説明

鋼の連続鋳造方法

【課題】連続鋳造される鋳片に含まれるArガス気泡や介在物を減少させ、鋳片の品質を向上させる鋼の鋳造方法を提供する。
【解決手段】浸漬ノズル3から下記式を満たす吐出角度θで溶鋼4を吐出し、電磁攪拌装置10によって鋳型2内のメニスカスに旋回流11を形成し、電磁ブレーキ装置によって浸漬ノズル3の吐出された溶鋼4に0.1テスラ以上の磁束密度の直流磁界を作用させた鋼の鋳造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁攪拌装置によって鋳型内の上部の溶鋼を攪拌し、かつ、電磁ブレーキ装置によって浸漬ノズルから吐出された溶鋼に直流磁界を作用させて溶鋼を鋳造する鋼の連続鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造プロセスでは、鋳造された鋳片の品質向上を目的として、例えば鋳型内に吐出された溶鋼に直流磁場を印加することが行われている。この直流磁場中での溶鋼の吐出流の周囲には、主流とは逆向きの対向流が発生することが知られている(非特許文献1)。
【0003】
例えば通常の溶鋼の連続鋳造においては、図7に示すように、溶鋼100を鋳型101内に吐出する浸漬ノズル102が使用される。浸漬ノズル102の側面の下端近傍には、下向きの吐出孔103が2箇所に形成されている。そしてこの浸漬ノズル102の吐出孔103から吐出された溶鋼100の吐出流104に対して、例えば電磁ブレーキ装置によって直流磁場を印加した場合、この吐出流104の周囲に逆向きの対向流105が発生する。そして、吐出流104に含まれる不活性ガスの気泡、例えばArガス(アルゴンガス)気泡106や、アルミナやスラグ系の非金属介在物107は、この対向流105によって、鋳型101内の溶鋼100に深く侵入し難くなる。その結果、溶鋼100が鋳造された鋳片の内部において、Arガス気泡106や介在物107の個数を減少させることができる。また、例えば直流磁場の強度を増加させると、対向流105の流速が大きくなるので、Arガス気泡106や介在物107がさらに侵入し難くなり、鋳片の内部のArガス気泡106や介在物107の個数をさらに減少させることができる。
【0004】
また、Arガス気泡106や介在物107は、対向流105が浸漬ノズル102に沿って上昇する上昇流108に乗って、浸漬ノズル102の周辺に集中してメニスカス109まで浮上する。そしてメニスカス109において、浮上したArガス気泡106や介在物107が除去される。
【0005】
しかしながら、上昇流108は、メニスカス109近傍で浸漬ノズル102から鋳型101の側面に向かって水平に拡散する。この拡散流110によって、メニスカス109まで浮上したArガス気泡106や介在物107は、鋳型101の側面に向かって流れる。そして、Arガス気泡106や介在物107の一部はメニスカス109で除去されず、鋳型101の側面に形成された凝固シェルに捕捉されてしまう。その結果、溶鋼100が鋳造された鋳片表層のArガス気泡106や介在物107の個数が増加する。さらに、例えば直流磁場の強度を増加させると、凝固シェルに捕捉されるArガス気泡106や介在物107の個数がさらに増加する。
【0006】
そこで、このようにArガス気泡106や介在物107が鋳型101の側面の凝固シェルに捕捉されてしまうことを防止するために、例えば直流磁場の磁束密度を制限して、鋳片表層のArガス気泡106や介在物107の個数を最小にする方法が提案されている(非特許文献2)。また、鋳型101の上部のメニスカス109近傍で溶鋼100を電磁攪拌することにより、図8に示すように、メニスカス109近傍の溶鋼100に旋回流111を形成し、Arガス気泡106や介在物107の凝固シェルでの捕捉を減少させる方法が提案されている(特許文献1)。
【0007】
【非特許文献1】岡澤健介ら著 「電磁制動技術を利用した連続鋳型内の溶鋼噴流挙動」 鉄と鋼 Vol.84 (1998) No.7
【非特許文献2】H.Yamamura et al. “Optimum magnetic flux density in quality control of casts with levelDC magnetic field in continuous casting mold” ISIJ Int. Vol.41, No.10 (2001), pp. 1229-1235
【特許文献1】特開2000−271710号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献2に記載された直流磁場の磁束密度を制限する方法は、鋳片表層のArガス気泡106や介在物107の個数を減少させることはできるが、直流磁場の強度が弱いため、鋳片内部のArガス気泡106や介在物107の個数を減少させることはできなかった。
【0009】
また、特許文献1に記載された電磁攪拌を併用する方法は、直流磁場の強度を強くすることができるので、鋳片内部のArガス気泡106や介在物107の個数を減少させることができるが、単純に電磁攪拌を行っただけでは、鋳片表層のArガス気泡106や介在物107の個数を減少させることはできなかった。この原因について発明者らが調べたところ、図8に示すように、メニスカス109近傍において、電磁攪拌による旋回流111と、対向流105が上昇して形成する拡散流110とが干渉し、流れの停滞域112を形成することがあることが分かった。そしてこの流れの停滞域112において、Arガス気泡106や介在物107が捕捉されていることが分かった。
【0010】
このように従来の連続鋳造方法によると、Arガス気泡106や介在物107が鋳片の表層や内部に残存していたため、鋳片の強度の低下や、鋳片の表面疵の原因となり、鋳片の品質に改善の余地があった。
【0011】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、連続鋳造される鋳片に含まれるArガス気泡や介在物を減少させ、鋳片の品質を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の目的を達成するため、本発明は、鋳型内の上部の溶鋼を攪拌する電磁攪拌装置と、その下方に鋳型の幅方向に一様な磁束密度分布を有する直流磁界を鋳型の厚み方向に付与できる電磁ブレーキ装置とを備えた連続鋳造用鋳型を用いて、前記鋳型内の溶鋼に浸漬し、下部には当該鋳型に斜め下向きの吐出溶鋼流を形成するための吐出孔が設けられた浸漬ノズル内にArガスを吹き込みながら、前記電磁攪拌装置によって、前記鋳型内の上部の溶鋼を攪拌して前記鋳型の水平断面内で溶鋼の旋回流を形成し、かつ、前記電磁ブレーキ装置によって、前記浸漬ノズルの下部に形成された吐出孔から吐出された溶鋼に0.1テスラ以上の磁束密度の直流磁界を作用させて溶鋼を鋳造する鋼の連続鋳造方法において、前記浸漬ノズルから吐出される溶鋼は、下記式(2)を満たすように吐出されることを特徴としている。
【0013】
【数2】

【0014】
但し、h:メニスカスから浸漬ノズルの吐出孔中心までの距離(m)、h:メニスカスから電磁ブレーキ装置中心高さまでの距離(m)、W:鋳型の幅(m)、D:浸漬ノズルの外径(m)、θ:浸漬ノズルの幾何学的溶鋼吐出角度(度)、C:定数、B:電磁攪拌装置が鋳型内に形成する磁束密度の最大値(T)、B:電磁ブレーキ装置が鋳型内に形成する磁束密度の最大値(T)、ρ:溶鋼密度(kg/m)、A:浸漬ノズルの吐出孔断面積の総和(m)、Q:溶鋼の質量流量(kg/秒)
【0015】
なお、前記式(2)における定数Cは、一般には鋳造品種によって決まるものであるが、この定数Cの意味は、鋳型内の上部のメニスカス近傍における溶鋼の流速が、溶鋼中に含まれるArガス気泡や介在物が凝固シェルへ捕捉されるのを抑制する規定値以上であることを示すものである。すなわち、電磁攪拌装置によって形成される鋳型の上部のメニスカス近傍の溶鋼の旋回流と、電磁ブレーキ装置によって形成されるメニスカス近傍での拡散流とが干渉する箇所における旋回流と拡散流の流速差が規定値以上になるように、定数Cは決定される。そして、例えば鋳造された鋳片が表面疵に関して厳格な基準を有する薄板の場合には、一般に0.1m/秒以上の流速が必要とされ、本発明においては0.1m/秒を規定値としている。このメニスカス近傍の溶鋼の流速を0.1m/秒以上とした根拠は次の通りである。例えば文献 CAMP-ISIJ Vol.8(1995)-344(沢田郁夫ら著)を参照すると、溶鋼の流速を上げると、凝固シェルと溶鋼の界面近傍の速度勾配が上がり、Ar気泡や介在物が受ける揚力(凝固シェルからの離反力)が増大することが示されている。この溶鋼の流速の増加に伴い、一般には捕捉されるArガス気泡や介在物の粒子の臨界粒径が急激に減少し、理論捕捉臨界粒径は50〜100μm径程度の値に漸近していく。特に0〜0.1m/秒間の臨界粒径の減少は大きく、本発明におけるメニスカス近傍の溶鋼の臨界流速の規定値として0.1m/秒を採用する。
【0016】
定数Cの具体的な決定方法は、先ず、電磁攪拌装置が鋳型内に形成する磁束密度が最大値Bで、電磁ブレーキ装置が鋳型内に形成する磁束密度が最大値Bとした条件の下、浸漬ノズルの溶鋼吐出角度θを変更して溶鋼を鋳造する。そして、鋳造された鋳片の鋳造方向に対して垂直な横断面(C断面と一般に呼称する)を凝固組織であるデンドライトを現出するように腐食し、その傾き角度を測定する。例えば文献 移動磁界中を成長するデンドライトの偏向現象、鉄と鋼Vol.86 No.4(2000),pp45-49(江阪久雄、藤 健彦、原田 寛、竹内栄一、藤崎敬介著)を参照すると、デンドライトは溶鋼流動の上流側に傾き、その角度と溶鋼流速の間には一定の関係があることが示されている。この関係式を使用し、測定した鋳片表層における傾き角度から、最低の傾き角度になっている部分の計算流速が前記の基準値0.1m/秒以上であることを確認する。このように定数Cは、溶鋼の最低流速が0.1m/秒となる臨界値として決定される。
【0017】
発明者らが調べたところ、浸漬ノズルの溶鋼吐出角度θが大きい場合には、吐出流と逆向きの対向流の鉛直成分が大きくなり、浸漬ノズルの外壁に沿ってメニスカスまで速い流れが上昇し、電磁攪拌装置によって形成される鋳型の上部の溶鋼の旋回流と干渉することが分かった。そして、この干渉している箇所において流れが停滞し、浸漬ノズルから吐出される吐出流に含まれるArガス気泡や介在物が鋳型の側面に捕捉され、鋳片に残存することが分かった。したがって、浸漬ノズルの溶鋼吐出角度θに制限を加えることで、吐出流と逆向きの対向流の大きさを制御する必要があることを見出した。そこで、発明者らがさらに調べたところ、浸漬ノズルの溶鋼吐出角度θが前記式(2)の左辺とsinθとの関係式を満たせば、電磁ブレーキ装置によって形成される対向流の鉛直成分を十分に確保して、Arガス気泡や介在物が溶鋼の内部に侵入するのを抑制できることが分かった。これによって、Arガス気泡や介在物が鋳片内部に残存するのを抑制することができる。また、浸漬ノズルの溶鋼吐出角度θが前記式(2)の左辺とsinθとの関係式を満たせば、鋳型上部のメニスカス近傍において、電磁攪拌装置によって形成される旋回流の流速が、電磁ブレーキ装置によって形成される拡散流の流速以上となるように、旋回流を適切に流すことができ、Arガス気泡や介在物が鋳型の側面の凝固シェルに捕捉されるのを抑制できることが分かった。これによって、Arガス気泡や介在物が鋳片内の表層に残存するのを抑制することができる。このように、鋳片の表層と内部の両方に残存するArガス気泡や介在物の個数を減少させることができるので、鋳片の品質を向上させることができる。
【0018】
前記浸漬ノズルから吐出される溶鋼が前記式(2)を満たすようにするために、当該浸漬ノズルの溶鋼吐出角度θを調整するのが好ましい。
【0019】
前記浸漬ノズルから吐出される溶鋼が前記式(2)を満たすようにするために、前記メニスカスから浸漬ノズルの吐出孔中心までの距離hを調整してもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、連続鋳造される鋳片の表層と内部の両方に含まれるArガス気泡や介在物を減少させることができるので、鋳片の品質を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の好ましい実施の形態について説明する。図1は、本実施の形態にかかる鋼の連続鋳造方法を実施するための連続鋳造装置1の鋳型近傍の構成を示す平面図であり、図2は、連続鋳造装置1の鋳型近傍の構成を示す縦断面図である。
【0022】
連続鋳造装置1は、図1に示すように例えば水平断面が長方形の鋳型2を有している。鋳型2内の上部には、図2に示すように浸漬ノズル3が設けられ、浸漬ノズル3はその下部が鋳型2内の溶鋼4に浸漬している。浸漬ノズル3の側面の下端近傍には、鋳型2内へ斜め下向きに溶鋼4を吐出する吐出孔5が2箇所形成されている。吐出孔5、5は、鋳型2の短辺2a側に形成されている。吐出孔5から吐出される吐出流6には、浸漬ノズル3内を洗浄するために吹き込まれるArガスの気泡7や、アルミナやスラグ系の介在物8が含まれている。
【0023】
鋳型2の長辺2b側のメニスカス9近傍には、図1及び図2に示すように例えば電磁攪拌コイルなどの一対の電磁攪拌装置10、10が設けられている。この電磁攪拌装置10の電磁攪拌により、図1に示すように鋳型2内のメニスカス9近傍の溶鋼4を水平面内で旋回させて、旋回流11を形成することができる。
【0024】
浸漬ノズル3の吐出孔5の下方には、図2に示すように例えば電磁石などの電磁ブレーキ装置12が設けられている。電磁ブレーキ装置12は、図3に示すように鋳型2の長辺2bの外側に設けられている。電磁ブレーキ装置12は、図3及び図4に示すように、吐出孔5から吐出した直後の溶鋼4の吐出流6に対して、0.1テスラ以上の磁束密度で、鋳型2の幅方向(長辺2b方向)にほぼ一様な磁束密度分布を有する直流磁界13を鋳型2の厚み方向(短辺2a方向)に付与することができる。この直流磁界13と吐出孔5から吐出した溶鋼4の吐出流6によって、図4に示すように、鋳型2の幅方向(長辺2b方向)に誘導電流14が発生し、この誘導電流14と直流磁界13によって、吐出流6の近傍に吐出流6と逆向きの対向流15が形成される。対向流15は吐出流6の吐出角度とほぼ同じ角度で浸漬ノズル3に衝突して上下流に分岐し、この上下流のうち、上昇流16は浸漬ノズル3に沿ってメニスカス9まで上昇する。そして上昇流16はメニスカス9近傍で水平方向に拡散し、この拡散流17は鋳型2の短辺2a方向に拡散する。
【0025】
鋳型2の内側面には、図2に示すように溶鋼4が冷却されて凝固した凝固シェル18が形成されている。
【0026】
以上の浸漬ノズル3、電磁攪拌装置10、電磁ブレーキ装置12は、浸漬ノズル3から吐出される溶鋼4の吐出流6が前記式(2)を満たす角度で吐出される位置に設置する必要がある(図5参照)。
【0027】
前記式(2)の左辺とsinθとの関係式は、電磁ブレーキ装置12によって形成される対向流15の鉛直成分の大きさを十分に確保するため、すなわち電磁ブレーキ装置12によって形成される吐出流6を制動するために必要な吐出流6の吐出角度θの最小角度の条件式を示している。具体的には、吐出流6が鋳型2の短辺2aと衝突する位置が電磁ブレーキ装置12の中心位置と等しいか、あるいはそれより深くなるように、吐出流6の吐出角度θが決定される。これにより、電磁ブレーキ装置12によって形成される対向流15の鉛直成分が十分に確保されて吐出流6が制動され、吐出流6に含まれるArガス気泡7や介在物8が溶鋼4の内部に侵入するのを抑制することができる。
【0028】
前記式(2)の右辺とsinθとの関係式は、電磁攪拌装置10によって形成されるメニスカス9近傍の溶鋼4の旋回流11の流速が、電磁ブレーキ装置12によって形成される拡散流17の流速以上となるために必要な吐出流6の吐出角度θの最大角度の条件式を示している。
【0029】
浸漬ノズル3の吐出孔5から吐出される吐出流6の流速Vは、下記式(3)に示すように溶鋼4の質量流量Qを浸漬ノズル3の吐出孔5の断面積の総和Aと溶鋼4の密度ρで除した値で算出される。
【0030】
【数3】

【0031】
吐出流6の対向流15の流速Vは、電磁ブレーキ装置12の電磁力の相似パラメータである磁束密度で決定され、下記式(4)に示すように吐出流6の流速Vの平方根と電磁ブレーキ装置12が鋳型2内に形成する磁束密度の最大値Bの積に比例する。
【0032】
【数4】

【0033】
対向流15が浸漬ノズル3に衝突して分岐した上昇流16の流速Vは、下記式(5)に示すように対向流15の流速Vのほぼ(1+sinθ)/2の割合で分配される。
【0034】
【数5】

【0035】
上昇流16がメニスカス9近傍で水平方向に拡散する拡散流17のVは、下記式(6)に示すように上昇流16の流速Vに比例する。
【0036】
【数6】

【0037】
上記式(3)〜(6)を統合すると、下記式(7)に示す比例関係が成立し、定数Cを設定することにより下記式(8)の等式が成立する。
【0038】
【数7】

【0039】
【数8】

【0040】
一方、図6に示す電磁攪拌装置10の電磁攪拌により鋳型2内のメニスカス9近傍の溶鋼4に形成される旋回流11の流速Vは、下記式(9)に示すように電磁攪拌装置10の電磁力femの平方根に比例することから、電磁攪拌装置10が鋳型2内に形成する磁束密度の最大値Bに比例する。この式(9)に定数Cを設定することにより、下記式(10)の等式が成立する。
【0041】
【数9】

【0042】
【数10】

【0043】
鋳型2内のメニスカス9に浮上したArガス気泡7や介在物8が、鋳型2の側面に捕捉されないためには、旋回流11が適切に流れている必要がある。具体的には、図6に示すように旋回流11が停滞しないように、旋回流11と拡散流17が逆向きに干渉する箇所19において、旋回流11の流速Vが拡散流17の流速V以上である必要がある。したがって、前記式(8)と式(10)から下記式(11)が成立し、定数Cを設定することにより、前記式(2)の右辺とsinθとの関係式と同一の下記式(12)が成立する。
【0044】
【数11】

【0045】
【数12】

【0046】
前記式(12)における定数Cは、電磁攪拌装置10によって形成されるメニスカス9近傍の溶鋼4の旋回流11の流速Vと、電磁ブレーキ装置12によって形成される拡散流17の流速Vとの流速差(V−V)が0.1m/秒以上となるように決定される。具体的には、先ず、電磁攪拌装置10が鋳型2内に形成する磁束密度が最大値Bで、電磁ブレーキ装置12が鋳型2内に形成する磁束密度が最大値Bとした条件の下、浸漬ノズル3の溶鋼4の吐出角度θを変更して溶鋼を鋳造する。鋳造された鋳片の鋳造方向に対して垂直な横断面を凝固組織であるデンドライトを現出するように腐食し、その傾き角度を測定する。そして、デンドライトの傾き角度と溶鋼の流速の関係式を使用し、測定した鋳片表層における傾き角度から、最低の傾き角度になっている部分の計算流速が前記の基準値0.1m/秒以上であることを確認する。このように定数Cは、溶鋼の流速差(V−V)が0.1m/秒となる臨界値として決定される。
【0047】
本実施の形態にかかる連続鋳造装置1は以上のように構成されており、次にこの連続鋳造装置1を用いた溶鋼4の連続鋳造方法について説明する。
【0048】
先ず、浸漬ノズル3から吐出される溶鋼4が前記式(2)を満たすように、浸漬ノズル3の吐出角度θが調整される。そして、浸漬ノズル3内にArガスを吹き込みながら、浸漬ノズル3の吐出孔5から鋳型2内に溶鋼4を吐出する。溶鋼4は吐出角度θで斜め下方に溶鋼4を吐出され、吐出孔5から鋳型2の短辺2aに向かって吐出流6が形成される。吐出流6にはArガス気泡7や介在物8が含まれており、これらのArガス気泡7や介在物8は、鋳型2内の溶鋼4中に浮遊する。
【0049】
浸漬ノズル3から溶鋼4を吐出すると同時に、電磁ブレーキ装置12を作動させる。この電磁ブレーキ装置12によって、吐出流6と逆向きの対向流15が形成され、対向流15が浸漬ノズル3に衝突して、メニスカス9への上昇流16が形成される。そして、溶鋼4中に浮遊しているArガス気泡7や介在物8が、上昇流16に乗ってメニスカス9近傍まで浮上する。
【0050】
上述の電磁ブレーキ装置12の作動と同時に、電磁攪拌装置10も作動させる。この電磁攪拌装置10の電磁攪拌により、鋳型2内のメニスカス9近傍の溶鋼4に旋回流11が形成される。この旋回流11の流速Vは、拡散流17の流速V以上であるため、旋回流11が停滞することはない。そして上昇流16に乗ってメニスカス9近傍まで浮上したArガス気泡7や介在物8は、旋回流11によって旋回し、鋳型2の側面の凝固シェル18に捕捉されることなく、例えば溶融酸化物を有する連続鋳造パウダー(図示せず)に取り込まれて除去される。
【0051】
このようにArガス気泡7や介在物8が除去された溶鋼4は、固化して鋳片に鋳造される。
【0052】
以上の実施の形態によれば、浸漬ノズル3の溶鋼4吐出角度θが前記式(2)の左辺とsinθとの関係式を満たしているので、電磁ブレーキ装置12によって形成される対向流15の鉛直成分の大きさを十分に確保することができる。これによって、浸漬ノズル3から吐出される溶鋼4の吐出流6に含まれるArガス気泡7や介在物8が溶鋼4の内部に侵入するのを抑制することができる。したがって、Arガス気泡7や介在物8が鋳片内部に残存するのを抑制することができる。
【0053】
また、浸漬ノズル3の溶鋼4吐出角度θが前記式(2)の右辺とsinθとの関係式を満たすように設定されるので、電磁攪拌装置10によって形成されるメニスカス9近傍の溶鋼4の旋回流11の流速が、電磁ブレーキ装置12によって形成される拡散流17の流速以上となるように、旋回流11を適切に流すことができる。これによって、浸漬ノズル3から吐出される溶鋼4の吐出流6に含まれるArガス気泡7や介在物8が鋳型2の側面の凝固シェル18に捕捉されるのを抑制することができ、メニスカス9近傍でArガス気泡7や介在物8を除去することができる。したがって、Arガス気泡7や介在物8が鋳片表層に残存するのを抑制することができる。
【0054】
このように連続鋳造される鋳片の表層と内部の両方に残存するArガス気泡7や介在物8の個数を減少させることができるので、鋳片の品質を向上させることができる。
【0055】
以上の実施の形態では、浸漬ノズル3から吐出される溶鋼4が前記式(2)を満たすために、浸漬ノズル3の吐出角度θが調整されていたが、メニスカス9から浸漬ノズル3の吐出孔5の中心までの距離hを調整することで前記式(2)を満たすようにしてもよい。これによって、例えば鋳型2の幅Wが変更された場合に、浸漬ノズル3自体を交換する必要がなく、浸漬ノズル3の深さを変更することで前記式(2)を満たすように溶鋼4を吐出することができる。
【実施例1】
【0056】
以下、本発明の鋼の連続鋳造方法を用いた場合に、溶鋼に含まれるAr気泡と介在物を除去する効果について説明する。本実施例を行うに際し、鋼の連続鋳造を行う装置として、先に図1及び図2に示した連続鋳造装置1を用いた。
【0057】
連続鋳造装置1の鋳型2には、幅Wが1200mm、1600mmの2種類、高さが900mm、厚みが250mmの鋳型を用いた。鋳型2の下方には、長さが2.5mの垂直部(図示せず)と曲げ半径が7.5mの曲げ部(図示せず)が上からこの順で設けられている。電磁攪拌装置10は、高さが150mmであり、その上端がメニスカス9と同一の位置となる位置に設けられている。電磁攪拌装置10の最大磁束密度Bは0.06Tである。電磁ブレーキ装置12は、その中心位置hがメニスカス9から500mm深さとなる位置に設けられている。電磁ブレーキ装置12の最大磁束密度Bは0.4Tである。溶鋼4には低炭アルミキルド鋼を用い、溶鋼4の体積流量Q/ρとしては、鋳型2の幅Wが1200mmの場合、6.5×10−3/秒(2.2×10−2m/秒)と9.0×10−3/秒(3.0×10−2m/秒)の2通りの条件で鋼の鋳造を行い、鋳型2の幅Wが1600mmの場合、7.3×10−3/秒(1.8×10−2m/秒)と1.1×10−2/秒(2.7×10−2m/秒)の2通りの条件で鋼の鋳造を行った。浸漬ノズル3には、外径Dが150mmで、内径が90mmのノズルを用いた。浸漬ノズル3は、その吐出孔5の中心位置hがメニスカス9から300mm深さとなる位置に設けられている。浸漬ノズル3には円形の吐出孔5が鋳型2の短辺2a側に2箇所に形成され、吐出孔5の断面積の総和Aは10053mm(直径80mm)である。吐出孔5の吐出角度θとしては、水平面から下向きに15度、20度、25度、30度、35度、40度、45度の7通りの条件で鋼の鋳造を行った。なお、鋳型2の幅Wが1200mmで体積流量Q/ρが6.5×10−3/秒(2.2×10−2m/秒)の場合には、45度でも前記式(2)の制約条件の上限以下となるために、吐出角度θが50度、55度及び60度まで実施し、幅Wが1600mmで体積流量Q/ρが7.3×10−3/秒(1.8×10−2m/秒)の場合には、吐出角度θが50度まで実施した。
【0058】
以上の連続鋳造装置1を用いて鋼を鋳造し、鋳造された鋳片の表層と内部に含まれる100μm以上の径のAr気泡7と介在物8を計測した。鋳片の内部は、表面から10mmの深さまで計測した。なお、本実施例において、定数Cは10としている。
【0059】
鋳型2の幅Wが1200mmの場合のAr気泡7と介在物8の計測結果を表1に、幅Wが1600mmの場合のAr気泡7と介在物8の計測結果を表2に示す。Ar気泡7と介在物8の計測結果は、各々の幅Wと体積流量Q/ρの条件で品質が最もよかった鋳片中のAr気泡7と介在物8の個数を基準値(1.0)として、この基準値に対するAr気泡7と介在物8の個数の比を品質指数として表示している。また、表1及び表2中には、浸漬ノズル3からの溶鋼4の吐出角度θが前記式(2)を満たしているかどうかの評価についても示し、式(2)を満たしていれば“○”が、式(2)を満たしていなければ“×”が示されている。
【0060】
表1及び表2を参照すると、浸漬ノズル3の吐出角度θが前記式(2)の下限と上限の両方を満たしている場合、品質指数は1.0〜1.2と低い値となり、鋳片に含まれるAr気泡7と介在物8の個数が少なく、鋳片の品質が一定に保たれていることが分かった。一方、吐出角度θが前記式(2)の下限又は上限のいずれか一方でも満たしていない場合、品質指数は1.6以上の比較的高い値を示し、品質が悪化していることが分かった。以上のことから、本発明の鋳造方法によって溶鋼を鋳造すると、Ar気泡7と介在物8を適切に除去できることが分かった。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に相到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、電磁攪拌装置によって鋳型内の上部の溶鋼を攪拌し、かつ、電磁ブレーキ装置によって浸漬ノズルから吐出された溶鋼に直流磁界を作用させて溶鋼を鋳造する鋼の連続鋳造方法に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本実施の形態にかかる鋼の連続鋳造方法を実施するための連続鋳造装置の鋳型近傍の構成を示す平面図である。
【図2】本実施の形態にかかる鋼の連続鋳造方法を実施するための連続鋳造装置の鋳型近傍の構成を示す縦断面図である。
【図3】電磁ブレーキ装置を作動させた場合の直流磁場を示した説明図である。
【図4】電磁ブレーキ装置を作動させた場合の直流磁場、誘導電流、対向流の流れを示した説明図である。
【図5】本実施の形態にかかる鋼の連続鋳造方法を実施した場合の溶鋼の流れを示した説明図である。
【図6】本実施の形態にかかる鋼の連続鋳造方法を実施した場合の溶鋼の流れを示した説明図である。
【図7】従来の連続鋳造装置の鋳型近傍の構成を示す平面図である。
【図8】従来の連続鋳造装置の鋳型近傍の構成を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0066】
1 連続鋳造装置
2 鋳型
2a 鋳型の短辺
2b 鋳型の長辺
3 浸漬ノズル
4 溶鋼
5 吐出孔
6 吐出流
7 Arガス気泡
8 介在物
9 メニスカス
10 電磁攪拌装置
11 旋回流
12 電磁ブレーキ装置
13 直流磁界
14 誘導電流
15 対向流
16 上昇流
17 拡散流
18 凝固シェル
19 旋回流と拡散流が干渉する箇所

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳型内の上部の溶鋼を攪拌する電磁攪拌装置と、その下方に鋳型の幅方向に一様な磁束密度分布を有する直流磁界を鋳型の厚み方向に付与できる電磁ブレーキ装置とを備えた連続鋳造用鋳型を用いて、前記鋳型内の溶鋼に浸漬し、下部には当該鋳型内に斜め下向きの吐出溶鋼流を形成するための吐出孔が設けられた浸漬ノズル内にArガスを吹き込みながら、前記電磁攪拌装置によって、前記鋳型内の上部の溶鋼を攪拌して前記鋳型の水平断面内で溶鋼の旋回流を形成し、かつ、前記電磁ブレーキ装置によって、前記浸漬ノズルの下部に形成された吐出孔から吐出された溶鋼に0.1テスラ以上の磁束密度の直流磁界を作用させて溶鋼を鋳造する鋼の連続鋳造方法において、
前記浸漬ノズルから吐出される溶鋼は、下記式(1)を満たすように吐出されることを特徴とする、鋼の連続鋳造方法。
【数1】

但し、h:メニスカスから浸漬ノズルの吐出孔中心までの距離(m)、h:メニスカスから電磁ブレーキ装置中心高さまでの距離(m)、W:鋳型の幅(m)、D:浸漬ノズルの外径(m)、θ:浸漬ノズルの幾何学的溶鋼吐出角度(度)、C:定数、B:電磁攪拌装置が鋳型内に形成する磁束密度の最大値(T)、B:電磁ブレーキ装置が鋳型内に形成する磁束密度の最大値(T)、ρ:溶鋼密度(kg/m)、A:浸漬ノズルの吐出孔断面積の総和(m)、Q:溶鋼の質量流量(kg/秒)
【請求項2】
前記浸漬ノズルの溶鋼吐出角度θを調整することによって、当該浸漬ノズルから吐出される溶鋼が前記式(1)を満たすように吐出されることを特徴とする、請求項1に記載の鋼の連続鋳造方法。
【請求項3】
前記メニスカスから浸漬ノズルの吐出孔中心までの距離hを調整することによって、当該浸漬ノズルから吐出される溶鋼が前記式(1)を満たすように吐出されることを特徴とする、請求項1に記載の鋼の連続鋳造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2009−66618(P2009−66618A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−237606(P2007−237606)
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】