説明

鉄鋼用造滓剤及びその製造方法

【課題】滓化性を向上させることができ、脱硫反応を効率良く行うことができる鉄鋼用造滓剤及びその製造方法を提供する。
【解決手段】鉄鋼用造滓剤は、生石灰又は軽焼ドロマイトよりなる粒状体の表面にフッ化カルシウムが結合されて存在し、前記フッ化カルシウムの存在量がフッ化カルシウムと生石灰又は軽焼ドロマイトとの合計量に対して8〜35質量%のものである。粒状体としては、生石灰よりなるものが好ましい。また、粒状体は2〜30mmの粒子径を有していることが好ましい。係る鉄鋼用造滓剤は、生石灰又は軽焼ドロマイトよりなる粒状体を600〜1100℃に加熱した状態で有機フッ素化合物と接触させて有機フッ素化合物を分解させ、分解して生成したフッ素を生石灰又は軽焼ドロマイトと反応させることにより製造される。有機フッ素化合物としては、ハイドロフルオロカーボンが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶鋼中に存在する硫黄等の不純分を除去するために用いられる鉄鋼用造滓剤及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、鉄鋼用造滓剤を用いて溶鋼中の不純分を除去する方法としては、次のような2つの方法が実施されている。すなわち、第1の方法は、鉄鋼用造滓剤として生石灰を用い、滓化を促進するために融点降下剤(融剤)としてホタル石(フッ化カルシウム)を添加したものを用いる方法である(例えば、特許文献1を参照)。第2の方法は、鉄鋼用造滓剤として粉末状の生石灰、ホタル石などを混合し、成形した成形体を用いる方法である(例えば、特許文献2を参照)。
【特許文献1】特開平10−102132号公報(第2〜4頁)
【特許文献2】特開平7−126725号公報(第2〜5頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、溶鋼中に存在する硫黄等の不純分を速やかに除去するためには、生石灰を短時間で滓化(溶融)させる必要がある。しかしながら、特許文献1に記載されている鉄鋼用造滓剤では、生石灰に添加されたホタル石が均一に分散されない場合があり、そのような場合には生石灰の滓化が不均一になり、その滓化に長時間を要するという結果を招く。一方、特許文献2に記載されている鉄鋼用造滓剤の場合、生石灰とホタル石が均一に混合されていることから、生石灰の滓化が均一に進行する。ところが、滓化促進剤であるホタル石は成形体全体に均一に分散されているため、成形体表面におけるホタル石の含有量が少なくなり、初期段階における滓化性が低下するという問題があった。
【0004】
本発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものであり、その目的とするところは、滓化性を向上させることができ、脱硫反応を効率良く行うことができる鉄鋼用造滓剤及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明の鉄鋼用造滓剤は、生石灰又は軽焼ドロマイトよりなる粒状体の表面にフッ化カルシウムが結合されて存在し、前記フッ化カルシウムの存在量がフッ化カルシウムと生石灰又は軽焼ドロマイトとの合計量に対して8〜35質量%であることを特徴とするものである。
【0006】
請求項2に係る発明の鉄鋼用造滓剤は、請求項1に係る発明において、前記粒状体は2〜30mmの粒子径を有していることを特徴とするものである。
請求項3に係る発明の鉄鋼用造滓剤の製造方法は、生石灰又は軽焼ドロマイトよりなる粒状体を600〜1100℃に加熱した状態で有機フッ素化合物と接触させて有機フッ素化合物を分解させ、分解して生成したフッ素を生石灰又は軽焼ドロマイトと反応させて粒状体の表面にフッ化カルシウムを結合させて存在させ、前記フッ化カルシウムの存在量をフッ化カルシウムと生石灰又は軽焼ドロマイトとの合計量に対して8〜35質量%にすることを特徴とするものである。
【0007】
請求項4に係る発明の鉄鋼用造滓剤の製造方法は、請求項3に係る発明において、前記有機フッ素化合物は、ハイドロフルオロカーボンであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
請求項1に係る発明の鉄鋼用造滓剤では、生石灰又は軽焼ドロマイトよりなる粒状体の表面にフッ化カルシウムが結合されて存在し、前記フッ化カルシウムの存在量がフッ化カルシウムと生石灰又は軽焼ドロマイトとの合計量に対して8〜35質量%である。すなわち、フッ化カルシウムは粒状体の表面に局在化し、粒状体表面が滓化しやすくなると共に、粒状体表面の滓化に伴って粒状体内部も滓化が進行しやすくなる。従って、粒状体の滓化性を向上させることができ、脱硫反応を効率良く行うことができる。
【0009】
請求項2に係る発明の鉄鋼用造滓剤では、粒状体は2〜30mmの粒子径を有している。従って、請求項1に係る発明の効果に加えて、粒状体の滓化及び脱硫反応を促進させることができる。
【0010】
請求項3に係る発明の鉄鋼用造滓剤の製造方法では、生石灰又は軽焼ドロマイトよりなる粒状体を600〜1100℃に加熱した状態で有機フッ素化合物と接触させて有機フッ素化合物を分解させ、分解して生成したフッ素を生石灰又は軽焼ドロマイトと反応させて粒状体の表面にフッ化カルシウムを結合させて存在させ、前記フッ化カルシウムの存在量をフッ化カルシウムと生石灰又は軽焼ドロマイトとの合計量に対して8〜35質量%にするものである。従って、フッ化カルシウムを粒状体の表面に局在化させることができ、請求項1に係る発明の効果を奏する鉄鋼用造滓剤を容易に製造することができる。
【0011】
請求項4に係る発明の鉄鋼用造滓剤の製造方法では、有機フッ素化合物がハイドロフルオロカーボンである。このため、請求項3に係る発明の効果に加えて、ハイドロフルオロカーボンが分解して生成したフッ素が生石灰又は軽焼ドロマイトに化学反応して結合し、反応生成物であるフッ化カルシウムを粒状体表面に容易に局在化させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の最良と思われる実施形態について詳細に説明する。
本実施形態における鉄鋼用造滓剤は、生石灰又は軽焼ドロマイトよりなる粒状体の表面にフッ化カルシウムが結合されて存在しているものである。該フッ化カルシウムの存在量は、フッ化カルシウムと生石灰又は軽焼ドロマイトとの合計量に対して10〜27質量%である。粒状体を構成する生石灰は酸化カルシウム(CaO)であり、石灰石のか焼により得られ、溶鋼に含まれる硫黄を除く脱硫などに好適に用いられる化合物である。また、軽焼ドロマイト(CaO・MgO)は、ドロマイト〔CaMg(CO〕を1000〜1200℃で焼成して得られるものである。この軽焼ドロマイト中におけるCaOの含有率は通常55〜70質量%である。
【0013】
前記粒状体としては、脱硫反応に関与し、入手が容易で、取扱性の良い生石灰が好ましい。また、粒状体はその滓化及び脱硫反応を促進させるために2〜30mmの粒子径を有していることが好ましく、2〜10mmの粒子径を有していることがさらに好ましい。ここで、係る粒子径の範囲は粒状体が実質的にこの範囲内の粒子径を有していることを意味する。また、粒状体は所定の成形法により成形された成形体であってもよい。粒状体の粒子径が2mmより小さい場合には、粒状体の表面にフッ化カルシウムを局在化させることが難しくなると共に、粉末化して取扱性も低下する。さらに、粒状体を鉄鋼用造滓剤として使用した場合、粉末状では使用しずらい。その一方、粒子径が30mmより大きい場合には、溶鋼中において粒状体が溶解されにくくなると共に、粒状体の表面積が少なくなって脱硫反応が低下する傾向を示す。
【0014】
次に、前述した鉄鋼用造滓剤の製造方法は、生石灰又は軽焼ドロマイトよりなる粒状体を600〜1100℃に加熱した状態で有機フッ素化合物と接触させて有機フッ素化合物を分解させ、分解して生成したフッ素を生石灰又は軽焼ドロマイトと反応させるものである。これにより、粒状体の表面にフッ化カルシウムを結合させて存在させ、係るフッ化カルシウムの存在量をフッ化カルシウムと生石灰又は軽焼ドロマイトとの合計量に対して8〜35質量%にすることができる。上記有機フッ素化合物としては、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、パーフルオロカーボン(PFC)等が挙げられる。これらのうち、容易に分解してフッ素を生成することができるハイドロフルオロカーボン(HFC)が好適に用いられる。係るハイドロフルオロカーボンとしては、HFC−134a(C)、HFC−152a(C)、フルオロメタン(CHF)、ジフルオロメタン(CH)、トリフルオロメタン(CHF)等が挙げられる。
【0015】
前記加熱温度が600℃未満の場合には、加熱温度が低過ぎるため有機フッ素化合物が分解しにくくなり、フッ素の生成量が減少して好ましくない。その一方、1100℃を超える場合には、生石灰(CaO)とフッ化カルシウム(CaF)が共晶して融点が下がり、生石灰又は軽焼ドロマイト同士が融着して固まるため取扱いが難しくなる。
【0016】
粒状体の表面に結合されるフッ化カルシウムは、前述のようにフッ化カルシウムと生石灰又は軽焼ドロマイトとの合計量に対して8〜35質量%に設定される。このフッ化カルシウムの生成量が8質量%より少ない場合、粒状体のフッ化カルシウムによる滓化促進作用の発現が不足し、その結果脱硫率が低く、所期の脱硫反応が行われなくなる。その一方、35質量%より多い場合、鉄鋼用造滓剤として用いたとき硫黄成分と反応する生石灰の含有量が低下するため好ましくない。
【0017】
前記有機フッ素化合物と生石灰又は軽焼ドロマイトとの反応は、有機フッ素化合物としてHFC−134a(C)と生石灰との反応を例にとると、加熱温度が900℃を超え、1100℃以下の場合には下記反応式(1)で示されるように進行し、フッ化カルシウム(CaF、ホタル石)が生成する。また、加熱温度が600〜900℃の場合には下記反応式(2)で示されるように進行し、フッ化カルシウム(CaF、ホタル石)が生成する。このフッ化カルシウムは融点が1360℃であり、生石灰の融点(2572℃)に比べて低く、滓化促進剤として機能する。
+2CaO+3/2O=2CaF+2CO+HO ・・・(1)
+4CaO+5/2O=2CaF+2CaCO+HO・・・(2)
鉄鋼用造滓剤の製造は、例えば図1に示す縦型焼成炉10を用いて実施される。この縦型焼成炉10について説明する。反応生成物を収容するストッカー11上には円筒状をなす焼成炉本体12が支持され、該焼成炉本体12の上端にはホッパー13が取付けられている。係るホッパー13には生石灰又は軽焼ドロマイトの粒状体14が連続的に投入されるようになっている。焼成炉本体12の中間部には、焼成炉本体12を包囲するように電気ヒータ15が配設された加熱部16が設けられ、ホッパー13に投入された生石灰又は軽焼ドロマイトの粒状体14が焼成炉本体12内を下降する間に加熱されるように構成されている。焼成炉本体12内の加熱温度は、焼成炉本体12内の生石灰又は軽焼ドロマイトが600〜1100℃となるように設定される。
【0018】
ストッカー11の天板17中央には支持枠18が吊下され、該支持枠18内にはモータ19により回転する斜状のガイド板20が支持されている。そして、焼成炉本体12内から落下した反応生成物がストッカー11内底部の収容容器21内に均等に収容され、定量的に排出されるようになっている。
【0019】
ストッカー11の上部には、ガス配管22が接続され、該ガス配管22は有機フッ素ガス配管23と空気配管24とに分岐されている。有機フッ素ガス配管23は、流量計25を介して有機フッ素ガスボンベ26に接続され、空気配管24は流量計2525を介してポンプ27に接続されている。そして、有機フッ素ガス配管23から有機フッ素ガスが供給され、空気配管24から空気が供給され、ガス配管22を経てストッカー11内に有機フッ素ガス及び空気が導入される。ホッパー13を収容する密閉容器28の中央部には排出管29が接続され、該排出管29には排気用ポンプ30が設けられて密閉容器28内のガスが排気される。
【0020】
前記加熱部16において、上方から供給される生石灰又は軽焼ドロマイトの粒状体14が加熱されると同時に、下方から供給される有機ハロゲンガスが加熱分解され、フッ素が発生する。発生したフッ素は、発生と同時に粒状体14表面で酸素の存在下に生石灰と反応して前記反応式(1)に基づいてフッ化カルシウムが生成する。このようにして表面がフッ素処理された生石灰又は軽焼ドロマイトの粒状体14は、ガイド板20に案内されてストッカー11の収容容器21内に蓄積される。
【0021】
次に、鉄鋼用造滓剤を溶鋼中の脱硫反応などに使用する場合には、常法に従って行われる。例えば、製鋼法には主に転炉製鋼法、電気炉製鋼法があり、製鋼工程において銑鉄などの主原料に生石灰等を含む鉄鋼用造滓剤を加えて溶鋼(製鋼)中の不純分である硫黄やリンの除去や成分調整が行なわれる。鉄鋼用造滓剤は、溶鋼中でスラグの主成分となり、脱硫反応や脱リン反応を生ぜしめるために添加される。このうち脱硫反応は、還元雰囲気でスラグの塩基度が高いと進みやすいため、鉄鋼用造滓剤の添加量はスラグの塩基度により決定される。
【0022】
以上詳述した実施形態による作用及び効果を以下にまとめて説明する。
・ 本実施形態における鉄鋼用造滓剤では、生石灰又は軽焼ドロマイトよりなる粒状体の表面に、フッ化カルシウムがフッ化カルシウムと生石灰又は軽焼ドロマイトとの合計量に対して8〜35質量%となるように化学的に結合されて存在している。すなわち、フッ化カルシウム(融点1360℃)は粒状体の表面に局在化し、溶鋼(1600℃程度)中において粒状体表面が滓化しやすくなると共に、粒状体表面の滓化に伴って粒状体内部も滓化が進行しやすくなる。従って、粒状体の滓化速度を速めたり、滓化物(スラグ)の粘度を低下させたりするなどの滓化性を向上させることができ、脱硫反応を効率良く行うことができる。加えて、この鉄鋼用造滓剤により、溶鋼中のリン(P)等の不純分を除去することができる。
【0023】
・ 前記粒状体が生石灰により構成されることにより、係る生石灰が溶鋼中の硫黄と速やかに反応し、脱硫反応を一層効率良く行うことができる。
・ また、粒状体が2〜30mmという適度な粒子径を有していることにより、粒状体の滓化が良好となり、溶鋼中の脱硫反応を促進させることができる。
【0024】
・ 鉄鋼用造滓剤の製造方法では、生石灰又は軽焼ドロマイトよりなる粒状体を600〜1100℃に加熱した状態で有機フッ素化合物と接触させて有機フッ素化合物(フロン)を分解させ、分解して生成したフッ素を生石灰又は軽焼ドロマイトと反応させることにより行われる。この場合、反応生成物であるフッ化カルシウムは、主に粒状体の表面に存在すると共に、粒状体表面から内部へ若干浸透している。そして、係るフッ化カルシウムは、フッ化カルシウムと生石灰又は軽焼ドロマイトとの合計量に対して8〜35質量%結合されている。従って、フッ化カルシウムを粒状体の内部ではなく、その表面に局在化させることができ、前記効果を奏する鉄鋼用造滓剤を容易に製造することができる。すなわち、フロンの分解処理を利用し、生成したフッ素により鉄鋼用造滓剤を製造することができる。
【0025】
・ 前記有機フッ素化合物がハイドロフルオロカーボンであることにより、ハイドロフルオロカーボンが分解して生成したフッ素が生石灰又は軽焼ドロマイトに化学反応して結合し、反応生成物であるフッ化カルシウムを粒状体表面に容易に局在化させることができる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はそれら実施例の範囲に限定されるものではない。
(実施例1)
前記図1に示す縦型焼成炉10に、粒子径2〜4mmの生石灰の粒状体14を充填した。この粒状体14はホッパー13から連続供給され、ストッカー11内の排出用の収容容器21により1000g/hrの速度で定量的に排出される。焼成炉本体12中央部に位置する加熱部16の電気ヒータ15により、粒状体14及び焼成炉本体12内雰囲気が800℃になるように加熱した。一方、空気配管24より空気、及び有機フッ素ガス配管23より有機フッ素化合物としてHFC−134a(C)を導入し、焼成炉上部の排出管29より排気した。この焼成炉中央部の加熱部16における有機ハロゲン化合物は分解し、フッ素が発生する。発生したフッ素は、発生と同時に粒状体14表面で生石灰と反応してフッ化カルシウムが生成する。このときの空気供給量は3.5L/minとし、HFC−134aの供給量はフッ化カルシウムの生成率が15質量%となるように350mL/minとした。このようにしてフッ素処理された粒状体14は、ストッカー11の収容容器21に蓄積される。そして、収容容器21に蓄積されたものをサンプリングし、粒状体14を構成する生石灰表面のフッ化カルシウム含有量、すなわち〔フッ化カルシウム/(フッ化カルシウム+生石灰)〕×100(質量%)を分析し、その結果を表1に示した。
(実施例2)
フッ化カルシウムの含有量が10質量%となるようにHFC−134aの流量を233mL/minに調整した以外は、前記実施例1と同様に実施した。
(実施例3)
フッ化カルシウムの含有量が25質量%となるようにHFC−134aの流量を583mL/minに調整した以外は、前記実施例1と同様に実施した。
(実施例4)
焼成炉の加熱温度を1100℃とした以外は、前記実施例1と同様に実施した。
(実施例5)
焼成炉に充填した粒状体14として、生石灰に代えて軽焼ドロマイトを用いた以外は、前記実施例1と同様に実施した。
(実施例6)
フッ化カルシウムの含有量が30.5質量%となるようにHFC−134aの流量を700mL/minに調整した以外は、前記実施例1と同様に実施した。
(比較例1)
焼成炉下部の空気配管24より空気のみを導入した以外は、前記実施例1と同様に実施した。
(比較例2)
生石灰粉末とフッ化カルシウム粉末を混合し、圧縮成形した。フッ化カルシウムの含有量は実施例1と同量となるように調整した。
【0027】
次に、鉄鋼用造滓剤としての使用を示すために、以下の試験を行った。
すなわち、図2に示すように、実施例1〜6、比較例1及び比較例2におけるフッ素処理した粒状体14を、鉄源として釘32、硫黄源として硫化鉄(試薬)33と共にカーボンルツボ31内に入れ、窒素雰囲気中で高周波誘導加熱装置を用いて加熱溶融した。各材料は、釘50g、硫化鉄1.37g及び各試料2gを用いた。なお、硫化鉄の添加量は、鉄中の硫黄含有量が1質量%となるように調整した。また、実施例6については粗砕して粒子径を2〜4mmにして用いた。高周波誘導加熱装置での加熱温度は約1600℃、加熱時間は30分とした。加熱後、カーボンルツボ31内の観察と、カーボンルツボ31から取り出した釘32が溶解して固まった鉄塊の表面を研磨後、蛍光X線により釘32中の硫黄含有量(質量%)を測定した。
(比較例3)
生石灰類無添加の場合として、カーボンルツボ31内に鉄源として釘32、硫黄源として硫化鉄33のみを入れ、前記実施例1〜6、比較例1及び2と同様にして加熱溶融させた。
【0028】
この比較例3についても上記と同様に試験を行なった結果、釘32中の硫黄含有量が1.02質量%となり、添加した硫黄成分が予定どおり釘32中に含有されていることを確認した。
【0029】
これらの硫黄含有量と下記の式(2)を用いて、釘32中から除去された硫黄の割合(脱硫率)を算出した。
脱硫率(%)=〔1−(各試料の釘中の硫黄含有量)/(比較例4の釘中の硫黄含有量)〕×100 ・・・(2)
それらの硫黄含有量と脱硫率の結果を表1にまとめて示した。
【0030】
【表1】

表1に示したように、実施例1ではフッ化カルシウムの含有量が14.4質量%であり、フッ化カルシウムが表面に存在する生石灰(以下、フッ化カルシウム含有生石灰ともいう)であることを確認した。同様に、実施例2ではフッ化カルシウムの含有量が10.3質量%、実施例3ではフッ化カルシウムの含有量が25.1質量%となり、フッ化カルシウムが表面に存在する生石灰であることを確認した。高温(1100℃)でフロン処理した実施例4ではフッ化カルシウムの含有量が14.9質量%であった。フッ化カルシウムが表面に存在する生石灰は、加熱温度が800〜1100℃の条件で得られた。軽焼ドロマイトを用いた実施例5ではフッ化カルシウムの含有量が15.1質量%となり、軽焼ドロマイトについても同様にフッ化カルシウムが表面に存在する軽焼ドロマイトであることを確認した。実施例6では、フッ化カルシウムの含有量が30.5質量%となり、フッ化カルシウム含有生石灰であった。
【0031】
これに対し、比較例1ではフッ化カルシウムが含有されていない通常の生石灰であることを確認した。生石灰粉末とフッ化カルシウム粉末を混合し圧縮成形した比較例2では、フッ化カルシウム含有生石灰であることを確認した。これらの試料を用いて、脱硫評価試験を行なった。
【0032】
すなわち、試験後のカーボンルツボ31内の様子から滓化性の状況を目視により下記の基準で評価した。その結果を表1に併せて示した。
◎:滓化性が非常に良好であった、○:滓化性が良好であった、△:滓化性が不十分であった、×:滓化性が悪かった。
【0033】
表1に示した結果より、実施例1では試料同士が融着し、形状も維持されていないことから滓化が十分に進んでいることが確認された。実施例2及び実施例3と、比較例2とを比較すると、フッ化カルシウム含有量の高いほど滓化が進み、全ての試料で形状が維持されておらず、十分に滓化されていた。これに対し、比較例1では試料の形状がほぼそのまま残っていた。このことから、フッ化カルシウムの含有量10質量%以上のフッ化カルシウム含有生石灰は、通常の生石灰よりも滓化しやすいことが確認できた。実施例4については、実施例1とほぼ同程度の滓化状況であった。
【0034】
実施例5では、実施例1と比較すると滓化状況はほぼ同程度であったことから、加熱温度1100℃の場合や軽焼ドロマイトを用いた場合でも、滓化性に差異がなかった。比較例3では試料同士の融着が見られるが、試料の形状は維持されており、完全には溶融しなかった。実施例1と比較すると、滓化が十分に進まなかった。このことから、実施例1〜5のフッ化カルシウム含有生石灰では、生石灰の粒状体表面にフッ化カルシウムが局在化しているために粒状体表面の溶融が進みやすく、滓化性が向上したことがわかる。
【0035】
硫黄含有量と脱硫率に関し、実施例1では釘32中の硫黄含有量が0.44質量%という低い値を示し、脱硫率が57%という高い値を示した。これは、試料の滓化性が良好であるため、脱硫反応も速く進んだものと考えられる。実施例2については脱硫率が60%と高く、実施例3についても脱硫率が55%と高い結果であった。また、実施例6では脱硫率が39%に低下した。これは、フッ化カルシウムの含有量が高いほど滓化性は良好になるが、フッ化カルシウムの含有量が高くなるにつれて鉄中の硫黄成分と反応するカルシウム量が減少するために脱硫率が低下するものと考えられる。このことから、フッ化カルシウムの含有量が8〜35質量%であるフッ化カルシウム含有生石灰が、十分な脱硫性能を持つことがわかった。実施例4及び実施例5についても脱硫率が58%及び62%という高い値を示したことから、高温加熱により作製したフッ化カルシウム含有生石灰やフッ化カルシウム含有軽焼ドロマイトの場合でも十分に高い脱硫性能を持つことを確認できた。
【0036】
これに対し、比較例1では、滓化速度が遅く、脱硫反応が進んでいないことがわかる。比較例2では、実施例1〜5より釘32中の硫黄含有率が0.70%と高く、脱硫率が低い結果であった。このことより、比較例2のような試料全体にフッ化カルシウムが均一に分布した材料より、実施例1などのように粒状体表面にフッ化カルシウムが局在化した材料の方が、滓化速度が速く、短時間で高効率に脱硫反応が進むことがわかった。
【0037】
なお、前記実施形態を次のように変更して具体化することも可能である。
・ 前記粒状体を構成する生石灰と軽焼ドロマイトを混合して使用することもできる。
・ 前記有機フッ素化合物として、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)、クロロフルオロカーボン(CFC)等を用いることも可能である。
【0038】
・ 前記粒状体の粒度分布が狭くなるように設定し、滓化性を向上させるように構成することもできる。
・ 粒状体の形状を球形に近くなるように、かつ形状を揃え、滓化性を良くするように構成することもできる。
【0039】
次に、前記実施形態から把握できる技術的思想について以下に記載する。
・ 前記粒状体を有機フッ素化合物と連続的に接触させて反応を進行させることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の鉄鋼用造滓剤の製造方法。このように構成した場合、請求項3又は請求項4に係る発明の効果に加えて、鉄鋼用造滓剤を連続的に製造することができ、工業的に有用である。
【0040】
・ 前記粒状体と有機フッ素化合物との反応を空気の供給下に行うことを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の鉄鋼用造滓剤の製造方法。このように構成した場合、請求項3又は請求項4に係る発明の効果に加えて、鉄鋼用造滓剤を収率良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】縦型焼成炉を用いて鉄鋼用造滓剤を製造する方法を説明するための概略説明図。
【図2】カーボンルツボを用いて脱硫を行う方法を説明するための模式的な説明図。
【符号の説明】
【0042】
14…粒状体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生石灰又は軽焼ドロマイトよりなる粒状体の表面にフッ化カルシウムが結合されて存在し、前記フッ化カルシウムの存在量がフッ化カルシウムと生石灰又は軽焼ドロマイトとの合計量に対して8〜35質量%であることを特徴とする鉄鋼用造滓剤。
【請求項2】
前記粒状体は2〜30mmの粒子径を有していることを特徴とする請求項1に記載の鉄鋼用造滓剤。
【請求項3】
生石灰又は軽焼ドロマイトよりなる粒状体を600〜1100℃に加熱した状態で有機フッ素化合物と接触させて有機フッ素化合物を分解させ、分解して生成したフッ素を生石灰又は軽焼ドロマイトと反応させて粒状体の表面にフッ化カルシウムを結合させて存在させ、前記フッ化カルシウムの存在量をフッ化カルシウムと生石灰又は軽焼ドロマイトとの合計量に対して8〜35質量%にすることを特徴とする請求項1に記載の鉄鋼用造滓剤の製造方法。
【請求項4】
前記有機フッ素化合物は、ハイドロフルオロカーボンであることを特徴とする請求項3に記載の鉄鋼用造滓剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−79264(P2009−79264A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−249584(P2007−249584)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(000189464)上田石灰製造株式会社 (6)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【Fターム(参考)】