説明

鋼の連続鋳造用モールドフラックス及び該モールドフラックスを使用した連続鋳造方法

【課題】鋳型内での凝固を安定に促進して、高速鋳造を安定化することができる鋼の連続鋳造用モールドフラックスを提供する。
【解決手段】本発明に係る鋼の連続鋳造用モールドフラックスは、鋳型表面材に対する溶融フラックスの1140℃における濡れ角θ(°)が、フラックスの結晶化温度Tcs(℃)の関数として、次式で与えられることを特徴とするものである。
0.12(Tcs−800)≦θ≦70

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼の連続鋳造用モールドフラックス及び該モールドフラックスを使用した連続鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図5は鋼の縦型連続鋳造機の鋳型内の一部断面の説明図であり、鋳型内の溶鋼にモールドフラックス(湯面(表面)被覆剤又はモールドパウダとも称する)を添加した状態を示している。溶鋼1の上方には溶融フラックス3、そのさらに上方には未溶融フラックス5がある。そして、鋳型7との境界面には、鋳型7に近い方から順に、固相フラックス膜9、溶融フラックス膜11があり、そのさらに内側には凝固シェル13が形成されている。
【0003】
モールドフラックスは、主として、(1)鋳型内の溶鋼表面の被覆保温及び酸化防止、(2)溶鋼中より浮上する非金属介在物の吸収及び溶鋼の清浄化、(3)鋳型と初期凝固シェル間の潤滑性保持、(4)凝固シェル抜熱のコントロールと均一化の目的で、添加される。
【0004】
近年では、生産性の向上のため、鋳造速度がより高速化傾向にあり、このため、溶鋼の鋳型内滞留時間が短くなるので、鋳型出口での鋼の凝固シェル厚みも薄肉化傾向にある。そのため、モールドフラックスによる凝固シェル抜熱のコントロールによって鋳型内凝固を促進することが求められる。
しかしながら、従来、鋳型内での潤滑の安定化技術に関する方法の提案は多いが、鋳型内凝固を促進する方法は、モールドフラックスの凝固温度の低下や、溶融モールドフラックスの凝固後にガラス化傾向する成分系にする方法程度で、その方法は少なかった(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−247712号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来例においては、鋼の凝固に与えるモールドフラックスの影響として、フラックスの結晶化温度、ガラス化度(結晶化度合い)、結晶の種類等、複数の要因を考慮する必要がある。このように複数の要因を考慮するという方法では、必ずしも、実機で予想通りの結果が得られるとは限らない。そのため、高速鋳造時において結晶化温度を低く設計して、抜熱能力を強化したフラックス設計にした場合であっても、実際に使用すると鋳型抜熱量が増加せず、鋳型内凝固を十分に促進することができない場合もあった。
また、逆に抜熱量が予想以上に高すぎて、凝固の不均一を却って助長してしまうという問題もあった。
【0006】
本発明は、前記従来の問題点を解消するべくなされたもので、鋳型内での凝固を安定に促進して、高速鋳造を安定化することができる鋼の連続鋳造用モールドフラックスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、溶融したモールドフラックスの鋳型表面材に対する濡れ角θ(以下、単に「濡れ角θ」、「モールドフラックスの濡れ角θ」という場合あり)と、モールドフラックスを介した鋼の凝固特性の関係を鋭意研究し、その結果、鋼の鋳型内凝固速度が、フラックスの結晶化温度Tcs以外に濡れ角θにも大きく影響されることを見出した。
そして、発明者等は、上記の知見を前提として、極低炭素鋼スラブを高速にて鋳造し、モールドフラックスの濡れ角θと結晶化温度Tcsの関係におけるブレークアウト(BO)発生の関係を鋭意調査し、濡れ角θと結晶化温度Tcsの関係においてブレークアウト(BO)発生の有無が明確に整理できることを見出し、鋼の初期凝固が速く、且つ、均一・安定化するモールドフラックスの物性条件を発見して、本発明に至った。
【0008】
(1)本発明に係る鋼の連続鋳造用モールドフラックスは、鋳型表面材に対する溶融フラックスの1140℃における濡れ角θ(°)が、フラックスの結晶化温度Tcs(℃)の関数として、次式で与えられることを特徴とするものである。
0.12(Tcs−800)≦θ≦70
【0009】
ここで濡れ角θとは、1430℃で60分保持した溶融フラックスを、銅板上に凝固させ、100メッシュアンダー粉末とした0.5gを、10φ×3mmのタブレット状に圧縮力1トンで圧縮整形したものを、図1に示す如く、Co85%Ni15%めっきしたSUS304基板上にセットし、横型管状炉内でArガスを導入しながら昇温速度5〜10℃/分で加熱途中の1140℃における溶融フラックスをビデオ撮影し、その接触角θとして定義される。
【0010】
(2)本発明に係る連続鋳造方法は、上記(1)に記載した連続鋳造用モールドフラックスを用いることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、鋳片冷却の均一化を図れると共に、鋳型内での凝固を安定的に促進して、高速の連続鋳造を安定化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
前述のように、発明者らは、溶融したモールドフラックスの鋳型表面材に対する濡れ角θと、モールドフラックスを介した鋼の凝固特性の関係を鋭意研究し、その結果、鋼の鋳型内凝固速度が、モールドフラックスの濡れ角θとモールドフラックスの結晶化温度Tfcsに大きく影響されることを発見した。
【0013】
図2は、濡れ角θと鋼の凝固特性の関係を模式的に示すグラフであり、横軸が濡れ角θを示し、縦軸が上段から順に、伝熱抵抗(上段)、シェル不均一度(中段)、シェル厚(下段)を示している。
以下においては、図2を参照しながら、溶融したモールドフラックスの鋳型表面材に対する濡れ角θと、モールドフラックスを介した鋼の凝固特性について説明する。
なお、図2中に示した、Rは凝固シェル・鋳型間での総括熱抵抗、λfはフラックスの熱伝導率、Rintはフラックスと鋳型間の界面熱抵抗、dfはフラックス全厚みである。
【0014】
溶融したモールドフラックスが鋳型に対して濡れやすい(濡れ角が小さい)場合、溶融したモールドフラックスと鋳型との接触面積が増大(界面熱抵抗Rintが減少)し、接触直後の鋳型への伝熱が促進される。このため、溶融したモールドフラックスの凝固が速く進行し、鋳型〜凝固シェル間のフラックス厚みdfが厚く成長する結果、伝熱抵抗が増大する(上段の図参照)。
よって、その後に凝固する溶鋼は、一層均一に凝固シェルが成長しやすくなる(中段の図参照)。
しかしながら、伝熱抵抗が大きいために、シェル成長速度が抑制されシェル厚は厚くならない(下段の図参照)。
一方、濡れが良すぎ、かつフラックス結晶化温度Tcsが小さいフラックスの場合も同様の結果となる。この場合も、界面熱抵抗Rintが小さいもののフラックス厚みdfは増加しづらい。このため、一層伝熱抵抗が小さくなり、凝固する鋼の冷却速度が増大する結果、凝固シェルは不均一に成長し易くなり、シェル厚は厚く成長しない。
【0015】
このような場合において、フラックス結晶化温度Tcsが高いと、伝熱抵抗がより増大して均一化効果が促進されるが、一方で凝固する鋼のシェル成長速度が抑制され過ぎてブレークアウト(BO)の危険が増す。
よって、例えば中炭素鋼など表面割れの発生し易い鋼の高速鋳造時に、割れ防止のため敢えて結晶化温度Tcsの高いフラックスを使用する場合は、このようなシェル肉薄現象を抑制するため、濡れ角の大きなフラックスを使用してフラックスの凝固を抑制する必要がある。つまり、ブレークアウト(BO)を防止する最小の濡れ角は結晶化温度Tcsの増加につれて大きくなる。
【0016】
一方、濡れが悪い(濡れ角が大きい)場合、濡れが良い場合とは逆の現象が起こる。つまり、溶融フラックスと鋳型との接触面積が減少(界面熱抵抗Rintが増加)するため、接触直後の鋳型への伝熱は適度に抑制され、溶融フラックスの凝固も遅くなる。このため、鋳型〜凝固シェル間の全フラックス厚みdfは、濡れが良い場合と比較して薄くなる。その結果、全体(凝固シェル〜鋳型間)の総括伝熱抵抗が低下する(上段の図参照)。
総括伝熱抵抗が低下することにより、鋼の凝固が促進され、シェル厚は厚くなる(下段の図参照)。
濡れが少し悪くなってもシェル不均一度への影響は少ないが、濡れが更に悪くなると、鋳型へのフラックスの接触状態の不均一化も手伝って、鋼の凝固の不均一性が助長され、シェル厚が薄くなる(中段の図参照)。その結果、ブレークアウト(BO)が発生し易くなる。
よって、鋼の凝固の均一性を確保するためには濡れ角に上限が存在することとなる。
本発明において、濡れ角の最適値に上限70°があるのは、このような理由からである。
【0017】
なお、抜熱量:H、鋼の凝固シェル表面温度:Ts、鋳型表面温度:Tc、凝固シェル・鋳型間での総括熱抵抗:R、フラックスの熱伝導率:λf、フラックスと鋳型間の界面熱抵抗:Rint、フラックス全厚み:dfの関係を簡略化した数式で表現すると次式に示す如くなる。
H=(Ts−Tc)/R=(Ts―Tc)/(Rint+df/λf)
【0018】
以上のように、フラックスの結晶化温度Tcs以外に濡れ角θが、鋼の凝固に大きく影響されることを見出した。
【0019】
発明者等は、上記の知見を前提に、垂直曲げ型の鋼の連鋳機において、極低炭素鋼(ULC)(C:0.0010〜0.0030,Si<0.20,Mn:0.1〜0.5,P:0.005〜0.030,S:0.0001〜0.015,Al:0.01〜0.04質量%)スラブ(サイズ220〜235mm×1000〜1800mm)を、鋳造速度2.0〜2.6m/分で鋳造し、ブレークアウト発生率を調査した。
表1は、使用したモールドフラックス別のブレークアウト(BO)発生率(1チャージ当りのBO発生数)をまとめて示したものである。
【0020】
【表1】

【0021】
また、表1の結果を、濡れ角θ(°)と結晶化温度Tcs(℃)の関係におけるブレークアウト(BO)発生の有無を示すグラフで示したものが図3である。図3においては、縦軸が濡れ角θ(°)を示し、横軸が結晶化温度Tcs(℃)を示している。また、図3において、白丸がブレークアウト(BO)の発生がない場合を示し、黒丸がブレークアウト(BO)の発生が有る場合を示している。
【0022】
図3に示すグラフから、モールドフラックスの濡れ角θと結晶化温度Tcsの関係においてブレークアウト(BO)発生の有無が明確に整理できることがわかる。
そして、ブレークアウト(BO)発生を防止するためには、図3における白丸の領域になるように、モールドフラックスの濡れ角θ(°)と結晶化温度Tcs(℃)の関係を設定すればよい。
すなわち、鋼の初期凝固が速く、且つ、均一・安定化してブレークアウト(BO)の発生を防止できるモールドフラックスの物性条件として、モールドフラックスの濡れ角θ(°)と結晶化温度Tcs(℃)の関係が、図3における破線で囲まれる範囲になるように設定すればよい。この関係を数式で示すと、以下の(1)式になる。
0.12(Tcs−800)≦θ≦70 ・・・・・ (1)
【0023】
図4は、図3のグラフにおける領域をA〜Fの6つの領域に分けて示し、各領域に相当する物性条件を有するモールドフラックスを使用した場合における鋳造時のモールドフラックス及び凝固シェルの状態を模式的に示した図である。以下においては、図4に基づいて、図4の各領域におけるモールドフラックス及び凝固シェルの状態について説明する。
なお、上述の説明からも分かるように、モールドフラックスの結晶化温度Tcsが高くなると、溶鋼の凝固速度が小さくなり、逆にモールドフラックスの結晶化温度Tcsが低くなると、溶鋼の凝固速度が大きくなる。
また、濡れ角θが大きくなる(濡れ性が悪くなる)と、不均一凝固の傾向になると共に冷却抑制の傾向になる。逆に、濡れ角θが小さくなる(濡れ性が良くなる)と、均一凝固の傾向になると共に冷却促進の傾向になる。
【0024】
(1)A領域
A領域の物性条件は、結晶化温度Tcsが高く、濡れ角θが小さいものである。この領域では、結晶化温度Tcsが高いことからモールドフラックスの凝固が早期に起こり、フラックス厚みdfが厚くなる。また、濡れ角θが小さいことから、フラックス、鋼ともに均一凝固の傾向が強い。
しかし、フラックス厚みdfが厚いので、溶鋼の凝固の進行が遅く凝固シェル厚みdsが薄く、ブレークアウト(BO)発生の危険がある。
【0025】
(2)B領域
B領域は、A領域と結晶化温度Tcsは同じであるが、濡れ角θを大きくしたものである。濡れ角θを大きくしたことにより、接触直後における鋳型への伝熱が抑制され、溶融フラックスの凝固が遅くなるため、フラックス厚みdfが薄くなり、伝熱抵抗は減少する。そのため、溶鋼は不均一凝固の傾向にはなるが、凝固シェル厚みdsがA領域の場合よりも大きくなり、ブレークアウト(BO)発生が回避される。
【0026】
(3)C領域
C領域は、A、B領域と結晶化温度Tcsは同じであるが、濡れ角θをB領域よりもさらに大きくしたものである。濡れ角θをさらに大きくしたことにより、鋳型へのフラックスの接触状態がさらに不均一になり、フラックスと鋳型間での熱抵抗(界面熱抵抗Rint)が大きくなる。その結果、フラックス厚みdfがB領域の場合よりも薄くなるが、総括伝熱抵抗Rは増大することになる。よって、凝固シェル厚みdsは薄く、かつ、不均一となり、ブレークアウト(BO)発生の危険が発生する。
【0027】
(4)D領域
D領域は、A領域の場合と濡れ角θが同じであるが、結晶化温度Tcsを低くしたものである。結晶化温度Tcsが低く、かつ濡れ角θが小さいので、フラックス厚みdfは均一かつ薄く成長するものの鋼は急冷される。その結果、凝固シェルの熱収縮が増し不均一凝固が助長される。この場合、凝固シェルの平均厚みはA領域の場合よりも大きいが、最小の厚みはA領域の場合と大差なく、ブレークアウト(BO)発生の危険がある。
【0028】
(5)E領域
E領域は、D領域の場合と結晶化温度Tcsが同じであるが、濡れ角θを大きくしたものである。結晶化温度Tcsが低いためフラックス厚みdfが薄いが、濡れ角θを大きくしたことにより、界面熱抵抗Rintが増し、溶鋼の冷却速度がD領域の場合よりも緩和され、溶鋼の不均一凝固が緩和される。そのため、凝固シェルが均一に厚くなり、ブレークアウト(BO)発生が回避される。
【0029】
(6)F領域
F領域は、D、E領域と結晶化温度Tcsは同じであるが、濡れ角θをE領域よりもさらに大きくしたものである。濡れ角θをさらに大きくしたことにより、鋳型へのフラックスの接触状態がさらに不均一になり、フラックスと鋳型間での熱抵抗が大きくなる。その結果、フラックス厚みdfはE領域の場合よりも薄くなるが不均一になるため、凝固シェル厚みdsも薄くなり、また溶鋼の凝固も不均一となり、ブレークアウト(BO)発生の危険が発生する。
【0030】
以上のように、A〜F領域のうちのB、E領域ではブレークアウト(BO)発生の危険が回避されることが定性的に説明でき、これは上述した(1)式の関係を満たすモールドフラックスを使用することにより、ブレークアウト(BO)発生を回避できることの理論的な裏づけとなる。
【0031】
なお、図1に示すθで定義される濡れ角は、一般に温度依存性がある。よって、本発明では、1140℃で5〜10℃/分における値とした。これは、1140℃以上ではθが小さくなり過ぎ、測定困難になるためである。
【0032】
基板材質としては、一般的に鋳型銅板表面に使用されているコーティング材(Cr、Ni、FeNi、CoNiなど)が理想であるが、前述した高温でのフラックスの反応が殆ど無いCoNiメッキが最適である。
【0033】
濡れ角測定用のフラックスとしては、実際の現象を考慮し、一旦溶融したフラックスを凝固させたものを使用することで、測定ばらつきを抑制できる。又、一般的に一旦溶融させたものを再度溶融(2度溶融)させると、結晶化温度Tcsが低下する現象があるため、1度目の溶融後に測定されるフラックスの結晶化温度Tcs(粘度が急上昇する温度)よりも低温側から溶融する。よって、一度目の溶融後に測定する結晶化温度Tcsよりも低い1140℃でも接触角が測定できる。本発明で定義する結晶化温度Tcsは、2回目の溶融後に測定される結晶化温度Tcsであり、一般的に温度降下時(5〜10℃/分)の粘度が急激に上昇する温度を指す。
本発明では、回転粘度計で温度降下速度5℃/minで連続測定し、粘度が急激に上昇する温度を結晶化温度Tcsとした。
【0034】
よって、本発明の濡れ角θは、1430℃で60分保持した溶融モールドフラックスを銅板上に凝固させ、100メッシュアンダー粉末とした0.5gを10φ×3mmのタブレット状に圧縮力1トンで圧縮整形したものを、Co85%Ni15%めっき(厚み0.2mm)したSUS304基板(板厚0.8〜1.0mm冷延板)上にセットし、横型管状炉内でArガス(純度99.999%、流量1Nl/分)を導入しながら昇温速度5〜10℃/分で加熱途中の1140℃における溶融フラックスの形状をビデオ撮影し、その接触角θとして定義した。
【0035】
測定温度1140℃は1つの基準であるが、この値である必要性は特になく、フラックスの結晶化温度Tcsが高くなりすぎたり、逆に極端に低くなりすぎたりした場合には、測定不能になるので、これを避けるため、基準温度(1140℃)を上下させて、測定が可能な温度に設定すればよい。その場合は、最適な濡れ角も測定温度の高低に影響されて減増することはいうまでもない。
【0036】
濡れ角θは、基板材質にも影響されるが、実際に実機で使用中の鋳型表面温度は250〜400℃と低温であるため、鋳型表面材が金属や合金の場合、鋳型表面材の濡れ角への影響は無視できる。よって、CoNiめっきを基板として使用して測定した濡れ角を基準としても、ブレークアウト(BO)に及ぼす濡れ角の影響の程度が、実際に使用する鋳型表面材の影響を受けることは無視できる。
【0037】
又、鋳型メニスカス部の表面のコーティング材の厚みは、0.2μm〜0.5mmと薄いため、鋳型銅板全厚(20〜50mm)に占める割合が小さく、それ自体の熱抵抗は無視し得る。よって、表面材の厚みの違いによって本発明で発見した最適な濡れ角が変化することはない。
【0038】
なお、本発明のモールドフラックスは不均一凝固しやすい鋼の高速鋳造時のBO発生防止に好適であり、一般的な極低炭素鋼や中炭素鋼の鋳造に適用できる。
なお、一般的な極低炭素鋼の成分組成範囲を以下に示す。
C:0.0010〜0.0030,Si<0.20,Mn:0.1〜0.5,P:0.005〜0.030,S:0.0001〜0.015,Al:0.01〜0.04質量%
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】モールドフラックスの濡れ角測定方法を示す断面図である。
【図2】モールドフラックスの濡れ性と鋼の凝固特性を説明する概念図である。
【図3】ブレークアウト(BO)に及ぼす濡れ角θとフラックス結晶化温度Tcsの関係を示す図である。
【図4】図3のグラフにおける領域をA〜Fの6つの領域に分けて示し、各領域に相当する物性条件を有するモールドフラックスを使用した場合における鋳造時のモールドフラックス及び凝固シェルの状態を模式的に示した図である。
【図5】連続鋳造鋳型の要部断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 溶鋼
3 溶融フラックス
5 未溶融フラックス
7 鋳型
9 固相フラックス膜
11 溶融フラックス膜
13 凝固シェル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳型表面材に対する溶融フラックスの1140℃における濡れ角θ(°)が、フラックスの結晶化温度Tcs(℃)の関数として、次式で与えられることを特徴とする鋼の連続鋳造用モールドフラックス。
0.12(Tcs−800)≦θ≦70
【請求項2】
請求項1に記載の連続鋳造用モールドフラックスを用いることを特徴とする鋼の連続鋳造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−200721(P2008−200721A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−40251(P2007−40251)
【出願日】平成19年2月21日(2007.2.21)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】