説明

鋼板の板厚測定方法

【課題】リアクター(反応容器)等のように容器鏡部が球面状或いは円錐状の曲面で構成され、容器胴部に各種の障害物がある場合でも板厚の測定を可能にする。
【解決手段】容器鋼板の底面におけるエコー高さの電圧値を検出する底面エコー監視ゲート42の開始時点を第1の開始時点としたとき算出された容器鋼板の第1の板厚と、ゲート42の開始時点を第1の開始時点よりも所定の時間だけ早い第2の開始時点に移動したとき算出された容器鋼板の第2の板厚と、を比較して前記第2の板厚が前記第1の板厚よりも小さい間はゲート42の開始時点を所定の時間だけ早い時刻に移動し、前記第2の板厚と前記第1の板厚とが一致した場合に底面エコー監視ゲート42の開始時点を固定する構成としたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板の板厚を測定する方法に係り、特にリアクター(反応容器)等のように容器鏡部(容器底部)が球面状或いは円錐状の曲面で構成され、容器胴部にバッフルや攪拌部材等の障害物がある場合でも鋼板の板厚を容易に測定することが出来る鋼板の板厚測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、塔状タンク、球状タンク、槽、容器等の溶接鋼構造物(以下、単に「容器」という)では、外面腐食による経年劣化が発生するため定期的な板厚測定による検査と補修が必要となっている。
【0003】
容器鋼板の板厚を測定する手段としては、超音波探触子により鋼板の板厚を測定することが行われており、例えば、円筒タンクの平面底板の板厚を測定するために超音波探触子と渦流センサとを千鳥状(互い違い)に配列して走行台車に搭載し、円筒タンクの底板表面に被覆されたコーティング上で走行台車を走行させてタンク底板平面の鋼板厚さを連続的に測定するものが提案されている(特許文献1参照。)。
【0004】
その他、超音波探触子を千鳥状に配置したもの(特許文献2参照)、超音波探触子が幅方向に並べて配置され、自在式継手機構を介してタンク底板の板厚計測を行うもの(特許文献3参照)、超音波探触子がジンバル式継手を介して昇降機構に支持されたもの(特許文献4参照)が提案されている。
【0005】
また、浮き屋根式タンクの側板曲面の板厚を測定するためにタンク側面の頂部と底部付近に水平方向に走行するガイドを設け、超音波探触子と吸着用の永久磁石を搭載した測定台車をマグネットワイヤロープに連結し、ケーブル巻取り装置で昇降させるものもある(特許文献5参照)。
【0006】
また、超音波探触子を搭載した走査台車が縦横に移動可能に構成されたもの(特許文献6参照)や、超音波探触子がX−Y方向に移動可能に構成されたもの(特許文献7参照)等の各種技術が提案されている。
【0007】
【特許文献1】特開2001−50736号公報
【特許文献2】特開平2−194355号公報
【特許文献3】米国特許第5440929号明細書
【特許文献4】特開平5−26654号公報
【特許文献5】特開平8−304062号公報
【特許文献6】特開平6−347250号公報
【特許文献7】特開平11−19890号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、単に内容物の収容を目的とした大型タンクの平面底板や何ら障害物が無い容器胴部であれば、前述の各種従来例でも効果的な板厚測定が可能であるが、リアクター(反応容器)等の圧力容器では、単に内容物の収容を目的とした大型タンクと比較して小型であり、更にその内部に攪拌機、攪拌翼、攪拌促進を兼ねた注入管としてのバッフル、ガス吸い込み配管、温度計等の障害物が多く、容器鏡部が球面状或いは円錐状の曲面で構成されるため超音波探傷器を用いた自動全面板厚測定は困難とされ、リアクター外表面側からの視認検査が一般であった。
【0009】
また、リアクターによっては、シェル本体の外周部に反応温度の保温或いは温度調節を目的として温水や水を流通させるためのジャケット鋼材が溶接等により設けられる場合があり、ジャケット鋼材とシェル本体との間は水環境により腐食環境に晒される一方でジャケット鋼材が設けられた部位のシェル本体外表面はジャケット鋼材により被覆されるためシェル本体外表面側からの視認検査が困難であり、ジャケット鋼材を一旦撤去してシェル本体外表面側から視認検査を行い、再度ジャケット鋼材を復帰するには膨大な経費がかかるという問題がある。
【0010】
このような場合、必要に応じてリアクター内部の障害物を一旦撤去すると共に、リアクターの内部に足場を仮設し、人手により超音波探傷器を用いて容器鋼板の板厚を測定することも考えられるが、リアクター内部の障害物を一旦撤去した後、再度復帰する作業が煩雑であり、足場の仮設及び撤去作業も面倒である。
【0011】
また、リアクター内部の障害物を残したままで人手により超音波探傷器を用いて部分的な範囲で容器鋼板の板厚を測定する場合、検査員は狭い空間の中で不安定な姿勢で板厚測定を実施しなければならず作業環境が悪く、容器鋼板全面の板厚を漏れなく測定するには多大な時間がかかるため容器運用上、実用的ではない。そのため容器の代表部位で板厚を測定している。
【0012】
しかしながら、容器の代表部位で板厚を測定するだけでは容器全体の減肉状態を把握する上で信頼性に乏しいため前述のようにジャケット鋼材を一旦撤去してシェル本体外表面側から視認検査を行う場合がある。
【0013】
一方、複数の超音波探触子を用いる多チャンネル型の板厚測定装置においては、図23に示すように、予め目的とした反射エコーがかえる範囲を想定して境界面エコー監視ゲート41、底面エコー監視ゲート42を固定し、該底面エコー監視ゲート42のスレッシュレベルが反射エコー波形を切る位置において算出された板厚値を測定結果としていた。
【0014】
しかしながら、このような板厚測定方法では、超音波探触子を用いる多チャンネル型の板厚測定装置においては、チャンネル個々の測定面と被検体の損傷状態の変化に柔軟に対応することが出来ず、正確な板厚値を見逃したり、余計なノイズを誤って検出する等の問題が生じ、それらが板厚測定の大きな誤差要因となっていた。
【0015】
例えば、図23の1ch(チャンネル)〜4chは底面エコー監視ゲート42の開始時点と底面エコー波形43bの立ち上がり時点とが略一致して板厚値が正確に検出出来ているが、それ以外のチャンネルでは底面エコー監視ゲート42が底面エコー波形43bの立ち下がり部位で切った位置において板厚を算出するため実際よりも厚い板厚値を検出してしまう。従って、薄い板厚は計測出来ず、見逃している例である。
【0016】
多くのチャンネル間の測定上のばらつきに対応するためには、従来の固定ゲート方式でも図24に示すように、底面エコー監視ゲート42の監視範囲を広げて対応することも可能であるが、この場合においても、余計なノイズを拾いやすくなるというデメリットがある。例えば、図24は監視範囲を広げて対応した底面エコー監視ゲート42が境界面エコー波形43aの多重エコー波形43cを底面エコー波形43bと間違えて切った位置において板厚を算出するため実際よりも薄い板厚値を検出してしまう。
【0017】
また、容器鋼板がクラッド鋼(例えばSUS+SS材)やガラスライニングをコーティングした鋼材(GL+SS材)の様に異なる材質を張り合わせて構成される場合、それぞれの界面に剥離(空気層)が生じていれば、対象物の全体厚さを正確に得るのが困難となり、大きな測定誤差要因となる。
【0018】
図28(a)は異なる材質からなる表面層を張り合わせて構成される容器鋼板の表面層と容器鋼板との境界面に剥離がある場合の境界面エコー波形43aを示す。超音波の経路に剥離が存在する場合、剥離面から複数回にわたり反射して帰る多重エコー波形43cが底面エコー監視ゲート42のゲート範囲に飛び込み、底面エコー監視ゲート42が多重エコー波形43cを切った位置において板厚を算出するため実際よりも薄い板厚値を検出してしまう。
【0019】
また、容器鋼板の鋼材中に介在物やラミネーション等が存在する場合においては、図28(c)に示すように、鋼材の底面エコー波形43bが現れるよりも前にそれらの傷エコー波形43dが出現するため、図31の8ch(チャンネル)に示すように底面エコー監視ゲート42が底面エコー波形43bの代わりに傷エコー波形43dを検出して、実際の鋼材厚さよりも大幅に薄い厚さが検出されるのが一般的であり、図31に示すように腐食されていない鋼材であってもあたかも腐食したような厚さの薄い板厚値44を算出して表示してしまい、容器鋼板の腐食減肉と介在物等の存在との識別が出来ないという問題がある。
【0020】
また、外周部にジャケット鋼材が設けられた容器では、内部側から超音波探触子を用いて鋼板厚さを測定しても外部側からその位置を容易に特定することが出来ず、内部側で測定した板厚情報から補修が必要な位置を外部側から大まかに特定し、その特定した位置を中心に広い範囲で補修する必要があった。これによりジャケット鋼材を大幅に除去して容器の強度が低下したり、広い範囲で補修するために時間やコストがかかるという問題があった。
【0021】
本発明は前記課題を解決するものであり、その目的とするところは、リアクター(反応容器)等のように容器鏡部が球面状或いは円錐状の曲面で構成され、容器胴部に各種の障害物がある場合でも容器鋼板の板厚を容易に測定することが出来、更には各種ノイズを容易に判定して除去することが出来る鋼板の板厚測定方法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
前記目的を達成するための本発明に係る鋼板の板厚測定方法の第1の構成は、超音波探触子を用いて超音波応答波形のエコー高さの電圧値を検出することにより鋼板の板厚を連続的に測定する方法であって、前記鋼板の底面における前記超音波探触子による超音波応答波形のエコー高さの電圧値を検出する底面エコー監視ゲートを所定の時間幅範囲で設定し、その底面エコー監視ゲートの開始時点を第1の開始時点としたときのその底面エコー監視ゲートが前記超音波応答波形を切る位置において算出された鋼板の第1の板厚と、前記底面エコー監視ゲートの開始時点を第1の開始時点よりも所定の時間だけ早い応答時刻の第2の開始時点に移動したときのその底面エコー監視ゲートが前記超音波応答波形を切る位置において算出された鋼板の第2の板厚と、を比較して前記第2の板厚が前記第1の板厚よりも小さい間は前記底面エコー監視ゲートの開始時点を所定の時間だけ早い応答時刻に移動し、前記第2の板厚と前記第1の板厚とが一致した場合に前記底面エコー監視ゲートの開始時点を固定することを特徴とする。
【0023】
また、本発明に係る鋼板の板厚測定方法の第2の構成は、前記第1の構成の鋼板の板厚測定方法において、更に前記鋼板が異なる材質からなる表面層を張り合わせて構成され、前記表面層と前記鋼板との境界面における前記超音波探触子による超音波応答波形のエコー高さの電圧値を検出する境界面エコー監視ゲートを所定の時間幅範囲で設定し、その時間幅範囲におけるエコー高さの平均電圧値、エコー高さの累積電圧値及びエコー高さのピーク電圧値のうちの少なくとも1つを算出して鋼板全体における統計分布を作成し、その統計分布から2分化されたエコー高さの平均電圧値が高いほうの分布、エコー高さの累積電圧値の高いほうの分布或いはエコー高さのピーク電圧値の高いほうの分布をノイズ群として判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る鋼板の板厚測定方法の第1の構成によれば、底面エコー監視ゲートの開始時点を第1の開始時点としたときのその底面エコー監視ゲートが超音波応答波形を切る位置において算出された鋼板の第1の板厚と、底面エコー監視ゲートの開始時点を第1の開始時点よりも所定の時間だけ早い応答時刻の第2の開始時点に移動したときのその底面エコー監視ゲートが超音波応答波形を切る位置において算出された鋼板の第2の板厚と、を比較して第2の板厚が第1の板厚よりも小さい間は底面エコー監視ゲートの開始時点を所定の時間だけ早い応答時刻に移動することで、底面エコー監視ゲートの開始時点を鋼板における超音波探触子による超音波応答波形の立ち上がり時点に近づけることが出来、前記第2の板厚と前記第1の板厚とが一致した場合に底面エコー監視ゲートの開始時点を固定することで、その底面エコー監視ゲートが超音波応答波形を切る位置において算出された鋼板の板厚を正確に測定することが出来る。
【0025】
また、本発明に係る鋼板の板厚測定方法の第2の構成によれば、所定の時間幅範囲で設定した境界面エコー監視ゲートのその時間幅範囲におけるエコー高さの平均電圧値、エコー高さの累積電圧値及びエコー高さのピーク電圧値のうちの少なくとも1つを算出して容器全体における各統計分布を作成することが出来る。異なる材質からなる表面層を張り合わせて構成される鋼板と表面層との間に剥離が生じていた場合には、エコー高さの高い電圧値からなる剥離波形が現れて正常な境界面エコー波形と剥離波形とが、その統計分布において2分化される。
【0026】
そして、エコー高さの平均電圧値が高いほうの分布、エコー高さの累積電圧値の高いほうの分布或いはエコー高さのピーク電圧値の高いほうの分布を鋼板と表面層との剥離によるノイズ群として判定することが出来る。
【0027】
そのノイズ群を指定して板厚表示をしないことにより鋼板と表面層との剥離による実厚よりも薄い厚さを示す誤表示を防止することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
図により本発明に係る鋼板の板厚測定方法が適用される装置の一例として、容器鏡部(容器底部)が球面状の曲面からなり投影形状が円形で構成され、その容器鏡部と略直交する方向に連続する略円筒形状の容器胴部を有し、その容器胴部にバッフル等の障害物が設けられたリアクター(反応容器)に適用した場合の容器鋼板の板厚測定装置を適用した場合の一実施形態を具体的に説明する。
【0029】
図1及び図2において、1はリアクター(反応容器)であり、所定の曲率を有する曲面からなり投影形状が円形で形成された容器鏡部1aと、その容器鏡部1aに高さ方向に連続する略円筒形状の容器胴部1bとを有して構成されている。
【0030】
本実施形態の容器鏡部1aは球面状の曲面で構成された場合の一例について説明するが、円錐状の曲面で構成された容器鏡部にも同様に適用可能である。また、本実施形態のリアクター1の軸中心部には図示しないモータにより回転駆動される攪拌機2が設けられ、容器胴部1bには攪拌促進を兼ねた注入管としてのバッフル3が支持されている。
【0031】
本実施形態において、攪拌機2やバッフル3は板厚測定における障害物となる。尚、図示しないが、他の障害物として、攪拌翼、ガス吸い込み配管、温度計等がリアクター1の内部に配置される場合もある。
【0032】
リアクター1の容器鏡部1aから容器胴部1bに亘る外周部には、反応温度の保温或いは温度調節を目的として温水や水を流通させるためのジャケット鋼材4が溶接等により設けられている。
【0033】
図1に示す走行台車5は複数の超音波探触子7を搭載し、容器胴部1bの鋼板上を鉛直方向(高さ方向)或いは水平方向(円周方向)に走行する走行台車であり、図2に示す走行台車6は同じく複数の超音波探触子7を搭載し、容器鏡部1aの鋼板上を所定の曲率半径で円周方向に走行する走行台車である。
【0034】
超音波探触子7は、プローブユニットを兼ねる小台車7aにより支持されており、該小台車7aはジンバル機構を介して超音波探触子ユニット13の支持フレームに支持されている。本実施形態の超音波探触子ユニット13には12個の超音波探触子7が千鳥状(互い違い)に配列されて一体的に装備されている。
【0035】
図3〜図5に示すように、容器鏡部1aの鋼板上を走行する走行台車6は、その前輪10に走行軌跡の曲率半径を変更可能なステアリング機構8が設けられており、ステアリング機構8のリンク機構に連結されたステアリング角度調整ノブ8aを図3の上下方向にスライドすることで前輪10のステアリング角度が調節出来るようになっている。
【0036】
一方、左右の後輪11には、該左右の後輪11を夫々独立して回転駆動することが出来る走行駆動機構となる走行モータ12が設けられている。
【0037】
9は容器鋼板に対して磁力による吸着力を発揮する磁性体となる磁石である。尚、磁性体としては永久磁石や電磁石を採用することが出来る。また、前後輪10,11の4つの車輪を夫々磁石で構成しても良い。
【0038】
13は複数の超音波探触子7を一体的に搭載した超音波探触子ユニットであり、該超音波探触子ユニット13は走行台車6の本体フレーム14に対して着脱可能に構成されている。尚、超音波探触子ユニット13は図7〜図12に示して後述する走行台車5のキャリッジ部材15に対しても着脱可能に構成されており、これにより、共通の超音波探触子ユニット13が、容器鏡部1aを走行する走行台車6と、容器胴部1bを走行する走行台車5とに選択的に着脱可能になっている。
【0039】
超音波探触子ユニット13を走行台車5,6に対して着脱する着脱手段としては、ボルト止めやネジ止めでも良いが、本実施形態ではバックル28を用いてワンタッチで着脱可能に構成している。尚、この他にも各種の着脱手段が適用出来る。
【0040】
16は距離測定機構となるエンコーダであり、17は電源ケーブルや信号ケーブル17aが接続される制御ケーブルコネクタである。走行台車6の制御ケーブルコネクタ17は走行モータ12の電源ケーブルや制御信号を伝達する信号ケーブル、更には超音波探触子7の制御信号及び該超音波探触子7による板厚測定データを伝達する信号ケーブル、エンコーダ16により測定された走行距離データを伝達する信号ケーブル等を接続する。
【0041】
走行台車6の本体フレーム14の側部には回転ガイドジョイント18が設けられており、該回転ガイドジョイント18には図6に示す回転半径規定部材19の一端部が連結される。
【0042】
図6において、20は容器鏡部1aの軸中心に設定される支点に対して着脱可能な支点部材であり、永久磁石や電磁石等の磁性体による吸着力、或いは吸盤等の吸着力により容器鏡部1aに対して容易に着脱可能に構成されている。
【0043】
回転半径規定部材19の他端部は支点部材20に回転自在に設けられたホルダ部材21に支持されており、長さ調整ノブ21aにより回転半径規定部材19の固定長さを調節することで、容器鏡部1aの軸中心に設定される支点と、走行台車6との離間距離を規定することが出来るようになっている。
【0044】
上記構成により、所定の曲率を有する球面状或いは円錐状等の曲面からなり投影形状が円形で形成された容器鏡部1aの鋼板板厚を測定する場合に、その容器鏡部1aの軸中心に設定される支点に対して支点部材20を装着し、回転半径規定部材19により複数の超音波探触子7が搭載された走行台車6の走行半径を規定しつつ所定の曲率半径の円周上を走行させて、その曲率半径の円周一周分の容器鏡部1aの鋼板板厚を測定することが出来、回転半径規定部材19により走行台車6と容器鏡部1aの軸中心に設定される支点との離間距離を連続的に増減すれば容器鏡部1aの略全面に亘って鋼板板厚を測定することが出来る。
【0045】
図7〜図12において、容器胴部1bの鋼板上を走行する走行台車5は、前述の走行台車6と同様に容器鋼板に対して磁力による吸着力が作用する磁性体となる磁石9を搭載している。尚、磁性体としては永久磁石や電磁石を採用することが出来る。また、前後輪10,11の4つの車輪を夫々磁石で構成しても良い。
【0046】
前後輪10,11の4つの車輪には、該4つの車輪を夫々独立して回転駆動することが出来る走行駆動機構となる走行モータ12が設けられており、この4つの走行モータ12を正転/逆転制御することで左右独立して前進/後退が可能な走行駆動機構を構成している。
【0047】
図10及び図11に示すように、走行台車5の本体フレーム14には移動手段であって回動手段を構成する回動アーム22が回動軸22aを中心にして回動可能に設けられており該回動アーム22の先端部には該回動アーム22に対して揺動自在に構成されたキャリッジ部材15が設けられている。
【0048】
複数の超音波探触子7を搭載した超音波探触子ユニット13はキャリッジ部材15に対して着脱可能に構成されており、その着脱手段は前述した超音波探触子ユニット13と本体フレーム14との着脱手段と同様にバックル28を用いてワンタッチで着脱可能に構成されている。尚、前述したと同様に他の各種の着脱手段を採用することも出来る。
【0049】
そして、回動アーム22を回動させて超音波探触子ユニット13を搭載したキャリッジ部材15を走行台車5の進行方向と交差する方向(本実施形態では直交する方向)に移動して走行台車5の幅方向に突出させることが出来るようになっている。
【0050】
また、本体フレーム14の前端部には走行台車5の進行方向の障害物を検知する障害物検知手段となるバンパー形状の衝突センサ24が設けられており、該衝突センサ24による障害物検知情報に基づいて図16に示す制御部31が走行台車5の走行モータ12を駆動制御して走行台車5の暴走や落下を防止すると共に、報知手段の一例として図15に示すコントローラ27のスピーカ27eからアラーム等の警報を鳴らしたりLED(発光ダイオード)27a等を発光させて障害物の存在を報知する。
【0051】
尚、走行台車5が障害物に当たると走行モータ12の過負荷電流を検出して該走行モータ12を駆動制御することも出来る。また、走行台車5の進行方向の障害物を検知する障害物検知手段の他の構成としては、超音波センサや赤外線センサ等を採用することでも良い。
【0052】
走行台車5の制御ケーブルコネクタ17は走行モータ12の電源ケーブルや制御信号を伝達する信号ケーブル、衝突センサ24が検知した障害物検知情報を伝達する信号ケーブル、更には超音波探触子7の制御信号及び該超音波探触子7による板厚測定データを伝達する信号ケーブル、エンコーダ16により測定された走行距離データを伝達する信号ケーブル等を接続する。
【0053】
キャリッジ部材15の支持フレームには容器鋼板に対して磁力による吸着力が作用する磁性体となる補助磁石25を搭載している。尚、磁性体としては永久磁石や電磁石を採用することが出来る。また、キャリッジ部材15の支持フレームには補助車輪26が設けられている。尚、補助車輪26を磁石で構成しても良い。
【0054】
図8、図9及び図11は走行台車5が容器胴部1bの鋼板上を鉛直方向(高さ方向)に走行する様子を示す図であり、図12は走行台車5が容器胴部1bの鋼板上を水平方向(円周方向)に走行する様子を示す図である。
【0055】
図13及び図14は容器胴部1bの鋼板上を走行する走行台車5が容器胴部1bに設けられた障害物となるバッフル3を支持する支持部材3aを回避しつつ超音波探触子ユニット13を走行台車5の幅方向に突出して障害物となる支持部材3aのラインの板厚を測定する様子を示す。
【0056】
走行台車5の前面にはバンパー形の衝突センサ24が設けてあり、図13(a)に示すように、超音波探触子ユニット13をホームポジションに搭載した状態で障害物となるバッフル3の支持部材3aのラインの板厚を測定しつつ走行して来た走行台車5は図13(b)に示すように、前面の衝突センサ24が支持部材3aに衝突して障害物を検知する。このとき、走行台車5と障害物となる支持部材3aとの間に残される図13(e)に示す未測定部30をパーソナルコンピュータ(以下、「パソコン」という)34に記録する。
【0057】
このようにパソコン34に記録した未測定部30については、回動アーム22を回動軸22aを中心に図11の時計回り方向に回動させ、超音波探触子ユニット13が搭載されたキャリッジ部材15を走行台車5の幅方向に突出させ、車線をずらして再測定が可能である。
【0058】
また、未測定部30の位置関係により走行台車5による測定方向を90°変えることが出来る。この場合、図15に示すコントローラ27の左右輪操作スティック27b,27cを操作して走行台車5を左右独立して前進/後退させる。先ず、図15のコントローラ27の左輪操作スティック27bを前進方向(図15の上方向)に倒すと共に、右輪操作スティック27cを後退方向(図15の下方向)に倒すことで、走行台車5の左前後両輪を前進方向に回転駆動すると共に右前後両輪を後退方向に回転駆動し(図13(c))、極めて小さな転回半径で90°右転回させる(図13(d))。
【0059】
更に左右輪操作スティック27b,27cを後退方向(図15の下方向)に倒して走行台車5の全輪を後退方向に回転駆動して障害物となる支持部材3aを回避して走行台車5が走行しつつ突出した超音波探触子ユニット13により未測定部30の板厚測定が出来る位置に転回可能な所定の距離だけ走行台車5を後退させる(図13(e))。
【0060】
次に、図15のコントローラ27の左輪操作スティック27bを後退方向(図15の下方向)に倒すと共に、右輪操作スティック27cを前進方向(図15の上方向)に倒すことで、走行台車5の左前後両輪を後退方向に回転駆動すると共に右前後両輪を前進方向に回転駆動し(図13(e))、極めて小さな転回半径で90°左転回させる(図13(f))。
【0061】
この時、図13(f)に示すように、走行台車5は障害物となる支持部材3aを回避して走行しつつ突出した超音波探触子ユニット13により未測定部30の板厚測定が出来る位置に車線を変更し、更にコントローラ27の左右輪操作スティック27b,27cを前進方向(図15の上方向)に倒して走行台車5の全輪を前進方向に回転駆動して走行台車5を前進させ、突出した超音波探触子ユニット13により障害物となる支持部材3aの手前に残された未測定部30の板厚を測定する。
【0062】
未測定部30の板厚測定が終了した時点で、回動アーム22を回動軸22aを中心に図11の反時計回り方向に回動させ、走行台車5の幅方向に突出していた超音波探触子ユニット13が搭載されたキャリッジ部材15を図7に示すようなホームポジションに格納する(図14(a))。
【0063】
そして、図15に示すコントローラ27の左右輪操作スティック27b,27cを前進方向(図15の上方向)に倒して走行台車5の全輪を前進方向に回転駆動して走行台車5を前進させ、障害物となる支持部材3aを通過した時点で、再度、回動アーム22を回動軸22aを中心に図11の時計回り方向に回動させ、超音波探触子ユニット13が搭載されたキャリッジ部材15を走行台車5の幅方向に突出させる(図14(b))。
【0064】
そして、図15に示すコントローラ27の左右輪操作スティック27b,27cを後退方向(図15の下方向)に倒して走行台車5の全輪を後退方向に回転駆動して走行台車5を超音波探触子ユニット13が障害物となる支持部材3aの近傍に来るまで後退させた後(図14(c))、再度、図15に示すコントローラ27の左右輪操作スティック27b,27cを前進方向(図15の上方向)に倒して走行台車5の全輪を前進方向に回転駆動して走行台車5を前進させて障害物となる支持部材3aの向こう側の未測定部を測定する(図14(d))。
【0065】
上記構成によれば、障害物検知手段となる衝突センサ24により走行台車5の進行方向の障害物を検知し、その障害物検知情報に基づいて図16に示す制御部31が走行台車5の走行モータ12を駆動制御して走行台車5の暴走や落下を防止すると共に、報知手段の一例として図15に示すコントローラ27のスピーカ27eからアラーム等の警報を鳴らしたりLED(発光ダイオード)27a等を発光させて障害物の存在を報知することが出来る。
【0066】
このように、容器胴部1bに攪拌機2、攪拌翼、攪拌促進を兼ねた注入管としてのバッフル3、ガス吸い込み配管、温度計等の障害物が存在する場合であっても走行台車5に設けた走行駆動機構となる4輪駆動の各走行モータ12により走行台車5を左右独立して前進/後退させて、その障害物を回避するように走行させながら容器胴部1bの略全面の鋼板板厚を測定することが出来る。尚、走行駆動機構としては左右独立して前進/後退可能なキャタピラ駆動機構により構成しても良いし、歩行ロボットのような走行駆動機構を適用することも出来る。
【0067】
尚、前記実施形態では、キャリッジ部材15を回動アーム22により回動操作して超音波探触子ユニット13を走行台車5の幅方向に移動させて突出させる構成としたが、走行台車5の本体フレームにスライド機構を設けて超音波探触子ユニット13を搭載したキャリッジ部材15を走行台車5の幅方向に電動等によりスライド移動させて突出させる構成としても良い。
【0068】
超音波探触子ユニット13を搭載したキャリッジ部材15を走行台車5の幅方向にスライド移動させる場合には、障害物検知手段となる衝突センサ24の障害物検知情報に基づいてモータ等のキャリッジ駆動手段によりスライド機構を駆動するように構成し、超音波探触子7の小台車7aの各車輪を独立して方向転換自在なキャスターにするか、若しくは、超音波探触子ユニット13を搭載したキャリッジ部材15を昇降する昇降機構を設け、キャリッジ部材15を一端上昇させて走行台車5の幅方向にスライド移動した後、下降させる構造とすれば良い。
【0069】
また、着脱手段となるバックル28により複数の超音波探触子7が搭載された共通の超音波探触子ユニット13を容器鏡部1aの鋼板上を走行する走行台車6の本体フレーム14と、容器胴部1bの鋼板上を走行する走行台車5のキャリッジ部材15とに選択的にワンタッチで装着して利用することが出来る。
【0070】
図15に示すコントローラ27はリアクター1内部にマンホール等から入った検査員が操作する場合の一例を示したものであり、マイクロホン27d及びスピーカ27eはリアクター1の外部に待機する検査員との連絡用に使用される。27fは走行台車5の速度調整摘みであり、27gは走行台車5の左右の車輪の速度バランスを微調整する速度バランス調整摘みである。
【0071】
また、27hは走行台車5の前進/後退方向を切り換える方向反転ボタンであり、操縦する検査員に対面する走行台車5の前後の向きに応じて方向反転ボタン27hを切り換えることで左右輪操作スティック27b,27cの操作を反転させてリモート操作を容易にすることが出来る。
【0072】
27iは走行台車5の走行を開始する走行開始ボタン、27jは走行台車5の走行を停止する走行停止ボタンである。尚、図15に示すコントローラ27を利用して容器鏡部1aを走行する走行台車6の走行動作も操作出来るようになっている。
【0073】
次に図16を用いて、板厚測定中の信号処理について説明する。先ず、図16に示す超音波厚さ計32からパルス電圧を周期的に超音波探触子7に送り、該超音波探触子7の送信振動子Tを発振させ、生じた超音波を被検体となる鋼板中に送り込む。
【0074】
次に被検体底面からの反射波を超音波探触子7の受信振動子Rで受信し、該受信振動子Rが発振することにより得られる電圧を超音波厚さ計32で増幅し、マイクロコンピュータ(以下、「マイコン」という)33の高速アナログ/デジタル変換器(以下、単に「高速A/D」という)33aへ出力する。
【0075】
マイコン33では、高速A/D33aにより得られた波形のデジタル変換値をカウンタ33bを介して得られたエンコーダ16による走行台車5,6の走行位置情報と共にパソコン34へ送信する。
【0076】
パソコン34では高速A/D33aにより得られた波形のデジタル変換値に基づいて予め入手してある被検体の音速を利用して被検体の板厚を計算する。
【0077】
以上の処理を12個の超音波探触子7(一対の送信振動子Tと受信振動子Rとの組みが12ch(チャンネル))について順番に行い、連続的に板厚の測定を行う。例えば、超音波厚さ計32から超音波探触子7に送ったパルス電圧の周期を12kHzとした場合、1chあたり1kHzで測定することになる。
【0078】
パソコン34の表示画面には、図20に示すような測定画面35により現在測定中の板厚情報をエンコーダ16による走行台車5,6の走行位置情報と共にリアルタイムに表示し、測定終了時に測定画面35の保存終了ボタン35cをクリックして測定データをファイル保存する。
【0079】
次に図17を用いて、板厚測定装置のソフトウェアの構成について説明する。図17に示すマイコンソフト33cは、超音波厚さ計32からの同期信号(1kHz/ch、総合12kHz)によりch識別信号、測長データ(エンコーダカウント)、超音波全波形デジタル値(40MHz×2048点、151mm)等のデータを取得し、パソコン34へ送信する。また、マイコンソフト33cは超音波探傷器のコントロールを行う。
【0080】
板厚データを取り込むサンプリングソフト34aは、マイコン33と通信を行い、取り込んだ超音波全波形デジタル値を処理してピークの検出を行う。図20は測定中のサンプリングソフト34aの測定画面35の一例である。そして、超音波厚さ計32のコントロール、サンプリング条件の設定及び取得、測定データの取り込み等をデータ処理ソフト34bからの指示により実行する。
【0081】
図21及び図22に示すような板厚画像を形成するデータ処理ソフト34bは、超音波厚さ計32の条件設定、校正(被検体の音速を得る)、リアクター1の作図及び測定、リアクター1の板厚分布図(色分け)の作成、表示、印刷等の処理を行う。
【0082】
次に図18によりデータ処理ソフト34bが実行するデータ処理動作について説明する。図18(a)はリアクター1の作図を行う動作であり、ステップSにおいて、パソコン34のキーボードやマウス等の入力手段を用いてリアクター1の寸法を入力すると、データ処理ソフト34bによりリアクター1を作図し(ステップS)、作図したファイルを保存する(ステップS)。
【0083】
図18(b)は板厚測定を行う動作であり、前記ステップSで保存したリアクター1の作図ファイルを読み込み(ステップS11)、走行台車5,6を測定開始位置にセットする(ステップS12)。パソコン34のキーボードやマウス等の入力手段を用いて測定開始位置を入力し(ステップS13)、パソコン34の表示画面に表示された図20に示す測定画面35の測定開始ボタン35aをクリックすると共に(ステップS14)、図15に示すコントローラ27の走行開始ボタン27iを押す(ステップS15)。
【0084】
走行台車5,6は走行しながら超音波探触子7により容器鋼板の板厚を測定し(ステップS16)、リアクター1の容器鏡部1aの板厚を測定する走行台車6であれば回転半径規定部材19により規定された曲率半径の1周分が終了した段階で、また、リアクター1の容器胴部1bの板厚を測定する走行台車5で容器胴部1bを鉛直方向に測定する場合には直進する1ライン分が終了した段階で、また、走行台車5で容器胴部1bを円周方向に測定する場合にはリアクター1の容器胴部1bの1周分が終了した段階で(ステップS17)、夫々図15に示すコントローラ27の走行停止ボタン27jを押すと共に(ステップS18)、パソコン34の表示画面に表示された図20に示す測定画面35の測定中止ボタン35bをクリックし(ステップS19)、同測定画面35の保存終了ボタン35cをクリックしてエンコーダ16により検出された走行台車5,6の走行位置情報と関連付けられた板厚測定データをファイル保存する(ステップS20)。
【0085】
そして、リアクター1の容器鏡部1a及び容器胴部1bの全域の板厚測定が終了するまで(ステップS21)順次、次の板厚測定箇所へ移動し(ステップS22)、リアクター1の容器鏡部1a及び容器胴部1bの全域の板厚測定が終了した段階で板厚測定を終了する。
【0086】
図18(c)は測定した板厚の分布図を作成する動作を示し、前記ステップSで保存したリアクター1の作図ファイルを読み込むと共に(ステップS31)、前記ステップS20で保存した板厚測定ファイルを読み込む(ステップS32)。
【0087】
そして、データ処理ソフト34bはリアクター1の作図データと板厚測定データとを関連付けて図21の板厚分布図画面36に示すような板厚分布図を作成する(ステップS33)。板厚分布図の作成が終了した段階で(ステップS34)、図21に示す板厚分布図画面36を出力し(ステップS35)、印刷する場合には(ステップS36)、プリンタ出力して(ステップS37)終了する。
【0088】
図22は板厚測定結果の一例を示す図であり、図22(a)はリアクター1の容器鋼板の腐食部分を表示した図、図22(b)は板厚分布を色分け表示した図、図22(c)は5mm×5mmの単位セル毎に板厚の測定数値を表示した図である。
【0089】
通常、鋼板の表面には腐食防止のために塗膜が施されており、この塗膜の厚さを差し引いた値が実際の板厚である。そこで、本実施形態では、塗膜表面に設置した超音波探触子7により容器鋼板の板厚を測定するに当たって、超音波全波形デジタル値から検出されたピーク位置に基づいて、図19に示すように、塗膜表面に設置した超音波探触子7の送信振動子Tから発信された超音波が鋼板の底面で折り返して受信振動子Rで1回目に受信された底面エコーに基づく塗膜を含む全厚tR・B1と、塗膜表面に設置した超音波探触子7の送信振動子Tから発信された超音波が鋼板の底面で折り返し、更に塗膜と鋼板との境界面で折り返し、更に鋼板の底面で折り返して受信振動子Rで2回目に受信された底面エコーに基づく塗膜を含む全厚tR・B2との差により実際の鋼板の板厚tB1・B2を求めることが出来る。
【0090】
ここで、1回目に受信された底面エコーの信号が得られたものの、2回目に受信される底面エコーの信号が小さくて板厚tB1・B2を取得出来ない場合には、その近傍で得られた位置のデータを用いて板厚tB1・B2を求める。
【0091】
即ち、2回目に受信される底面エコーの信号が小さくて板厚tB1・B2を取得出来ない位置の板厚の予測値をtcur、板厚tB1・B2を取得出来ない位置の塗膜厚を含む全厚をt(R・B1)cur、近傍で板厚tB1・B2を取得出来た位置の塗膜厚を含む全厚をt(R・B1)near、近傍で板厚tB1・B2を取得出来た位置の板厚をt(B1・B2)nearとすると、tcur=t(R・B1)cur−{t(R・B1)near−t(B1・B2)near}により板厚の予測値を算出することが出来、この値を板厚として採用することが出来る。
【0092】
尚、前記実施形態では、略円筒形の容器胴部1bが鉛直方向に配置され、容器鏡部1aが上下に配置された場合の容器の一例について説明したが、略円筒形の容器胴部1bが水平方向に配置され、容器鏡部1aが左右に配置された場合の容器に対しても同様に適用することが出来る。
【0093】
次に図25〜図27を用いて、本発明に係る板厚測定方法について説明する。本実施形態では、走行台車5,6に搭載された超音波探触子7を用いて超音波応答波形のエコー高さの電圧値を検出することにより容器となるリアクター1の容器鏡部1a及び容器胴部1bの板厚を連続的に測定する。
【0094】
図26に示すように、容器鋼板の底面における超音波探触子7による超音波応答波形である底面エコー波形43bのエコー高さの電圧値を検出する底面エコー監視ゲート42を所定の時間幅範囲で設定し、その底面エコー監視ゲート42の開始時点を第1の開始時点t(n)としたときのその底面エコー監視ゲート42が底面エコー波形43bを切る位置において算出された容器鋼板の第1の板厚S(n)と、底面エコー監視ゲート42の開始時点を前記第1の開始時点t(n)よりも所定の時間だけ早い応答時刻の第2の開始時点t(n+1)に移動したときのその底面エコー監視ゲート42が底面エコー波形43bを切る位置において算出された容器鋼板の第2の板厚S(n+1)と、を比較して第2の板厚S(n+1)が第1の板厚S(n)よりも小さい間は底面エコー監視ゲート42の開始時点を所定の時間だけ早い応答時刻に移動する。
【0095】
図26では、底面エコー監視ゲート42の開始時点をt(n)→t(n+1)→t(n+2)→t(n+3)→t(n+4)→t(n+5)→t(n+6)→t(n+7)まで順次移動した際に、その底面エコー監視ゲート42が底面エコー波形43bを切る位置において算出された容器鋼板の板厚S(n)>S(n+1)>S(n+2)>S(n+3)>S(n+4)>S(n+5)>S(n+6)=S(n+7)となる。
【0096】
そして、第2の板厚S(n+7)と、第1の板厚S(n+6)とが一致した場合に底面エコー監視ゲート42の開始時点t(n+6)を固定する。
【0097】
これにより、図25に示すように、底面エコー監視ゲート42の開始時点tを容器鋼板の底面における超音波探触子による超音波応答波形となる底面エコー波形43bの立ち上がり時点に近づけることが出来、図26に示すように、第2の板厚S(n+7)と第1の板厚S(n+6)とが一致した場合に底面エコー監視ゲート42の開始時点t(n+6)を固定することで、その底面エコー監視ゲート42が底面エコー波形43bを切る位置において算出された容器鋼板の板厚Sを正確に測定することが出来る。
【0098】
尚、図26において、底面エコー監視ゲート42の開始時点をt(n+7)まで移動しても、図26に示すように底面エコー波形43bの前に傷エコー波形や多重エコー波形等がない場合には問題ないが、底面エコー波形43bの前に図示しない傷エコー波形や多重エコー波形等が存在する場合にはその傷エコー波形や多重エコー波形等を底面エコー監視ゲート42が検出してしまうため底面エコー監視ゲート42の開始時点t(n+6)を固定することで、底面エコー波形43bの前に図示しない傷エコー波形や多重エコー波形等が存在する場合であってもその傷エコー波形や多重エコー波形等を底面エコー監視ゲート42が検出することがない。
【0099】
底面エコー監視ゲート42の開始時点tを所定の時間だけ早い応答時刻に移動する際に、超音波探触子7の振動周期の半波長分の時間ピッチを最小単位とすることが出来る。例えば、超音波探触子7の振動周波数が5MHzの場合の半波長分の時間は0.1×10−6〔sec〕であり、この時間ピッチを最小単位として底面エコー監視ゲート42の開始時点tを順次早い応答時刻に移動することが出来る。
【0100】
これにより、図24に示して前述したように、底面エコー監視ゲート42の監視範囲を不用意に広げず、底面エコー波形43b付近に狭く底面エコー監視ゲート42の監視範囲を設けて、多重エコー波形43c等のノイズを誤検知することなく鋼板の正しい板厚を得ることが出来る。
【0101】
図27は各超音波探触子7のch1〜ch12の全てのチャンネルで、各底面エコー監視ゲート42をそれぞれ移動して、該底面エコー監視ゲート42の開始時点tを容器鋼板の底面における超音波探触子7による超音波応答波形となる底面エコー波形43bの立ち上がり時点に近づけて固定することで、全チャンネルで各底面エコー波形43bの見逃しが発生していない一例である。
【0102】
このように、超音波探触子7を用いて、容器鋼板の板厚を連続的に測定する多チャンネル型の板厚測定装置において、鋼板の底面から反射して帰る各底面エコー波形43bを検出するために設定する各底面エコー監視ゲート42の監視範囲の開始時点tを各チャンネル毎に自動設定することが出来る。
【0103】
次に図28〜図30を用いて、異なる材質からなる表面層を張り合わせて構成される容器鋼板の容器鋼板と表面層との間に剥離がある場合のノイズ判定方法について説明する。
【0104】
図28は表面層と容器鋼板との境界面における超音波探触子による超音波応答波形で、(a)は容器鋼板と表面層との間に剥離がある場合の超音波応答波形の一例であり、(b)は容器鋼板と表面層との間に剥離がない場合の健全部と減肉部を有する超音波応答波形の一例を示す図であり、(c)は容器鋼板中に介在物やラミネーション等の傷がある場合の超音波応答波形の一例を示す図である。
【0105】
本実施形態では、異なる材質からなる表面層を張り合わせて構成される容器鋼板の表面層側から超音波探触子7を用いて超音波応答波形のエコー高さの電圧値を検出することにより容器鋼板の板厚を連続的に測定する場合に、図28に示すように、表面層と容器鋼板との境界面における超音波探触子7による超音波応答波形となる境界面反射エコー波形43aのエコー高さの電圧値を検出する境界面エコー監視ゲート41を所定の時間幅範囲で設定する。
【0106】
そして、その境界面エコー監視ゲート41の時間幅範囲におけるエコー高さの平均電圧値、エコー高さの累積電圧値及びエコー高さのピーク電圧値のうちの少なくとも1つを算出して容器全体における統計分布を作成する。
【0107】
図29(a)は境界面エコー監視ゲート41の時間幅範囲におけるエコー高さの平均電圧値を算出して容器全体における統計分布を作成したものであり、異なる材質からなる表面層を張り合わせて構成される容器鋼板と表面層との間に剥離が生じていた場合には、図28(a)に示すように境界面エコー波形43aとしてエコー高さの高い電圧値からなる剥離波形が現れて、図28(b)に示す正常な境界面エコー波形43aからなる剥離なし分布と、図28(a)に示す剥離波形からなる剥離分布とが、その統計分布において2分化される。
【0108】
そして、その統計分布から2分化されたエコー高さの平均電圧値が高いほうの剥離分布を容器鋼板と表面層との剥離によるノイズ群として判定する。
【0109】
図29(b)は境界面エコー監視ゲート41の時間幅範囲におけるエコー高さの累積電圧値を算出して容器全体における統計分布を作成したものであり、図28(b)に示されるような剥離なし分布と、図28(a)に示されるような剥離分布とに2分化される。そして、その統計分布から2分化されたエコー高さの累積電圧値が高いほうの剥離分布をノイズ群として判定する。
【0110】
図29(c)は境界面エコー監視ゲート41の時間幅範囲におけるエコー高さのピーク電圧値を算出して容器全体における統計分布を作成したものであり、図28(b)に示されるような剥離なし分布と、図28(a)に示されるような剥離分布とに2分化される。そして、その統計分布から2分化されたエコー高さのピーク電圧値が高いほうの剥離分布をノイズ群として判定する。
【0111】
図30は境界面エコー監視ゲート41を設定したその時間幅範囲におけるエコー高さのピーク電圧値を算出して容器全体における統計分布を作成した結果、剥離なし分布と剥離分布との重なりにより容易に2分化出来ない場合の一例を示す図である。このような場合は、図29に示したエコー高さの平均電圧値の容器全体における統計分布か、或いはエコー高さの累積電圧値の容器全体における統計分布を併用して、その統計分布から2分化された剥離分布をノイズ群として判定することが出来る。
【0112】
即ち、図29に示したエコー高さの平均電圧値、エコー高さの累積電圧値及びエコー高さのピーク電圧値の容器全体における各統計分布のうちの少なくとも2つを利用して、それ等の統計分布から2分化された剥離分布をノイズ群として判定することが出来、これによりノイズ群の判定精度を向上することが出来る。
【0113】
そして、各統計分布から2分化された剥離分布からなるノイズ群を指定して板厚表示をしないことにより容器鋼板と表面層との剥離による実厚よりも薄い厚さを示す誤表示を防止することが出来る。
【0114】
次に図31〜図33を用いて、容器鋼板の鋼材中に介在物やラミネーション等が存在する場合のノイズ判定方法について説明する。
【0115】
図32に示す曲線aは容器鋼板が腐食により減肉した部分を超音波探触子7を用いて1mmピッチで板厚を測定した場合の板厚の変化する様子を示し、曲線bは容器鋼板の鋼材中にラミネーションが存在する部分を超音波探触子7を用いて1mmピッチで板厚を測定した場合の板厚の変化する様子を示し、曲線cは容器鋼板の鋼材中に介在物が存在する部分を超音波探触子7を用いて1mmピッチで板厚を測定した場合の板厚の変化する様子を示す図である。
【0116】
図32の曲線aで示すように、容器鋼板が腐食により減肉した部分はその板厚の変化が緩慢であるが、曲線b,cで示すように、容器鋼板の鋼材中にラミネーションや介在物が存在する部分はそのラミネーションや介在物の部位両端部でその板厚の変化が急変する。
【0117】
例えば、超音波探触子7が1mm位置が変わるだけで、測定された鋼板の板厚が5mmも異常変化すようなものは腐食によるデータ変化とは考えないものとして測定板厚データをノイズとして分別して除去することが出来る。
【0118】
超音波探触子7を用いて超音波応答波形のエコー高さの電圧値を検出することにより容器鋼板の板厚を連続的に測定する場合に、先ず容器全体を所定のピッチで測定した場合の隣り合わせの板厚値の差を算出して容器全体における統計分布を作成する。
【0119】
図33は容器全体を所定のピッチで測定した場合の隣り合わせの板厚値の差を算出して容器全体における統計分布を作成した結果、容器鋼板の鋼材中にラミネーションや介在物が存在する場合に平均値“0”を中心とした標準的な差分分布と、−(マイナス)側及び+(プラス)側に離れて分布する急変値分布の一例を示す図である。
【0120】
そして、図33に示す統計分布から板厚値の差が−(マイナス)側の正常範囲よりも小さくなった箇所をノイズ群の始点とし、更に板厚値の差が+(プラス)側の正常範囲よりも大きくなった箇所をノイズ群の終点とし、そのノイズ群の始点と終点における近接した一対の部位でその間の板厚が連続的に小さい範囲をノイズ群として判定する。
【0121】
図31は容器全体を所定のピッチで測定した場合の隣り合わせの板厚値の差を算出して板厚値の差が−(マイナス)側の正常範囲よりも小さくなった箇所をノイズ群の始点とし、更に板厚値の差が+(プラス)側の正常範囲よりも大きくなった箇所をノイズ群の終点とし、そのノイズ群の始点と終点における近接した一対の部位でその間の板厚が連続的に小さい範囲をノイズ群として判定する様子を説明する図であり、図31に示す8chの超音波探触子7により検出された多重エコー波形43cにより測定された厚さの薄い板厚値44を容器鋼板の鋼材中にラミネーションや介在物が存在するノイズ群として判定することが出来る。
【0122】
そして、そのノイズ群を指定して板厚表示をしないことにより容器鋼板の鋼材中に存在する介在物やラミネーション等による実厚よりも薄い厚さを示す誤表示を防止することが出来る。
【0123】
次に図34〜図36を用いて、外周部にジャケット鋼材4が設けられた容器内部側から超音波探触子7を用いて超音波応答波形のエコー高さの電圧値を検出することにより容器鋼板の板厚を連続的に測定した後、ジャケット鋼材4外部側から補修箇所を指定する方法について説明する。
【0124】
先ず、図34に示すように、略円筒形状の容器胴部1bの内面を(X,Y)の二次元座標上に展開し、走行台車5に搭載された超音波探触子7により連続的に測定された容器胴部1bの鋼板の板厚をプロットする。
【0125】
ここで、容器胴部1bの内面側から見た展開図の各部位と外面側から見た展開図の各部位とは左右対称になり、更に、容器胴部1bの内面側から見た展開図の各部位の寸法と、ジャケット鋼材4の外面側から見た展開図の各部位の寸法とは、図36に示すように、容器胴部1bの内径半径をr、容器胴部1bの板厚をS、容器胴部1bの外面とジャケット鋼材4の内面との間の離間間隔をg、ジャケット鋼材4の板厚をSとしたとき、容器胴部1bの内周長は2πr、ジャケット鋼材4の外周長は2π(r+S+g+S)であることから、左右方向に(r+S+g+S)/r倍に拡大される。
【0126】
従って、容器胴部1bの内面を展開すると共に、容器胴部1bの内面側から超音波探触子7により連続的に測定された容器胴部1bの鋼板の板厚をプロットした(X,Y)の二次元座標について、左右対称に座標変換すると同時に左右方向に(r+S+g+S)/r倍の拡大座標変換を行う。
【0127】
この場合の(X,Y)の二次元座標を左右対称に座標変換すると同時に左右方向に(r+S+g+S)/r倍の拡大座標変換を行う場合、以下の変換式を使って座標変換することが出来る。
【0128】
【数1】

【0129】
このようにして座標変換された(X′,Y′)の二次元座標は、図35に示すように、ジャケット鋼材4の外面を展開した二次元座標として作成される。
【0130】
図34に示す(X,Y)の二次元座標では、図34の左下を原点とし、X軸は右側を+方向にとり、Y軸は上側を+方向にとって表示したものであり、図35に示す(X′,Y′)の二次元座標では、図35の右下を原点とし、X′軸は左側を+方向にとり、Y′軸は上側を+方向にとって表示したものである。
【0131】
そして、図35に示すように、(X′,Y′)の二次元座標上にプロットされた容器鋼板の板厚に基づいてジャケット鋼材4の外部側から補修箇所を正確に指定することが出来る。
【0132】
このように、ピンポイントの狭い範囲でジャケット鋼材4の外部側から補修箇所を正確に指定することが出来、従来の経験による補修法と比較して、効率的に容器胴部1bの補修作業を実施することが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明は、鋼板の板厚を測定する方法に適用出来、特にリアクター(反応容器)等のように容器鏡部(容器底部)が球面状或いは円錐状の曲面で構成され、容器胴部にバッフルや攪拌部材等の障害物がある場合でも鋼板の板厚を容易に測定することが出来る鋼板の板厚測定方法に適用出来るものである。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】本発明に係る鋼板の板厚測定方法によりリアクターの容器胴部の板厚を測定する様子を示す断面説明図である。
【図2】(a),(b)は本発明に係る鋼板の板厚測定方法によりリアクターの容器鏡部の板厚を測定する様子を示す平面図及び断面側面図である。
【図3】球面状の曲面からなる容器鏡部の鋼板上を走行し得る第1の走行台車の構成を示す平面図である。
【図4】球面状の曲面からなる容器鏡部の鋼板上を走行し得る第1の走行台車の構成を示す側面図である。
【図5】球面状の曲面からなる容器鏡部の鋼板上を走行し得る第1の走行台車の構成を示す正面図である。
【図6】(a)〜(c)は容器鏡部の軸中心に設定される支点に対して着脱可能な支点部材の構成を示す平面図、側面図及び正面図である。
【図7】容器鏡部と略直交する方向に連続する略円筒形状の容器胴部の鋼板上を走行し得る第2の走行台車の構成を示す平面図である。
【図8】容器鏡部と略直交する方向に連続する略円筒形状の容器胴部の鋼板上を走行し得る第2の走行台車の構成を示す側面図である。
【図9】容器鏡部と略直交する方向に連続する略円筒形状の容器胴部の鋼板上を走行し得る第2の走行台車の構成を示す正面図である。
【図10】容器鏡部と略直交する方向に連続する略円筒形状の容器胴部の鋼板上を走行し得る第2の走行台車において、複数の超音波探触子を搭載したキャリッジ部材を該走行台車の進行方向と交差する方向に移動して突出させた構成を示す平面図である。
【図11】容器鏡部と略直交する方向に連続する略円筒形状の容器胴部の鋼板上を走行し得る第2の走行台車において、複数の超音波探触子を搭載したキャリッジ部材を該走行台車の進行方向と交差する方向に移動して突出させた構成を示す後面図である。
【図12】第2の走行台車が容器胴部の鋼板上を円周方向に走行する様子を示す側面図である。
【図13】第2の走行台車が障害物を回避しつつ複数の超音波探触子を幅方向に突出させて容器胴部の板厚を測定する様子を示す平面模式図である。
【図14】第2の走行台車が障害物を回避しつつ複数の超音波探触子を幅方向に突出させて容器胴部の板厚を測定する様子を示す平面模式図である。
【図15】走行台車のコントローラの構成を示す図である。
【図16】制御系の構成を示すブロック図である。
【図17】板厚測定データの処理を行う情報処理系の構成を示すブロック図である。
【図18】板厚測定データの処理を行う様子を示すフローチャートである。
【図19】板厚測定方法の一例を説明する図である。
【図20】測定中サンプリングソフトの測定画面の一例を示す図である。
【図21】データ処理ソフトの板厚分布図の一例を示す図である。
【図22】測定結果の一例を示す図である。
【図23】底面エコー監視ゲートを固定した従来例の課題を説明する図である。
【図24】底面エコー監視ゲート範囲を延長した従来例の課題を説明する図である。
【図25】本発明に係る鋼板の板厚測定方法により底面エコー監視ゲートの開始時点を移動させて容器鋼板の底面における超音波探触子による超音波応答波形の立ち上がり時点に近づけて板厚を測定する様子を示す図である。
【図26】底面エコー監視ゲートの開始時点を順次移動させて容器鋼板の底面における超音波探触子による超音波応答波形の立ち上がり時点に近づけてゆく様子を示す図である。
【図27】本発明に係る鋼板の板厚測定方法により1ch〜12chの各底面エコー監視ゲートの開始時点をそれぞれ移動させて容器鋼板の底面における各超音波探触子による超音波応答波形の立ち上がり時点に近づけて板厚を測定する様子を示す図である。
【図28】表面層と容器鋼板との境界面における超音波探触子による超音波応答波形で、(a)は容器鋼板と表面層との間に剥離がある場合の超音波応答波形の一例であり、(b)は容器鋼板と表面層との間に剥離がない場合の超音波応答波形の一例を示す図であり、(c)は容器鋼板中に介在物やラミネーション等の傷がある場合の超音波応答波形の一例を示す図である。
【図29】(a)〜(c)は境界面エコー監視ゲートを設定したその時間幅範囲におけるエコー高さの平均電圧値、エコー高さの累積電圧値、エコー高さのピーク電圧値をそれぞれ算出して容器全体における統計分布を作成した結果、剥離なし分布と剥離分布とに2分化された様子を示す図である。
【図30】境界面エコー監視ゲートを設定したその時間幅範囲におけるエコー高さのピーク電圧値を算出して容器全体における統計分布を作成した結果、剥離なし分布と剥離分布との重なりにより容易に2分化出来ない場合の一例を示す図である。
【図31】容器全体を所定のピッチで測定した場合の隣り合わせの板厚値の差を算出して板厚値の差が−(マイナス)側の正常範囲よりも小さくなった箇所をノイズ群の始点とし、更に板厚値の差が+(プラス)側の正常範囲よりも大きくなった箇所をノイズ群の終点とし、そのノイズ群の始点と終点における近接した一対の部位でその間の板厚が連続的に小さい範囲をノイズ群として判定する様子を説明する図である。
【図32】腐食により鋼板が減肉した場合、ラミネーションが存在する場合、介在物が存在する場合で各1mmピッチで超音波探触子により測定した板厚が変化する様子を示す図である。
【図33】容器全体を所定のピッチで測定した場合の隣り合わせの板厚値の差を算出して容器全体における統計分布を作成した結果、容器鋼板の鋼材中にラミネーションや介在物が存在する場合に標準的な差分分布が平均値“0”の正規分布に集約し、急変値分布が−(マイナス)側及び+(プラス)側に離れて分布している様子を示す図である。
【図34】略円筒形状の容器胴部内面を展開した二次元座標上に、測定された容器鋼板の板厚をプロットした様子を示す図である。
【図35】測定された容器鋼板の板厚をプロットした図34に示す二次元座標について左右対称に座標変換すると共に左右方向に拡大座標変換した様子を示す図である。
【図36】容器胴部の内径半径をr、容器胴部の板厚をS、容器胴部外面とジャケット鋼材内面との間の離間間隔をg、ジャケット鋼材の板厚をSとしたとき、図34に示す二次元座標について左右方向に(r+S+g+S)/r倍の拡大座標変換を行う原理を説明する図である。
【符号の説明】
【0135】
1…リアクター、1a…容器鏡部(容器底部)、1b…容器胴部、2…攪拌機、3…バッフル、3a…支持部材、4…ジャケット鋼材、5,6…走行台車、7…超音波探触子、7a…小台車、8…ステアリング機構、8a…ステアリング角度調整ノブ、9…磁石、10…前輪、11…後輪、12…走行モータ、13…超音波探触子ユニット、14…本体フレーム、15…キャリッジ部材、16…エンコーダ、17…制御ケーブルコネクタ、17a…電源ケーブルや信号ケーブル、18…回転ガイドジョイント、19…回転半径規定部材、20…支点部材、21…ホルダ部材、21a…長さ調整ノブ、22…回動アーム、22a…回動軸、24…衝突センサ、25…補助磁石、26…補助車輪、27…コントローラ、27a…LED、27b,27c…左右輪操作スティック、27d…マイクロホン、27e…スピーカ、27f…速度調整摘み、27g…速度バランス調整摘み、27h…方向反転ボタン、27i…走行開始ボタン、27j…走行停止ボタン、28…バックル、30…未測定部、31…制御部、32…超音波厚さ計、33…マイコン、33a…高速A/D、33b…カウンタ、33c…マイコンソフト、34…パソコン、34a…サンプリングソフト、34b…データ処理ソフト、35…測定画面、35a…測定開始ボタン、35b…測定中止ボタン、35c…保存終了ボタン、36…板厚分布図画面、41…境界面エコー監視ゲート、42…底面エコー監視ゲート、43a…境界面エコー波形、43b…底面エコー波形、43c…多重エコー波形、43d…傷エコー波形、44…厚さの薄い板厚値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波探触子を用いて超音波応答波形のエコー高さの電圧値を検出することにより鋼板の板厚を連続的に測定する方法であって、
前記鋼板の底面における前記超音波探触子による超音波応答波形のエコー高さの電圧値を検出する底面エコー監視ゲートを所定の時間幅範囲で設定し、その底面エコー監視ゲートの開始時点を第1の開始時点としたときのその底面エコー監視ゲートが前記超音波応答波形を切る位置において算出された鋼板の第1の板厚と、前記底面エコー監視ゲートの開始時点を第1の開始時点よりも所定の時間だけ早い応答時刻の第2の開始時点に移動したときのその底面エコー監視ゲートが前記超音波応答波形を切る位置において算出された鋼板の第2の板厚と、を比較して前記第2の板厚が前記第1の板厚よりも小さい間は前記底面エコー監視ゲートの開始時点を所定の時間だけ早い応答時刻に移動し、前記第2の板厚と前記第1の板厚とが一致した場合に前記底面エコー監視ゲートの開始時点を固定することを特徴とする鋼板の板厚測定方法。
【請求項2】
更に前記鋼板が異なる材質からなる表面層を張り合わせて構成され、
前記表面層と前記鋼板との境界面における前記超音波探触子による超音波応答波形のエコー高さの電圧値を検出する境界面エコー監視ゲートを所定の時間幅範囲で設定し、その時間幅範囲におけるエコー高さの平均電圧値、エコー高さの累積電圧値及びエコー高さのピーク電圧値のうちの少なくとも1つを算出して鋼板全体における統計分布を作成し、その統計分布から2分化されたエコー高さの平均電圧値が高いほうの分布、エコー高さの累積電圧値の高いほうの分布或いはエコー高さのピーク電圧値の高いほうの分布をノイズ群として判定することを特徴とする請求項1に記載の鋼板の板厚測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図32】
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【図33】
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【図36】
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【図22】
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【図23】
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【図27】
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【図31】
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【図34】
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【図35】
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【公開番号】特開2007−147646(P2007−147646A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−18105(P2007−18105)
【出願日】平成19年1月29日(2007.1.29)
【分割の表示】特願2004−556824(P2004−556824)の分割
【原出願日】平成15年10月24日(2003.10.24)
【出願人】(000116736)旭化成エンジニアリング株式会社 (49)
【出願人】(591053856)新日本非破壊検査株式会社 (29)
【Fターム(参考)】