説明

銅合金

【課題】耐軟化性に優れる銅合金、この銅合金からなる銅荒引線の製造方法、この銅合金からなる銅荒引線及び電線用導体を提供する。
【解決手段】この銅合金は、質量割合で、Sn,Pb,Fe,Ag,Ni及びZnを合計100ppm以上1000ppm以下含有し、更に、酸素を100ppm以上650ppm以下含有し、残部が銅及び不可避的不純物からなる。Sn,Pb,Fe,Ag,Ni及びZnの各元素の含有量は、質量割合で、Sn:0超800ppm以下、Pb:0超30ppm以下、Fe:0超50ppm以下、Ag:0超300ppm以下、Ni:0超100ppm以下、Zn:0超100ppm以下である。特定量の添加元素を含有することで、酸素含有銅でありながら、無酸素銅と同等以上の耐軟化性を有する。銅荒引線は、バッチ炉で作製した上記銅合金からなる溶湯を連続鋳造圧延して製造する。電線用導体は、この銅荒引線に延伸加工を施して製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐軟化性に優れる銅合金、この銅合金からなる銅荒引線の製造方法、この銅合金からなる銅荒引線及び電線用導体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
架空被覆配電線や電子電気機器用電線といった電線に用いられる導体は、従来、銅荒引線をスタート材料とし、これに伸線加工を施したり、得られた伸線材に更に撚線加工を施したりして製造される。銅荒引線は、高純度のタフピッチ銅が用いられ、低コストで生産性に優れる連続鋳造圧延により製造される。
【0003】
架空被覆配電線の絶縁被覆は、架橋ポリエチレンが代表的である。ポリエチレンの架橋には、熱架橋がある。熱架橋は、導体の外周にポリエチレンを押出被覆した後、ポリエチレンを短時間高温にして架橋する。この架橋時の加熱により、伸線加工により加工硬化した導体の強度が低下する、即ち、軟化することが知られている(特許文献1参照)。そこで、特許文献1に記載の技術は、タフピッチ銅にテルル(Te)を5〜30ppm(質量割合)添加することで、耐軟化性の向上を図っている。一方、特許文献2には、銀(Ag)を0.10〜1.0wt%(1000〜10000ppm)含有した銅合金からなる電線用導体が開示されている。このように大量のAgを添加した銅合金は、耐軟化性に優れる。その他、耐軟化性に優れる銅合金として、Snを添加した銅合金(Snの含有量:0.3〜0.6質量%)が挙げられる。
【0004】
【特許文献1】特開昭58-31051号公報
【特許文献2】特開2002-275562号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
耐軟化性の向上には、上述のようにTeやAg,Snの添加が効果的である。しかし、Teを大量に添加すると、連続鋳造圧延時や荒引線に圧延や伸線を施す際などで、被加工材に割れが生じ易い。Agを大量に添加すると、製造コストの上昇を招く。Snを大量に添加すると、導電率の低下を招き、電線用導体といった高導電率が望まれるものの材料に不適である。
【0006】
従って、本発明の主目的は、耐軟化性に優れていながら、加工時に割れが生じ難く、低コストであり、導電率が高い銅合金を提供することにある。また、本発明の目的の一つは、耐軟化性に優れる電線用導体を提供することにある。更に、本発明の目的の一つは、上記電線用導体に適した銅荒引線及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、Te,Ag,Snを大量に添加しなくても耐軟化性に優れる銅合金を得るために添加元素を検討し、複数種の元素を組み合わせて添加することが好ましいとの知見を得た。この知見に基づき、本発明を規定する。
【0008】
本発明銅合金は、質量割合で、Sn,Pb,Fe,Ag,Ni及びZnを合計100ppm以上1000ppm以下含有し、更に、酸素を100ppm以上650ppm以下含有し、残部が銅及び不可避的不純物からなる。上記Sn,Pb,Fe,Ag,Ni及びZnの各元素の含有量は、質量割合で、Sn:0超800ppm以下、Pb:0超30ppm以下、Fe:0超50ppm以下、Ag:0超300ppm以下、Ni:0超100ppm以下、Zn:0超100ppm以下である。本発明銅合金は、更に、質量割合でTeを5ppm未満含有してもよい。
【0009】
本発明銅合金は、複数種の添加元素(Sn,Pb,Fe,Ag,Ni及びZn)を特定の範囲で含有することで、耐軟化性に優れる。また、本発明銅合金は、Teを添加しない、或いは添加しても極微量であるため、連続鋳造圧延時や伸線時などの加工時に被加工材に割れが生じることを低減できる。更に、本発明銅合金は、Agを大量に添加しないことから、製造コストを低減することができる。加えて、本発明銅合金は、Snを大量に添加しないことから、導電率の低下を低減することができる。
【0010】
このような本発明銅合金は、銅荒引線や電線用導体に好適に利用することができる。特に、熱架橋により形成される絶縁被覆を具える電線の材料に本発明銅合金を利用すると、架橋時の加熱による導体の軟化を低減でき、加工硬化により高めた導体の強度を維持できる。従って、本発明銅合金からなる導体と熱架橋による絶縁被覆とを具える電線は、強度に優れる。以下、本発明をより詳しく説明する。
【0011】
本発明銅合金の母材となる銅は、酸素を含有する純銅、具体的には、タフピッチ銅(JIS合金番号C1100、Cuが99.9質量%以上、酸素を0.02〜0.05質量%含有)と同程度の組成からなる純銅から構成される。純銅の原料には、例えば、電気銅が利用できる。本発明銅合金は、複数種の添加元素を含有するため、タフピッチ銅といった酸素含有銅から構成されていても、耐軟化性に優れる無酸素銅(JIS合金番号C1020)と同等以上の耐軟化性を有する。
【0012】
本発明銅合金は、Sn,Pb,Fe,Ag,Ni及びZnの全ての元素を添加元素とする。Snは、耐軟化性の向上に効果があるが、多過ぎると導電率の低下を招くため、含有量の上限を質量割合で800ppmとする。Agも耐軟化性の向上に効果があるが、多過ぎると導電率の低下に加えコスト高を招くため、含有量の上限を質量割合で300ppmとする。Sn及びAgに加えて、Pbを30ppm以下、Feを50ppm以下、Niを100ppm以下、Znを100ppm以下含有することで本発明銅合金は、SnやAgの含有量が少なくても、耐軟化性を向上できる。Pbが30ppm超であると、圧延時に熱間割れが生じ易くなり、Feが50ppm超であると、鋳造時に疵が生じ易く、この疵により圧延時や伸線時に被加工材に割れが生じ易くなる。Niが100ppm超又はZnが100ppm超であると、導電率が低下したり、耐軟化性の向上効果が得られ難くなる。更に、Teを含有させた銅合金は、耐軟化性がより向上する。しかし、Teの大量添加は、圧延時に被加工材に熱間割れが生じ易いため、Teを添加する場合、質量割合で5ppm未満とする。
【0013】
上記添加元素の合計含有量は、質量割合で100ppm以上1000ppm以下とする。合計含有量が100ppm未満では、耐軟化性の向上効果が得られにくく、1000ppmを超えると、導電率の低下や被加工材の割れを招く。より好ましい範囲は、質量割合で300ppm以上900ppm以下である。
【0014】
添加元素となる各元素は、純銅の溶湯に元素のままで添加してもよいし、予め添加元素を含む銅合金からなる添加材を作製しておき、この添加材を上記溶湯に添加してもよい。特に、Teは、酸素と結合し易く、そのままで添加し難いため、合金にして添加することが好ましい。添加材の材料には、添加元素となる各元素を含むスクラップ銅を利用することができる。
【0015】
本発明銅合金は、酸素(O)を含有する。酸素は、銅合金中に酸化銅として存在する。酸素の含有量は、質量割合で100ppm以上650ppm以下とする。含有量が650ppm超であると、酸化銅の粒が大きくなり、この粗粒を起点として伸線時などに断線が発生し易く、100ppm未満であると、添加元素が大きく影響して導電率の低下を招いたり、圧延時に被加工材に割れが生じたり、表面品質の低下を招く。より好ましい酸素の含有量は、質量割合で、200ppm以上500ppm以下である。酸素の含有量は、例えば、原料となる銅の溶湯に酸化還元処理を適宜施すことで調整できる。
【0016】
ここで、従来、連続鋳造圧延により銅荒引線を製造する場合、縦型シャフト炉を用いて溶湯を作製し、この溶湯を連続鋳造機に注湯して鋳造材を作製する。そこで、本発明者らも、本発明銅合金と同様の組成の溶湯を縦型シャフト炉により作製し、連続鋳造圧延により銅荒引線を作製し、更に、この銅荒引線に伸線加工を施して線材を作製したところ、鋳造時や圧延時、伸線時に被加工材が割れることがあるとの知見を得た。この原因は、縦型シャフト炉では、添加元素が銅に十分に溶け込まなかったためと考えられる。そこで、本発明者らは、縦型シャフト炉ではなくバッチ炉を用いて溶湯を作製し、連続鋳造圧延及び伸線を同様に行って線材を作製したところ、圧延などの加工時に被加工材に割れが生じることを低減することができた。
【0017】
また、連続鋳造には、ツインベルト法、ベルトアンドホイール法などがある。ベルトアンドホイール法は、鋳造材が湾曲した状態で形成されるため、鋳造材の組成によっては割れが生じ易い。一方、ツインベルト法は、鋳造材の軸方向が直線状となるように鋳造材が形成されるため、割れが生じ難い。
【0018】
上記知見に基づき、本発明銅荒引線の製造方法は、上記銅合金の溶湯をバッチ炉で作製すると共に、連続鋳造をツインベルト法とする。具体的には、本発明銅荒引線の製造方法は、連続鋳造圧延により銅荒引線を製造するものであり、バッチ炉で原料を溶解し、上述した組成を有する本発明銅合金からなる溶湯を準備する工程と、得られた溶湯をツインベルト法で連続鋳造し、続いて連続圧延することで銅荒引線を製造する工程とを具える。
【0019】
溶湯を作製するバッチ炉は、所定量の原料を溶解して、所定量の溶湯を作製することが可能な溶解炉である。このバッチ炉は、原料を連続投入して連続的に溶湯を作製することが可能なシャフト炉と異なり、炉内の温度を制御し易い、即ち、炉内の温度を一定に保持し易いため、添加元素を十分に溶解することができ、均一的な組成の溶湯を作製することができる。更に、バッチ炉内の溶湯を撹拌することでより均一な組成の溶湯を作製することができる。溶湯の作製は、大気雰囲気や窒素ガスやアルゴンガスといった不活性ガス雰囲気で行うことが挙げられる。バッチ炉を用いて大気雰囲気で溶解を行う場合、炉内で酸化還元処理を行うことで、所望の酸素濃度の溶湯を作製することができる。炉内での酸化還元処理は、例えば、以下のように行う。原料を溶解した後、空気などの酸素含有ガスを溶湯に吹き込むことで酸化処理を行い、溶湯の酸素濃度(質量割合)を1000〜1500ppm程度にする。酸素濃度が1000ppmよりも小さいと、溶湯に酸素を十分に混合することができず、1500ppmよりも大きいと、溶湯中の添加元素が酸化されて除去され易い。上記酸素濃度の溶湯に除滓を行った後、重油などを用いて還元処理を行い、所望の酸素濃度となるように調整する。また、バッチ炉で作製した溶湯は、保持炉に移送した際、適宜成分の調整を行うことができる。一方、不活性ガス雰囲気で溶解を行うと、溶湯中にスラグ(酸化物)が発生することを抑制できる。
【0020】
ツインベルト法は、対向配置される一対のエンドレスベルトと、両ベルトに挟持される一対のダムブロック連とでつくられる空間を鋳型とする鋳造方法である。
【0021】
本発明銅合金は、導電率が高いことから、上記製造方法により得られた本発明銅荒引線も導電率が高い(100%IACS以上)。また、本発明銅合金は、耐軟化性に優れることから、本発明銅荒引線も耐軟化性に優れる。具体的には、本発明銅荒引線は、スパイラルエロンゲーション値(以下、SE値と呼ぶ)が150以下である。銅荒引線のSE値は、以下のように評価する。
【0022】
<SE値の評価>
1. 銅荒引線(直径φ8mm)を用意し、この銅荒引線に伸線加工を施して直径φ2.6mmの銅線を作製する。得られた銅線を切断して、1400mmの銅線材を作製する。
2. 得られた銅線材に220℃×1hの熱処理を施す。
3. 熱処理後、線材に標点距離1000mmの印をつける。
4. 線材をマンドレル(マンドレル径D×10mm)にコイル状に巻きつける。このとき、コイル部分に上記印が含まれるようにする。Dは、線材の直径である。
5. マンドレルに巻きつけた線材の端部に、(700×π×D×2)/4(g)の錘を落下速度が5cm/sec以下となるように線材に衝撃を与えないようにゆっくり負荷する。
6. 線材に錘を1min負荷した後、除荷し、その30sec後にコイル状の線材の標点距離(mm)を測定する。
この測定値をSE値とする。SE値が小さいほど、耐軟化性に優れ、高強度となる。
【0023】
上記SE値は、銅荒引線から作製した線材を撚り合わせてなる撚線を導体とする電線を吊架した状態を想定した評価値であることから、SE値が小さく、導電率が高い上記銅荒引線は、電線用導体の材料に好適である。また、熱架橋により形成される絶縁被覆を具える電線の導体に求められるSE値は、150以下であると考えられる。従って、本発明銅荒引線は、このような電線用導体の材料に最適である。但し、SE値が50未満であると、耐軟化性は十分であるが、加工性が低下する可能性がある。従って、銅荒引線のSE値は、50以上150以下が好ましく、より好ましくは、50以上100以下である。
【0024】
上記本発明銅合金からなる銅荒引線に伸線加工などの延伸加工を施して線材とし、この線材を用いることで、本発明電線用導体を製造することができる。延伸加工は、断面積の減少を伴う加工、例えば、伸線や圧延が代表的である。その他、延伸加工は、断面積を実質的に変化させること無く被加工材の形状を変化させる加工、例えば、テープ状線材の形成に利用される圧延などがある。このような延伸加工を施してなる線材をそのまま電線用導体としてもよいし、複数の線材を撚り合わせて電線用導体としてもよい。
【0025】
本発明電線用導体は、引張強さが300MPa以上である。このような高強度の導体は、延伸加工の条件(減面率など)を適宜調整して、加工硬化により線材の引張強度を高めることで製造することができる。
【0026】
本発明電線用導体は、300MPa以上と高強度であることに加えて、導電性に優れる本発明銅合金からなることから、伸線加工に伴う導電率の低下が低減され、高い導電率を有する(97%IACS以上)。かつ、本発明電線用導体は、耐軟化性に優れる本発明銅合金からなることから、熱架橋などにより加熱されても、軟化され難い。従って、本発明電線用導体は、このような高強度、高導電率が要求され、熱架橋による絶縁被覆が施されるような電線、例えば、架空被覆配電線の導体に好適に利用することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明銅合金や本発明銅荒引線は、耐軟化性に優れる。そのため、本発明銅合金や本発明銅荒引線を用いて形成された本発明電線用導体は、熱架橋などの加熱により軟化され難く、このような加熱による強度の低下を低減して、強度に優れる。本発明銅荒引線の製造方法は、上記本発明銅合金を利用すると共に、ツインベルト法で連続鋳造することで、圧延時やその後の二次加工時に被加工材に割れが生じ難い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
[銅荒引線の作製]
連続鋳造圧延により銅荒引線を作製し、得られた銅荒引線のSE値を測定した。
<実施例,比較例1>
純銅と添加材とを用意して、バッチ炉で溶解し、表1に示す組成(質量割合ppm)の銅合金の溶湯(100t)を作製した。純銅は、電気銅を用いた。添加材は、Sn,Pb,Fe,Ag,Ni及びZnを含有するスクラップ銅と電気銅とからなる銅合金を用いて作製した。バッチ炉により、電気銅と添加材とを大気雰囲気で溶解した後、得られた溶湯に酸化還元処理を炉内で実施し、酸素の含有量を調整した。酸化還元処理は、材料を溶解した溶湯に空気を吹き込んで酸素濃度(質量割合)を1000ppm程度とした後、除滓してから重油を用いて還元することで行った。
【0029】
得られた溶湯を連続鋳造圧延して、直径φ8mmの銅荒引線を得た(実施例:試料No.1〜9,比較例1:試料No.21〜28)。連続鋳造は、ツインベルト式連続鋳造機を用いて行った。この点は、以下の比較例2,3についても同様である。なお、試料No.28及び比較例2の無酸素銅は、圧延すると割れが生じ易いため、連続鋳造のみ行って銅荒引線を作製した。
【0030】
<比較例2 無酸素銅>
電気銅をバッチ炉で溶解し、表2に示す組成(質量割合ppm)の純銅(無酸素銅に相当)の溶湯を作製し、この溶湯を連続鋳造して、直径φ8mmの銅荒引線を得た(試料No.111〜117)。
<比較例3 タフピッチ銅>
電気銅をバッチ炉で溶解し、表3に示す組成(質量割合ppm)の純銅(タフピッチ銅に相当)の溶湯を作製し、この溶湯を連続鋳造圧延して、直径φ8mmの銅荒引線を得た(試料No.121)。
【0031】
[SE値の評価]
得られた実施例,比較例1〜3の銅荒引線について、以下のようにスパイラルエロンゲーション値(SE値)を評価した。図1は、SE値の測定方法を説明する説明図である。得られた銅荒引線に伸線加工を施して、直径φ2.6mmの銅線を作製し、この銅線を切断して、図1(I)に示すように長さl=1400mmの銅線材100を作製する。この銅線材100に熱処理(220℃×1h)を施した後、線材100に標点距離L0=1000mmの印101をつける。この線材100をマンドレル径:(線材の直径D×10)mmのマンドレル(図示せず)にコイル状に巻きつける。巻きつけは、図1(II)に示すように線材100がつくる各ターンの線材100間に隙間が無いように、即ち、線材100同士が接するように行うと共に、コイル部分に印101が含まれるように行う。次に、巻きつけた線材100の端部に錘200を取り付け、錘200の落下速度が5cm/sec以下となるように、かつ線材100に衝撃を与えないように線材100にゆっくり負荷する。線材100に錘200を1min負荷した後除荷し、その30sec後に図1(III)に示すように線材100の標点距離Lを測定し、この測定値をSE値とする。測定結果を表1〜3に示す。また、実施例,比較例1の導電率を測定した。その結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
【表3】

【0035】
表1〜3に示す結果から、無酸素銅や高純度のタフピッチ銅からなる試料No.111〜117,121と比較して、特定の組成を有する銅合金からなる試料No.1〜9は、SE値が小さく、耐軟化性に優れる。また、試料No.1〜9のうち、Teを含有する試料は、Agなどが少なくてもSE値が小さい。
【0036】
更に、試料No.1〜9は、通常、銅荒引線に望まれる導電率:100%IACS以上を満たすが、Sn,Ag,Ni,Znが多すぎたり、酸素が少な過ぎる試料は、導電率が低い。PbやTeが多過ぎる試料は、圧延時、熱間割れが多発した。Feが多過ぎる試料は、鋳造時に疵が多く発生し、圧延時、この疵に起因すると思われる割れが生じた。また、酸素を多くしたところ(質量割合で1000ppm)、圧延時、割れが多発した。
【0037】
[電線用導体及び電線の作製]
試料No.1〜9の銅荒引線を用いて電線用導体を作製し、この導体に絶縁被覆を施して被覆電線を作製して、電線の導電率と引張強さとを測定した。電線用導体は、試料No.1〜9の銅荒引線(直径φ8mm)に伸線加工を施して、直径φ2.0mmの銅線を作製し、これら銅線を19本撚り合わせて作製した。得られた電線用導体の引張強さを測定したところ、450〜480MPaであった。得られた電線用導体の外周にポリエチレンを押し出して熱架橋し、被覆電線を作製した。得られた被覆電線はいずれも導電率が高く、98%IACSであった。また、得られた被覆電線の引張強さは、400〜440MPaであり、熱架橋後であっても300MPa以上の高強度を維持していた。比較のため、試料No.121の銅荒引線を用いて試料No.1〜9と同様に被覆電線を作製し、熱架橋後の電線用導体の引張強さを測定したところ、290MPaであり、300MPa未満であった。
【0038】
なお、上述した実施例は、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であり、上述した構成に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明銅合金及び本発明銅荒引線は、耐軟化性が要求される電線用導体の材料に好適に利用できる。本発明銅荒引線の製造方法は、耐軟化性が要求される電線用導体のスタート材料となる銅荒引線の製造に好適に利用できる。本発明電線用導体は、絶縁被覆を熱架橋により形成する電線の導体に好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】SE値の測定方法を説明する説明図であり、(I)は、標点距離の印を付した線材、(II)は、コイル状に巻きつけた線材に錘を取り付けた状態、(III)は、除荷後に標点距離を測定する状態を示す。
【符号の説明】
【0041】
100 線材 101 印 200 錘

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量割合で、Sn,Pb,Fe,Ag,Ni及びZnを合計100ppm以上1000ppm以下含有し、更に、酸素を100ppm以上650ppm以下含有し、残部が銅及び不可避的不純物からなり、
前記Sn,Pb,Fe,Ag,Ni及びZnの各元素の含有量は、質量割合で、Sn:0超800ppm以下、Pb:0超30ppm以下、Fe:0超50ppm以下、Ag:0超300ppm以下、Ni:0超100ppm以下、Zn:0超100ppm以下であることを特徴とする銅合金。
【請求項2】
更に、質量割合でTeを5ppm未満含有することを特徴とする請求項1に記載の銅合金。
【請求項3】
連続鋳造圧延により銅荒引線を製造する銅荒引線の製造方法であって、
バッチ炉で原料を溶解し、質量割合で、Sn,Pb,Fe,Ag,Ni及びZnを合計100ppm以上1000ppm以下含有し、更に、酸素を100ppm以上650ppm以下含有し、残部が銅及び不可避的不純物からなる銅合金の溶湯を準備する工程と、
得られた溶湯をツインベルト法で連続鋳造し、続いて連続圧延することで銅荒引線を製造する工程とを具え、
前記Sn,Pb,Fe,Ag,Ni及びZnの各元素の含有量は、質量割合で、Sn:0超800ppm以下、Pb:0超30ppm以下、Fe:0超50ppm以下、Ag:0超300ppm以下、Ni:0超100ppm以下、Zn:0超100ppm以下であることを特徴とする銅荒引線の製造方法。
【請求項4】
質量割合で、Sn,Pb,Fe,Ag,Ni及びZnを合計100ppm以上1000ppm以下含有し、更に、酸素を100ppm以上650ppm以下含有し、残部が銅及び不可避的不純物からなる銅合金から構成され、
前記Sn,Pb,Fe,Ag,Ni及びZnの各元素の含有量は、質量割合で、Sn:0超800ppm以下、Pb:0超30ppm以下、Fe:0超50ppm以下、Ag:0超300ppm以下、Ni:0超100ppm以下、Zn:0超100ppm以下であり、
スパイラルエロンゲーション値が150以下であることを特徴とする銅荒引線。
【請求項5】
質量割合で、Sn,Pb,Fe,Ag,Ni及びZnを合計100ppm以上1000ppm以下含有し、更に、酸素を100ppm以上650ppm以下含有し、残部が銅及び不可避的不純物からなる銅合金から構成され、
前記Sn,Pb,Fe,Ag,Ni及びZnの各元素の含有量は、質量割合で、Sn:0超800ppm以下、Pb:0超30ppm以下、Fe:0超50ppm以下、Ag:0超300ppm以下、Ni:0超100ppm以下、Zn:0超100ppm以下であり、
引張強さが300MPa以上であることを特徴とする電線用導体。

【図1】
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【公開番号】特開2008−202104(P2008−202104A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−40206(P2007−40206)
【出願日】平成19年2月21日(2007.2.21)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】