説明

鋼管矢板壁の継手構造

【課題】簡単な構造によって、確実に遮水できる鋼管矢板壁の継手構造を提供する。
【解決手段】鋼管矢板2,3の外側に継手材21,31が取り付けられ、一方の鋼管矢板2の継手材21と他方の鋼管矢板3の継手材31とが嵌め合わされて連結される鋼管矢板壁の継手構造Sである。
そして、この鋼管矢板壁の継手構造Sは、一方の継手材21には遮水板4が取り付けられ、嵌め合わされた際には、この遮水板4が弾性変形して、他方の継手材31に当接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管矢板壁の継手構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼管矢板壁を構築する際に、鋼管矢板の止水処理として、それぞれの鋼管矢板を建て込んだ後に、鋼管矢板の継手材間の隙間に、グラウト材を充填することで止水処理が行われている。
【0003】
この従来の止水処理では、グラウト材を充填するまでは隙間を止水していないため、工事に伴って生じた油分などを含んだ濁水が、鋼管矢板壁で仕切られた内水域側から外水域側へ流出することが問題となる。
【0004】
この問題を解決するために、従来は、鋼管矢板壁の外水域側にオイルフェンスを設けて濁水を遮断することや、流出した油分などを吸着マットによって回収することで外水域の汚染を防止していた。
【0005】
一方、止水処理のために隙間にグラウト材を充填する際に、継手管内から外水域に濁水が流出することも問題となるが、特許文献1では、継手管のスリットに沿って生じる隙間を閉鎖する止水板を設けることで、濁水が隙間を通じて流出することを防止している。
【特許文献1】特開2002−105950号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のようにオイルフェンスや吸着マットを用いる方法では、作業に手間が係る上、常に監視しておく必要があるという問題があった。
【0007】
また、前記した特許文献1の止水板を用いる方法では、止水板と継手材とを当接させるために、鋼管矢板を設置する際に高い設置精度が要求され、鋼管矢板を水上で建て込む場合などには止水板が継手材に当接しなくなる可能性があった。
【0008】
そこで、本発明は、簡単な構造によって、確実に遮水できる鋼管矢板壁の継手構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明の鋼管矢板壁の継手構造は、鋼管矢板の外側に継手材が取り付けられ、一方の鋼管矢板の継手材と他方の鋼管矢板の継手材とが嵌め合わされて連結される鋼管矢板壁の継手構造であって、前記一方の継手材には遮水板が取り付けられ、嵌め合わされた際には、前記遮水板が弾性変形して、前記他方の継手材に当接することを特徴とする。
【0010】
また、前記遮水板は、前記一方の継手材に取り付けられる取付部と、弾性変形して前記他方の継手材に当接する弾性変形部と、前記他方の継手材と嵌め合わされる際のガイドとなるガイド部と、を備えることができる。
【0011】
さらに、前記遮水板の前記弾性変形部には、前記他方の継手材に当接する側面に、不陸吸収材を設けることもできる。
【0012】
そして、前記遮水板は、前記一方の継手材の天端から水底までの範囲に取り付けられることができる。
【0013】
また、前記継手材は軸方向に沿ってスリットを有する円筒状の鋼管によって形成されるとともに、前記遮水板は外水域側にスリットを有する一方の継手材の外水域側の側面に取り付けられて、嵌め合わされた際には、前記一方の継手材の前記スリットと前記他方の継手材との間隙を塞ぐことができる。
【0014】
さらに、前記継手材は、軸方向に沿ってスリットを有する円筒状の鋼管によって形成されるとともに、前記遮水板は、内水域側にスリットを有する一方の継手材の外水域側の側面に取り付けられて、嵌め合わされた際には、前記他方の継手材のスリットと前記一方の継手材との間隙を塞ぐこともできる。
【0015】
ここにおいて、遮水とは、内水域側と外水域側とを完全に止水する場合と、完全には止水できないが濁水の流出を抑制する場合と、の両方を含む概念をいうものとする。
【発明の効果】
【0016】
このように構成された本発明の鋼管矢板壁の継手構造は、一方の継手材に遮水板が取り付けられ、嵌め合わされた際には、この遮水板が弾性変形して他方の継手材に当接する。
【0017】
したがって、鋼管矢板を建て込む際に設置誤差が生じた場合でも、遮水板の弾性変形の範囲内であれば、遮水板と継手材とが確実に当接することになるため、確実に遮水することができる。
【0018】
また、取付部と、弾性変形部と、ガイド部と、を備えることで、あらかじめ遮水板を設置した状態で鋼管矢板を建て込むことができるため、迅速に遮水することができる上、水上作業を減らすことができる。
【0019】
さらに、遮水板の弾性変形部に不陸吸収材を設けることで、より確実に遮水することができる。
【0020】
そして、遮水板を継手材の天端から水底までの範囲に取り付けることによって、鋼管矢板を建て込む際に支障になることなく遮水することができる。
【0021】
また、スリットを有する円筒状の鋼管によって継手材が形成されるとともに、遮水板が外水域側にスリットを有する一方の継手材の外水域側の側面に取り付けられ、一方の継手材のスリットと他方の継手材との間隙を塞ぐことで、継手材の外水域側で遮水することができるため、グラウト材を充填する際にも濁水の流出を抑制することができる。
【0022】
同様に、スリットを有する円筒状の鋼管によって継手材が形成されるとともに、遮水板がない水域側にスリットを有する一方の継手材の外水域側の側面に取り付けられ、他方の継手材のスリットと一方の継手材との間隙を塞ぐことで、継手材の外水域側で遮水することができるため、グラウト材を充填する際にも濁水の流出を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の最良の実施の形態について図面を参照して説明する。まず、図2に示した全体構成を説明する斜視図を用いて、本実施の形態の継手構造Sを備える鋼管矢板壁1の全体構成について説明する。
【0024】
一般に、鋼管矢板壁1は、護岸、防波堤、橋梁基礎、又は土留めなどに利用されるもので、近年の構造物の大型化や大水深化に伴って、広く用いられるようになっている。
【0025】
この鋼管矢板壁1を用いる場合の利点としては、壁体が鋼管によって形成されるために極めて剛性が大きいことや、最適な断面性能を備える鋼管を用いることで合理的な設計が可能であることや、仮締め切りと本体とを兼用できることなどがあげられる。
【0026】
本実施の形態の鋼管矢板壁1は、図2に示すように、複数の鋼管矢板2,・・・を直線状に連結することで、鋼管矢板壁1に囲まれた内水域62と外水域63とを仕切るように形成される。
【0027】
なお、以下では、説明の便宜上、一方の鋼管矢板2と他方の鋼管矢板3とを区別しているが、両者は同一の構成を有するものである。
【0028】
この鋼管矢板2は、鋼によって、外径が500mmから3000mm程度で、板厚が6mmから30mm程度の円筒状に形成されるもので、下部は地盤中に貫入されているとともに、上部は水中に露出しており、最上端は水面上まで達している。
【0029】
また、この鋼管矢板2には、図2に示すように、直径両端の対峙する位置に、継手材としての継手管21と継手材としての継手管31とがそれぞれ1つずつ取り付けられている。
【0030】
この継手管21は、図4(a)に示すように、金属によって長尺の円筒状に形成されるもので、外側面が管軸方向に沿って溶接22によって鋼管矢板2に固定されており、外水域63に向いた側面212の一箇所に管軸方向に沿ってスリット211が設けられている。
【0031】
このスリット211は、継手管21の外水域63側の側面212に設けられるもので、対となる継手管31を嵌め合わすことができるように、継手管31の板厚よりも広い幅を有するように形成される。
【0032】
同様に、継手管31は、図4(b)に示すように、金属によって円筒状に形成されるもので、側面の一箇所が管軸方向に沿って溶接32によって鋼管矢板3に固定されており、内水域62に向いた側面312の一箇所にスリット311が設けられている。
【0033】
このスリット311は、継手管31の内水域62側の側面312に設けられるもので、対となる継手管21を嵌め合わすことができるように、継手管21の板厚よりも広い幅を有するように形成される。
【0034】
したがって、継手管21と継手管31とは、円筒状の鋼管矢板2の管軸を回転軸として180度回転すると、互いに重なり合うように構成されている。
【0035】
さらに、この鋼管矢板2と鋼管矢板3とが連結された状態では、一方の鋼管矢板2の継手管21は他方の鋼管矢板3の継手管31に形成されたスリット311に嵌められ、他方の鋼管矢板3の継手管31は一方の鋼管矢板2の継手管21に形成されたスリット211に嵌められて、互いに離れないように嵌合される。
【0036】
そして、本実施の形態の鋼管矢板壁1は、図3に示すように、一方の鋼管矢板2の継手管21の側面212の管軸方向に沿って遮水板としての遮水鋼板4が取り付けられ、この遮水鋼板4が他方の鋼管矢板3の継手管31の側面に当接して継手構造Sを形成している。
【0037】
この遮水鋼板4は、鋼などの金属によって、継手管21の天端23から水底61までの長さを有する長尺板状に形成され、一方の鋼管矢板2の継手管21の外水域63に向いた側面212に取り付けられるものであり、取付部41と、弾性変形部42と、ガイド部43と、を一体に備えている。
【0038】
この取付部41は、長尺板状の遮水鋼板4を長さ方向に沿って折り曲げることで形成されるもので、長尺板状の抑え板51を介してボルト52,・・・などによって継手管21の側面212に固定されている。
【0039】
なお、取付部41を継手管21の側面212に固定する方法としては、ボルト52,・・・の他に、溶接であってもよい。
【0040】
また、弾性変形部42は、取付部41に連続して形成されるもので、図4(a)に示すように、嵌合される前の状態では継手管21の側面に添うような平面状であり、他方の継手管31が設置される予定位置と重なっているため、図4(b)に示すように、嵌合された後の状態では円弧状に湾曲して他方の継手管31の側面に当接している。
【0041】
すなわち、図5(a)の部分拡大図に示すように、嵌合された状態では、弾性変形部42は、継手管31が嵌め合わされることによって、強制的に継手管31の外方向に屈曲されるため、この継手管31の側面から反力を受けて、継手管31側が凸となる円弧状に湾曲している。
【0042】
逆に、弾性変形部42は、屈曲されて弾性変形することで、この継手管31に弾性反力を及ぼすため、弾性変形部42と継手管31とは、この弾性反力によって押し付け合って当接している。
【0043】
なお、ここにおいて弾性変形とは、遮水板としての遮水鋼板4が嵌め合わされて変形した場合に、元の形に戻ろうとする力を備える範囲の変形をいうものとし、完全に元の形に戻る場合と、完全には元の形に戻らないがほぼ元の形に戻る場合と、を含む概念である。
【0044】
さらに、この弾性変形部42の他方の継手管31に当接する側面421には、不陸吸収材として全面に所定量の水膨張性樹脂53が塗布されている。
【0045】
この水膨張性樹脂53は、水と接触すると1,2時間で膨張し始める剛性樹脂を成分とし、硬化した後には弾性のある塗膜を形成するもので、例えば、日本化学塗料株式会社のパイルロック(特許第1960223号)を用いることができる。
【0046】
板状のゴムの場合とY字形のゴムの場合の実施例については、後述の実施例3として追加しました。
【0047】
そして、図5(a)に示すように、この弾性変形部42が水膨張性樹脂53を介して他方の継手管31に当接することで、一方の継手管21のスリット211に他方の継手管31が嵌合して形成される間隙211aの外水域63側を遮水できるように塞いでいる。
【0048】
さらに、ガイド部43は、図4(a)に示すように、弾性変形部42の先端側を継手管21から離れる方向に屈曲することで、継手管21に向いた側が鈍角となるように形成される。
【0049】
したがって、図4(a)に示すように、嵌合される前の状態では、このガイド部43と継手管21の側面との間に、三角形状のガイド空間64を形成している。
【0050】
そして、遮水鋼板4は、図3に示すように、下縁を斜めにカットされたカット部44を備えている。
【0051】
このカット部44は、遮水板としての遮水鋼板4の下縁において、弾性変形部42を取付部41に関する付け根から、上方に向かって斜めに切り落として形成される。
【0052】
次に、本実施の形態の継手構造Sを備える鋼管矢板壁1の構築方法について、図4,5を用いて説明する。
【0053】
まず、あらかじめ遮水鋼板4を別工程で作成しておき、弾性変形部42の他方の継手管31に当接する側の側面421の全面に、水膨張性樹脂53を定められた量だけ塗布し、養生して乾燥させる。
【0054】
さらに、作業ヤードに横置きした鋼管矢板2の継手管21の側面にガス切断機などによって複数の取付孔を削孔しておく。
【0055】
次に、上記した水膨張性樹脂53が乾燥した後に、図4(a)に示すように、抑え板51を介して、遮水鋼板4をボルト52,・・・によって、取付孔を設けた継手管21に取り付ける。
【0056】
そして、図4(b)に示すように、先行して建て込まれた他方の鋼管矢板3の継手管31に、後行して建て込まれる一方の鋼管矢板2の継手管21を嵌め合わせるように、後行する一方の鋼管矢板2をバイブロハンマーなどによって地中に建て込んでいく。
【0057】
この際、まず、他方の継手管31の上縁に、上方から一方の継手管21の下縁を嵌め合わすが、この一方の継手管21に取り付けられた遮水鋼板4の下縁が、他方の継手管31の外側面に当接するように、遮水鋼板4の下縁を他方の継手管31から遠ざかる方向に弾性変形させて押し広げる。
【0058】
ここにおいて、遮水鋼板4は下縁にカット部44を備えているため、押し広げる際の弾性反力が最小限になる。
【0059】
このように、遮水鋼板4の下縁のみを押し広げてやることで、ガイド空間64が、嵌合のための隙間を広げるガイドとなって、一方の継手管21の遮水鋼板4の全長に渡って他方の継手管31に当接させることができる。
【0060】
そして、水中に建て込まれることで水と接触した水膨張性樹脂53は、時間の経過とともに、図5(a)から図5(b)に示すように、重量膨張倍率で6倍程度、厚さにして2倍程度膨らむことで、弾性変形部42と他方の継手管31の側面との接触面積を増大させる。
【0061】
上記のようにして、それぞれの鋼管矢板2,・・・を順次建て込んでいくことで、鋼管矢板壁1が完成する。
【0062】
次に、本実施の形態の継手構造Sの作用について説明する。
【0063】
このように構成された本発明の継手構造Sは、一方の継手管21に遮水鋼板4が取り付けられ、嵌め合わされた際には、この遮水鋼板4が弾性変形して他方の継手管31に当接する。
【0064】
したがって、鋼管矢板2を建て込む際に設置誤差が生じた場合でも、遮水鋼板4の弾性変形部42の弾性変形の範囲内であれば、一方の継手管21に取り付けられた遮水鋼板4と他方の継手管31とが確実に当接することになるため、確実に遮水することができる。
【0065】
すなわち、一般に、鋼管矢板2の打設作業は水上作業となることが多く、誤差をミリ精度以下に抑えることは極めて困難であり、通常は台船の動揺などによる設置誤差が生じるが、この場合でも、遮水鋼板4の弾性変形部42がこの設置誤差より大きい弾性変形量を備えていれば、この弾性変形部42と他方の鋼管矢板31とは確実に当接することができる。
【0066】
そして、上記のように弾性変形部42が弾性変形することで、遮水鋼板4と他方の継手管31とが弾性反力によって押し付け合うことになるため、より強固に隙間を遮水することができる上、鋼管矢板2が設置後に外力などを受けて変形した場合にもこの変形に追従して変形するため、より確実に遮水することができる。
【0067】
つまり、鋼管矢板2は、河川においては流れによって、海洋においては潮流や潮汐などによって外力を受けて、変形することとなるが、この場合でも、遮水鋼板4が変形に追従することで隙間が生じることはない。
【0068】
さらに、本実施の形態の遮水鋼板4は、鋼製であって耐久性がきわめて大きいため、仮締切りなどに利用する場合などには、少なくとも数回程度の再利用が可能である。
【0069】
加えて、鋼管矢板2を建て込む際に、遮水鋼板4が他方の継手管31と接触した場合でも、遮水鋼板4が鋼製であれば損傷することがないため、遮水が不完全になることはない。
【0070】
そして、本実施の形態の遮水鋼板4のガイド部43は、一方の継手管21との間にガイド空間64を形成するため、他方の継手管31を嵌め合わす際に、嵌合するための隙間を広げるガイドとなる上に、遮水鋼板4の先端が外を向くことで継手管31に引っ掛かって継手管31の表面を傷付けることを防止することができる。
【0071】
また、遮水鋼板4が取付部41を備えることで、あらかじめ遮水鋼板4を陸上で設置した状態で鋼管矢板2を建て込むことができるため、建て込み後すぐに遮水することができる上、水上作業を減らすことができる。
【0072】
このように、一般に足場の悪い中での作業となって転落などの危険が大きい水上作業を減らすことで、工事の安全を高めることができる。
【0073】
加えて、あらかじめ、別工程によって鋼管矢板2の継手管21に遮水鋼板4を取り付けることで、遮水のために全体工程を遅らせることなく、工期を短縮することができる。
【0074】
このように、工期を短縮することは、そもそも工期短縮を目的として鋼管矢板壁1を用いるような場合には、きわめて効果が大きいといえる。
【0075】
さらに、遮水鋼板4の弾性変形部42に不陸吸収材としての水膨張性樹脂53を塗布することで、この水膨張性樹脂53が膨張して継手管31との接触面積を広くするため、より確実に遮水することができる。
【0076】
加えて、水膨張性樹脂53が膨らむことで、弾性変形量が大きくなることによって弾性反力が大きくなるため、弾性変形部42と継手管31とがより強く押し付け合うこととなり、より強固に遮水できる。
【0077】
また、剛性の大きい遮水鋼板4と、剛性の小さい不陸吸収材としての水膨張性樹脂53とを組み合わせて用いることで、鋼管矢板2の建て込みの際に必要な剛性を確保しつつ、遮水鋼板4と継手管31との密着性を高めることができる。
【0078】
そして、遮水鋼板4を継手管31の天端33から水底61までの範囲に取り付けることによって、鋼管矢板2を建て込む際に支障になることなく遮水することができる。
【0079】
つまり、仮に、遮水鋼板4が水底61の位置より下方まで取り付けられる場合には、遮水鋼板4の断面積の分だけ鋼管矢板2を地中に建て込む際の抵抗面積が広くなるため、建て込む際の支障となるが、水底61の位置以下に遮水鋼板4が取り付けられなければ、支障となることはない。
【0080】
また、スリット211,311を有する円筒状の鋼管によって継手管21,31が形成されるとともに、遮水鋼板4が外水域63側にスリット211を有する一方の継手管21の外水域63側の側面212に取り付けられ、一方の継手管21のスリット211と他方の継手管31との間隙211aを塞ぐことで、継手管21,31の外水域63側で遮水することができるため、グラウト材を充填する際にも濁水を遮水できる。
【0081】
すなわち、図4(b)に示すように、継手管21と継手管31とが嵌合した場合には、4箇所に間隙211a,211b,311a,311bが形成されることとなるが、このうちで最も外水域63側の間隙211aを遮水することによって、内水域62で発生する濁水の流出の抑制又は止水が可能となる。
【0082】
つまり、仮に、内水域62側の間隙311aを遮水した場合、継手管21,31の内側にグラウト材を充填する際に、管内を洗浄した濁水が外水域63に流出することとなるが、最も外水域63側の間隙211aを遮水すれば外水域63側への濁水の流出の抑制又は止水が可能となる。
【0083】
そして、本実施の形態の鋼管矢板壁1は、上記したきわめて簡単な構成の継手構造Sを備えることで、工事によって発生する油分などを含んだ濁水が流出することを抑制できる。
【実施例1】
【0084】
次に、図6を用いて、前記実施の形態とは別の継手構造S1を備えた、鋼管矢板壁1について説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については同一符号を付して説明する。
【0085】
この実施例では、前記実施の形態とは異なり、内水域62側にスリット211を有する継手管21に遮水板としての遮水鋼板4を取り付ける場合の継手構造S1について説明する。
【0086】
まず、構成から説明すると、本実施例の継手構造S1は、図6に示すように、一方の鋼管矢板2の継手管21の管軸方向に沿って遮水鋼板4が取り付けられ、この遮水鋼板4が他方の鋼管矢板3の継手管31に当接して継手構造S1を形成している。
【0087】
この継手管21は、図6(a)に示すように、金属によって円筒状に形成されるもので、外側面が管軸方向に沿って溶接22によって鋼管矢板2に固定されており、内水域62に向いた側面212の一箇所に管軸方向に沿ってスリット211が設けられている。
【0088】
このスリット211は、継手管21の内水域62側の側面212に設けられるもので、対となる継手管31を嵌め合わすことができるように、継手管31の板厚よりも広い幅を有するように形成される。
【0089】
同様に、継手管31は、図6(a),(b)に示すように、金属によって円筒状に形成されるもので、側面の一箇所が管軸方向に沿って溶接32によって鋼管矢板3に固定されており、外水域63に向いた側面312の一箇所にスリット311が設けられている。
【0090】
このスリット311は、継手管31の外水域63側の側面312に設けられるもので、対となる継手管21を嵌め合わすことができるように、継手管21の板厚よりも広い幅を有するように形成される。
【0091】
したがって、継手管21と継手管31とは、円筒状の鋼管矢板2の管軸を回転軸として180度回転すると、互いに重なり合うように構成されている。
【0092】
そして、本実施例の継手構造S1では、一方の継手管21の外水域63側に向いた側面213に、取付部41と弾性変形部42とガイド部43とを有する遮水鋼板4が取り付けられている。
【0093】
次に、本実施例の継手構造S1の作用について説明する。
【0094】
このように構成された本発明の継手構造S1は、一方の継手管21に遮水鋼板4が取り付けられ、嵌め合わされた際には、この遮水鋼板4が弾性変形して他方の継手管31に当接する。
【0095】
したがって、鋼管矢板2を建て込む際に設置誤差が生じた場合でも、遮水鋼板4の弾性変形部42の弾性変形の範囲内であれば、一方の継手管21に取り付けられた遮水鋼板4と他方の継手管31とが確実に当接することになるため、確実に遮水することができる。
【0096】
そして、スリット211,311を有する円筒状の鋼管によって継手管21,31が形成されるともに、遮水鋼板4が内水域側にスリット211を有する一方の継手管21の外水域63側の側面213に取り付けられ、他方の継手管31のスリット311と一方の継手間21との間隙311aを塞ぐことで、継手管21,31の外水域63側で遮水することができるため、グラウト材を充填する際にも濁水が流出することがない。
【0097】
すなわち、図6(b)に示すように、継手管21と継手管31とが嵌合した場合には、4箇所に間隙211a,211b,311a,311bが形成されることとなるが、このうちで最も外水域63側の間隙311aを遮水することによって、内水域62で発生する濁水の流出の抑制又は止水が可能となる。
【0098】
そして、前記実施の形態で示した継手構造Sと本実施例で示した継手構造S1の2通りの構造があることで、鋼管矢板2,・・・を建て込む際に、いずれの方向に建て込む場合でも、確実に遮水することができる。
【0099】
つまり、鋼管矢板2,・・・を建て込む順番は、施工現場の状況によって外水域63側にスリット211を備える継手管21を先に打設する場合や、逆に、内水域62側にスリット311を備える継手管31を先に打設する場合があるが、この場合でも、継手構造Sと継手構造S1の2通りの構造があれば、臨機に対応可能である。
【0100】
なお、この他の構成および作用効果については、前記実施の形態と略同様であるため説明を省略する。
【実施例2】
【0101】
次に、図7を用いて、前記実施の形態及び実施例とは別の継手構造S2,S3を備えた、鋼管矢板壁1について説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については同一符号を付して説明する。
【0102】
この実施例では、鋼管矢板壁1が前記実施の形態及び実施例1のように、いわゆるP−P型の継手について継手構造S,S1を備える場合ではなく、いわゆるL−T型の継手について継手構造S2を備える場合と、いわゆるP−T型の継手について継手構造S3を備える場合と、について説明する。
【0103】
図7(a)に示すように、本実施例の継手構造S2は、一方の継手材としての外水域63側のL型鋼21aの他方の鋼管矢板3に向いた側面に管軸方向に沿って遮水板としての遮水鋼板4が取り付けられ、この遮水鋼板4が他方の継手材としてのT型鋼31に当接して形成されている。
【0104】
この遮水鋼板4は、抑え板51を介してボルト52によってL型鋼21aに取り付けられる取付部41と、T型鋼31に当接して弾性変形する弾性変形部42と、T型鋼31に嵌め合わせる際のガイドとなるガイド部43と、を備えている。
【0105】
そして、嵌め合わされた際には、この弾性変形部42が弾性変形することで、遮水鋼板4とT形鋼31とが押し付け合うため、確実に遮水することができる。
【0106】
また、図7(b)に示すように、本実施例の継手構造S3は、一方の継手材としての継手管21の他方の鋼管矢板3に向いた側面に管軸方向に沿って遮水板としての遮水鋼板4が取り付けられ、この遮水鋼板4が他方の継手材としてのT型鋼31に当接して形成されている。
【0107】
この遮水鋼板4は、抑え板51を介してボルト52によって継手管21に取り付けられる取付部41と、T型鋼31に当接して弾性変形する弾性変形部42と、T型鋼31に嵌め合わせる際のガイドとなるガイド部43と、を備えている。
【0108】
そして、嵌め合わされた際には、この弾性変形部42が弾性変形することで、遮水鋼板4とT形鋼31とが押し付け合うため、確実に遮水することができる。
【0109】
なお、この他の構成および作用効果については、前記実施の形態と略同様であるため説明を省略する。
【実施例3】
【0110】
次に、図8を用いて、前記実施の形態及び実施例とは別の継手構造S4,S5を備えた、鋼管矢板壁1について説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については同一符号を付して説明する。
【0111】
この実施例では、鋼管矢板壁1が前記実施の形態及び実施例1,2のように、不陸吸収材として水膨張性樹脂53を備える場合ではなく、不陸吸収材として板状樹脂54又はV字状樹脂55を備える場合について説明する。
【0112】
図8(a)に示すように、本実施例の継手構造S4は、一方の継手管21の管軸方向に沿って遮水鋼板4が取り付けられ、この遮水鋼板4が他方の継手管31に当接して継手構造S4を形成している。
【0113】
この遮水鋼板4は、取付部41と、弾性変形部42と、ガイド部43と、を一体に備えている。
【0114】
そして、本実施例の継手構造S4は、弾性変形部42の他方の継手管31に当接する側の側面421に、不陸吸収材としての板状樹脂54を備えている。
【0115】
この板状樹脂54は、スポンジ状の樹脂や瀝青材やゴムなどによって所定の厚みを有する長尺板状に形成されるもので、弾性変形部42の他方の継手管31に当接する側の側面421に、接着剤などによって貼設されている。
【0116】
なお、この板状樹脂54として、柔軟性の大きい材料を用いた場合には、鋼管矢板2を建て込む際に破損する可能性があるため、最下端近傍に防護部(図示せず)を備えることが望ましい。
【0117】
このように、板状樹脂54を備えることによって、継手管21と継手管31とが嵌め合わされた際には、この弾性変形部42が弾性変形することに加えて、板状樹脂54が樹脂自体の柔軟性によって柔軟に変形することで、遮水鋼板4と継手管31とが当接するため、確実に遮水することができる。
【0118】
つまり、遮水鋼板4はある程度の剛性を有しているため、継手管31の側面に局所的に小石などが付着した場合には、この小石に接触する近傍のみが変形することができずに小石近傍に隙間が生じることとなるが、ある程度の柔軟性を有する板状樹脂54を備えることで、この小石に接触する近傍のみが変形することができるため、隙間を生じることもなく遮水することができることとなる。
【0119】
同様に、図8(b)に示すように、本実施例の継手構造S5は、弾性変形部42の他方の継手管31に当接する側の側面421に、不陸吸収材としてのV字状樹脂55を備えている。
【0120】
このV字状樹脂55は、ゴムなどによって略V字状の断面を有する長尺板状に形成されるもので、V字の一方の辺が弾性変形部42の継手管31に当接する側の側面421に接着剤などによって貼設されるとともに、V字の他方の辺が継手管31の側面に当接している。
【0121】
このように、V字状樹脂55を備えることによって、継手管21と継手管31とが嵌め合わされた際には、この弾性変形部42が弾性変形することに加えて、V字状樹脂55が樹脂自体の柔軟性とV字が押し潰される変形性とによって、遮水鋼板4と継手管31とが当接するため、確実に遮水することができる。
【0122】
つまり、継手管31の側面に局所的に小石などが付着した場合でも、ある程度の柔軟性を有するV字状樹脂55を備えることで、小石に接触する近傍のみが変形して隙間を埋めるため、遮水することができる。
【0123】
加えて、継手管21を継手管31に嵌め合わす際には、V字が継手管21側に向いて開いていることで、このV字状樹脂55が引っ掛からずに、容易に嵌め合わすことができる。
【0124】
なお、この他の構成および作用効果については、前記実施の形態と略同様であるため説明を省略する。
【0125】
以上、図面を参照して、本発明の最良の実施の形態及び実施例1,2,3を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態及び実施例1,2,3に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0126】
例えば、前記実施の形態及び実施例1,2,3では、ガイド部43を有する遮水鋼板4について説明したが、これに限定されるものではなく、ガイド部43が設けられないものであってもよい。
【0127】
また、前記実施の形態及び実施例1,2,3では、弾性変形部42の他方の継手管31に当接する側の側面421に不陸吸収材を備える場合について説明したが、これに限定されるものではなく、不陸吸収材を備えないものであってもよい。
【0128】
さらに、前記実施の形態及び実施例1,2,3では、遮水鋼板4を継手管21,31の天端23,33から水底61までの範囲に取り付ける場合について説明したが、これに限定されるものではなく、水底61の位置以下まで取り付けて地中に貫入するものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】本発明の最良の実施の形態の鋼管矢板壁の継手構造の構成を説明する断面図である。
【図2】本発明の最良の実施の形態の鋼管矢板壁の継手構造を備える鋼管矢板壁の全体構成を説明する斜視図である。
【図3】本発明の最良の実施の形態の鋼管矢板壁の継手構造の構成を説明する斜視図である。
【図4】本発明の最良の実施の形態の鋼管矢板壁の継手構造の連結方法を説明する断面図である。(a)は連結前の状態、(b)は連結後の状態である。
【図5】本発明の最良の実施の形態の鋼管矢板壁の継手構造が備える水膨張性樹脂の機能を説明するために、図4(b)のA部を拡大して説明する部分拡大図である。(a)は膨張前の状態、(b)は膨張後の状態である。
【図6】本発明の実施例1の鋼管矢板壁の継手構造の連結方法を説明する断面図である。(a)は連結前の状態、(b)は連結後の状態である。
【図7】本発明の実施例2の鋼管矢板壁の継手構造を説明する断面図である。(a)はL−T型の継手の場合であり、(b)はP−T型の継手の場合である。
【図8】本発明の実施例3の鋼管矢板壁の継手構造の不陸吸収材を説明する断面図である。(a)は板状樹脂の場合であり、(b)はV字状樹脂の場合である。
【符号の説明】
【0130】
1 鋼管矢板壁
S,S1,S2,S3,S4,S5 継手構造(鋼管矢板壁の継手構造)
2,3 鋼管矢板
21,31 継手管(継手材)
211,311 スリット
211a,311a 間隙
212,213,312 側面
23,33 天端
4 遮水鋼板(遮水板)
41 取付部
42 弾性変形部
421 側面
43 ガイド部
53 水膨張性樹脂(不陸吸収材)
54 板状樹脂(不陸吸収材)
55 V字状樹脂(不陸吸収材)
61 水底
62 内水域
63 外水域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管矢板の外側に継手材が取り付けられ、一方の鋼管矢板の継手材と他方の鋼管矢板の継手材とが嵌め合わされて連結される鋼管矢板壁の継手構造であって、
前記一方の継手材には遮水板が取り付けられ、
嵌め合わされた際には、前記遮水板が弾性変形して、前記他方の継手材に当接することを特徴とする鋼管矢板壁の継手構造。
【請求項2】
前記遮水板は、前記一方の継手材に取り付けられる取付部と、弾性変形して前記他方の継手材に当接する弾性変形部と、前記他方の継手材と嵌め合わされる際のガイドとなるガイド部と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の鋼管矢板壁の継手構造。
【請求項3】
前記遮水板の前記弾性変形部には、前記他方の継手材に当接する側面に、不陸吸収材が設けられることを特徴とする請求項2に記載の鋼管矢板壁の継手構造。
【請求項4】
前記遮水板は、前記一方の継手材の天端から水底までの範囲に取り付けられることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の鋼管矢板壁の継手構造。
【請求項5】
前記継手材は、軸方向に沿ってスリットを有する円筒状の鋼管によって形成されるとともに、前記遮水板は、外水域側にスリットを有する一方の継手材の外水域側の側面に取り付けられて、
嵌め合わされた際には、前記遮水板が、前記一方の継手材の前記スリットと前記他方の継手材との間隙を塞ぐことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の鋼管矢板壁の継手構造。
【請求項6】
前記継手材は、軸方向に沿ってスリットを有する円筒状の鋼管によって形成されるとともに、前記遮水板は、内水域側にスリットを有する一方の継手材の外水域側の側面に取り付けられて、
嵌め合わされた際には、前記遮水板が、前記他方の継手材のスリットと前記一方の継手材との間隙を塞ぐことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の鋼管矢板壁の継手構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−7789(P2009−7789A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−168390(P2007−168390)
【出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】