説明

鉛蓄電池用樹脂巻き端子、鉛蓄電池用樹脂巻き端子の製造方法、樹脂巻き端子を備えた鉛蓄電池、及び鉛蓄電池を搭載した自動車

【課題】樹脂巻き端子の端子部にナットを簡便に、かつ、確実に固定することができるような鉛蓄電池用樹脂巻き端子、その端子の製造方法及びその端子を備えた鉛蓄電池を提供する。
【解決手段】直方体状のナット6が挿入される空洞1a及び挿入口1bを有し、上面及び前面からボルト挿入孔1c及び1d(側壁1eの反対側に存在)が穿たれている直方体状の端子部1、端子部1の下端に連結された極柱部2、及び極柱部2の周面を取り巻く樹脂部を備えた鉛蓄電池用樹脂巻き端子7において、ナット6の上面から下面及び/又は前面から背面に向けてネジ切りされたネジ孔6a及び/又は6b(側壁1eの反対側に存在)を有するナット6を、ネジ孔6a及び/又は6bがボルト挿入孔1c及び/又は1dと連通するように端子部1の空洞1aに挿入し、空洞1aの下に位置する端子部1の底部1hを変形させてナット6を固定したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池用樹脂巻き端子、鉛蓄電池用樹脂巻き端子の製造方法、樹脂巻き端子を備えた鉛蓄電池、及び鉛蓄電池を搭載した自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
二輪車用鉛蓄電池の端子構造には、樹脂巻き端子が多く用いられている。
従来の樹脂巻き端子として、図5に示されるようなものが公知である(特許文献1参照)。図5において、11は直方体からなる端子部、12は円柱形の極柱部、13は板状の台座、14はポリプロピレンやポリエチレンなどからなる樹脂部であり、端子部11は下端が極柱部12の上端と一体に連結され、極柱部12は下端が台座13の上端と一体に連結されている。前記端子部11は、図5の手前側面から奥の側面に向かって貫通するナット挿入孔11aが穿たれており、該孔11aに向かって天面と左側面からボルト挿入孔11b,11cが穿たれている。前記極柱部12は、周面の最上部に円形のばり切り用鍔12aが形成され、この下に間隔をおいて前記ばり切り用鍔12aの半径より小さい3条の鍔12b,12c,12dが形成されている。前記ばり切り用鍔12aは、周面が前記端子部11の下端周囲より水平方向に突出するようになっている。前記樹脂部14は、前記ばり切り用鍔12aと前記鍔12b,12c,12dとを包み込むように極柱部12の周囲に形成され、鍔12aの上端から外側に少し延び、上方に立ち上がって、前記端子部11の下部周面を溝15を介して覆っている。
【0003】
そして、上記のような鉛蓄電池の樹脂巻き端子の端子部11は、従来、顧客がナット挿入孔11aに直方体のナットを挿入した後、天面と左側面に形成されたボルト挿入孔11b又は11cからボルトを挿入し、螺合させている。そのため、顧客がナットを小さな端子部の空洞に入れようとして、ナットを落下させる場合があるという問題があった。
また、特許文献1に記載されているようなナットは、ネジ孔が一つであり、天面と左側面に形成されたボルト挿入孔11b,11cのいずれか一方からしかボルトが挿入できないため、外部リード線を接続したい方のボルト挿入孔とナットのネジ孔とが一致するように、その都度ナットの向きを変更する必要があり、外部リード線を接続する場合に、簡便に、天面もしくは側面のいずれかを選択してナットにボルトを挿入することができなかったし、外部リード線を2箇所同時に接続できなかった。
【0004】
一方、端子に予めナットを固定した鉛蓄電池については、「鉛蓄電池本体と、この鉛蓄電池本体に固定され、かつ、一面にナット挿入口が開放され、この一面以外の他の面のうちの少なくとも一面にボルト挿通孔が開けられている中空の箱形端子と、この箱形端子の内寸よりも僅かに小さい外寸に形成されているとともに、前記ボルト挿通孔の一つに対向する雌ねじ孔を有し、かつ、この雌ねじ孔と前記ボルト挿通孔とが対向する姿勢を保持して前記箱形端子内に前記ナット挿入口を通して収容されたナットと、前記ナット挿入口の少なくとも一部を塞いで鉛蓄電池本体の蓋部に設けられたナット外れ止めとを具備していることを特徴とする鉛蓄電池。」の発明が公知である(特許文献2参照)。しかし、この発明は、端子にナットを固定するために、ナット挿入口の一部を塞ぐ手段を別途設けなければならないという問題があった。
また、特許文献2には、「箱形端子4に設けられているボルト挿通孔9は、前述した箱形端子4の手前側端面だけではなく、上面や、あるいは背面などに複数個もうけても構わない。これにより、1種類の形状の箱形端子4、およびこの箱形端子4内にナット6を収納する際の向きに応じて、端子部3a,3bに接続されるリード線の取り付ける向きを複数の向きに設けることができる。」(段落[0023])と記載されているが、図2に示されるように、ナット6は、雌ねじ孔10が一つであるから、リード線を2箇所同時に取り付けることができなかった。そして、この箱型端子は樹脂巻き端子とは異なるものである。
【0005】
また、「蓄電池用端子金具」の登録意匠(非特許文献1参照)が公知であり、この意匠に係る物品の説明には、「本願の意匠に係る物品は、蓄電池用の端子金具である。略直方体状の端子部分に2個の円形貫通孔を上面と前面に位置をずらして設け、底面部に略『U』字状の突起を設けた構成態様に特徴がある。」と記載されている。
【0006】
そして、非特許文献2には、上記のような略直方体状の端子部分に2個の円形貫通孔(穴)を上面と前面に位置をずらして設けた蓄電池用端子の空洞にナットを固定することが示され、「端子の利便性および機能性を向上させるために、ハーネスを、その端子の上面と前面の2箇所同時に取り付けることができるようにした。その手段とて、Fig.3に示すような鉛ブッシング端子形状とし、ナットの穴位置は、現行電池と互換性を持たせるよう設計した。また、端子は、現行電池と比較して横幅を3.5mmまたは4.5mm大きくし、上面と前面の穴軸を6.5mmずらすことによって端子の中で両穴が交差することなく、Fig.4に示すように、ハーネスを2箇所同時に固定できるように設計した。」(第43頁右欄第2行〜第11行)、「ナットは、電池製造工程内で端子内に固定するために、新規に開発した特殊な鉛ブッシング端子に挿入し、ふたの樹脂成形時に端子内に固定できる技術を構築した。そのことにより、GYZ20HL電池の端子へのナット挿入口を下にして、電池を横転させた場合においても、端子からナットが落下しない(Fig.6参照)。」(第45頁左欄第6行〜11行)と記載されているが、端子へのナットの固定方法については具体的に記載されていない。また、上記のハーネスを2箇所同時に固定できるような端子は樹脂巻き端子とは異なるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−154503号公報
【特許文献2】特開2001−283825号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】意匠登録第1396609号公報
【非特許文献2】「GS Yuasa TechnicalReport」2009年12月 第6巻 第2号、第39頁〜第46頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の問題を解決しようとするものであり、樹脂巻き端子の端子部にナットを簡便に、かつ、確実に固定することができ、また、鉛蓄電池に外部リード線を接続する場合に、端子部にナットが固定されていても、上面若しくは前面のいずれか、又は両者を選択してナットにボルトを挿入することができるような鉛蓄電池用樹脂巻き端子を提供すること、並びに、そのような樹脂巻き端子の製造方法及び樹脂巻き端子を備えた鉛蓄電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を採用する。
(1)直方体状のナットが挿入される空洞及び挿入口を有し、上面及び前面からボルト挿入孔が穿たれている直方体状の蓄電池用端子部、前記端子部の下端に連結された極柱部、及び前記極柱部の周面を取り巻く樹脂部を備えた鉛蓄電池用樹脂巻き端子において、前記ナットの上面から下面及び/又は前面から背面に向けてネジ切りされたネジ孔を有するナットを、前記ネジ孔が前記ボルト挿入孔と連通するように前記端子部の空洞に挿入し、前記空洞の下に位置する前記端子部の底部を変形させて前記ナットを固定したことを特徴とする鉛蓄電池用樹脂巻き端子。
(2)前記端子部の底部に樹脂を圧入し、前記空洞の下に位置する前記底部を変形させてナットを押圧して固定したことを特徴とする前記(1)の鉛蓄電池用樹脂巻き端子。
(3)直方体状のナットが挿入される空洞及び挿入口を有し、上面及び前面からボルト挿入孔が穿たれている直方体状の端子部、前記端子部の下端に連結された極柱部、及び前記極柱部の周面を取り巻く樹脂部を備えた鉛蓄電池用樹脂巻き端子において、前記ナットの上面から下面及び/又は前面から背面に向けてネジ切りされたネジ孔を有するナットを、前記ネジ孔が前記ボルト挿入孔と連通するように前記端子部の空洞の中に備え、前記空洞の下に位置する前記端子部の底部に前記空洞方向に突出する突出部を設けて前記ナットを固定したことを特徴とする鉛蓄電池用樹脂巻き端子。
(4)前記端子部の底部に樹脂を圧入し、前記空洞の下に位置する前記底部に前記突出部を設けて前記ナットを押圧して固定したことを特徴とする前記(3)の鉛蓄電池用樹脂巻き端子。
(5)前記端子部の側壁の下部に、樹脂圧入穴を設けたことを特徴とする前記(2)又は(4)の鉛蓄電池用樹脂巻き端子。
(6)前記側壁には、前記樹脂圧入穴の周囲の肉を盛り上げて、正面からみて山形の樹脂を縁切りする面を形成したことを特徴とする前記(5)の鉛蓄電池用樹脂巻き端子。
(7)前記端子部は、その上面及び前面からボルト挿入孔が前記空洞で交差するような位置に穿たれ、且つ、前記ナットは、その上面から下面及び前面から背面に向けてネジ切りされたネジ孔が交差していることを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれか1項の鉛蓄電池用樹脂巻き端子。
(8)前記端子部は、その上面及び前面からボルト挿入孔が前記空洞で交差しないような位置に穿たれ、且つ、前記ナットは、その上面から下面及び前面から背面に向けてネジ切りされたネジ孔が互いに交差しないような位置に形成されていることを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれか1項の鉛蓄電池用樹脂巻き端子。
(9)前記端子部は、その上面及び前面からボルト挿入孔が前記空洞で交差するような位置に穿たれ、且つ、前記ナットは、その上面から下面又は前面から背面に向けてネジ切りされたネジ孔を一個有することを特徴とする前記(1)〜(6)のいずれか1項の鉛蓄電池用樹脂巻き端子。
(10)直方体状のナットが挿入される空洞及び挿入口を有し、上面及び前面からボルト挿入孔が穿たれている直方体状の蓄電池用端子部、前記端子部の下端に連結された極柱部、及び前記極柱部の周面を取り巻く樹脂部を備えた鉛蓄電池用樹脂巻き端子の製造方法において、前記ナットの上面から下面及び/又は前面から背面に向けてネジ切りされたネジ孔を有するナットを、前記ネジ孔が前記ボルト挿入孔と連通するように前記端子部の空洞に挿入した後、前記樹脂部の成形時に、前記端子部の側壁の下部に設けた樹脂圧入穴から前記端子部の底部に樹脂を圧入し、前記空洞の下に位置する前記底部を変形させてナットを押圧して固定することを特徴とする鉛蓄電池用樹脂巻き端子の製造方法。
(11)前記側壁には、前記樹脂圧入穴の周囲の肉を盛り上げて、正面からみて山形の面を形成し、前記山形の面により、前記樹脂部の成形時に樹脂を縁切りすることを特徴とする前記(10)の鉛蓄電池用樹脂巻き端子の製造方法。
(12)隔壁によって内部が複数のセルに区画され、各セルに極板群が収納された電槽と、前記電槽を上方から被覆する蓋とを備えた鉛蓄電池において、前記蓋に、前記(1)〜(9)のいずれか1項の樹脂巻き端子の前記樹脂部を接合したことを特徴とする鉛蓄電池。
(13)前記(12)の鉛蓄電池を搭載したことを特徴とする自動車。
【発明の効果】
【0011】
本発明の樹脂巻き端子を鉛蓄電池に適用することにより、端子部にナットを簡便に、かつ、確実に固定することができるようになり、また、鉛蓄電池に外部リード線を接続する場合に、端子部の上面若しくは前面のいずれか、又は両者を選択してナットにボルトを挿入することができるようになった。ナットを予め固定したことにより顧客がナットを落下させるという問題も解決できた。
また、ナットを予め固定した端子を用いることで、自動車本体への蓄電池の取り付けの作業効率が飛躍的に容易になる。この効果は、自動車を量産するときに顕著である。さらに、この効果は、二輪の自動車を製造する場合に顕著である。なぜなら、二輪自動車は、四輪のものと比べて蓄電池の取り付けスペースやその周囲の作業スペースが小さいので、ナットが落下することによる組み付け作業の遅延が大きな問題となっていたからである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1(a)】本発明の鉛蓄電池用樹脂巻き端子の一例を示す斜視図(樹脂部を形成する前の端子を一方の側から見た図)である。
【図1(b)】本発明の鉛蓄電池用樹脂巻き端子の一例を示す斜視図(樹脂部を形成した後の端子を他方の側から見た図)である。
【図2(a)】本発明の鉛蓄電池用樹脂巻き端子の他の例を示す斜視図(樹脂部を形成した後の端子を一方の側から見た図)である。
【図2(b)】本発明の鉛蓄電池用樹脂巻き端子の他の例を示す斜視図(樹脂部を形成する前の端子を他方の側から見た図)である。
【図3】本発明の樹脂巻き端子を備えた鉛蓄電池の一例を示す部分断面図(極柱部2、台座3は断面ではない)である。
【図4】本発明の樹脂巻き端子の樹脂部を形成する方法の一例を示す部分断面図(極柱部2、台座3は断面ではない)である。
【図5】従来の鉛蓄電池用樹脂巻き端子の部分断面図(極柱部12、台座13は断面ではない)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の樹脂巻き端子の一例を図1(a)及び(b)、他の例を図2(a)及び(b)に示す。
樹脂巻き端子は、直方体状の端子部1、端子部1の下端に連結された極柱部2、板状の台座3、及び極柱部2の周面を取り巻く樹脂部4を備えたものである。
図1(a)及び(b)に示す例においては、直方体状の蓄電池用端子部1は、ナット6が挿入される空洞1a及び挿入口1bを有し、図1(a)の右側面の挿入口1bから左側面に向かって貫通するナット6が挿入される空洞1aが穿たれている。但し、図1(b)に示すように、挿入口1bの反対側の側面は、ナット6が抜けないように、壁を残しておくことが好ましい。また、空洞1aに向かって上面からボルト挿入孔1c、前面からボルト挿入孔1dが、空洞1aで交差するような位置に穿たれている。端子部1の上面及び前面から穿たれているボルト挿入孔を空洞1aで交差するような位置に形成する場合、両者を効率的に利用するためには、空洞の中心で交差するような位置に形成することが好ましいが、空洞の中心から少しずれた位置で交差するように形成することもできる。
本発明において、ナット6は、端子部1の挿入口1bから、空洞1aに挿入され、固定されている。
【0014】
図1(a)及び(b)に示す例においては、端子部1に予めナット6を固定した蓄電池に外部リード線を接続する場合に、必要に応じて、端子部1の上面のボルト挿入孔1cもしくは前面のボルト挿入孔1dのいずれかを選択してナット6にボルトを挿入することができるようにするため、直方体状のナット6の上面から下面に向けてネジ切りされたネジ孔6a及び前面から背面に向けてネジ切りされたネジ孔6bが交差しているナットを採用する。上面から下面に向けてネジ切りされたネジ孔6a及び前面から背面に向けてネジ切りされたネジ孔6bは、両者のネジ孔を効率的に利用するためには、図1(b)に示すように、ナットの中心で交差させることが好ましいが、中心から少しずれた位置で交差しているように構成することもできる。
【0015】
そして、ナット6を、端子部1の挿入口1bから、空洞1aに挿入して、固定する際に、 ナット6の上面から下面に向けてネジ切りされたネジ孔6aが、端子部1の上面に穿たれたボルト挿入孔1cと連通するように、また、ナット6の前面から背面に向けてネジ切りされたネジ孔6bが、端子部1の前面に穿たれたボルト挿入孔1dと連通するように固定する。したがって、ボルト(図示せず)を上面のボルト挿入孔1c又は前面のボルト挿入孔1dから挿入し、ボルトの先端をナットに螺合させることができる。そして、このボルトとナット6の間に、図示していない外部リード線(電装品等に接続可能な線)等を挟み込んで固定する。このように、図1(a)及び(b)に示す例においては、蓄電池に外部リード線を接続する場合に、ナット6が固定されていても、必要に応じて、上面でも前面でも選択できる。
【0016】
図2(a)及び(b)の例においては、外部リード線を2箇所以上同時に接続するために、上面のボルト挿入孔1c及び前面のボルト挿入孔1dが空洞1aで交差しないような位置、すなわち、ボルト挿入孔1cが上面の左又は右にずれた位置、ボルト挿入孔1dが前面の右又は左にずれた位置に形成されている。
端子部1に予めナット6を固定した蓄電池に外部リード線を接続する場合に、端子部1の上面のボルト挿入孔1cもしくは前面のボルト挿入孔1dの両者を同時に選択してナット6にボルトを挿入することができるようにするため、直方体状のナット6の上面から下面に向けてネジ切りされたネジ孔6a及び前面から背面に向けてネジ切りされたネジ孔6bが互いに交差しないような位置、すなわち、ネジ孔6aが上面(下面)の左又は右にずれた位置、ネジ孔6bが前面(背面)の右又は左にずれた位置に形成されている。
【0017】
そして、ナット6を、端子部1の挿入口1bから、空洞1aに挿入して、固定する際に、 ナット6の上面から下面に向けてネジ切りされたネジ孔6aが、端子部1の上面に穿たれたボルト挿入孔1cと連通するように、また、ナット6の前面から背面に向けてネジ切りされたネジ孔6bが、端子部1の前面に穿たれたボルト挿入孔1dと連通するように固定する。したがって、ボルト(図示せず)を上面のボルト挿入孔1c及び前面のボルト挿入孔1dから挿入し、ボルトの先端をナットに螺合させることができる。そして、このボルトとナット6の間に、図示していない外部リード線(電装品等に接続可能な線)等を挟み込んで固定する。このように、図2(a)及び(b)に示す例においては、蓄電池に外部リード線を接続する場合に、2箇所以上同時に接続できる。
【0018】
また、本発明は、端子部1の上面及び前面から穿たれているボルト挿入孔1c及び1dが空洞1a(空洞1aの中心)で交差するような位置に形成された図1(a)及び(b)に示される直方体状の端子部を用いた場合に、ネジ孔を一個(上面から下面に向けてネジ切りされたネジ孔又は前面から背面に向けてネジ切りされたネジ孔のいずれか)有するナットにも適用できる。
この場合、ネジ孔を一個有するナットを、前記ネジ孔が端子部の上面のボルト挿入孔1c又は前面のボルト挿入孔1dと連通するように前記端子部の空洞に挿入して固定する。
【0019】
ナット6の外形は、直方体状の端子部1の空洞1aに合致するような直方体状とする。
ナット6は、上面(下面)及び前面(背面)が横長の略長方形で、両側面が略正方形の直方体状であることが好ましい。ナット6の上面から下面に向けてネジ切りされたネジ孔6a及び前面から背面に向けてネジ切りされたネジ孔6bが中心で交差しているナットの場合には、上面(下面)及び前面(背面)を含む6面が略正方形の立方体状であっても良い。
端子部1の空洞1aは、ナットの外形に合致する形状であるが、端子部1の外形は、立方体状か横長の直方体状とすることができる。端子部1の縦横比は1:1〜1:1.5程度である。本発明の樹脂巻き端子において、端子部1は、後述するように、底部1hに樹脂を圧入するスペースを確保する必要があるので、立方体状のナットを挿入する端子部1では、底部1hを含めると、縦長の直方体状となる場合もある。
また、ナット6の角は全部直角でも良いが、一部の角を面取り加工して、ナット6の一方の端部の外形を空洞1aの端部に合致する形状とし、ナット6の他方の端部の外形を空洞1aの端部に合致しない形状とすることが好ましい。この形状とすることによって、ナット6の誤挿入を防ぐことができる。例えば、ナット6の断面を図4に示すような形状とした場合、正しい方向でナット6が端子部1の空洞1aに挿入されたとき、ナット6の他端は挿入口1bと面一となる位置に配置されるが、誤った方向で挿入されたときには、ナット6の他端は挿入口1bから外側に突出した位置に配置されることになり、その結果、誤挿入の検知が容易に行える。この効果は、端子部1及びナット6に設けられたボルト挿入孔及びネジ孔が複数ずつ(1c、1d、6a、6b)の場合、ナットが誤った方向で挿入されると、ナットのネジ孔と端子部のボルト挿入孔がずれてしまうことがあるから、特に有効である。なお、上記の図4に示す例では、ナットの一方の端部に面取り加工を施したが、その他ナットの端部を変形させた例として、角丸め加工を施した形状としたり、突起を設けたり、凹部を設けたりすることもできる。ナットの一方の端部に突起を設ける場合は、空洞1aの端部の対応する箇所には前記突起を収容可能な凹部が設けられる。ナットの一方の端部に凹部を設ける場合は、空洞1aの端部の対応する箇所には前記凹部に収容可能な突起が設けられる。いずれの場合についてもナットの他端の外形は、誤挿入したときに、空洞1aの端部とは合致しないものにすることが好ましい。
本発明においては、立方体状のもの、上記のように端部を変形させたもの、後述する凹部を設けたものなどを含めて、「直方体状」と総称する。
【0020】
本発明においては、ナット6を端子部1に対して固定するために、空洞方向に突出する突出部を、空洞1aの下に位置する端子部1の底部1hに設ける。この構造による固定は、突出部とナットとの摩擦によるものであるので、摩擦力を超える外力を加えることによって容易にナットを取り外す(例えば、挿入口の反対側の面に露出したナットをたたいて押し出す)ことができる。突出部は、ナット6を端子部1に挿入した後、後述するように、樹脂部4の成形時に、空洞1aの下に位置する底部1hを変形させて形成することができる。
【0021】
底部1hに突出部を設けて固定する方法を用いる場合は、突出部を設けようとする底部1hの箇所を肉薄に形成すると共に、ナット6のネジ孔6aを一方から他方に貫通するように設けることが好ましい。なぜなら、底部1hに設けられる突出部をナット6のネジ孔6aにはまり込むような位置に配置することが可能だからである。このような配置を採用した場合、突出部が形成される空間が存在するので、端子が不用意に変形することが抑制される。
また、ネジ孔6aを貫通孔としない場合には、突出部の形成を容易にするために、底部1hの突出部を形成しようとする箇所に対応するナット6の箇所に凹部を設けることもできる。
【0022】
本発明の樹脂巻き端子を備えた鉛蓄電池の一例を図3に示す。
1は直方体状の端子部、2は円柱形の極柱部、3は板状の台座、4はポリプロピレンやポリエチレンなどからなる樹脂部であり、端子部1は下端が極柱部2の上端と一体に連結され、極柱部2は下端が台座3の上端と一体に連結されている。極柱部2は、周面の最上部に極柱部2は、周面の最上部に長方形(端子部の底面にほぼ相似する形状)のばり切り用鍔2aが形成され、この下に間隔をおいてばり切り用鍔2aの一辺の長さより直径の小さい3条の鍔2b,2c,2dが形成されている。ばり切り用鍔2aは、周面が端子部1の下端周囲より水平方向に突出するようになっている。樹脂部4は、ばり切り用鍔2aと鍔2b,2c,2dとを包み込むように極柱部2の周囲に形成され、鍔2aの上端から外側に少し延び、上方に立ち上がって、端子部1の下部周面を、溝5を介して覆っている。
【0023】
本発明において、鉛蓄電池用樹脂巻き端子を製造する場合には、端子部1の下端に極柱部2を連結し、その極柱部2の周面を樹脂部4で取り巻くように成形するが、以下に示すように、ナット6を端子部1の空洞1aに挿入した後、樹脂部4の成形時に、空洞1aの下に位置する端子部1の底部1hを変形させてナット6を固定する。言い換えれば、空洞1aの下に位置する端子部1の底部1hに空洞方向に突出する突出部を設けてナット6を固定する。
【0024】
本発明の樹脂巻き端子の樹脂部を形成する方法の一例を図4に示す
樹脂巻き端子を作製する場合、先ず、鋳型(図示せず)に鉛合金を注入して端子部1と極柱部2と台座3とが一体となった金属部分を作製する。樹脂巻き端子には一定の硬度が必要であるため、Pb−Ca−Sn系鉛合金を使用することが好ましい。
次に、この金属部分を上型8と、2分割された下型9a、9bとからなる金型内に配置し、金型内に樹脂成形空間を形成する。続いて、金型内の樹脂成形空間にポリプロピレンなどの樹脂を注入し、樹脂が硬化した後、上型8と下型9a、9bとを取り除いて樹脂部4が形成された樹脂巻き端子7を得る。
図4に示すように、ばり切り用鍔2a上面と上型8の突起8a下面とが密接した状態で樹脂部4を形成すれば、端子部1の側面と上型8の凹部の側面との間に隙間があっても、この隙間に樹脂が入り込むことがなく、端子部1側面にばりが発生するのを防止できる。
【0025】
本発明においては、端子部1の側壁1eの下部に、樹脂圧入穴1gを設けておき、樹脂部4の成形時に端子部1の底部1hに樹脂を導入する。そうすると、成形時の圧力で、樹脂圧入穴1gから圧入された樹脂がその上にある空洞1aの底部1hを変形させ、図3に示すような空洞方向に突出する突出部1iを形成し、ナット6が押圧されて固定される。図3の例においては、空洞方向に突出する突出部1iは、ナット6の上面から下面に向けてネジ切りされた(貫通する)ネジ孔6aに嵌まり込んでいる。特に、貫通するネジ孔がない部分に突出部を形成する場合には、底部1hに鉛合金の厚みの薄い部分を作っておくことによって、その部分を成形時の圧力により変形し易くすることが好ましい。この方法によれば、ナットの固定は樹脂部4の成形時に可能であり、ナット6が固定されると同時に、樹脂巻き端子7が完成する。
【0026】
図1(a)及び図2(a)に示すように、側壁1eには、樹脂圧入穴1gの周囲の肉を盛り上げて、正面からみて山形の樹脂を縁切りする面1fを形成することが好ましい。
図4に示すように、ばり切り用鍔2a上面と上型8の突起8a下面とが密接した状態で樹脂部4を形成すれば、端子部1の側面と上型8の凹部の側面との間に隙間があっても、この隙間に樹脂が入り込むことがないことは前述したが、同様に、樹脂部4の成形時に、山形の樹脂を縁切りする面1fと上型8の突起下面とを密接した状態になるようにすれば、端子部1の側面と上型8の凹部の側面との間に樹脂が入り込むことなく、樹脂部4を形成できる。
【0027】
上記ようにして作製した樹脂巻き端子7を、図3に示すように、鉛蓄電池の蓋に接合する。
樹脂巻き端子7の一部を構成する台座3の端部と、あらかじめCOS方式等により極板群21と一体に形成されたストラップ22とが、溶接により溶接部22aを形成して接合される。さらに電槽23と蓋24とを溶着する際に、樹脂部4の上面と蓋24の内面に設けた突起24aとが溶着部24bを形成して接合される。樹脂巻き端子7における気密性および液密性は、蓋24の下面に設けた突起24aと樹脂部4との溶着および極柱2の外周面に形成された複数の鍔2b、2c、2dと樹脂部4との密着性および沿面距離によって確保される。
【符号の説明】
【0028】
1:端子部、1a:空洞、1b:挿入口、1c:ボルト挿入孔(上面)、1d:ボルト挿入孔(前面)、1e:側壁、1f:山形の樹脂を縁切りする面、1g:樹脂圧入穴、1h:底部、1i:突出部、2:極柱部、2a:ばり切り用鍔、2b、2c及び2d:2aの一辺の長さより直径の小さい3条の鍔、3:台座、4:樹脂部、5:溝、6:ナット、6a:上面から下面に向けてネジ切りされたネジ孔、6b:前面から背面に向けてネジ切りされたネジ孔、7:樹脂巻き端子、8:上型、8a:上型7の突起、9a及び9b:2分割された下型、21:極板群、22:ストラップ、22a:溶接部、23:電槽、24:蓋、24a:蓋24の内面の突起、24b:溶着部
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の樹脂巻き端子を備えた鉛蓄電池は、端子部にナットが予め固定されているので、蓄電池の取り付けスペースやその周囲の作業スペースが小さい二輪自動車用鉛蓄電池として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直方体状のナットが挿入される空洞及び挿入口を有し、上面及び前面からボルト挿入孔が穿たれている直方体状の端子部、前記端子部の下端に連結された極柱部、及び前記極柱部の周面を取り巻く樹脂部を備えた鉛蓄電池用樹脂巻き端子において、前記ナットの上面から下面及び/又は前面から背面に向けてネジ切りされたネジ孔を有するナットを、前記ネジ孔が前記ボルト挿入孔と連通するように前記端子部の空洞に挿入し、前記空洞の下に位置する前記端子部の底部を変形させて前記ナットを固定したことを特徴とする鉛蓄電池用樹脂巻き端子。
【請求項2】
前記端子部の底部に樹脂を圧入し、前記空洞の下に位置する前記底部を変形させて前記ナットを押圧して固定したことを特徴とする請求項1に記載の鉛蓄電池用樹脂巻き端子。
【請求項3】
直方体状のナットが挿入される空洞及び挿入口を有し、上面及び前面からボルト挿入孔が穿たれている直方体状の端子部、前記端子部の下端に連結された極柱部、及び前記極柱部の周面を取り巻く樹脂部を備えた鉛蓄電池用樹脂巻き端子において、前記ナットの上面から下面及び/又は前面から背面に向けてネジ切りされたネジ孔を有するナットを、前記ネジ孔が前記ボルト挿入孔と連通するように前記端子部の空洞の中に備え、前記空洞の下に位置する前記端子部の底部に前記空洞方向に突出する突出部を設けて前記ナットを固定したことを特徴とする鉛蓄電池用樹脂巻き端子。
【請求項4】
前記端子部の底部に樹脂を圧入し、前記空洞の下に位置する前記底部に前記突出部を設けて前記ナットを押圧して固定したことを特徴とする請求項3に記載の鉛蓄電池用樹脂巻き端子。
【請求項5】
前記端子部の側壁の下部に、樹脂圧入穴を設けたことを特徴とする請求項2又は4に記載の鉛蓄電池用樹脂巻き端子。
【請求項6】
前記側壁には、前記樹脂圧入穴の周囲の肉を盛り上げて、正面からみて山形の樹脂を縁切りする面を形成したことを特徴とする請求項5に記載の鉛蓄電池用樹脂巻き端子。
【請求項7】
前記端子部は、その上面及び前面からボルト挿入孔が前記空洞で交差するような位置に穿たれ、且つ、前記ナットは、その上面から下面及び前面から背面に向けてネジ切りされたネジ孔が交差していることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の鉛蓄電池用樹脂巻き端子。
【請求項8】
前記端子部は、その上面及び前面からボルト挿入孔が前記空洞で交差しないような位置に穿たれ、且つ、前記ナットは、その上面から下面及び前面から背面に向けてネジ切りされたネジ孔が互いに交差しないような位置に形成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の鉛蓄電池用樹脂巻き端子。
【請求項9】
前記端子部は、その上面及び前面からボルト挿入孔が前記空洞で交差するような位置に穿たれ、且つ、前記ナットは、その上面から下面又は前面から背面に向けてネジ切りされたネジ孔を一個有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の鉛蓄電池用樹脂巻き端子。
【請求項10】
直方体状のナットが挿入される空洞及び挿入口を有し、上面及び前面からボルト挿入孔が穿たれている直方体状の端子部、前記端子部の下端に連結された極柱部、及び前記極柱部の周面を取り巻く樹脂部を備えた鉛蓄電池用樹脂巻き端子の製造方法において、前記ナットの上面から下面及び/又は前面から背面に向けてネジ切りされたネジ孔を有するナットを、前記ネジ孔が前記ボルト挿入孔と連通するように前記端子部の空洞に挿入した後、前記樹脂部の成形時に、前記端子部の側壁の下部に設けた樹脂圧入穴から前記端子部の底部に樹脂を圧入し、前記空洞の下に位置する前記底部を変形させてナットを押圧して固定することを特徴とする鉛蓄電池用樹脂巻き端子の製造方法。
【請求項11】
前記側壁には、前記樹脂圧入穴の周囲の肉を盛り上げて、正面からみて山形の面を形成し、前記山形の面により、前記樹脂部の成形時に樹脂を縁切りすることを特徴とする請求項10に記載の鉛蓄電池用樹脂巻き端子の製造方法。
【請求項12】
隔壁によって内部が複数のセルに区画され、各セルに極板群が収納された電槽と、前記電槽を上方から被覆する蓋とを備えた鉛蓄電池において、前記蓋に、請求項1〜9のいずれか1項に記載の樹脂巻き端子の前記樹脂部を接合したことを特徴とする鉛蓄電池。
【請求項13】
請求項12に記載の鉛蓄電池を搭載したことを特徴とする自動車。

【図1(a)】
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【図1(b)】
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【図2(a)】
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【図2(b)】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−8609(P2013−8609A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141435(P2011−141435)
【出願日】平成23年6月27日(2011.6.27)
【出願人】(507151526)株式会社GSユアサ (375)
【Fターム(参考)】