説明

銀薄膜の表面処理方法及びそれを用いた精密部品並びに電気電子デバイス

【課題】精密部品や電気電子デバイスに形成された銀薄膜の表面を、簡単な工程により、安全且つ安価に、環境負荷も少なく、しかも従来と同等以上の特性を備えたPTFEコーティングすることが可能である銀薄膜の表面処理方法及びそれを用いた精密部品並びに電気電子デバイスを提供する。
【解決手段】基体の表面の全面又は部分的にパターン形成された銀薄膜の表面にPTFEコーティングを施す表面処理方法であって、前記基体にPTFEパウダーを接触させて表面に付着させた後、熱処理を施して銀薄膜の表面にPTFE皮膜を定着形成し、それから刷毛、振動又はガスパージにより基体の表面及び銀薄膜の表面に付着した余分なパーティクルを除去する。銀薄膜が無光沢銀メッキ皮膜であり、粒径が0.2〜2μmのPTFEパウダーを銀薄膜表面に付着させた後に、50〜250℃の温度で熱処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀薄膜の表面処理方法及びそれを用いた精密部品並びに電気電子デバイスに係わり、特に精密部品や電気電子デバイスに形成された銀薄膜の表面をPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)コーティングする表面処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、精密機器に使用されるボルトやナットは、カジリを防止するために、ネジ山を含む表面に部分銀メッキが施され、その銀メッキ薄膜の表面は、摩擦を更に低減し、腐食を防止するためにPTFEコーティングが施されていた。このPTFEコーティングには、PTFEのディスパージョンであるユノンS(日本バルカー工業株式会社の商品名)をスプレー塗布した後、加熱して溶剤を除去していた。しかし、ユノンSは、可燃性で、またオゾン層破壊物質のフロンを含むため、このスプレー塗布作業には、細心の注意を払う必要があるばかりでなく、環境負荷が大きいといった欠点がある。
【0003】
また、特許文献1には、銀メッキ薄膜の表面にPTFEコーティングを施した空洞共振器が開示されている。つまり、空洞共振器の内面に、光沢銀メッキ又は半光沢銀メッキを施し、その上面にさらにPTFEコーティングが施されている。PTFEコーティングには380℃の熱処理を行う旨の記載があるが、具体的なコーティング処理方法には言及されてない。
【特許文献1】特開2005−33048号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、精密部品や電気電子デバイスに形成された銀薄膜の表面を、簡単な工程により、安全且つ安価に、環境負荷も少なく、しかも従来と同等以上の特性を備えたPTFEコーティングすることが可能である銀薄膜の表面処理方法及びそれを用いた精密部品並びに電気電子デバイスを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、前述の課題解決のために、基体の表面の全面又は部分的にパターン形成された銀薄膜の表面にPTFEコーティングを施す表面処理方法であって、前記基体にPTFEパウダーを接触させて表面に付着させた後、熱処理を施して銀薄膜の表面にPTFE皮膜を定着形成し、それから刷毛、振動又はガスパージにより前記基体の表面及び前記銀薄膜の表面に付着した余分なパーティクルを除去することを特徴とする銀薄膜の表面処理方法を構成した(請求項1)。
【0006】
ここで、前記銀薄膜が、銀メッキによって形成されたもの(請求項2)、あるいは銀ペーストを塗布後、焼成して形成されたもの(請求項3)であることが好ましい。特に、好ましいのは無光沢銀メッキである。
【0007】
また、前記PTFEパウダーが、PTFEファインパウダー若しくは低分子量PTFE粉末であることが好ましい(請求項4)。更に、好ましくは、前記PTFEパウダーの粒径が0.2〜2μmである(請求項5)。
【0008】
そして、前記熱処理の温度は、50℃以上で前記銀薄膜又は基体の熱変形温度の低い方の温度以下であることが好ましい(請求項6)。
【0009】
特に、前記基体がステンレス鋼であり、前記銀薄膜が無光沢銀メッキ皮膜であり、粒径が0.2〜2μmのPTFEパウダーを銀薄膜表面に付着させた後に、50〜250℃の温度で熱処理することがより好ましい(請求項7)。
【0010】
そして、本発明は、前述の銀薄膜の表面処理方法を用いて、基体の表面に形成した銀薄膜をPTFEコーティングして作製した精密部品を提供する(請求項8)。特に、前記基体がボルト又はナットであり、ネジ山を含む表面に部分的に銀薄膜を形成したものであると、ネジの噛合部の摩擦力が低下し、締め付け時にカジリがなく好ましい(請求項9)。
【0011】
また、本発明は、前述の銀薄膜の表面処理方法を用いて、基体の表面に形成した銀薄膜をPTFEコーティングして作製した電気電子デバイスを提供する(請求項10)。
【発明の効果】
【0012】
以上にしてなる請求項1に係る発明の銀薄膜の表面処理方法は、基体にPTFEパウダーを接触させて表面に付着させた後、熱処理を施して銀薄膜の表面にPTFE皮膜を定着形成し、それから刷毛、振動又はガスパージにより前記基体の表面及び前記銀薄膜の表面に付着した余分なパーティクルを除去したので、基体の表面の全面又は部分的にパターン形成された銀薄膜の表面に、ドライプロセスだけの簡単な工程により、安全且つ安価に、環境負荷も少なくPTFEコーティングを施すことができる。本発明の方法により、従来のPTFEディスパージョンをスプレー塗布し、溶剤を除去する熱処理を行う方法と比較して、精密ナット、ボルトの締め付け時のトルクを低減することができることを確認している。
【0013】
請求項2によれば、銀薄膜が銀メッキによって形成されていると、銀メッキの表面に接触させたPTFEパウダーの付着性に優れ、その後の熱処理によって良好なPTFE皮膜を形成することができ、それにより銀メッキを保護することができるとともに、摩擦力低減化を図ることができる。銀メッキとしては、光沢銀メッキよりも無光沢銀メッキの方が優れている。ここで、前記基体が金属であり、その表面に銀メッキがパターン形成されている場合、基体の全体にPTFEパウダーを接触させても、刷毛、振動又はガスパージにより銀メッキ表面以外の部分に付着したPTFEパウダーを容易に除去することができる。
【0014】
請求項3によれば、銀薄膜が銀ペーストを塗布後、焼成して形成されたものであると、基体表面に複雑なパターンで銀薄膜を形成し、その表面をPTFE皮膜で被覆することができる。特に、基体が電子基板であり、その上に配線パターンが銀薄膜で形成されている場合、PTFE皮膜を形成して電気絶縁することができる。
【0015】
請求項4、5によれば、PTFEパウダーが、PTFEファインパウダー若しくは低分子量PTFE粉末であると、銀薄膜を形成した基体の表面が、微細な凹凸を有していても満遍なく付着させることができるとともに、銀薄膜との付着力を増大させることができる。特に、前記PTFEパウダーの粒径が0.2〜2μmであるとより好ましいのである。ここで、粒径が0.2μmよりも小さいと取り扱いが難しくなるばかりでなく、高価になって入手が困難になり、実用的でない。一方、粒径が2μmよりも大きいと、銀薄膜に対する付着力が小さくなり、熱処理する前にPTFEパウダーが落ちてしまうといった不都合が生じ、その上、基体の微細な凹凸に満遍なく付着させることができなくなるので好ましくない。
【0016】
請求項6によれば、熱処理の温度を50℃以上で銀薄膜又は基体の熱変形温度の低い方の温度以下とすれば、銀薄膜又は基体を熱変形させずにPTFEパウダーを熱処理して、個々の粒子が連結されたPTFE皮膜を形成することができる。
【0017】
請求項7によれば、基体がステンレス鋼であり、前記銀薄膜が無光沢銀メッキ皮膜であり、粒径が0.2〜2μmのPTFEパウダーを銀薄膜表面に付着させた後に、50〜250℃の温度で熱処理することにより、大気中での熱処理でも基体を熱変色させずに銀メッキ皮膜の表面をPTFE皮膜で被覆することができる。ステンレス鋼は、機械的性質、耐薬品性、耐熱性等の特性に優れ、様々な精密部品を作製することができ、その表面に銀メッキ皮膜を形成して、機械的には他の部品に対する密着性、変形性を付与し、電気的には導電性を高める等の性質を付与することができ、その表面をPTFE皮膜で被覆することで、銀メッキ皮膜を保護することができる。
【0018】
請求項8、9によれば、基体の表面に形成した銀薄膜をPTFEコーティングして作製した精密部品を提供することができ、特に、前記基体がボルト又はナットであり、ネジ山を含む表面に部分的に銀薄膜を形成したものであると、ネジの噛合部の摩擦力が低下し、締め付け時にカジリがなくなり、ボルト又はナットをより小さい締付トルクで大きな締付力(軸力又は推力)を得ることができるとともに、締付トルクに対して常に一定の締付力を得ることができ、締付力の管理が容易になる。また、保守点検や修理の際に外して、再度締め付ける場合にも再現性良く組み立てることができる。
【0019】
請求項10によれば、基体の表面に形成した銀薄膜をPTFEコーティングして作製した電気電子デバイスを提供することができる。特に、銀薄膜は導電性に優れているので、基板の表面にパターン形成して電気配線とすることができ、その表面をPTFE皮膜で被覆して電気絶縁をすることができる。また、マイクロ波の導波管や空洞共振器の内面に導電性の高い銀薄膜を形成することにより、マイクロ波の減衰を抑制でき、更に銀薄膜を被覆するPTFE皮膜は高周波特性に優れているので、誘電損失も少なくすることができる。本発明は、その他の電気電子デバイスにも適用することが可能な要素技術である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に、本発明を更に詳細に説明する。
【0021】
本発明の表面処理方法は、先ず金属や耐熱合成樹脂からなる基体の表面の全面又は部分的に銀薄膜をパターン形成し、次いで銀薄膜の表面にPTFEコーティングを施すものであるが、PTFEコーティングにPTFEパウダーを用いることに特徴がある。
【0022】
ここで、前記銀薄膜は、通常の銀メッキによって形成する。銀メッキには、光沢銀メッキと無光沢銀メッキがあるが、後述のように無光沢銀メッキの方が好ましい。代表的には、シアン化物のメッキ浴を用いた電気メッキで行うが、無電解銀メッキでも良い。
【0023】
また、前記銀薄膜は、銀ペーストを塗布後、焼成して形成されたものでも良い。銀ペーストは、銀の微粒子を有機物バインダーと混合したもの、あるいは酸化銀微粒子をエチレングリコール等の還元剤と混合したものを用いる。これらの銀ペーストは、スクリーン印刷や塗布法等によって基体表面にパターン形成することができ、それを150℃程度で焼成して導電性膜を形成する。
【0024】
銀は貴金属の中でも塩化物や硫化物と反応して腐食しやすい傾向にあり、また非常に柔らかいので傷付き易いといった特徴を有している。銀が柔らかいという特性は、精密ボルトやナットのネジ部に薄膜を形成してカジリを防止するために利用される。一方、銀は腐食や空気酸化して変色しやすいので、その表面を被覆する必要がある。
【0025】
それには、本発明では、銀薄膜が形成された前記基体にPTFEパウダーを接触させて表面に付着させた後、熱処理を施して銀薄膜の表面にPTFE皮膜を定着形成し、それから刷毛、振動又はガスパージにより前記基体の表面及び前記銀薄膜の表面に付着した余分なパーティクルを除去する。ここで、パーティクルは、熱処理によってもPTFE皮膜を形成しなかったPTFEパウダーや、PTFEパウダー同士が融着した凝集体等であり、精密部品では汚染の原因となるものである。
【0026】
本発明では、熱処理後において、銀薄膜に定着形成したPTFE皮膜の付着力が、基体の他の部位の表面や銀薄膜のPTFE皮膜の上に付着したパーティクルの付着力よりも大きいことを利用する。この現象は、本発明の完成過程において発見されたものである。実際に、ステンレス鋼からなる基体の表面に、部分的に銀メッキ薄膜を形成した場合、銀メッキ薄膜とステンレス鋼の表面とでは、熱処理後におけるPTFEパウダーの付着力に大きな差が生じ、熱処理後に基体の全体を刷毛で払うだけで、銀メッキ薄膜の表面以外の部位のパーティクルを除去することができた。刷毛の代わりに、基体に振動を与えたり、ガスを吹付けて余分なパーティクルを除去することも可能である。基体あるいはパーティクルに振動を与える方法としては、超音波照射や振動テーブルに載置する等の方法がある。ガスパージに使用するガスは圧縮空気で良い。銀メッキ薄膜とPTFEパウダーとが相性が良い理由は定かでないが、銀メッキ薄膜の表面に直接接触したPTFEパウダーは、熱処理によって銀メッキ薄膜と密着してPTFE皮膜を形成し、その上に付着しているPTFEパウダー層は、比較的簡単に除去することができる。
【0027】
前記PTFEパウダーとして、粒径が0.2〜2μmであるPTFEファインパウダー若しくは低分子量PTFE粉末を用いる。PTFEパウダーは、未焼成であることが好ましい。ここで、PTFEパウダーの粒径は小さい方が付着力が大きいが、あまり粒径が小さいと入手が困難になり、取り扱いも難しくなるので、粒径の下限を0.2μmとした。一方、PTFEパウダーの粒径が大きくなると、基体に微細な凹凸がある場合、凹部にまで入らなくなるので、粒径の上限を2μmとした。また、PTFEパウダーの熱処理温度は、50〜300℃であるが、基体や銀薄膜の耐熱温度より低くする必要があり、50℃以上で前記銀薄膜又は基体の熱変形温度の低い方の温度以下である。更に、熱処理によって基体が変色したり、変質することを避けなければならない。
【0028】
最良の実施形態は、前記基体がステンレス鋼であり、前記銀薄膜が無光沢銀メッキ皮膜であり、粒径が0.2〜2μmのPTFEパウダーを銀薄膜表面に付着させた後に、50〜250℃の温度で熱処理するものである。この熱処理の温度範囲であれば、PTFEパウダーを銀薄膜の表面に定着することができるとともに、前記基体の露出部分の熱変質を防止できる。この条件は、大気炉でのものであるが、真空炉であれば300℃でもステンレス鋼の表面が変色することはない。しかし、経済性、工業性の観点から、大気炉による熱処理を前提とするならば、熱処理の温度範囲は50〜250℃である。
【0029】
以下では、ネジ部の表面に銀メッキ薄膜を形成し、その表面をPTFEコーティングした精密ボルトやナットを実施形態とし、主に締め付け時の摩擦力低下や着脱を繰り返した場合の特性を説明する。図1(a)は、精密チューブ継手を示している。この継手1は、流体回路を構成する本体に固定したポート2にチューブ3を連結するものであり、前記ポート2の先端シール部4と、前記チューブ3の端部に固定したスリーブ5の先端シール部6との間にメタルガスケット7を挟み込み、継手ナット8の内周に形成した雌ネジ部9を前記ポート2の外周に形成した雄ネジ部10に螺合して締め付けることによりシールする構造である。
【0030】
本実施形態では、前記継手ナット8の雌ネジ部9に、無光沢銀メッキを施し、その上に粒径が0.2〜2μmのPTFEパウダーを付着させ、熱処理してPTFE皮膜を形成した。比較例として、同じ継手ナット8の雌ネジ部9に、従来の方法であるユノンSを塗布し、熱処理したものを用意した。呼び径の異なる継手ナットAと継手ナットBについて、一定回転角度を得るために必要な締付トルクを測定して比較した結果を図2と図3にそれぞれ示す。測定方法は、先ず手で継手ナットが回らなくなるまで締め、それから図1(b)に示すように、トルクレンチで継手ナットを一定回転角度θだけ締め付け、そのときの締付トルクの値を読み取る方法で行った。これを5回繰り返した。
【0031】
図2及び図3から明らかなように、本発明の表面処理方法は、従来の方法と比較して有意に締付トルクが小さい。つまり、小さな締付トルクで同等の締付力(軸力)が得られることを意味している。また、5回の繰り返しでも締付トルクの値は安定していることが分かる。
【0032】
次に、ボルトのネジ部に本発明の表面処理を施して締付力を調べた。ステンレス製のM4ボルトのネジ部に、無光沢銀メッキを施し、その表面に粒径が0.2〜2μmのPTFEパウダーを付着させ、熱処理条件を変化させてPTFE皮膜を形成した。熱処理条件は、温度を50℃、100℃、150℃、200℃、250℃、300℃とし、各温度とも処理時間を1時間とした。それぞれの熱処理条件で処理したボルトを4本ずつ用意した。また、同じボルトのネジ部に光沢銀メッキを施しただけのものと、光沢銀メッキの表面に粒径が0.2〜2μmのPTFEパウダーを付着させ、100℃、1時間の熱処理を施したものを2本ずつ用意した。
【0033】
そして、ボルトの締付トルクを一定とした場合の締付力(推力)を測定して比較した。測定方法は、図4に原理的に示す装置を用いて行った。つまり、ステンレス製の剛性の高いベース板20と押え板21を2本のボルト22で締め付け、ベース板20と押え板21の間に設けたロードセル23の値を検出計で読み取るのである。詳しくは、前記ベース板20には、間隔を置いて二つの螺孔24,24を形成し、その中心部にロードセル23を押圧面が突出するように埋設する。前記押え板21の両端部にボルト22の挿通孔25,25を形成する。そして、前記押え板21の中央部をロードセル23の押圧面に載せ、2本のボルト22,22を前記挿通孔25,25に通してベース板20の螺孔24,24に螺合する。そして、2本のボルト22,22をトルクレンチで締付トルクが所定の値になるまで締め付け、そのときのロードセル23に作用する荷重(締付力)を読み取る。これを10回繰り返した結果を表1にまとめた。図5は、表1をグラフ化したものである。
【0034】
【表1】

【0035】
表1において、無光沢銀メッキの6種類の結果は、2対のボルトによる締付力を測定した平均である。表1及び図5から明らかなように、光沢銀メッキだけのボルトと比較して本発明の表面処理を施したボルトは格段に締付力が大きい。光沢銀メッキを施し、PTFEパウダーを付着させ、100℃、1時間の熱処理を施したボルトは、着脱回数が4回までは、無光沢銀メッキを施し、PTFEパウダーを付着させ、50〜300℃の熱処理を施したボルトと略同じ締付力が得られたが、それよりも着脱回数が増えるとやや締付力は低下する傾向である。
【0036】
熱処理が50〜300℃、1時間の場合、着脱回数が1〜10回まで高い締付力が得られたが、ボルトの未処理部が250℃ではやや変色し、300℃では変色した。従って、ステンレスボルトの場合、大気炉では、熱処理温度の上限を250℃とすることが好ましいことが分かった。また、熱処理温度が50℃でもその他と同等の締付力が得られることは注目に値する。つまり、より熱処理温度が低い方が経済的であるからである。しかし、熱処理温度が50℃の場合は、着脱回数によって締付力にバラツキが大きくなる傾向がある。そのため、最も好ましい熱処理温度の範囲は、100〜200℃であると言える。
【0037】
また、電気電子デバイスの表面に形成した銀薄膜を、本発明の銀薄膜の表面処理方法を用いて、PTFEコーティングすることも好ましい。ここで、電気電子デバイスとしては、マイクロ波の導波管や空洞共振器や、電子基板、面状アンテナ等を挙げることができる。特に、マイクロ波の導波管や空洞共振器は、内面の導電率が高いほど減衰が小さくなるので好ましく、またマイクロ波は周波数が高くなるほど、導体に対する侵入深さは浅くなるといった特徴があり、そのため金属のうちで最も導電率が高い銀の薄膜を導体の内面に形成すると特性が向上するのである。そして、本発明によって、銀薄膜の表面をPTFE皮膜で被覆して防食するのである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の代表的実施形態を示し、(a)は継手ナットの雌ネジ部に本発明の表面処理を施した精密チューブ継手の断面図、(b)は継手ナットの締付トルクを測定する測定方法を簡略的に示した説明図である。
【図2】継手ナットAを締め付けた場合に、一定回転角度を得るために必要な締付トルクを示すグラフである。
【図3】継手ナットBを締め付けた場合に、一定回転角度を得るために必要な締付トルクを示すグラフである。
【図4】ボルトを一定の締付トルクで締め付けた場合の締付力(推力)を測定する装置の概念断面図である。
【図5】各種処理条件で表面処理したボルトを一定の締付トルクで締め付けた場合の締付力と着脱回数の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0039】
1 精密チューブ継手、
2 ポート、
3 チューブ、
4 先端シール部、
5 スリーブ、
6 先端シール部、
7 メタルガスケット、
8 継手ナット、
9 雌ネジ部、
10 雄ネジ部、
20 ベース板、
21 押え板、
22 ボルト、
23 ロードセル、
24 螺孔、
25 挿通孔。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体の表面の全面又は部分的にパターン形成された銀薄膜の表面にPTFEコーティングを施す表面処理方法であって、前記基体にPTFEパウダーを接触させて表面に付着させた後、熱処理を施して銀薄膜の表面にPTFE皮膜を定着形成し、それから刷毛、振動又はガスパージにより前記基体の表面及び前記銀薄膜の表面に付着した余分なパーティクルを除去することを特徴とする銀薄膜の表面処理方法。
【請求項2】
前記銀薄膜が、銀メッキによって形成されたものである請求項1記載の銀薄膜の表面処理方法。
【請求項3】
前記銀薄膜が、銀ペーストを塗布後、焼成して形成されたものである請求項1記載の銀薄膜の表面処理方法。
【請求項4】
前記PTFEパウダーが、PTFEファインパウダー若しくは低分子量PTFE粉末である請求項1〜3何れかに記載の銀薄膜の表面処理方法。
【請求項5】
前記PTFEパウダーの粒径が0.2〜2μmである請求項1〜4何れかに記載の銀薄膜の表面処理方法。
【請求項6】
前記熱処理の温度は、50℃以上で前記銀薄膜又は基体の熱変形温度の低い方の温度以下である請求項1〜5何れかに記載の銀薄膜の表面処理方法。
【請求項7】
前記基体がステンレス鋼であり、前記銀薄膜が無光沢銀メッキ皮膜であり、粒径が0.2〜2μmのPTFEパウダーを銀薄膜表面に付着させた後に、50〜250℃の温度で熱処理する請求項1記載の銀薄膜の表面処理方法。
【請求項8】
前記請求項1〜7何れかに記載の銀薄膜の表面処理方法を用いて、基体の表面に形成した銀薄膜をPTFEコーティングして作製した精密部品。
【請求項9】
前記基体がボルト又はナットであり、ネジ山を含む表面に部分的に銀薄膜を形成したものである請求項8記載の精密部品。
【請求項10】
前記請求項1〜7何れかに記載の銀薄膜の表面処理方法を用いて、基体の表面に形成した銀薄膜をPTFEコーティングして作製した電気電子デバイス。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−144198(P2010−144198A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−320474(P2008−320474)
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【出願人】(596055213)有限会社プロトニクス研究所 (2)
【Fターム(参考)】