説明

鏡面冷却式露点計

【課題】露点温度を精度良く短時間で測定することができる鏡面冷却式露点計を提供する。
【解決手段】被測定気体に鏡面2aが晒される鏡2と、鏡面2aの一端部Aを冷却する第1の冷却器3と、この冷却器3とは異なる温度で鏡面2aの他端部Bを冷却する第2の冷却器4と、鏡面2aの一端部Aから他端部Bまでの温度を測定するために鏡2に付された複数の温度センサ5、5、・・・511と、鏡面2aの一端部Aから他端部Bまで照射位置を走査させて光を照射する光走査部6と、鏡面2aで反射した光の反射光を受光する受光部7と、受光部7の受光する光強度の変化、光走査部6の照射位置に基づいて、一端部から他端部Bまでの間の結露の開始位置を特定し、その結露の開始位置に近傍する温度センサ5から取得した温度を露点温度とする測定処理部とを備えるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定気体に晒した鏡面を結露(結霜)させ、その鏡面の温度から被測定気体の露点温度を検出する鏡面冷却式露点計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
気体の露点温度を鏡面冷却式露点計(光学式露点計)で測定することが行われている。肉眼判定式の鏡面冷却式露点計では、鏡面の温度を徐々に下げていき、鏡面に露(霜)が付着し始める温度を測定し、続いて鏡面の温度を徐々に上昇させていき、鏡面から露が消失し始める温度を測定し、それら両温度の平均値を露点温度としている。自動制御式の鏡面冷却式露点計では、冷却した鏡面上の露の増減を鏡面からの反射光で検出し、鏡面の温度を自動で上下させて露の付着量が一定になるように温度制御して、付着量が一定になったときの温度を露点温度としている(JIS Z8806:2001)。特許文献1に、自動判定式の鏡面冷却式露点計の一例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−194756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の肉眼判定式の鏡面冷却式露点計や、特許文献1に記載されたような自動制御式の鏡面冷却式露点計では、鏡面の温度を上下させて測定を行うが、露(霜)の付着や蒸発に時間が掛かるため、急激に温度を変化させてしまうと露点温度を正確に測定することはできない。又、鏡面と温度センサとが熱平衡の状態にないと温度を正確に測定することができない。従って、露点温度を精度良く測定するために、鏡面の温度をゆっくりと時間をかけて上下させる必要があり、測定に長時間を要するという課題がある。
【0005】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、露点温度を精度良く短時間で測定することができる鏡面冷却式露点計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項1に記載された鏡面冷却式露点計は、被測定気体に鏡面が晒される鏡と、該鏡面の一部を冷却する第1の冷却器と、該第1の冷却器とは異なる温度で該鏡面の他の一部を冷却する第2の冷却器と、該鏡面の該一部から該他の一部までの温度を測定するために該鏡に配された複数の温度センサと、該鏡面の該一部から該他の一部まで照射位置を走査させて光を照射する光走査部と、該鏡面で反射した該光の反射光を受光する受光部と、該受光部の受光する光強度の変化、及び該光走査部の該照射位置に基づいて、該一部から該他の一部までの間の結露の開始位置を特定し、その結露の開始位置に近傍する該温度センサから取得した温度を露点温度とする測定処理部とを備えることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載された鏡面冷却式露点計は、請求項1に記載されたもので、前記測定処理部は、前記第1の冷却器及び/又は前記第2の冷却器の温度を制御可能であることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載された鏡面冷却式露点計は、請求項2に記載されたもので、前記測定処理部は、前記結露の開始位置が前記一部から前記他の一部までの間の所定位置になるように、前記第1の冷却器及び/又は前記第2の冷却器の温度を制御することを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載された鏡面冷却式露点計は、請求項3に記載されたもので、前記所定位置は、前記一部と前記他の一部との中間部であることを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載された鏡面冷却式露点計は、請求項1から4のいずれかに記載されたもので、前記鏡面が平坦面で形成されており、前記光走査部及び前記受光部が前記一部から前記他の一部までの該鏡面に対向しない位置に配置されていることを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載された鏡面冷却式露点計は、請求項1から4のいずれかに記載されたもので、前記鏡面が前記一部から前記他の一部までを円弧状に湾曲させた曲面で形成されており、前記光走査部及び前記受光部が、共に該鏡面に対向する位置に配置されていることを特徴とする。
【0012】
請求項7に記載された鏡面冷却式露点計は、請求項1から6のいずれかに記載されたもので、前記鏡面の前記一部が前記鏡面の一端部であり、前記他の一部が該鏡面の他端部であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の鏡面冷却式露点計では、温度勾配を持たせた鏡面に光を走査して、その反射光の光強度の変化及び照射位置から、結露の開始位置を特定し、その位置の温度を露点温度として測定する。これにより、従来の鏡面冷却式露点計のように鏡面の温度を上下させて測定を行う必要がないので、露点温度を短時間で測定することができる。しかも、結露した鏡面の温度を測定するということ自体は、従来の鏡面冷却式露点計と変わっていないので、露点温度を正確に測定することができる。
【0014】
測定処理部が、第1の冷却器及び/又は前記第2の冷却器の温度を制御可能とした場合、温度が固定ではなく可変できるため、例えば、測定条件に合わせて適宜数値設定して温度設定が可能になったり、所定温度に自動設定が可能になったりする。
【0015】
測定処理部が、結露の開始位置が鏡面の一部から他の一部までの間の所定位置になるように、第1の冷却器及び/又は第2の冷却器の温度を制御する場合、所定位置を露点温度の変化に対応可能な位置としておくことで、結露の開始位置が鏡面の測定範囲外にならないため、測定途中に測定不能になることなく、露点温度の変化に追随して測定を継続することができる。
【0016】
この所定位置が鏡面の一部と他の一部との中間部である場合、露点温度が上がっても下がっても鏡面の測定範囲に余裕があるので、露点温度の上下の変動に最も対応することができる。
【0017】
鏡面を平坦面で形成して、光走査部及び受光部を、鏡面の一部から他の一部までの鏡面に対向しない位置に配置する場合、鏡面に向かうように被測定気体を流すと、光走査部及び受光部が鏡面上の被測定気体の流れを乱さないため、露点温度を正確に測定することができる。
【0018】
鏡面を、一部から他の一部までを円弧状に湾曲させた曲面で形成して、光走査部及び受光部を、共に鏡面に対向する位置に配置する場合、光走査部及び受光部が近くなるので、簡便な構造にすることができる。
【0019】
鏡面の一部が鏡面の一端部であり、他の一部が鏡面の他端部である場合、鏡面全体を使って測定することができるので、測定精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明を適用する鏡面冷却式露点計の要部を示す側面図である。
【図2】本発明を適用する鏡面冷却式露点計の使用状態の鏡面を示す平面図である。
【図3】本発明を適用する鏡面冷却式露点計の電気的構成を示すブロック図である。
【図4】本発明を適用する鏡面冷却式露点計の動作を説明するためのフローチャートである。
【図5】本発明を適用する鏡面冷却式露点計の光検出強度と鏡面温度との関係を示すグラフである。
【図6】本発明を適用する他の鏡面冷却式露点計の要部を示す側面図である。
【図7】本発明を適用する鏡面冷却式露点計に使用する温度センサの平面図である。
【図8】図7の温度センサのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0022】
図1に側面図で示す鏡面冷却式露点計1は、鏡2、第1の冷却器3、第2の冷却器4、複数の温度センサ5(一例として温度センサ5、5、・・・511)、光走査部6、及び受光部7を備え、被測定気体の露点温度を測定可能なものである。
【0023】
鏡2は、被測定気体に鏡面2aが晒されるように、例えば送風ファン(不図示)によって送風される気体流路内に配置されている。この鏡2は、板状の熱伝導性の良い金属鏡であり、一様な熱伝導率(熱抵抗)を有している。鏡2の表面(図の上方側)は、研磨又は鍍金によって、平坦面の鏡面2aに形成されている。この鏡2は、図2の平面図に示すように、その一端部A(本発明における「鏡面の一部」の一例)から他端部B(本発明における「鏡面の他の一部」の一例)まで所定長を有する細長い板状に形成されている。
【0024】
図1に示す冷却器3は、鏡面2aの一端部Aを冷却するものであり、鏡面2aの一端部Aの裏面側に付されている。冷却器4は、冷却器3(一端部A)とは異なる温度で鏡面2aの他端部Bを冷却するものであり、鏡面2aの他端部Bの裏面側に付されている。冷却器3,4は、一例として各々ペルチェ素子であり、後述する測定処理部8によって各々別個に電気的に温度制御される。
【0025】
温度センサ5、5、・・・511(特に区別しないときには単に温度センサ5ともいう)は、鏡面2aの一端部Aから他端部Bまでの温度を検出するものであり、一端部Aから他端部Bまで等間隔で鏡面2aの裏面に付されている。各温度センサ5は、その温度検出部分が、鏡2の裏面のほぼ中央(短辺方向の中央)に位置するように付されていることが好ましい(図2参照)。温度センサ5は、例えば白金測温抵抗体、又は熱電対である。なお、温度センサ5の数は任意であり、一端部Aから他端部Bまでの長さや、所望の測定分解能に合わせて適宜数を設定する。
【0026】
光走査部6は、鏡面2aの一端部Aから他端部Bまで照射位置を走査させて光を照射するものであり、発光素子11、及び走査機構12を有している。光走査部6は、一例として、鏡面2aに対向しない一端部Aよりも外側の位置に配置されている。
【0027】
発光素子11は、可視光、赤外光、又は紫外光などの鏡面2aで反射可能な光を発光するものであり、例えば、レーザーダイオード、又は発光ダイオードである。発光素子11の光は、ビーム状であることが好ましい。発光素子11の前方に光を集光するレンズを配してもよい。
【0028】
走査機構12は、発光素子11の光を鏡面2aに走査させるものである。走査機構12は、一例として、同図に円弧状矢印で示すように、鏡面2aに対する発光素子11の位置や光軸の角度(入射角度)を変更可能に支持するもので、例えばサーボモータで駆動される2関節の支持機構(ロボットアーム)である。又は、走査機構12は、一例として、プリズムや反射鏡などの光学素子を用いて、発光素子12の光を反射、屈折により鏡面2aに導いて、その光学素子の角度をサーボモータで変化させることで、鏡面2aに対する光の照射位置や入射角度を変更させる機構であってもよい。このような走査機構12として、公知の種々の機構を用いることができる。走査機構12は、後述する測定処理部8によって鏡面2aに対する光の照射位置や入射角度を制御される。
【0029】
受光部7は、鏡面2aで反射した光走査部6(発光素子11)からの光の反射光を受光するものであり、受光素子14、及び移動機構15を有している。受光部7は、一例として、鏡面2aに対向しない他端部Bよりも外側の位置に配置されている。
【0030】
受光素子14は、発光素子11の発光する光を受光したときに、その光強度を電気信号に変換して出力する光電変換素子であり、例えば、フォトトランジスタ、フォトダイオード、又はCCDセンサである。受光素子14の前方に、光を集光させるレンズを配してもよい。
【0031】
移動機構15は、鏡面2aからの発光素子11の光の反射光が、受光素子14に入射されるように、受光素子14を移動させるものである。移動機構15は、一例として、同図に円弧状矢印で示すように、受光素子14の位置や光軸の角度を変更可能に支持するもので、例えばサーボモータで駆動される2関節のロボットアームである。移動機構15は、後述する測定処理部8によって受光素子14の位置や受光角度を制御される。受光素子14の位置及び角度は、発光素子11の位置及び照射角度から鏡面2aへの光の照射位置及び入射角が解るので、入射角と等しい反射角で光が全反射することから、理論的に算出できる。
【0032】
なお、受光素子14が、反射光を受光可能であれば、移動機構15は、受光素子14を単に上下方向(図1の上下方向)、又は左右方向(図1の左右方向)に移動させる機構としてもよいし、位置を固定して受光素子14の角度を変える機構としてもよい。又、受光素子14が、移動せず角度を変えずに反射光を受光可能であれば、移動機構15を用いずに、受光素子14を特定の位置に固定してもよい。要は、受光素子14が反射光を受光できればよく、受光素子14の受光可能な受光範囲や受光可能な光の角度、走査時の反射光の位置や方向などから、受光素子14の位置を適宜設定する。又、移動機構15は、プリズムや反射鏡などの光学素子を用いて、その光学素子の角度をサーボモータで変化させることで、鏡面2aからの反射光を反射、屈折により受光素子14に導く機構であってもよい。
【0033】
図3に鏡面冷却式露点計1の電気的構成を示すブロック図を示す。
【0034】
鏡面冷却式露点計1は、測定処理部8に、前述した冷却器3、冷却器4、温度センサ5、5、・・・511、光走査部6の発光素子11及び走査機構12、並びに、受光部7の受光素子14及び移動機構15が接続されている。又、測定処理部8には、液晶ディスプレイパネルなどの表示部9、及び測定者が操作や設定をするための操作部10が接続されている。
【0035】
測定処理部8は、受光部7の受光する光強度の変化、及び光走査部6の照射位置に基づいて、鏡面2aの一端部Aから他端部Bまでの間の結露の開始位置を特定し、その結露の開始位置に近傍する温度センサ5から取得した温度を露点温度とするものである。
【0036】
具体的には、測定処理部8は、CPU21、ROM22、RAM23、第1の冷却器駆動回路24、第2の冷却器駆動回路25、A/D変換器26、走査機構駆動回路27、発光回路28、受光回路29、A/D変換器30、及び移動機構駆動回路31や不図示の入出力インタフェース回路などを備えている。
【0037】
CPU21は、ROM22に予め記憶された動作用プログラムに従って動作するもので、鏡面冷却式露点計1の各部の動作の制御や、各部から入力される信号(データ)の処理を行う。RAM23は、CPU21の作業領域、測定した露点温度の記憶部、及び、操作部から設定入力された数値等の記憶部として使用される。
【0038】
冷却器駆動回路24は、CPU21の制御に基づく電流で冷却器3を駆動する。冷却器駆動回路25は、CPU21の制御に基づく電流で冷却機4を駆動する。A/D変換器26は、温度センサ5、5、・・・511がアナログ信号で出力する温度情報をデジタル変換してCPU21に出力する。なお、A/D変換器26として、温度センサ5の数に対応させた11回路のものを用いてもよく、各温度センサ5への接続を切換え制御して1回路のものを用いてもよい。
【0039】
走査機構駆動回路27は、CPU21の制御に基づき走査機構12の例えば電動サーボモータ(不図示)を駆動する。発光回路28は、CPU21の制御に基づき発光素子11を点灯/消灯させると共に、点灯時には所定電流を供給し、発光素子11を所定の明るさで点灯させる。受光回路29は、受光素子14を駆動して、受光素子14の受光した光強度に対応する光強度情報(光強度信号)を出力する。A/D変換器30は、受光回路29がアナログ信号で出力する光強度情報をデジタル変換してCPU21に出力する。移動機構駆動回路31は、CPU21の制御に基づき走査機構12の例えば電動サーボモータ(不図示)を駆動する。
【0040】
次に、鏡面冷却式露点計1の動作について図1〜4を参照して説明する。
【0041】
図4のフローチャートに示すように、測定を開始すると、CPU21は、ステップS11で、第1冷却器駆動部24及び第2冷却器駆動部25を制御して、冷却器3と冷却器4とを異なる温度で冷却させる。ここでは、冷却器3よりも冷却器4の温度を低くする例について説明する。CPU21は、一端部Aに付された温度センサ5の温度を検出し、一端部Aが規定の所定温度Taになるように冷却器3(冷却器駆動部24)をフィードバック制御する。又、CPU21は、他端部Bに付された温度センサ511の温度を検出し、他端部Bが規定の所定温度Tbになるように冷却器4(冷却器駆動部25)をフィードバック制御する。
【0042】
この冷却器3(一端部A)の温度Ta、及び冷却器4(他端部B)の温度Tbは、例えば測定者が測定開始前に操作部10を操作して手動で予め数値設定しておく。このように数値設定により温度Ta,Tbを変更できるようにすると、測定条件に合わせた測定が可能になるため好ましい。又は、例えば装置に測定精度は高くないが簡便で安価な湿度センサ(不図示)を配しておいて、この湿度センサで測定した湿度から大まかな露点温度を算出し、その温度に所定上限幅(例えば5度)を加算した温度を温度Taとし、所定加減幅(例えば5度)を除算した温度を温度Tbとして自動設定してもよい。
【0043】
この冷却器3,4の冷却により、鏡面2aの一端部Aから他端部Bまで温度勾配が生じる。又、図1に示すように被測定気体が流れて鏡面2aに当たる。このため、図2に点描で示すように、露点温度以下の鏡面2aの領域に結露(結霜)が生じる。ここでは、一例として、鏡面2aのうちの温度センサ5〜511の付された領域が結露している場合を図示している。
【0044】
CPU21は、ステップS12で、発光回路28を制御して発光素子11を点灯させてから、走査駆動回路27を制御して、走査機構12に一端部Aから他端部Bまで、発光素子11の光を照射させる。又、CPU21は、これに連動させて移動機構駆動回路31を制御して、移動機構15に、鏡面2aで光が全反射した場合に反射光を受光する位置及び角度に受光素子14を移動させる。このとき、CPU21は、発光素子11及び受光素子14の各々の位置や角度、照射位置等を、ROM22に予め記憶された算定式で演算して制御する。このため、CPU21は、光走査部6に走査させている光の照射位置の特定が可能である。
【0045】
図5に、鏡面2a(図2参照)の一端部Aから他端部Bまでに光を走査させたときに、受光素子14が受光する光強度(反射光量)、つまり受光素子14が出力する光検出強度を実線で示す。光の照射位置が、鏡面2aの結露していない領域(図2の温度センサ5〜5の付された領域)の場合には、鏡面2aで光が全反射するので、受光素子14の受光する光強度はほぼ一定値の大きな値になる。一方、光の照射位置が、鏡面2aの結露している領域(図2の温度センサ5〜511の付された領域)の場合には、光が露で乱反射(散乱)するので、光強度は小さな値になる。結露していない領域から結露している領域になる結露が生じ始める結露の開始位置(図2の温度センサ5付近)では、同図に示すように、光強度は急激に低下する。
【0046】
CPU21は、走査機構12及び移動機構15を制御しつつ、受光素子14から出力される光強度情報を監視して、大きな値の光強度が予め設定された所定閾値よりも低下して小さな値に変化したときに、所定閾値になったときの光の照射位置(結露の開始位置)を特定する(図4のステップS12)。所定閾値は、全反射したときの光強度よりも小さな値であり、例えば、全反射したときの光強度(例えば図5の温度センサ5における光強度)と、充分に結露したときの光強度(例えば図5の温度センサ511における光強度)との間の適当な値(例えば中間値)である。
【0047】
続いて、図4に示すように、CPU21は、特定した結露の開始位置に最も近い温度センサ5の温度を取得して(ステップS13)、その温度を露点温度として表示部9に表示させる(ステップS14)。このように、鏡面冷却式露点計1では、露点温度を測定するために従来の装置のように鏡面2aの温度を上下させる必要がないので、測定を短時間で行うことができる。
【0048】
図5に破線で、鏡面2aの一端部Aから他端部Bまでの温度を示す。一端部Aの温度が一番高く、他端部Bの温度が一番低い。気体が液体に結露(凝縮)する際には、凝縮熱が放出されるため、結露の開始位置付近(図5の遷移部分)では、同図に示すように温度がほぼ一定となる。このように、露点温度となっている位置が一点ではなく幅を有しているので、この幅内の温度センサ5で測定を行うことで、特定した照射位置と温度センサ5の位置とが多少ずれていても、露点温度を正確に測定することができる。
【0049】
なお、ステップS12〜S13を複数回行って、取得した温度の平均値を露点温度としてもよい。複数回行っても光の走査に時間は掛からないので、短時間で測定を行うことができる。
【0050】
次に、CPU21は、特定した結露の開始位置が、一端部Aと他端部Bとの中間部(本発明における所定位置の一例)にあるか判別する(ステップS15)。例えば、CPU21は、一端部Aから他端部Bまでを奇数個に等分(例えば5等分)した区画のうちの真ん中の区画内(中間部)に結露の開始位置があるか否か判別する。結露の開始位置が中間部にあるときはステップS12に戻る。図2の例では、結露の開始位置が中間部にあるのでステップS12に戻る。
【0051】
結露の開始位置が、例えば温度センサ5に近傍の場合や温度センサ510に近傍の場合のように、中間部にないときは、CPU21は、ステップS16に進み、中間部に結露の開始位置が位置するように、冷却器3及び/又は冷却器4の温度を制御する。測定された露点温度をTd、冷却器3の温度をTa、冷却器4の温度をTbとすると、
Td=(Ta−Tb)/2 ・・・(1)
の関係のときに、結露の開始位置が鏡面2aの中間部になる。例えば、CPU21は、冷却器3の温度Taは変化させずに、冷却器4の温度Tbを変化させて(1)式を満たすように制御してもよいし、逆に、冷却器4の温度Tbは変化させずに、冷却器3の温度Taを変化させて(1)式を満たすように制御してもよい。又は、CPU21は、冷却器3,4の両方の温度を変化させて(1)式を満たすようにしてもよい。CPU21が、冷却器3,4の両方の温度を変化させる制御を行う場合、温度Taと温度Tbとの温度差が常に一定の温度差となるように制御してもよいし、温度差を小さく(又は大きく)するように制御してもよい。なお、被測定気体の温度よりも温度Taが高温にならないようにする。CPU21は、各温度センサ5から温度を取得して、鏡面2aが目的の温度になってからステップS12に戻る。
【0052】
このように制御することで、結露の開始位置が鏡面2aの中間部に位置するので、測定中の被測定気体の露点温度が変動したときに、結露の開始位置が一端部A側に移動しても、結露の開始位置が他端部B側に移動しても、鏡面2aの範囲外にならないので、露点温度の変動に追随して測定することができる。
【0053】
なお、露点温度が時間の経過とともに下がる被測定気体を測定する場合には、結露の開始位置が時間の経過とともに他端部B側に移動していくので、CPU21は、結露の開始位置が、例えば温度センサ5に近傍の位置のような、一端部A側に近い位置(本発明における所定位置の他の一例)になるようにステップS15,S16で制御するようにしてもよい。逆に、露点温度が時間の経過とともに上昇する被測定気体を測定する場合には、結露の開始位置が時間の経過とともに一端部A側に移動していくので、CPU21は、結露の開始位置が、例えば温度センサ5に近傍の位置のような、他端部B側に近い位置(本発明における所定位置のさらに他の一例)となるようにステップS15,S16で制御するようにしてもよい。なお、結露の開始位置を、所定位置に制御する必要性がない場合には、図4のフローチャート中に破線で示したように、ステップS13(S14)からステップS12に戻るように制御してもよい。
【0054】
次に、本発明を適用する他の鏡面冷却式露点計51について、図6の側面図を参照して説明する。なお、既に説明した構成と同様の構成については同じ符号を付して詳細な説明は省略する。
【0055】
この鏡面冷却式露点計51では、同図に示すように鏡52の鏡面52aが一端部Aから他端部Bまで円弧状に湾曲した曲面で形成されている。又、この鏡面冷却式露点計51では、本発明における光走査部及び受光部を兼ねる光走査受光部53が鏡面52に対向する位置に配置されている。光走査受光部53の発光素子11及び受光素子14は、共に鏡面52aの円弧状の中心点付近の位置に配置されることが好ましい。
【0056】
具体的には、鏡52は、金属板を、ほぼ一定の曲率で半筒状(一部の筒状)に曲げて、つまり側面がほぼ真円の円弧状に湾曲するように曲げて形成されたものである。鏡52の円弧状に窪んだ内壁(図の上側の壁)が、研磨又は鍍金されて鏡面52aになっている。鏡面52aの一端部Aの裏面には冷却器3が付され、他端部Bの裏面には冷却器4が付されている。又、鏡面52aの裏面には、温度センサ5、5、・・・511が、一端部Aから他端部Bまで等間隔で付されている。
【0057】
光走査受光部53は、発光素子11、受光素子14、及び走査機構55を有している。発光素子11及び受光素子14は、互いに近接すると共に、互いに鏡面52a上の照射位置を向くように、鏡面52aの円弧の中心点Pの付近に、配置されている。発光素子11及び受光素子14が同じ照射位置を向くように、例えば両光軸が、中心点Pから鏡面52aの照射位置へ引いた半径線にほぼ平行で近接又は重なるようにする。又は、発光素子11及び受光素子14の両光軸に角度を付ける場合、照射位置で両光軸が交わって、照射位置に引いた光の法線が中心点Pを通るようにする。
【0058】
この発光素子11及び受光素子14は、走査機構55によって、中心点Pを通る軸58を中心軸として往復回動可能になっている。発光素子11及び受光素子14は、中心点Pよりも鏡面52a側を移動する。
【0059】
この鏡面冷却式露点計51では、発光素子11及び受光素子14が、共に軸58を中心軸として往復回動することで、同図に示すように、発光素子11が鏡面52aの一端部Aから他端部Bまで照射位置を走査して光を照射しつつ、その反射光を受光素子14が受光する。なお、発光素子11の光を走査したときに、反射光はほぼ中心点Pに向かって反射するため、この反射光が受光素子14に入射可能であれば、受光素子14を中心点Pの近くに固定してもよい。又、発光素子11及び受光素子14が中心点P付近にあると、発光素子11(受光素子14)を回動させるときの移動距離が少なくなるので好ましいが、移動距離は大きくなるが鏡面52aに近い位置を往復回動させてもよい。又、発光素子11の反射光を受光素子14が受光なように、鏡面52aに対向する位置(鏡面52aに映る位置)に光走査受光部53を配してもよい。
【0060】
露点温度の測定については、鏡面冷却式露点計1と同様に、冷却器3,4で異なる温度に冷却して鏡面52aに温度勾配を生じさせ、同図に矢印で示すように被測定気体を流して鏡面52aを被測定気体に晒して結露させ、受光素子14の受光する光強度が低下した照射位置の鏡面52aの温度を温度センサ5から取得することで測定する。
【0061】
この鏡面冷却式露点計51では、光走査部6(発光素子11)及び受光部7(受光素子14)が共に近くに配置できるので、装置を簡便な構造にすることができる。特に、走査機構55は、軸58を中心に往復回動する1軸の運動機構であり、しかも発光素子11及び受光素子14を共に移動させることができるので構造が簡便である。
【0062】
なお、鏡面冷却式露点計1(51)のように、冷却器3を鏡2(52)の一端部Aに付し、冷却器4を他端部Bに付したほうが、鏡面2全体を使って測定できるので測定精度が高くなり好ましいが、冷却器3を鏡2の一部に付し、冷却器4を鏡2の他の一部に付すと、少なくともその間に温度勾配が生じるので同様に測定が可能である。
【0063】
又、冷却器3よりも冷却器4の温度を低くした例について説明したが、逆に冷却器4よりも冷却器3の温度を低くしてもよい。又、図1、6に示すように被測定気体を鏡面2a(52a)に向かう(概ね垂直方向に向かう)ように流すことが好ましいが、鏡面2aの面と平行に流したり、半筒状の鏡面52aの軸方向(筒の方向)に流したりしてもよい。
【0064】
又、図7に平面図、図8にブロック図で示す温度検出デバイス60を、鏡面冷却式露点計1に好適に使用することができる。
【0065】
両図に示す温度検出デバイス60は、イメージセンサに用いられるCCD(Charge Coupled Device)を用いたものであり、多数の温度センサ5、5、・・・5が発生した電荷を読み出し可能なものである。言い換えると、温度検出デバイス60は、デジタルカメラなどに用いられているCCDイメージセンサの受光素子を温度検出素子(温度センサ5)に置き換えたものである。
【0066】
図7に示すように、温度センサ5、5、・・・5は、シリコン半導体基板の表面に、一列に配列させて形成されている。温度センサ5は、一例として半導体式の温度センサであり、温度に対応した電荷を発生するものである。温度センサ5として、CCDの暗電流が温度に依存することを利用してもよい。温度検出デバイス60は、鏡2(図1参照)の裏面に各温度センサ5が密着するように配置されて用いられる。
【0067】
図8に示すように、温度検出デバイス60は、温度センサ5、5、・・・5に読出しゲート61が接続され、読出しゲート61に転送レジスタ62が接続されている。転送レジスタ62の出力には、電荷を電圧に変換する電荷電圧変換部63が接続されている。また、転送レジスタ62にはタイミング発生回路64が接続されている。これらの読出しゲート61、転送レジスタ62、電荷電圧変換部63、およびタイミング発生回路64は公知のCCDと同様の構成であり、シリコン半導体基板に形成されている。電荷電圧変換部63(温度検出デバイス60)の出力は、測定処理部8(図3参照)のA/D変換器26に接続されている。
【0068】
この温度検出デバイス60は、次のように動作する。
【0069】
測定処理部8のCPU21(図3参照)が温度検出デバイス60から温度を読み込むときには、CPU21は、読出しゲート61にハイレベルの読出し信号φ1を出力する。これにより、読出しゲート61が開き、各温度センサ5に発生した電荷が転送レジスタに入力する。CPU21がクロック信号φ2をタイミング発生回路64に出力すると、このクロック信号φ2に対応させて、転送レジスタ62が電荷を順次転送して電荷電圧変換部63に出力する。電荷電圧変換部63は、順次入力される電荷を電圧に変換して、A/D変換器26に出力する。CPU21は、クロック信号φ2に対応させた変換信号φ3をA/D変換器26に出力して、電荷電圧変換部63から順次出力される検出温度電圧を各々デジタル信号に変換させる。CPU21は、A/D変換器26から変換信号φ3のタイミングで順次出力される電圧により、温度センサ5、5、・・・5の温度を検出する。
【0070】
このようなCCDによる温度検出デバイス60は半導体プロセスで製造することができるため、微小サイズの多数の温度センサ5を温度検出デバイス60に形成することができる。したがって、鏡面2aの温度分布を精密に測定することができ、露点温度を正確に測定することができる。また、半導体プロセスで大量に製造できるので、単価が安価になる。さらに、CCDの電荷転送速度は高速であるので、多数の温度センサ5の温度を短時間に測定することができる。
【0071】
なお、温度センサ5を二次元的に配置して、鏡面2aの温度分布を2次元的に測定してもよい。また、温度検出デバイス60に、CMOSイメージセンサと同様の電荷検出(出力)構造を採用してもよい。この場合も温度検出デバイス60を半導体プロセスで製造することができる。
【符号の説明】
【0072】
1は鏡面冷却式露点計、2は鏡、2aは鏡面、3は第1の冷却器、4は第2の冷却器、5、5、5、5、5、5、5、5、5、510、511は温度センサ、6は光走査部、7は受光部、8は測定処理部、9は表示部、10は操作部、11は発光素子、12は走査機構、14は受光素子、15は移動機構、21はCPU、22はROM、23はRAM、24は第1の冷却器駆動回路、25は第2の冷却器駆動回路、26はA/D変換器、27は走査機構駆動回路、28は発光回路、29は受光回路、30はA/D変換器、31は移動機構駆動回路、51は鏡面冷却式露点計、52は鏡、52aは鏡面、53は光走査受光部、55は走査機構、58は軸、60は温度検出デバイス、61は読出しゲート、62は転送レジスタ、63は電荷電圧変換部、64はタイミング発生器、Aは一端部、Bは他端部、Pは中心点、φ1は読出し信号、φ2はクロック信号、φ3は変換信号である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定気体に鏡面が晒される鏡と、
該鏡面の一部を冷却する第1の冷却器と、
該第1の冷却器とは異なる温度で該鏡面の他の一部を冷却する第2の冷却器と、
該鏡面の該一部から該他の一部までの温度を測定するために該鏡に配された複数の温度センサと、
該鏡面の該一部から該他の一部まで照射位置を走査させて光を照射する光走査部と、
該鏡面で反射した該光の反射光を受光する受光部と、
該受光部の受光する光強度の変化、及び該光走査部の該照射位置に基づいて、該一部から該他の一部までの間の結露の開始位置を特定し、その結露の開始位置に近傍する該温度センサから取得した温度を露点温度とする測定処理部とを備えることを特徴とする鏡面冷却式露点計。
【請求項2】
前記測定処理部は、前記第1の冷却器及び/又は前記第2の冷却器の温度を制御可能であることを特徴とする請求項1に記載の鏡面冷却式露点計。
【請求項3】
前記測定処理部は、前記結露の開始位置が前記一部から前記他の一部までの間の所定位置になるように、前記第1の冷却器及び/又は前記第2の冷却器の温度を制御することを特徴とする請求項2に記載の鏡面冷却式露点計。
【請求項4】
前記所定位置は、前記一部と前記他の一部との中間部であることを特徴とする請求項3に記載の鏡面冷却式露点計。
【請求項5】
前記鏡面が平坦面で形成されており、前記光走査部及び前記受光部が前記一部から前記他の一部までの該鏡面に対向しない位置に配置されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の鏡面冷却式露点計。
【請求項6】
前記鏡面が前記一部から前記他の一部までを円弧状に湾曲させた曲面で形成されており、前記光走査部及び前記受光部が、共に該鏡面に対向する位置に配置されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の鏡面冷却式露点計。
【請求項7】
前記鏡面の前記一部が前記鏡面の一端部であり、前記他の一部が該鏡面の他端部であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の鏡面冷却式露点計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−177553(P2012−177553A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39138(P2011−39138)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000227180)日置電機株式会社 (982)
【Fターム(参考)】