説明

錫めっき鋼帯の製造方法および錫めっきセル

【課題】エッジオーバーコーティングを防止すると共に、表面品質にも優れる錫めっき鋼帯の製造方法と、その製造に用いる水平型錫めっきセルを提供する。
【解決手段】可溶性の錫アノードとめっき液を備えるめっき槽と、該めっき槽の入側と出側のそれぞれに配設され、被めっき鋼帯を連続的に搬送する通電ロールとバックアップロールのロール対とからなる水平型めっきセルを用いて、前記錫アノードと被めっき鋼帯との間に通電して錫めっき鋼帯を製造する方法において、前記めっき槽の出側にめっき液排出口を設けた水平型錫めっきセルを用いることを特徴とする錫めっき鋼帯の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、錫めっき鋼帯の製造方法と錫めっきセルに関し、特に、水平型のめっきセルを用いて、被めっき鋼帯に連続的に錫めっきを施す錫めっき鋼帯の製造方法と、その製造に用いる水平型の錫めっきセルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気錫めっき設備には、大別して、縦型めっきセルを用いる縦型めっき設備と、水平型めっきセルを用いる水平型めっき設備の2種類がある。さらに、水平型めっきセルを用いる電気錫めっき設備は、めっき液の種類によって、pHが3〜4の塩化第一錫浴(ハロゲン浴)、pHが1以下のアルカノールスルホン酸浴(ASA浴)、同じくpHが1以下のメタンスルホン酸浴(MSA浴)などに分けられる。いずれの設備も、通常、めっき部が3段構造となっており、下の2段には水平型のめっきセルが水平方向に複数配置され、最上段にはドラッグアウト槽と水洗装置が配置されている。
【0003】
上記水平型のめっきセルを用いて錫めっき鋼帯を製造する場合には、設備の入側で、脱脂、酸洗して活性化した鋼帯を、まず、最下段の水平型めっきセル列に搬送して鋼帯の下側の面のみに錫めっきを施し、次に、鋼帯の向きを180°変えて反対方向から中段の水平型めっきセル列に搬送して鋼帯の下側の面、すなわち最下段では上側であった面のみに錫めっきを施し、次いで、さらに鋼帯の向きを180°変えて最上段のドラッグアウト槽、水洗槽に搬送して洗浄し、その後、必要に応じてリフロー処理し、化学処理して錫めっき製品とする。
【0004】
前記水平型の錫めっきセルは、図1に示した概略断面図のように、めっき槽1と、そのめっき槽の、鋼帯Sの進行方向の前後(即ち、入出側)に配設された通電ロール2とバックアックロール3のロール対とから構成されている。めっき槽1は、表面にゴムライニングが施されており、その内部には、めっき液4が満たされ、該めっき液4は循環されている。また、めっき槽1の内部には、金属錫からなる錫アノード(可溶性陽極)5が、コイル長手方向に長さを揃えてカーボン製あるいはチタンクラッド製のアノードベッド(通電支持台)6の上に並べて置かれている。アノードベッド6は、アノードがめっき時に次第に溶解しても、鋼帯Sとアノード5との間が常に25〜30mmの一定距離を保つよう、上面が板幅方向に勾配を有するよう設置されている。使用済みのアノード5は、板幅方向に押されて取り出され、他方の端からは、新しいアノードが供給される。
【0005】
この水平型のめっきセルを用いた錫めっきは、以下のようにして行われる。めっき設備の入側で脱脂、酸洗された鋼帯Sは、通電ロール2およびバックアップロール3によりガイドされて、めっき槽1に搬入される(図1では、右から左側方向に)。めっき槽1内には、めっき液4が満たされており、鋼帯Sがめっきセルを通過する間、前記めっき液4が鋼帯Sの下面と常時接触するよう液面が管理されている。一方、錫アノード5および通電ロール2の間には、直流電源7および導体8を介して通電されており、金属錫からなる可溶性の錫アノードから錫を溶出させると共に、カソード(陰極)となる鋼帯Sの下面に金属錫を析出させることで錫めっきが行われる。
【0006】
ところで、図1に示したような水平型のめっきセルを用いて電気錫めっきを行う場合には、図2に示すように、鋼帯の進行に伴って、鋼帯の下面に接するめっき液が鋼帯と一緒に移動するとともに、鋼帯の上面にも廻り込んで液被りを起こし、めっき槽の下流側に位置する出側の通電ロールの前面に大きな液溜まりを形成する。その結果、非めっき面である鋼帯の上面にも金属錫が析出して、エッジ部のオーバーコーティングを引き起こすという問題がある。また、このエッジオーバーコーティングは、錫めっきにおける電流効率の低下や、錫原単位の低下を招くだけでなく、錫めっきした鋼帯をコイルに巻き取った際に、ビルドアップを引き起こすという問題もある。
【0007】
さらに、前記鋼帯の進行に伴うめっき液の流れは、めっき槽下流におけるめっき液の集中をもたらしてスムーズな液流れを阻害するため、めっき液の滞留を引き起こす。めっき液が滞留すると、その部分の液温が上昇し、めっき液中に含まれる光沢剤の許容範囲を超える結果、リフロー後の錫めっき面表面が光沢不良を起こすという問題もある。
【0008】
このような問題に対する対策として、例えば、特許文献1には、通電ロールの上流側に、鋼帯を挟んでロール対を設置し、液被りを防止する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2005−307250号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記特許文献1の技術は、出側の通電ロール前面での鋼帯上面への液被りを抑制する点で、非めっき面への金属錫の析出を低減するのに、それなりの効果を発揮する。しかし、単に液被りを抑制するだけでは、非めっき面への金属錫の析出や、めっき液の滞留に起因する表面品質の劣化を完全に防止するには程遠いのが実情であった。
【0010】
そこで、本発明の目的は、エッジオーバーコーティングを防止すると共に、表面品質にも優れる錫めっき鋼帯の製造方法と、その製造に用いる水平型錫めっきセルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らは、従来技術が抱える前記問題点を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、水平型錫めっきセルにおいて、めっき槽の出側にめっき液排出口を設けて、鋼帯の進行に伴って移動してくるめっき液を排出してやれば、めっき液の流れもスムーズとなり、通電ロール前面の液溜まりを解消できると共に、めっき液の滞留も解消され、ひいては、非めっき面への金属錫の析出や表面品質の劣化を効果的に抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は、可溶性の錫アノードとめっき液を備えるめっき槽と、該めっき槽の入側と出側のそれぞれに配設され、被めっき鋼帯を連続的に搬送する通電ロールとバックアップロールのロール対とからなる水平型めっきセルを用いて、前記錫アノードと被めっき鋼帯との間に通電して錫めっき鋼帯を製造する方法において、前記めっき槽の出側にめっき液排出口を設けた水平型錫めっきセルを用いることを特徴とする錫めっき鋼帯の製造方法である。
【0013】
また、本発明は、可溶性の錫アノードとめっき液を備えるめっき槽と、該めっき槽の入側と出側のそれぞれに配設され、被めっき鋼帯を連続的に搬送する通電ロールとバックアップロールのロール対とからなる水平型めっきセルにおいて、前記めっき槽の出側にめっき液排出口を設けてなることを特徴とする水平型錫めっきセルである。
【0014】
本発明の水平型錫めっきセルのめっき液は、メタンスルホン酸浴であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、水平型錫めっきセルにおけるめっき槽中のめっき液の流れをスムーズにし、通電ロール前面における液溜まりとめっき槽下流側のめっき液の滞留を解消することができるので、非めっき面への金属錫の析出を大幅に低減できると共に、表面品質の向上を図ることができる。また、非めっき面への金属錫の析出低減により、錫めっきにおける電流効率の向上、錫原単位の低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
発明者らは、従来技術における非めっき表面への金属錫の析出およびめっき液の滞留の原因とその防止策について検討した。その結果、前記2つの問題は、いずれも、めっき処理中に、鋼帯の進行に伴って起こるめっき液の下流方向への流れに起因しており、したがって、このめっき液の流れを制御すればよいことに想到した。
【0017】
従来の水平型錫めっきセルにおけるめっき槽内の液の流れを、図2中に黒矢印で示した。従来セルでは、めっき液は、めっき槽の入側の底部から供給され、めっき槽内を循環しためっき液は、めっき槽の入側上部から溢れ出させて排出していた。一方、めっき中は、前記めっき液の流れとは別の、鋼帯の進行に伴って起こるめっき液の流れが発生し、その流れが直接、出側通電ロールの前面に当たっていた。しかも、めっき槽の出側には、めっき液の排出口がないため、通電ロールの前面に大きな液溜まりが発生すると共に、めっき液の液面の上昇を引き起こして、非めっき面(鋼帯上面)への液被りを助長していた。さらに、めっき槽の出側に移動しためっき液は、行き場がないため、めっき槽の出側で滞留を起こし、めっき液の温度上昇を引き起こしていたものと推定された。
【0018】
そこで、発明者らは、めっきセルの構造を改造し、めっき槽の出側に、めっき液を排出するための排出口を設けることに想到し、本発明を完成させた。
【0019】
図3は、本発明のめっきセルの一例を示したもので、鋼帯の進行に伴ってめっき液が集中するめっきセルの下流側(出側)部分を改造し、めっき液を排出するためのめっき液排出口9を新たに設置したものである。また、図中には、このめっき液排出口9の設置によって変化しためっき液の流れを黒矢印で示した。これから、従来のめっきセルでは、出側の通電ロールに達しためっき液が大きな液溜まりを形成していたが、本発明のめっきセルでは、通電ロールの直前に設置されためっき液排出口からめっき液が排出される結果、出側通電ロールの直前に形成される液溜まりは、非常に小さなものとなる。さらに、液溜まりが小さくなったことに伴い、めっき槽の液面も低下するため、鋼帯の上面に形成される液被りも減少するという効果も得られる。しかも、めっき液排出口からめっき液が排出される結果、めっき槽下流に発生していためっき液の滞留もなくなり、めっき槽内のめっき液の温度も均一化する。
【0020】
その結果、本発明のめっきセルを用いて錫めっき鋼帯を製造した場合には、非めっき面への金属錫の析出が減少して、エッジオーバーコーティングによる不良が低減するだけでなく、めっき液の温度上昇による光沢不良も低減することができる。さらに、非めっき面への金属錫の析出が減少する結果、めっき原料である錫の原単位向上や、電流効率の向上を達成することができる。また、本発明のめっきセルを用いた場合には、通電ロール前面における液溜まりを抑制し、通電ロールへの金属錫の析出を防止することができるので、通電ロール表面に析出した金属錫の剥離による錫粉付着や押疵等の表面欠陥による不良の軽減にも効果がある。
【0021】
なお、本発明のめっき槽に設置するめっき液排出口は、めっき槽出側で鋼帯が通過しない板幅方向の両端部の、板幅方向中心に対して対称となる位置に設けることが好ましい。このめっき液排出口は、めっき液の排出量を調整できるよう、開口面積を調整できるものであることが好ましい。さらに、このめっき槽のめっき液排出口の液流れ上流側には、遮蔽ダム(堰)を設けることが好ましい。このダムによって鋼帯の進行に伴うめっき液の流れを遮蔽することができると共に、液被りを抑制する効果が高まり、通電ロールへの金属錫の析出を効果的に防止することができる。図4は、遮蔽ダムを設けた本発明の他のめっきセルの例を示したものである。
【0022】
また、本発明の錫めっき槽は、水平型錫めっきセルを用いる電気めっき設備であれば、めっき槽の種類によらず、いずれにも適用することができるが、メタンスルホン酸浴を用いためっき設備に適用することが好ましい。というのは、メタンスルホン酸浴はpHが低く、鋼帯からのFeの溶出が起こり易いので、液被り抑制効果がある本発明のめっきセルは、Fe濃度の上昇を抑える効果が大きいからである。
【実施例】
【0023】
メタンスルホン酸浴の水平型錫めっきセルを最下段に10セル、中段に10セル配列した電気錫めっき設備において、図2に示した従来タイプのめっきセルと、図3および図4に示した本発明のめっき液排出口を有するめっきセルを用いて、錫付着量が1.12/1.12(g/m)の工程材を対象にして、表1に示しためっき条件で錫めっき鋼帯をそれぞれ100コイルと50コイル製造し下記の項目を比較した。
a.エッジオーバーコーティング量:
5コイルに1回の頻度で、めっき鋼帯のエッジ5mm部分の表面錫量をJIS G3303;2002に規定された電解剥離法で、表裏両端の計4箇所に付着した錫の付着量を測定し、従来のめっきセルにおける錫の付着量を1.0とし、本発明セルにおけるエッジオーバーコーティング量を相対比較した。
b.通電ロールへの金属錫析出発生率:
錫めっき設備で、5コイルに1回の頻度で、通電ロールを目視観察し、1セルでも通電ロールに金属錫の析出が確認された場合には、通電ロールへの金属錫析出発生と評価し、従来のめっきセルにおける発生率を1.0とし、本発明セルにおける発生率を相対比較した。
c.めっき槽内のめっき液温度のばらつき:
5コイルに1回の頻度で、任意の1セルにおいて、めっき槽内の3箇所(めっき液流入口、めっき液排出口2箇所)のめっき液の温度を測定し、(最高温度−最低温度)を液温のばらつきとして求めた。
【0024】
前記測定の結果を、表1に併記して示した。表1から、本発明のめっきセルを用いた場合には、従来タイプのめっきセルに比較して、エッジオーバーコーティングの量や、通電ロールへの金属錫析出発生率を大幅に低減できるだけでなく、めっき槽内のめっき液温度の均一化を達成することができる。さらに、本発明のめっきセルを用いた場合には、メタンスルホン酸浴におけるFeの溶出量を、約2割低減できることも、別途行った調査でわかった。
【0025】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】水平型めっきセルの構造を説明する図である。
【図2】従来の水平型めっきセルを説明する図である。
【図3】本発明の水平型めっきセルを説明する図である。
【図4】本発明の水平型めっきセルの他の例を説明する図である。
【符号の説明】
【0027】
S:鋼帯
1:めっき槽
2:通電ロール
3:バックアップロール
4:めっき液
5:錫アノード(可溶性陽極)
6:アノードベッド(通電支持台)
7:直流電源
8:導体
9:めっき液排出口
10:遮蔽ダム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可溶性の錫アノードとめっき液を備えるめっき槽と、該めっき槽の入側と出側のそれぞれに配設され、被めっき鋼帯を連続的に搬送する通電ロールとバックアップロールのロール対とからなる水平型めっきセルを用いて、前記錫アノードと被めっき鋼帯との間に通電して錫めっき鋼帯を製造する方法において、前記めっき槽の出側にめっき液排出口を設けた水平型錫めっきセルを用いることを特徴とする錫めっき鋼帯の製造方法。
【請求項2】
可溶性の錫アノードとめっき液を備えるめっき槽と、該めっき槽の入側と出側のそれぞれに配設され、被めっき鋼帯を連続的に搬送する通電ロールとバックアップロールのロール対とからなる水平型めっきセルにおいて、前記めっき槽の出側にめっき液排出口を設けてなることを特徴とする水平型錫めっきセル。
【請求項3】
めっき液は、メタンスルホン酸浴であることを特徴とする請求項2に記載の水平型錫めっきセル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−186756(P2007−186756A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−5961(P2006−5961)
【出願日】平成18年1月13日(2006.1.13)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】