説明

銅めっき用添加剤及びその銅めっき用添加剤を用いた銅めっき液並びにその銅めっき液を用いた電気銅めっき方法

【課題】不溶性陽極を用いても安定した効果が得られる、銅めっき用添加剤を提供する。
【解決手段】上記課題を解決するために、ポリアルケンオキシド化合物を含む銅めっき用添加剤であって、前記ポリアルケンオキシド化合物が、その末端のいずれか一方又は両方に官能基又はハロゲン元素を導入した以下に示す構造式を有し、数平均分子量が100〜2000000であることを特徴とする銅めっき用添加剤を採用する。


そして、前記構造式におけるmを1〜8とし、R又はRを官能基とする場合は、スルホン基、NやSを含む官能基及び不飽和結合をもつ官能基から選択されるいずれかの官能基とする。更に、分子量が10000〜2000000の前記ポリアルケンオキシド化合物を含む銅めっき用添加剤を採用すれば、ビス(3−スルフォポロピル)ジスルフィドやヤヌスグリーン等の添加剤を併用する必要も無く、より好ましい銅めっきが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、銅めっき用添加剤、及びその銅めっき用添加剤を用いた銅めっき液、並びにその銅めっき液を用いた電気銅めっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やパーソナルコンピューターなどに代表される電子機器の小型化、高密度化、高性能化が著しく、これらに用いられるプリント配線板には、軽薄短小化の要求がなされている。一方、半導体デバイスの高速化、高容量化も同時に進行している。そして、半導体デバイスを搭載するパッケージ用配線板に対しては、一般の多層プリント配線板以上に軽薄短小化が要求されている。
【0003】
上述の微細配線を有する多層プリント配線板を製造する技術として、ビルドアップ工法が注目を集めている。このビルドアップ工法では、内層配線と外層配線又は内層配線同士の層間を電気的に接続する方式として、形成した小径ビアホールを銅めっきで埋め込むビアフィリングが行われている。
【0004】
そこで、特許文献1には、スルーホールやビアホール等の微小孔を有する基板や、銅などの金属を表面に被覆した樹脂フィルムに対して高い信頼性で銅めっきを行うことができる酸性銅めっき浴用の添加剤及び該添加剤を含有する酸性銅めっき浴並びに該めっき浴として、(a)アルキルアミンとグリコール類の重合物 0.01〜2g/L(b)ポリマー成分 0.01〜10g/L(c)キャリアー成分 0.02〜200mg/Lを含有する酸性銅めっき浴用添加剤及び該添加剤を含有する酸性銅めっき浴並びに該めっき浴を用いるめっき方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、ポリエチレングリコール(Poly−Ethylene Glycol:以下、「PEG」と称する。)誘導体を含有し、塩化物イオンを添加しない硫酸銅めっき浴を用いて硫酸銅めっきを行う方法が開示されている。
【0006】
そして、非特許文献1及び非特許文献2には、分子量が4000のPEG誘導体を含有し、塩化物イオンを添加しない硫酸銅めっき浴を用いて硫酸銅めっきを行うが開示されている。
【0007】
また、特許文献3には、微小なビアやトレンチなどのサブμmレベルの間隙或いは数十μmから数百μmの比較的幅広の間隙を有する被めっき面に対して、欠陥の無い埋め込み銅めっきが行え、平滑性の極めて高い銅めっき処理が可能となる埋め込み用硫酸銅めっき液として、電着反応を抑制する高分子界面活性剤及び電着速度を促進する硫黄系飽和有機化合物、平滑性を制御するレベリング剤を含有する埋め込み用硫酸銅めっき液において、レベリング剤は、レベリング剤は、一般式 (CN)・(CClO)y(式中、x,yは任意の正の整数)により構成された有機系化合物、より具体的には、ポリエピクロロヒドリン、ポリエピクロロヒドリンジオール又はポリエピクロロヒドリントリオールのいずれか1種又は2種以上から選ばれた有機系化合物を用いたものが開示されている。
【0008】
上記文献には、銅めっき法を用い、微細なビアの充填めっきなどを実施する際の欠陥を少なくするために、電着反応を抑制する添加剤、電着速度を促進する添加剤及び平滑性を制御する添加剤の少なくとも3種類を含む銅めっき液を用いることが開示されている。そして、前記電着反応を抑制する添加剤としてPEGが用いられ、その分子量は1000〜6000、最大でも10000程度である例が開示されている。また、これらの銅めっき液では、塩素濃度を0.04g/L程度に調整し、電着反応を抑制する添加剤の効果を得ることが開示されている。
【0009】
上述したように、銅めっき液に含まれるPEGが電着反応を抑制するためには、塩素との組み合わせが必要とされており、銅めっき液中には、ある一定量の塩素量が必要である。そして、析出する銅層は、銅表面に吸着した塩素も取り込んで、一定の特性を示すことになる。即ち、銅めっき液中の塩素濃度は低下してゆく。そして、銅めっき液中の塩素濃度が、僅かに変動するだけで、めっき銅の外観、性状等に大きな影響を与える傾向がある。よって、塩素を含有させた銅めっき液は、塩素濃度の管理が重要となり、管理コストが大きくなる。
【0010】
また、電気銅めっきを行うに当たっては、銅めっき液中における銅濃度の変動を小さく維持するために、陽極に含リン銅などの可溶性陽極を用いることが多い。すると、電解することによって陽極が溶解し、陽極スライムが発生する。この陽極スライムが被めっき材に付着すると、めっき層内に巻き込まれることがあり、微細な部分への銅めっきではこの部分が欠陥となってしまう。そこで、陽極スライムの発生を避けるため、チタン板に酸化イリジウムなどをコーティングした寸法安定性陽極(Dimention Stable Anode:以下、「DSA」と称する。)等の不溶性陽極を選択するケースも多くなっている。
【0011】
【特許文献1】特開2003−328179号公報
【特許文献2】特開2005−256120号公報
【特許文献3】特開2005−307259号公報
【非特許文献1】杉本将治、山口和紀、吉水裕喜、香西博明、本間英夫;高分子加工、54巻9号、38−42(2005)
【非特許文献2】Masaharu Sugimoto、Kazuki Yamaguchi、Hiroaki Kouzai、Hideo Honma;Jounal of applied Polymer Science、 Vol. 96、837−840(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところが、塩素をあるレベルで含む銅めっき液に対してDSA等を陽極として電解すると、陽極における酸化反応の影響を受けて塩素がガス化し、可溶性陽極を用いた場合以上の量が銅めっき液中から失われることになる。すると、電着反応を抑制する添加剤は、本来の抑制機能を安定して発揮することが困難になる。即ち、塩素の存在を必須とする銅めっき液は、DSA等を陽極に用いた場合には、得られるめっき銅の特性にバラツキが大きくなるという欠点を有することになるのである。従って、より微細化する配線板等に対して、外観も良好な銅めっきを安定して実施するためには、DSA等を用いても安定しためっき銅が得られる銅めっき液を用いる必要がある。
【0013】
上記のように、銅めっき液中に共存させる塩素を極力少なくでき、可能であれば塩素の共存が不要でありながら、銅めっき又はビアフィリングを連続実施しても、安定して良好な結果が得られる銅めっき用添加剤が求められていたのである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そこで、本件発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ね、ポリアルケンオキシド化合物を含む銅めっき用添加剤、及び、その銅めっき用添加剤を用いた銅めっき液、並びに、その銅めっき液を用いた電気銅めっき方法に想到したのである。
【0015】
本件発明に係る銅めっき用添加剤: 本件発明に係る銅めっき用添加剤は、ポリアルケンオキシド化合物を含む銅めっき用添加剤であって、前記ポリアルケンオキシド化合物は、その末端のいずれか一方又は両方に官能基又はハロゲン元素を備える以下の化2に示す構造式を有し、数平均分子量が100〜2000000であることを特徴としている。
【化2】

【0016】
本件発明に係る銅めっき用添加剤においては、前記化2に示す構造式における官能基R及びRが、スルホン基、NやSを含む官能基及び不飽和結合をもつ官能基から選択されるいずれかの官能基であることも好ましい。
【0017】
本件発明に係る銅めっき用添加剤においては、前記化2に示す構造式におけるmが1〜8であることも好ましい。
【0018】
本件発明に係る銅めっき液: 本件発明に係る銅めっき液は、前記銅めっき用添加剤を含むことを特徴としている。
【0019】
本件発明に係る銅めっき液においては、前記ポリアルケンオキシド化合物の濃度が0.0001g/L〜10g/Lであることも好ましい。
【0020】
本件発明に係る銅めっき液においては、アニオン成分として硫酸イオン又はハロゲンイオンから選択される1種以上を用いることも好ましい。
【0021】
本件発明に係る銅めっき液においては、アニオン成分としてシアンイオン又はピロリン酸イオンを用いることも好ましい。
【0022】
本件発明に係る電気銅めっき方法: 本件発明に係る電気銅めっき方法は、前記銅めっき液を用い、陰極電流密度0.1A/dm〜50A/dmで電解を行うことを特徴としている。
【0023】
そして、本件発明に係る電気銅めっき方法においては、前記電解を不溶性陽極を用いて行うことも好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本件発明に係る、銅めっき用添加剤を含んだ銅めっき液を用いて電気銅めっきを行うと、銅めっき液中の塩素量が少なくても、安定して良好なめっき銅が得られる。即ち、この銅めっき液を用い、DSA等を陽極として電気銅めっきを行っても、銅めっき液中の塩素濃度の変動は小さい。従って、当該銅めっき用添加剤を用いて銅めっき液を調製すれば、微細化する配線板等の製造工程において、光沢銅めっきやビアフィリング等の銅めっきを、DSA等を用いて好適に実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本件発明に係る銅めっき用添加剤の形態: 本件発明に係る銅めっき用添加剤は、ポリアルケンオキシド化合物を含む銅めっき用添加剤である。このポリアルケンオキシド化合物は、銅めっき工程において析出した銅表面に吸着し、銅表面への電着反応を制御する添加剤として機能する。そして、当該ポリアルケンオキシド化合物は、その末端のいずれか一方又は両方に官能基又はハロゲン元素を備える以下の化3に示す構造式を有し、数平均分子量(以下、単に「分子量」と称する。)が100〜2000000であることを特徴としている。
【0026】
【化3】

【0027】
前記銅めっき用添加剤が含んでいるポリアルケンオキシド化合物は、その末端のいずれか一方又は両方に官能基又はハロゲン元素を備えることによって、析出した銅表面に直接吸着することができるものである。即ち、銅表面への直接吸着が可能であることにより、銅めっき液中に共存する塩素量が少ないか、又は意識的に添加しなくても銅の析出状態の制御、析出の均一化が可能になる。従って、前記ポリアルケンオキシド化合物を含む銅めっき用添加剤を用いた銅めっき液は、当該銅めっき液への塩素の添加が極めて少なくても、PEGと塩素とを組み合わせた添加剤を含む銅めっき液を用いた場合と、同等もしくはそれ以上に良好なめっき銅を得ることが可能になる。
【0028】
そして、化3に示す構造式を有するポリアルケンオキシド化合物の中でも、両末端にハロゲン元素、特に塩素を含むポリアルケンオキシド化合物を特に好ましく用いることができる。塩素を含むポリアルケンオキシド化合物では、構造式の両末端に備えた塩素が、PEGと塩素とを添加した銅めっき液に含まれる塩素と同様の効果を発揮するため、均一な電着状態を安定させる効果が大きいのである。
【0029】
ところで、従来から高分子界面活性剤として用いられてきた前記PEGは、本件発明に係るポリアルケンオキシド化合物とは異なる極性をもつ化合物である。PEGの構造式を、以下の化4に示す。これを化3と対比すると、その両末端の構成が全く異なっており、この構造式であるが故に塩素を介さないと銅に吸着出来ないことが判る。
【0030】
【化4】

【0031】
上記構造式の比較からも、両末端にハロゲン元素、特に塩素を含むポリアルケンオキシド化合物を含む銅めっき用添加剤を用いた銅めっき液は、銅めっき液に塩素を添加せずに用いても、PEGと塩素とを添加した銅めっき液を用いて得られるめっき状態と同等、もしくはそれ以上に良好なめっき状態が得られる銅めっき液であることが明らかである。また、めっき銅への塩素の取り込みが少なくなっていると推測されるため、形成される銅の特性も変化していると考えられる。
【0032】
本件発明に係る銅めっき用添加剤においては、前記ポリアルケンオキシド化合物の官能基R及びRは、スルホン基、NやSを含む官能基及び不飽和結合をもつ官能基から選択されるいずれかの官能基とすることも好ましい。前記R又はRをスルホン基とする場合にはナトリウム塩とすることができる。NやSを含む官能基であれば、アミノ基やチオール基等とすることができる。不飽和結合をもつ官能基であれば、フェニレン基、フェニルオキシド基、フェニルアゾフェノキシ基等とすることができる。これらの官能基を含むことによっても、前記PEGとは異なる極性をもつことになり、当該ポリアルケンオキシド化合物を含む添加剤を含む銅めっき液では、めっき液中における塩素介在の必要性が低下するのである。上記に例示したポリアルケンオキシド化合物に用いる官能基等は、合成反応を行う際に大気圧下での実施が可能で、製造が容易であるために好ましいものであって、その他の官能基を用いた場合に同様の効果が得られないことを示すものではない。
【0033】
本件発明に係る銅めっき用添加剤においては、前記ポリアルケンオキシド化合物の分子量は、100〜2000000とすることが好ましい。分子量が100を下回ると、高分子界面活性剤として電着反応を抑制する機能が劣ってしまう。従って、ポリアルケンオキシド化合物の分子量が低分子量領域にあると、ビス(3−スルフォポロピル)ジスルフィド(以下、「SPS」と称する。)やヤヌスグリーン(以下、「JGB」と称する。)等の併用が必要になる傾向が出てくる。反面、分子量が2000000を超えると、両末端に官能基や塩素を導入した構造を取っていても、水に対する溶解度が小さくなるために、水溶液系では析出しやすくなる等、使用上の困難が生ずる傾向が出てくる。
【0034】
従って、分子量が1000〜2000000のポリアルケンオキシド化合物を用いることがより好ましい。そして、分子量が1000〜2000000のPEG−Clを用いることが更に好ましい。当該PEG−Clを含む銅めっき用添加剤を用いると、銅めっき液中の塩素濃度をより低く設定出来るからである。
【0035】
これらの、目的とする分子量のポリアルケンオキシド化合物は、当該分子量に整合した分子量を有するPEG等を合成原料に用い、後述する合成方法を用いて得ることができる。このようにして得られたポリアルケンオキシド化合物の分子量は、GPC(Gel Permiation Chromatograph)等で測定が可能である。
【0036】
本件発明に係る銅めっき用添加剤においては、前記化3に示す構造式におけるmが1〜8であることが好ましい。mが8を超えると、両末端に塩素や官能基を備える構造を取っていても、C−O結合が少なくなって高分子界面活性剤としての機能が劣ってくる。また、mを2又は3にしたものは、PEGやポリプロピレングリコールを適正に用いた場合と同様の効果を安定して得られるため、より好ましいものである。このmと分子量とを設定すれば、前記化3に示す構造式における数nは自ずと決まってくる。
【0037】
以下に、本件発明に係る銅めっき用添加剤に含まれる、ポリアルケンオキシド化合物の具体例を示す。前記mが2である化合物を代表例として、α,ω−ジクロロポリエチレングリコール(以下、「PEG−Cl」と称する。)の構造式を化5に、ポリエチレングリコール−α,ω−ジスルフォン酸ナトリウム塩(以下、「PEG−S」と称する。)の構造式を化6に、α,ω−ジフェノキシポリエチレングリコール(以下、「PEG−Ph」と称する。)の構造式を化7に、α,ω−ジフェニルアゾフェノキシポリエチレングリコール(以下、「PEG−Az」と称する。)の構造式を化8に示す。
【0038】
【化5】

【0039】
【化6】

【0040】
【化7】

【0041】
【化8】

【0042】
上記化合物は、mが2であるエチレン鎖を基本構造としているため、分子量を整合させたPEGを原料に用いて合成出来る。それぞれの化合物の合成方法は、実施例にて詳述する。そして、mが3のポリアルケンオキシド化合物を合成する場合には、ポリプロピレングリコールを原料に用いることができる。また、mが4のポリアルケンオキシド化合物を合成する場合には、ポリブテングリコールを原料に用いることができる。このように、mの数と分子量の整合したポリアルケングリコール等を合成原料に用いることで、目的とする分子量と構造とを有するポリアルケンオキシド化合物を得ることができる。合成の結果得られたポリアルケンオキシド化合物は、FT−IR分光分析装置やNMR装置等を用いて構造を確認出来る。
【0043】
本件発明に係る銅めっき液の形態: 本件発明に係る銅めっき液は、前記銅めっき用添加剤を含むことを特徴としている。当該銅めっき液に含まれる前記銅めっき用添加剤が、分子量が100〜2000000のポリアルケンオキシド化合物を含むものであることにより、当該めっき液を用いると、銅めっき液に含まれる当該ポリアルケンオキシド化合物が、析出した銅表面に良好に吸着する。従って、電気めっきを行うと、光沢性に優れた銅めっきが得られる。また、ビアフィリングを行うと、良好な状態に銅が埋め込まれたブラインドビアホール(フィルドビア)が得られる。このとき、前記銅めっき用添加剤に含まれるポリアルケンオキシド化合物が含む官能基又は塩素と分子量とは、高分子界面活性剤としての機能や水溶液系への溶解度等を考慮して選択する。他の添加剤を併用しなくても安定しためっき状態を得ることができる銅めっき液とするのであれば、前述のように、分子量が10000〜2000000のポリアルケンオキシド化合物を含む銅めっき用添加剤を用いた銅めっき液を調製することがより好ましい。
【0044】
本件発明に係る銅めっき液においては、前記ポリアルケンオキシド化合物濃度を0.0001g/L〜10g/Lとすることが好ましい。ポリアルケンオキシド化合物濃度が0.0001g/Lを下回ると、銅表面へのポリアルケンオキシド化合物の吸着量が不十分となって、電着反応を抑制する高分子界面活性剤としての機能を十分に発揮出来ない。また、ポリアルケンオキシド化合物の濃度を10g/L以上としても析出する銅皮膜の光沢性やビアフィリング性にはそれ以上の改善は見られず、電解電圧が上昇する傾向が見られるようになって好ましくない。上記観点から、ポリアルケンオキシド化合物濃度は0.01g/L〜1.0g/Lとすることがより好ましい。この濃度範囲であれば、ポリアルケンオキシド化合物濃度の変動が、析出する銅皮膜の光沢性やビアフィリング性の変動として顕著に現れない。これら銅めっき液中のポリアルケンオキシド化合物の濃度は、HPLC(High Performance Liquid Chromatograph)などを用いて分析することができる。
【0045】
また、ポリアルケンオキシド化合物として分子量4000〜500000のPEG−Clを含む銅めっき用添加剤を含む銅めっき液を用いれば、塩素を添加しなくても、良好な光沢性やビアフィリング性を有する銅めっきが得られる。具体的には、下記の組成に調整した銅めっき液を用いれば、深さ50μm、開口径φ90μmのブラインドビアホールであれば、後述するビアフィリング率で90%以上を得ることができる。
【0046】
CuSO 65g/L
SO 200g/L
PEG−Cl 0.01g/L
SPS 0.01g/L
JGB 0.01g/L
【0047】
更に、分子量10000〜500000のPEG−Clを含む銅めっき用添加剤を用い、当該PEG−Cl濃度を0.01g/L〜1.0g/Lに調整した銅めっき液を用いれば、SPS及びJGBを添加しなくても、上記組成に調整した銅めっき液を用いた場合とほぼ同等の銅めっきが得られる。前述したように、構造式の末端に備える塩素が銅表面へ安定して吸着し、析出反応を抑制する高分子界面活性剤の効果を安定して発揮するからである。
【0048】
本件発明に係る銅めっき液においては、硫酸銅系銅めっき液やピロリン酸銅系銅めっき液等のあらゆる銅めっき液の使用が可能である。しかし、アニオン成分として硫酸イオン又はハロゲンイオンから選択される1種以上を用いることが、添加剤を併用する酸性銅めっき液としての使用実績が多く好ましい。例えば、硫酸酸性銅めっき浴を用いる場合には、以下に示す組成を基本として添加剤濃度を調整し、液温25℃、電流密度3A/dmで電解することができる。
【0049】
CuSO・7HO 50〜250g/L
SO 50〜250g/L
【0050】
同様に、シアンイオン又はピロリン酸イオンを用いることが、添加剤を併用するアルカリ性銅めっき液としての使用実績が多く好ましいのである。例えば、ピロリン酸銅めっき浴を用いる場合には、以下に示す組成を基本として添加剤濃度を調整し、液温50℃、電流密度0.5A/dmで電解することができる。
【0051】
Cu2+ 20〜35g/L
4− 150〜250g/L(P/Cu比:6.5〜8.0)
PO3− 60g/L 未満
pH 8〜9
【0052】
即ち、本件発明に係る銅めっき用添加剤は、上記アニオン成分を含む銅めっき液に限定されず、電着反応の抑制を添加剤に依存する銅めっき液であれば、効果を発揮出来る。そして、それぞれの銅めっき液組成における最適化の検討には、ハルセル試験等を用いることができる。また、前述した銅表面への吸着機構から考えて、未確認ではあるが、本件発明に係る銅めっき用添加剤は、無電解銅めっき液に用いても、同様の析出抑制効果を発揮出来ると予想している。
【0053】
本件発明に係る電気銅めっき方法の形態: 本件発明に係る電気銅めっき方法は、前記銅めっき液を用いて電解を行うことを特徴としている。この時、陰極電流密度は0.1A/dm〜50A/dmで電解を行う。0.1A/dmを下回る電流密度で電解を行うと、目的とする銅皮膜の厚さを得たりビアフィリングを行うために必要な時間が長くなり、工業的な生産性を満足出来ない。一方、50A/dmを超える電流密度で電解を行うと、得られる銅皮膜の光沢性やビアフィリング性を満足出来なくなる等、良好なめっき銅が得られなくなるため好ましくない。従って、陰極電流密度0.5A/dm〜10A/dmで電解を行うことが、安定して良好なめっき銅を得ることができ、経済的な観点からもより好ましい。尚、ここで言っている陰極電流密度とは、一般的な直流電解において、被めっき基板に露出している被めっき面の合算面積を基準に算出したものである。そして、PR(Pulse Reverse)電解法等を選択した場合には、別途適正範囲の調整が必要である。
【0054】
本件発明に係る電気銅めっき方法においては、前記電解を不溶性陽極を用いて行うことが好ましい。陽極スライムなどの発生が無く、電析する銅の品質に影響を与えにくいからである。本件発明に係る銅めっき用添加剤を用いた銅めっき液を用いると、当該銅めっき液の塩素濃度は、従来技術に比べて低い水準、又は、意図的に添加しない水準にできる。銅めっき液の塩素濃度が低ければ、不溶性陽極を用いて電解しても、塩素はガス化しにくく、塩素濃度の変動(低下)は小さくなる。従って、不溶性陽極を用いても、良好なめっき銅を安定して、継続的に得ることが可能になる。硫酸浴等の酸性浴であれば、不溶性陽極を用いて電解した場合の銅濃度の調整には、電解銅箔の製造工程などで用いている銅濃度の調整手法を適用出来る。例えば、当該銅めっき液を、銅線などを充填した溶解塔に循環させる等である。
【実施例1】
【0055】
本実施例では、分子量4000のPEG−Clを合成し、このポリアルケンオキシド化合物を含む銅めっき液を調製して光沢性を評価した。
【0056】
<分子量4000のPEG−Clの合成>
分子量4000のPEG(和光純薬工業(株)製PEG4000)2.0gをビーカーに採り、氷水浴上で塩化チオニル5mLを滴下して溶解した。前記PEGが全て溶解したことを確認後、この溶解液を攪拌しながら徐々に60℃迄加熱し、そのまま一晩(12時間以上)攪拌して反応溶液を得た。その後、この反応溶液を、冷却したジエチルエーテル50mL中に投入して、PEG−Cl粗生成物を析出させた。このPEG−Cl粗生成物を含むジエチルエーテル溶液を濾過し、分離して得られた固形分を減圧乾燥して、PEG−Cl粗生成物を得た。
【0057】
続いて、このPEG−Cl粗生成物を精製するために、粗精製工程と再結晶工程とを実施した。粗精製工程は、以下の3工程で構成した。前記PEG−Cl粗生成物を2−プロパノール10mLに加熱溶解する工程。前記溶解液を緩やかに−5℃まで冷却し、PEG−Cl粗精製物を析出させる工程。前記PEG−Cl粗精製物が析出した溶解液を濾過し、PEG−Cl粗精製物を分離して回収する工程。その後、このPEG−Cl粗精製物に対して以下の再結晶工程を3回繰り返し、PEG−Cl精製物を得た。再結晶工程の1工程は、以下の工程で構成した。前記PEG−Cl粗精製物を少量の塩化メチレンに加熱溶解する工程。前記溶解液を室温まで冷却し、溶解液中に析出した沈殿を濾過して分離する工程。前記工程で得られた濾液を、10倍量の冷却したジエチルエーテル中に投入して再析出処理を行う工程。前記ジエチルエーテル溶液を濾過して、再析出したPEG−Cl精製物を回収する工程。
【0058】
<合成添加剤の構造式の同定>
上記にて得られた合成添加剤の構造式の同定にはFT−IR分光分析装置(Spectrum One:パーキンエルマー株式会社製)及びNMR(Varian Mercury 400:バリアン テクノロジーズ ジャパン リミッティド製)を用いた。分子量4000のPEG−Clと、後述する分子量4000のPEG−SとをC−NMRで評価した例を、図1及び図2に示す。分子量4000のPEG−ClをC−NMRで評価した結果を示す図1では、43.0ppmの位置に塩素と結合したメチレン基の炭素が検出され、70.6ppmの位置に酸素と結合したメチレン基の炭素が検出されている。また、分子量4000のPEG−SをC−NMRで評価した結果を示す図2では、50.8ppmの位置にスルフォン酸と結合したメチレン基の炭素が検出され、69.4ppm〜70.7ppmの範囲に酸素と結合したメチレン基の炭素が検出されている。このようにして、前記方法で合成されたポリアルケンオキシド化合物が、狙いの構造を有していることを確認出来る。
【0059】
<光沢性評価>
上記にて合成した、ポリアルケンオキシド化合物を含む銅めっき用添加剤の効果を、銅めっきにより得られる銅皮膜の光沢性で評価した。光沢性は、ハルセル試験で光沢を有する銅皮膜が得られる電流密度範囲で評価した。光沢性評価用の銅めっき液は酸性硫酸銅浴とした。この銅めっき液は、純水に硫酸銅CuSO・7HOを200g/Lと、硫酸HSOを50g/Lとなるように加え、更に、塩酸を0.015g/L、SPSを0.031g/Lとなるように加えて調製した。この、ポリアルケンオキシド化合物を添加剤として加えていない酸性硫酸銅浴を基本浴1とした。
【0060】
本実施例で光沢性評価に用いた銅めっき液は、分子量4000のPEG−Clを基本浴1に添加して、PEG−Cl濃度が0.01g/Lになるように調製した。この銅めっき液をハルセル(10A15型:山本鍍金試験器(株)製)の基準線まで注ぎ入れ、陰極には真鍮板、陽極にはDSAを用い、液温25℃、平均電流密度2A/dmで10分間電解した。試験の結果、光沢を有する銅皮膜が得られた電流密度範囲は、0.8A/dm〜12.0A/dmであった。銅めっき液の組成と光沢性の評価結果を、実施例2及び比較例1における銅めっき液組成と光沢性の評価結果と併せて表1に示す。
【0061】
【表1】

【実施例2】
【0062】
本実施例では、分子量4000のPEG−Sを合成し、このポリアルケンオキシド化合物を含む銅めっき液を調製して光沢性を評価した。
【0063】
<分子量4000のPEG−Sの合成>
フラスコ内に純水6mLとエタノール(99.5%)2mLとの混合溶剤を調製し、これに、実施例1と同様にして合成した分子量4000のPEG−Clを2.0gと亜硫酸ナトリウム0.4gとを加えた。この溶液を48時間還流し、還流の終了した溶液は室温迄徐冷した。この冷却した溶液に活性炭0.04gを加えて2時間攪拌した後、この溶液を濾過して活性炭を除去し、一次反応溶液を得た。この一次反応溶液から溶媒を蒸発させ、残った固形物を塩化メチレン10mLに溶解した。そして、この溶解液に無水硫酸ナトリウムを加えて脱水し、硫酸ナトリウムを濾別して二次反応溶液を得た。この二次反応溶液を、冷却したジエチルエーテル80mL中に投入して、PEG−S粗生成物を析出させた。このPEG−S粗生成物を含むジエチルエーテル溶液を濾過し、分離して得られた固形分を減圧乾燥して、PEG−S粗生成物を得た。このPEG−S粗生成物は、実施例1におけるPEG−Clと同様の粗精製工程と再結晶工程とを実施して精製した。
【0064】
<光沢性評価>
上記にて合成した、ポリアルケンオキシド化合物を含む銅めっき用添加剤の効果を、銅めっきにより得られる銅皮膜の光沢性で評価した。光沢性の評価は、ハルセル試験で用いる銅めっき液を、実施例1で用いた分子量4000のPEG−Clに代えて分子量4000のPEG−Sを基本浴1に添加し、PEG−S濃度が0.01g/Lになるように調整した他は、実施例1と同様の方法で実施した。その結果、光沢を有する銅皮膜が得られた電流密度範囲は、表1に示すように、0.2A/dm〜12.0A/dmであった。
【実施例3】
【0065】
<ビアフィリング性評価>
本実施例では、実施例1で合成したPEG−Clを含む銅めっき用添加剤の効果を、ビアフィリング性で評価した。ここで用いる、ビアフィリング性評価用の銅めっき液も酸性硫酸銅浴とした。この銅めっき液は、純水に硫酸銅CuSO・7HOを65g/Lと、硫酸HSOを200g/Lとなるように加えて調製した。この、添加剤類を一切加えていない酸性硫酸銅浴を基本浴2とした。更に、この基本浴2にSPSを0.01g/L 、JGBを0.01g/Lとなるように加え、ポリアルケンオキシド化合物を添加していない酸性硫酸銅浴を調製した。この酸性硫酸銅浴を基本浴3とし、本実施例で用いる基本浴とした。
【0066】
上記ビアフィリング性の評価には、ブラインドビアホールを配置した基板を用いた。図3に断面を模式的に示す。ブラインドビアホール1を形成した基板は、以下のようにして作成した。コア材には、18μm電解銅箔2を絶縁樹脂3の両面に張り合わせた、50mm×150mmサイズで厚さ0.6mmのFR−4銅張積層板を用いた。そして、このコア材の両面に、厚さ5が50μmのビルドアップ樹脂4(ABF−SH−9K:味の素株式会社製)を張り合わせた。その後、図4に模式的に示す配置で、このコア材表面のビルドアップ樹脂4に3種類のブラインドビアホールX(図中10)、Y(図中11)、Z(図中12)をそれぞれ複数個形成した。ブラインドビアホールの形成過程では、炭酸ガスレーザーを用いてビルドアップ樹脂4に穴あけを実施した後にデスミア処理を施し、ボトム部の電解銅箔2を露出させた。
【0067】
上記のようにして形成されたブラインドビアホールの大きさは、開口径6がXはφ60μm、Yはφ90μmそしてZはφ150μm、そしてボトム径7がXはφ60μm、Yはφ80μmそしてZはφ90μmであった。図4におけるビアフィリング性評価面における配置では、ブラインドビアホールX、ブラインドビアホールY及びブラインドビアホールZのそれぞれを1.2mmピッチで配置した部分13を(a)、0.25mmピッチで配置した部分14を(b)、0.5mmピッチで配置した部分15を(c)とした。そして、試験基板には、これら(a)、(b)、(c)を順次繰り返し配置した25mm×30mmサイズのブラインドビアホール加工面16である(A)を2面、前記50mm×150mmサイズの基板の両側にそれぞれ配置した。
【0068】
次に、ビアフィリング試験に用いためっき装置の概略を、図5に示す。20はめっき槽27を横から見た図であり、21はめっき槽27を上部から見た図である。めっき槽27の両端部には、不溶性陽極であるDSA23を、酸化イリジウムなどがコーティングされている面をめっき槽27の内側に向けて配置している。試験基板22は、2枚のDSA23の中間に配置出来るように、ガイドに沿って、めっき槽27の槽底に届かない位置まで挿入する。槽底では、マグネチックスターラー26を用いて、銅めっき液24を連続攪拌する。そして、2台の整流器25のうち1台はマイナス出力側を試験基板22と結線し、プラス出力側を試験基板の一方の面に対向するDSA23に結線する。同様に、もう1台の整流器25はマイナス出力側を試験基板22と結線し、プラス出力側を試験基板の他方の面に対向するもう1枚のDSA23に結線する。
【0069】
ビアフィリング試験は、上述の配置を構成後、2台の整流器25を同時にスイッチオンして所定時間の銅めっきを行うのである。前記試験基板に形成されたブラインドビアホール1に、ビアフィリングを行った後の断面形状を模式的に図6に示す。これらのブラインドビアホール1に対するビアフィリング性の評価では、フィルドビアの銅めっき部分である8の形成状況を代表するものとして、ボトム部分へのめっき銅厚さ9(T1とする)とトータル銅厚さ10(T2とする)とを断面観察から測定した。そして、T1÷T2×100(%)として得られる値をビアフィリング率として指標に用いた。
【0070】
ビアフィリング試験に用いた銅めっき液24は、基本浴3に分子量4000のPEG−Clを添加して、PEG−Cl濃度が0.01g/Lになるように調製した。この銅めっき液24を電解槽27に入れ、液温25℃(室温)でマグネットスターラー26を用いて攪拌した。この状態で前記試験基板22を陰極として電解槽27の定位置に挿入した。試験基板22を銅めっき液24に浸漬後30秒を経過してから、2台の整流器25のスイッチを同時にオンにし、陰極電流密度1A/dmで114分間電解した。電解の終了した試験基板22は電解槽27から取り出して直ちに流水で洗浄し、ドライヤーで乾燥した。
【0071】
得られた試験基板に対し、加工面(A)内のブラインドビアホールX、ブラインドビアホールY及びブラインドビアホールZの各10点の断面観察を行って各点のビアフィリング率を求め、それぞれに得られた測定結果の平均値を、各ブラインドビアホールに対するビアフィリング率とした。その結果、ビアフィリング率は、ブラインドビアホールXで94%、ブラインドビアホールYで92%そしてブラインドビアホールZでは82%であった。ここで用いた銅めっき液の組成及びビアフィリングに関する評価結果を、実施例4〜実施例7及び比較例2で用いた銅めっき液の組成及び評価結果と併せて表2に示す。
【0072】
【表2】

【実施例4】
【0073】
<ビアフィリング性評価>
本実施例では、実施例2で合成した分子量4000のPEG−Sを含む銅めっき用添加剤の効果を、ビアフィリング性で評価した。具体的には、実施例3で用いた分子量4000のPEG−Clに代えて、分子量4000のPEG−S濃度が0.01g/L になるように調製した銅めっき液を用い、その他は実施例3と同様の条件でビアフィリング試験を実施した。その結果、表2に示すように、ビアフィリング率は、ブラインドビアホールXで91%、ブラインドビアホールYで90%そしてブラインドビアホールZでは80%であった。
【実施例5】
【0074】
本実施例では、分子量4000のPEG−Phを合成し、このポリアルケンオキシド化合物を含む銅めっき液を調製してビアフィリング性を評価した。
【0075】
<分子量4000のPEG−Phの合成>
フラスコ内のDMF(ジメチルフォルムアミド)10mLに、実施例1と同様にして合成した分子量4000のPEG−Clを2.0gとフェノール0.41gと無水炭酸カリウム0.21gとを加え、48時間還流した。還流の終了後直ちに濾過し、濾液を室温迄徐冷して反応溶液を得た。この反応溶液を、冷却したジエチルエーテル100mL中に投入して、PEG−Ph粗生成物を析出させた。このPEG−Ph粗生成物を含む溶液を濾過し、分離して得られた固形分を減圧乾燥して、PEG−Ph粗生成物を得た。このPEG−Ph粗生成物は、実施例1におけるPEG−Clと同様の粗精製工程と再結晶工程とを実施して精製した。
【0076】
<ビアフィリング性評価>
実施例3で用いた分子量4000のPEG−Clに代えて、分子量4000のPEG−Ph濃度が0.01g/L になるように調製した銅めっき液を用い、その他は実施例3と同様の条件でビアフィリング試験を実施した。その結果、表2に示すように、ビアフィリング率は、ブラインドビアホールXで90%、ブラインドビアホールYで89%そしてブラインドビアホールZでは80%であった。
【実施例6】
【0077】
本実施例では、分子量4000のPEG−Azを合成し、このポリアルケンオキシド化合物を含む銅めっき液を調製してビアフィリング性を評価した。
【0078】
<分子量4000のPEG−Azの合成>
フラスコ内のDMF10mLに、実施例1と同様にして合成した分子量4000のPEG−Clを2.0gと4,4’−フェニルアゾフェノール0.3gと無水炭酸カリウム0.21gとを加え、48時間還流した。還流の終了後直ちに濾過し、濾液を室温迄徐冷して反応溶液を得た。この反応溶液を、冷却したジエチルエーテル100mL中に投入して、PEG−Az粗生成物を析出させた。このPEG−Az粗生成物を含む溶液を濾過し、分離して得られた固形分を減圧乾燥して、PEG−Az粗生成物を得た。このPEG−Az粗生成物は、実施例1におけるPEG−Clと同様の粗精製工程と再結晶工程とを実施して精製した。
【0079】
<ビアフィリング性評価>
実施例3で用いた分子量4000のPEG−Clに代えて、分子量4000のPEG−Az濃度が0.01g/L になるように調製した銅めっき液を用い、その他は実施例3と同様の条件でビアフィリング試験を実施した。その結果、表2に示すように、ビアフィリング率は、ブラインドビアホールXで90%、ブラインドビアホールYで89%そしてブラインドビアホールZでは80%であった。
【実施例7】
【0080】
本実施例では、分子量10000のPEG−Clを合成し、このポリアルケンオキシド化合物を含む銅めっき液を調製してビアフィリング性を評価した。
【0081】
<分子量10000のPEG−Clの合成>
合成原料として、分子量10000のPEG(メルク(株)製PEG10000)を30g用いた以外は、実施例1における分子量4000のPEG−Clの合成と同様の操作を実施した。
【0082】
<ビアフィリング性評価>
まず、ポリアルケンオキシド化合物として、分子量10000のPEG−Clを基本浴2に添加し、PEG−Cl濃度が0.1g/Lとなるように銅めっき液を調製した。この銅めっき液を用い、その他は実施例3と同様の条件でビアフィリング試験を実施した。その結果、表2に示すように、ビアフィリング率は、ブラインドビアホールXで90%、ブラインドビアホールYで90%そしてブラインドビアホールZでは88%であった。
【実施例8】
【0083】
本実施例では、分子量20000のPEG−Clを合成し、このポリアルケンオキシド化合物を含む銅めっき液を調製してビアフィリング性を評価した。
【0084】
<分子量20000のPEG−Clの合成>
合成原料として、分子量20000のPEG(和光純薬工業(株)製PEG20000)を60g用いた以外は、実施例1における分子量4000のPEG−Clの合成と同様の操作を実施した。
【0085】
<ビアフィリング性評価>
まず、ポリアルケンオキシド化合物として、分子量20000のPEG−Clを基本浴2に添加し、PEG−Cl濃度が0.1g/Lとなるように銅めっき液を調製した。この銅めっき液を用い、その他は実施例3と同様の条件でビアフィリング試験を実施した。その結果、表2に示すように、ビアフィリング率は、ブラインドビアホールXで89%、ブラインドビアホールYで86%そしてブラインドビアホールZでは91%であった。
【実施例9】
【0086】
本実施例では、分子量500000のPEG−Clを合成し、このポリアルケンオキシド化合物を含む銅めっき液を調製してビアフィリング性を評価した。
【0087】
<分子量500000のPEG−Clの合成>
合成原料として、分子量500000のPEG(和光純薬工業(株)製PEG500000)を125g用いた以外は、実施例1における分子量4000のPEG−Clの合成と同様の操作を実施した。
【0088】
<ビアフィリング性評価>
まず、ポリアルケンオキシド化合物として、分子量500000のPEG−Clを基本浴2に添加し、PEG−Cl濃度が0.01g/Lとなるように調製した。この銅めっき液を用い、その他は実施例3と同様の条件でビアフィリング試験を実施した。その結果、表2に示すように、ビアフィリング率は、ブラインドビアホールXで90%、ブラインドビアホールYで88%そしてブラインドビアホールZでは89%であった。
【比較例】
【0089】
〔比較例1〕
<光沢性評価>
本比較例では、分子量4000のPEGを用いて光沢性を評価した。光沢性の評価は、ハルセル試験に用いた銅めっき液を、実施例1で用いた分子量4000のPEG−Clに代えて分子量4000のPEGを用い、0.01g/Lになるように基本浴1に添加して調製した他は実施例1と同様の条件で実施した。その結果、光沢を有する銅皮膜が得られた電流密度範囲は、表1に示すように、0.2A/dm〜12.0A/dmであった。
【0090】
〔比較例2〕
<ビアフィリング性評価>
本比較例では、分子量4000のPEGを用いてビアフィリング性を評価した。ビアフィリング性の評価は、実施例1で用いた分子量4000のPEG−Clに代えて分子量4000のPEGを、PEG濃度が0.01g/Lになるように基本浴3に添加し、更に塩酸を添加して塩素濃度を0.05g/Lとした銅めっき液を調製した。この銅めっき液を用い、その他は実施例3と同様の条件で実施した。その結果、表2に示すように、ビアフィリング率は、ブラインドビアホールXで100%、ブラインドビアホールYで99%そしてブラインドビアホールZでは77%であった。
【0091】
<光沢性の対比>
表1によれば、本件発明に係る銅めっき用添加剤を用いた銅めっき液を電解して光沢を有する銅皮膜が得られる電流密度範囲は、従来から使用されている、PEGとSPS及び塩素とを添加した銅めっき液を用いて光沢を有する銅皮膜が得られる電流密度範囲と同等である。
【0092】
<ビアフィリング性の対比>
表2によれば、本件発明に係る銅めっき用添加剤を用いた銅めっき液のビアフィリング性は、塩素を添加しなくても、従来から使用されているPEG、SPS、JGBと塩素とを添加した銅めっき液のビアフィリング性と同等又はそれ以上である。そして、分子量が10000以上の本件発明に係る銅めっき用添加剤を用いた銅めっき液のビアフィリング性は、SPSやJGBを添加しなくても、従来から使用されているPEG、SPS、JGBと塩素とを添加した銅めっき液のビアフィリング性と同等である。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本件発明に係る、両末端に官能基を備える構造式を有し数平均分子量が100〜2000000であるポリアルケンオキシド化合物を含む銅めっき用添加剤を用いた銅めっき液を用いて電気めっきを行うと、銅めっき液中の塩素量が少なくても、安定して光沢性が良好な銅皮膜が得られる。また、ビアフィリングを行うと、良好な状態に銅が埋め込まれたブラインドビアホール(フィルドビア)が得られる。即ち、塩素を従来技術レベルで添加しなくてもよいため、陽極にDSAを使用する場合にも好適に用いることができる銅めっき液である。更に、分子量の大きなポリアルケンオキシド化合物を選択すると、SPSやJGB等、他の添加剤の併用も必要なくなって銅めっき液の管理が容易になる。その結果、光沢を有する銅皮膜や、良好に埋め込まれたフィルドビアを、従来以上に安定して得ることができる。従って、本件発明に係る銅めっき用添加剤は、プリント配線板用途のみならず、集積回路を製造する際の銅めっきや、光沢銅めっきが求められる装飾分野等にも応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】PEG−ClのC−NMRによる分析結果である。
【図2】PEG−SのC−NMRによる分析結果である。
【図3】ビアフィリング性評価基板の模式断面図である。
【図4】ビアフィリング性評価基板上の、ブラインドビアホールの配置を示す図である。
【図5】ビアフィリング試験に用いた装置構成を示す模式図である。
【図6】ビアフィリングを行った後のブラインドビアホールを示す模式断面図である。
【符号の説明】
【0095】
1 ブラインドビアホール
2 電解銅箔
3 絶縁樹脂
4 ビルドアップ樹脂
5 ビルドアップ樹脂厚さ
6 開口径
7 ボトム径
8 めっき銅
10 開口径がφ60μmのブラインドビアホールX
11 開口径がφ90μmのブラインドビアホールY
12 開口径がφ150μmのブラインドビアホールZ
13 ブラインドビアホールを1.2mmピッチで配置した部分(a)
14 ブラインドビアホールを0.25mmピッチで配置した部分(b)
15 ブラインドビアホールを0.5mmピッチで配置した部分(c)
16 ブラインドビアホール配置(a)、(b)、(c)を順次繰り返し配置した面(A)
17 ボトムのめっき銅厚さ(T1)
18 トータル銅厚さ(T2)
20 ビアフィリング試験装置(側面)
21 ビアフィリング試験装置(鳥瞰)
22 試験基板
23 DSA
24 整流器
25 銅めっき液
26 マグネチックスターラー
27 めっき槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアルケンオキシド化合物を含む銅めっき用添加剤であって、
前記ポリアルケンオキシド化合物は、その末端のいずれか一方又は両方に官能基又はハロゲン元素を備える以下の化1に示す構造式を有し、数平均分子量が100〜2000000であることを特徴とする銅めっき用添加剤。
【化1】

【請求項2】
前記化1に示す構造式における官能基R及びRが、スルホン基、NやSを含む官能基及び不飽和結合をもつ官能基から選択されるいずれかの官能基である請求項1に記載の銅めっき用添加剤。
【請求項3】
前記化1に示す構造式におけるmが1〜8である請求項1又は請求項2に記載の銅めっき用添加剤。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の銅めっき用添加剤を含む銅めっき液。
【請求項5】
前記ポリアルケンオキシド化合物の濃度が0.0001g/L〜10g/Lである請求項4に記載の銅めっき液。
【請求項6】
前記銅めっき液は、アニオン成分として、硫酸イオン又はハロゲンイオンから選択される1種以上を用いる請求項4又は請求項5に記載の銅めっき液。
【請求項7】
前記銅めっき液は、アニオン成分として、シアンイオン又はピロリン酸イオンを用いる請求項4又は請求項5に記載の銅めっき液。
【請求項8】
請求項4〜請求項7のいずれかに記載の銅めっき液を用い、陰極電流密度0.1A/dm〜50A/dmで電解を行う電気銅めっき方法。
【請求項9】
前記電解は不溶性陽極を用いて行う請求項8に記載の電気銅めっき方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−223082(P2008−223082A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−62627(P2007−62627)
【出願日】平成19年3月12日(2007.3.12)
【出願人】(502273096)株式会社関東学院大学表面工学研究所 (52)
【出願人】(000157049)関東化成工業株式会社 (12)
【Fターム(参考)】