説明

銀の鎖の製造

自動鎖製造機を用いて、隣接する端部を持つ連なった鎖の輪を形成することと、レーザー手段を用いて、鎖の輪の隣接した端部を鑞付けもしくは熔接することで鎖の輪を閉じることとを含む、銀の鎖の製造方法。前記ワイヤーは、少なくとも92.5wt%の銀および約0.5〜約3wt%のゲルマニウムを含んでおり、一分間あたりに100〜250個の鎖の輪を作る速度を達成できる。また、本発明は、銀の鎖にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は銀の鎖(チェーン)の製造工程および上記工程によって得られる銀の鎖に関する。
【背景技術】
【0002】
鎖を機械で製造する際には、前記鎖に加工する為のワイヤーを丈(length)で切り、曲げて鎖の輪にして、それぞれの鎖の輪を、先行する輪と組むかもしくは先行する輪の穴に通すようにして、ひとつなぎの鎖をつくる。そうしてから、鎖を機構的に安定させるために、各鎖の輪の両端を共に結び合わせる必要がある。
【0003】
これまでは、銀半田を芯とするワイヤーを、このような鎖の製造をする際の出発材料として好適に用いていた。こうしたワイヤーとその生産方法については、米国特許US-A-978847(Carlisle,1910)で述べられており、この参照により本開示に含める。該明細書では、伸ばしてワイヤーにしようとする銀の鋳塊を、すくめ加工機、圧延、もしくはその両方によって、または、押出および絞りによって、鎖にしようとする直径になるまで圧縮した後、前記鋳塊の長さ方向に半田の芯が通るように成形する。このようなワイヤーの製造方法は、US-A-1465553(Bleecker)、2138088(Capillon)、および4247602(Krug)によって開示されており、また、金を含む貴金属の鎖および銀の鎖の製造について総説しているReti et al., precious Metal Chain, Santa Fe Symposium on Jewellery Manufacuturing Technology, 1991, 287-299 においても開示されており、これらはこの参照により本開示に含める。このようなワイヤーから形成された鎖においては、隣接している鎖の輪の端部と、鎖の輪を閉じている半田付けされた接合部とを、鎖を約720℃の還元雰囲気下の炉に入れて、加熱することによってつくる。通常は、このために連続ベルト式炉を使い、接合する隣接部の上での半田の拡がりを減らすかあるいは防ぐ為に、タルクを鎖の表面に塗布する。しかし、出発材料として使うワイヤーの生産には、多量のエネルギーを必要とし、さらに、タルクをコーティングしてその後に除去するために、費用と製造工程の複雑さが増してしまうことになる。
【0004】
上述のReti et al.で述べられている別の技術では、出発材料として固体のワイヤーを使い、炉で加熱して鎖の輪の隣り合う端部を半田付けする前に、半田粉をつける。溶媒で洗浄した鎖を、溶媒とヒマシ油と半田粉との混合溶媒中に沈めて、鎖の輪の間の小さな空隙に半田を入れ込むようにする。溶媒を飛ばしてから、鎖をタルクの中で振って、鎖の外表面から粉状になった半田を除去し、かつ鎖の表面を保護するようにした後、ベルト型炉内で加熱して鎖の輪を半田付けして閉じ、その後にタルクを除去する。しかしながら、特に銀においては、鎖の全ての輪を均等に半田付けもしくは熔接する事は難しく、スターリング銀では好ましくない炙りによる黒ずみ(firestain)が生じてしまう。半田粉の塗布は難しい工程であり、また、それに後続するタルクコーティングステップおよび除去ステップによって、製造コストが増すことにもなる。
【0005】
貴金属合金のワイヤーから、金や他の貴金属の宝飾鎖を作る為の機械は市販されており、製造工程ライン内において、レーザー、ガスプラズママイクロトーチ、もしくは放電熔接によって鎖の輪を閉じる事ができるが、その一方、銀の鎖においては、上述した炉処理がもっとも一般的な選択である。鎖作成機の製造者としては、 O.M.B.I. Spa of Milan, Italy および Sisma Spa of Schio, Italy が含まれる。US-A-5278389を参照されたい。
【0006】
銀の鎖の熔接は、金の鎖のそれよりも格段に難しく、これは、宝飾品位の銀が有する高い反射率および高い熱伝導度に因るものである。個人向けの装飾品用に用いる鎖については、銅の含有量が多い品位の銀は、食器類として使用する為に市販されている国があるとは言え、皮膚に触れると良くない為、少なくともスターリング銀の成分を有する品位の銀にするべきである。装飾品製造者の中には、例えば自動鎖作成・熔接機の提供を求めており、彼らが主張するところによればこうした機械を用いて銀の鎖を作ることができるということであるが、しかしながら現在入手できる機械では、スターリング銀を使って充分に信頼できる結果を得ることはできず、また、熱吸収を改善する為に、付加的且つ潜在的に高価につくことになる製造ステップを伴った酸化を行うことによって、鎖の輪が黒ずむことになると予想でき、これは充分に有効なものであるとは言えない。
【発明の開示】
【0007】
ここで私たちは、銀を少なくとも92.5wt%、且つゲルマニウムを約0.5〜約3wt%含み、さらにその残りとして銅もしくは他の従来技術に係る合金の成分(好ましくは結晶微細化剤としてのホウ素)、ならびに不純物を含んでいる銀のワイヤーを鎖の輪にして、例えば一分間につき100〜250個の鎖の輪といった商業的に有用な速度で、充分な信頼度を以って長さの制限無く鎖を作ることができる従来技術に係る自動鎖作成・熔接機によって、この鎖の輪を熔接して閉じることができるということを発見した。驚くべきことに、熔接をするために用いるその条件は、金の鎖を熔接するためのそれとおおむね同じである。好ましいレーザー熔接の場合には、20〜80Wの出力(例えば約30Wとすることができる)とし、光ファイバーケーブル手段によって、レーザーから熔接する位置まで熱を伝導することができる。
【0008】
一つの特徴として、本発明は、隣接していて鑞付けもしくは熔接して閉じられる端部を有する連なった鎖の輪として形成される銀のワイヤーの複数の丈部分を含んだ銀の鎖を提供する。ここで、前記ワイヤーは、銀を少なくとも92.5wt%、またゲルマニウムを約0.5〜約3wt%含んでいる。
【0009】
さらなる特徴として、本発明は、隣接していて鑞付けもしくはレーザー手段によって熔接して閉じられる端部を有する連なった鎖の輪として、銀のワイヤーの複数の丈部分を含んだ銀の鎖を形成することを含んだ、銀の鎖の製造方法を提供する。ここで、前記ワイヤーは、銀を少なくとも92.5wt%、ゲルマニウムを約0.5〜約3wt%含んでいる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係る鎖を作る為に使われるワイヤーは、円状の断面を有するものとすることができるが、所望する鎖の仕上がりの外観に応じて、例えば、楕円状、多角形状、帯状、もしくは平角線といった他の断面としても良い。前記ワイヤーは、典型的には、円状の断面積を有し、直径を0.008〜0.20cm(0.003〜0.08インチ)、より一般的には0.013〜0.08cm(0.005〜0.030インチ)とすることができる。本発明によって作成することができる鎖としては、ロープチェーン、小豆チェーン( cable-link chains )、喜平チェーン(curb link chains)、フィガロチェーン(即ち、短い鎖の輪と長い鎖の輪とを交互につないだ鎖)、Spigaチェーン、Ottoチェーン、Russaチェーンなどが含まれ、また、これらのチェーンの形成にあたっては、自動鎖作成機を上述した種々の供給業者から入手することができる。本発明に係る鎖は、通常は、すべてが銀から成っているか、もしくは大部分が銀で成るようなものとなるが、実施形態には、他の貴金属のワイヤー(例えば金および/もしくは半貴金属のワイヤー)、あるいは他の金属のワイヤーと、銀のワイヤーとを併せて作成した鎖も含むことができる。
【0011】
本発明に係るワイヤーは、その表層に少なくともレーザー熔接を簡単にする為に充分な量のゲルマニウムを含むべきである。このようなワイヤーは、例えば、GB-B-2255348(Rateau, Albert and Johns; Metaleurop Recherche)で述べられている合金であっても良い。前記合金は、酸化されやすい銅成分から生じてくる問題を低減しつつ、Ag-Cu合金に固有の硬度特性および光沢特性を保っている。前記合金は、少なくとも92.5wt%の銀と、0.5〜3wt%のゲルマニウムと、残りとして、夾雑成分および不純物を除いて銅とを含んでいる、Ag-Cu-Ge三元合金である。この合金は、従来の製造法、変形工程、および仕上げ工程の間において外気中で錆びることが無く、また、冷却時に容易に変形することができ、また、スターリング銀と比較して優れた伸張性と延性とを示し、また、焼き鈍すことができる。
【0012】
特許US-A-6168071およびEP-B-0729398(Johns)では、本発明に係る方法において用いることができ、また宝飾鎖を製造するという本発明の目的に沿う銀/ゲルマニウム合金が開示されており、この合金には、少なくとも92.5wt%の銀成分、0.4〜7%のゲルマニウム成分、さらに夾雑成分および不純物を除いて主に銅である残余分とを含み、また、この合金は、1ppmより多く40ppmより少ない濃度、例えば約4〜8ppmの濃度である、結晶微細化剤としてホウ素元素を含んでいる。前記合金中のホウ素成分は、2wt%のホウ素元素を有している銅/ホウ素マスター合金中のホウ素を加える事によって得ることができた。このような低濃度のホウ素によって、銀/ゲルマニウム合金中で結晶を良好に微細化することができ、ホウ素を含まない銀/ゲルマニウム合金に比べて、大きな強度と延性とを合金に与えることができる。上述した合金の熔接では、スターリング銀の熔接に比べて、より小さな極めて小さな平均結晶サイズとなり、熔接における成形性および延性が改善されている。本発明に係る方法で用いることができる、最近に進展した銀-銅-ゲルマニウム三元合金は、銀94.5wt%、ゲルマニウム1.2wt%、銅4.1wt%、およびホウ素0.0008wt%(8ppm)を含んでいる。この合金は、窒素雰囲気下の1050℃で、銀、銅、およびゲルマニウムをともに融かして、できる限り最後の方の一瞬に、銅-ホウ素マスター合金としてホウ素を加えることで、調製することができる。
【0013】
上述の合金の特性および使用法については、Peter Johns による論文( Peter Johns, Firestain Resistant Silver Alloys, Santa Fe Symposium on Jewellery Manufacturing Technology, 1997, p33-67 )、および、 Society of American Silversmiths の Jeffrey Hermanmによるオンライン文書( http://www.silversmithing.com/1argentium.htm )、において述べられている。特に、ゲルマニウムの添加によって、銀合金の電気伝導度および熱伝導度を低減している。国際標準軟銅規格( The International Annealed Copper Scale )によって、金属の電気伝導度が評価される。この規格では、銅の値が100%となり、純銀の値は106%、スターリング銀の値は96%、ゲルマニウムを1.1wt%含んでいる合金の値は56%、ゲルマニウムを2.5wt%含んでいる合金の値は23%となる。電気伝導度が下がるにつれて、熱伝導度も下がるようになる。
【0014】
少量の他の合金成分を含んでいる上記の合金の変種を使用することもできるが、こうした付加的な成分は明瞭な効果を示さないであろうということを理解されたい。このような例としては、例えば、銅の少なくとも一部に置き換えるものとしてのカドミウム(毒性を持つため好ましくない)および/もしくは亜鉛(硬度の減少、揮発性およびレーザー熔接上の問題によって好ましくない)、ならびに、例えば0.25wt%以下(好ましくは0.1wt%以下)の量のシリコン、ならびに、例えば0.25wt%以下の量のニッケル(毒性およびアレルギー反応のため、皮膚と触れる状態になると考えられる鎖においては好ましくない)、ならびに少量のマンガンもしくはインジウム、が含まれる。合金の腐食抵抗、合金の熔接特性、または合金の物理特性および成形性に対して、有害ではないこれらの少量の合金成分は、“夾雑成分”という語句に含まれる。
【0015】
GB-B-2255348及びEP-B-0729398の教示するところの銀合金は、現在、商標名Argentiumとして欧米で市販されている。本明細書中の“Argentium”という言葉は、これらの合金を指すものとする。925-品位のArgentium合金は、銀を(最低で)92.5wt%、ゲルマニウムを1.1〜1.3wt%、ホウ素を6ppm含み、さらに残りとして銅および不純物を含む。前記合金は、非常に厳しい条件下において、優れた耐曇性を示す。ゲルマニウムによって不働態層が形成されることにより、従来の銀合金の曇りの主要因である硫化銀の形成を充分に遅緩させる。硫化水素雰囲気中であっても、曇りの程度と深さとが、従来の銀合金や銀食器類と比べてかなり少ない。耐曇性を与えるものと同様のメカニズムによって、例えば熔接時にこの合金に生じる“炙りによる黒ずみ”もしくは“灼爛層”(fire layer)の深さを充分に低減する不働態層が形成されることになる。実験では、従来の銀合金の“炙りによる黒ずみ”の深さが、Argentium銀合金と比較して、3倍以上にもなることが示された。これによって、必要な合金の研磨量を減らし、また、他にも製造時におけるコストをかなり抑える事ができるようになる。
【0016】
Argentiumスターリングおよび他のゲルマニウムを含んでいる銀合金の表面上に酸化物層が成長することによって、大きな利点が生じると考えられる。このような表面酸化物層によって、レーザー熔接工程中に大きな粘稠度が得られると考えられる。この酸化物層は、大部分を酸化ゲルマニウムとすることができる。別の態様として、酸化物層を酸化ゲルマニウムおよび酸化銅とすることもできる。例えば、驚くべきことに、従来技術に係る熔接ペンを用いて、表面を黒ずませること無く、より容易に熔接できるようになり、且つ、酸化物膜によって顕著な変色を起こすことも無い、ということが発見されている。
【0017】
酸化物層は、鎖をつくるために用いるワイヤーにおいても生成することができ、例えば、空気中で焼き鈍すか、あるいは、WO 02/095082(この参照により、この文献の内容を本開示に含める)で開示されている類の湿潤選択性酸化雰囲気中で焼き鈍すことによって、生成することができる。前述の特許出願は、穏やかな酸化条件(すなわち、温度と酸素分圧)を開示しており、この条件下では、Ag-Cu-(Zn)-Ge合金が、CuからCu2Oが生成すること無く、Geが反応してGeO2を形成するように処理する事ができる。しかしながら、スターリング銀のようなAg-Cu合金を製造する為に用いる通常の工業的な焼き鈍し温度(典型的には約625℃あるいは650℃)と時間から、処理温度の上限と、その温度に置く時間に関する制限が生じてくることになる。私たちは、前記Ag-Cu-(Zn)-Ge合金を、625℃および650℃といった焼き鈍し温度で処理し、Geを選択的にGeO2に酸化することができる手法を確立した。この手法では、この温度において得られる酸素分圧が、CuO2の形成を妨げつつ、GeO2が生成するような範囲であるように調節した雰囲気を使用する。
【0018】
前記雰囲気は、少なくとも一種類の非酸化性ガスを含んでもよく、例えばアルゴンや窒素のような不活性ガス、あるいは、より好ましくは、水素、解離アンモニア、もしくは一酸化炭素のような還元性ガス、とすることができる。従って、適した非酸化性ガスには、水素、解離アンモニア、一酸化炭素、窒素、アルゴン、あるいはそれらの混合物が含まれる。加えて、前記雰囲気は、H2O(蒸気)、酸素、もしくは二酸化炭素のような少なくとも一つの酸化性ガスを含む。前記非酸化性ガスおよび酸化性ガスの比率は、用いる焼き鈍し温度において、ゲルマニウムが酸化ゲルマニウムへ選択的に酸化されるような酸素ポテンシャルが得られるように選択することになる。適切には、選択性酸化雰囲気は、水素およびH2O、または、一酸化炭素および二酸化炭素を含むか、あるいは、アルゴンもしくは窒素、ならびに酸素から成る。例として、或る実施形態においては、選択性酸化雰囲気は、アルゴンもしくは窒素であるがそれに限定はされない不活性ガスに、調整した量の酸素を加えたものとして供給される。典型的には、0.1〜0.5vol.%の酸素成分を有する雰囲気が得られるように、酸素を加える。
【0019】
好ましくは、前記雰囲気は湿潤選択性酸化雰囲気である。この文中の「湿潤」( 'wet' )とは、水分(H2O)を含み、雰囲気の露点が少なくとも+1℃、好ましくは少なくとも+25℃、より好ましくは少なくとも+40℃となるような、雰囲気のことを意味する。好ましくは、露点は+1℃から+80℃、より好ましくは+2℃から+50℃までの範囲内とする。前記露点は、水蒸気を含んでいる雰囲気が、冷却されて飽和する温度のことと定義することができ、従って前記露点以下の温度まで冷却することによって結露する。さらに包括的な定義については、 "Handbook of Chemistry and Physics", 65thEdition(1985-85), CRC Press Inc., USA, .page F-75 を参照のこと。私たちは、水素および水分を含んだ雰囲気、例えば、窒素、水素、および水蒸気から成る雰囲気(例えば、水蒸気を含んだ95%の窒素/5%の水素混合ガス(v/v)、または、窒素、水素、一酸化炭素、二酸化炭素、メタン、および水蒸気から成る炉内雰囲気)、を好ましいと考える。
【0020】
実際の湿潤選択性酸化雰囲気の生成にあたっては、実質的に乾燥した不活性ガスもしくは乾燥した還元性炉内雰囲気(例えば、主に窒素から成るか、または窒素および水素から成り、典型的には、窒素、水素、一酸化炭素、二酸化炭素、およびメタンを含んでいる炉内雰囲気)に、水蒸気を加える。炉内の露点は、炉中に露点計もしくはプローブといった従来技術に係る手段を置くことによって測定することができ、また、選択性酸化雰囲気を調節する為に、ガス混合比を適宜調節する。
【0021】
前記合金の焼き鈍しは、選択性酸化雰囲気下で実行すべきである。もし、通常どおりに、焼き鈍しを連続する焼き鈍しステップとして実行したとすると、例えば、途中でワイヤーの引き抜き加工ステップを挟みながら、少なくとも仕上げの焼き鈍しステップを、選択性酸化雰囲気下で実行すべきである。焼き鈍しは、400℃から750℃までの範囲の温度、典型的には400℃から700℃、好ましくは500℃から675℃、より好ましくは600℃から650℃、特には約625℃で実行する。適切な焼き鈍しの合計時間は、高温の焼き鈍し温度での5分から、低温の焼き鈍し温度での1時間までの範囲とし、より好ましくは15分から1時間までの範囲とする。
【0022】
合金の処理と焼き鈍し(好ましくは繰り返し行う)の結果、酸化ゲルマニウムが結晶境界面に集中して、合金表面内に拡がると考えられ、これによって、銅を、酸化およびその結果として起こる炙りによる黒ずみから保護する事ができると考えられる。また、実験では、酸化ゲルマニウムもしくは二酸化ゲルマニウムによって、硫化銀の形成が妨げられることが示された。このようにして、炙りによる黒ずみへの優れた抵抗性と耐曇性とを有する、Ag-Cu-Ge三元合金あるいはAg-Cu-Zn-Ge四元合金を、本発明に係る方法を使う事によって実現することができる。さらに、上述したような酸化物層の存在によって、高速鎖熔接機におけるレーザー熔接が容易になると考えられる。
【0023】
本発明に係る方法において用いられるワイヤーは、全体が上述の合金のうちの一つからできている場合には、その断面(固体)に亘って均一な組成であるのが好ましく、あらゆる所の同じ組成のもので好ましい。しかしながら、ワイヤーを、例えば半田を芯とする鋼塊の押出成形によって作成されるような、半田を芯とするタイプのものとして、鎖の輪の隣接する端部間を半田付けして接合できるようにすることも可能である。
【0024】
このような場合には、ワイヤーの外側部分が、延性を持つ銀成分を多く含んだAg-Ge二元合金から成るようにすることができ、例えば、銀を約99wt%、ゲルマニウムを約0.5〜3wt%、好ましくは約1wt%含み、さらに、残りとして夾雑成分および/もしくは不純物を含むような合金から成るようにすることができる。
【0025】
前記芯は、軟銀の鑞付け組成物とすることができ、例えば、約600℃〜約705℃の固相線温度と、約650℃〜約725℃の液相線温度を持つような組成物とすることができる。特に好ましくは、非常に低い融点を持つ、Geを含んだ鑞付け組成物(約600℃〜約630℃の固相線温度、且つ、約650℃〜約680℃の液相線温度)であって、少なくとも55wt%の銀成分を含むか、あるいは、いくつかの管轄内の法的な要請に合わせるために少なくとも65wt%の銀を含む。ゲルマニウムの存在によって、発色および耐曇性が改善され、また、融点が低くなっている。発色が良く、良い表面の艶の接合部が得られるような、芯として適切な延性を有する低融点組成物は、以下の材料を共融することによって作成することができる。即ち、銀58%、ゲルマニウム2%、スズ2.5%、亜鉛14.5%、珪素0.1%、ホウ素0.14%、および銅22.76%(固相線約615℃、液相線約650℃)。さらに適切な、より銀成分が多く、且つスズを加えない組成物には、銀60%、ゲルマニウム2%、亜鉛13%、珪素0.1%、および銅24.9%、が含まれる。65wt%よりも多くの銀を含んでいる適切な構成物には、銀67%、ゲルマニウム2%、亜鉛8%、珪素0.1%、および銅22.9%、が含まれる。多くの銀を含有する組成物の別の例には、銀70%、ゲルマニウム2%、亜鉛8%、珪素0.1%、および銅19.9%、が含まれる。
【0026】
芯と外側部分との比率、ならびにそれらの組成については、仕上がった鎖の全体に亘って、少なくとも92.5%の銀が含有されるように選択するべきである。
実験においては、上述した銀成分94.5%およびゲルマニウム成分1.2wt%の合金の直径0.04cm(0.015”)のワイヤーを、自動鎖製造機を使用して、楕円を結んだ小豆チェーンとし、機械内に設置された出力30Wのレーザーを使って、その鎖の輪を閉じるように熔接した。前記鎖は、レーザーの有効出力の約97%を使う事で、一分間あたり約155〜160個の鎖の輪ができる速度で作成された。熔接を行う箇所に光の楕円焦点を当てて、それぞれの鎖の輪につくられた端接合部の線に沿って、照射エネルギーを拡げるようにする。得られた鎖を振動研磨機にかけて磨き、非常に鮮明な光沢を得る。光学顕微鏡を用いて熔接した接合部の検査を行い、好ましくないレーザー衝撃もしくは灼痕、煤汚れもしくは炙りによる黒ずみが無い、均一且つきれいな接合部であることが確認され、さらに、従来技術に係る金の鎖と同様の接合部であることも確認された。不活性ガス(アルゴン)雰囲気は、満足のいく熔接部位の形成、もしくは炙りによる黒ずみが無くすためには、必要では無かった。得られた鎖の輪の加熱された領域では、結晶サイズが小さくなっていた。得られた鎖については約27N(6lbf)の破断荷重が要求されたが、実際には約40N(9lbf)の破断荷重を示し、一方、対照としてのスターリング銀で同様の半田付けをした鎖では約36N(8lbf)の破断荷重を示した。
【0027】
また、上記の工程を、鎖の終端にリベットを熔接することにより、ブレスレットの製造に使う事もできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀のワイヤーの複数の丈を、連なった鎖の輪に形成することと、
レーザー手段を用いて、前記鎖の輪の隣接している端部を、鑞付けもしくは熔接することで前記鎖の輪を閉じることと
を含み、ここで、前記ワイヤーが、少なくとも92.5wt%の銀、および約0.5〜約3wt%のゲルマニウムを含んでいることを特徴とする、銀の鎖の製造方法。
【請求項2】
前記ワイヤーが、直径0.008〜0.20cm(0.003〜0.08インチ)であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ワイヤーが、直径0.013〜0.08cm(0.005〜0.030インチ)であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記ワイヤーの、断面における組成が、均一であることを特徴とする上述の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ワイヤーが、少なくとも92.5wt%の銀と、0.5〜3wt%のゲルマニウムと、結晶微細化剤としての1〜40ppmの濃度のホウ素元素と、残りとして夾雑成分および/もしくは不純物を除いて、銅を含んでいるAg-Cu-Ge三元合金から成ることを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記ワイヤーが、夾雑成分および不純物を除いて、銀を92.5wt%以上、銅を約6.3wt%、ゲルマニウムを約1.2wt%、ならびにホウ素元素を約4〜8ppm含んでいるAg-Cu-Ge三元合金から成ることを特徴とする請求項4記載の方法
【請求項7】
前記ワイヤーが、銀を93.5wt%〜95.5wt%、ゲルマニウムを0.5〜3wt%、ホウ素元素を1〜40ppm含み、残りとして夾雑成分および/もしくは不純物を除いて、銅を含んでいるAg-Cu-Ge三元合金から成ることを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項8】
前記ワイヤーが、銀を約94.5wt%、ゲルマニウムを1.2wt%、ホウ素元素を4〜8ppm含み、さらに残りとして、夾雑成分および/もしくは不純物を除いて、銅を含んでいるAg-Cu-Ge三元合金から成ることを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項9】
前記銀のワイヤーが、半田の芯、もしくは鑞付け合金の芯、を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ワイヤーの、前記芯以外の領域が、ゲルマニウムを0.5〜3wt%と、残りとして、夾雑成分および/もしくは不純物を除いて、銀を含んでいることを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記ワイヤーの、前記芯以外の領域が、ゲルマニウムを約1wt%含むことを特徴とする請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記芯が、銀の鑞付け合金であることを特徴とする請求項9、10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記鑞付け合金が、少なくとも55wt%の銀と0.5〜3wt%のゲルマニウムとを含んでいるAg-Cu-Zn族である、
ことを特徴とする請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記合金が、さらに0.1〜0.3wt%のホウ素を含む、
ことを特徴とする請求項11もしくは12記載の方法。
【請求項15】
前記鑞付け合金の芯が、約600℃〜約705℃の固相線温度と、約650℃〜約725℃の液相線温度とを有する、
ことを特徴とする請求項9〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記鑞付け合金の芯が、約600℃〜約630℃の固相線温度と、約650℃〜約680℃の液相線温度とを有する、
ことを特徴とする請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記鎖の輪を、一分間あたりに100〜250個の鎖の輪を作ることができる速度で閉じる、
ことを特徴とする、上述の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記鎖の輪を、出力20〜80Wのレーザーを使う事で閉じる、
ことを特徴とする、上述の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記鎖の輪を、出力約30Wのレーザーを使う事で閉じる、
ことを特徴とする、上述の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記ワイヤーが、熔接して鎖にする前に、酸化雰囲気内で焼き鈍してある、
ことを特徴とする、上述の請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記酸化雰囲気が空気である、
ことを特徴とする請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記酸化雰囲気が選択的酸化雰囲気である、ことを特徴とする請求項20記載の方法。
【請求項23】
前記選択性酸化雰囲気が、湿潤選択性酸化雰囲気である、
ことを特徴とする請求項22記載の方法。
【請求項24】
前記湿潤選択的酸化雰囲気が、
(a) 水素ガスと水分
(b) 一酸化炭素と二酸化炭素
(c) 窒素、水素、一酸化炭素、二酸化炭素、メタン、および水分
(d) アルゴンもしくは窒素と、酸素
のいずれかを含む、
ことを特徴とする請求項23記載の方法。
【請求項25】
前記雰囲気の露点が、少なくとも+1℃である、
ことを特徴とする請求項23もしくは24記載の方法。
【請求項26】
前記雰囲気の露点が、+1℃〜+80℃の範囲である、
ことを特徴とする請求項25記載の方法。
【請求項27】
前記雰囲気の露点が、+2℃〜+50℃の範囲である、
ことを特徴とする請求項25記載の方法。
【請求項28】
隣接する端部を有していて、接合部を鑞付けもしくは熔接することによって閉じられるような、連なった鎖の輪として形成される、銀のワイヤーの複数の丈を含み、ここで、前記ワイヤーは、少なくとも92.5wt%の銀と、約0.5〜約3wt%のゲルマニウムとを含んでいることを特徴とする、銀の鎖。

【公表番号】特表2007−534836(P2007−534836A)
【公表日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−543633(P2006−543633)
【出願日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【国際出願番号】PCT/GB2004/050037
【国際公開番号】WO2005/056213
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(505436438)ミドルセックス シルバー カンパニー リミテッド (8)
【氏名又は名称原語表記】MIDDLESEX SILVER CO.LIMITED
【Fターム(参考)】