説明

鋼帯の調質圧延方法及び調質圧延設備。

【課題】引張強度が1470MPa以上の高張力鋼についても、従来圧延機で対応可能な圧延負荷の範囲内で、所定の伸び率を確保し形状矯正を可能とする鋼帯の調質圧延方法を提供する。
【解決手段】直径が300mm以下でかつ表面平均粗さRaが3.0〜10.0μmであるワークロール1を用いて、鋼帯4を調質圧延することにより、引張強度1470MPa以上の高張力鋼でも、大がかりな設備や煩雑な管理を必要とすることなく、鋼帯の形状を矯正することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高張力冷延鋼板(ハイテン)の調質圧延方法に関し、特に超ハイテンと呼ばれる引張強度が1470MPaクラス以上の、非常に引張強度の大きな高張力鋼板の調質圧延方法に関する。本発明における鋼帯とは、コイル状に巻き取られた鋼板、切板状の鋼単板のいずれの場合も含むものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のボディや家電などに使われる鋼板は、ほとんどが冷延鋼板やそれにめっきなどの表面処理を施した鋼板である。この種の鋼板は、鋼片を鋳造し、鋼片を熱間圧延し、その後、さらに冷間圧延して薄くすることにより製造される。
【0003】
調質圧延は、冷間圧延後に調質圧延機によって例えば圧下率1%以下の軽圧下を鋼帯に施すことにより行われる。この調質圧延を施すことによって鋼帯は一様に伸ばされ、その形状が矯正され、所定の平坦度が得られるとともに、降伏点伸び、引張り強さ、伸び等の機械的性質および鋼帯の表面粗度などの性状も改善される。
【0004】
近年、主に自動車車体の軽量化を目的とした鋼帯の高付加価値化に伴って、高張力鋼(ハイテン)の需要が増加しており、特にその引張強度が980MPaクラス、1180MPaクラスを超え1470MPaクラス、あるいはそれ以上の超高張力鋼(超ハイテン)と呼ばれる範囲の鋼板が求められるようになっている。このような高張力鋼からなる鋼帯を調質圧延機によって調質圧延を施す場合、鋼帯が硬質なので、必要な伸び率を鋼帯に付与するためには高い圧延荷重が必要となる。特に、自動車用鋼板としてよく用いられる板厚0.6〜2.0mm程度の高張力鋼に対して必要な伸び率を付与するのは困難になってきている。
【0005】
特に、高張力鋼の中でも焼入れ・焼戻し処理を伴う連続焼鈍により製造された鋼板は、焼入れ処理の際の熱応力や鋼板組織の相変態により鋼板が変形し、形状不良が発生し易く、例えば幅方向に波形状に変形する。このような鋼板の形状不良は、焼鈍する前に冷間圧延により鋼板表面を平坦化しても解消することは困難である。そのため、焼鈍後の鋼板を調質圧延により形状矯正する必要があるが、引張強度が980MPa以上の高張力鋼板の場合、形状矯正に必要な伸び率を付与するには変形抵抗が高いことから、非常に高い圧延荷重が必要となる。
【0006】
形状矯正が必要な高張力鋼ほど、圧延負荷は増大して既設の調質圧延機では対処が困難となる場合がある。そのため、次工程以降で形状矯正することにより、対応しているのが実情である。しかし、この場合には、工程の追加に伴う製造コストの増大や納期の長期化という問題が発生する。
【0007】
このような状況の中、既存の設備仕様を上回る高張力鋼板についても、既設の調質圧延機で対応するための方法が検討されてきた。例えば、対策の一案として、特許文献1,2では、ワークロール表面粗さを大きなものとすることにより、従来の調質圧延機の範囲を外れた対策を取らずとも、所定の伸び率を付与できることが開示されている。
【0008】
圧下率が1%程度以下である調質圧延では、表面粗さの大きいロールを用いて圧延を行うと、ロールの凹凸が鋼帯の表面に転写されることにより排除された部分が伸びとして現れる現象(伸長効果)が顕著となり、圧延荷重を低減できる。特許文献1及び2に記載の発明によれば、ワークロール表面粗さを大きなものとすることによって圧延荷重を低減できるので、大掛かりな設備を必要とすることなく、軟質材と同程度の圧延負荷で所定の伸び率を鋼帯に付与し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−173684号公報
【特許文献2】特開2008−302393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1,2で開示されている範囲の調質圧延方法では、980MPaクラス以上の高張力鋼板について、伸び率を確保して形状矯正することを可能にしている。しかし、近年徐々に製造されるようになってきた1470MPa以上のクラスの高張力鋼板については対応できない、という問題があった。すなわち、表面粗さの大きいロールを用いて圧延を行っても形状矯正後の波高さを許容値以下に抑えることができなかった。
【0011】
本発明は,上記課題を解決するために為されたもので、引張強度が1470MPa以上の高張力鋼についても、従来圧延機で対応可能な圧延負荷の範囲内で、所定の伸び率を確保し形状矯正を可能とする鋼帯の調質圧延方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明者は鋭意研究した。従来、ワークロールの径を小さくすると、ワークロールの撓みが鋼帯形状に大きく影響し、形状矯正が困難になると考えられていた。このため、従来からワークロールの直径は500mm以上に設定されていた。しかし、さらに高張力となった鋼板についても矯正に必要な伸び率を得るには、ワークロールと鋼帯の表面間の接触状態を、圧延方向にマクロな滑りを起こさない完全固着の状態から入出側付近に相対滑り域の存在する状態に変化させることが必要であると考え、種々検討した結果、ロールと鋼帯表面の接触長を短くすることが重要であり、そのためにはワークロール径を小さくすることが有効であると考えた。
【0013】
すなわち、本発明の一態様は、直径が300mm以下で、かつ表面平均粗さRaが3.0〜10.0μmであるワークロールを用いて、鋼帯を調質圧延することを特徴とする鋼帯の調質圧延方法である。
【0014】
本発明の他の態様は、直径が300mm以下でかつ表面平均粗さRaが3.0〜10.0μmであり、鋼帯を調質圧延するワークロールと、前記ワークロールと前記鋼帯との間に潤滑油を供給する潤滑油供給手段と、を備える鋼帯の調質圧延設備である。
【発明の効果】
【0015】
ワークロールの直径を300mm以下にすると、引張強度1470MPa以上の高張力鋼でも、大がかりな設備や煩雑な管理を必要とすることなく、鋼帯の形状を矯正することが可能となる。
【0016】
また、本発明のようにワークロールの表面粗さを大きくすると、鋼板表面にロール表面プロフィールの凸部が食い込んでくさびの役目を果たし、接触状態の変化を緩やかなものとする。このため、「ジャンピング現象」と呼ばれる圧延不安定現象を防止して安定した圧延を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明を実施するのに好適な調質圧延機の構成例を示した図である。
【図2】従来技術により,超高張力鋼板を調質圧延した結果を示す図である。
【図3】従来技術に潤滑を付加した場合の,超高張力鋼板を調質圧延した結果を示した図である。
【図4】ロール径および潤滑の条件を変えた場合の,超高張力鋼板を調質圧延した結果を示した図である。
【図5】ジャンピング現象の影響を説明した図である。
【図6】圧延荷重におよぼすロール表面平均粗さRaの影響を模式的に説明した図である。
【図7】従来の4段式調質圧延機の構成例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面に基づいて本発明の一実施形態における鋼帯の調質圧延方法を説明する。本実施形態の鋼帯の調質圧延方法では、直径が300mm以下でかつ表面平均粗さRaが3.0〜10.0μmであるワークロールを用いて、伸び率が0.1%以上になるように鋼帯を調質圧延する。被圧延材としての鋼帯の降伏強度は1180MPa以上、引張強度は1470MPa以上である。
【0019】
まず、直径が300mm以下でかつ表面平均粗さRaが3.0〜10.0μmであるワークロールを用いた意義について説明する。発明者は、図7に示すように、従来知見である上記特許文献1及び2に実施例として記載されている4段式調質圧延機を用いて、板厚1.5mm、引張強度1470MPaの水焼き入れ処理および焼き戻し処理を施した超高張力鋼の、調質圧延による形状矯正を試みた。ここでは、従来知見同様、0.1%の伸び率を与えることを目標とした。0.1%以上の伸びを確保すれば、充分な形状矯正能力を得られるからである。このとき、ワークロール径は500mmであり、単位幅荷重を最大10.0kN/mmとした。ワークロール表面を、放電ダル加工方式により表面平均粗さRa=4.0μm、および10.0μmに加工した後、硬質クロムめっきを施した。
【0020】
その結果を図2に示す。図中には比較として、引張強度1300MPaの結果(特許文献1,実施例3)を記載してある。同図の通り、引張強度1300MPaの鋼帯においては、調質圧延荷重を6kN/mm(表面平均粗さRa=4.0μmのとき)以上にするか、調質圧延荷重を4kN/mm(表面平均粗さRa=10.0μmのとき)以上にすることにより、形状矯正後の波高さを10mm以下にすることができた。
【0021】
しかし、従来知見の範囲を上回る引張強度1470MPaの超高張力鋼においては、従来技術では形状矯正が困難であり、調質圧延荷重を大きくしても、形状矯正後の波高さを10mm以下にすることができないことが明らかになった。形状矯正後の波高さが要求範囲の10mmを越えると、次工程以降で通板不可能となったり、鋼帯から切り出した鋼板をプレス成型する際に金型の所定位置にセットできなくなるという不具合が発生するおそれがある。なお、波高さの測定は、鋼板を水平な定盤の上に置き、触針式の波高さ計の針を幅方向に走査することにより行った。
【0022】
発明者はこの方法に対し、更に潤滑を良くすることで形状矯正することが出来ないかと考えた。そこで、上記の条件において、一般的な調質圧延液(動粘度0.69mm/s)と、エマルション用冷間圧延油(動粘度50mm/s)を、それぞれ原液のままロールバイトに向けてスプレーノズルから噴霧しつつ、同様の圧延を行った。しかし、その結果、図3に示すとおり、ほとんど潤滑の影響が見られないことが分かった。同様に、Ra=0.2μmの円筒研磨ロール(図3中のブライトロール)でも調質圧延を行ったが、この場合には冷間圧延油を供給しても全く効果が得られなかった。
【0023】
発明者の検討によれば、上記のように超高張力鋼を調質圧延する場合、伸び率は0.1%程度とわずかであるため、ワークロールと被圧延材の表面間は、ロールバイト内全面でいわゆる固着域となり、圧延方向のマクロな相対滑りを起こさない。そのため、潤滑の効果を得ることが出来ないのである。これは、従来技術に示されているように、ワークロール表面に大きな粗さを付与することで矯正力を上げる方法では、1470MPaクラスのような超高張力鋼板には対応できないことを示している。
【0024】
発明者の調質圧延に関する検討によれば、さらに高張力となった鋼板についても矯正に必要な伸び率を得るには、ワークロールと被圧延材の表面間の接触状態を、上記のような完全固着の状態から入出側付近に相対滑り域の存在する状態に変化させることが必要であることがわかった。これは、接触長を短くすることで実現することが出来、ワークロール径を小さくすることが有効であることがわかった。
【0025】
そこで発明者は、ワークロール径の異なる種々の圧延機により、上記と同様の圧延を行い、矯正力を比較した。その結果、図4に示すとおり、ロール径300mm以下とすると引張強度1470MPaの超高張力鋼でも形状を矯正できることが明らかとなった。このときの圧延荷重は10kN/mmである。特に、冷間圧延油を供給するとより形状が良好となる。これは、潤滑油の供給により、ワークロールと被圧延材の表面間に滑りが導入されたためである。従来、潤滑条件を良くすると、「ジャンピング現象」と呼ばれる圧延不安定現象が発生することが知られている(Imai et al., Study on jumping phenomenon in wet temper rolling of annealed tin-plates with light reduction, Proc. Int. Nat. Conf. on Steel Rolling, Tokyo (1980), 1203-1214.)。
【0026】
本発明の対象となる超高張力鋼板においても、図5に示すように、ワークロール表面粗さが小さく潤滑の良い場合には、急激な伸び率変化が発生し、安定した操業が難しい。しかし、本発明で規定したロール粗さの範囲では潤滑油を供給しても伸び率は荷重に応じて安定して増加するため、操業が安定しやすい。発明者の検討によると、ジャンピング現象はロールバイト内でロール〜材料間の接触状態が急激に変化するために起こるもので、すなわち荷重が小さく伸び率も小さい場合に全面固着であったものが、滑り域の急速な拡大により伸び率が大きくなるものである。しかし、本発明のようにロール粗さを大きくすると、鋼板表面にロール表面プロフィールの凸部が食い込んでくさびの役目を果たし、接触状態の変化を緩やかなものとするので、ジャンピング現象を防止して安定した圧延を行うことができるのである。
【0027】
図1は、本発明を適用する調質圧延機の例を示す概略図である。なお、例えばコイル状の鋼板を払い出し、および巻き取りするコイラーや、本発明が焼き入れ処理および焼き戻し処理工程を伴う連続焼鈍設備の出側に設置された調質圧延機であるとした場合の、これら熱処理を行う設備など付帯する設備は省略してある。本発明に係る鋼帯4の調質圧延方法は、図1の調質圧延機として、表面粗さRaが3.0μm〜10.0μmの範囲で、直径がφ300mm以下のワークロール1を供えた1以上の圧延スタンドからなる調質圧延設備を用いる。また、圧延機入側には、必要に応じてロールバイトに向かって圧延油を供給する設備5が具備されている。本方式が最も有効であるのは、1470MPaクラス以上の超高張力鋼板であるが、従来技術で矯正可能であった1300MPaクラス以下の高張力鋼板を処理することももちろん可能である。
【0028】
図1の例では、6段式の圧延機の例を示してある。ワークロール1は圧延荷重によって弾性変形する。ワークロール1の弾性変形は、中間ロール2及びバックアップロール3によって抑制される。本発明ではワークロール径をφ300mm以下としているため、6段式の圧延機を用いると形状などの点で安定した圧延を行いやすい。しかし、4段式、12段式、20段式でも、作用は同等である。
【0029】
ワークロール1の表面平均粗さRaを3.0〜10.0μmに設定した理由は以下のとおりである。図6に、同一の圧下率で圧延を行った場合のワークロール表面の平均粗さRaと圧延荷重の関係を示す。図6の点線で示すように、例えば圧下率5〜50%程度の通常の圧延では、ワークロール表面の平均粗さが高いほど同一圧下率に対する圧延荷重は高くなる。これはワークロール表面の平均粗さが高いほど鋼帯4とワークロール1のすべりが抑制されて摩擦係数が高くなり、圧延時の鋼帯4の変形が抑制されて荷重が増大してしまうためである。したがって、圧延荷重を低く抑えるためには、平均粗さの低いブライトロールを使用するというのが当業者の常識であった。
【0030】
しかし、本発明者が鋭意検討を行った結果、圧下率が1%程度以下である調質圧延では、図6の実線に示すように、平均粗さの高いワークロール1を用いて圧延を行うと荷重は逆に低減することを新たに見出した。これは、ワークロール1の凹凸が鋼帯の表面に転写されることにより排除された部分が伸びとして現れる現象(以下、「伸長効果」と呼ぶ。)が顕著となるためと考えられる。
【0031】
さらに検討を重ねた結果、表面の平均粗さRaが2μm程度までは、ワークロール1の凹凸が鋼帯4に突き刺さって塑性変形を生じる際に近接する凹凸が干渉してしまい、十分な伸長効果が得られないことがわかった。そのため、伸長効果を発揮させるためには、ワークロール表面の平均粗さRaを3.0μm以上とする必要があることがわかった。なお、0.2%程度の低い伸び率を付与するような調質圧延条件においては、ワークロール表面平均粗さRaを4.0μm超とすることにより、隣接する凸部の間隔が十分大きくなり塑性変形の干渉がほとんどなくなる。よって、効果的に伸長効果を発揮させて荷重低減するためには、ワークロール表面の平均粗さRaは4.0μm超とすることが望ましい。ただし、ワークロール1に対して平均粗さの高い加工を安定的に実施するのは工業上非常に困難であり、またロール寿命の観点からも望ましくない。そのため、ワークロール表面の平均粗さRaは、10.0μm以下とすべきである。
【0032】
また、上述のような表面平均粗さの高いワークロール1で調質圧延された鋼帯4は、パンピング効果、つまり、局所的な塑性変形により生じた圧痕部周辺の材料移動に伴い上下表面が同じように塑性的に安定した新しい応力の釣合い状態に移って平坦度が回復する現象により、表面形状が大幅に改善される。さらに、調質圧延前と調質圧延後との鋼帯表面の平均粗さの差、つまり、平均粗さの増加量が大きいほど、形状矯正の効果は顕著であることが分った。
【0033】
前記ワークロール表面への粗さの付与は,ワークロール表面にダル加工を施すことにより行うことができる。ここで、前記ダル加工の方法としては、ショットブラスト加工方式、放電ダル加工方式、レーザーダル加工方式、電子ビームダル加工方式などを用いることが出来る。さらに摩耗対策として、ダル加工後のロールにクロムめっき加工をすることもある。
【0034】
ここで、前記平均粗さRaは、「JIS B 0601」に基づき、表面の粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さだけを抜き取り、この抜き取りの部分の平均線の方向にx軸を、縦倍率の方向にy軸を取り、粗さ曲線をy=f(x)で表したときに、次式(1)によって求められる値をマイクロメートルで表したものをいう。
【0035】
【数1】

【0036】
なお、本発明における前記ワークロール1の表面平均粗さRaの値としては,ワークロール表面の代表位置における上式(1)で求めたRaの値としてもよく、またワークロール表面の複数位置において測定したRaの値を平均した値としてもよい。複数位置の平均値を用いる場合には、例えばワークロール1の少なくとも鋼帯4と接触する部分において、周方向に90°間隔で4点,幅方向に中央及び両端部で3点の計12点の平均値を用いるようにしてもよい。本発明では、平均粗さRaが3.0μm以上の大きな粗さを扱うため、JIS規格より、基準長さ(カットオフ)2.5mm,測定長12.5mmとすると,安定した測定値を得ることが出来る。
【0037】
また、本発明ではドライ(潤滑油を供給しない加工状態)圧延でも矯正が可能であるが、調質圧延油、あるいは冷間圧延油などの潤滑油を供給するとなお良い。ロール粗さを大きくしたことで、ジャンピング現象を発生させることなく,安定した矯正が可能である。
【実施例】
【0038】
引張試験により求めた引張強さが1520MPa(降伏強度1320MPa)の、焼き入れ、焼き戻しした、板厚1.6mm、板幅1200mmの高張力鋼板を調質圧延により矯正した。熱処理後の鋼板には、圧延方向に走る波状の形状不良があり、板幅方向に測定した波高さの最大値は25mmであった。
【0039】
従来技術では,図7に示すロール径φ500mmの4段式調質圧延機を用い、ロール表面粗さを放電ダル加工により9.8μmRaに調整した。潤滑油は供給していない。
【0040】
本発明例では、図1に示すロール径φ200mmの6段式調質圧延機を用い、ロール表面粗さを放電ダル加工により3.2μmRaに調整した。また、合成エステル系エマルション用冷間圧延油(40℃における動粘度50mm/s)を2%に希釈し、エマルション温度を50〜60℃に調整して、圧延機入側から供給した。伸長率は1.2%であった。
【0041】
従来技術では、圧延機の荷重限界である16kN/mmまで荷重を負荷したが、波高さは15mmまでしか矯正されず、目標の10mm以下にならなかった。
【0042】
一方、本発明例では、6.5kN/mmの荷重で、波高さが6mmまで減少し目標の形状を達成した。
【0043】
更に、引っ張り試験により求めた引張強さが1150MPaの焼き入れ、焼き戻しした、板厚2.0mm、板幅1500mmの高張力鋼板を、上記同様の本発明の条件で調質圧延により矯正した。矯正前の鋼板には、圧延方向に走る波状の形状不良があり、板幅方向に測定した波高さの最大値は20mmであった。本発明の方法により、波高さは2mmまで減少し目標の形状を達成した。
【符号の説明】
【0044】
1…ワークロール
2…中間ロール
3…バックアップロール
4…被圧延材(鋼帯)
5…潤滑油スプレーノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径が300mm以下で、かつ表面平均粗さRaが3.0〜10.0μmであるワークロールを用いて、鋼帯を調質圧延することを特徴とする鋼帯の調質圧延方法。
【請求項2】
調質圧延時の鋼帯の伸び率が0.1%以上である請求項1に記載の鋼帯の調質圧延方法。
【請求項3】
鋼帯の降伏強度が1180MPa以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の鋼帯の調質圧延方法。
【請求項4】
ワークロールと鋼帯との間に潤滑油を供給しながら調質圧延することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の鋼帯の調質圧延方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の鋼帯の調質圧延方法により調質圧延することを特徴とする鋼帯の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の鋼帯の製造方法により製造される、波高さが10mm以下の鋼帯。
【請求項7】
直径が300mm以下でかつ表面平均粗さRaが3.0〜10.0μmであり、鋼帯を調質圧延するワークロールと、
前記ワークロールと前記鋼帯との間に潤滑油を供給する潤滑油供給手段と、を備える鋼帯の調質圧延設備。

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図7】
image rotate

【図1】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−45922(P2011−45922A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−198609(P2009−198609)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】