説明

鍵盤装置

【課題】仕上げ処理を要することなく凹部の山部がフレームに干渉することを防止し、基板の実装精度を高める。
【解決手段】基板は、その後端縁部23が、フレームの鉛直部の平坦な前面11aに対して近接対向または当接するように配設される。基板は、基板集合体をミシン目で切断して分離することで得られる。後端縁部23には、凹部22が、前面11aから遠い側に凹となるように形成され、それぞれの底部に切断部を有する。切断部は、前面11aに近い側を山部mとし、遠い側を谷部vとする波形の形態を呈している。各凹部22において切断部の山部mの頂部Pmのうち最も高いものが、後端縁部23よりも前面11aから間隔を置いて位置し、後端縁部23を越えない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板がフレームに実装される鍵盤装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子鍵盤楽器における鍵盤装置においては通常、鍵や質量体等の回動部材を支持するフレームに、電子部品が配設されプリント配線がなされた基板が実装される(例えば、下記特許文献1)。この種の鍵盤装置では、基板をフレームの所定の面に当接、またはできるだけ近接対向させて配設したい場合がある。
【0003】
図5(a)、(b)は、基板が配設された状態の従来の鍵盤装置の側面図、基板配設部分の裏面図である。鍵が回動自在に支持されるフレーム110の後側の鉛直部111の前側に基板120が配設される。基板120の配設位置精度の確保のため、あるいはフレーム110における他の部品の実装スペースの確保のために、基板120を、その後部側の縁部Eが鉛直部111の前面111aに対して極力近づくようにして配設されている。
【0004】
ところで、鍵盤装置用の基板としては、基板集合体をミシン目で切断して分離することで得られるものがある。すなわち、複数の小基板が多数の円形穴でなるミシン目で接続されてなる基板集合体を、ミシン目で折るように分離、切断することで、複数の基板を得る。図5(b)に示す基板120についてもそれが適用されており、縁部Eに複数のミシン目による切断跡である切断部Mが生じている。切断部Mは、鉛直部111の前面111aに近い側を頂部側とする山部mと谷部vとでなる波形に形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3109432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、切断部Mにおいて、切断の状態によっては山部mの頂部の高さにばらつきが生じる。そのため、切断部Mの山部mが縁部Eから突出する量が大き過ぎると、山部mが前面111aと当接干渉し、縁部Eと前面111aとの間隔が適切な値よりも大きくなって、基板120の配設位置精度が悪化してしまう。そうなると、例えば、基板120に配設されている鍵スイッチの、鍵に対する位置がずれ、押鍵操作の検出精度に悪影響を及ぼすことにもなる。このような干渉を回避するためには、切断部Mの山部mを一定高さ以下に揃えるための切除等の仕上げ処理の工程が必要となってしまう。
【0007】
本発明は上記従来技術の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、仕上げ処理を要することなく凹部の山部がフレームに干渉することを防止し、基板の実装精度を高めることができる鍵盤装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明の請求項1の鍵盤装置は、基板(20)がフレーム(10、50)に実装される鍵盤装置であって、前記基板は、前記フレームにおける所定の面(11a、51a)に対して当接または近接対向する縁部(23)と、前記縁部において、前記所定の面から遠い側に凹となるように形成された複数の凹部(22)とを有し、前記所定の面に近い側を山部(m)とし遠い側を谷部(v)とする波形の形態が前記複数の凹部の各々に存在し、前記各凹部において前記山部の頂部(Pm)のうち最も高いものが、前記所定の面から間隔を置いて位置していることを特徴とする。
【0009】
好ましくは、前記複数の全ての凹部における前記谷部の谷底位置(Pv)が一直線上に位置する(請求項2)。
【0010】
上記目的を達成するために本発明の請求項3の鍵盤装置は、基板集合体(30)をミシン目(29)で切断して分離することで得られる基板(20)が、フレーム(10、50)に実装される鍵盤装置であって、前記基板は、前記フレームにおける所定の面(11a、51a)に対して当接または近接対向する縁部(23)と、前記縁部において、前記所定の面から遠い側に凹となるように形成された複数の凹部(22)とを有し、前記基板が前記ミシン目で分離された際に生じる切断部(21)が、前記所定の面に近い側を山部(m)とし遠い側を谷部(v)とする波形の形態として前記複数の凹部の各々に存在し、前記各凹部において前記切断部の前記山部の頂部(Pm)のうち最も高いものが、前記所定の面から間隔を置いて位置していることを特徴とする。
【0011】
好ましくは、前記複数の全ての凹部における前記ミシン目の基準線が一直線上に位置する(請求項4)。
【0012】
好ましくは、前記フレームには、鍵(13)または該鍵に連動して回動する回動部材(60)の少なくともいずれかを回動自在に支持する支点部(25、55)が設けられ、前記フレームの前記所定の面は、前記支点部の近傍で略鉛直方向に延在する壁部(11、51)の面(11a、51a)である(請求項5)。
【0013】
なお、上記括弧内の符号は例示である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の請求項1、3によれば、仕上げ処理を要することなく凹部の山部がフレームに干渉することを防止し、基板の実装精度を高めることができる。
【0015】
請求項2、4によれば、基板集合体から基板を折って分離する際に捻れ力が作用しない。
【0016】
請求項5によれば、支点部に対する基板の位置精度が高まり、例えば鍵や回動部材の動作の検出精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施の形態に係る鍵盤装置の側面図、基板配設部分の裏面図である。
【図2】1つの凹部の拡大図である。
【図3】基板集合体の一部領域を示す平面図、1つのミシン目近傍を示す拡大図である。
【図4】変形例に係る鍵盤装置の基板配設部分の裏面図、変形例に係る鍵盤装置の側面図である。
【図5】基板が配設された状態の従来の鍵盤装置の側面図、基板配設部分の裏面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0019】
図1(a)は、本発明の一実施の形態に係る鍵盤装置の側面図である。図1(b)は、同鍵盤装置の基板配設部分の裏面図である。この鍵盤装置は、電子鍵盤楽器に適用され、複数の白鍵及び黒鍵でなる複数の鍵13を有する。鍵13は、各々、フレーム10に支持され、並列配置される。以降、鍵13の長手方向(図1(a)の左右方向)を前後方向と称し、左右方向については奏者側からみた方向で呼称する。
【0020】
図1(a)に示すように、フレーム10は樹脂等で構成され、水平部14と、水平部14の前端に連接する前側の鉛直部15と、水平部14の後端に連接する後側の鉛直部11とを有する。鉛直部11、15は、左右方向及び鉛直方向に平行に延在する壁部である。各鍵13は、鍵支点部25を中心に回動自在に配設される。鍵支点部25は、鉛直部11の上部近傍において、フレーム10に設けられる。
【0021】
水平部14の直下においてフレーム10に基板20が配設される。基板20は、水平部14と平行に水平部14に対して下側から螺合固定されている。基板20上には、各鍵13に対応して鍵スイッチ24や各種の電子部品が配設されると共に、プリント配線が施される(図示せず)。鍵スイッチ24は、対応する鍵13によって押圧され、その押鍵操作を検出する。
【0022】
図1(b)に示すように、基板20は、裏面視で矩形であり、その後端縁部23が、鉛直部11の平坦な前面11aに対して近接対向するように位置決めされて配設される。後端縁部23は前面11aに対して当接してもよい。基板20の後端縁部23には、複数の凹部22が形成されている。左右方向における対象領域12には、凹部22として3つの凹部22A、22B、22Cが存在する。後端縁部23は、凹部22の部分を除き直線的である。
【0023】
本発明の対象となる複数の凹部22は対象領域12内に存在するものだけであり、その数は3つ以上であってもよい。対象領域12以外に存在する凹部についてはその構成を問わず、存否自体も問わない。ただし、前面11aに近接対向する全領域を対象領域12とするのが望ましい。図1、図2に示す例では、凹部22の深さ(後方への凹み量)は互いに異なっており、22A>22B>22Cとなっている。ただし、各凹部22の深さを共通としてもよい。
【0024】
図2は、1つの凹部22(例えば、凹部22B)の拡大図である。
【0025】
図2に示すように、各凹部22は、前面11aの側(前側)に開口する(前面11aから遠い側に凹となる、すなわち凹む)ように形成され、それぞれの底部に切断部21(21A、21B、21C)を有している。裏面視(平面視も同じ)において、切断部21は、前面11aに近い側を山部mとし、遠い側を谷部vとする波形の形態を呈している。凹部22は、図3で後述するミシン目29で基板20が分離された際に生じる切断跡(ミシン目跡)である。
【0026】
図3(a)は、基板集合体の一部領域を示す平面図、図3(b)は1つのミシン目近傍を示す拡大図である。基板20は、1枚の基板集合体30に複数構成され、ミシン目29で折って切断することで分離され、各々の基板20となる。図3(a)の例では、隣接する基板20間を接続するミシン目29は3箇所であるが、それ以上であってもよい。また、図3(a)の例では、凹部22の深さを共通としている。
【0027】
ミシン目29は、図3(b)に示すように、隣接する基板20間において、凹部22の底部に円形の穴28が間隔を開けて一列に複数形成されてなる。それ以外の基板20間の部分は予め切断分離されている。穴28の連設方向に沿って折るように基板集合体30を曲げると、穴28の中心位置近傍で隣接する穴28間の肉部が切断される。凹部22の底部の側における穴28の位置は、直線Lvに沿う一直線上にあり、各穴28のこの位置が、谷部vの谷底位置Pv(図2)となる。直線Lvは後端縁部23に平行である。また、切断された部分が山部mの頂部Pm(図2)となる。
【0028】
ところで、図1、図2に示すような、基板20内に深さが互いに異なる凹部22を設ける場合は、基板集合体30において、凹部22の深さを異ならせると共に、各深さに応じて穴28の位置も凹部22毎に設定する。
【0029】
基板集合体30の同一の凹部22内における穴28の穿設位置が揃っているので、図2に示すように、配設後の基板20における切断部21の谷部vの谷底位置Pvの前後方向の位置は、同一の凹部22内においては同じとなる。従って、同一の凹部22内においては、全ての谷底位置Pvが同じ直線Lv上に位置する。
【0030】
しかし、切断部21の山部mの頂部Pmは、基板20を分離したときの状況に依存し、作業者のスキルによっても異なる。そのため、穴28の中心に対応する位置が頂部Pmになるとは限らず、それより高くなる(後方に突出する)場合もある。図2に示すように、同一の凹部22内においても、頂部Pmの位置はばらつく。その中で最も高い頂部Pmを通り後端縁部23に平行な直線Lmと谷底位置Pvを通る直線Lvとの距離をC3とする。また、前面11aと後端縁部23との間隔をC1とし、直線Lvと後端縁部23との間隔をC2とする。ここで、C3<C1+C2の関係式が成り立つようになっている。
【0031】
すなわち、最も高い頂部Pmであっても、必ず前面11aから遠い側に位置するので、後端縁部23を越えて前面11aの側に突出することがない。これにより、基板20の配設時に、山部mが前面11aに当接干渉することがない。
【0032】
通常、距離C3は、穴28の直径D(図3(b))より大きくならないから、基板集合体30の設計時点で、穴28の直径D及び穿設位置を、上記のような関係式が成立するように定めておく。なお、穴28が円形でなく、楕円等である場合は、直径Dに相当する値として、前後方向(図3(b)の左右方向)における穴28の長さを適用する。
【0033】
図1、図2の例では、凹部22の深さが互いに異なっているので、凹部22A、22B、22Cにおける谷部vの谷底位置Pvを通る直線Lvは、互いに平行となる。一方、図3(a)の例に相当するように、凹部22A、22B、22Cの深さを共通にすれば、直線Lvは1本の共通の直線となる。
【0034】
ところで、基板集合体30におけるミシン目29の基準線は、一直線上に位置する。「ミシン目29の基準線」は、基板集合体30をミシン目29で切断分離する場合において、切断される確率の高い部位(そこで分離するであろう点)を結ぶ仮想線である。言い換えれば、切断時に応力集中するポイントを通る直線である。全ての凹部22の深さが共通であれば、これら複数の全ての凹部22におけるミシン目29の基準線は一直線上に位置することになる。
【0035】
本実施の形態によれば、各凹部22において切断部21の山部mの頂部Pmのうち最も高いものが、後端縁部23よりも前面11aから遠い側に位置する(後端縁部23を越えない)。従って、頂部Pmのうち最も高いものが、前面11aから間隔を置いて位置する。これにより、山部mの突出量のばらつきを凹部22で吸収することができる。従って、基板集合体30から分離した基板20の切断部21に仕上げ処理を要することなく、切断部21がフレーム10の前面11aに干渉することを防止することができる。これにより、基板20の実装精度を高めることができるので、例えば、鍵スイッチ24と鍵13との相対的位置の精度が高くなり、押鍵操作の検出精度が維持される。従って、基板20の分離作業のスキルのばらつきの影響も抑制でき、仕上げ処理の不要化と相まって作業効率が向上する。
【0036】
また、各凹部22の深さを共通とした場合、全ての凹部22における切断部21の谷部vの谷底位置Pvが直線Lvの一直線上に位置するので、基板集合体30から基板20を折って分離する際に切断部21に捻れ力が作用しない。
【0037】
ところで、対象領域12内における各凹部22の深さが互いに異なっている場合において、図1、図2に示した例では、切断部21の谷部vの谷底位置Pvの前後方向の位置は、同一の凹部22内においては同じとした。しかし、切断部21に捻れ力が作用しにくくする観点ではこの構成に限られず、図4(a)に示す変形例を採用可能である。
【0038】
図4(a)は、変形例に係る鍵盤装置の基板配設部分の裏面図である。この例では、凹部22A、22B、22Cの順で深さが順に浅くなっている。しかも、各凹部22において、谷部vの谷底位置Pvの前後方向の位置は、左側(図4(a)の下側)ほど前方に位置し、谷底位置Pvは直線LvZ上に位置する。なおかつ、全ての凹部22における谷底位置Pvが同じ直線LvZ上に位置する。直線LvZは後端縁部23とは非平行であり、浅い側の凹部22に近いほど後端縁部23に近くなっている。
【0039】
ところで、上記実施の形態では、基板20の後端縁部23が近接対向または当接するフレーム10の平坦面は、鍵支点部25の近傍にある鉛直部11の前面11aであった。しかし、回動する部材と基板20に配設された部品との相対的な位置精度を高くする観点からは、回動部材は鍵13に限らず、鍵13に連動して回動する部材、例えば、ハンマ体であってもよい。
【0040】
例えば、図4(b)に示すように、フレーム50に鉛直方向に延びる壁部51を設け、壁部51の上端にハンマ支点部55を設ける。そして、ハンマ支点部55を中心に回動自在にハンマ体60が支持される。ハンマ体60は、対応する鍵13に連動して回動動作する。ハンマスイッチ54が配設される基板20は、壁部51の前面51aに対して近接対向または当接するように配設される。
【0041】
このように、支点部に対する基板20の位置精度が高めることで、鍵13やハンマ体60等の、支点部を中心に回動する回動部材と基板20との相対的な位置精度が高まる。これにより、基板20に、ハンマスイッチ54等の検出手段を配設した場合には、回動部材の動作の検出精度を高めることができる。
【0042】
なお、フレーム10、50の平坦面に近接対向または当接する基板20の縁部は、後端縁部23に限られず、基板20の配設姿勢も水平方向に限定されない。また、基板20の縁部が近接対向または当接するフレームの面は、平坦面に限られないし、前面でなく後面であってもよい。さらには、略鉛直な斜面であってもよい。
【符号の説明】
【0043】
10、50 フレーム、 11 鉛直部(壁部)、 11a、51a 前面(所定の面)、 13 鍵、 20 基板、 21 切断部、 22 凹部、 23 後端縁部、 25 鍵支点部、 29 ミシン目、 30 基板集合体、 51 壁部、 55 ハンマ支点部、 60 ハンマ体(回動部材)、 m 山部、 Pm 頂部、 v 谷部、 Pv 谷底位置、 Lv 直線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板がフレームに実装される鍵盤装置であって、
前記基板は、
前記フレームにおける所定の面に対して当接または近接対向する縁部と、
前記縁部において、前記所定の面から遠い側に凹となるように形成された複数の凹部とを有し、
前記所定の面に近い側を山部とし遠い側を谷部とする波形の形態が前記複数の凹部の各々に存在し、
前記各凹部において前記山部の頂部のうち最も高いものが、前記所定の面から間隔を置いて位置していることを特徴とする鍵盤装置。
【請求項2】
前記複数の全ての凹部における前記谷部の谷底位置が一直線上に位置することを特徴とする請求項1記載の鍵盤装置。
【請求項3】
基板集合体をミシン目で切断して分離することで得られる基板が、フレームに実装される鍵盤装置であって、
前記基板は、
前記フレームにおける所定の面に対して当接または近接対向する縁部と、
前記縁部において、前記所定の面から遠い側に凹となるように形成された複数の凹部とを有し、
前記基板が前記ミシン目で分離された際に生じる切断部が、前記所定の面に近い側を山部とし遠い側を谷部とする波形の形態として前記複数の凹部の各々に存在し、
前記各凹部において前記切断部の前記山部の頂部のうち最も高いものが、前記所定の面から間隔を置いて位置していることを特徴とする鍵盤装置。
【請求項4】
前記複数の全ての凹部における前記ミシン目の基準線が一直線上に位置することを特徴とする請求項3記載の鍵盤装置。
【請求項5】
前記フレームには、鍵または該鍵に連動して回動する回動部材の少なくともいずれかを回動自在に支持する支点部が設けられ、前記フレームの前記所定の面は、前記支点部の近傍で略鉛直方向に延在する壁部の面であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の鍵盤装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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