説明

鉄錯体を触媒とする重合体の製造方法

【課題】ラジカル重合性単量体を比較的短時間で定量的に重合が可能で、高分子量でありながら末端に化学変換可能な官能基を有する重合体およびブロック共重合体を製造できる方法を提供することであり、さらには、重合反応後、ポリマーを汎用性溶剤中再沈殿することで、用いた鉄錯体を溶剤中に回収し、それを再利用した重合体製造方法を提供すること。
【解決手段】鉄錯体を触媒とする重合体の製造方法において、3価鉄錯体から鉄粉による還元反応を行うことにより得られる2価鉄錯体を重合反応混合物中で発生させ、該2価鉄錯体を重合触媒として用いることを特徴とする重合体の製造方法、及び重合体を製造した後、該重合体を酸素により処理した後鉄錯体と反応混合物とを分離する工程と該工程により得られる鉄錯体をハロゲン化剤により処理する工程を含む回収方法により3価鉄錯体を回収する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄錯体を触媒とする重合体の製造方法において、特定の配位子を有する3価鉄錯体を鉄粉による還元反応を行うことにより得られる2価鉄錯体を重合反応混合物中で発生させ、該2価鉄錯体を重合触媒として用いることを特徴とする重合体の製造方法、及び再び重合反応に利用できる該鉄錯体の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のラジカル重合と異なり、ポリマー成長末端が化学変換可能な活性を有するリビングラジカル重合、例えば、原子移動ラジカル重合(ATRP)(非特許文献1参照)、ニトロキシドが介するラジカル重合(NMP)(非特許文献2参照)、硫黄類化合物経由可逆付加チェイントランスファーラジカル重合(RAFT)(非特許文献3参照)などは、ポリマーの分子量、モノマー残基序列、次元構造などを任意に制御できることから、この10年以来多くの注目を集めて来た。その中で、特に、金属錯体とハロゲン化合物との組み合わせによる原子移動ラジカル重合系はその広範に渡るモノマー種類の適応性が示され、それを用いるポリマーの精密制御方法は、ポリマーの合成だけではなく、基材表面・界面の化学修飾、デバイス構築にも広がるようになった。
【0003】
特に近年ATRP法においては、安全性および汎用性の観点から鉄触媒による重合体製造方法が、環境に優しい技術として多くの注目を集めている。(非特許文献1)。例えば、鉄イオンと配位子(アミン類、フォスフィン類、亜リン酸エステル類化合物)を重合性モノマーと混合して行う重合体の製造法や、または合成した鉄錯体と重合性モノマーを混合して行う重合体製造法が開示されている(非特許文献2)。また本発明者により2価鉄‐トリアザシクロノナン錯体を触媒とした重合において、重合後の簡便な操作でポリマーから鉄触媒を分離でき、さらには分離した鉄触媒は重合触媒として再利用可能であることが開示されている。しかしながら一般に2価の鉄化合物は酸化されやすく、不活性雰囲気での貯蔵、取扱いが必須となる等、工業的ポリマー合成の観点から問題も多い(特許文献1)。
【0004】
ATRP法での活性ハロゲン化合物開始剤を従来のラジカル発生剤(例えば、過酸化物ラジカル発生剤、アゾ系ラジカル発生剤)に入れ替えることで重合を行うことをreverse型ATRP(R−ATRP)と呼ぶ。鉄触媒を用いるR−ATRP法では、使用する触媒は3価の鉄錯体であり、空気中で安定に存在する極めて取扱い易い化合物である。従来のラジカル重合プロセスにこの3価鉄触媒を加えることで、リビングラジカル重合が可能であり、重合物の末端に反応性残基を導入することができ、それによるブロック共重合体の合成も可能である。従って、R−ATRP法は、既存生産プロセスにて構造制御されたポリマーを得ることができる有用な製造法である。例えば、本発明者により上述の2価鉄−トリアザシクロノナン錯体に対応する3価鉄−トリアザシクロノナン錯体触媒によるR−ATRP法が報告されている(特許文献2)。しかしながら、これらの3価鉄錯体を用いたR−ATRPラジカル重合では、数平均分子量1万以下の比較的低分子量のポリメタクリル酸エステルを合成する場合、ラジカル重合開始剤の多量使用に起因する、分子量および分子量分布制御性の低下という問題があった。
【0005】
上述のような高原子価金属錯体の還元を利用する重合方法については、既にいくつかの報告がされているが、本発明のような低分子量設計における制御性については述べられていない(特許文献3、非特許文献3、4)。
【0006】
【特許文献1】特願2005−267584
【特許文献2】特開2006−257293
【特許文献3】特表2007−527463
【非特許文献1】Matyjaszewskiら、Chem.Rev.2001,101,2921
【非特許文献2】澤本ら、第53回高分子討論会予稿集、2004年、2B16,2456
【非特許文献3】Matyjaszewskiら、Macromolecules,2005,38,4146
【非特許文献4】Matyjaszewskiら、Macromolecules,1997,30,7348
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、ラジカル重合性単量体を比較的短時間で定量的に重合が可能で、高分子量でありながら末端に化学変換可能な官能基を有する重合体およびブロック共重合体を製造できる方法を提供することであり、さらには、重合反応後、ポリマーを汎用性溶剤中再沈殿することで、用いた鉄錯体を溶剤中に回収し、それを再利用した重合体製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、鉄錯体を触媒とする重合体の製造方法において、一般式(1)
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、Feは3価であり、Xは塩素原子又は臭素原子を表し、R、R及びRは、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基及び炭素数1〜8の置換基を有していても良いベンジル基からなる群から選ばれる基を表し、m及びnは2〜3の整数を表す。)
で表される鉄錯体から鉄粉による還元反応を行うことにより得られる2価鉄錯体を重合反応混合物中で発生させ、該2価鉄錯体を重合触媒として用いることを特徴とする重合体の製造方法、及び
重合体を製造した後、
工程1)該重合体を酸素により処理した後鉄錯体と反応混合物とを分離する工程
又は、
鉄錯体と重合体を分離した後該鉄錯体を酸素により処理する工程
工程2)上記1)工程により得られる鉄錯体をハロゲン化剤により処理する工程
を含むことを特徴とする回収方法により、一般式(1)で表される鉄錯体を回収する方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明による上記鉄錯体を触媒とする重合体の製造方法、及び重合反応に再利用できる該鉄錯体の回収方法により、ラジカル重合性単量体を比較的短時間で定量的に重合することが可能で、高分子量でありながら末端に化学変換可能な官能基を有する重合体およびブロック共重合体を製造できる方法が提供でき、さらに、重合反応後、ポリマーを汎用性溶剤中再沈殿することで、用いた鉄錯体を溶剤中に回収し、それを再利用した重合体製造方法を提供することが可能となる。
即ち、本発明は、上記鉄錯体を従来のラジカル重合系に用いることで、工業プロセスでの重合反応の制御に多くのメリットをもたらすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明では、一般式(1)
【0013】
【化2】

【0014】
(式中、Feは3価であり、Xは塩素原子又は臭素原子を表し、R、R及びRは、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基及び炭素数1〜8の置換基を有していても良いベンジル基からなる群から選ばれる基を表し、m及びnは2〜3の整数を表す。)
で表される鉄錯体を使用する。
上記一般式(1)で示される鉄錯体において、環状アミン化合物の基本骨格としては、具体的には、1,4,7−トリアザシクロノナン(m=n=2)、1,4,7−トリアザシクロデカン(m=2、n=3)、1,4,8−トリアザシクロウンデカン(m=3、n=2)、1,5,9−トリアザシクロドデカン(m=n=3)が挙げられるが、簡便に製造ができる点で1,4,7−トリアザシクロノナン及び1,5,9−トリアザシクロドデカン骨格好ましく、1,4,7−トリアザシクロノナン骨格がより好ましい。
【0015】
上記一般式(1)で示される鉄錯体においてR、R、Rの炭素数1〜12のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ドデシル基等が挙げられる。
【0016】
上記一般式(1)で示される鉄錯体においてR、R、Rの炭素数1〜8の置換基を有していても良いベンジル基としては、例えば、ベンジル基、4−メチルベンジル基、4−エチルベンジル基、4−n−プロピルベンジル基、4−イソプロピルベンジル基、4−n−ブチルベンジル基、4−イソブチルベンジル基、4−t−ブチルベンジル基、4−メトキシベンジル基、4−エトキシベンジル基、4−n−プロポキシベンジル基、4−イソプロポキシベンジル基、4−n−ブトキシベンジル基、4−イソブトキシベンジル基、4−t−ブトキシベンジル基、4−トリフルオロメチル基等が挙げられる。
【0017】
上記一般式(1)で示される鉄錯体において、環状アミン化合物としては、例えば、1,4−ジメチル−1,4,7−トリアザシクロノナン、1,4,7−トリ−n−プロピル−1,4,7−トリアザシクロノナン、1,4,7−トリ−n−ブチル−1,4,7−トリアザシクロノナン、1,4,7−トリ−n−ペンチル−1,4,7−トリアザシクロノナン、1,4,7−トリ−n−ヘキシル−1,4,7−トリアザシクロノナン、1,4,7−トリ−n−オクチル−1,4,7−トリアザシクロノナン、1,4,7−トリ−n−ドデシル−1,4,7−トリアザシクロノナン、1,4,7−トリベンジル−1,4,7−トリアザシクロノナン、1,4,7−トリス(4−メチルベンジル)−1,4,7−トリアザシクロノナン、1,4,7−トリス(4−n−ブチルベンジル)−1,4,7−トリアザシクロノナン、1,4,7−トリス(4−t−ブチルベンジル)−1,4,7−トリアザシクロノナン、1,4,7−トリス(4−メトキシベンジル)−1,4,7−トリアザシクロノナン、1,4,7−トリス(4−ブトキシベンジル)−1,4,7−トリアザシクロノナン、1,4,7−トリス(4−オクチロキシベンジル)−1,4,7−トリアザシクロノナン、1,4,7−トリス(4−トリフルオロメチル)−1,4,7−トリアザシクロノナン、1−ベンジル−4,7−ジメチル−1,4,7−トリアザシクロノナン、1−ベンジル−4,7−ジエチル−1,4,7−トリアザシクロノナン、1,4,7−トリメチル−1,4,7−トリアザシクロデカン、1,4,7−トリエチル−1,4,7−トリアザシクロデカン、1,4,7−トリ−n−ブチル−1,4,7−トリアザシクロデカン、1,4,7−トリベンジル−1,4,7−トリアザシクロデカン、1,4,7−トリス(4−メチルベンジル)−1,4,7−トリアザシクロデカン、1,4,7−トリス(4−メトキシベンジル)−1,4,7−トリアザシクロデカン、1,4,7−トリス(4−トリフルオロメチル)−1,4,7−トリアザシクロデカン、1,4,8−トリメチル−1,4,8−トリアザシクロウンデカン、1,4,8−トリエチル−1,4,8−トリアザシクロウンデカン、1,4,8−トリ−n−ブチル−1,4,8−トリアザシクロウンデカン、1,4,8−トリベンジル−1,4,8−トリアザシクロウンデカン、1,4,8−トリス(4−メチルベンジル)−1,4,8−トリアザシクロウンデカン、1,4,8−トリス(4−メトキシベンジル)−1,4,8−トリアザシクロウンデカン、1,4,8−トリス(4−トリフルオロメチル)−1,4,8−トリアザシクロウンデカン、1,5,9−トリメチル−1,5,9−トリアザシクロドデカン、1,5,9−トリエチル−1,5,9−トリアザシクロドデカン、1,5,9−トリ−n−ブチル−1,5,9−トリアザシクロドデカン、1,5,9−トリベンジル−1,5,9−トリアザシクロドデカン、1,5,9−トリス(4−メチルベンジル)−1,5,9−トリアザシクロドデカン、1,5,9−トリス(4−メトキシベンジル)−1,5,9−トリアザシクロドデカン、1,5,9−トリス(4−トリフルオロメチル)−1,5,9−トリアザシクロドデカン等が挙げられる。
【0018】
上記一般式(1)で表されるような、3価の鉄イオンに環状アミン化合物が配位し、かつ鉄周辺にハロゲン基を有する鉄錯体としては、Journal of American Chemical Society 1987年、109巻、7387頁に記載されているように、1,4,7−トリメチル−1,4,7−トリアザシクロノナンと塩化鉄(III)6水和物から1,4,7−トリメチル−1,4,7−トリアザシクロノナン・FeCl錯体が合成されているが、Inorganica Chimica Acta 1994年、216巻、89頁に記載されているように、1,4,7−トリイソブチル−1,4,7−トリアザシクロノナンと塩化鉄(III)6水和物からは対応するトリアザシクロノナン・FeCl錯体が合成できない。
塩化鉄(III)6水和物の替わりに無水塩化鉄(III)を用いることにより、上記一般式(1)で表されるような鉄錯体を良好な収率で得ることができる。
また、無水臭化鉄(III)を用いても、同様に上記一般式(1)で表される鉄錯体を製造することができる。
更には、脱水エーテルのような、水分量の少ない乾燥溶媒を使用して合成することが望ましい。かかる非水系での合成法により、上記一般式(1)中のR、R、Rの炭素数を増大させることで、重合性モノマーや有機溶剤に対して高い溶解性を有する鉄錯体を提供することができる。
【0019】
本発明の重合体の製造方法では、上記一般式(1)で表される鉄錯体を、鉄粉により還元することにより、2価鉄錯体とし、重合反応は実質的に当該2価鉄錯体が重合触媒として作用することに特徴を有する。
一般式(1)
【0020】
【化2】

【0021】
(式中、Feは3価であり、Xは塩素原子又は臭素原子を表し、R、R及びRは、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基及び炭素数1〜8の置換基を有していても良いベンジル基からなる群から選ばれる基を表し、m及びnは2〜3の整数を表す。)
で表される鉄錯体は、鉄粉により、例えば以下の構造(2)、(3)を有する2価鉄錯体とすることができる。
【0022】
【化3】

【0023】
(式(2)中、Feは2価であり、R、R及びRは、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基及び炭素数1〜8の置換基を有していても良いベンジル基からなる群から選ばれる基を示し、Xは塩素原子又は臭素原子を示す。)
【0024】
【化4】

(式(3)中、Feは2価であり、R、R及びRは、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基及び炭素数1〜8の置換基を有していても良いベンジル基からなる群から選ばれる基を示し、Xは塩素原子又は臭素原子を示す。Aはアニオンを示す。)
ここで挙げた2価鉄錯体の構造は、配位子の置換基R、R及びRの種類によって異なるが、何れの2価鉄錯体であっても好ましく用いることができる。
【0025】
3価鉄錯体から、鉄粉により2価鉄錯体を調製する方法は、溶剤存在下に3価鉄錯体と鉄粉を接触させればよく、特に制限なく2価鉄錯体とすることができるが、ニトリル化合物を溶剤の全部あるいは一部として使用した場合に、極めて速やかに還元反応が進行する。ニトリル化合物の種類として、特に制限はないが、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、イソブチロニトリル、バレロニトリル、イソバレロニトリル、2−メチルブチロニトリル、4−メチルバレロニトリル、ピバロニトリル、ヘキサンニトリル、ベンゾニトリル、シアノ酢酸エチル、マロノニトリル、スクシノニトリル、などが挙げられるが、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、バレロニトリル、ベンゾニトリルが好ましい。また、非プロトン性の極性化合物を溶剤の全部あるいは一部として使用した場合にも、速やかに還元反応が進行する。非プロトン性の極性化合物の種類として、特に制限はないが、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1,3−ジメチルプロピレンウレア、スルホラン、などが挙げられる。
【0026】
鉄粉の使用量は特に制限されるものではないが、鉄粉の使用量が、3価鉄錯体に対して化学量論量以上であれば、全ての3価鉄錯体が2価鉄錯体に変換されるが、化学量論以下であっても、鉄粉の使用量に応じて、2価鉄錯体と3価鉄錯体との混合物を任意な割合で容易に調製できる。この場合の鉄粉の化学量論量とは、3価鉄錯体に対して0.5モル当量である。
【0027】
次に、調製された2価鉄錯体を用いて、重合体の製造を行う。
調製された2価鉄錯体を用いて、ラジカル重合性モノマーの重合反応を行う場合、その重合反応において使用する有機ハロゲン化合物としては、例えば、α−ハロゲノカルボニル化合物、α−ハロゲノカルボン酸エステル、α−ハロゲノアルキルアレーン、ハロゲン化スルホニル、及びポリハロゲン化アルカンからなる群から選ばれる少なくとも一種の有機ハロゲン化合物であることが好ましい。より詳しくは、2−クロロアセトフェノン、2−ブロモアセトフェノン、2,2−ジクロロアセトフェノン、2,2−ジブロモアセトフェノン、1−クロロ2−2−プロパノン、1−ブロモ−2−プロパノン、1,1−ジクロロ−2−プロパノン、1,1−ジブロモ−2−プロパノン、などのカルボニル類化合物、又は、2−クロロプロピオン酸メチル、2−ブロモプロピオン酸エチル、ジクロロ酢酸メチル、ジブロモ酢酸エチル、2−ブロモ−イソ酪酸エチル、1−クロロ−1−フェニル酢酸エチル、1−ブロモ−1−フェニル酢酸エチル、2−ブロモ−イソ酪酸アントラセニルメチル、2−クロロ−2,4,4−トリメチルグルタル酸ジメチル、1,2−ビス(2−ブロモイソブチリルオキシ)エタンの如くエステル類、ベンゼンスルホン酸クロリド、p−トルエンスルホン酸クロリド、p−トルエンスルホン酸ブロミドなどのハロゲン化スルホニル類、(1−クロロエチル)ベンゼン、(1−ブロモエチル)ベンゼン、(1−ヨードエチル)ベンゼン、α,α−ジクロロトルエン、α,α−ジブロモトルエン、の如くα−ハロゲノアルキルアレーン類又は四塩化炭素、四臭化炭素の如くポリハロゲン類の化合物などがあげられる。
【0028】
有機ハロゲン化合物として、三つ以上の活性点を有する活性ハロゲン化合物を用いることで、星型ポリマーを簡単に合成することできる。例としては、1,3,5−トリス(クロロメチル)ベンゼン、1,3,5−トリス(ブロモメチル)ベンゼン、1,3,5−トリス(1−クロロエチル)ベンゼン、1,3,5−トリス(1−ブロモエチル)ベンゼン、1,2,4,5−テトラキス(クロロメチル)ベンゼン、1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチル)ベンゼン、1,2,3,4,5,6−ヘキサキス(クロロメチル)ベンゼン、1,2,3,4,5,6−ヘキサキス(ブロモメチル)ベンゼン如くα−ハロゲノアルキルアレーン類化合物などがあげられる。
【0029】
また、上記ハロゲン化合物残基をポリマーの末端又は側鎖に有するポリマーを重合開始剤として用いることもできる。例えば、ポリメタアクリレート類、ポリアクリレート類、ポリアクリルアミド類、ポリスチレン類、ポリビニルピリジン類、ポリエチレングリコール類、ポリエーテル類ポリマーの片末端又は両末端に上記ハロゲン化合物残基、例えば、α−ハロゲノカルボニル、α−ハロゲノカルボン酸エステル残基が結合したポリマーを好適に用いることができる。また、例えば、エポキシ樹脂類、ポリビニルアルコール類、多糖類などポリマーの如く側鎖に水酸基を持ち、その水酸基に活性ハロゲン化合物残基、例えばα−ハロゲノカルボン酸残基が結合したポリマーを取り上げることもできる。このようなポリマーをハロゲン化合物として用いた場合、ブロックポリマー又は櫛型ポリマーを容易に得ることができる。
【0030】
上記2価鉄錯体と、有機ハロゲン化合物とを組み合わせて使用する場合には、錯体/有機ハロゲン化合物で表されるモル比が0.1〜1の範囲での割合で使用することができるが、鉄触媒活性の高さから考えた場合、有機ハロゲン化合物が錯体より過剰であることが好ましい。
【0031】
本発明の鉄錯体によるATRP重合系は、ラジカル重合性モノマー全般に適応できる。重合性モノマーの例としては、(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリアミド類、スチレン類、ビニルピリジン類などを取りあげることができる。より詳しくは、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ジメチルアミノエチルメタクリレートなどのメタクリレート類モノマー、又は、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ベンジルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ジメチルアミノエチルアクリレートなどのアクリレート類モノマー、又は、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミドなどアクリルアミド類モノマー、又は、スチレン、2−クロロメチルスチレン、3−クロロメチルスチレン、4−クロロメチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−ビニル安息香酸エステル、p−ビニルフェニルスルホン酸エステルなどスチレン類モノマー、又はp−ビニルピリジン、o−ビニルピリジンなどのビニルピリジン類モノマーを用いることができる。
【0032】
これらのモノマーは単独又は二種類以上のモノマーを同時に用いることもできる。こうしてランダム共重合体が得られる。
また、二種類以上のモノマーを重合反応の一定時間毎に加えて使用することもできる。第一モノマーが消費されてから次のモノマーを加えることで、得られるポリマーをジブロック、又はトリブロック、あるいはそれ以上のブロック共重合体の構造とすることができる。
【0033】
ブロック共重合体での合成において、重合性モノマーをスチレン系と(メタ)アクリレート系から選定することで、その二つのポリマー骨格からなるブロック共重合体を得ることができる。また、親水性モノマーと疎水性モノマーを用いることで、親水性ポリマー骨格と疎水性ポリマー骨格からなる両親媒性ブロック共重合体を得ることができる。
【0034】
また、ブロック共重合体を得る方法として、末端にハロゲン残基を有するポリマーを開始剤として用いることで、重合性モノマーを重合させることもできる。
【0035】
ブロック共重合体を得る際に、重合性モノマーとして塩基性モノマーを用いた場合、塩基性ポリマー骨格と他のポリマー骨格から構成されるブロック共重合体を得ることができる。
【0036】
重合性モノマーと有機ハロゲン化合物を混合し、重合を行う際、重合性モノマー/ハロゲン化合物で表されるモル比は10〜10000であればよく、重合度をよりよく制御するためには、そのモル比50〜1000であれば更に好ましい。
【0037】
本発明での重合開始剤系を用いて重合反応を行う際、反応温度を室温以上に設定できるが、30〜120度の温度範囲で反応を行うことが好ましい。
【0038】
反応時間は、1〜48時間の範囲で十分であるが、ハロゲン化合物の種類、オレフィンモノマーの種類及び反応温度によりその反応時間を短く又は長く設定することができる。更に、反応時間の設定は、得られる共重合体の分子量制御に合わせて、設定することが望ましい。
【0039】
本発明における共重合反応においては、溶媒なしでのバルク重合、又は溶媒存在下での溶液重合、又はアルコール類溶剤、水性媒体中の重合などの異なる重合方法が適用できる。
【0040】
本発明の重合反応に用いることができる溶剤としては、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、酢酸ブチル、ベンゼン、トルエン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、アニソール、シアノベンゼン、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール等が挙げられるが、アセトニトリル、酢酸ブチル、トルエン、アニソールが好ましい。
【0041】
また、水性媒体中での重合では、水と任意の割合で混合できる有機溶剤類であることが好ましい。具体的には、メタノール、エタノール、アセトン、アセトニトリル、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフランなどを取り上げることができる。
【0042】
さらに、水中にて、水溶性モノマーの重合を行うこともできる。また、水中にて疎水性モノマーを分散して重合を行うこともできる。
次に、一般式(1)で示された鉄錯体を用い、重合反応終了後、回収する工程を行う。
【0043】
本工程について、以下に具体的に例を挙げて説明する。
即ち、重合反応終了後、減圧脱気した後に、反応系内を酸素雰囲気下にし、酸化を行う。その際、析出物として得られる鉄錯体をろ過し、重合物と分離する。分離した鉄錯体(析出物)を、例えばメタノール等の有機溶媒に溶解し、ハロゲン化剤として塩化水素メタノール溶液を添加し、析出物をろ過して、回収3価鉄錯体を得ることができる。
ここで、酸化工程は、酸素は雰囲気下で行っても良いし、酸素を反応液内に注入してもよい。また、酸素ガスを用いても、酸素を含む気体、例えば空気を用いることもできる。また、重合物と鉄錯体の分離を行った後、酸素処理を実施しても良く、例えば、重合終了後、再沈殿操作により、重合物と2価鉄錯体を含む溶液を分離した後、この溶液を酸素雰囲気下にし、酸化を行ってもよい。
【0044】
ハロゲン化剤としては、トリメチルクロロシランやトリメチルブロモシラン等のトリアルキルシリルハライドや、塩化水素や臭化水素等のハロゲン化水素を使用することができる。ハロゲン化水素を用いる場合には、アルコール、エーテル、ハロアルカン等に溶解させ、溶液の状態で使用することが望ましい。塩化水素を用いる場合には、塩化水素メタノール溶液や塩化水素ジエチルエーテル溶液を用いても良いし、ハロゲン化水素として臭化水素を用いる場合には、臭化水素クロロホルム溶液を用いることもできる。
その後、適宜有機溶媒で洗浄することにより、精製することができる。
【0045】
このような本発明の製造方法により得られた重合体及びブロック共重合体は、種々の用途、例えばインキ、顔料分散、カラーフィルター、フィルム、塗料、成形材料、接着剤、電気・電子品部材、医療用部材など広範に使用することができる。
【実施例】
【0046】
以下に実施例および比較例を以って本発明をより詳しく説明する。
【0047】
実施例中における測定は、以下の方法により行った。
(GPC測定法)
高速液体クロマトグラフィー(Waters社製GPC600システム)、検出器:UV及びRI、使用カラム:Showdex KF802×1本+KF803×1本+KF804×2本、溶媒THF、流速:1.0mL/min、温調:40℃にて測定した。
【0048】
(NMR測定)
H−NMRの測定は、日本電子(株)製のLambda300にて行った。
(合成例1)
<鉄錯体1の合成>
攪拌器、滴下漏斗、還流管を備えた500mLの4ツ口フラスコに、アルゴン雰囲気下、無水FeCl (2.43g、15mmol)と無水ジエチルエーテル200mLを加え、完全に溶解させた後、1,4,7−トリメチル−1,4,7−トリアザシクロノナン(3.08g、18mmol)の無水ジエチルエーテル溶液50mLを室温でゆっくり滴下し、1時間撹拌した後、錯体1を含む粗生成物をろ過により分離した。この固体をアセトニトリル500mLに加熱溶解させ不溶物をろ過により除去した後、ろ液を濃縮して、橙色の鉄錯体1を得た。(収量:4.50g、収率90%)。錯体の構造は単結晶X線構造解析により確認した。
【0049】
【化5】

【0050】
(合成例2)
<鉄錯体2の合成>
攪拌機、滴下漏斗を備えた200mLの反応容器に、アルゴン雰囲気下、無水FeCl422mg(2.6mmol)と無水ジエチルエーテル80mLを加え、完全に溶解させたのち、1,4,7−トリス(4−メトキシベンジル)−1,4,7−トリアザシクロノナン978mg(2.0mmol)の無水ジエチルエーテル溶液15mLを室温でゆっくり滴下し、1時間撹拌した後、錯体5を含む粗生成物をろ過により分離した。この固体を塩化メチレン130mLに溶解させ不溶物をろ過により除去した後、ろ液を濃縮して、山吹色の鉄錯体2を得た(1.22g、収率94%)。錯体の構造は単結晶X線構造解析により確認した。
【0051】
【化6】

【0052】
(実施例1)鉄錯体1の鉄粉による還元反応
アルゴン雰囲気下、10mLのシュレンク管に錯体1(50mg、0.15mmol)と鉄粉(4.2mg、0.08mmol)を仕込み、ここへ脱気・脱水処理したアセトニトリルd−3(CD3CN,1mL)を加え、1時間攪拌した。攪拌開始後、15分程度で、橙色不均一溶液から、黄色均一溶液へと変化した。1時間攪拌後、鉄粉は完全に消失した。この溶液を0.5mLずつに分割し、H−NMR測定とESI−MS測定を実施した。
本実施例で得られたH−NMRスペクトルは、Inorganic Chemistry 2000年、39巻、3029頁記載の方法により合成した三核錯体(化8)のそれに類似しており、二核のカチオン骨格を有することが判明した。また、ESI−MS測定からも、二核のカチオン骨格が認められ、更にアニオン部位はFeClとFeCl2−の混合物であることが判明した。H−NMRの測定結果を図1に、ESI−MSの測定結果を図2、図3に示す。
【0053】
【化7】

【0054】
【化8】

【0055】
(実施例2)鉄錯体2の鉄粉による還元反応
実施例1において、鉄錯体1と鉄粉(4.2mg)の代わりに、鉄錯体2(50mg、0.077mmol)と鉄粉(2.2mg、0.039mmol)を用いた以外は、実施例0と同様に実施した。攪拌開始後、20分程度で、橙色不均一溶液から、白色懸濁液へと変化し、1時間後に鉄粉は完全に消失した。
反応混合物のH−NMR測定とESI−MS測定を実施したところ、二核のイオン性錯体であることが判明した。
【0056】
【化9】

【0057】
(実施例3)
アルゴン雰囲気下で、スリ付き試験管に攪拌子、鉄錯体1(66.7mg,0.2mmol)、鉄粉(6.3mg、0.1mmol)、予め脱気したアセトニトリル1.5mLを加え、室温で1時間攪拌した。このとき、鉄粉は完全に消失した。次いで、予め脱気したメタクリル酸メチル(4.0g、40mmol)、トリクロロ酢酸メチル(71.0mg、0.4mol)を加えた。容器を密閉して80℃で14時間攪拌した。このときの転化率は95%であり、Mnの理論値は10000であった。反応混合物をGPC解析に供したところ、Mn=12000、Mw/Mn=1.26であった。
【0058】
(実施例4)
アルゴン雰囲気下で、スリ付き試験管に攪拌子、鉄錯体1(100mg,0.3mmol)、鉄粉(8.4mg、0.15mmol)、予め脱気したアセトニトリル2mLを加え、室温で1時間攪拌した。このとき、鉄粉は完全に消失した。次いで、予め脱気したメタクリル酸メチル(2.0g、20mmol)、1−クロロ−1−フェニル酢酸エチル(79.5mg、0.4mol)を加えた。容器を密閉して80℃で14時間攪拌した。このときの転化率は96%であり、Mnの理論値は4800であった。反応混合物をGPC解析に供したところ、Mn=6700、Mw/Mn=1.20であった。
【0059】
(実施例5)
鉄錯体1の代わりに、鉄錯体2(195.5mg,0.3mmol)を用いた以外は、実施例4と同様に実施した。転化率は96%であり、Mnの理論値は4800であった。反応混合物をGPC解析に供したところ、Mn=6400、Mw/Mn=1.16であった。次いで、予め脱気したメタクリル酸メチル(16.0g、160mmol)を追加し、80℃にて44時間攪拌した。このときのメタクリル酸メチルの転化率は80%であり、反応混合物をGPC解析に供したところ、Mn=55600、Mw/Mn=1.20であった。
図4はメタクリル酸メチル追加前後のポリマーのGPCチャートである。ポスト重合進行の結果、ポリマーは高分子量側へ大きくシフトした。このように、当該還元法を利用することにより重合制御性が改善できたことは明らかである。
【0060】
(実施例6)
アルゴン雰囲気下、300mLのシュレンク管に、攪拌子、鉄錯体1(10g、0.03mol)、鉄粉(837mg、0.015mol)を入れ、予め脱気したアセトニトリル(60mL)を加えて、室温で1時間攪拌した。このとき、反応系は終始不均一であったが、鉄粉は30分以内に完全に消失した。更に、予め脱気したアセトニトリル(220mL)を加えて、均一溶液とし、触媒溶液を調製した。
攪拌器、冷却管を備えた1Lの反応容器に、メタクリル酸ブチル(213g、1.5mol)、メタクリル酸ヒドロキシプロピル(72g、0.5mol)、1−クロロ−1−フェニル酢酸エチル(1.99g、0.01mol)を加え、攪拌下、1時間アルゴンガスを吹き込んだ。そこに、アルゴン雰囲気下、上記で調製した触媒溶液を追加し、80℃で21時間攪拌した。このときのモノマーの転化率は95%であり、反応混合物をGPC解析に供したところ、Mn=31600、Mw/Mn=1.62であった。
【0061】
(実施例7)<メタクリル酸メチルの重合反応における鉄錯体1の再生>
攪拌器、還流管を備えた100mLの反応容器に、アルゴン雰囲気下、鉄錯体1(750mg、2.25mmol)、鉄粉(63mg、1.125mmol)を入れ、予め脱気したアセトニトリル(15mL)を加えて、室温で1時間攪拌した。このとき、鉄粉は完全に消失した。次いで、予め脱気したメタクリル酸メチル(15g、150mmol)、1−クロロ−1−フェニル酢酸エチル(596mg、3mmol)を加え、80℃で15時間攪拌した。このときのモノマーの転化率は95%であり、反応混合物をGPC解析に供したところ、Mn=6200、Mw/Mn=1.30であった。
【0062】
(工程1:空気処理による酸素架橋鉄錯体3の分離)
上記反応混合物を室温まで冷却し、攪拌下、空気を2時間吹き込んだ。このとき、反応溶液は黄色均一溶液から茶色不均一溶液へと変化した。この溶液を濃縮し、500mLのトルエンを加え、不溶物をろ過し、茶色固体と黄色溶液に分離した。茶色固体を少量のトルエンで洗浄した後、減圧下で乾燥し、820mgの茶色粉末を得た。
【0063】
(工程2:塩化水素処理による鉄錯体1の再生)
50mLのシュレンク中に、上記茶色粉末(100mg)と脱水メタノール24mLを加え、30分間攪拌した。この時、溶液の色は橙色であった。この溶液に1.25mol/Lの塩化水素メタノール溶液1.2mL(1.5mmol)を室温下で加え、一晩攪拌したところ、黄色不均一系溶液となった。この溶液をろ過し、得られた固体を20mLのジエチルエーテルで2回洗浄し、減圧乾燥させ、80mgの黄色粉末を得た。IRスペクトルを測定したところ、3価の鉄錯体1とほぼ一致し、鉄錯体1が再生できることが判明した。(収率87%、0.24mmol)。再生前後の鉄錯体1のIRスペクトルを図5に示す。
【0064】
(比較例1)
アセトニトリルの代わりに、ジブチルエーテル2mLを用いた以外は、実施例4と同様に実施した。このとき、鉄粉は殆ど消費されなかった。メタクリル酸メチルの転化率は36%であり、Mn200000、Mw/Mn=1.80であった。
【0065】
(比較例2)
アセトニトリルの代わりに、酢酸ブチル2mLを用いた以外は、実施例3と同様に実施した。このとき、鉄粉は殆ど消費されなかった。メタクリル酸メチルの転化率は22%であり、Mn2600、Mw/Mn=1.41であった。
【0066】
(比較例3)
アルゴン雰囲気下で、スリ付き試験管に、Inorganic Chemistry,2000年,39巻,3029頁に記載の方法により合成した2価の鉄錯体3(59.6mg,0.2mmol)を空気中で一晩放置したもの、予め脱気したアセトニトリル4mLを加えた。そこへ、予め脱気したメタクリル酸メチル(4.0g、40mmol)、トリクロロ酢酸メチル(71.0mg、0.4mmol)を入れ、容器を密閉して80℃で15時間攪拌した。このときの転化率は85%であり、Mnの理論値は10000であった。反応混合物をGPC解析に供したところ、Mn=15000、Mw/Mn=2.2であった。
【0067】
(比較例4)
アルゴン雰囲気下で、スリ付き試験管に攪拌子、鉄錯体1(133.2mg,0.4mmol)、AIBN(32.8mg、0.2mmol)、メタクリル酸メチル(2.0g、20mmol)、アセトニトリル2mLを入れ、1時間アルゴンガスを吹き込んだ。容器を密閉して80℃で6時間攪拌した。このときの転化率は95%であり、Mnの理論値は4750であった。反応混合物をGPC解析に供したところ、Mn=10100、Mw/Mn=1.63であった。
【0068】
(比較例5)
鉄錯体1の代わりに、鉄錯体2(260.6mg,0.4mmol)を用いた以外は、比較例3と同様に実施した。転化率は92%であり、Mnの理論値は4600であった。反応混合物をGPC解析に供したところ、Mn=7400、Mw/Mn=1.25であった。
【0069】
(比較例6)
アルゴン雰囲気下で、スリ付き試験管に攪拌子、鉄錯体2(130.3mg,0.2mmol)、予め脱気したメタクリル酸メチル(5.0g、50mmol)、2−ブロモ−イソ酪酸エチル(39mg、0.2mmol)を加えた。容器を密閉して100℃で20時間攪拌した。このときの転化率は5%未満であった。
【0070】
(比較例7)
メタクリル酸メチルの代わりに、アクリル酸ブチル(6.41g、50mmol)を用いた以外は、比較例3と同様に実施した。24時間攪拌しても、重合反応は進行しなかった。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】実施例1におけるH−NMRスペクトル
【図2】実施例1におけるESI−MSスペクトル
【図3】実施例1におけるESI−MSスペクトル
【図4】実施例5におけるメタクリル酸メチル追加前後のポリマーのGPCチャート
【図5】実施例7における再生前後の鉄錯体1のIRスペクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄錯体を触媒とする重合体の製造方法において、一般式(1)
【化1】

(式中、Feは3価であり、Xは塩素原子又は臭素原子を表し、R、R及びRは、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基及び炭素数1〜8の置換基を有していても良いベンジル基からなる群から選ばれる基を表し、m及びnは2〜3の整数を表す。)
で表される3価鉄錯体に鉄粉を添加することにより調整される2価鉄錯体を重合触媒として用いる重合体の製造方法。
【請求項2】
前記一般式(1)中のR、R及びRが、ベンゼン環上の4位に炭素数1〜8の置換基を有するベンジル基である請求項1に記載の重合体の製造方法。
【請求項3】
前記置換基が炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜8のアルコキシ基又は炭素数1〜8のフッ素化アルキル基である請求項2に記載の重合体の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の重合体の製造方法において、有機ハロゲン化合物の存在下で、少なくとも一種のラジカル重合性単量体を重合することを特徴とする重合体の製造方法。
【請求項5】
前記有機ハロゲン化合物が、α−ハロゲノカルボニル化合物、α−ハロゲノカルボン酸エステル、α−ハロゲノアルキルアレーン、ハロゲン化スルホニル、及びポリハロゲン化アルカンからなる群から選ばれる少なくとも一種の有機ハロゲン化合物である請求項4に記載の重合体の製造方法。
【請求項6】
前記ラジカル重合性単量体が、スチレン系単量体、ビニルピリジン系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体及び(メタ)アクリルアミド系単量体からなる群から選ばれる少なくとも1種のラジカル重合性単量体である請求項4又は5に記載の重合体の製造方法。
【請求項7】
前記ラジカル重合性単量体として、2種類以上のラジカル重合性単量体を用いてブロック共重合する請求項1乃至6のいずれか一項に記載の重合体の製造方法。
【請求項8】
前記ラジカル重合性単量体として、2種類以上のラジカル重合性単量体を用いてランダム共重合する請求項1乃至6のいずれか一項に記載の重合体の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の製造方法で重合体を製造した後、
工程1)該重合体を酸素により処理した後鉄錯体と反応混合物とを分離する工程
又は、
鉄錯体と重合体を分離した後該鉄錯体を酸素により処理する工程
工程2)上記1)工程により得られる鉄錯体をハロゲン化剤により処理する工程
を含む回収方法により、一般式(1)
【化2】

(式中、Feは3価であり、Xは塩素原子又は臭素原子を表し、R、R及びRは、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基及び炭素数1〜8の置換基を有していても良いベンジル基からなる群から選ばれる基を表し、m及びnは2〜3の整数を表す。)
で表される鉄錯体を回収する方法。
【請求項10】
前記ハロゲン化剤が、トリメチルクロロシラン、塩化水素又は臭化水素である請求項9に記載の鉄錯体を回収する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−95622(P2010−95622A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−267386(P2008−267386)
【出願日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】