説明

鉛フリーはんだ送給ポンプ

【課題】溶融はんだ液中に設けられた送給ポンプの内部や羽根車等の構成部品の清掃や点検を容易に行うことができるようにして、生産性を損なうことなく、良品質のプリント配線板を安定して供給できるようにすることである。
【解決手段】はんだ槽1に着脱自在に取り付けられたモータ台座43上に取付けられたモータ44のモータ軸47と、羽根車35の挿入孔32の封止蓋34と一体に形成された軸カバー33により同軸状に被われたポンプ軸36とを連結し、はんだ槽1中の溶融はんだ2中に設けられたポンプハウジング31内に、ばね40で封止蓋34を付勢しつつこのポンプハウジング31内で回転する羽根車35を着脱自在に装着可能としたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板を鉛フリーはんだによってはんだ付けするフローはんだ付け装置において使用されている送給ポンプに係り、特に、ステンレス鋼材等に対して浸食性を有するところの錫を主成分とする錫富化鉛フリーはんだの溶融液中で使用される鉛フリーはんだ送給ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板と溶融状態のはんだ(以下、溶融はんだと呼称する)を接触させることで該プリント配線板の被はんだ付け部にはんだを供給してはんだ付けを行うフローはんだ付け装置では、この溶融はんだの噴流波を形成するために送給ポンプが使用されている。
【0003】
一方で、従来から使用されてきたはんだ、例えば63重量%錫−37重量%鉛はんだ(以後、錫−37鉛はんだのように記載する)に代えて、鉛を含有しないはんだ、すなわち鉛フリーはんだが使用されるようになってきた。このことは、環境や人体に対する鉛毒汚染を解消するためである。そして、この鉛フリーはんだは、錫を主成分とするものが殆どである。
【0004】
鉛フリーはんだの代表的な例としては、例えば、錫−銀−銅系の鉛フリーはんだ(錫−3.5銀−0.75銅はんだ等)、錫−銅系の鉛フリーはんだ(錫−0.7銅はんだ等)、錫−銀系の鉛フリーはんだ(錫−4銀はんだ等)、錫−亜鉛系の鉛フリーはんだ(錫−9亜鉛はんだ等)、等々があり、その他にも、これらのはんだにさらに微量の元素を加えてはんだの諸特性を改善したものが多数ある。このように、鉛フリーはんだの殆どは、いずれも錫の含有量が85%以上の錫富化鉛フリーはんだである。
【0005】
ところで、はんだ付け装置のはんだ槽本体やヒータ、温度センサ(ヒータおよび温度センサのシース)、等々の主機や、噴流を形成するためのポンプや吹き口、スキーマ等の酸化物除去装置、搬送コンベア、等々の補機には、従来から耐食性に優れたステンレス鋼等の鋼材が使用されてきた。
【0006】
しかし、このステンレス鋼も従来から使用されてきた錫−37鉛はんだと比較して錫富化の鉛フリーはんだに対してはエロージョンを生じ易く、その浸食速度もはんだの作業温度に対して指数関数的に速くなることから、このステンレス鋼の表面を窒化処理したり、また表面にセラミックス皮膜を設けたり、表面に金属間化合物を形成したりする等の対策が図られている。
【0007】
図4は、この種のフローはんだ付け装置とその溶融はんだ中で使用される送給ポンプを説明する図で、(a)は全容を説明する斜視図、(b)は(a)の縦断面を見た図である。
【0008】
すなわち、図示しないヒータおよび温度制御装置により目的とする温度に保持された溶融状態のはんだ(溶融はんだ)がはんだ槽1内に収容されており、この溶融はんだ2をその液中に設けられた送給ポンプ3により、その吸い込み口4から吸い込み、吐出口5から吐出してチャンバ体6を介して吹き口体7へ供給し、該吹き口体7の吹き口8に溶融はんだの噴流波9を形成する仕組みである。
【0009】
送給ポンプ3は、ポンプハウジング10内の羽根車11をポンプ軸12とカプラ13により結合されたモータ14によって回転駆動することにより作動し、ポンプハウジング10およびチャンバ体6は、はんだ槽1の上縁にねじ16で固定された吊り下げ部15によって、溶融はんだ2の液中に対して出し入れ自在に設けられている。モータ14はねじ18等により台座17に固定され、この台座17ははんだ槽1にねじ19等により固定されている。また、羽根車11とポンプ軸12も図示しないねじにより固定されている。
【0010】
なお、チャンバ体6内に設けられた案内板20と吹き口体7に設けられた整流板21とは、溶融はんだ2の流れを整えるための部材である。また、吹き口体7はチャンバ体6に着脱自在に設けられ、溶融はんだ液面上に位置する長さに構成されたスリーブ22を通してねじ23により固定する構成になっている。これにより、溶融はんだ液面からの吹き口体7の着脱が可能なように構成されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
プリント配線板のはんだ付けに使用されるはんだが従来の錫−37鉛はんだから錫富化鉛フリーはんだになったことにより、微細な粒子状(外形100μm以下)の酸化物が発生するようになり、被はんだ付けワークであるプリント配線板に付着して機能障害を生じる原因になっている。この酸化物は送給ポンプ3等の内部に付着し易い。また、錫富化鉛フリーはんだに使用される送給ポンプ3では、溶融はんだ2との摩擦速度や溶融はんだ2の流速が速いので他の部位と比較してエロージョンの進行速度が速くなる。
【0012】
そのため、送給ポンプ3内部の清掃や点検を従来よりも頻繁に行う必要性がある。しかし、従来の送給ポンプ3は図4の例でもわかるように容易に分解することができない構成になっているため、特にポンプハウジング10内部の清掃・点検や羽根車11の清掃・点検に多くの時間が必要になり、生産ラインを休止する必要があって生産性が著しく低下する問題が現れてきた。
【0013】
本発明は、溶融はんだ液中に設けられた送給ポンプの内部や羽根車等の構成部品の清掃や点検を容易に行うことができるようにすることによって、生産性を損なうことなく品質の良いプリント配線板を安定して生産できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、溶融はんだの液中に設けられる送給ポンプを容易に分解し、かつ溶融はんだ液中から容易に引き上げることができるように構成したところに特徴がある。
【0015】
すなわち、はんだ槽内に収容された溶融状態にある鉛フリーはんだの溶融液中にはんだ槽の上縁に吊り下げて出し入れ自在にポンプハウジングを設け、このポンプハウジング内で回転することにより前記鉛フリーはんだを送給する回転送給手段が、この回転送給手段を回転駆動するモータであって前記はんだ槽に対してクランプ手段により着脱自在に固定された台座に設けられたモータと連結して設けられるように構成する。
【0016】
そして、一方で前記ポンプハウジングには前記回転送給手段の挿抜が可能な挿入孔を設け、また、前記挿入孔を封止する封止蓋と、前記回転送給手段の回転駆動軸の周囲に同軸状に設けると共に前記回転駆動軸の周囲を覆いその端部が前記溶融状態の鉛フリーはんだの液面の上部に位置するように設けられた軸カバーとを一体に設け、さらにこの軸カバーのうち溶融状態の鉛フリーはんだの液面の上部に位置する端部と前記モータが設けられた台座とを前記封止蓋が前記ポンプハウジングに押圧される方向に反発力を作用させるばね手段を介して前記回転駆動軸の軸方向に前進後退可能に設けられて成るように構成した鉛フリーはんだ送給ポンプである。
【0017】
この送給ポンプでは、モータを設けた台座のクランプを解除することにより、はんだ槽に対して前記台座を容易に取り外すことができる。また、このモータと台座を取り外すことにより、送給ポンプのポンプハウジング内にある回転送給手段を挿入孔を通して容易に溶融はんだ液中より引き上げることができる。そして、送給ポンプのポンプハウジングもはんだ槽の上縁に吊り下げて設けてあるので容易に溶融はんだ中より引き上げることができる。
【0018】
一方で、ポンプハウジングに設けられた回転送給手段を挿抜する挿入孔は、ばね手段の反発力により封止蓋がポンプハウジングに押圧されて封止されているので、隙間等を生じることがなく、したがって、送給される溶融はんだがポンプハウジングから漏洩することがなく、ポンプ効率が低下することがない。また、軸カバーによりポンプの回転駆動軸が覆われているため、この回転駆動軸と溶融はんだとの摩擦部分で溶融はんだの酸化が促進されなくなり、酸化物の発生量も少なくなる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の鉛フリーはんだ送給ポンプによれば、溶融はんだ液中に設けられる送給ポンプの羽根車等の回転送給手段を容易に引き上げて清掃や点検を行うことができるようになる。また、ポンプハウジングも溶融はんだ液中から容易に引き上げて清掃や点検を行うことができる。しかも、このように容易に分解できるようにしたにもかかわらずポンプハウジングから溶融はんだが漏洩するようなこともなく高いポンプ効率を維持することができる。
【0020】
その結果、鉛フリーはんだを使用したことによって生産ラインを一時的に休止させるような必要はなく、清掃や点検等のメンテナンス作業に伴う時間を極めて短縮することができるようになり、生産性を損なうことなく品質の良いプリント配線板を安定して生産できるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の鉛フリーはんだ送給ポンプは、次のような形態例において実施することができる。この例は、図4に例示したようなフローはんだ付け装置に使用される鉛フリーはんだ送給ポンプを着脱が容易なように設けた例である。
【0022】
図1は本発明の一実施例を示すフローはんだ付け装置における、はんだ槽内の溶融はんだ中に設けられた鉛フリーはんだ送給ポンプをその吐出口に対して横方向の断面で見た図である。また、図2は、図4(b)と同様に鉛フリーはんだ送給ポンプを縦方向の断面で見た図である。さらに、図3は、ポンプハウジング内の羽根車を抜き取った状態を説明する図で、図1と同様の吐出口に対して横方向の断面で見た図である。
【0023】
すなわち、図示しないヒータおよび温度制御装置により予め決めた目的とする温度の溶融状態に保持された鉛フリーはんだ(溶融はんだという)がはんだ槽1内に収容され、この溶融はんだ2中にはポンプハウジング31が設けられている。このポンプハウジング31は、はんだ槽1の上縁の吊り下げ部1a(図2)により固定されている。また、このポンプハウジング31の下方、すなわちはんだ槽1の槽底に面して送給ポンプ30の吸い込み口4が設けられ、その吐出口5は図2の横方向にあり、はんだの流れを案内するチャンバ体6に接続されている。
【0024】
ポンプハウジング31内に設けられる回転送給手段である羽根車35は、その回転駆動軸であるポンプ軸36と一体に構成され、モータ台座43に設けた軸受け37を通ってモータ44のモータ軸47に接続されている。なお、この接続にはカプラ48が使用される。他方で、モータ44はモータ支柱45を介してモータ台座43にねじ46等により固定されている。
【0025】
一方で、ポンプハウジング31には羽根車35を挿入するための挿入孔32が設けてあり、この挿入孔32を封止する封止蓋34がポンプ軸36を覆う軸カバー33と一体に設けられ、しかもポンプ軸36と同軸に設けられている。また、この軸カバー33の他端は溶融はんだ2の液面より上部に位置するように構成されている。そして、この軸カバー33の他端には、軸受け37にねじ固定される案内ピン38の挿通孔39を設けてあり、この案内ピン38により軸受け37に封止蓋34と軸カバー33とをモータ台座43に吊り下げる構成である。なお、この案内ピン38には軸受け37と軸カバー33の他端との間に圧縮状態のばね40が挿入してある。したがって、その反発力が図1の矢印A方向に作用し、封止蓋34がポンプハウジング31の挿入孔32に押圧されて封止状態が維持される。なお、案内ピン38はモータ台座43にねじ固定するように構成しても良い。
【0026】
他方で、モータ台座43は、クランパ41のようなスナップ動作(矢印B)する係止固定具によりはんだ槽1に設けられた別の台座42に固定する構成である。すなわち、このクランパ41の操作により、モータ台座43を容易に着脱できる。なお、モータ台座43に設けた把手49は、着脱作業を容易に行うための把持手段である。
【0027】
このように構成された鉛フリーはんだ送給ポンプのメンテナンス作業を行うには、図3に示すようにクランパ41を解除して把手49をつかんでモータ台座43を矢印C方向へ持ち上げれば良い。すると同図に示すようにポンプハウジング31内の羽根車35を溶融はんだ2中より引き上げることができる。この場合においては、一体の軸カバー33と封止蓋34とがばね40の反発力により矢印A方向に移動・下降する。そして、溶融はんだ2中から引き上げられた羽根車35の清掃や点検を行うことができる。
【0028】
また、ポンプハウジング31も吊り下げ部1aを持ち上げることにより溶融はんだ2中から引き上げることができる。この場合には、図4に例示するようにチャンバ体6や吹き口体7と一緒に引き上げれば良い。そして、溶融はんだ2中から引き上げられたポンプハウジング31の清掃や点検を行うことができる。もちろん、チャンバ体6や吹き口体7の清掃も行うことができる。
【0029】
清掃や点検等のメンテナンス作業が終了したら、先の手順とは逆の手順で、すなわちポンプハウジング31を溶融はんだ2中へ固定し、続いて羽根車35をポンプハウジング31の挿入孔32に挿入してモータ台座43を別の台座42に嵌め合せてクランパ41で係止し固定すれば良い。
【0030】
この羽根車35をポンプハウジング31の挿入孔32に挿入してモータ台座43を固定する過程で、ポンプハウジング31の挿入孔32を封止する封止蓋34がばね40による押圧力により該ポンプハウジング31に作用し、隙間が発生しないように封止される。したがって、隙間などを生じて溶融はんだ2が漏洩するなどしてポンプ効率を低下させることがない。
【0031】
このように、250℃以上の温度に維持される高温の鉛フリーはんだ液中に設けられた送給ポンプを容易に分解し、その清掃作業や点検作業を安全に行うことができるようになる。したがって、錫富化鉛フリーはんだにおいて発生し易い微細な粒子状(外形100μm以下)の酸化物の汚れを容易に除去することができるようになり、エロージョンの発生がないか等の点検も容易に行うことができるようになる。
【0032】
その結果、生産ラインを長時間にわたって休止しての清掃・点検作業が解消される。そして、プリント配線板に微細な酸化物が付着して機能障害を生じるようなことがなくなり、また、エロージョンによるポンプ作動の不安定化を回避して安定なはんだ付け作業を連続して行うことができるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、鉛フリーはんだの送給ポンプを、特別な休止時間を設けることなく安定に作動させることができるようになる。したがって、この鉛フリーはんだの送給ポンプをフローはんだ付け装置に用いれば、生活必需品でありインフラでもある電子回路装置を低コスト、かつ高品質で提供することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施例を示すフローはんだ付け装置の要部の横断面図である。
【図2】図1のフローはんだ付け装置の要部の縦断面図である。
【図3】図1のフローはんだ付け装置の要部の操作状況を説明する断面図である。
【図4】この種のフローはんだ付け装置を示す図で、(a)は斜視図、(b)は断面図である。
【符号の説明】
【0035】
1 はんだ槽
2 溶融はんだ
4 吸い込み口
5 吐出口
6 チャンバ体
7 吹き口体
31 ポンプハウジング
32 挿入孔
33 軸カバー
34 封止蓋
35 羽根車
36 ポンプ軸
37 軸受け
38 案内ピン
39 挿通孔
40 ばね
41 クランパ
42 台座
43 モータ台座
44 モータ
45 モータ支柱
46 ねじ
47 モータ軸
48 カプラ
49 把手

【特許請求の範囲】
【請求項1】
はんだ槽内に収容された溶融状態にある鉛フリーはんだの溶融液中に前記はんだ槽の上縁に吊り下げて出し入れ自在にポンプハウジングを設け、このポンプハウジング内で回転することにより前記鉛フリーはんだを送給する回転送給手段が、この回転送給手段を回転駆動するモータであって前記はんだ槽に対してクランプ手段により着脱自在に固定された台座に設けられたモータと連結して設けられ、
一方、前記ポンプハウジングには前記回転送給手段の挿抜が可能な挿入孔を設け、前記挿入孔を封止する封止蓋と、前記回転送給手段の回転駆動軸の周囲に同軸状に設けると共に前記回転駆動軸の周囲を覆いその端部が前記溶融状態の鉛フリーはんだの液面の上部に位置するように設けられた軸カバーとを一体に設け、さらにこの軸カバーのうち溶融状態の鉛フリーはんだの液面の上部に位置する端部と前記モータが設けられた台座とを前記封止蓋が前記ポンプハウジングに押圧される方向に反発力を作用させるばね手段を介して前記回転駆動軸の軸方向に前進後退可能に設けられて成ることを特徴とする鉛フリーはんだ送給ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−93282(P2006−93282A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−274793(P2004−274793)
【出願日】平成16年9月22日(2004.9.22)
【出願人】(000232450)日本電熱計器株式会社 (25)
【Fターム(参考)】