説明

鉄骨架構の制振構造

【課題】設置に大きな制限を受けることがなく、確実且つ好適に鉄骨架構の応答を低減させることが可能な鉄骨架構の制振構造を提供する。
【解決手段】鉄骨柱11と鉄骨梁12を組み付けて多層構造で形成された鉄骨架構10の制振構造Cであって、制振ダンパー14とブレース15を備えて構成する。そして、制振ダンパー14は、鉄骨架構10を設置した床面Fに固設する。また、ブレース15は、鉄骨柱11と鉄骨梁12で囲まれた構面T1の外側に且つ複数層に跨って配設する。さらに、ブレース15を、一端15aを制振ダンパー14に繋げ、他端15bを鉄骨架構10の上層に繋げて設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば工場や倉庫内に設置されるラックや機械設備のフレームなどの鉄骨架構の制振構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば建物の柱部材1と梁部材2で囲まれた構面T1内に、図5(a)〜図5(c)に示すように、制振ダンパー3と壁部材4(振動エネルギー吸収機構、制振構造A)を設置したり、図6(a)〜図6(d)に示すように、制振ダンパー3とブレース5(振動エネルギー吸収機構、制振構造B)を設置して、建物の地震時応答を低減させることが行われている。
【0003】
このとき、制振ダンパー3と壁部材4からなる制振構造Aでは、地震時の架構(1、2)の層間変形がRC壁4aやPCa板4bなどを用いて形成した壁部材4を通じて制振ダンパー3に伝達され、この制振ダンパー3が振動エネルギーを吸収して建物の応答を低減する効果が発揮される。このため、制振ダンパー3に層間変形を伝達する壁部材4が十分な剛性を有し、且つこの壁部材4を固定する梁部材2も十分な剛性を有していることが必要になる。
【0004】
また、制振ダンパー3とブレース5からなる制振構造Bでは、地震時の架構(1、2)の層間変形がブレース5を通じて制振ダンパー3に伝達され、この制振ダンパー3が振動エネルギーを吸収して建物の応答を低減する効果が発揮される。また、振動エネルギーの吸収に伴って発生する制振ダンパー3からの抵抗力を架構(1、2)に効率よく伝達させるために、一般に、ブレース5は、その一端部5aを柱部材1と梁部材2の接合部S1に繋げて配設するようにしている。すなわち、ブレース5の一端部5aを柱部材1と梁部材2の接合部S1ではなく、柱部材1もしくは梁部材2の中間部S2に繋げると、柱部材1もしくは梁部材2に大きな剛性が必要になる。そして、剛性が不足すると制振ダンパー3からの抵抗力によって柱部材1もしくは梁部材2に撓みが生じ、制振ダンパー3の抵抗力の伝達に損失が生じて十分に建物の応答を低減する効果が得られなくなってしまう。
【0005】
一方、工場や倉庫内に設置されるラックや機械設備のフレーム(鉄骨架構)などにおいても、ラックに収納した製品(荷物)、フレーム内の機械設備を地震から守るために、制振構造を設けることが求められている。そして、この種の鉄骨架構の制振構造には、鉄骨柱に極低降伏点鋼の柱部材を用いたり、鋼製ダンパーを組み込んで構成したものがある(例えば、特許文献1参照)。また、鉄骨架構(ラック)と建屋の間に制振ダンパーを設置して構成したものもある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−27815号公報
【特許文献2】特開2004−10294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、工場や倉庫内に設置されるラックや機械設備のフレームなどの鉄骨架構の制振構造として、鉄骨柱に極低降伏点鋼の柱部材を用いたり、鋼製ダンパーを組み込んだ制振構造を採用した場合、鉄骨架構の地震時の応答変形が一定以上になり、極低降伏点鋼や鋼製ダンパーが塑性域に入ってから振動エネルギーの吸収効果が発揮される。すなわち、極低降伏点鋼や鋼製ダンパーが塑性域に入るまで制振効果が得られない。このため、中小地震に対する応答低減効果が期待できないという問題があった。
【0008】
また、鉄骨架構と建屋の間に制振ダンパーを設置した制振構造においては、鉄骨架構の近傍に建屋躯体があることが必要であり、その採用に大きな制限が生じるという問題があった。すなわち、鉄骨架構と建屋躯体が離れている場合には、制振ダンパーを設置するための部材が長くなり、この部材の剛性を十分に取ることが難しくなって、やはり採用が困難になるケースが多い。
【0009】
一方、この種の鉄骨架構に図5(a)〜図5(c)や図6(a)〜図6(d)に示した制振構造A、Bを採用して地震時応答を低減させることも考えられる。しかしながら、工場や倉庫内に設置されるラックや機械設備のフレームなどの鉄骨架構は、鉄骨柱や鉄骨梁に軽量鉄骨を用いて形成されていることが多く、鉄骨架構の剛性/荷重支持能力が小さい。このため、重量が大きな壁部材4(RC壁4aやPCa板4b)を鉄骨梁で支持して設置する図5(a)〜図5(c)の制振構造Aを採用することは、難しい。
【0010】
また、図6(a)の制振構造Bは、1つの制振ダンパー3を設置するために4本のブレース5が必要になる。さらに、鉄骨柱と鉄骨梁で囲まれた構面T1の中央に制振ダンパー3が配設されることになるため、ブレース5及び制振ダンパー3が荷物(製品)や機器、配管などに対して大きな妨げ(邪魔)になってしまう。
【0011】
また、図6(b)の制振構造Bは、制振ダンパー3の固定端部(右固定端部)を鉄骨梁(もしくは鉄骨柱)の端部側に固定することになるため、制振ダンパー3に発生する軸力と固定部材6の高さの積であるモーメントが鉄骨梁に作用する。このため、特に軽量鉄骨を用いて鉄骨架構が形成されている場合には、モーメントによって鉄骨梁に変形が生じ、制振ダンパー3の抵抗力の伝達に損失が生じて十分に鉄骨架構の応答を低減する効果が得られないおそれがある。
【0012】
さらに、図6(c)の制振構造Bにおいても、ブレース5の他端部5bを鉄骨梁の中間部S2に繋げてブレース5が配設されることになるため、鉄骨梁が変形し、制振ダンパー3の抵抗力の伝達に損失が生じて十分に鉄骨架構の応答を低減する効果が得られないおそれがある。
【0013】
また、図6(d)の制振構造Bは、制振ダンパー3が鉄骨梁の中間部S2に繋げて配設されることになるため、制振ダンパー3から発生する抵抗力により、鉄骨梁に撓みが発生し、やはり十分に鉄骨架構の応答を低減する効果が得られないおそれがある。
【0014】
本発明は、上記事情に鑑み、設置に大きな制限を受けることがなく、確実且つ好適に鉄骨架構の応答を低減させることが可能な鉄骨架構の制振構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0016】
本発明の鉄骨架構の制振構造は、鉄骨柱と鉄骨梁を組み付けて多層構造で形成された鉄骨架構の制振構造であって、制振ダンパーとブレースを備え、前記制振ダンパーは、前記鉄骨架構を設置した床面に固設され、前記ブレースは、前記鉄骨柱と前記鉄骨梁で囲まれた構面の外側に且つ複数層に跨って配設されるとともに、一端を前記制振ダンパーに繋げ、他端を前記鉄骨架構の上層に繋げて設けられていることを特徴とする。
【0017】
この発明においては、制振ダンパーに繋がるブレース(制振ダンパー及びブレース)を、鉄骨柱と鉄骨梁で囲まれた構面内ではなく、構面の外側に配設することによって、このブレース(制振構造)を鉄骨架構のスパン間隔にかかわりなく自由に設置することが可能になる。これにより、鉄骨架構の上下方向の複数層に跨ってブレースが配設されても、各層に収納する製品などの荷物や機器へのブレースの干渉を少なくすることができる。
【0018】
また、地震時に生じる鉄骨架構の揺れ(鉄骨架構の層間変形)がブレースを通じて制振ダンパーに伝達される際に、この制振ダンパーが床面に固設されているため、構面内に設置した従来の制振構造のように、鉄骨架構に変形が生じることがなく、最も有効に制振ダンパーに鉄骨架構の揺れを伝達させることが可能になる。
【0019】
また、本発明の鉄骨架構の制振構造において、前記ブレースは、前記鉄骨柱と前記鉄骨梁の接合部に前記他端を繋げて設けられていることが望ましい。
【0020】
この発明においては、ブレースの他端を鉄骨柱と鉄骨梁の接合部に繋げることにより、確実にブレースを通じて鉄骨架構の揺れを制振ダンパーに伝達し、この制振ダンパーで振動エネルギーを吸収させることができる。また、このようにブレースの他端を鉄骨柱と鉄骨梁の接合部に繋げることで、制振ダンパーで発生した抵抗力によって鉄骨柱や鉄骨梁が変形するようなことが確実になくなり、好適に鉄骨架構の応答低減効果を発揮させることが可能になる。
【0021】
さらに、本発明の鉄骨架構の制振構造において、前記ブレースの他端が繋がる前記鉄骨架構の上層に、補剛部材が前記鉄骨柱と前記鉄骨梁にそれぞれ端部を繋げて架設され、前記ブレースは、前記補剛部材の端部を繋げた前記鉄骨柱あるいは前記鉄骨梁の中間接合部に前記他端を繋げて設けるようにしてもよい。
【0022】
この発明においても、補剛部材が繋がる鉄骨柱あるいは鉄骨梁の中間接合部にブレースの他端を繋げることにより、すなわち、補剛部材で補強した鉄骨柱あるいは鉄骨梁の中間部分にブレースを繋げることにより、確実にブレースを通じて鉄骨架構の揺れを制振ダンパーに伝達し、この制振ダンパーで振動エネルギーを吸収させることができる。そして、このように補剛部材で補剛した中間接合部にブレースを繋げることで、制振ダンパーで発生した抵抗力によって鉄骨柱や鉄骨梁が変形するようなことがなく、好適に鉄骨架構の応答低減効果を発揮させることが可能になる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の鉄骨架構の制振構造においては、制振ダンパーに繋がるブレース(制振ダンパー及びブレース)を、鉄骨柱と鉄骨梁で囲まれた構面内ではなく、構面の外側に配設することによって、このブレース(制振構造)を鉄骨架構のスパン間隔にかかわりなく自由に設置することが可能になる。これにより、鉄骨架構の上下方向の複数層に跨ってブレースが配設されても、各層に収納する製品などの荷物や機器へのブレースの干渉を少なくすることができる。
【0024】
また、地震時に生じる鉄骨架構の揺れ(鉄骨架構の層間変形)がブレースを通じて制振ダンパーに伝達される際に、この制振ダンパーが床面に固設されているため、構面内に設置した従来の制振構造のように、鉄骨架構に変形が生じることがなく、最も有効に制振ダンパーに鉄骨架構の揺れを伝達させることが可能になる
【0025】
よって、本発明の鉄骨架構の制振構造によれば、設置に大きな制限を受けることがなく、確実且つ好適に鉄骨架構の応答を低減させることが可能になる。また、小型の制振ダンパーを用いたり、制振ダンパーの数を減らしても、確実に鉄骨架構に制振性能を付与することが可能になる。なお、制振ダンパーとしてオイルダンパーや粘弾性ダンパーを用いることで、中小地震に対しても鉄骨架構の応答を確実に低減することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態に係る鉄骨架構の制振構造を示す正面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る鉄骨架構の制振構造を示す側面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る鉄骨架構の制振構造の制振ダンパーを示す正面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る鉄骨架構の制振構造の変形例を示す正面図である。
【図5】従来の制振構造を示す正面図である。
【図6】従来の制振構造を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図1から図3を参照し、本発明の一実施形態に係る鉄骨架構の制振構造について説明する。
【0028】
本実施形態の鉄骨架構10は、例えば工場や倉庫内に設置されるラックなどの鉄骨架構であり、図1及び図2に示すように、軽量鉄骨の鉄骨柱11と鉄骨梁12を組み付けて上下方向に並設する複数のラックを備える多段構造(多層構造)で形成されている。また、この鉄骨架構10は、横方向にも複数のラックが並設されて、多列構造で形成されている。さらに、本実施形態の鉄骨架構10は、最下層(下から1段目の層)よりも上層(下から2段目の層)の各構面T1内に、鉄骨である補剛部材13が各構面T1を形成する鉄骨柱11と鉄骨梁12にそれぞれ端部をボルト接合あるいは溶接で繋げて架設されている。
【0029】
一方、本実施形態の制振構造C(鉄骨架構の制振構造)は、制振ダンパー14とブレース15とを備えて構成されている。制振ダンパー14は、例えばオイルダンパー、粘弾性ダンパーなどであり、図1から図3に示すように、鉄骨架構10を設置した床面Fに固設されている。なお、条件によっては、制振ダンパー14として摩擦ダンパーや鋼材ダンパーなどの他の制振ダンパーを用いてもよい。
【0030】
ブレース15は、鉄骨柱11と鉄骨梁12で囲まれた構面T1の外側に且つ鉄骨架構10の最下層と2段目の層に跨って(複数層に跨って)配設されている。そして、このブレース15は、一端15aを制振ダンパー14に繋げ、補剛部材13の端部を繋げて補強(補剛)された鉄骨柱11の中間接合部S3(鉄骨架構10の上層)に他端15bをボルト接合あるいは溶接で繋げて配設されている。また、複数のブレース15が、横方向に隣り合うブレース15同士によっていわゆるV型ブレースを形成するように並設され、隣り合うブレース15の一端15a同士(ブレース交差部15c)が1つの制振ダンパー14の一端にボルト接合あるいは溶接で繋げられている。そして、V型ブレースを形成するように並設した一対のブレース15と、これら一対のブレース15が繋がる1つの制振ダンパー14によって制振構造Cが構成され、複数の制振構造Cが鉄骨架構10の横方向に並設されている。
【0031】
ついで、本実施形態の制振構造Cの作用及び効果について説明する。
【0032】
はじめに、本実施形態の制振構造Cは、ブレース15を鉄骨架構10の構面T1の外側に配設して構成されている。このため、例えば図1に示すように、鉄骨架構10のスパン間隔H1、H2(横方向に並設した列の間隔)が異なっている場合であっても、制振ダンパー14の設置位置を適宜調整して、制振構造C(ブレース15)が自由に設置される。そして、このように任意の位置に制振構造Cを設置することで、鉄骨架構10のラックに置かれる製品などの荷物や機器にブレース15が干渉して邪魔になることがない。
【0033】
一方、地震によって鉄骨架構10の揺れ(鉄骨架構10の層間変形)が生じた際には、鉄骨架構10の揺れがブレース15を通じて制振ダンパー14に伝達される。このとき、制振ダンパー14が床面Fに固設されているため、従来の制振構造A、Bを構面T1内に設置する場合と比較し、鉄骨架構10に変形が生じることなく、最も有効に制振ダンパー14に鉄骨架構10の揺れが伝達される。このため、振動エネルギーが確実に制振ダンパー14によって吸収されることになる。
【0034】
さらに、本実施形態では、ブレース15の他端15bが、補剛部材13の端部を繋げて補強された鉄骨柱11の中間接合部S3(鉄骨架構10の上層)に繋げられている。このため、制振ダンパー14で振動エネルギーを吸収する際に発生する抵抗力によって鉄骨柱11に変形が生じることが確実に防止される。
【0035】
また、本実施形態のように制振ダンパー14にオイルダンパー、粘弾性ダンパーを適用することで、中小地震に対しても、すなわち、鉄骨架構10に作用する振動エネルギーが小さい場合であっても(地震時の応答変形が小さい領域から)、ブレース15を通じて振動エネルギーが伝達されるとともに確実にこの振動エネルギーが制振ダンパー14で吸収されることになる。
【0036】
これにより、本実施形態の制振構造Cを工場や倉庫内に設置されるラックなどの鉄骨架構10に設置することで、確実且つ好適に鉄骨架構10の応答が低減される。
【0037】
したがって、本実施形態の鉄骨架構の制振構造Cにおいては、制振ダンパー14に繋がるブレース15(制振ダンパー14及びブレース15)を、鉄骨柱11と鉄骨梁12で囲まれた構面T1内ではなく、構面T1の外側に配設することによって、このブレース15(制振構造C)を鉄骨架構10のスパン間隔H1、H2にかかわりなく自由に設置することが可能になる。これにより、鉄骨架構10の上下方向の複数層に跨ってブレース15が配設されても、各層に収納する製品などの荷物や機器へのブレース15の干渉を少なくすることができる。
【0038】
また、地震時に生じる鉄骨架構10の揺れがブレース15を通じて制振ダンパー14に伝達される際に、この制振ダンパー14が床面Fに固設されているため、構面T1内に設置した従来の制振構造A、Bのように、鉄骨架構10に変形が生じることがなく、最も有効に制振ダンパー14に鉄骨架構10の揺れを伝達させることが可能になる。
【0039】
よって、本発明の鉄骨架構の制振構造Cによれば、設置に大きな制限を受けることがなく、確実且つ好適に鉄骨架構10の応答を低減させることが可能になる。また、小型の制振ダンパー14を用いたり、制振ダンパー14の数を減らしても、確実に鉄骨架構10に制振性能を付与することが可能になる。また、本実施形態のように制振ダンパー14としてオイルダンパーや粘弾性ダンパーを用いることで、中小地震に対しても鉄骨架構10の応答を確実に低減することが可能である。
【0040】
さらに、本実施形態のように、補剛部材13が繋がる鉄骨柱11の中間接合部S3にブレース15の他端15bを繋げることにより、確実にブレース15を通じて鉄骨架構10の揺れを制振ダンパー14に伝達し、この制振ダンパー14で振動エネルギーを吸収させることができる。そして、このように補剛部材13で補剛した中間接合部S3にブレース15を繋げることで、制振ダンパー14で発生した抵抗力によって鉄骨柱11が変形するようなことがなく、好適に鉄骨架構10の応答低減効果を発揮させることが可能になる。
【0041】
以上、本発明に係る建物の鉄骨架構の制振構造の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本実施形態では、ブレース15がその他端15bを補剛部材13の端部を繋げて補強された鉄骨柱11の中間接合部S3に繋げて設けられているものとしたが、本発明に係るブレース15は、鉄骨梁12の補剛部材13の端部が繋がって補強された部分(中間接合部)に他端15bを繋げて設けるようにしてもよい。この場合においても、確実にブレース15を通じて鉄骨架構10の揺れを制振ダンパー14に伝達し、この制振ダンパー14で振動エネルギーを吸収させることができる。また、制振ダンパー14で発生した抵抗力によって鉄骨梁12が変形するようなことがなく、好適に鉄骨架構10の応答低減効果を発揮させることが可能である。
【0042】
さらに、図4に示すように、鉄骨柱11と鉄骨梁12の接合部S1に他端15bを繋げてブレース15を配設するようにしてもよい。この場合においても、上記と同様、鉄骨架構の変形を防止して、好適に鉄骨架構10の応答低減効果を発揮させることが可能である。
【0043】
また、本実施形態では、ブレース15が鉄骨架構10の最下層と2段目の層に跨って配設され、2段目の層を形成する鉄骨柱11(鉄骨架構10の上層)に繋げて配設されているものとしたが、このブレース15は、効果的に鉄骨架構10の応答を低減させることが可能な層(上層)に繋げて配設すればよく、2段目の層を形成する鉄骨柱11に繋げて配設することに限定する必要はない。
【0044】
さらに、本実施形態では、制振ダンパーがオイルダンパー、粘弾性ダンパーであるものとして説明を行ったが、制振効果を期待する条件によっては、制振ダンパーとして摩擦ダンパーや鋼材ダンパーなどを適用することも可能である。
【符号の説明】
【0045】
10 鉄骨架構
11 鉄骨柱
12 鉄骨梁
13 補剛部材
14 制振ダンパー
15 ブレース
15a 一端
15b 他端
15c ブレース交差部
A 従来の制振構造
B 従来の制振構造
C 制振構造
F 床面
H1 鉄骨架構のスパン間隔
H2 鉄骨架構のスパン間隔
S1 接合部
S2 中間部
S3 中間接合部
T1 構面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄骨柱と鉄骨梁を組み付けて多層構造で形成された鉄骨架構の制振構造であって、
制振ダンパーとブレースを備え、
前記制振ダンパーは、前記鉄骨架構を設置した床面に固設され、
前記ブレースは、前記鉄骨柱と前記鉄骨梁で囲まれた構面の外側に且つ複数層に跨って配設されるとともに、一端を前記制振ダンパーに繋げ、他端を前記鉄骨架構の上層に繋げて設けられていることを特徴とする鉄骨架構の制振構造。
【請求項2】
請求項1記載の鉄骨架構の制振構造において、
前記ブレースは、前記鉄骨柱と前記鉄骨梁の接合部に前記他端を繋げて設けられていることを特徴とする鉄骨架構の制振構造。
【請求項3】
請求項1記載の鉄骨架構の制振構造において、
前記ブレースの他端が繋がる前記鉄骨架構の上層に、補剛部材が前記鉄骨柱と前記鉄骨梁にそれぞれ端部を繋げて架設され、
前記ブレースは、前記補剛部材の端部を繋げた前記鉄骨柱あるいは前記鉄骨梁の中間接合部に前記他端を繋げて設けられていることを特徴とする鉄骨架構の制振構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−203133(P2010−203133A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−49430(P2009−49430)
【出願日】平成21年3月3日(2009.3.3)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】