説明

銅合金線の製造方法

【課題】伸線時の異物断線を防止し、強度及び導電性に優れた銅合金線の製造方法を提供する。
【解決手段】銅合金からなる鋳造材108を伸線加工することで銅合金線を製造する方法において、銅素材102及び合金用材料からなる素材103を溶解して得られた銅溶湯110を溶融状態にて不純物が該銅溶湯表面に浮遊する時間まで沈静保持し、該銅溶湯110を該銅溶湯110に対流が起きない引抜速度で引抜くことで上記鋳造材108を作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器用及び医療用機器に用いられる、同軸ケーブルの心線、シールド線に適用する銅合金線の製造方法において、素材中の不純物を除去することで、伸線時の異物断線を防止し、強度及び導電性に優れた銅合金線の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電子機器用及び医療用のケーブル導体には銅合金線が使用されている。一般には、銅合金素材を鋳造機にて溶解して溶融状態にし、その後、凝固させながら鋳造材を製造する。その鋳造材を用いて、伸線ダイスを通して引き抜きを行なう伸線を行ない、所望線径に加工する。
【0003】
一般的な鋳造工程を本発明の図1(a)、図1(b)、図2を用いて説明する。
【0004】
まず、図1(a)、図1(b)に示されるように、坩堝101内に所定量の素材(ここでは銅材102、銀材103)を挿入する。その後、図2に示されるように、坩堝101を鋳造機の発熱体104内に設置し、その内部を石英管105と蓋106で密封し、その内部を1×10-1Pa程度に真空引きする。真空度が安定したら、素材102、103が充填された坩堝101を発熱体104にて約1200℃に加熱して素材102、103を溶解する。素材が完全溶解したら、所定の鋳造引抜速度にて、銅溶湯を下方向に引抜し鋳造材を製造する。
【0005】
【特許文献1】特開2006−156129号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、近年の電子機器の小型化、軽量化に伴い、ケーブルの細径化が求められ、その結果、銅線も細径化、すなわち極細線の製造が必要不可欠になってきた。その為、従来技術にて、極細線用鋳造材を製造しようとすると、素材中に混入している不純物又は外来異物(例えば、SiO2、AlO3)が、そのまま鋳造材に混入してしまう。その鋳造材にて伸線を行なっていくと、異物混入部に応力が集中し、その部分で断線してしまう。また、混入異物が多くなると、それに比例して断線も多発してしまう。その結果、製品の品質及び歩留りに大きく影響する。
【0007】
そこで、混入異物の除去方法として、素材溶解後、T/15時間(T:素材長mm)保持することで不純物を除去する方法が提案されている(特許文献1)。
【0008】
しかし、この方法であると、鋳造量が多くなるにつれ、その分、鋳造時に必要な素材量も多くなり、その結果、素材長も長尺になる。例えば、5kgの鋳造材を鋳造しようとすると、約390hの沈静時間が必要となり、そうなると特許文献1による方式では、製造効率が悪い。また、図3に示すような現象も考慮する必要がある。すなわち、沈静保持にて素材中の不純物(異物)を浮遊させても、所定の引抜速度にて鋳造材を引き抜く際に発生する対流の影響を受けてしまい、浮遊した不純物が対流方向に動き出し、結果として鋳造材に異物が混入してしまい、沈静保持による混入異物除去の効果が半減してしまうおそれがある。
【0009】
また、沈静時間を長時間(例えば、20h以上)にすると、溶解素材の蒸発が懸念され、自ずと鋳造材の量も減少するため、その結果、鋳造工程における歩留りが低下する。
【0010】
そこで、本発明の目的は、線径30μm以下の銅合金線(銅合金極細線)を製造する際に発生する、鋳造材に混入する不純物(異物)を効率よく除去できることで、伸線工程における不純物(異物)による断線を防止でき、高品質な極細線の加工、及び製造効率の安定化を図ることができる、銅合金線の製造方法を提供する点にある。
【0011】
また、本発明の目的は、装置設備の改造を図らずに製造環境のクリーン化と同等の効果が期待できる銅合金線の製造方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明は、銅合金からなる鋳造材を伸線加工することで銅合金線を製造する方法において、銅素材及び合金用材料からなる素材を溶解して得られた銅溶湯を溶融状態にて不純物が該銅溶湯表面に浮遊する時間まで沈静保持し、該銅溶湯を該銅溶湯に対流が起きない引抜速度で引抜くことで上記鋳造材を作製するものである。
【0013】
伸線加工後の上記銅合金線の径を30μm以下としてもよい。
【0014】
上記鋳造材に含まれる不純物の総計を10質量ppm以下としてもよい。
【0015】
上記銅溶湯を沈静保持する時間は、1〜10時間であってもよい。
【0016】
上記銅溶湯を引抜く引抜速度は、200mm/min以下であってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0018】
(1)伸線工程における不純物(異物)による断線を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0020】
本発明の銅合金線の製造方法では、まず、銅素材及び合金用材料からなる素材を溶解する。この銅溶湯を溶融状態にて不純物が該銅溶湯表面に浮遊する時間まで沈静保持する。次いで、銅溶湯を銅溶湯に対流が起きない引抜速度で引抜くことで鋳造材を作製する。その後、この鋳造材を伸線加工することで銅合金線を製造する。
【0021】
図1は、本発明の銅合金線の製造方法に使用する坩堝及び素材の設置状態を示す図面であり、図1(a)はその上面図、図1(b)はその断面図である。すなわち、図1(a)、図1(b)に示されるように、本発明では、坩堝101と素材(銅材102、銀材103)を使用する。
【0022】
図2は、本発明の銅合金線の製造方法に使用する鋳造機における素材溶解部の断面図である。素材溶解部109は、主に、坩堝101、発熱体104、石英管105、蓋106、鋳型107から構成されている。坩堝101は、石英管105によって側面を覆われ、上方を蓋106によって閉じられることで密封状態となる。また、石英管105の外側には、坩堝101内の素材(銅材102、銀材103)を溶解させるための複数の発熱体104が対向的に配置されている。坩堝101の底面には、銅溶湯を引き出すための鋳型107が設けられている。
【0023】
具体的には、図1(a)、図1(b)に示されるように、坩堝101内に所定量の素材(ここでは銅材102、銀材103)を挿入する。このとき、素材(鋼材102、銀材103)を坩堝101に立てるように挿入する。その後、図2に示されるように、坩堝101を鋳造機の発熱体104内に設置し、その内部を石英管105と蓋106で密封し、その内部を1×10-1Pa程度に真空引きする。真空度が安定したら、素材102、103が充填された坩堝101を発熱体104にて約1200℃に加熱して素材102、103を溶解する。
【0024】
素材が完全溶解したら、この銅溶湯を溶融状態にて不純物が該銅溶湯表面に浮遊する時間まで沈静保持する。次いで、銅溶湯に対流が起きない引抜速度にて、銅溶湯を下方向に引抜し鋳造材を製造する。その後、この鋳造材を伸線加工することで銅合金線を製造する。
【0025】
このように、本発明は、線径30μm以下の銅合金線(銅合金極細線)を製造するための銅合金の鋳造方法において、素材を溶解し、加熱状態のまま溶融状態にて沈静保持する。これにより、不純物(素材中の混入異物、外来異物)が浮遊する。すなわち、銅の密度が8.9g/m3であるのに対し、不純物の主な元素であるSiの密度は2.3g/m3と軽いため、溶解後に沈静を図ることでSiは浮上する。本発明では、沈静保持時間を1〜10時間と規定する。
【0026】
また、本発明では、鋳造時の引抜速度を規定することで、鋳造引抜時に発生する坩堝内の対流を抑制することができる。このため、不純物を浮遊させたままの状態で鋳造作業が可能となり、不純物の少ない鋳造材を製造できることになる。よって、この鋳造材を伸線加工するとき、異物による断線を防止する効果か期待でき、高品質な線材の加工、及び製造効率の安定化を図られる。
【0027】
また、上記方式を採用することにより、本発明は、従来設備の改造が不要となるだけでなく、製造環境の影響を受けない安定した高品質の鋳造材、しいては高品質の銅合金極細線の加工が可能となる。
【0028】
沈静保持時間を1〜10時間としたのは、1時間未満であると、本発明の目的である異物除去の点で所望の効果が得られないという不都合があり、10時間を超えると、銅溶湯の蒸発によって、鋳造材の量が減少してしまうという不都合があるからである。
【0029】
また、銅溶湯の引抜速度を200mm/min以下とした理由は、200mm/minを超えると、銅溶湯の引抜速度が速すぎるために、銅溶湯の中心部において、銅溶湯の表面に浮上した不純物を再度下方へ引き込む対流が発生し、鋳造材中の異物量が10質量ppmを超えてしまうためである。
【0030】
伸線加工後の銅合金線の最終線径を30μm以下に限定した理由は、30μmを超える線径であれば、通常、鋳造材中に混入する異物量は断線の原因として無視できる程度であるためである。
【0031】
鋳造材に含まれる不純物の総計を10質量ppm以下とした理由は、不純物の総計が10質量ppmを超えると、伸線工程にて最終線径まで伸線を行なう際に、不純物混入が原因で断線が多発してしまうという不都合があるからである。
【0032】
以上説明したように、本発明は、線径30μm以下の銅合金線を製造するための銅合金の鋳造方法において、素材を溶解し、加熱状態のまま溶融状態にて沈静保持時間を規定することで、不純物(素材中の混入異物、外来異物)を浮遊させ、且つ鋳造時の引抜速度を規定することで、従来技術のような、鋳造量の増加に伴い、沈静時間が長時間になってしまうといった鋳造作業時間の短縮が図れるだけでなく、所定の引抜速度にて鋳造材を引き抜く際に発生する坩堝内の対流の影響を抑制できるため、不純物を浮遊させたままの状態で鋳造材を製造でき、異物混入による断線防止効果が期待できるとともに製造効率の安定化を図られる。
【0033】
また、上記方式を採用することにより、本発明は、従来設備の改造が不要となるだけでなく、製造環境に影響を受けずに安定した高品質の鋳造材、ひいては高品質の銅合金極細線の加工が可能となる。
【実施例】
【0034】
以上の素材溶解部109を備えた鋳造機を利用して、銅溶湯の沈静保持時間と引抜速度の条件を変えて、以下の実施例、比較例および従来例にかかる銅合金線を製造した。
(実施例1)
まず、坩堝(直径φ70mm、高さ220mm)101内に、直径φ11mm、長さ200mmの銅材102を30本、直径φ3mm、長さ50mmの銀材103を20本挿入する。その後、坩堝101を鋳造機の発熱体内に設置し、その内部を石英管105と蓋106で密封し、その内部を1×10-1Pa程度に真空引きする。真空度が安定したら、銅材102及び銀材103が充填された坩堝101を発熱体104にて1200℃に加熱して溶解する。銅材102及び銀材103が完全溶解したら、1200℃に加熱した状態で得られた銅溶湯110を1時間沈静保持した後、50mm/minの引抜速度で銅溶湯110を引き抜き、直径φ8mmの鋳造材108を得た。かかる鋳造材108を伸線ダイスにより伸線加工し、線径φ0.030mmの銅合金線を得た。
(実施例2)
沈静保持時間を5時間とした点を除いて、実施例1と同様の方法により銅合金線を得た。
(実施例3)
沈静保持時間を10時間とした点を除いて、実施例1と同様の方法により銅合金線を得た。
(実施例4)
沈静保持時間を1時間とし、鋳造引抜速度を100mm/minとした点を除いて、実施例1と同様の方法により銅合金線を得た。
(実施例5)
沈静保持時間を5時間とし、鋳造引抜速度を100mm/minとした点を除いて、実施例1と同様の方法により銅合金線を得た。
(実施例6)
沈静保持時間を10時間とし、鋳造引抜速度を100mm/minとした点を除いて、実施例1と同様の方法により銅合金線を得た。
(実施例7)
沈静保持時間を1時間とし、鋳造引抜速度を200mm/minとした点を除いて、実施例1と同様の方法により銅合金線を得た。
(実施例8)
沈静保持時間を5時間とし、鋳造引抜速度を200mm/minとした点を除いて、実施例1と同様の方法により銅合金線を得た。
(実施例9)
沈静保持時間を10時間とし、鋳造引抜速度を200mm/minとした点を除いて、実施例1と同様の方法により銅合金線を得た。
(比較例1)
沈静保持時間を0.5時間とした点を除いて、実施例1と同様の方法により銅合金線を得た。
(比較例2)
沈静保持時間を0時間とし、鋳造引抜速度を100mm/minとした点を除いて、実施例1と同様の方法により銅合金線を得た。
(比較例3)
沈静保持時間を0時間とし、鋳造引抜速度を200mm/minとした点を除いて、実施例1と同様の方法により銅合金線を得た。
(比較例4)
沈静保持時間を0時間とし、鋳造引抜速度を300mm/minとした点を除いて、実施例1と同様の方法により銅合金線を得た。
(比較例5)
沈静保持時間を1時間とし、鋳造引抜速度を300mm/minとした点を除いて、実施例1と同様の方法により銅合金線を得た。
(比較例6)
沈静保持時間を5時間とし、鋳造引抜速度を300mm/minとした点を除いて、実施例1と同様の方法により銅合金線を得た。
(比較例7)
沈静保持時間を10時間とし、鋳造引抜速度を300mm/minとした点を除いて、実施例1と同様の方法により銅合金線を得た。
(比較例8)
沈静保持時間を20時間とし、鋳造引抜速度を300mm/minとした点を除いて、実施例1と同様の方法により銅合金線を得た。
(比較例9)
沈静保持時間を20時間とした点を除いて、実施例1と同様の方法により銅合金線を得た。
(比較例10)
沈静保持時間を20時間とし、鋳造引抜速度を100mm/minとした点を除いて、実施例1と同様の方法により銅合金線を得た。
(比較例11)
沈静保持時間を20時間とし、鋳造引抜速度を200mm/minとした点を除いて、実施例1と同様の方法により銅合金線を得た。
(従来例1)
沈静保持時間を0時間とし、鋳造引抜速度を50mm/minとした点を除いて、実施例1と同様の方法により銅合金線を得た。
【0035】
これら実施例1〜9、比較例1〜11、従来例1のそれぞれの銅合金線を製造する過程において、鋳造材中の異物量、線径0.030mmまで伸線する際の断線回数(伸線性)、断線箇所の断線原因の分析結果を表1に示した。
【0036】
【表1】

【0037】
まず、沈静時間と異物量との関係について考察する。
【0038】
上記実施例1〜9における鋳造材、比較例1〜11における鋳造材、従来例1における鋳造材中の異物量を定量分析した。分析手法は、鋳造材の端部より20cmの部分から20g分の鋳造材を採取した後、化学的処理を施し、発光分光分析(ICP)による定量分析を行なった。
【0039】
その結果は、表1に示すように、実施例1(沈静時間1h)と実施例3(沈静時間10h)、実施例4(沈静時間1h)と実施例6(沈静時間10h)、実施例7(沈静時間1h)と実施例9(沈静時間10h)をそれぞれ比較すると、沈静保持時間を長くする方が鋳造材中の異物量を低減することができることが確認できる。
【0040】
また、上記定量分析試験の結果、実施例1〜9で示された鋳造材中の異物量は、いずれも10質量ppm以下であったのに対し、銅溶湯を沈静保持しない比較例2〜4及び従来例1の異物量は、28質量ppm〜33質量ppmであり、実施例1〜9の鋳造材中の異物量は、比較例2〜4および従来例1に対して約1/3に低減していることがわかる。
【0041】
また、銅溶湯を0.5時間沈静保持した比較例1の異物量は20質量ppmであり、実施例1〜9で示された鋳造材中の異物量の約2倍であることがわかり、沈静保持時間は1時間以上が妥当であることがいえる。
【0042】
次に、引抜速度と浮上異物との関係について考察する。
【0043】
鋳造引抜速度によって沈静保持にて浮遊させた不純物が、引抜時に発生する対流によって対流方向に動き出してしまい、沈静保持による効果がどうなるかを検証した。
【0044】
比較例5〜8は、沈静保持時間をそれぞれ1h、5h、10h、20hとし、比較的長時間の沈静保持を試みたにもかかわらず、いずれもその異物量が10質量ppmを超えていた。このことから、銅溶湯の沈静保持時間を長くしても、鋳造時の引抜速度を300mm/minにて実施すると、銅溶湯の引抜速度が速すぎるために、銅溶湯の中心部において、銅溶湯の表面に浮上した不純物を再度下方へ引き込む対流が発生し、鋳造材中の異物量は増える傾向があることがわかる。
【0045】
これに対して、実施例1〜9のように、鋳造時の引抜速度を200mm/min以下にすると、引抜時の上記のような対流を防止することができ、異物量にほとんど変化がないことが確認できる。
【0046】
以上の結果から、鋳造時の引抜速度を200mm/min以下にし、かつ、沈静保持時間を1時間以上とすることで、異物量は10質量ppmにて安定することが確認できた。
【0047】
さらに、沈静時間・引抜速度と浮上異物混入を原因とする断線の発生との関係について考察する。
【0048】
鋳造材を伸線加工して線径0.030mmまで伸線する際の伸線性を評価した。
【0049】
実施例1〜9の断線回数は従来例1と大きく変化はしていないが、破断部を調査した結果、従来例1及び比較例1〜8ではSi系を検出したが、実施例1〜9ではSi系は検出されず、材料元素であるCu又は伸線機から発生する磨耗屑であるFe、Cr、Tiなど(表1中において「Cu等」という)が検出された。
【0050】
したがって、実施例1〜9の断線の原因は、鋳造材中に異物が混入したことによるものではなく、伸線工程時に発生する引抜ダイス屑等が混入して断線に至ったものと考えられ、このことより、実施例1〜9では、鋳造材中への混入異物による断線を大きく低減することが出来た。
【0051】
次に、沈静時間と鋳造材量の減少との関係について考察する。
【0052】
比較例9〜11は、その破断部はCu等が検出され、鋳造材中への混入異物による断線は低減されたが、沈静時間が長時間(20h)であったため、溶解素材が蒸発し、鋳造材量が素材の総計に対して10%以上も減少して、鋳造工程における歩留りが大きく低下してしまった。
【0053】
これに対して、実施例1〜9は、沈静時間が1〜10hの範囲にあったため、溶解素材の蒸発は極めて微量で、その鋳造材の減少量を素材の総計に対して10%未満であり、鋳造工程における歩留りの低下を許容範囲におさえることができた。
【0054】
なお、上記実施例では、銅銀合金線について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、例えば、銅と錫の合金材を鋳造する際にも適用が可能であり、実施例にて記した同等の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の銅合金線の製造方法に使用する坩堝及び素材の設置状態を示す図面であり、(a)はその上面図、(b)はその断面図である。
【図2】本発明の銅合金線の製造方法に使用する鋳造機における素材溶解部の断面図である。
【図3】従来の銅合金線の製造方法に使用する鋳造機の素材溶解部内の対流方向を複式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0056】
101 坩堝
102 素材(銅材)
103 素材(銀材)
104 発熱体
105 石英管
106 蓋
107 鋳型
108 鋳造材
109 素材溶解部
110 銅溶湯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅合金からなる鋳造材を伸線加工することで銅合金線を製造する方法において、銅素材及び合金用材料からなる素材を溶解して得られた銅溶湯を溶融状態にて不純物が該銅溶湯表面に浮遊する時間まで沈静保持し、該銅溶湯を該銅溶湯に対流が起きない引抜速度で引抜くことで上記鋳造材を作製することを特徴とする銅合金線の製造方法。
【請求項2】
伸線加工後の上記銅合金線の径を30μm以下とすることを特徴とする請求項1記載の銅合金線の製造方法。
【請求項3】
上記鋳造材に含まれる不純物の総計を10質量ppm以下とすることを特徴とする請求項1又は2記載の銅合金線の製造方法。
【請求項4】
上記銅溶湯を沈静保持する時間は、1〜10時間であることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の銅合金線の製造方法。
【請求項5】
上記銅溶湯を引抜く引抜速度は、200mm/min以下であることを特徴とする請求項1〜4いずれか記載の銅合金線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−290122(P2008−290122A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−139013(P2007−139013)
【出願日】平成19年5月25日(2007.5.25)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】