説明

銅含有経口投与組成物

【課題】本発明は、銅イオンに由来する収斂味を低減し、飲みやすく、しかも不快な後味が残らない銅含有経口投与組成物を提供することに関する。
【解決手段】グルコン酸銅、硫酸銅、クエン酸銅、塩化銅、硝酸銅およびリン酸銅からなる群から選ばれた1種又は2種以上の銅化合物、および4〜20個のグリセリンが重合したポリグリセリンと炭素数8〜20個の脂肪酸を縮合したエステルであって、HLBが12以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有し、pHが2.5〜7.0の内服液剤であることを特徴とする経口投与組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅化合物の不快な味を低減し、服用感を良好にした経口投与組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
銅含有経口投与組成物は銅イオンに由来する不快な味のため飲みにくいものであった。この味は、タンニンやミョウバンなどのタンパクと結合する収斂剤を口にしたときの味(収斂味)と共通のものである。これまで、銅化合物を含有する薬剤や食品の不快な味を改善するため、オレオレジンやアクセント香料を配合する技術が開示されている(特許文献1)。しかしながら、これらでは銅イオンに由来する不快な味を改善する効果は充分でなかった。
【0003】
【特許文献1】特開平01−153622号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、銅イオンに由来する収斂味を低減し、飲みやすく、しかも不快な後味が残らない銅含有経口投与組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、銅化合物にポリグリセリン脂肪酸エステルを配合すると、銅イオンによるタンパクの凝集(収斂性)が低減し、収斂味が改善されることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は、銅化合物およびポリグリセリン脂肪酸エステルを含有することを特徴とする経口投与組成物である。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、銅イオンに由来する収斂味を低減し、飲みやすく、しかも不快な後味が残らない銅含有経口投与組成物を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明における銅化合物とは、銅を含む塩であり、アニオンが無毒性であれば有機イオン又は無機イオンのどちらでもかまわず、有機イオンの例としては、グルコン酸、クエン酸、酒石酸等の有機酸イオンを、また無機イオンの例としては、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、炭酸等のイオンを挙げることができる。配合する銅化合物としては、例えば、グルコン酸銅、硫酸銅、クエン酸銅、塩化銅、硝酸銅、リン酸銅等が挙げられる。これらは、単独で配合してもよく、2種以上を組み合わせて配合してもよい。
【0009】
銅化合物の配合量は、これを配合する銅含有経口投与組成物の使用目的により異なる。栄養摂取量の面からは、銅イオンに換算して、1日当たり0.1〜10mgが好ましく、1日に100mlの内服液剤として摂取する場合、その銅イオン濃度は、0.0001〜0.01W/V%である。
【0010】
本発明におけるポリグリセリン脂肪酸エステルとは、4〜20個のグリセリンが重合したポリグリセリンと炭素数8〜20個の脂肪酸を縮合したエステルであって、HLBが12以上のものである。具体的には、デカグリセリンモノミリスチン酸エステル、ヘキサグリセリンモノミリスチン酸エステル、デカグリセリンモノラウリン酸エステル、ヘキサグリセリンモノラウリン酸エステル、デカグリセリンモノステアリン酸エステル、ヘキサグリセリンモノステアリン酸エステル、デカグリセリンモノカプリル酸エステル、デカグリセリンモノオレイン酸エステル、ヘキサグリセリンモノオレイン酸エステル、デカグリセリンモノリノレン酸エステル等が挙げられ、その中でもデカグリセリンモノミリスチン酸エステル、デカグリセリンモノステアリン酸エステル、デカグリセリンモノラウリン酸エステルが好ましい。
【0011】
本発明の銅含有経口投与組成物において、ポリグリセリン脂肪酸エステルの配合量は、銅化合物を銅イオンに換算したとき、その銅イオン1質量部に対し0.1質量部以上であり、好ましくは0.3〜10000質量部、さらに好ましくは2〜2000質量部である。
【0012】
本発明の銅含有経口投与組成物を内服液剤とする場合には、防腐性および風味等を考慮してそのpHを2.5〜7.0、好ましくは3.0〜5.5とする。この内服液剤のpHは、例えば、クエン酸、リンゴ酸、フマル酸、酒石酸、乳酸、コハク酸などの有機酸、これら有機酸の塩、リン酸、塩酸などの無機酸、水酸化ナトリウムなどの無機塩基を添加して調整することができる。
【0013】
本発明の銅含有経口投与組成物には、ビタミン類、ミネラル類、アミノ酸類、生薬、生薬抽出物、カフェイン、ローヤルゼリーなどを本発明の効果を損なわない範囲で適宜に配合できる。また、必要に応じて界面活性剤、抗酸化剤、着色剤、香料、矯味剤、溶解補助剤、保存剤および甘味料などの添加物を本発明の効果を損なわない範囲で適宜に配合できる。
【0014】
なお、ポリグリセリン脂肪酸エステルは低温保存時、溶解度が低下し、沈澱や浮遊物を生じ易い。そのため、生薬、生薬抽出物などを配合した場合には、ポリグリセリン脂肪酸エステルを単独で内服液剤中に配合することは好ましくない。そこで、ポリグリセリン脂肪酸エステルを配合した内服液剤中に、生薬、生薬抽出物などの有効成分低下防止と安定化のために、ポリオキシエチレン系非イオン性界面活性剤および油成分を配合することが好ましい。
【0015】
上記油成分としては、ビタミンE、ビタミンEの誘導体(例えば酢酸、コハク酸等のエステル)、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンK、γ−オリザノール、大豆油、中鎖脂肪酸トリグリセリド、γ−リノレン酸等のトリグリセリン脂肪酸エステル等を挙げることができる。これらは1種又は2種以上を混合して用いることができる。油成分の配合量は、ポリグリセリン脂肪酸エステル1質量部に対して0.7質量部以下であればその効果を奏することができる。過剰に油成分を配合すると液剤がエマルジョン化し、安定な内服液剤を得ることができない。
【0016】
本発明の銅含有経口投与組成物を調製する方法は特に限定されるものではない。内服液剤とする場合には、通常、各成分を適量の精製水で溶解した後、pHを調整し、残りの精製水を加えて容量調整し、必要に応じて濾過、滅菌処理することにより目的の銅含有経口投与組成物を得ることができる。
【0017】
以下に実施例及び試験例を挙げ、本発明をより詳しく説明する。
【実施例】
【0018】
実施例1
グルコン酸銅 0.004g
グルコン酸亜鉛 0.02g
ポリグリセリン脂肪酸エステル 0.12g
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 0.10g
酢酸トコフェロール 0.10g
硝酸チアミン 0.01g
リン酸リボフラビンナトリウム 0.01g
塩酸ピリドキシン 0.01g
アスコルビン酸 1.00g
アミノエチルスルホン酸 2.00g
キシリトール 4.00g
トレハロース 5.00g
エリスリトール 5.00g
クエン酸 0.80g
クエン酸ナトリウム 適量
安息香酸ナトリウム 0.06g
グリセリン 0.10g
ミックスフルーツフレーバー 0.10g
上記成分を精製水に溶解した後、pHを3.0に調整し、精製水を加えて全量を100mLとした。この液をろ紙でろ過し、滅菌装置を用いて、ろ液を80℃で25分間加熱滅菌した後、ガラス瓶に充填しキャップを施して内服液剤を得た。
【0019】
実施例2
グルコン酸銅 0.007g
グルコン酸亜鉛 0.05g
ポリグリセリン脂肪酸エステル 0.10g
アルギン酸プロピレングリコール 0.05g
酢酸トコフェロール 0.05g
グルコン酸カルシウム 0.80g
硝酸チアミン 0.01g
リボフラビン 0.01g
塩酸ピリドキシン 0.10g
アスコルビン酸 1.00g
アミノエチルスルホン酸 1.00g
ソルビトール 4.00g
トレハロース 5.00g
キシリトール 4.00g
ステビア抽出物 0.03g
アセスルファムカリウム 0.03g
リンゴ酸 0.10g
クエン酸 0.40g
クエン酸ナトリウム 適量
安息香酸 0.06g
パラオキシ安息香酸ブチル 0.006g
パラオキシ安息香酸プロピル 0.006g
グリセリン 0.12g
アップルフレーバー 0.10g
上記成分を精製水に溶解した後、pHを4.0に調整し、精製水を加えて全量を100mLとした。この液をろ紙でろ過し、滅菌装置を用いて、ろ液を80℃で25分間加熱滅菌した後、ガラス瓶に充填しキャップを施して内服液剤を得た。
【0020】
実施例3
グルコン酸銅 0.03g
グルコン酸亜鉛 0.08g
ポリグリセリン脂肪酸エステル 0.20g
ショ糖脂肪酸エステル 0.10g
リボフラビン 0.01g
塩酸ピリドキシン 0.01g
アスコルビン酸 1.00g
シアノコバラミン 120μg
パンテノール 0.01g
ニコチン酸アミド 0.05g
アミノエチルスルホン酸 1.00g
ソルビトール 5.00g
トレハロース 2.00g
マルチトール 2.00g
クエン酸 0.40g
リンゴ酸ナトリウム 適量
安息香酸 0.06g
パラオキシ安息香酸ブチル 0.006g
パラオキシ安息香酸プロピル 0.006g
トリカプリリン 0.05g
グリセリン 0.20g
ミックスフルーツフレーバー 0.10g
上記成分を精製水に溶解した後、pHを4.5に調整し、精製水を加えて全量を100mLとした。この液をろ紙でろ過し、滅菌装置を用いて、ろ液を80℃で25分間加熱滅菌した後、ガラス瓶に充填しキャップを施して内服液剤を得た。
【0021】
実施例4
グルコン酸銅 0.007g
グルコン酸亜鉛 0.05g
ポリグリセリン脂肪酸エステル 0.10g
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 0.07g
酢酸トコフェロール 0.02g
トリカプリリン 0.02g
グルコン酸カルシウム 0.80g
硝酸チアミン 0.01g
リン酸リボフラビンナトリウム 0.01g
塩酸ピリドキシン 0.01g
ニコチン酸アミド 0.10g
無水カフェイン 0.10g
アミノエチルスルホン酸 2.00g
ヨクイニン流エキス 2.00mL
ブドウ糖 5.00g
難消化性デキストリン 4.00g
エリスリトール 5.00g
キシリトール 2.00g
ステビア抽出物 0.02g
アセスルファムカリウム 0.03g
スクラロース 0.05g
クエン酸 0.80g
クエン酸ナトリウム 適量
安息香酸ナトリウム 0.06g
パラオキシ安息香酸ブチル 0.006g
パラオキシ安息香酸プロピル 0.006g
グリセリン 0.12g
ミックスフルーツフレーバー 0.10g
上記成分を精製水に溶解した後、pHを3.5に調整し、精製水を加え全量を100mLとした。この液をろ紙でろ過し、滅菌装置を用いて、ろ液を80℃で25分間加熱滅菌した後、ガラス瓶に充填しキャップを施して内服液剤を得た。
【0022】
実施例5
グルコン酸銅 0.03g
グルコン酸亜鉛 0.08g
ポリグリセリン脂肪酸エステル 0.20g
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 0.10g
トリカプリリン 0.05g
グルコン酸カルシウム 0.40g
乳酸カルシウム 0.50g
硝酸チアミン 0.01g
リン酸リボフラビンナトリウム 0.02g
塩酸ピリドキシン 0.03g
ニコチン酸アミド 0.05g
無水カフェイン 0.10g
アミノエチルスルホン酸 2.00g
ヨクイニン流エキス 2.00mL
ローヤルゼリー 0.60g
ブドウ糖 5.00g
ソルビトール 5.00g
キシリトール 5.00g
ステビア抽出物 0.02g
アセスルファムカリウム 0.03g
クエン酸 0.80g
クエン酸ナトリウム 0.10g
リン酸 0.30g
塩酸 適量
安息香酸ナトリウム 0.06g
パラオキシ安息香酸ブチル 0.006g
パラオキシ安息香酸プロピル 0.006g
グリセリン 0.20g
ミックスフルーツフレーバー 0.10g
上記成分を精製水に溶解した後、pHを3.5に調整し、精製水を加え全量を100mLとした。この液をろ紙でろ過し、滅菌装置を用いて、ろ液を80℃で25分間加熱滅菌した後、ガラス瓶に充填しキャップを施して内服液剤を得た。
【0023】
試験例
Hagermanらは、溶液中のタンパク(ウシ血清アルブミン:BSA)がタンニンにより凝集し、その沈澱量はタンニンの量に比例することを報告した(J.Agric.Food.Chem.,1978,Vol.26,809-812)。本発明者らは、銅イオン溶液にBSA溶液を加えると、この溶液が懸濁し、光の透過量が減少すること、この透過量の減少が、銅イオンの濃度に相関することを見出した。
【0024】
試験方法
(1)BSA溶液の調製:BSA(Sigma Chemical Co.;fraction V,fatty acid free)6gを適量の精製水に溶解し、クエン酸100mgを加え、NaOH溶液(1mol/L)でpHを4.8に調整し、精製水で100mLとした。
【0025】
(2)希釈液の調製:クエン酸100mgを適量の水に溶解し、NaOH溶液(1mol/L)でpHを4.8に調整し、精製水で100mLとした。
【0026】
(3)銅イオン溶液の調製:グルコン酸銅0.02g、0.11g及び0.18gにクエン酸0.10gを加えた。それぞれを適量の精製水に溶解し、NaOH溶液(1mol/L)でpHを4.8に調整し、精製水で100mLとした。
【0027】
(4)タンパク−銅イオン相互作用(収斂性)の評価
各銅イオン溶液2mLにBSA溶液6mLを加え、希釈液でそれぞれ全量を10mLとした。これを40℃で30分間振とうした。石英セル(L=1cm)を使用し、分光光度計(日立製作所製:U−3300)により、各透明溶液では吸収されない波長である500nmにおける吸光度を測定した。この結果(図1)は、銅イオン濃度と吸光度が相関することを示す。
【0028】
次に、各種濃度の銅イオン溶液の収斂味を官能評価したときの結果が、当該銅イオン溶液にBSA溶液を加えたときの吸光度と相関していることを確認した。官能評価は、収斂味が強く許容できない場合をB、許容することができる範囲をその収斂味の強さに応じてA4〜A1とし、収斂味を全く感じない場合をAとして行った。
【0029】
結果を図2に示した。吸光度が約0.3以下であれば、収斂味が充分抑えられていると感じることができた。このことから、ある物質を添加した銅イオン溶液をBSA溶液に混合したときの吸光度が無添加の場合と比較して減少したならば、その物質の添加により、タンパク−銅イオン相互作用による凝集(収斂性)が減少したこと、すなわち収斂味が減少したことを意味することになる。
【0030】
(5)検体のタンパク凝集性
上記(1)〜(4)に記載した方法により、表1に示す処方のタンパク凝集性を評価した。結果を併せて表1に示した。
【0031】
【表1】

【0032】
表1から、ポリグリセリン脂肪酸エステルを配合した検体1および検体2の吸光度は対応する検体3より小さいことが分かる。この結果から、ポリグリセリン脂肪酸エステルの配合により、銅イオンに由来するタンパク凝集性、すなわち収斂味が低減できることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】タンパク凝集と銅イオン濃度の相関性を示す。
【図2】銅イオン溶液にBSA溶液を加えたときに生じる懸濁(タンパク凝集)と銅イオン溶液を官能評価した結果の相関性を示す。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の銅含有経口投与組成物は、例えば、シロップ剤、ドリンク剤などの医薬品や医薬部外品を含む各種製剤及び栄養機能食品などの各種飲料に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅化合物およびポリグリセリン脂肪酸エステルを含有することを特徴とする経口投与組成物。
【請求項2】
銅化合物が、グルコン酸銅、硫酸銅、クエン酸銅、塩化銅、硝酸銅およびリン酸銅からなる群から選ばれる1種又は2種以上の銅化合物である請求項1に記載の経口投与組成物。
【請求項3】
ポリグリセリン脂肪酸エステルが、4〜20個のグリセリンが重合したポリグリセリンと炭素数8〜20個の脂肪酸を縮合したエステルであって、HLBが12以上である請求項1又は2に記載の経口投与組成物。
【請求項4】
pHが2.5〜7.0の内服液剤である請求項1〜3のいずれかに記載の経口投与組成物。
【請求項5】
ポリグリセリン脂肪酸エステルを配合することを特徴とする銅化合物含有経口投与組成物の不快な味の低減方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−169180(P2006−169180A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−365548(P2004−365548)
【出願日】平成16年12月17日(2004.12.17)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】