説明

鉛蓄電池

【課題】高率放電時の電圧低下を抑制し、極板変形を抑制することで長寿命化できる鉛蓄電池を提供する。
【解決手段】鉛蓄電池用極板の正極集電体を、従来の鋳造圧延材よりも腐食伸び性能が優れた鉛系合金粉末を粉末圧延することによって形成する。粉末圧延材はアスペクト比3〜13の特定方向に配向した結晶粒子により構成される組織を有する。集電体は耳部から離れるに従い、合金中のスズの濃度が減少するように作製する。スズ濃度の減少は、少なくとも二段階あることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用バッテリ、フォークリフトなどの電動車、及び無停電電源装置などの用途の鉛蓄電池に関し、特に鉛蓄電池の集電体に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池はコンピュータ機器や通信用機器のバックアップ用電源、自動車や電動車の動力源、またはビルや病院などの非常用電源など幅広い需要があり、より高出力な電池の要望が高まっている。特に、自動車用や非常電源用に用いられる電池には、瞬時に大きな電力が使用されることから高率放電特性の優れた電池が用いられる。
【0003】
高率放電特性を向上させるために、特許文献1では、電池重量を増やすことなく高率放電時の電圧低下を抑制し、放電持続時間を向上させることのできる方法として、集電体耳部(以下単に耳部と略す)から離れるにつれて集電体の鉛濃度が増大することが提案されている。一般に鉛蓄電池用極板の集電体は、集電体の強度向上のため鉛−カルシウム−錫系もしくは、鉛−アンチモン系等の組成の合金を用いている。金属は一般的に合金化するにつれて(合金の主成分が少なくなるに従い)強度及び電気抵抗は増大していく。従来の集電体はどの部分も同じ合金組成であるために、耳部から離れるにつれて集電効率が低下していく。特に高率放電時において、電池の内部抵抗による電圧低下(IR Drop)による損失が放電容量に大きく影響する。
特許文献1では、この対策として、耳部から離れるにつれて集電体の鉛濃度を高め、純鉛に近くなるようにしている。すなわち、耳部から離れるにつれ電気抵抗が小さくなることから、耳部近傍と耳部から離れた集電体端部との間の電圧低下が小さくなり、高率放電特性が向上するとされている。
【0004】
【特許文献1】特開平10−199538号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記発明は鋳造合金を用いているため、耳部から離れるにつれて集電体の合金組成が変化する。このため、電池の使用中に極板(集電体に活物質を充填したもの)の各部で腐食特性が大きく変わる。このため、極板内で腐食変形の大小が生じ、不均一な極板変形がおこり、電池が短寿命となる問題があった。
本発明の目的は、極板変形を抑制することで長寿命化でき、高率放電時の電圧低下を抑制する鉛蓄電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の鉛蓄電池用極板の集電体は、鉛系合金粉末を粉末圧延することによって形成され、アスペクト比3〜13の特定方向に配向した結晶粒子により構成される組織を有する鉛蓄電池の正極用集電体において、集電体耳部から離れるに従い合金中のスズの濃度が減少することを特徴とする。特許文献1は、異なる湯口から組成の異なった溶融合金を集電体の鋳型に流し込む、いわゆる、重力鋳造方式を採用している。鉛蓄電池の集電体は格子状の複雑な形状をしており、格子体を形成する細い骨に溶融金属を回らせることが重要である。このために、鋳型の予熱や溶融金属の温度などを制御している。特許文献1の手法は、異なる手法の溶融合金であることから、それぞれ融点が異なり、鋳造時の制御因子は複雑になる。格子状の集電体を鋳造したとしても、組成の不連続点や凝固温度の差に起因する湯境(ゆざかい)の発生は避けられない。これらの鋳造欠陥は、鉛蓄電池の充放電によって、腐食変形の起点や変形ひずみの集中箇所になりやすい。そして、不均一な極板変形で電池の短寿命につながっていた。
本発明に係る集電体は、鉛系合金粉末を粉末圧延することによって形成するため、従来の鋳造方式に比べて組成の不均一が緩和される。また、電池の充放電による集電体の腐食変形が抑制され、電池の長寿命化が可能となる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、耳部近傍と耳部から離れた集電体端部との間の電圧低下が小さくなり高率放電特性が向上し、耳からの距離によって生じる腐食変形量の差が従来の鋳造式に比べて大幅に低減でき、長寿命化が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下具体例をあげ、本発明を更に詳しく説明するが、発明の主旨を越えない限り、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0009】
図1は、本発明による鉛蓄電池の基本構成を示す。鉛蓄電池は、負極ターミナル11、正極ターミナル12、正極板13、負極板14、セパレータ15、電槽16、及び電槽蓋17を有し、電解液として硫酸が電槽16中には電解液として硫酸が蓄えられている。正極板13の集電体には、正極活物質ペーストが塗布されている。正極活物質は、公知のものが使用されてよく、鉛粉、鉛丹、硫酸鉛、添加剤等を含む正極用活物質ペーストを充填した後に、これを熟成、乾燥させて得ることができる。なお、化成によって、正極活物質は、集電体との界面において二酸化鉛(PbO)となる。以下に、正極板13の集電体の製造方法を説明する。
【0010】
従来、正極板13の集電体の製造方法としては、鉛−アンチモン系または鉛−カルシウム系合金を材料とした鋳造方式、鉛−カルシウム系合金を材料としたエキスパンド方式がある。前者は溶融状態の鉛合金を鋳型に流し込み、凝固させて格子状の集電体を作製する手法で、図2に集電体の概略図を示す。後者は合金シートを伸張し、カッターで刻みを入れダイヤモンド状の格子を展開させるもので、図3に集電体の概略図を示す。それぞれの集電体本体から突出した部分が耳部と呼ばれる部分で、この耳部が数枚一括で溶接され集電部となる。
次に本発明による正極集電体の材料を説明する。本発明では鉛系合金粉末を用いる。
鉛系合金粉末は、鉛をベースとして、スズ、カルシウム、アンチモン、バリウム、銀、ビスマスのうちの少なくとも一つ以上の合金元素を含む。鉛系合金粉末は鉛−スズ−カルシウム系合金であってよく、鉛−スズ系合金粉末であってよい。鉛系合金粉末は、乾燥空気中に溶融金属を噴霧することによって急冷凝固粉末を生成するガスアトマイズ法によって作製する。鉛含有粉末を粉末圧延によって成形しシートにする。こうして形成された圧延シートは、アスペクト比3〜13の特定方向に配向した結晶粒子により構成される組織を有する。この圧延シートを切り出して、集電体を形成する。また、圧延シートをエキスパンド加工することにより格子構造を有する集電体を形成してもよい。
【0011】
図4に本発明による集電体の製造に用いる粉末圧延装置の基本構成を示す。図2(A)は装置上面図であり、同(B)は装置側面図である。粉末圧延装置は、ホッパー23、水平対向圧延ロール24a、24b、送りロール25a、25b、送りコンベア26、及び
図示しない圧延シート巻き取り機を有する。
【0012】
正極板13の集電体材料である粉末圧延シートの製造方法を以下に示す。ホッパー23は二重構造で、外装部と、内側にスリットで三区画の通路を設けた内装部で構成されている。ホッパー23の各区画に組成の異なる鉛合金粉末を投入し、水平対向圧延ロール24a、24bで前記粉末を圧延する。続いて送りロール25a、25bを通過させ、送りコンベア26上で調整ロール27にて所定の厚みに調整され、圧延シート28を作製する。この圧延シート28は、図示しない圧延シート巻き取り機によってロール状に巻き取られる。
【0013】
図5を参照して、本発明による鉛蓄電池用の正極集電体の製造方法を説明する。ステップS101にて鉛含有粉末を用意する。鉛含有粉末は、鉛系合金粉末からなる。本発明では組成の異なる複数の鉛系合金粉末を調製する。鉛系合金粉末は、ガスアトマイズ法によって作製する。
【0014】
ステップS102にて、前記粉末を粉末圧延することによって、正極用集電体の集電体耳部が存在する側から離れるに従い合金中のスズの濃度が減少する圧延シートを作製する。圧延シートは、図2に示した粉末圧延装置を使用して作製する。
【0015】
ステップS103にて、圧延シートから集電体を形成する。圧延シートを矩形に切り出し、平板状の正極板を作製する。こうして、製造された集電板に正極活物質のペーストを塗布し、熟成乾燥させることによって正極板を形成する。
【0016】
図6は、圧延シートの組織例を示す写真である。このような組織像は、圧延シートを圧延方向に対して平行に切断し、切断面をエッチング液に浸した後に撮像することによって得られる。図示のように、圧延シートの組織は、粉末圧延の原料であるガスアトマイズ粉末の微粒子からなり、粒子径の縦横比であるアスペクト比は、3〜13である。
【0017】
図7を参照して、本発明による鉛蓄電池用の集電体を評価するために行った実験の手順を説明する。ステップS201にて、正極集電体を作製した。ステップS202にて、正極、負極、及びセパレータ等を組み立てて、単セルを作製した。ステップS203にて、正負極の化成を行った。ステップS204にて、高率放電試験及び過充電試験を行った。過充電試験は集電体の腐食を加速させる試験である。
【0018】
図8は、実験に使用した正極板の集電体の構造の例を示す。平板状の正極板は、反応活物質が塗布された正極活物質塗布部62と耐硫酸性粘着性絶縁テープでマスキングされたマスキング部61を有する。正極活物質塗布部62には、直径5mmの5つの貫通孔63を設ける。これは、熟成乾燥時に正極活物質と集電体との密着性を上げ、かつ塗布量を一定に保つためである。マスキング部61には、鉛製のリード線64をはんだ付けする。リード線64は図示しない試験用外部電源との接続部となる。
【実施例】
【0019】
鉛系合金粉末として、鉛−スズ−カルシウム系合金をベースとした粒径75μmアンダーの空気冷却ガスアトマイズ粉末を調製する。集電体耳部から離れるに従い合金中の前記正極用集電体の集電体耳部が存在する側から離れるに従い合金中のスズの濃度を減少させるため、図2の粉末圧延装置において三種類の粉末を用いることにする。すなわち、基準組成に対して、スズ濃度の減少が二段階あることになる。
【0020】
具体的には、鉛−0.05%カルシウムをベースとして、スズの量を0.5%、1.0%、1.5%と組成を変えた三種類の粉末を用意する。これらの粉末を図2(A)のホッパー23に投入する。本実施例で作製する集電体は紙面手前に耳部を形成するので、図2(A)において、ホッパー23の各区画に投入する組成は、上からスズ量0.5%、1.0%、1.5%とした。なお、目視では各粉末の色差は見分けられないが、説明の都合上、グレーの諧調で粉体のスズの濃度差を表現することにする(スズ濃度が高いほど濃い色で示した)。各粉末は重力によってホッパー23内の通路を通過し、水平対向圧延ロール24a、24bによって圧延される。続いて圧延体は送りロール25a、25bを通過して、送りコンベア26上で調製ロール27にて調厚され、厚さ0.5mmの圧延シート28を得る。この圧延シート28は、図示しない圧延シート巻き取り機によってロール状に巻き取られる。この圧延シートを切り出して、図6に示す板状の集電体を作製する。
【0021】
比較例1として、母材として鉛−0.05%カルシウム−1.5%スズ系合金の鋳造圧延シートを用意する。
比較例2として、圧延シートの幅方向に三等分で組成に差をつけた鋳造圧延シートを作製する。具体的には、母材として鉛−0.05%カルシウム系合金を用い、スズの添加量を0.5%、1.0%、1.5%とした三種類の合金を用意する。これらの合金を特許文献1の手法で三種の濃度をもった鋳造圧延シートを作製する。
比較例1、2は本発明と同様に切り出して、図6に示す板状の集電体を作製した。前記集電体に鉛ペーストを充填し、定法により熟成、乾燥する。続いて、図5のフローチャートで試験に供した。
【0022】
表1は本例の実験にて使用した高率放電試験及び過充電試験の条件で、表2は表1の試験結果である。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
この結果より、高率放電性能は、本発明品≒比較例2>比較例1、過充電性能は、本発明品>比較例1>比較例2となり、本発明品は高率放電、過充電寿命性能とも優れた性能を示す。
実施例ではホッパー23を三区画にした。前述のようにホッパー23は二重構造なので内装部の交換が可能である。これにより濃度の分離帯を適宜変更でき、極板のサイズや用途によって、濃度の変更が選択可能になる。三区画ではスズ濃度の減少が二段階あることになるので、スズ濃度の減少は少なくとも二段階以上必要となる。
また、スズの添加範囲としては、0.5%以上2.5%未満が望ましい。これは、0.5%未満では所望の効果が認められないこと、2.5%以上では集電体の腐食量が変わらないか、増加する傾向が出るためである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】鉛蓄電池の構成を示す図である。
【図2】鋳造方法の集電体の概略図である。
【図3】エキスパンド方法の集電体の概略図である。
【図4】本発明による正極集電体の製造に用いる粉末圧延装置の構成を示す図である。
【図5】本発明による正極集電体の製造方法を説明する図である。
【図6】本発明による圧延シートの組織を示す図である。
【図7】本発明による正極集電体の評価実験の手順を示す図である。
【図8】本発明による評価用正極集電体を示す図である。
【符号の説明】
【0027】
11…負極ターミナル、12…正極ターミナル、13…正極板、14…負極板、15…セパレータ、16…電槽、17…電槽蓋、23…ホッパー、24a、24b…水平対向圧延ロール、25a、25b…送りロール、26…送りコンベア、27…調整ロール、28…圧延シート、61…マスキング部、62…正極活物質塗布部、63…貫通孔、64…リード線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スズを含有する鉛系合金粉末を粉末圧延することによって形成され、アスペクト比3〜13の特定方向に配向した結晶粒子により構成される組織を有する鉛蓄電池の正極用集電体において、前記正極用集電体の集電体耳部が存在する側から離れるに従い合金中のスズの濃度が減少することを特徴とする鉛蓄電池。
【請求項2】
スズ濃度の減少が少なくとも二段階あることを特徴とする請求項1記載の鉛蓄電池
【請求項3】
前記スズの添加範囲が0.5%以上2.5%未満であることを特徴とする請求項2記載の鉛蓄電池

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−259725(P2009−259725A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−109785(P2008−109785)
【出願日】平成20年4月21日(2008.4.21)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【Fターム(参考)】