説明

銅又は銅合金箔、及びそれを用いた両面銅張積層板の製造方法

【課題】両面銅張積層板に用いたときにシワやオレを抑制することができる銅又は銅合金箔、及びそれを用いた両面銅張積層板の製造方法を提供する。
【解決手段】両面銅張積層板8に用いられ、σ=(E×ΔL)/2×1000としたとき、|10000×(E×/2)|≦YSとなり、屈曲回数が40万回以上である銅又は銅合金箔4,6である。但し、E:銅又は銅合金箔を350℃で30分間保持して室温に冷却後の幅方向のヤング率(単位はGPa)、ΔL:室温から350℃に昇温し、30分間保持して室温に冷却した時の銅又は銅合金箔の幅方向の寸法変化率(単位はppm、収縮を正の値とする)、YS:引っ張り試験における銅又は銅合金箔の0.2%耐力(単位はMPa)、屈曲回数:IPC摺動屈曲試験機を使用し、電気抵抗が初期から20%上昇したときを終点とする

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばフレキシブル配線板(FPC:Flexible Printed Circuit)に使用され、樹脂層の両面に銅又は銅合金箔が積層された両面銅張積層板に適した銅又は銅合金箔、及びそれを用いた両面銅張積層板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブル配線板(FPC)に用いられる銅張積層板(CCL)としては、樹脂層の片面に銅箔を積層した片面銅張積層板と、樹脂層の両面に銅箔を積層した両面銅張積層板(以下、「両面CCL」という)が用いられている。両面CCLに回路を形成したものが両面フレキシブル配線板であり、回路のファイン化、FPCの省スペース化が実現しやすいことから、両面CCLの使用が増加する傾向にある。
このような両面CCLの製造方法として、銅箔の片面に樹脂組成物のワニスをキャストし、加熱硬化後に樹脂面に他の銅箔を熱圧着する方法が知られている(特許文献1)。又、熱可塑性ポリイミド層を両面に有するポリイミドフィルムの表裏面に、同時に銅箔を熱圧着する方法、熱可塑性ポリイミド層を有するポリイミドフィルムの片面に銅箔を熱圧着後、銅箔と反対側のポリイミドフィルム面に熱可塑性ポリイミド層を塗布し、その面に他の銅箔を熱圧着する方法、銅箔の片面にポリイミドの前駆体であるワニスをキャストして硬化後、銅箔と反対側の樹脂表面に熱可塑性ポリイミド層を形成し、その面に他の銅箔を熱圧着する方法等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平05-212824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、樹脂層(上記ポリイミドフィルムなど)の両面に銅箔を同時にラミネートする場合を除くと、最初に樹脂層と積層された銅箔(第1の銅箔)は、最初の積層の際に300℃以上の温度に加熱され,一旦冷却される。さらに、その後に樹脂層の反対面に他の銅箔(第2の銅箔)を積層する際に、第1の銅箔も同様に再加熱されて冷却される。
しかしながら、第2の銅箔を積層して加熱した後、冷却される時に第1の銅箔の長さ方向に平行に、かつ通常は幅方向中央位置にシワやオレが発生する場合がある。このシワやオレは、第2の銅箔の積層条件や積層時の加熱条件(熱圧着条件、張力等)を調整しても完全に解消することは難しい。そして、このようなシワやオレは、第1の銅箔と第2の銅箔に掛かる積層時の熱履歴が異なるため、第2の銅箔を積層して加熱した後、冷却されるときの温度変化に起因して、樹脂層を挟んで存在する両銅箔の寸法変化率が異なり、それによって生じる応力に銅箔が耐えられない場合に生じると考えられる。
【0005】
すなわち、本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、両面銅張積層板に用いたときにシワやオレを抑制することができる銅又は銅合金箔、及びそれを用いた両面銅張積層板の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは種々検討した結果、両面CCLを製造する際に、第1の銅箔及び第2の銅箔に加わる熱履歴が異なることに起因して両箔に寸法変化の差が生じ、箔に応力が生じたとしても,銅箔が座屈しないように両銅箔の特性を調整することで、シワやオレを抑制できることを見出した。

すなわち、本発明の銅又は銅合金箔は、両面銅張積層板に用いられ、σ=(E×ΔL)/2×1000としたとき、|10×σ|≦YSとなり、屈曲回数が40万回以上である。
但し、E:前記銅又は銅合金箔を350℃で30分間保持して室温に冷却後,の幅方向のヤング率(単位はGPa)、ΔL:室温から350℃に昇温し、30分間保持して室温に冷却した時の前記銅又は銅合金箔の幅方向の寸法変化率(単位はppm、収縮を正の値とする)、YS:引っ張り試験における前記銅又は銅合金箔の0.2%耐力(単位はMPa)
屈曲回数:IPC摺動屈曲試験機を使用し、箔を幅方向12.5mm、長さ方向200mmの短冊状に切り出し350℃で0.5時間の加熱処理をした後に用い、曲げ半径は箔厚みが18μmの場合は1.5mm、箔厚みが12μmの場合は1mmとし、毎分100回の繰り返し摺動を試験片に負荷し、電気抵抗が初期から20%上昇した屈曲回数を終点とした回数
【0007】
前記銅又は銅合金箔がいずれも圧延箔であって、最終冷間圧延加工度R(%)が93.0%以上であり,かつ最終焼鈍後の平均結晶粒径GS(μm)が,GS≦3.08×R−260であることが好ましい。
ΔLが145ppm以下であることが好ましい。
【0008】
本発明の両面銅張積層板の製造方法は、前記銅又は銅合金箔の片面に樹脂層を形成し、片面銅張積層板を得る第1の工程と、前記片面銅張積層板の前記樹脂層側に別の前記銅又は銅合金箔を積層して加熱し両面銅張積層板を得る第2の工程とを有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、両面銅張積層板を製造する際に、シワやオレを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係る両面銅張積層板の製造方法を示す図である。
【図2】両面銅張積層板の構成例を示す断面図である。
【図3】両面銅張積層板の製造時に加わる熱により、第1の銅又は銅合金箔にシワ(オレ)が発生する状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態に係る銅又は銅合金箔を用いた両面銅張積層板の製造方法について説明する。なお、本発明において%とは、特に断らない限り、質量%(質量%)を示すものとする。図1は、両面金属張積層板8の製造方法を示す。
図1において、まず、コイル状の第1の銅又は銅合金箔4を連続的に巻出し、巻出された第1の銅又は銅合金箔4の片面に、アプリケーションロール10、11等を用いてワニス状の樹脂組成物2aを所定厚みで連続的に塗布する。樹脂組成物2aは硬化後に樹脂層2となる。次に、樹脂組成物2aを塗布した第1の銅又は銅合金箔4を乾燥装置15に導入し、樹脂組成物2aを硬化(又は半硬化させる)。このようにして、第1の銅又は銅合金箔4の片面に樹脂層を形成し、片面銅張積層板を得る(第1の工程)。ここで第1の工程が終了した後にコイル状に巻き取り、第2の工程に進む場合もある。なお、第1の銅又は銅合金箔4の片面に樹脂層を形成する際に加熱がされるが、上記した樹脂組成物を塗布後に加熱する他、例えば樹脂フィルムのように既に樹脂層になっているものを第1の銅又は銅合金箔4の片面に熱圧着してもよい。又、通常、第1の工程での加熱温度は第2の工程での加熱温度以上の温度となる。次に、コイル状の第2の銅又は銅合金箔6を連続的に巻出し、例えば350〜400℃に加熱されたラミネートロール20、21の間に第1の銅又は銅合金箔4及び第2の銅又は銅合金箔6を連続的に通箔する。このとき、第1の銅又は銅合金箔4の樹脂層2側に第2の銅又は銅合金箔6を積層して加熱し、両面銅張積層板8を得る(第2の工程)。両面銅張積層板8は適宜コイルに巻き取られる。
【0012】
そして、図2に示すように、両面銅張積層板8は、第1の銅又は銅合金箔4の樹脂層2側に第2の銅又は銅合金箔6を積層して構成される。
第1の銅又は銅合金箔4、及び第2の銅又は銅合金箔6としては、例えば、純銅、タフピッチ銅(JIS-1100)、無酸素銅(JIS-1020)や、これら純銅、タフピッチ銅、無酸素銅にSn及び/又はAgを合計で40〜400質量ppm添加したものが挙げられる。第1の銅又は銅合金箔4、及び第2の銅又は銅合金箔6の厚みは、例えば6〜18μm程度とすることができる。第1の銅又は銅合金箔4、及び第2の銅又は銅合金箔6は、同一のものを用いる。第1の銅又は銅合金箔4、及び第2の銅又は銅合金箔6は、圧延箔であっても電解箔であってもよい。
樹脂層2としては、ポリイミド;PET(ポリエチレンテレフタレート);エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂;飽和ポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂を用いることができるがこれらに限定されない。又、これら樹脂層の成分を溶剤に溶かしたワニス(例えば、ポリイミドの前駆体のポリアミック酸溶液)を第1の銅又は銅合金箔4の片面に塗布し、加熱することで溶媒を除去して反応(例えばイミド化反応)を進行させ、硬化させてもよい。樹脂層2の厚みは、例えば1〜15μm程度とすることができる。
【0013】
次に、本発明の特徴部分である、第1の銅又は銅合金箔4、及び第2の銅又は銅合金箔6の特性について説明する。
第1の銅又は銅合金箔4の片面に樹脂層を形成した後、第2の銅又は銅合金箔6を積層して両面CCLを製造する際、樹脂を挟んだ2つの銅又は銅合金箔4,6の寸法変化の差によって生じる応力は、以下で表される。
まず、温度T1(Tは、第2の銅又は銅合金箔6を積層する際の加熱温度)で両面CCLに積層され、T2まで冷えた場合に第1の銅又は銅合金箔4に掛かる応力σは、
σ=E×E/(E+E)×(α×(T−T)+ΔL−(α×(T−T)+ΔL))×1000 (1)で表される。なお、寸法変化Δは収縮を正とし、幅方向(銅又は銅合金箔のコイルから連続的にCCLを製造する際のコイル幅方向)の変化とする。
ここで、CCLに用いられる銅又は銅合金箔は純銅に近いものであることから、添加成分が多少含まれても熱膨張係数α(添え字A,Bはそれぞれ第1の銅又は銅合金箔4、第2の銅又は銅合金箔6を表す)は同一(α≒α)とみなせる。従って、式1は、
σ=E×E/(E+E)×(ΔL−ΔL)×1000 (2)で表される。
【0014】
但し、E:前記第1の銅又は銅合金箔を350℃で30分間保持して室温に冷却後,再度350℃で30分間保持して室温に冷却する第1熱履歴に前記第1の銅又は銅合金箔の幅方向のヤング率(単位はGPa)、E:前記第2の銅又は銅合金箔を350℃で30分間保持して室温に冷却する第2熱履歴による前記第2の銅又は銅合金箔の幅方向のヤング率(単位はGPa)、ΔL:室温から350℃に昇温し、30分間保持して室温に冷却した時の寸法を基準にし,再度350℃で30分間保持して室温に冷却後の前記第1の銅又は銅合金箔の幅方向の寸法変化率(単位はppm、収縮を正の値とする)、ΔL:室温から350℃に昇温し、30分間保持して室温に冷却後の前記第2の銅又は銅合金箔の幅方向の寸法変化率(単位はppm、収縮を正の値とする)、である。
なお、室温とは、25〜35℃(通常、25℃)である。
【0015】
つまり,両方の銅又は銅合金箔4,6のヤング率を小さくし、銅又は銅合金箔4,6の寸法変化率の差(ΔL−ΔL)を小さくすれば、応力σが小さくなり、両面CCL製造時のシワやオレが発生しにくくなる。
【0016】
ここで、両方の銅又は銅合金箔4,6に同一のものを用いても寸法変化率の差(ΔL−ΔL)が生じることから、この差は熱膨張に起因するものでないことは明らかである。そして、金属に熱をかけると再結晶や回復等の組織変化を生じるため、金属を加熱して冷却すると、元の寸法より短くなったり(熱収縮)、長くなったり(熱伸長)する。又、一旦加熱して冷却した金属を,再度同一温度以下に加熱して冷却しても熱収縮や熱伸長は起きない。なお、これらの現象は、圧延箔と電解箔のいずれにも生じるが、圧延箔のほうが圧延によるひずみが大きく,又、箔の成分によっては,CCL製造時に加わる熱で圧延組織から再結晶組織に変化するので、熱収縮または熱伸長は大きくなる。
【0017】
図3は、CCL製造時に加わる熱により、上記した熱伸長や熱収縮が生じ、第1の銅又は銅合金箔4にシワ(オレ)100が発生する状態を示す。
まず、上記第1工程で片面銅張積層板を製造する際、第1の銅又は銅合金箔4が加熱され冷却されると、元の長さより小さく熱収縮する。次に、上記第2工程で両面銅張積層板を製造する際、第2の銅又は銅合金箔6が加熱され冷却されると、元の長さより小さく熱収縮しようとする(図3の矢印)。一方、既に第1工程で熱収縮した第1の銅又は銅合金箔4は、第2工程では殆ど熱収縮しない(図3の矢印)。
従って、第2工程での加熱後の冷却の際、第2の銅又は銅合金箔6が縮もうとする力で第1の銅又は銅合金箔4に圧縮応力が加わる。そして、この圧縮応力に耐えられずに第1の銅又は銅合金箔4が座屈する(シワやオレが発生する)。
【0018】
但し、第1の銅又は銅合金箔4側に圧縮応力が加わる場合、その銅箔の耐力が圧縮応力(式2のσ)より大きければ座屈は起きず、シワやオレが発生しにくくなる。通常,銅箔の圧縮に対する耐力を求めることはできないが、座屈が起きるか否かの境界値は、引っ張りに対する耐力(YS)で代用することが可能である。つまり、YSがσ以上となるように、第1の銅又は銅合金箔4を選択すれば、シワやオレが発生しないと考えられる。
そして、本発明者らが、両面銅張積層板を製造する際にシワやオレが発生しない条件を実験により求めた結果、式2のσに対し、
|10×σ|≦YS (3)
となるように、第1の銅又は銅合金箔4を選択すれば、シワやオレが発生し難いことがわかった。
一方、第2の銅または銅合金箔6に圧縮応力が加わる場合、式2のσBに対し、
|10×σB|≦YSB (4)
となるように、第2の銅又は銅合金箔6を選択すれば、シワやオレが発生し難いことがわかった。ただし、第1の銅又は銅合金箔4に圧縮応力が加わることが一般的である。
【0019】
式3(又は、式4)を満足するためには、σ(σB)つまり寸法変化率の差(ΔL−ΔL)が小さい程よく、そのためには第1工程で第1の銅又は銅合金箔4が受ける熱と、第2工程で第2の銅又は銅合金箔6が受ける熱の差が小さい程好ましいことになる。又、第1工程で第1の銅又は銅合金箔4が受ける歪みが小さい程、寸法変化率の差(ΔL−ΔL)も小さくなる。
このようなことから、式3、4を満足する具体的方法として、1)第1の銅又は銅合金箔4、及び第2の銅又は銅合金箔6を予め加熱すること、2)第1の銅又は銅合金箔4、及び第2の銅又は銅合金箔6が圧延箔の場合は,圧延を低加工度で行うこと、3)箔の厚みと機械的性質から設定する圧延時の張力を過度にしないこと、4)第1の銅又は銅合金箔4、及び第2の銅又は銅合金箔6に電解箔を用いることが挙げられる。ただし、第1の銅又は銅合金箔4側に圧縮応力が加わることが一般的と考えると、第2の銅又は銅合金箔6にのみ、1)から4)の手法を施しても良い。
【0020】
上記1)の手法について、純銅は面心立方構造を持つ金属であり,加熱によって再結晶すると立方体方位が発達し、屈曲性が良くなることが知られている。立方体方位が発達した銅箔はヤング率が低く,引っ張り試験における0.2%耐力も低い。つまり、このような立方体方位が発達した銅箔は、両面CCL製造時(第2の工程を行った時)に最もオレシワが発生し易くなると言える。例えば、純銅箔を350℃で30分保持して冷却したところ、ヤング率は70GPa程度,0.2%耐力は50MPa程度になることが本発明者らの実験で判明した。このように、耐力が小さい銅又は銅合金箔を再度350℃程度まで加熱して冷却しても、寸法変化がほとんど0であると考えられる。
従って、第1の銅又は銅合金箔4、及び第2の銅又は銅合金箔6として同一のものを用い(E≒E、|σ|≒|σ|)、ΔL≒0で近似したとき、式2は、
σ=(E×ΔL)/2×1000 (5)
で表される。そして、式3と式5から、
|10000×(E×ΔL/2)|≦YS (6)
であり、式6を満たすような銅又は銅合金箔を用いて両面CCLを製造すればよいことになる。
又、上記実験結果からE=70Gpa、YS=50MPaを式5に代入すると、ΔL=143(ppm)が得られる。つまり、少なくとも第2の銅又は銅合金箔6を使用前に加熱し、ΔL≦143(ppm)のものを用いると、屈曲性を兼ね備え、かつオレやシワが発生し難くなる。第2の銅又は銅合金箔6の加熱条件は、50℃〜200℃で1秒〜10時間程度とすればよいが、これに限定されない。例えば、加熱条件として、60℃で3時間の保持や130℃で3秒の保持が挙げられる。つまり、このような熱処理を銅又は銅合金箔に予備的に加え、両面CCLの製造に用いればよいことになる。
【0021】
次に、上記2)の手法について、圧延箔の歪みは、最終焼鈍後の圧延加工度,1パスの圧下量,張力,および加工温度等で変化する。ただし、圧下量や張力は,加工対象の箔の厚みや圧延機の性能に依存し,一様に規定することが難しい。また,加工温度が高いほどひずみは小さくなるが,圧延中は圧延油がクーラントの役目を担っており,瞬間的な加工温度を規定することは難しい。
そこで,圧延加工度から箔に求められる条件を規定する。ここで、圧延加工度を小さくすると箔の歪みは小さくなるが,再結晶する際に立方体方位が発達し難くなって屈曲性が低下するので好ましくない。これに対し、圧延前の結晶粒径を小さくすると、同じ加工度で圧延しても立方体方位が発達する。以上の知見から、本発明者らが実験したところ、最終冷間圧延加工度をR(%)が93.0%以上であり,かつ最終焼鈍後の平均結晶粒径GS(μm)が,GS≦3.08×R−260であれば、屈曲性を損なうことなく、オレやシワの発生を抑制できることが判明した。但し、Rが高すぎると屈曲性が低下する傾向にあるので、銅又は銅合金箔を使用前に予備加熱しない場合(上記1)の手法を行わない場合)には、Rが98%以下であることが好ましい。
【0022】
上記したように、本発明の銅又は銅合金箔において、屈曲性に優れることが必要であり、銅又は銅合金箔の屈曲回数が40万回以上であることが必要となる。
ここで、屈曲回数は、IPC(アメリカプリント回路工業会)摺動屈曲試験機を使用し、箔を幅方向(圧延方向に直角な方向になります。電解箔の場合はMD(machine direction)に直角な方向)12.5mm、長さ方向200mmの短冊状に切り出した試験片を、350℃で0.5時間の加熱処理をした後に用いた。曲げ半径は、箔厚みが18μmの場合は1.5mm、箔厚みが12μmの場合は1mmとし、毎分100回の繰り返し摺動を試験片に負荷し、試験片の電気抵抗が初期から20%上昇した屈曲回数を終点とした回数とする。銅又は銅合金箔の屈曲回数が40万回以上であるものは、実際の両面CCLで合格とされる屈曲回数に相当することがわかっている。
例えば、従来の銅箔においても、R(%)が93.0%以上であり,かつ最終焼鈍後の平均結晶粒径GS(μm)が,GS≦3.08×R−260であるものは存在するが(例えば、1200ppmSnを含有する無酸素銅)、このものは屈曲回数が40万回未満である。又、公知の組成でかつ高屈曲性を持たせるために公知の方法で製造した銅箔 (例えば加工度を99.2%で最終圧延した箔)を用いても、50℃〜200℃で1秒〜10時間程度の予備加熱を行ったものは、上記式6を満たすようになるので屈曲性に優れ、両面銅張積層板に適する。
【実施例】
【0023】
表1に示す組成の銅箔(銅合金箔)を用い、図1に示すようにして両面CCLを製造した。ここで、第1の銅箔4と第2の銅箔6は同一であるが、CCL製造に使用する順番から、第1の銅箔4及び第2の銅箔6と区別して説明する。
なお、一部の銅箔は、表1に示すように結晶粒径GSと加工度を調整したり、予備熱処理を施した。なお、予備熱処理は下記化学処理(めっき)後に行ったが、CCL製造直前に行っても良い
【0024】
まず、第1の銅箔4の片面を化学処理(めっき)し、この面にポリイミド樹脂の前駆体ワニス(宇部興産製U−ワニスA)を厚さ25μmになるように塗布した。この後、130℃に設定した熱風循環式高温槽で30分乾燥し、段階的に350℃まで2000秒かけて昇温して硬化(イミド化)して樹脂層2を形成し、片面CCLを作製した。次に、片面CCLの樹脂側面に熱可塑性ポリイミド(接着層)を塗布して乾燥した後、第2の銅箔6を重ねて350℃に加熱したプレスで10分間熱圧着させ両面CCLを製造した。その後、両面CCLを室温まで冷却し、オレやシワの発生状況を目視で判定した。
【0025】
ΔLは、銅箔を幅方向に150mm,長さ方向に12.5mmの短冊状に切り出し,ビッカース硬さ計で評点間隔80mmの打痕を打ち、両打痕の座標を測定することで、熱をかける前の距離Lを求めた。なお,積層前に予め熱処理した銅箔試料の場合、この熱処理後に同様に距離を求めた。次に350℃のオーブンに試料を30分間保持した後に取り出し、室温に冷却後に両打痕の座標を測定し、距離L'を求めた。ΔLは、それぞれ (L-L')/Lで計算でき、収縮の場合が正の値となる。
又、銅箔のヤング率EはJIS-Z2280-1993に従って振動法で求め、0.2%耐力YSは引っ張り試験機を用いてJIS-Z2241-1998に従って求めた。
【0026】
屈曲性は以下のようにして評価した。まず、銅箔を幅方向12.5mm、長さ方向200mmの短冊状に切り出して試験片とし、これを350℃で0.5時間の加熱処理をした後に用いた。屈曲試験は、IPC(アメリカプリント回路工業会)摺動屈曲試験機を使用し、曲げ半径は銅箔厚みが18μmの場合は1.5mm、銅箔厚みが12μmの場合は1mmとした。屈曲性は銅箔厚みが薄くなるほど良くなることから、同じ基準で評価するために銅箔厚みによって曲げ半径を変えればよい。そして、毎分100回の繰り返し摺動を試験片に負荷し、試験片の電気抵抗が初期から20%上昇した屈曲回数を終点とした回数とした。銅又は銅合金箔の屈曲回数が40万回以上であるものは、実際の両面CCLで合格とされる屈曲回数に相当することがわかっている。
【0027】
得られた結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
表1から明らかなように、銅箔に予め熱処理した実施例1〜13の場合、|10×σ|≦YSとなり、得られた両面CCLにシワやオレがなく、屈曲性にも優れたものとなった。
又、銅箔の圧延条件を調整し、Rを93.0%以上で98.0%以下としつつGS≦3.08×R−260となるようにした実施例12、13の場合、予備熱処理をしなくても、|10×σ|≦YSとなり、得られた両面CCLにシワやオレがなく、屈曲性にも優れたものとなった。
【0030】
一方、Rを93.0%未満とし、予備熱処理しなかった比較例1〜3の場合、屈曲性が低下した。電解銅箔を用い、予備熱処理しなかった比較例4の場合も、屈曲性が低下した。
GS>3.08×R−260となるGSが得られるように焼鈍して圧延した比較例5の場合、及びRを93.0%未満とした比較例6の場合も、屈曲性が低下した。
Rが98.0%を超える条件で圧延し、予備熱処理しなかった比較例7〜10の場合、|10×σ|>YSとなり、得られた両面CCLにシワやオレが発生した。
銅への添加元素(Sn又はAg)の量が400ppmを超えた比較例11,12の場合、屈曲性が低下した。
【符号の説明】
【0031】
2 樹脂層
2a 樹脂組成物
4 第1の銅又は銅合金箔
6 第2の銅又は銅合金箔
8 両面銅張積層板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両面銅張積層板に用いられ、
σ=(E×ΔL)/2×1000としたとき、|10×σ|≦YSとなり、屈曲回数が40万回以上である銅又は銅合金箔。
但し、E:前記銅又は銅合金箔を350℃で30分間保持して室温に冷却後,の幅方向のヤング率(単位はGPa)、ΔL:室温から350℃に昇温し、30分間保持して室温に冷却した時の前記銅又は銅合金箔の幅方向の寸法変化率(単位はppm、収縮を正の値とする)、YS:引っ張り試験における前記銅又は銅合金箔の0.2%耐力(単位はMPa)
屈曲回数:IPC摺動屈曲試験機を使用し、箔を幅方向12.5mm、長さ方向200mmの短冊状に切り出し350℃で0.5時間の加熱処理をした後に用い、曲げ半径は箔厚みが18μmの場合は1.5mm、箔厚みが12μmの場合は1mmとし、毎分100回の繰り返し摺動を試験片に負荷し、電気抵抗が初期から20%上昇した屈曲回数を終点とした回数
【請求項2】
前記銅又は銅合金箔がいずれも圧延箔であって、最終冷間圧延加工度R(%)が93.0%以上であり,かつ最終焼鈍後の平均結晶粒径GS(μm)が,GS≦3.08×R−260である請求項1に記載の銅又は銅合金箔。
【請求項3】
ΔLが145ppm以下である請求項1又は2に記載の銅又は銅合金箔。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の銅又は銅合金箔の片面に樹脂層を形成し、片面銅張積層板を得る第1の工程と、前記片面銅張積層板の前記樹脂層側に別の前記銅又は銅合金箔を積層して加熱し両面銅張積層板を得る第2の工程とを有する両面銅張積層板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−94200(P2011−94200A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−250182(P2009−250182)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【Fターム(参考)】