説明

鋼矢板の改修工法

【課題】鋼矢板を補修し補強する鋼矢板の改修工法を提供すること。
【解決手段】錆1が発生した鋼矢板2の表面に、研磨剤と水溶性防錆剤とを液体に混合して成る補修用剤3をブラスト装置4により吹き付けする補修工程を行って、前記研磨剤の研磨作用により腐食した鋼矢板2表面の錆1を除去すると共に、鋼矢板2表面に前記防錆剤を付着せしめ、続いてこの鋼矢板2の表面に、液体を加えると硬化する性状の硬化剤と水溶性防錆剤とを液体に混合して成る補強用剤5をブラスト装置4により吹き付けする補強工程を行って、前記硬化剤の硬化作用によりこの鋼矢板2の表面に防錆作用を有する補強層6を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川,海等の岸壁、あるいは地上の擁壁等として打設される鋼矢板を補修し補強する鋼矢板の改修工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、河川,海等の岸壁、あるいは地上の擁壁等として、一般にU型等の鋼矢板をその爪部を係合して連続打設してなる矢板壁が使用されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このような鋼矢板は、水中に沈んでいる部位が多いために非常に錆が発生し易い環境にあり、経年使用により腐食してしまうと強度の低下を生じてしまうので、錆が発生した場合にはサンドブラストによる錆落としを行って腐食を防止している。
【0004】
しかしながら、せっかく錆落としを行っても、一度錆が発生してしまった鋼矢板にはわずか数時間ほどで再び錆が発生してしまうので一時凌ぎにしかならず、もっと効果的な補修方法が望まれていた。
【0005】
本発明は、このような現状に鑑みて発案されたもので、鋼矢板の錆を落とすと同時に錆の再発生を防止でき、更に防錆効果のある補強用剤で鋼矢板をライニングして(補強層を形成して)、防錆効果と強度向上効果とを兼ね備えた鋼矢板に改修することができる画期的な鋼矢板の改修工法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0007】
錆1が発生した鋼矢板2の表面に、研磨剤と水溶性防錆剤とを液体に混合して成る補修用剤3をブラスト装置4により吹き付けする補修工程を行って、前記研磨剤の研磨作用により腐食した鋼矢板2表面の錆1を除去すると共に、鋼矢板2表面に前記防錆剤を付着せしめ、続いてこの鋼矢板2の表面に、液体を加えると硬化する性状の硬化剤と水溶性防錆剤とを液体に混合して成る補強用剤5をブラスト装置4により吹き付けする補強工程を行って、前記硬化剤の硬化作用によりこの鋼矢板2の表面に防錆作用を有する補強層6を形成することを特徴とする鋼矢板の改修工法に係るものである。
【0008】
また、前記水溶性防錆剤として、金属イオン不活性化作用を有するキレート剤を採用し、前記液体を加えると硬化する性状の硬化剤として、キレート剤と混合しても硬化作用が阻害されない性状の硬化剤を採用することを特徴とする請求項1記載の鋼矢板の改修工法に係るものである。
【0009】
また、前記水溶性防錆剤として、生分解性のキレート剤を採用することを特徴とする請求項1,2のいずれか1項に記載の鋼矢板の改修工法に係るものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明は上述のように、錆が発生した鋼矢板の表面に、研磨剤と水溶性防錆剤とを液体に混合して成る補修用剤をブラスト装置により吹き付けする補修工程を行うから、この補修工程により鋼矢板の錆の除去と同時に錆の再発生を防止することができ、更に、鋼矢板の表面に、液体を加えると硬化する性状の硬化剤と水溶性防錆剤とを液体に混合して成る補強用剤をブラスト装置により吹き付けする補強工程を行うから、この補強工程により鋼矢板の表面に防錆効果のある補強層を形成して鋼矢板を高強度に補強することができ、従って、ブラスト装置を用いた簡単な吹き付け作業を二回行うだけで、高い防錆効果と補強効果とを兼ね備えた鋼矢板に改修することが可能となる極めて実用性に優れた鋼矢板の改修工法となる。
【0011】
また、請求項2記載の発明においては、水溶性防錆剤として、金属イオン不活性化作用を有するキレート剤を採用したから、このキレート剤により鋼矢板に対して確実な防錆効果を付与することができ、しかも、液体を加えると硬化する性状の硬化剤として、キレート剤と混合しても硬化作用が阻害されない性状の硬化剤を採用したから、防錆作用を有する補強層を迅速に形成できることとなるなど、一層実用性・施工性に優れた鋼矢板の改修工法となる。
【0012】
また、請求項3記載の発明においては、水溶性防錆剤として採用したキレート剤により鋼矢板に対して確実な防錆効果を付与することができ、しかも、このキレート剤は生分解性としたから、自然環境への悪影響が少ないなど、一層実用性に優れた鋼矢板の改修工法となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施例の補修工程を行っている状態を示す説明斜視図である。
【図2】本実施例の補強工程を行っている状態を示す説明斜視図である。
【図3】本実施例により改修した鋼矢板を示す説明平面図である。
【図4】図3のA−A線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0015】
錆1が発生した鋼矢板2の表面に、研磨剤と水溶性防錆剤とを液体に混合して成る補修用剤3をブラスト装置4により吹き付けする補修工程を行う。
【0016】
すると、この補修用剤3に混合されている前記研磨剤の研磨作用により腐食した鋼矢板2表面の錆1が除去されると共に、前記防錆剤が鋼矢板2表面に付着して防錆作用が付与されることになり、簡単には錆付かない鋼矢板2となる。
【0017】
従って、ブラスト装置4を用いた簡単な補修用剤3の吹き付け作業(補修工程)により、鋼矢板2の補修(錆の除去)と同時に防錆作用も付与することができる。
【0018】
続いて、鋼矢板2の表面に、液体を加えると硬化する性状の硬化剤と水溶性防錆剤とを液体に混合して成る補強用剤5をブラスト装置4により吹き付けする補強工程を行う。
【0019】
すると、補強用剤5に混合されている前記硬化剤が液体に触れることで硬化し始めるので、鋼矢板2の表面に吹き付けられた補強用剤5はやがて硬化し、鋼矢板2の表面に防錆作用を有する(防錆剤を含む)補強層6を形成することになる。
【0020】
従って、ブラスト装置4を用いた簡単な補強用剤5の吹き付け作業(補強工程)により、鋼矢板2はその表面を覆うように形成される補強層6によって補強されて高強度を発揮するものとなると共に、この補強層6自体が防錆作用を有することと、前記補修工程によって鋼矢板2の表面に付与された防錆作用とによる二重の防錆効果が発揮されて極めて錆にくい鋼矢板2に改修されることとなる。
【0021】
よって本発明によれば、ブラスト装置4を用いた簡単な吹き付け作業を二回行うだけで、高い防錆効果と補強効果とを兼ね備えた鋼矢板2に改修することが可能となる。
【0022】
また、例えば、前記水溶性防錆剤として、金属イオン不活性化作用を有するキレート剤を採用し、前記液体を加えると硬化する性状の硬化剤として、キレート剤と混合しても硬化作用が阻害されない性状の硬化剤を採用すれば、キレート剤により水中などに存在する金属イオンが効果的に不活性化されるので、鋼矢板2の錆の発生が極めて良好に抑制されることになる。また、硬化剤としてコンクリートなどのセメントを主成分とするものを用いると、キレート剤によって硬化作用が阻害されて硬化しづらくなることが知られているが、キレート剤による硬化阻害のない硬化剤を採用することで、通常の硬化時間で確実に硬化して鋼矢板2表面に迅速に補強層6を形成することができる。
【0023】
また、例えば、前記水溶性防錆剤として、生分解性のキレート剤を採用すれば、このキレート剤が海や川に流れても自然環境に与える影響は少ない。
【実施例】
【0024】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0025】
図面は、河岸あるいは海岸に沿って連続打設した鋼矢板2(岸壁)に対して改修を行った場合を示している。図中符号7は鋼矢板2上に設置された笠コンクリートブロック、8は河岸あるいは海岸の土壌、9は水面である。
【0026】
先ず、錆1が発生した鋼矢板2の表面に、研磨剤と水溶性防錆剤とを液体に混合して成る補修用剤3をブラスト装置4により吹き付けする補修工程を行う。
【0027】
本実施例の補修用剤3について具体的に説明すると、前記研磨剤は、砂を採用している。即ち、サンドブラスト処理によって確実に鋼矢板2を研磨して錆を除去する構成としている。
【0028】
また、前記水溶性防錆剤は、金属イオン不活性化作用を有するキレート剤(金属イオン封鎖剤)を採用している。
【0029】
更に詳しくは、本実施例のキレート剤は、CHNO・4Na(3-ヒドロキシ-2,2'-イミノジコハク酸4ナトリウム)を採用している。このキレート剤は、広いpH範囲で、CaのみならずFe,Cuなどの金属イオンを効果的に不活性化し、水などに含まれる金属イオンによる腐食抑制作用を有している。また、このキレート剤は、生分解性であり、自然環境にも配慮した工法を実現している。尚、この水溶性防錆剤は、キレート剤が好ましいが、本実施例に限定されるものではなく、要は防錆作用を有するものであれば良い。
【0030】
また、前記液体は、水を採用している。
【0031】
また、本実施例では、ブラスト装置4としてショットブラスト装置4を使用するが、例えばウェットブラスト装置4を使用することにより、砂とキレート剤とを液体に混合して成る補修用剤3を、錆1が発生した鋼矢板2の表面に容易に吹き付け可能である。
【0032】
図1は、この補修工程を、鋼矢板2の水中に没している部位の水面9側の表面に対して行っているところを示している。
【0033】
この補修工程を行うと、補修用剤3に混合されている砂の研磨作用により腐食した鋼矢板2表面の錆1が除去されると共に、キレート剤が鋼矢板2表面に付着して(転写されて)防錆作用が付与されることになり、簡単には錆付かない鋼矢板2に補修されることになる。
【0034】
続いて、この補修工程を経た鋼矢板2の表面に、液体を加えると硬化する性状の硬化剤と水溶性防錆剤とを液体に混合して成る補強用剤5をブラスト装置4により吹き付けする補強工程を行う。
【0035】
本実施例の補強用剤5について具体的に説明すると、前記水溶性防錆剤と前記液体は、前記補修工程の補修用剤3に混合されるものと同様としている。
【0036】
また、前記硬化剤は、本実施例で水溶性防錆剤として採用したキレート剤と混合しても硬化作用が阻害されない性状の硬化剤を採用している。
【0037】
更に詳しくは、本実施例の硬化剤は、セメントを主成分としないセラミック素材の微粉末で成る硬化剤(セラミックモルタルとも称される。)を採用している。このセラミック素材の硬化剤は、水を加えると硬化し、硬化が早く、高い強度を有するものである。また、セメントが主成分ではないため、キレート剤と混合した場合でも、硬化に阻害がなく短時間で硬化する性質である。尚、この硬化剤は、本実施例に限定されるものではなく、要は液体を加えると硬化するものであれば良いのであるが、水溶性防錆剤としてキレート剤を採用した場合には、セラミック系や樹脂系などのキレート剤と混合しても硬化作用が阻害されない性状の硬化剤を採用することが好ましい。
【0038】
この補強工程で使用するブラスト装置4も、例えばウェットブラスト装置4を用いることにより、硬化剤とキレート剤とを液体に混合して成る補強用剤5を、鋼矢板2の表面に容易に吹き付け可能である。
【0039】
図2は、この補強工程を、鋼矢板2の水上に露出している部位の水面9側の表面に対して行っているところを示している。
【0040】
この補強工程を行うと、補強用剤5に混合されているセラミック素材の硬化剤が水に触れることで硬化し始めるので、鋼矢板2の表面に吹き付けられた補強用剤5は短時間で硬化し、鋼矢板2の表面にキレート剤を含むことによる防錆作用を具備した補強層6を迅速に形成することになる。
【0041】
従って、本実施例によれば、ブラスト装置4を用いた簡単な補修用剤3の吹き付け作業(補修工程)により鋼矢板2の補修(錆落とし)と同時に防錆作用も付与することができ、更に、ブラスト装置4を用いた簡単な補強用剤5の吹き付け作業(補強工程)により鋼矢板2の補強作用を付与することができる。そして、この二工程を経た鋼矢板2は、除錆された表面を覆うように形成される補強層6によって補強されて高強度を発揮するものとなると共に、この補強層6の防錆作用と前記補修工程を経て鋼矢板2の表面に付与された防錆作用とによる二重の防錆効果が発揮されて極めて錆にくい鋼矢板2に改修されることとなる。
【0042】
尚、本発明は、本実施例に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。
【符号の説明】
【0043】
1 錆
2 鋼矢板
3 補修用剤
4 ブラスト装置
5 補強用剤
6 補強層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
錆が発生した鋼矢板の表面に、研磨剤と水溶性防錆剤とを液体に混合して成る補修用剤をブラスト装置により吹き付けする補修工程を行って、前記研磨剤の研磨作用により腐食した鋼矢板表面の錆を除去すると共に、鋼矢板表面に前記防錆剤を付着せしめ、続いてこの鋼矢板の表面に、液体を加えると硬化する性状の硬化剤と水溶性防錆剤とを液体に混合して成る補強用剤をブラスト装置により吹き付けする補強工程を行って、前記硬化剤の硬化作用によりこの鋼矢板の表面に防錆作用を有する補強層を形成することを特徴とする鋼矢板の改修工法。
【請求項2】
前記水溶性防錆剤として、金属イオン不活性化作用を有するキレート剤を採用し、前記液体を加えると硬化する性状の硬化剤として、キレート剤と混合しても硬化作用が阻害されない性状の硬化剤を採用することを特徴とする請求項1記載の鋼矢板の改修工法。
【請求項3】
前記水溶性防錆剤として、生分解性のキレート剤を採用することを特徴とする請求項1,2のいずれか1項に記載の鋼矢板の改修工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−2010(P2012−2010A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−139559(P2010−139559)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(504327351)
【出願人】(599116797)株式会社プロダクト技研 (5)
【Fターム(参考)】