説明

錫系めっき平角導体およびフレキシブルフラットケーブル

【課題】FFCとして用いる錫系めっき銅または銅合金の平角導体に関するもので、熱処理を行ったSn系めっきCu平角導体は、コネクタと長期間嵌合して使用してもウイスカーの発生が、銅配線間等での短絡等が生じることがない程度に抑制されるようにすることにある。
【解決手段】Cu平角導体の端子部が熱処理されることによって、前記Cu平角導体の表面から順次、CuSn金属間化合物相(以下、B相)、CuSn金属間化合物相(以下、A相)および純Sn或いはSn合金層が形成されたSn系めっきCu平角導体であって、前記純Sn或いはSn合金層の最大厚さが1.0μmで、かつ平均厚さが0.3〜1.0μmであると共に、前記B相とA相の生成割合の比がA相/B相として1.5以上であるFFC用のSn系めっきCu平角導体とすることによって、解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイスカーの発生を抑制した錫めっきが施された銅または銅合金の平角導体並びにそれを用いたフレキシブルフラットケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器等の小型化や軽量化に伴い、搭載される配線材料も小型化が進んでいる。このため限られたスペースに収まると共にその可とう性も要求される。例えば、平角状の導体を複数本平面状に並べ、これをテープ状の絶縁体材料によって両側からラミネートしたフレキシブルフラットケーブルが使用されている。このフレキシブルフラットケーブルは、端末部を口出し加工してプリント配線基板等に接続配線されるが、接触抵抗を小さくしたり、半田付性を向上させるため前記平角導体には通常、純錫や錫合金めっき(以下、Sn系めっき)や金/ニッケルめっき(以下、Au/Niめっき)が施される。そして、このような平角導体は、通常Φ0.5〜1mm程度の銅線にSn系めっきを施した後に、Φ0.1〜0.2mm程度に伸線加工を行い、さらに圧延加工によって平角導体が作製されている。しかしながら、このようにして作られた錫めっき平角導体を用いたフレキシブルフラットケーブルは、コネクタと嵌合して長期に使用するとウイスカーと称する針状結晶が成長してくることが知られている。このようなウイスカーの成長は、銅配線間等での短絡を生じて電子機器等のトラブルに繋がり好ましくない。そこで、この問題を解決するための提案がなされている。例えば特許文献1には、電気導体部品の電気接続部分に厚さ0.2〜1.0μm未満の錫めっきを施すこと、また前記錫めっきは、錫層と錫と電気導体との合金層からなり、合金層の比率が50%以上となるようにすることが記載されている。しかしながら、前記合金層を詳細に観測すると、この合金層はCuSn金属間化合物相、CuSn金属間化合物相の2層から構成されており、特にCuSn金属間化合物相は凹凸状に成長する。このため、CuSn金属間化合物相の成長が進むと純錫めっき層との界面を平滑にすることが難しくなり、純錫めっき層の厚さが均一にならず純錫めっき層が厚い部分から優先的にウイスカーが発生することが確認された。この特許文献1には、これらの点について何も開示されていない。また、特許文献2には、銅或いは銅合金の下地導体表面から順次生成された、CuSn金属間化合物相、CuSn金属間化合物相の合計厚さに対して、CuSn金属間化合物相の厚さを30%以上となるようにすることが記載されている。しかしながら、この特許文献2にはめっき層全体の厚さについての記載がなく、このめっき層が厚い場合には純錫めっき層を必要とする十分に薄い層とすることができず、ウイスカーの生成を十分に抑制することができない問題点があった。さらに、特許文献3には、銅或いは銅合金の配線上に熱処理により純錫めっき層の厚さが0.20μm未満となるようにし、その上に腐食防止層を形成することが記載されているが、純錫めっき層の厚さが0.20μm未満と薄くなった場合の銅配線等の腐食の問題を解決しようとするもので、熱処理により生成したCuSn金属間化合物相、CuSn金属間化合物相に関して何ら考慮されていない。
【特許文献1】特開2006−127939号公報
【特許文献2】特開2005−243345号公報
【特許文献3】特開2006−319269号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
よって本発明が解決しようとする課題は、フレキシブルフラットケーブル(以下、FFC)として用いる錫系めっき銅または銅合金の平角導体(以下、Sn系めっきCu平角導体)に関するもので、純錫めっきが施された銅または銅合金の平角導体(以下、Cu平角導体)の前記錫系めっき層(以下、Sn系めっき層)を熱処理した後の、純錫めっき層(以下、純Snめっき層)の厚さおよび生成された銅の金属間化合物相の構成を特定することによって、ウイスカーの発生を極力抑制することにある。具体的には、発生するウイスカーの最大長を50μm以下、より好ましくは30μm以下とすること、さらに屈曲特性、具体的にはU字摺動屈曲試験に於ける屈曲回数が300万回以上、好ましくは400万回以上に向上させると共に、接触信頼性(接触抵抗として50mΩ未満)も十分満足するSn系めっきCu平角導体を提供することにある。また、このようなSn系めっきCu平角導体を用いることによって、コネクタと長期間嵌合して使用してもウイスカーの発生が銅配線間等での短絡等がない電気的特性に優れたFFCを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記解決しようとする課題は、請求項1に記載するように、Cu平角導体の端子部が熱処理されることによって、前記Cu平角導体の表面から順次、CuSn金属間化合物相(B相)、CuSn金属間化合物相(A相)および純錫(以下、純Sn)或いは錫合金(以下、Sn合金)層が形成されたSn系めっきCu平角導体であって、前記純Sn或いはSn合金層の最大厚さが1.0μmで、かつ平均厚さが0.3〜1.0μmであると共に、前記B相と前記A相の生成割合の比がA相/B相として1.5以上であるFFC用のSn系めっきCu平角導体とすることによって、解決される。また、請求項2に記載するように、前記B相とA相の生成割合の比がA相/B相として1.5〜3.0であることを特徴とするFFC用のSn系めっきCu平角導体とすることによって、より好ましく解決される。
【0005】
さらに、請求項3に記載するように、請求項1または2に記載のFFC用のSn系めっきCu平角導体に於いて、前記A相の表面粗さの平均が150nm以下であるFFC用のSn系めっきCu平角導体とすることによって、最も好ましく解決される。
【0006】
請求項4に記載するように、前記Sn合金めっき層が、錫銅合金、錫銀合金、錫ビスマス合金から選ばれる一種であるSn系めっきCu平角導体とすることによって、解決される。
【0007】
また、請求項5に記載するように、請求項1〜4のいずれかに記載される純Snめっき或いはSn合金めっきが施されたSn系めっきCuの複数本が、必要な間隔で接着剤付絶縁テープによってラミネートされて平行に配置され、端子部が形成されているFFCとすることによって、解決される。
【発明の効果】
【0008】
以上のような本発明によれば、Cu平角導体が熱処理されることによって、前記Cu平角導体の表面から順次、B相(CuSn金属間化合物相)、A相(CuSn金属間化合物相)および純Sn或いはSn合金層が形成されたSn系めっきCu平角導体に於いて、前記純Sn或いはSn合金層の最大厚さが1.0μmで、かつ平均厚さが0.3〜1.0μmであると共に、前記B相と前記A相の生成割合の比がA相/B相として1.5以上とすることによって、屈曲特性(U字摺動屈曲試験に於ける屈曲回数が300万回以上或いは400万回以上)が向上すると共に、発生するウイスカーの最大長が50μm未満で、接触信頼性にも優れたSnめっきCu平角導体とすることができる。さらに、前記B相とA相の生成割合の比がA相/B相として1.5〜3.0の範囲とすることによって、この種FFC用のSn系めっきCu平角導体として信頼性の中でも重要視され最も要求の多い屈曲特性を、U字摺動屈曲試験に於ける屈曲回数を確実に400万回以上とすることができる。また、発生するウイスカーの最大長が50μm以下で、接触信頼性(接触抵抗が50mΩ未満)にも優れたSnめっきCu平角導体とすることができる。このようなSn系めっきCu平角導体を用いてFFCを作製すれば、短絡等を生じない電気的特性に優れたFFCが得られる。
【0009】
また、前述のFFC用のSn系めっきCu平角導体に於いて、前記A相の表面粗さの平均を150nm以下とすることによって、発生するウイスカーの最大長を30μm以下に抑制することができると共に、屈曲特性(U字摺動屈曲試験に於ける屈曲回数が300万回以上)や接触信頼性(接触抵抗が50mΩ未満)にも優れたSn系めっきCu平角導体を確実に製造することができるので好ましい。さらには、A相の表面粗さの平均を150nm以下とすると共に、A相/B相を1.5〜3.0の範囲とすることによって、発生するウイスカーの最大長を30μm以下に抑制することができると共に、屈曲特性(U字摺動屈曲試験に於ける屈曲回数が400万回以上)並びに接触信頼性(接触抵抗が50mΩ未満)に優れたSn系めっきCu平角導体とすることができ好ましい。
【0010】
さらに、前記Sn合金層として、錫銅合金、錫銀合金、錫ビスマス合金から選ばれる一種であるSn合金めっきCu平角導体としたので、コネクタと長期間嵌合して使用してもウイスカーの発生が抑制されたSn系めっきCu平角導体であり、Sn合金めっき層も用途に適した種々のSn合金を選定できる。
【0011】
そして、前記のSn系めっきCu平角導体の複数本を用いて必要な間隔で接着剤付絶縁テープによってラミネートされて平行に配置され、端子部が形成されているFFCとすることによって、コネクタと長期に渡って嵌合して使用しても、発生するウイスカーの最大長を50μm以下、好ましくは30μm以下とすることが可能なので、銅配線間等で短絡等が生じることがない電気的特性に優れた小型のFFCとすることができる。さらには、U字摺動屈曲試験に於ける屈曲回数が300万回以上、好ましくは400万回以上の屈曲特性や接触抵抗が50mΩ未満の接触信頼性が良好なものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明の実施の形態を説明する。本発明のSn系めっきCu平角導体はFFC用として使用されるもので、熱処理されることによって前記Cu平角導体の表面から順次、B相、A相および純Sn或いはSn合金層が形成されたSnめっきCu平角導体であって、前記純Sn或いはSn合金層の最大厚さが1.0μmで、かつ平均厚さが0.3〜1.0μmであると共に、前記B相とA相の生成割合の比がA相/B相として1.5以上とするものである。以下に詳細に説明する。
【0013】
FFC用のSnめっきCu平角導体は、通常Φ0.1〜0.2mm程度に伸線された銅線にSnめっき層を施した後、圧延加工を行うことによって製造されている。ついで、熱処理して純Snめっき層の厚さを減少させることによってウイスカーの発生を抑制していた。しかしながら、前述の熱処理によって、Sn系めっきCu平角導体の表面から順次、B相、A相の銅金属間化合物相および純Sn層やSn合金層が生成されることになる。そして、銅金属間化合物相の内、特にB相(CuSn金属間化合物相)は凹凸状に成長する。このため、B相の成長が進むと純錫めっき層との界面を平滑にすることが難しくなり、純Snめっき層等の厚さが均一にならなかった。また、このSn系めっき層は全てCu原子の拡散によって進行するので、B相およびA相の形成時の体積膨張によってSn系めっき層に生じる内部応力に差が生じる。そのため、同じ厚さのSn系めっき層等であっても銅金属間化合物相の構成が異なると、ウイスカーの発生機構も異なることが判った。特に、B相がA相(CuSn金属間化合物相)を突き破るように生成すると長いウイスカーが発生し易いことが確認された。
【0014】
そこで、この発明ではSn系めっきCu平角導体として、前記純Sn層の最大厚さが1.0μmでかつ平均厚さが0.3〜1.0μmであると共に、前記B相と前記A相の生成割合の比がA相/B相として1.5以上とすることによって、コネクタと嵌合して長期に使用しても銅配線間等での短絡等が生じることがない程度(ウイスカーの最大長が50μm以下)の長さのウイスカーであると共に、U字摺動屈曲試験に於ける屈曲回数が400万回以上の屈曲特性を有するSn系めっきCu平角導体とすることができる。すなわち、A/Bが1.5未満ではB相の成長の影響が出てきて銅金属間化合物層に凹凸状に成長してしまい、純Sn層と銅金属間化合物層の界面の平滑性が悪くなり、そのため、純Sn層の厚さにバラツキが生じ易くなり、特に純Sn層の厚い部分から優先的により長いウイスカーが発生し易いことによると思われる。これは、生成されたB相がA相の表面から突出しない状態となり、純Sn層が比較的平滑となりウイスカー発生の起点が少なく、ウイスカーの発生も抑制されるものと考えられる。また、純Sn層の最大厚さが1.0μmで、かつ平均厚さが0.3〜1.0μmであると、ウイスカーの供給源となる錫原子の量が少なくなるためウイスカーの発生が抑制(最大長が50μm以下)されると共に、接触信頼性(接触抵抗として50mΩ未満)や耐食性も確保される。また、屈曲特性についてもU字摺動屈曲試験に於ける屈曲回数が300万回以上の屈曲寿命を有するものとなる。このようなSn系めっきCu平角導体を用いてFFCを作製すれば、コネクタと嵌合して長期間使用しても銅配線間等での短絡等が生じることがない程度のウイスカーに抑制できる。
【0015】
さらに、前記B相とA相の生成割合の比をA相/B相として1.5〜3.0の範囲とすることによって、U字摺動屈曲試験に於ける屈曲回数が400万回以上の屈曲寿命とすることができる。また、発生するウイスカーの最大長も50μm以下であると共に、接触抵抗が50mΩ未満と接触信頼性にも優れたSn系めっきCu平角導体とすることができる。このようなSn系めっきCu平角導体を用いてFFCを作製すれば、短絡等を生じない電気的特性に優れた特に、小型のFFCを得ることもできる。本発明者等が純Sn層の厚さと銅金属間化合物層に於けるB相およびA相の割合について種々検討した結果、B相およびA相の割合が3.0を超えなければ前記屈曲回数が確実に400万回以上になることを確認した。すなわち、純Sn層の最大厚さが1.0μmでかつ平均厚さが0.3〜1.0μmであって、B相とA相の生成割合の比がA/Bとして1.5〜3.0になるようなSnめっき層を形成することによって、U字摺動屈曲試験に於ける屈曲回数を400万回以上の屈曲寿命であり、発生するウイスカーの最大長を50μm未満にでき、前記接触信頼性にも優れたものとなる。さらに説明すると、B相とA相の生成割合の比にするのはA/Bが1.5未満では前述した問題点が生じ、また、A/Bが3.0を超えるようになると、前記の屈曲寿命が得られないためである。また、純Sn層の最大厚さが1.0μmで、かつ平均厚さが0.3〜1.0μmとするのは、FFCの端子部の接触信頼性、耐食性を確保すると共に、ウイスカーの供給源となる錫原子の量を極力少なくするためである。なお、長さが50μm程度のウイスカーであれば、コネクタと嵌合して長期間使用しても銅配線間等での短絡等が生じることがない程度のウイスカーであり、また、接触信頼性も十分確保できると共に屈曲寿命にも優れたSn系めっきCu平角導体となる。そして、このような構成のSn系めっき層は、通常Sn系めっきの融点以上の温度で、0.05〜数秒間加熱することによって得ることができる。さらには、Snめっきの融点以下の温度で長時間加熱することによっても良いし、両者の加熱処理を組合わせて行っても良い。なお、B相とA相の生成割合の比は、純Sn層の最大厚さが1.0μmかつ平均厚さが0.3〜1.0μmで、後述するようにA相の表面粗さの平均値が150nm以下であれば、実用的なSn系めっきCu平角導体が得られるので、必ずしもA/Bとして1.5〜3.0の範囲ではなく3.0を若干上回っても有用であることを確認した。
【0016】
さらに検討を進めた結果、上記のFFC用のSn系めっきCu平角導体に於いて、前記A相の表面粗さの平均を150nm以下とすることによって、発生するウイスカーの最大長を30μm以下に抑制することができると共に、屈曲特性や接触信頼性にも優れたSnめっきCu平角導体を確実に製造することができるので好ましい。本発明者等は、純Sn層と銅金属間化合物層との界面の平滑性についても検討した結果、前記A相の表面粗さの平均が150nm以下であれば、発生するウイスカーの最大長が30μm以下となることを確認した。すなわち、Snめっき層を加熱処理した後、純Sn層を除去(化学的或いは電気化学的処理によって)し、その表面(A相の表面に相当)を原子間力顕微鏡(以下、AFM)を用いて3次元的に観測したところ、その表面粗さの平均が150nm以下であれば発生するウイスカーの最大長が30μm以下となることが判った。また、A相の表面粗さの平均が150nm以下で、B相とA相の生成割合の比がA/Bとして1.5〜3.0の範囲内とすることによって、U字摺動屈曲試験に於ける屈曲回数も400万回以上の屈曲寿命とすることができる。このように、純Sn層の最大厚さが1.0μmで、かつ平均厚さが0.3〜1.0μmであると共にA/Bの上限が3.0であれば、U字摺動屈曲試験に於ける屈曲回数が400万回以上の屈曲寿命であり、接触抵抗として50mΩ未満の接触信頼性にも優れるものとなる。しかも、ウイスカーの最大長は30μm以下であるから最も好ましいSn系めっきCu平角導体となる。このようなSn系めっきCu平角導体は、コネクタと嵌合して長期間使用しても銅配線間等での短絡等が生じることがないSn系めっきCu平角導体が得られる。なお、A相の表面粗さの平均値は、B相とA相の生成割合の比がA/Bとして1.5以上、好ましくは、1.5〜3.0の範囲で、純Sn層の最大厚さが1.0μmかつ平均厚さが0.3〜1.0μmであればU字摺動屈曲試験に於ける屈曲回数が400万回以上の屈曲寿命で、ウイスカーの最大長が50μm以下の実用的なSn系めっきCu平角導体が得られ、必ずしも150nm以下とする必要がないことも確認できた。
【0017】
また、前記Sn合金めっき層が錫銅合金、錫銀合金、錫ビスマス合金から選ばれる一種とすれば、得られたSn系めっきCu平角導体は、コネクタと長期間嵌合して使用しても銅配線間等での短絡等が生じることがない程度のウイスカーの発生に抑制され、屈曲特性や接触信頼性に優れると共に目的によって錫銅合金、錫銀合金、錫ビスマス合金等の鉛フリーのSn合金めっきにも適用できるので、めっき処理の使用範囲が広くなり有用なSn系めっきCu平角導体である。
【0018】
そして、純Snめっき或いはSn合金めっきが施されたSn系めっきCu平角導体の複数本が、必要な間隔で接着剤付絶縁テープによってラミネートされて平行に配置され、端子部が形成されているFFCとすることによって、前記端子部とコネクタとを嵌合して長期に使用してもウイスカーの発生が抑制され、銅配線間等での短絡を生じることがなく有用なものである。これは、前述したように発生するウイスカーの最大長を50μm以下や30μm以下に抑制することができる優れたSn系めっきCu平角導体が開発できたためである。さらには、屈曲特性(U字摺動屈曲試験に於ける屈曲回数が300万回以上、好ましくは400万回以上)や接触抵抗として50mΩ未満の接触信頼性(接触信頼性の指標となる)にも優れたSn系めっきCu平角導体である。このようなSn系めっきCu平角導体を使用することにより、小型の電子機器類にも十分に対応できるFFCが得られる。なお、通常のFFCについて簡単に説明すると、前述のSn系めっきCu平角導体を数本〜数十本所定の間隔で平行に並べ、ポリエチレンテレフタレート(以下、PET)やポリイミド樹脂(以下、PI)等の絶縁フィルムで両側からラミネートして被覆し、適所で切断し少なくとも一方の端部がコネクタ(例えば、ZIF型コネクタ)と接続する端末部となるように切削して形成することによって製造されたものである。
【実施例】
【0019】
以下に実施例および比較例を記載して、本発明の効果を述べる。Φ0.8mmの軟銅丸線に電解Niめっきにより10μm厚さの純Snめっき層を形成した。このSnめっき軟銅丸線を伸線加工によりΦ0.12mmまで伸線した。ついで、上・下の圧延ロールを用いて圧延加工し、厚さが0.035mmのSnめっき平角導体とした。純Snめっきの他にSn−1%Agめっきを施したもの、また銅線の代わりにリン青銅線を使用して、同様にSn合金めっき平角導体を作製した。これ等のSn系めっき平角導体を、種々の加熱条件で熱処理を行い純Sn層(或いはSn−1%Agめっき層)、銅金属間化合物層を形成させて、それぞれの層の厚さ並びに銅金属間化合物層に於けるB相およびA相の状態をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察して、B相がA相から突出しているか否かを調べた。また、得られたB相の割合とA相の割合を面積として算出し、その面積比からA相/B相の比率を求めた。さらに、銅金属間化合物層に於けるB相の表面粗さを、純Sn層を化学的に処理して除去した後に、AFM(Atomic Force Microscope)を用いて観測した。ついで、JIS B0601に基づいて算出平均粗さ(Ra)を求めた。表面粗さ(Ra)が150nm以下のものを合格とした。ついで、これ等のSnめっき平角導体を用いてFFC(40本を平行に配置)を作製し、その端子部にコネクタ(JST社製のZIFタイプのもので、Snリフロー処理が施されたものである。)を嵌合して常温常湿下で500時間保持した。ついで、端子部の表面をSEM(走査型電子顕微鏡)によって観察して発生したウイスカーの最大長さを測定した。ウイスカーの長さとして、50μm以下を〇印で、30μm以下を◎として記載した。また50μmを超えるものは△印で、100μmを超えた場合には×印で記載した。さらに、屈曲特性として、得られたFFCの片端を固定してU字状になるように曲げて設置し、他端を一定のストロークで摺動させて平角導体が断線するまでの回数を測定した(U字摺動屈曲試験)。屈曲回数が400万回以上のものを◎印で、300万回以上のものを〇印で示した。さらに、コネクタと嵌合状態でテスターによる接触抵抗を測定して接触信頼性の指標とした。50mΩ未満を〇印で、50mΩ以上のものは不合格として×印で示した。純銅導体に純錫めっきを施した場合の実施例の結果を表1に、また、表1に対応する比較例の結果を表2に示した。さらに、導体としてリン青銅を使用した場合やSn−1%Agをめっきした場合の実施例および比較例の結果を、表3に記載した。
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】

【0022】
【表3】

【0023】
表1から明らかなように、実施例1〜4に示した純Sn層の最大厚さが1.0μmで、かつ平均厚さが0.3〜1.0μm、B相とA相の生成割合の比がA相/B相として1.5以上を満足する純Cuの導体に、純SnをめっきしたSnめっきCu平角導体は、総合評価を〇印で示したように、コネクタと嵌合して長期に使用しても発生するウイスカーの最大長は50μm以下であり、また、屈曲特性もU字摺動屈曲試験に於ける屈曲回数が300万回以上の屈曲寿命を有し、接触抵抗値も50mΩ未満と接触信頼性も良いことを示している。さらに、B相がA相から突出しているものはなかった。また、実施例5〜13として示した、純Sn層の最大厚さが1.0μmでかつ平均厚さが0.3〜1.0μm、B相とA相の生成割合の比がA相/B相として1.5〜3.0を満足する純Cuの導体に純SnをめっきしたSnめっきCu平角導体は、総合評価を〇印で示したように、コネクタと嵌合して長期に使用しても発生するウイスカーの最大長は50μm以下であり、また、屈曲特性もU字摺動屈曲試験に於ける屈曲回数が400万回以上の屈曲寿命を有し、接触抵抗値も50mΩ未満と接触信頼性も良いことを示している。さらに、B相がA相から突出しているものはなかった。さらに、実施例14〜17に示した例は、純Sn層の最大厚さが1.0μmでかつ平均厚さが0.3〜1.0μm、B相とA相の生成割合の比がA相/B相として3.2〜4.2と3.0を超えた場合でも、前記A相の表面粗さの平均が150nm以下の純Cuの導体に純SnをめっきしたSnめっきCu平角導体は、総合評価を〇印で示したように、A相の表面粗さの平均を150nm以下としたことによって発生するウイスカーの最大長を30μm以下とすることができ、また屈曲回数は300万回以上となる。なお、これ等の例でもB相がA相から突出しているものはなかった。
【0024】
また、実施例18〜36に示すように、純Sn層の最大厚さが1.0μmでかつ平均厚さが0.3〜1.0μm、B相とA相の生成割合の比がA相/B相として1.5〜3.0であり、前記A相の表面粗さの平均が150nm以下のSnめっきCu平角導体は、総合評価が◎印で示されるように、コネクタと嵌合して長期に使用しても発生するウイスカーの最大長は30μm以下、また、U字摺動屈曲試験に於ける屈曲回数は400万回以上の屈曲寿命を有し、接触抵抗値も50mΩ未満であり最も好ましい例である。また、B相がA相から突出しているものは見当たらなかった。
【0025】
つぎに、表2の比較例について説明する。比較例1〜3に示すように、A相/B相が1.5未満で、A相の表面粗さの平均が150nmを超えると、ウイスカーが長さ50μmを超えるものが発生して問題があった。また、いずれの例もB相がA相から突出していた。また、純Sn層の最大厚さが1.0μmを超えるものは、比較例4、5および9に見られるように、長さが50μmを超えるウイスカーが発生して好ましくない。特に、比較例9に示すように純Sn層の平均厚さが1.0μmを超え、最大厚さが1.45μmとなると、長さが100μmを超えるウイスカーが発生した。また、純Sn層の平均厚さが0.3μm未満の場合には、比較例6〜8に示すようにSnめっき層が薄すぎることにより接触抵抗が50mΩ以上となって問題がある。なお、これ等の例ではB相がA相から突出しているものは見当たらなかった。
【0026】
つぎに、表3に示した純Cu以外の導体や純Sn以外のSnめっきを用いた場合について説明する。実施例37のように、導体として純Cuを用いSn系めっきとしてSn−1%質量Agめっきを施したSn系めっきCu平角導体、また、実施例38に記載するように、導体としてリン青銅を用い純SnめっきとたSn系めっきCu平角導体であっても、純Sn層の最大厚さが1.0μmでかつ平均厚さが0.3〜1.0μm、B相とA相の生成割合の比がA相/B相として1.5〜3.0であれば、発生するウイスカー長が50μm以下で、接触抵抗が50mΩ未満、屈曲特性としてU字摺動屈曲試験に於ける屈曲回数が400万回以上の屈曲寿命を有するものであった。総合評価を〇印で示した。また、実施例39および40のように、導体として純Cuを用いSn系めっきとしてSn−1%質量Agめっきを施したSn系めっきCu平角導体であって、純Sn層の最大厚さが1.0μmでかつ平均厚さが0.3〜1.0μm、B相とA相の生成割合の比がA相/B相として1.5〜3.0で、A相の表面粗さの平均が150nm以下であれば、発生するウイスカーの長さが30μm以下で、接触抵抗が50mΩ未満、屈曲特性としてU字摺動屈曲試験に於ける屈曲回数が400万回以上の屈曲寿命を有する優れたものとすることができる。総合評価として◎印で示した。さらに、実施例41のように導体としてリン青銅を用い、Sn−1%質量Agめっきを施したSn系めっきCu平角導体、実施例42のように導体としてリン青銅を用い、純Snめっきを施したSn系めっきCu平角導体であって、純Sn層の最大厚さが1.0μmでかつ平均厚さが0.3〜1.0μm、B相とA相の生成割合の比がA相/B相として1.5〜3.0で、A相の表面粗さの平均が150nm以下としたものは、発生するウイスカーの長さが30μm以下で、接触抵抗が50mΩ未満、屈曲特性としてU字摺動屈曲試験に於ける屈曲回数が400万回以上の屈曲寿命を有する優れたものである。総合評価として◎印で示した。なお、以上の実施例では、B相がA相から突出しているものは見当たらなかった。
【0027】
これに対して、比較例10に記載したように、導体として純Cuを用いSn系めっきとしてSn−1%質量Agめっきを施したSn系めっきCu平角導体であって、A相/B相が1.5未満で、A相の表面粗さが150nmを大幅に超えるようにすると、ウイスカーの長さが50μmを超えるものが発生して好ましくない。また、比較例11のように、導体としてリン青銅を用い純Snめっきを施したSn系めっきCu平角導体に於いても、A相/B相が1.5未満で、A相の表面粗さが150nmを超えると、ウイスカーの長さが50μmを超えるものが発生して好ましくなかった。これらの例では、いずれもB相がA相から突出していた。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明のFFC用のSn系めっきCu平角導体は、特にコネクタと長期間嵌合して使用してもウイスカーの発生を、銅配線間等での短絡等が生じることがない程度に抑制できるので、特に小型の電子機器類用のFFCとして使用しても有用なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
純錫めっき或いは錫合金めっきが施されている銅または銅合金の平角導体が熱処理されることによって、前記銅または銅合金の平角導体表面から順次、CuSn金属間化合物相(以下、B相)、CuSn金属間化合物相(以下、A相)および純錫或いは錫合金層が形成された銅または銅合金からなる平角導体であって、前記純錫或いは錫合金層の最大厚さが1.0μmで、かつ平均厚さが0.3〜1.0μmであると共に、前記B相とA相の生成割合の比がA相/B相として1.5以上であることを特徴とするフレキシブルフラットケーブル用の純錫めっき或いは錫合金めっきが施された銅または銅合金からなる平角導体。
【請求項2】
前記B相とA相の生成割合の比がA相/B相として1.5〜3.0であることを特徴とする請求項1に記載のフレキシブルフラットケーブル用の純錫めっき或いは錫合金めっきが施された銅または銅合金からなる平角導体。
【請求項3】
請求項1または2に記載のフレキシブルフラットケーブル用の純錫めっき或いは錫合金めっきが施された銅または銅合金平角導体に於いて、前記A相の表面粗さの平均が150nm以下であることを特徴とするフレキシブルフラットケーブル用の純錫めっき或いは錫合金めっきが施された銅または銅合金平角導体。
【請求項4】
前記錫合金めっき層が、錫銅合金、錫銀合金、錫ビスマス合金から選ばれる一種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の錫合金めっきが施された銅または銅合金平角導体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載される純錫めっき或いは錫合金めっきが施された銅または銅合金平角導体の複数本が、必要な間隔で接着剤付絶縁テープによってラミネートされて平行に配置され、端子部が形成されていることを特徴とするフレキシブルフラットケーブル。

【公開番号】特開2009−231065(P2009−231065A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−75365(P2008−75365)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】