精製した鉱油が好ましい。
また、合成油としては、極低温下での流動性を考慮して、流動点の低いポリα−オレフィン油やエステル油が使用される。エステル油の種類は特に限定されるものではないが、ジエステル油,ポリオールエステル油,芳香族エステル油等が好ましい。
【0020】
混合油中の合成油の割合は50質量%以下である必要があり、10質量%以上30質量%以下であることが好ましい。混合油中の合成油の割合が前記範囲を外れると、増ちょう剤を最適な量で配合することが困難となるため、鉄道車軸軸受用グリース組成物の潤滑性が不十分となり、鉄道車軸支持用転がり軸受が短寿命となるおそれがある。
なお、混合油の40℃における動粘度は、極低温下で十分な流動性を有し、且つ、高温下において油膜が形成されにくいために起こる焼付きを防ぐためには、10mm2 /s以上400mm2 /s以下が好ましく、20mm2 /s以上200mm2 /s以下がより好ましい。
【0021】
〔増ちょう剤について〕
本実施形態の鉄道車軸軸受用グリース組成物に使用される増ちょう剤の種類は、特に限定されるものではないが、金属石けんや金属複合石けんが好ましく、リチウム石けんが特に好ましい。また、鉄道車軸軸受用グリース組成物全体における増ちょう剤の割合は、鉄道車軸支持用転がり軸受の耐久性を高くするためには、12質量%以上22質量%以下とすることが好ましく、16質量%以上20質量%以下とすることがより好ましい。この割合は、一般的なグリース組成物における増ちょう剤の配合量よりも多いが、増ちょう剤が転がり軸受の転走面に入り込むことによる摩耗抑制効果(耐摩耗性の向上)が期待できる。
【0022】
〔添加剤について〕
本実施形態の鉄道車軸軸受用グリース組成物には、耐摩耗性をさらに向上させるために、硫黄,亜鉛,及びカルシウムのうち少なくとも1種を含む添加剤を配合してもよい。そして、これらの添加剤を1種又は複数種配合することによって、硫黄,亜鉛,及びカルシウムのうちの2種がグリース組成物中に含まれるようにすることがより好ましく、硫黄,亜鉛,及びカルシウムの全てがグリース組成物中に含まれるようにすることがさらに好ましい。
【0023】
すなわち、硫黄,亜鉛,及びカルシウムのうちいずれか1種のみを含む添加剤を、2種又は3種組み合わせて配合してもよいし、硫黄,亜鉛,及びカルシウムのうち2種又は3種を含む添加剤を配合してもよい。前者の例としては、トリフェニルホスホロチオエート(硫黄を含む添加剤)とナフテン酸亜鉛(亜鉛を含む添加剤)と炭酸カルシウム(カルシウムを含む添加剤)を配合する場合があげられ、後者の例としては、ジチオカルバミン酸亜鉛(硫黄と亜鉛を含む添加剤)とカルシウムスルフォネート(硫黄とカルシウムを含む添加剤)を配合する場合があげられる。
【0024】
また、鉄道車軸支持用転がり軸受においては、砂や結露により生じる水が鉄道車軸軸受用グリース組成物に混入することにより、潤滑性の低下が懸念されるが、鉄道車軸軸受用グリース組成物に前記添加剤を配合することにより、上記のような潤滑性の低下を抑制することができる。
硫黄を含む添加剤としては、例えば、スルホン酸金属塩,硫化油脂類,スルフィド類,チオカーボネート類,チオフォスフェート類,チオリン酸類,チオカルバミン酸類があげられる。
【0025】
また、亜鉛を含む添加剤としては、例えば、有機亜鉛(例えばジアルキルジチオカルバミン酸亜鉛,ジアルキルジチオリン酸亜鉛,メルカプトベンゾチアゾール亜鉛,ベンゾアミドチオフェノール亜鉛,メルカプトベンゾイミダゾール亜鉛,アルキルキサントゲン酸亜鉛,ナフテン酸亜鉛)があげられる。
さらに、カルシウムを含む添加剤としては、例えば、カルシウムスルフォネート,カルシウムフェネート,炭酸カルシウムがあげられる。
【0026】
さらに、本実施形態の鉄道車軸軸受用グリース組成物には、その各種性能をさらに向上させるために、上記の添加剤以外の各種添加剤を配合しても差し支えない。例えば、酸化防止剤,防錆剤,油性向上剤,金属不活性化剤があげられる。
酸化防止剤としては、例えば、アミン系酸化防止剤,フェノール系酸化防止剤があげられる。また、防錆剤しては、例えば、スルホン酸金属塩,エステル系防錆剤,アミン系防錆剤,コハク酸誘導体があげられる。さらに、油性向上剤としては、例えば、脂肪酸,動植物油があげられる。さらに、金属不活性化剤としては、例えば、ベンゾトリアゾールがあげられる。
【0027】
これらの各種添加剤は単独で用いてもよいし、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。本実施形態の鉄道車軸軸受用グリース組成物における全添加剤の合計の含有量は、本発明の目的を損なわない程度であれば特に限定されるものではない。
なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態においては鉄道車軸支持用転がり軸受の例として、図1に示すような構造の転がり軸受をあげて説明したが、本発明は、他の種類の様々な転がり軸受に対して適用することができる。例えば、深溝玉軸受,アンギュラ玉軸受,自動調心玉軸受,円筒ころ軸受,針状ころ軸受,自動調心ころ軸受等のラジアル形の転がり軸受や、スラスト玉軸受,スラストころ軸受等のスラスト形の転がり軸受である。
【0028】
以下に実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。
〔転がり軸受の耐久性試験について〕
鉱油と合成油とを混合した混合油を基油とし、リチウム石けん(12−ヒドロキシステアリン酸リチウム)を増ちょう剤とするグリース組成物を調製した。その際には、グリース組成物全体における増ちょう剤の割合を種々変えて複数のグリース組成物を調製した。なお、混合油中の合成油の割合は20質量%に固定した。また、鉱油としては商品名サンビス(40℃における動粘度は46mm2 /sである)を使用し、合成油としてはジエステル油である商品名Emkarate8050(40℃における動粘度は40.8mm2 /sである)を使用した。
【0029】
そして、これらグリース組成物を内部空間に封入した転がり軸受について回転試験を行って、各転がり軸受の耐久寿命を測定した。試験に使用した転がり軸受は、日本精工株式会社製の円すいころ軸受(呼び番号HR30205J、内径25mm、外径52mm、幅16.25mm)である。回転試験の条件は、温度120℃、回転速度6800min-1、アキシアル荷重1470N、ラジアル荷重98Nである。
【0030】
結果を図2のグラフに示す。このグラフは、グリース組成物全体における増ちょう剤の割合と転がり軸受の寿命との関係を示すものであり、グラフ中の寿命の数値は、従来の鉄道車軸軸受用グリース組成物である鉱油系グリースを封入した転がり軸受の寿命を1とした場合の相対値で示してある。なお、この鉱油系グリースは、40℃における動粘度が101mm2 /sである鉱油を基油とし、リチウム複合石けんを増ちょう剤(グリース組成物全体における増ちょう剤の割合は14質量%である)とするグリース組成物である。
図2のグラフから、グリース組成物全体における増ちょう剤の割合が12質量%以上22質量%以下であると、転がり軸受の耐久寿命が優れており、16質量%以上20質量%以下であると、転がり軸受の耐久寿命がより優れていることが分かる。
【0031】
〔グリース組成物のちょう度の測定について〕
鉱油と合成油とを混合した混合油を基油とし、リチウム石けん(12−ヒドロキシステアリン酸リチウム)を増ちょう剤とするグリース組成物を調製した。その際には、グリース組成物全体における増ちょう剤の割合、及び、混合油中の合成油(ポリα−オレフィン油又はエステル油)の割合を種々変えて、複数のグリース組成物を調製した。
なお、鉱油としては商品名サンビス(40℃における動粘度は46mm2 /sである)を使用し、ポリα−オレフィン油としては商品名SpectraSyn8(40℃における動粘度は48mm2 /sである)を使用し、エステル油としては商品名Emkarate8050(40℃における動粘度は40.8mm2 /sである)を使用した。
【0032】
そして、調製した各グリース組成物のちょう度を測定し、ちょう度を好適な数値(260〜290の範囲内)とするために必要な、増ちょう剤の割合と合成油の割合の組み合わせを求めた。
結果を図3のグラフに示す。このグラフは、合成油がポリα−オレフィン油(PAO)である場合とエステル油の場合について、混合油中の合成油の割合とグリース組成物全体における増ちょう剤の割合との関係を示すものである。
【0033】
図3のグラフから、グリース組成物全体における増ちょう剤の割合を、好適な値である12質量%以上22質量%以下とするためには、混合油中の合成油の割合は50質量%以下とする必要があることが分かる。また、グリース組成物全体における増ちょう剤の割合を、より好適な値である16質量%以上20質量%以下とするためには、混合油中の合成油の割合は30質量%以下とする必要があることが分かる。
【0034】
〔低温におけるグリース組成物の見かけ粘度の測定について〕
鉱油と合成油とを混合した混合油を基油とし、リチウム石けん(12−ヒドロキシステアリン酸リチウム)を増ちょう剤とするグリース組成物を調製して、−50℃における見かけ粘度を測定し、混合油中の合成油の割合とグリース組成物の−50℃における見かけ粘度との関係を調査した。
鉱油としては商品名サンビス(40℃における動粘度は46mm2 /sである)を使用し、合成油としてはジエステル油である商品名Emkarate8050(40℃における動粘度は40.8mm2 /sである)を使用した。
【0035】
見かけ粘度の測定は、レオメータ(回転粘度計)により行った。測定は、−50℃において、一定方向且つ一定強度(8000Pa)の応力を負荷しながら行い、測定開始後180秒から220秒の間の見かけ粘度の平均値を測定値とした。
測定結果を図4のグラフに示す。このグラフから、混合油中の合成油の割合が10質量%以上であれば、−50℃における混合油の流動性が優れていることが分かる。
【0036】
そして、図2〜4のグラフを総合して考えると、グリース組成物全体における増ちょう剤の割合は、12質量%以上22質量%以下とすることが好ましく、16質量%以上20質量%以下とすることがより好ましいことが分かり、さらに、混合油中の合成油の割合は、10質量%以上50質量%以下とすることが好ましく、10質量%以上30質量%以下とすることがより好ましいことが分かる。
【0037】
〔耐摩耗性試験について〕
鉱油と合成油とを混合した混合油を基油とし、リチウム石けん(12−ヒドロキシステアリン酸リチウム)を増ちょう剤とするとともに、添加剤を含有するグリース組成物を調製した。その際には、添加する添加剤の種類を種々変えて、複数のグリース組成物を調製した。
具体的には、硫黄を含む添加剤(トリフェニルホスホロチオエート)を添加したグリース組成物、硫黄及び亜鉛を含む添加剤を添加したグリース組成物(ジチオカルバミン酸亜鉛)、硫黄及びカルシウムを含む添加剤(カルシウムスルフォネート)を添加したグリース組成物、及びこれら3種の添加剤を全て添加したグリース組成物を調製した。添加剤の添加量は、いずれの種類の添加剤もグリース組成物全体の0.5質量%である。よって、3種の添加剤を全て添加する場合は、3種合計で1.5質量%となる。
【0038】
なお、グリース組成物全体における増ちょう剤の割合は18質量%に、混合油中の合成油の割合は20質量%に固定した。また、鉱油としては商品名サンビス(40℃における動粘度は46mm2 /sである)を使用し、合成油としてはジエステル油である商品名Emkarate8050(40℃における動粘度は40.8mm2 /sである)を使用した。
【0039】
そして、これらグリース組成物の耐摩耗性を、四球試験により評価した。四球試験の方法について、以下に説明する。3個の試験球(玉軸受用のSUJ2製鋼球、直径1/2インチ)を相互に接するように正三角形状に配置して固定し、その中心に形成された凹部に1個の試験球を載置した。そして、グリース組成物を全ての試験球に塗布した後、−50℃の極低温環境下、荷重(面圧1.2GPa)を負荷した状態で、載置した試験球を回転速度1200min-1で10分間にわたって回転させた。回転終了後、正三角形状に配置した3個の試験球に生じた摩耗痕の直径を測定し、それらの平均値を摩耗痕径とした。
【0040】
結果を図5のグラフに示す。グラフ中の摩耗痕径の数値は、添加剤を全く添加していないグリース組成物の摩耗痕径を1とした場合の相対値で示してある。図5のグラフから、上記3種の添加剤のうちいずれかの添加剤を添加すれば、耐摩耗性が大きく向上することが分かる。また、3種の添加剤を全て添加すれば、耐摩耗性がさらに向上することが分かる。
【符号の説明】
【0041】
5 外輪
7 内輪
10 円すいころ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の車軸を回転自在に支持する転がり軸受の潤滑に使用されるグリース組成物において、鉱油と、ポリα−オレフィン油及びエステル油の少なくとも一方からなる合成油と、を混合した混合油を基油とし、前記混合油中の前記合成油の割合を50質量%以下とすることを特徴とする鉄道車軸軸受用グリース組成物。
【請求項2】
前記混合油中の前記合成油の割合を10質量%以上30質量%以下とすることを特徴とする請求項1に記載の鉄道車軸軸受用グリース組成物。
【請求項3】
増ちょう剤としてリチウム石けんをさらに含有し、その割合をグリース組成物全体の12質量%以上22質量%以下とすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の鉄道車軸軸受用グリース組成物。
【請求項4】
硫黄,亜鉛,及びカルシウムのうち少なくとも1種を含む添加剤をさらに含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の鉄道車軸軸受用グリース組成物。
【請求項5】
内輪と、外輪と、前記内輪及び前記外輪の間に転動自在に配された複数の転動体と、前記内輪及び前記外輪の間に形成される内部空間に配された潤滑剤と、を備え、鉄道車両の車軸を回転自在に支持する転がり軸受において、前記潤滑剤を請求項1〜4のいずれか一項に記載の鉄道車軸軸受用グリース組成物としたことを特徴とする鉄道車軸支持用転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−94023(P2011−94023A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249083(P2009−249083)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】