説明

鋳片の欠陥予測検知方法、鋳片の製造方法、鋳片の欠陥発生予測検知装置、該鋳片の欠陥発生予測検知装置を備えた連続鋳造設備

【課題】連続鋳造する鋳片にアルミナ性の欠陥が発生していることを予測検知することができる鋳片の欠陥発生予測検知方法及び装置、該装置を用いた連続鋳造鋳片の製造方法、該装置を備えた連続鋳造設備を提供する。
【解決手段】本発明の鋳片の欠陥発生予測検知方法は、鋳型内の溶鋼レベルを検知して溶鋼注入速度を変化させると共に、タンディッシュ3の底部に設けられた上ノズル5からアルゴンガス等の不活性ガスを溶鋼中に吹込みながら連続鋳造する鋳片に、アルミナ性の欠陥が発生していることを予測検知する鋳片の欠陥発生予測検知方法であって、前記不活性ガスの背圧の上下動の変化量を検知し、該変化量が予め定めた範囲以上の場合が所定時間内に所定回数以上あるか否かによって前記背圧の変化が前記溶鋼注入速度の変動に追従しているか否かを判定して欠陥の発生を予測検知することを特徴とするものであり、またその装置、該方法を用いた連続鋳造鋳片の製造方法、該装置を備えた連続鋳造設備である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造設備において上ノズルからアルゴンガス等の不活性ガスを溶鋼中に吹込みながら連続鋳造を行う場合において、鋳片に加工後の鋼材のアルミナ性欠陥の原因となる欠陥(以下、単にアルミナ性の欠陥と称する。)が発生していることを予測検知する鋳片の欠陥予測検知方法、該鋳片の欠陥予測検知方法を用いた連続鋳造鋳片の製造方法、鋳片の欠陥発生予測検知装置、及び該鋳片の欠陥発生予測検知装置を備えた連続鋳造設備に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、連続鋳造による鋳片の製造方法においては、溶鋼処理の過程で発生するAl23等の非金属介在物が浸漬ノズル、スライディングノズル等の吐出口あるいは内孔等に析出して、ノズル閉塞を引き起こすために、アルゴンガス等の不活性ガスを上ノズル等から溶鋼中に吹き込んで吐出口あるいは内孔面をガスで被覆し、あるいはガスの上昇流による浮上効果により非金属介在物等を除去する対策が取られている。
【0003】
このようなものとして、例えば特許文献1に記載の鋳片鋳造におけるアルゴンガス吹込制御方法の発明がある。
特許文献1では、浸漬ノズルに吹き込むアルゴンガス流量を鋳造中に一定の時間毎に単位設定量だけ増加させ、鋳型内の湯面状況を観察して湯面変動或いは沸き立ち現象が発生するまで繰り返して増加させ、湯面変動或いは沸き立ち現象が発生したならば、単位設定量だけ減少させて吹き込み量を決定する方法を提案している。
【0004】
また、他の例として、特許文献2のアルミキルド鋼の連続鋳造方法の発明がある。
特許文献2のアルミキルド鋼の連続鋳造方法は、浸漬ノズルへ吹き込む不活性ガスの背圧または流量を鋳造中に増減させながら、該浸漬ノズルを介して溶鋼を鋳型内に注入することを特徴とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−238547号公報
【特許文献2】特開2007−237246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2に記載の方法は、いずれもアルゴンガスの吹き込み制御に主眼が置かれている。
しかしながら、アルゴンガスの吹き込み制御が予定した制御に基づいて行われていたとしても、種々の原因で欠陥品が発生することも考えられる。
ところが、従来においては、どのような場合に欠陥品が発生するかを正確に知る技術がないのが現状である。このため、事前に欠陥の発生を認識することができないため、鋳片の表面手入れをすることができず、下工程において製品の格落ちを防止することができない状況であった。特に冷延鋼板などで圧延あるいは絞りなどの加工度の高い鋼材では、微小なアルミナ介在物の集積に起因する筋状の表面疵に代表されるアルミナ性欠陥が、加工後に高頻度で顕在化する場合があり、鋳片に潜在するアルミナ性の欠陥に対する対策が求められていた。
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、連続鋳造する鋳片にアルミナ性の欠陥が発生していることを予測検知することができる鋳片の欠陥予測検知方法、該鋳片の欠陥予測検知方法を用いたアルミナ性の欠陥の少ない連続鋳造鋳片の製造方法、鋳片の欠陥発生予測検知装置、及び該装置を備えた連続鋳造設備を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者は、鋳片を圧延する前にアルミナ性の欠陥の発生を事前に検知できれば、その欠陥発生が検知された該当鋳片に手入れを行うことで当該部位に起因する製品の格落ちを防止することができると考えた。
そこで、発明者は、アルミナ性の欠陥の発生を予測するために、アルミナ性の欠陥が発生した場合に鋳造装置側になんらなかの異変が発生していないかどうかを調査した。
【0009】
予測対象とする欠陥が、アルミナ性のものであり、かつ、非常に小さな粒径ということにかんがみると、溶鋼中に浮遊するアルミナが鋳型内で浮上しきれずに鋳片表層にトラップされることによって発生するものと推定される。
そこで、このような欠陥が発生する場合の鋳造装置側の異変として、(1)浸漬ノズル詰まりという異変、(2)上ノズルの不活性ガス背圧の異変、(3)鋳造速度の異変、という3つの異変を候補として挙げて検討した。これらの3つの異変を候補に挙げた理由は以下の通りである。
【0010】
(1)浸漬ノズル詰まりという異変
浸漬ノズルに詰まりが発生するというのは、浸漬ノズル内にアルミナが堆積するからである。堆積したアルミナが落下して、それが鋳型内で浮上しきれずにトラップされる。
浸漬ノズル詰まりが発生しているかどうかを判定するには、鋳造末期にスライディングノズルの開度が大きくなっていないかどうかで分かる。なぜなら、浸漬ノズルが詰まると溶鋼の供給量が少なくなるために、湯面レベルを維持するようスライディングノズルの開度が自動的に大きくなるように、制御装置によって制御しているからである。
【0011】
(2)上ノズルの不活性ガス背圧の異変
上ノズルからの不活性ガスの供給が適切に行われていない場合には、ガスの上昇流による浮上効果によりアルミナの除去等が正常に機能せずに、アルミナ性の欠陥が生ずると考えられる。
上記のような状況の発生は、上ノズルの不活性ガス背圧がスライディングノズルの開度すなわち鋳型内への溶鋼注入速度に追従して変化しているかどうかで分かる。なぜなら、スライディングノズルの開度を変化させると、上ノズル内の溶鋼流速が変化し、それによって上ノズル内の溶鋼流によるガスの吸引圧力も変化するため、不活性ガス背圧も変化するからである。逆に言えば、溶鋼注入速度の変化に追従して、不活性ガス背圧が変化しない場合には、上ノズルからの不活性ガス供給が適切に行われていないことになる。
上ノズルの不活性ガス背圧が溶鋼注入速度変化に追従して変化しているか否かの判定は、以下のように行った。
湯面レベルを一定に保持するため、スライディングノズルの開度は制御装置によって0.1秒程度のピッチで自動調節されている。そのため、上ノズルの不活性ガス背圧は常時上下動することになる。上ノズルの不活性ガス背圧は、他にタンディッシュ内の溶鋼静圧や上ノズル耐火物内での流通ガスの圧力損失の影響も受けるが、不活性ガス流量を一定あるいは急激に変化しない条件とすれば、これらによる背圧変化は非常に緩慢であることから、溶鋼注入速度変化に追従した前記背圧変化とは区別できる。そこで、3分間というあらかじめ設定した時間内において、2〜20秒周期のランダムな背圧の上下動及びパルス状あるいはステップ状の背圧変化のうち、その背圧変化量が0.0005MPa以上のものが15回以上発生した場合を「追従あり」と定義した。
(3)鋳造速度の異変
鋳造速度の異変を候補に考えたのは、何らかの原因により鋳造速度が遅い場合には浸漬ノズルからの溶鋼の吐出流速が低下して、凝固シェルにトラップされた介在物の洗浄効果が低下すると共に、溶鋼流れに不活性ガス気泡が乗らないために気泡による介在物浮上効果も低下するからである。
発明者の経験からすると、鋳造速度が1.0mpm以下では欠陥の発生率が高いという傾向があった。
【0012】
上記の3つの異変と、実際の欠陥発生との関係をまとめたものが表1である。
【0013】
【表1】

【0014】
表1によると、「(2)上ノズル不活性ガス背圧」の反応があった場合には欠陥が発生していないが、前記反応がない場合には他の指標の有無にかかわらず欠陥が発生している。
このことから、「(2)上ノズル不活性ガス背圧」の反応の有無を欠陥発生の指標とすることで、正確な欠陥発生の有無を予測できることが分かる。
本発明はかかる知見に基づいてなされたものである。
【0015】
(1)本発明に係る鋳片の欠陥発生予測検知方法は、鋳型内の溶鋼レベルを検知して溶鋼注入速度を変化させると共にタンディッシュの底部に設けられた上ノズルから不活性ガスを溶鋼中に吹込みながら連続鋳造して鋳片を得るに際し、前記鋳片に、加工後の鋼材のアルミナ性欠陥の原因となる介在物が存在することを予測検知する鋳片の欠陥発生予測検知方法であって、
前記不活性ガスの背圧の上下動の変化量を検知し、該変化量が予め定めた範囲以上の場合が所定時間内に所定回数以上あるか否かによって前記背圧の変化が前記溶鋼注入速度の変動に追従しているか否かを判定して、前記追従がない期間に鋳型内で表層が凝固した鋳片の部位に、加工後の鋼材のアルミナ性欠陥の原因となる介在物が存在することを予測検知することを特徴とするものである。
【0016】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記不活性ガスの背圧の変化量が0.0005MPa以上の場合が3分間に15回以上ある場合に前記追従があると判定することを特徴とするものである。
(3)また本発明に係る鋳片の製造方法は、上記(1)又は(2)に記載の鋳片の欠陥発生予測検知方法を用いて、鋳片に加工後の鋼材のアルミナ性欠陥の原因となる介在物の存在を予測した部位が存在するか否かを判定し、前記判定の結果に基づいて該鋳片を加工する鉄鋼製品の用途及び/又は仕様を決定することを特徴とするものである。
(4)また本発明に係る鋳片の製造方法は、上記(1)又は(2)に記載の鋳片の欠陥発生予測検知方法を用いて、加工後の鋼材のアルミナ性欠陥の原因となる介在物の存在を予測した部位を含まないことを判定した鋳片を、表面手入れしないで熱間圧延用素材とすることを特徴とするものである。
(5)また本発明に係る鋳片の製造方法は、上記(1)又は(2)に記載の鋳片の欠陥発生予測検知方法を用いて、加工後の鋼材のアルミナ性欠陥の原因となる介在物の存在を予測した部位を含む鋳片の、少なくとも前記欠陥の原因となる介在物の存在を予測した部位を含む範囲を、溶削または研削により表面手入れすることを特徴とすることを特徴とするものである。
【0017】
(6)本発明に係る鋳片の欠陥発生予測検知装置は、鋳型内の溶鋼レベルを検知して溶鋼注入速度を変化させると共にタンディッシュの底部に設けられた上ノズルからアルゴンガス等の不活性ガスを溶鋼中に吹込みながら連続鋳造してなる鋳片に、加工後の鋼材のアルミナ性欠陥の原因となる介在物が存在することを予測検知する鋳片の欠陥発生予測検知装置であって、
前記不活性ガスの背圧の上下動の変化量を検知する背圧変化量検知手段と、該背圧変化量検知手段の検知情報を入力して、前記変化量が予め定めた範囲以上の場合が所定時間内に所定回数以上あるか否かによって前記背圧の変化が前記溶鋼注入速度の変動に追従しているか否かを判定して、前記追従がない場合に加工後の鋼材のアルミナ性欠陥の原因となる介在物が生成することを予測検知する欠陥発生予測検知手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0018】
(7)また、上記(6)に記載のものにおいて、前記欠陥発生予測検知手段は、前記変化量が0.0005MPa以上の場合が3分間に15回以上ある場合に前記追従があると判定することを特徴とするものである。
【0019】
(8)また、上記(6)又は(7)に記載のものにおいて、前記欠陥発生予測検知手段によって加工後の鋼材のアルミナ性欠陥の原因となる介在物が生成することが予測されたときに、前記欠陥の原因となる介在物が存在すると予測される鋳片の位置を検知する欠陥発生位置検知手段を備えたことを特徴とするものである。
【0020】
(9)本発明に係る連続鋳造設備は、上記(6)乃至(8)のいずれかに記載の鋳片の欠陥発生予測検知装置を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、不活性ガスの背圧の上下動の変化量を検知し、該変化量が予め定めた範囲以上の場合が所定時間内に所定回数以上あるか否かによって前記背圧の変化が溶鋼注入速度の変動に追従しているか否かを判定して、前記追従がない場合に欠陥の発生を予測検知するようにしたことにより、連続鋳造される鋳片にアルミナ性の欠陥が存在していることを精度よく予測検知することができる。それ故、欠陥発生が予測される部位の手入れが可能になり、製品の格落ちを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施の形態に係る鋳片の欠陥発生予測検知装置の説明図である。
【図2】図1の一部を拡大して示す拡大図である。
【図3】図2の一部を拡大して示す拡大図である。
【図4】連続鋳造の定常状態におけるスライディングノズルの開度の変化状態を説明するグラフである。
【図5】上ノズルの不活性ガス背圧変化の例を示すグラフである。
【図6】本発明の実施の形態の効果を確認する実施例の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
まず、本実施の形態に係る欠陥発生予測検知装置1を設置する連続鋳造設備7について説明する。
【0024】
<連続鋳造設備>
連続鋳造設備7は、鋳型16と、鋳型16の上方に設置されたタンディッシュ3と、タンディッシュ3に溶鋼を供給する取鍋17とを備えている(図1参照)。
タンディッシュ3は、図2に示すように、外殻を鉄皮19で覆われ、鉄皮19の内側に耐火物21が貼り付けられている。タンディッシュ3の底部には、耐火物21に嵌合するようにして上ノズル5が設置されている(図2参照)。
タンディッシュ3内の溶鋼量は、取鍋17からの溶鋼注入速度を図示しない流量調節ノズルにより調節して、取鍋交換時前後を除いて一定の目標値となるように調節される。
上ノズル5の下方にはアクチュエータ23によって動作するスライディングノズル25が設置され、さらに、スライディングノズル25の下方には浸漬ノズル27が設置されている。
【0025】
上ノズル5は、図3に示すように、上部吹込部5a、下部吹込部5b、及び上部吹込部5aと下部吹込部5bとの中間に位置する本体部5cの3つの部分で構成されており、これら3つの部分の外周部は鉄皮5eで覆われている。上部吹込部5a及び下部吹込部5bは、不活性ガスを吹込む部分であり、高アルミナ質のポーラス煉瓦で形成され、本体部5cは、比較的緻密な高アルミナ質で形成されている。図3の例ではポーラス煉瓦が2段に分かれている場合を示したが、ポーラス煉瓦は1段としても良く、さらに多数に分割しても良い。
【0026】
上部吹込部5aにはアルゴンガス等の不活性ガスを導入するガス導入管29aが設置され、また、下部吹込部5bにも、不活性ガスを導入するためのガス導入管29bが設置されている。ガス導入管29aから供給される不活性ガスは上部吹込部5aを介して溶鋼に吹き込まれ、一方、ガス導入管29bから供給される不活性ガスは下部吹込部5bを介して溶鋼に吹き込まれる。不活性ガスとしては、目標とする溶鋼成分により窒素ガスがアルゴンガスと併用して吹き込まれる場合もある。
ガス導入管29a、29bはそれぞれ独立したガス供給装置に接続しており、不活性ガスの供給速度が鋳造条件に応じた所定の値にそれぞれ独立して制御されるようになっている。ガス供給速度の制御は、質量流量を自動調節するようにしても良いし、通常はガスの元圧は安定しているので、流量調節弁28(図1参照)の開度を一定とするようにしても良い。
すなわち本実施様態では、上部吹込部5a、下部吹込部5b、ガス導入管29(後述)、29a、29b、流量調節弁28、ガス供給装置(図示せず)等により、不活性ガス吹き込み手段が形成される。
【0027】
鋳型内への溶鋼注入速度は、スライディングノズル25をアクチュエータ23によって動作させることによって0.1秒ピッチで調節される。
アクチュエータ23は、鋳型16に設置された渦流式あるいはγ線方式等の湯面レベルセンサ30を用いて検知する湯面レベル計31の湯面レベル検出値に基づいて、スライディングノズル25の開度を変化させることにより、湯面レベルを基準値に調整するように鋳型内への溶鋼注入速度を調節する。
鋳型内への溶鋼注入速度は、時間平均値では、鋳片厚み、鋳片幅及び引き抜き速度(鋳造速度)の積と吊り合うように調節されることになる。
すなわち本実施様態では、湯面レベルセンサ30、湯面レベル計31などにより溶鋼レベル検知手段が構成される。また、スライディングノズル25、アクチュエータ23などにより、溶鋼注入速度変化手段が構成される。
なおスライディングノズル25の開度の制御値は0.1〜1秒程度のピッチで自動調節することが好適であるが、これに限定はされない。
スライディングノズル25の開度の変化の一例が図4に示されている。図4において、縦軸がスライディングノズル開度(%)であり、横軸が時間(秒)を示している。スライディングノズル25の開度は、通常、定常状態においては、図4に示されるように不規則的な変化をすることになり、溶鋼注入速度も不規則的に変化する。それ故に、背圧変化が溶鋼注入速度の変化に追従しているか否かは、背圧の上下動の変化量が予め定めた範囲以上の場合が所定時間内に所定回数以上あるか否かによって判定することができる。
【0028】
図1に示すように、ガス導入管29には圧力検知器33が設けられて、圧力検知器33の圧力検知信号が後述する欠陥発生予測検知装置1に入力される。
なお、図1におけるガス導入管29は、図3におけるガス導入管29a、29bの両方を総称している。また、圧力検出器33は、ガス導入管29a、29bのそれぞれに個別に設置された圧力検出器33a、33b(図示なし)を総称している。
【0029】
鋳片は、図1に示すように、ピンチロール35によって引き抜かれる。このピンチロール35の回転数が後述する欠陥発生予測検知装置1に入力され、ピンチロール35の回転数によって鋳造速度および鋳造長が検知される。
【0030】
上記のような連続鋳造設備7に設置される鋳片の欠陥発生予測検知装置1は、不活性ガスの背圧の変化量を検知する背圧変化量検知手段11と、背圧変化量検知手段11の検知値を入力して、背圧の変動が鋳型内への溶鋼注入速度の変動に追従しているか否かに基づいて欠陥の発生を予測検知する欠陥発生予測検知手段13と、欠陥発生予測検知手段13によって欠陥の発生が予測検知されたときに欠陥が発生していると予測される鋳片の部位を特定する欠陥発生位置検知手段15とを備えている。
以下、詳細に説明する。
【0031】
<欠陥発生予測検知装置>
欠陥発生予測検知装置1は、上述のように、背圧変化量検知手段11と、欠陥発生予測検知手段13と、欠陥発生位置検知手段15とを備えている。
これらの各手段は、CPUが所定のプログラムを実行することで実現される。各手段の機能は以下の通りである。
【0032】
<背圧変化量検知手段>
背圧変化量検知手段11は圧力検出器33の検出値を入力して、上下に変動する背圧の変化量を検知する。プロセスコンピュータによる自動判定を実施する場合には、圧力検出値を所定の単位時間間隔毎に所定の圧力分解能でデジタル化し、順次演算して背圧変化量を算出し、欠陥発生予測検知手段13に出力する。時間分解能および圧力分解能は記憶装置の容量や演算処理装置の能力の許す範囲で適宜選択できるが、圧力分解能は0.001MPa以上、時間分解能は1秒以上であることが望ましい。背圧変化量の算出方法としては、直前値との比較による方法や所定時間範囲の平均値との比較による方法の他、これらの方法にその他の演算ロジックを組合わせる方法などが適宜選択できる。
【0033】
<欠陥発生予測検知手段>
欠陥発生予測検知手段13は、背圧変化量検知手段11によって検知された背圧変化量を入力して、背圧変化がスライディングノズル25の開度の変化すなわち溶鋼注入速度の変化に追従しているか否かを判定し、追従していない場合にはアルミナ性の欠陥が発生していると予測検知する。
背圧変化が溶鋼注入速度の変化に追従しているか否かの判定は、背圧変化量が予め定めた範囲以上の場合が所定時間内に所定回数以上あるか否かによって行う。すなわち、背圧変化量が予め定めた範囲以上の場合が所定時間内に所定回数以上ある場合には、追従ありと判定し、そうでない場合は追従なしと判定する。
なお、本実施の形態では、背圧変化量における予め定めた範囲は0.0005MPa、所定時間
は3分、また所定回数は15回とした。これらの値は、欠陥発生予測検知手段13の内部(記憶部)に、参照・変更可能に記憶しておくことが好ましい。
図5は、背圧の時間変化を示すグラフであり、縦軸が上ノズル不活性ガス背圧(kPa)を示し、横軸が時間(秒)を示している。
図5(a)は正常な上ノズル背圧変動を示しており、上記判定条件の下で、図4に例示したスライディングノズル開度変化による溶鋼注入速度の変化に追従していると判定される場合である。他方、図5(b)は異常な上ノズル背圧変動を示しており、上記判定条件の下で、溶鋼注入速度の変化に追従していないと判定される場合である。
もっとも、背圧変化量における予め定めた範囲、所定時間及び所定回数は設備の仕様や操業条件等によって適宜変更することができる。
【0034】
<欠陥発生位置検知手段>
欠陥発生予測検知手段13によって欠陥の発生が予測検知された期間に鋳型内で表層が凝固した部位には、アルミナ性の欠陥が生成すると予測される。したがって、欠陥発生位置検知手段15は、欠陥発生予測検知手段13によって欠陥の発生が予測検知された後に、ピンチロール35の回転数に基づいて、欠陥の発生が予測検知される切断後の鋳片あるいはその部位を特定する。
【0035】
上記のように構成された鋳片の欠陥発生予測検知装置1の動作を説明する。
取鍋17からタンディッシュ3に溶鋼が供給され、タンディッシュ3内の溶鋼がスライディングノズル25を介して浸漬ノズル27から鋳型に供給される。
鋳型内の溶鋼の湯面レベルが湯面レベル計31によって検知され、その検知信号に基づいて湯面レベルを所定の位置に保持するようにアクチュエータ23が制御されてスライディングノズル25の開度すなわち鋳型内への溶鋼注入速度が調節される。
【0036】
ガス導入管29に導入されているアルゴンガス等の不活性ガスが、上ノズル5を介して溶鋼に吹き込まれる。
不活性ガスの背圧は欠陥発生予測検知装置1に入力され、背圧変化量検知手段11が背圧の変化量を検知する。
【0037】
操業中、欠陥発生予測検知手段13は、背圧変化量検知手段11によって検知された背圧変化量を入力して、背圧の変化量が鋳型内への溶鋼注入速度変化に追従しているか否かを判定し、追従していない場合にはアルミナ性の欠陥が発生していると予測検知する。
欠陥発生予測検知手段13によって欠陥発生が予測検知されると、欠陥発生位置検知手段15は、鋳型内で表層が凝固した部位に欠陥が予測されることを記録し、ピンチロール35の回転数に基づいて、欠陥の発生が予測検知される切断後の鋳片あるいはその部位を特定する。
【0038】
欠陥の発生が予測検知された鋳片の部位或いは該鋳片の長片面全長は、スカーフィングや研削によって表層2mm程度を除去する表面手入れを行う。ここで除去する厚みは用途等に応じて適宜設定できる。表面手入れされた鋳片は、冷延鋼板などの、圧延あるいは絞りなどの加工度が高いためにアルミナ性欠陥が顕在化しやすい用途にも、問題なく適用することができる。また欠陥の発生が予測検知された部位を含む鋳片を、アルミナ性欠陥が顕在化しないような鋼材の加工度が低い一般熱延鋼板などの他の用途及び/又は仕様に転用するようにしても良い。この場合は、表面手入れは省略できる。
【0039】
以上のように、本実施の形態によれば、アルミナ性の欠陥の発生を精度よく予測検知することができ、欠陥発生が予測される部位をスカーフィング等すること及び/又はアルミナ性欠陥が顕在化しにくい他の用途や仕様に転用することで、鋳片を圧延して得られる製品段階での格落ちを防止することができる。
【実施例】
【0040】
図6は本実施の形態の欠陥発生予測検知装置1によって欠陥発生を予測し、欠陥発生が予測された場合にスカーフィング処理を行った場合と、そのような処理を行わない場合との欠陥発生率の比較を示すグラフである。欠陥発生の予測は、上記の実施の形態で説明したように、3分間の区間内の背圧変化のうち変化量が0.0005MPa以上のものが15回以上ある場合には正常と判断し、それ以外の場合には異常と判定して、異常部を含む鋳片は全長スカーフィングを行うという対応を実施した。
【0041】
図6の図中左側の縦軸は0.2mm厚の冷延鋼板ラインでの処理量(千t)を示し、図中右側の縦軸は製品としての該冷延鋼板の欠陥発生率(重量%)を示している。
図6に示すように、対策前においては、7,900tonに対して2.85%の欠陥発生であったものが、対策後においては、2000tonに対して欠陥発生率は0.00%となった。
このことから、本実施の形態における鋳片に対する欠陥発生の予測検知が正確に行われていることが実証された。
【符号の説明】
【0042】
1 欠陥発生予測検知装置
3 タンディッシュ
5 上ノズル
5a 上部吹込部
5b 下部吹込部
5c 本体部
5e 鉄板
7 連続鋳造設備
11 背圧変化量検知手段
13 欠陥発生予測検知手段
15 欠陥発生位置検知手段
16 鋳型
17 取鍋
19 鉄皮
21 耐火物
23 アクチュエータ
25 スライディングノズル
27 浸漬ノズル
28 流量調節弁
29 ガス導入管
30 湯面レベルセンサ
31 湯面レベル計
33 圧力検知器
35 ピンチロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳型内の溶鋼レベルを検知して溶鋼注入速度を変化させると共にタンディッシュの底部に設けられた上ノズルから不活性ガスを溶鋼中に吹込みながら連続鋳造して鋳片を得るに際し、前記鋳片に、加工後の鋼材のアルミナ性欠陥の原因となる介在物が存在することを予測検知する鋳片の欠陥発生予測検知方法であって、
前記不活性ガスの背圧の上下動の変化量を検知し、該変化量が予め定めた範囲以上の場合が所定時間内に所定回数以上あるか否かによって前記背圧の変化が前記溶鋼注入速度の変動に追従しているか否かを判定して、前記追従がない期間に鋳型内で表層が凝固した鋳片の部位に、加工後の鋼材のアルミナ性欠陥の原因となる介在物が存在することを予測検知することを特徴とする鋳片の欠陥発生予測検知方法。
【請求項2】
前記不活性ガスの背圧の変化量が0.0005MPa以上の場合が3分間に15回以上ある場合に
前記追従があると判定することを特徴とする請求項1記載の鋳片の欠陥発生予測検知方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の鋳片の欠陥発生予測検知方法を用いて、鋳片に加工後の鋼材のアルミナ性欠陥の原因となる介在物の存在を予測した部位が存在するか否かを判定し、前記判定の結果に基づいて該鋳片を加工する鉄鋼製品の用途及び/又は仕様を決定することを特徴とする鋳片の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の鋳片の欠陥発生予測検知方法を用いて、加工後の鋼材のアルミナ性欠陥の原因となる介在物の存在を予測した部位を含まないことを判定した鋳片を、表面手入れしないで熱間圧延用素材とすることを特徴とする鋳片の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の鋳片の欠陥発生予測検知方法を用いて、加工後の鋼材のアルミナ性欠陥の原因となる介在物の存在を予測した部位を含む鋳片の、少なくとも前記欠陥の原因となる介在物の存在を予測した部位を含む範囲を、溶削または研削により表面手入れすることを特徴とする鋳片の製造方法。
【請求項6】
鋳型内の溶鋼レベルを検知して溶鋼注入速度を変化させると共にタンディッシュの底部に設けられた上ノズルから不活性ガスを溶鋼中に吹込みながら連続鋳造してなる鋳片に、加工後の鋼材のアルミナ性欠陥の原因となる介在物が存在することを予測検知する鋳片の欠陥発生予測検知装置であって、
前記不活性ガスの背圧の上下動の変化量を検知する背圧変化量検知手段と、該背圧変化量検知手段の検知情報を入力して、前記変化量が予め定めた範囲以上の場合が所定時間内に所定回数以上あるか否かによって前記背圧の変化が前記溶鋼注入速度の変動に追従しているか否かを判定して、前記追従がない場合に加工後の鋼材のアルミナ性欠陥の原因となる介在物が生成することを予測検知する欠陥発生予測検知手段とを備えたことを特徴とする鋳片の欠陥発生予測検知装置。
【請求項7】
前記欠陥発生予測検知手段は、前記変化量が0.0005MPa以上の場合が3分間に15回以上ある場合に前記追従があると判定することを特徴とする請求項6記載の鋳片の欠陥発生予測検知装置。
【請求項8】
前記欠陥発生予測検知手段によって加工後の鋼材のアルミナ性欠陥の原因となる介在物が生成することが予測されたときに、前記欠陥の原因となる介在物が存在すると予測される鋳片の位置を検知する欠陥発生位置検知手段を備えたことを特徴とする請求項6又は7に記載の鋳片の欠陥発生予測検知装置。
【請求項9】
請求項6乃至8のいずれか一項に記載の鋳片の欠陥発生予測検知装置を備えたことを特徴とする連続鋳造設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−148336(P2012−148336A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252907(P2011−252907)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】