説明

鉛蓄電池及びその製造方法

【課題】ISS車の使用モードを模擬したサイクル寿命試験で発生する負極板集電タブの薄肉化を抑制し、始動不能、爆発の危険性を回避した長寿命の鉛蓄電池を提供する。
【解決手段】格子体の集電タブの厚さを従来どおりにして、集電タブ部のPb‐Ca系合金表面の一部にPb‐Sb系合金層を形成する。Pb‐Sb系合金層を形成するときには、帯状のPb‐Ca系合金シート表面の幅方向中央部にPb‐Sb系合金シートを配置する。このようにすると集電タブにPb‐Sb系合金層が圧着形成される。このPb‐Sb系合金層によりISS使用時の負極板集電タブの薄肉化を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車用バッテリなどの鉛蓄電池の寿命向上に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用鉛蓄電池は始動用、電装品の電力供給用として広汎に用いられている。近年、
環境保護及び燃費改善の取り組みとして、停車時にはエンジンを止め、発車時に再始動するアイドリングスタートストップ(以下ISSと略す)が実施され始めている。ISSは鉛蓄電池側からすれば頻繁に始動、停止が繰り返されることになり、始動時の大電流放電回数が増え、停車中の電装品の使用と重なり放電負荷が多くなる。車両の充電はオルタネータによるが、これはエンジンの回転を動力源としているために停車中はストップしてしまう。これらISS特有の使用条件により、鉛蓄電池は充電が十分されずに放電過多で使用されることが多くなる。
【0003】
このような状態で充放電サイクルが繰り返されると、鉛電池内の極板で頻繁に使用される部分とそうでない部分が現れてくる。具体的には電流を取り出す集電タブの部分に近い極板上部と、集電タブから離れた極板下部で活物質の利用率に差が出てくる。このため極板下部では充放電の繰返しで充電不足になり、放電生成物の蓄積(サルフェーション)が起こり反応できなくなってしまう。また、電解液濃度も上部で薄く、下部で濃くなる成層化現象が発生して、さらにサルフェーションを進行させる。
【0004】
このような現象を解決する手段として、特許文献に記載されているような手法が提案され、充電受け入れ性が改善されている。
【0005】
【特許文献1】特公平6‐44487号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、今回ISS車の使用モードを模擬したサイクル寿命試験で検証したところ、特異な現象が発生した。上述したように集電タブは電流の流入路になり、なおかつ厚みが0.7〜1.3mmと薄いため電気抵抗の大きな部分となる。ここで後述の図3のような充放電サイクルを繰り返すと負極板の集電タブで厚みが薄くなる現象が発生する。厚みが薄くなることで断面積が減少して電気抵抗が増大する。この状態で多頻度の始動を繰り返すことで徐々に電池電圧が低下し、最後には始動不能に陥ってしまう。また、集電タブが薄くなることで破断する可能性があり、破断した場合にスパークで電池内部に充満した可燃性ガス(水素)に引火して爆発する危険性がある。
【0007】
これらの危険性は前述の特許文献1では想定されておらず、新たな対応策が必要となる。この対策のひとつとして負極板の集電タブ部を厚くする方法が考えられる。しかし、現在負極板の主流となっているエキスパンド格子体はPb‐Ca系合金シートから打ち抜き、展開加工されており、集電タブのみを厚くするのは難しい。また、鉛蓄電池も燃費の改善のため軽量化が図られており、質量アップとなる負極板の厚板化は避けるべきである。つまり、ISS特有の使用条件による負極集電タブの厚み現象を抑制し、なおかつ極板の質量増加も抑制することが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る鉛蓄電池では、格子体の集電タブの厚さを従来どおりにして、負極板の集電タブ部のPb‐Ca系合金表面にPb‐Sb系合金層を形成する。なお、前記格子体としては、エキスパンド格子体又は鋳造格子体のいずれも使用できる。
【発明の効果】
【0009】
ISS車を模したサイクルパターンで負極板のの集電タブが薄くなることのメカニズムは明らかでないが、成層化により電解液の濃度が希薄になったためと、放電側で使われるためにPb‐Ca系合金が電気化学的に腐食し、電解液に溶出し易くなったためと考えられる。これに対してPb‐Ca系合金上にPb‐Sb系合金層を設けることで、保護皮膜のような役割を果たし、集電タブの薄肉化を防ぐことが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、Pb‐Ca系合金からなるエキスパンド方式の負極板を用いた鉛蓄電池、特にISS使用される自動車用バッテリに関して有効である。
【0011】
以下、本発明の実施例を説明する。
(比較例)
【0012】
合金組成がPb‐0.04%Ca‐0.7%Snからなる幅72mm、厚み0.7mmの帯状シートを作製する。これをエキスパンド加工し格子体を作製する。次に負極未化ペーストを前記格子体に充填し、熟成・乾燥して未化成負極板を作製する。
【0013】
続いて、合金組成がPb‐0.07%Ca‐0.8%Snからなる鋳造格子体を作製する。次に正極未化ペーストを前記格子体に充填し、熟成・乾燥して未化成正極板を作製する。
【0014】
次に、袋セパレータに前記未化成負極板を挿入し、未化成負極板8枚と未化成正極板7枚を積層して極板群を作る。これらをキャストオンストラップ法で集電タブ部を溶接し、極板群を電槽内に挿入して、比重1.23(20℃換算)の希硫酸を注液する。一定時間放置後に希硫酸が極板に浸透したら、電流8Aで42時間通電し電槽化成する。化成後、希硫酸の比重を1.28(20℃換算)に調整して電解液とし、公称容量38Ahの鉛蓄電池を得る。この鉛蓄電池を比較品とする。
【実施例1】
【0015】
合金組成がPb‐0.04%Ca‐0.7%Snで幅72mm、厚み7mmの帯状シート1を基材とし、その一方の面に、図1に示したように長手方向に引き出しながら、中央部にPb‐Sb系合金シート2(幅25mm、厚み0.3mm)を圧延・圧着ローラ3により長手方向に圧着圧延する。前記帯状のPb‐Sb系合金シート2は、前記帯状のPb‐Ca系合金シート1表面の幅方向中央部に配置されるように調整する。圧延後に帯状のPb‐Ca系合金シート1は幅72mm、厚み0.7mmとなり、Pb‐Sb系合金層厚みがおよそ40μmのPb‐Sb系合金シート2を圧着したPb‐Ca系合金シート4を得る。この帯状シートをエキスパンド加工して格子体を形成する。エキスパンド加工後には前記Pb‐Sb系合金層5の部分は打ち抜かれるため、格子体上における位置は図2のようになる。集電タブ6の部分及び集電タブ6と接続する枠骨部7がPb‐Sb系合金層5によって被覆され、格子メッシュ部8は基材のままのエキスパンド格子体9を得る。このエキスパンド格子体9を用い、他は比較例と同じ手法で作製して本発明品1の鉛蓄電池とする。
【0016】
上記比較品、本発明品1を40℃の水槽中に入れて温度が安定するまで保存する。次に図3に示す充放電パターン(ISS車の使用モードを模擬)を1サイクルと寿命試験を実施する。30000サイクル時点で解体して、負極板の集電タブ部の残存厚さを測定する。
Pb‐Sb系合金シート2の組成を変えて試験した結果を表1に示す。比較品では、負極集電板のタブの試験前に対する厚さの割合は11%にまで減少していた。これに対しPb‐Sb系合金層5を設けた本発明品1は、Sb濃度0.1%以上で効果を示し、集電タブ6の薄肉化を防いでいることが分かる。Pb‐Sb系合金層5を片面に配したことにより、集電タブ6部の腐食進行は片面からの進行となり、Pb‐Sb系合金層5を配さなかったものに比べて、腐食の進行を減らすことができるといえる。Sb濃度は3.5%以上では効果の伸びが認められない。さらにSb濃度4.0%以上になると自己放電による電解液の減液が見られることから、Sb濃度は0.1%〜4.0%が望ましい。
【0017】
【表1】

【実施例2】
【0018】
Pb‐Ca系合金シート1の両面に圧延・圧着ローラ3でPb‐Sb系合金シート2を圧着させて同様にエキスパンド格子体9を作製した。このエキスパンド格子体9を用いて作製した本発明品2を前記比較品と図3に示す充放電パターンで試験し、30000サイクル後の負極集電タブの厚さを比較した結果を表2に示す。この結果より表1に比べて厚さの減少が大幅に改善され、Sb濃度1.0%以上ではほとんど変化が認められなかった。これより、Pb‐Sb系合金層5をPb‐Ca系合金シート1の両面に配設すればより効果が上がることが分かる。ただし、減液量も増えることからSb濃度は0.1%〜4.0%が望ましい。
【0019】
【表2】

【0020】
なお、上記実施例は本発明の具体化例であり、本願発明の技術的範囲を限定するものではなく、種々の手法により実現が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】圧延・圧着ローラによるPb‐Sb系合金層の圧着方法を示す図である。
【図2】エキスパンド格子上のPb‐Sb系合金層の圧着部分を示す図である。
【図3】充放電サイクルパターンを示す図である。
【符号の説明】
【0022】
1:Pb‐Ca系合金シート
2:Pb‐Sb系合金シート
3:圧延・圧着ローラ
4:Pb‐Sb系合金シートを圧着したPb‐Ca系合金シート
5:Pb‐Ca系合金シート上のPb‐Sb系合金層
6:集電タブ
7:集電タブと接続する枠骨部
8:格子メッシュ部
9:エキスパンド格子体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Pb‐Ca系合金からなるエキスパンド格子体を負極板に用いる鉛蓄電池であって、前記負極板の集電タブの部分に、Pb‐Sb系合金層が形成されていることを特徴とする鉛蓄電池。
【請求項2】
前記負極板の集電タブと接続する枠骨部分に、Pb‐Sb系合金層が形成されていることを特徴とする請求項1記載の鉛蓄電池。
【請求項3】
前記形成部分は、Pb‐Ca系合金シートの表面にPb‐Sb系合金層が圧着されたものであることを特徴とする請求項1又は2記載の鉛蓄電池。
【請求項4】
前記Pb‐Sb系合金層はPb‐Ca系合金シートの両面又は片面に配設されていることを特徴とする請求項3記載の鉛蓄電池。
【請求項5】
前記Pb‐Sb系合金層中のSbの含有率は0.1〜4.0%であることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項6】
前記鉛蓄電池はアイドリングスタートストップ(ISS)用であることを特徴とする請求項1〜5いずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項7】
帯状のPb‐Ca系合金シートからエキスパンド加工により形成された格子体を負極板に用いる鉛蓄電池の製造方法であって、前記帯状のPb‐Ca系合金シートとして、該帯状合金シート表面の一部に、長手方向にわたって帯状のPb‐Sb系合金層を形成したものを用い、該Pb‐Sb系合金層を形成した部分に打ち抜き加工により集電タブ部を形成するとともに、前記Pb‐Ca系合金シートのみの部分をエキスパンド加工して格子体を形成し、該格子体を負極板に用いることを特徴とする鉛蓄電池の製造方法。
【請求項8】
前記帯状のPb‐Sb系合金層は、前記帯状のPb‐Ca系合金シート表面の幅方向中央部に形成されていることを特徴とする請求項7に記載の鉛蓄電池の製造方法。
【請求項9】
前記帯状のPb‐Sb系合金層は、前記帯状のPb‐Ca系合金シート表面にPb‐Sb系合金シートを圧着して形成されていることを特徴とする請求項7又は8に記載の鉛蓄電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−210134(P2006−210134A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−20511(P2005−20511)
【出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【Fターム(参考)】