説明

長尺物を脱脂洗浄する洗浄装置及び洗浄方法

【課題】有機溶剤を用いず、過熱水蒸気を用いる方法であって、耐熱性が低い被洗浄材や機械的な強度が低い被洗浄材であっても、長尺な被洗浄材の全表面を、損傷を与えずに均一に連続して洗浄できる洗浄装置及び洗浄方法を提供する。
【解決手段】蒸気ボイラー1で発生させた飽和水蒸気を、過熱蒸気発生装置2で過熱水蒸気として洗浄室8に導入し、被洗浄材としてリール9に巻かれた長尺はんだテープ11を洗浄室8下側の開口から供給し、上部の開口から取り出し、リール10に巻き取ることにより、長尺の被洗浄材を被洗浄材の熱容量に応じた所定の速度で下方から上方に通過させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、過熱水蒸気を用いて、線、条等の長尺物の表面を連続的に洗浄する装置及び該装置を使用する洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工業的な部品や材料の洗浄には、トリクロロエタンやジクロロメタン等の塩素系有機溶剤やアルカリ溶液等が広く使用されてきた。しかし、これらの溶剤はオゾン層破壊や発ガン性のおそれがある等の問題や廃液処理の負担が大きい等の問題があったことから、その対策の一部としてこれらの溶剤に替えて過熱水蒸気を噴射して洗浄する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007−180117(基板、噴霧水+蒸気ノズル)
【0003】
また、長尺体である鋼板に過熱水蒸気を吹き付けて連続的に洗浄する方法が提案されている(特許文献2参照)。
【特許文献2】特開2007−246936(鋼板、吹き付け、アルカリ溶液代替)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
たとえば、押出、圧延、引き抜き、伸線等の塑性加工によって製造した線、条、箔、管等の表面には、これらの加工に使用した潤滑油が付着している。これらを除去するために、過熱水蒸気をノズルから吹き付けて、油分を水蒸気と共に除去する連続的洗浄方法が提案されているが、耐熱性が低い被洗浄材や機械的な強度が低い被洗浄材では被洗浄材が損傷するため、この洗浄方法は適用できない。そればかりか、ノズルを用いて過熱水蒸気を被洗浄材の全表面に吹き付けると、均一に吹き付けられないので、穴が開いたり、変形したりする問題を招来する。
【0005】
この発明は、このような問題点を解決するためなされたものであり、有機溶剤を用いず、過熱水蒸気を用いる方法であって、耐熱性が低い被洗浄材や機械的な強度が低い被洗浄材であっても、被洗浄材の全表面を、損傷を与えずに均一に連続して洗浄できる洗浄装置及び洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は過熱水蒸気を用いて長尺の被洗浄材を連続的に洗浄する方法と装置に関するものであり、ノズルから噴出させた過熱水蒸気を被洗浄材に当てずに、所定の温度の過熱水蒸気で満たされた洗浄室内を、長尺の被洗浄材を被洗浄材の熱容量に応じた所定の速度で下方から上方に通過させることによって、下部から導入された被洗浄材表面には高温の過熱水蒸気が油分等を取り込んで結露し、上方にいくにしたがって、油分等を取り込んだ水滴は蒸散して、上部出口からでるときは、乾燥状態となるようにし、その表面の油脂等の汚れを除去して、耐熱性が低い被洗浄材や機械的な強度が低い被洗浄材であっても、均一に洗浄することが出来るようにしたことを特徴とする。
即ち、本発明の洗浄装置は、下部に長尺な被洗浄材の入口と、上部に長尺な被洗浄材の出口と、過熱水蒸気を充満させるための加熱水蒸気導入口を有する洗浄乾燥炉と、該洗浄乾燥路内の洗浄室の下方から上方に、前記長尺な被洗浄材料を連続的に通過させることによって、被洗浄材料表面を連続的に脱脂洗浄することを特徴とする。
【0007】
脱脂洗浄する前記長尺な被洗浄材を巻着した巻き戻し転動体(ロール等)と、洗浄室を通過して洗浄乾燥した被洗浄材を巻き取る転動体とを具備するのが、長尺物を容易に連続的に洗浄できることから好ましい(請求項2)。
【0008】
本発明の洗浄方法は、過熱水蒸気を充満した洗浄乾燥炉の洗浄室の下部入口から長尺な被洗浄材を下方から上方に被洗浄材の熱容量に応じた所定の速度で連続的に通過させて上部出口から取り出す洗浄方法であって、下部入口から導入された被洗浄材表面は高温の過熱水蒸気が油分等を取り込んで結露し、上方にいくにしたがって、油分等を取り込んだ水滴は蒸散して、上部出口からでるときは、乾燥状態となっていることを特徴とする(請求項3)。
【0009】
温度180℃以上の過熱水蒸気を被洗浄材に当てずに洗浄室に導入し、過熱水蒸気導入部付近は高温部、その上部と下部は、過熱水蒸気導入部よりは低温部とするのが、高温の過熱水蒸気が油分等を取り込んで結露し、油分等を取り込んだ水滴は蒸散し易いことから好ましい(請求項4)。
前記洗浄室に、過熱水蒸気を被洗浄材に当てずに大気に対して若干陽圧となるように導入して、洗浄室内をほぼ無酸素状態とするのが、洗浄中の被洗浄材の酸化が防げることから好ましい(請求項5)。
ゲージ圧力0.05メガパスカル以下の過熱水蒸気を、前記洗浄室内に導入するのが、被洗浄材に損傷を与えることなく、ほぼ無酸素状態とし得ることから好ましい(請求項6)。
【0010】
被洗浄材が洗浄室から出るときに乾燥状態となり、かつ、被洗浄材がその耐熱温度以上に加熱されないように、被洗浄材の単位長さ当たりの熱容量に応じて被洗浄材料の通過速度を調整するのが、未乾燥状態とならず被洗浄材に損傷を与えないことから好ましい(請求項7)。
【0011】
本発明に使用する被洗浄材は、耐熱性が低い被洗浄材や機械的な強度が低い被洗浄材に好適である(請求項8)。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、過熱水蒸気を直接被洗浄材に当てるのではなく、被洗浄材表面に油分を取り込んだ水蒸気を結露させ、この水滴を油分と共に蒸散させて洗浄するものであるから、有機溶剤や水溶性洗浄剤を使用することなく、過熱水蒸気のみを使用して、長尺の耐熱性が低い被洗浄材や機械的な強度が低い被洗浄材を連続的に洗浄し、かつ酸化や水の沸点以上の温度による熱的な損傷等の何ら損傷を与えずに、洗浄乾燥させることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
常温の被洗浄材が、過熱水蒸気が充満された洗浄室に進入すると、先ずその表面に結露する。次ぎに過熱水蒸気からの熱によって結露した水分が蒸散する。この蒸散の速度が急激であるときに被洗浄材の表面の油脂分等が水分と共に蒸散する。
【0014】
長尺な被洗浄材を連続的に洗浄する場合、結露が凝集して水滴が成長し、重力によって被洗浄材の表面を流れ下ることがある。このため洗浄後の表面を汚染させないためには、被洗浄材を下から上に通過させることが望ましい。被洗浄材を水平に通過させる方法には以下の問題がある。(1)洗浄室内の被洗浄材を途中で支持しない場合は張力等によるカテナリー制御が課題となるが、材料の種別によって条件が異なるため煩雑である。(2)水平部分の途中でガイドロール等により支持する場合は、ガイドロール自体が洗浄効果を妨げる要因となる可能性がある。(3)また条等の被洗浄材では表裏両面の洗浄条件が同一となるよう、その面を垂直にして洗浄することが望ましいが、張力やガイドロールの設定がより一層困難となる。
【0015】
効果的な洗浄のためには、過熱水蒸気の温度は逆転点と称される180℃以上であることが望ましい。逆転点以上の高温の過熱水蒸気を使用することにより、結露を急激に蒸散させ、油脂等の汚れを共沸させるため、逆転点以下の温度の水蒸気と比較して洗浄効果が格段に高まる。図1に過熱水蒸気乾燥の概念を示すが、大気圧では180°Cの逆転点温度以上の過熱水蒸気は熱風より高い定率乾燥速度となることを示している。
【0016】
過熱水蒸気は水に溶解していた微量の酸素を除けば無酸素であり、洗浄中に被洗浄材を酸化しない。無酸素状態を保つためには、水蒸気や過熱水蒸気の配管経路の気密を保つことは当然であるが、洗浄室を大気に対して陽圧に保つ必要がある。洗浄室の高さや開口径によっても変わるが、洗浄室の開口部から大気が逆流しない程度の圧力として通常はゲージ圧力0.05メガパスカル以下の低圧(ほぼ常圧)で足りる。洗浄機構の本質として加圧、高圧化は不適であり、被洗浄材に対して直接噴射するための加圧、高圧化は不適である。高圧化が不要であることにより装置の所要耐圧構造が軽減され保守も容易となる。
【0017】
結露の蒸散が完了する前に被洗浄材料が洗浄室を通過するような洗浄速度では乾燥が不十分となり、洗浄も不十分となる。一方洗浄速度が遅すぎては被洗浄材の温度が供給する過熱蒸気の温度に近づき、材料によっては耐熱温度を超える場合もあるので、被洗浄材料の単位長さ当たりの熱容量に応じて適切な速度に調整することが重要である。
【実施例】
【0018】
予備実験装置の概略図を図2に示す。蒸気ボイラー1で発生させた飽和水蒸気を過熱蒸気発生装置2で230°Cの過熱水蒸気とし、周囲を断熱した洗浄乾燥炉3に導入する。被洗浄材として融点が約320°Cである合金組成Sn5%−Pb95%、厚さ0.13mm、幅27mm、長さ約100mmのはんだテープ6を洗浄乾燥炉内に垂直に吊り下げ、時間を変えて過熱水蒸気を供給し、はんだテープ表面の冷間圧延油を洗浄した。一部のサンプルは網棚に水平に乗せて試験した。洗浄後のはんだテープを走査型電子顕微鏡によって表面分析し、トリクロロエチレンによる洗浄と比較した。表面の炭素検出量は油脂の残留密度と相関関係がある。
【0019】
【表1】

結果は表1に示すようにサンプル番号3から8の過熱水蒸気による洗浄は、市販のトリクロロエチレン系溶剤による洗浄と同等以上の洗浄効果を示した。洗浄時間による影響は認められず、結露・蒸散によって洗浄が完了したことを示している。サンプル7、8はサンプルを水平に設置して試験したが、垂直に吊り下げた場合に比べて洗浄効果が低かった。
【0020】
この発明による洗浄試験装置の概略図を図3に示す。6kWの蒸気ボイラー1で発生させた飽和水蒸気を4kWの過熱蒸気発生装置2で230°Cの過熱水蒸気とし、外部を断熱し垂直に設置された内径50mm、長さ900mmの鋼管製の洗浄室8に導入した。被洗浄材としてリール9に巻かれた、融点が183°Cである合金組成Sn63%−Pb37%、厚さ0.13mm、幅27mmの長尺はんだテープ11を洗浄室下側の開口から供給し、上部の開口から取り出しリール10に巻き取ることにより、はんだテープ表面の冷間圧延油を洗浄した。洗浄速度を変化させて洗浄した結果、洗浄速度3.0cm/秒を超えるとテープ表面の一部に未乾燥状態が観察された。各洗浄速度に対応するはんだテープからサンプルを切り取り、走査型電子顕微鏡による表面分析で得た炭素検出量を表2に示す。
【0021】
【表2】

予備試験とは合金種は異なるが洗浄後の表面炭素量から同等の洗浄結果が得られたと推定できた。融点を超える高温の過熱水蒸気を導入して洗浄したにもかかわらずテープの溶損や変形等の損傷は全く認められず、光沢にも異常が無かった。ただし、はんだテープの送りを停止させると、10秒程度で洗浄室へ過熱水蒸気を導入する位置ではんだテープが溶断した。洗浄速度の上限は被洗浄材の単位長さ当たりの熱容量、供給する過熱水蒸気の単位時間当たりの熱量、洗浄室の長さ等によって制約されると推論できる。洗浄速度の下限は被洗浄材の耐熱性に応じて設定することが必要である。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、金属製の線、条等ばかりでなく、樹脂、ゴム、紙等の長尺な材料の洗浄に適用できる。また、個別の部品等を保持具等で連結することにより、長尺体として取り扱える状態となった物品の洗浄に適用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】大気圧下における過熱水蒸気による乾燥の効果を示すグラフである。
【図2】予備試験装置の断面概略図である。
【図3】本発明の連続洗浄装置の断面概略図である。
【符号の説明】
【0024】
1・・・蒸気ボイラー、 2・・・過熱蒸気発生装置、
3・・・洗浄乾燥炉、 4・・・網棚、 5・・・排気ダクト、
6・・・垂直に吊り下げたハンダテープ、 7・・・水平に置かれたはんだテープ
8・・・洗浄室、 9、10・・・リール、 11・・・長尺はんだテープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部に長尺な被洗浄材の入口と、上部に長尺な被洗浄材の出口と、過熱水蒸気を充満させるための過熱水蒸気導入口を有する洗浄乾燥炉と、該洗浄乾燥路内の洗浄室の下方から上方に、前記長尺な被洗浄材を連続的に通過させることによって、被洗浄材表面を連続的に脱脂洗浄することを特徴とする洗浄装置。
【請求項2】
脱脂洗浄する前記長尺な被洗浄材を巻着した巻き戻し転動体と、洗浄室を通過して洗浄乾燥した被洗浄材を巻き取る転動体とを具備する請求項1記載の装置。
【請求項3】
過熱水蒸気を充満した洗浄乾燥炉の洗浄室の下部入口から長尺な被洗浄材を下方から上方に被洗浄材の熱容量に応じた所定の速度で連続的に通過させて上部出口から取り出す洗浄方法であって、下部入口から導入された被洗浄材表面は高温の過熱水蒸気が油分等を取り込んで結露し、上方にいくにしたがって、油分等を取り込んだ水滴は蒸散して、上部出口からでるときは、乾燥状態となっていることを特徴とする被洗浄材表面を連続的に脱脂洗浄する洗浄方法。
【請求項4】
温度180℃以上の過熱水蒸気を被洗浄材に当てずに洗浄室に導入し、過熱水蒸気導入部付近は高温部、その上部と下部は、過熱水蒸気導入部よりは低温部とする請求項3記載の洗浄方法。
【請求項5】
前記洗浄室に、過熱水蒸気を被洗浄材に当てずに大気に対して若干陽圧となるように導入して、洗浄室内をほぼ無酸素状態とする請求項3又は4記載の洗浄方法。
【請求項6】
ゲージ圧力0.05メガパスカル以下の過熱水蒸気を、前記洗浄室内に導入する請求項3〜5のいずれかに記載の洗浄方法。
【請求項7】
被洗浄材が洗浄室から出るときに乾燥状態となり、かつ、被洗浄材がその耐熱温度以上に加熱されないように、被洗浄材の単位長さ当たりの熱容量に応じて被洗浄材の通過速度を調整する請求項3〜6のいずれかに記載の洗浄方法。
【請求項8】
前記被洗浄材は、耐熱性が低い被洗浄材や機械的な強度が低い被洗浄材である請求項3〜7のいずれかに記載の洗浄方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−142779(P2010−142779A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−325600(P2008−325600)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(000111199)ニホンハンダ株式会社 (23)
【出願人】(508376225)株式会社三愛商会 (1)
【出願人】(502249758)駒沢工業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】