説明

開閉式攪拌装置

【課題】油圧シリンダなどの大掛かりな装置なしで開閉できる攪拌翼を備え、シンプルでコンパクトな構造の攪拌装置を提供する。
【解決手段】攪拌装置は、攪拌ロッド2と、上下方向にスイング可能な一対の攪拌翼43と、攪拌翼を所定位置で固定するためのストッパー61と、このストッパーによる固定を解除するための解除機構(ガイド孔33,位置決めピン45)を有している。攪拌翼43は、貫入時には、その先端を上に向け攪拌翼が上に閉じた状態になる閉翼位置にセットされる。攪拌時には、攪拌翼を開放し、攪拌径Dが最大となるようにスイングさせて開翼し、ストッパー61により固定される。引抜時には、ストッパー61による固定を解除して、攪拌翼43を垂れ下がった位置にスイングさせて閉翼させる。攪拌翼43の開閉動作は、攪拌装置の引抜き時・回転方向切替時に土砂から受ける抵抗により行われ、油圧や押し棒等の装置は不要である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤改良、基礎杭または土壌浄化などにおいて利用できる、開閉式の攪拌翼を備えた攪拌装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より地盤改良や基礎杭、または土壌浄化などの土木技術分野では、攪拌ロッドの外周に攪拌翼を備えた攪拌装置を、所定深度まで地盤に貫入して、地盤中で改良材や浄化材を吐出し、攪拌ロッドを回転させて攪拌翼により土砂と攪拌混合することが行われている。しかしながら、対象地盤の上部に硬質層や攪乱したくない地盤が存在すると、攪拌翼が障害となって攪拌装置の貫入が困難となったり、不要に地盤を乱したり、攪拌の影響を浅層部に広げてしまうという問題があった。そこで、近年では、下記特許文献に開示されたような開閉式攪拌翼を備えた装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−035083号公報
【特許文献2】特開2003−106082号公報
【特許文献3】特開2005−315052号公報
【特許文献4】特開2009−002082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらの特許文献に開示された攪拌装置は、攪拌翼を開閉するための動力源となる油圧シリンダ、攪拌翼を押し引きするためのロッド(押し棒)、リンク機構などの付帯構造を必要とするため、攪拌装置の構造が複雑で大掛かりになり、また、設備コストが嵩むといった問題があった。さらに、油圧シリンダなどを必要とする従来の開閉式攪拌装置では、攪拌ロッドに油圧ラインなどの経路を設ける必要があるため、その分、攪拌ロッドの径サイズが大きくなって貫入抵抗が増し、地盤の固さによっては施工できないといった問題があった。
【0005】
上述した従来技術の問題点に鑑み、本発明の目的は、油圧シリンダや押し棒などの大掛かりな装置や動力源を必要とすることなく開閉できる攪拌翼を備え、シンプルでコンパクトな構造で低コストで製造できる攪拌装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した本発明の目的は、地盤に貫入させる攪拌ロッドと、前記攪拌ロッドに設けられ上下方向にスイング可能な攪拌翼と、前記攪拌翼が攪拌ロッドから側方に突き出るようにスイングした位置において、攪拌している間、該攪拌翼を固定するためのストッパーと、を有しており、前記攪拌翼が、前記攪拌ロッドを引き上げるときに周辺地盤から受ける抵抗により、下方にスイング可能である開閉式攪拌装置によって達成される。
【0007】
さらに開閉式攪拌装置は、前記ストッパーによる攪拌翼の固定状態を解除するための解除機構を有しており、この解除機構は、攪拌装置を逆回転させ同時に上方に引抜くことで周辺地盤から受ける抵抗により、前記ストッパーによる攪拌翼の固定状態を解除する。
【0008】
上記開閉式攪拌装置において、上下方向にスイング可能な前記攪拌翼は、貫入時には、その先端を上に向け攪拌翼が上に閉じた状態になる貫入位置(閉翼位置)にセットされる。攪拌時には、前記貫入位置からスイングさせて開放し、攪拌径が貫入時の削孔径に比して大となる攪拌位置(開翼位置)にセットされ、前記ストッパーにより固定される。引抜時には、前記ストッパーによる固定を解除して、垂れ下がった引抜位置(閉翼位置)にスイングさせる。
【0009】
また開閉式攪拌装置は、前記攪拌ロッドに沿って上下方向に摺動自在に設けられた攪拌翼開放治具を有しており、この攪拌翼開放治具は、前記攪拌ロッドを引き上げることで周辺地盤から受ける抵抗により下方に摺動し、前記貫入位置から前記攪拌位置へスイングするように攪拌翼を付勢する。
【0010】
また上記開閉式攪拌装置において、攪拌ロッドは、ボーリングマシン等のベースマシンに取り外し可能に連結されるロッド本体と、このロッド本体の下端側に装着され前記攪拌翼を備える掘削攪拌体と、を有している。前記ロッド本体の全部または一部(ベースマシンに対する連結部を含む部分)は、ベースマシンの連結部の形状に応じて交換可能に構成されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、開閉式の攪拌翼は、土砂から受ける抵抗によって開閉するようになっている。したがって、従来装置にように、攪拌翼を開閉するための油圧シリンダやロッド(押し棒)などの大掛かりな装置や動力源を必要としない。その結果、攪拌装置を単純でシンプルな構造にでき、攪拌ロッドの径サイズをより小さくすることが可能になる。これにより、攪拌装置をより低コストで製造することができ、また、攪拌ロッドを細く設計できるので貫入抵抗を軽減することが可能になる。
【0012】
また、貫入、引抜および回転方向(正転・逆転)の切替だけで、攪拌翼を確実に開閉することができるので、攪拌翼開閉の制御が簡単であり、汎用のボーリングマシン等ベースマシンとなる機械が広範囲から選択可能となる。
【0013】
しかも、上方に閉じている攪拌翼を、所定深度領域において側方に開脚、開放させるようにしているので、拡径比(開翼状態での攪拌径/閉翼状態での削孔径)が従来よりも大きくなる。これにより、所定深度への到達時間や閉翼状態での引抜き時間が短縮され、効率的な攪拌を行うことが可能になり、その結果、工期が短縮して施工コストを低減させることができる。
【0014】
また、攪拌翼を開閉するための油圧シリンダや油圧ラインなどが不要なため、汎用の削孔機に対し、本発明で用いる開閉式攪拌翼を取付けるだけで、簡単に開閉式攪拌装置として機能させることができる。
【0015】
また、例えば深層部の土壌に対して浄化処理を行う場合には、対象深度領域の土壌だけを攪拌して浄化することができ、攪拌による汚染影響や地盤を乱す影響を浅層部に広げることがないといった効果が期待できる。また、閉翼状態の攪拌装置を細くてコンパクトに設計することができるので、対象深度領域の上部に硬質地盤やガラ混じり地盤があっても、目標深度まで容易に貫入することができる。
【0016】
また本発明によれば、攪拌工程を終えて装置を地中から引き抜く際には、攪拌翼を垂れ下がった位置に閉じさせて、引き抜くようにしている。したがって、貫入時のみならず引抜き時においても、攪拌翼が障害となることはなく、また、攪拌による汚染影響や地盤を乱す影響を浅層部に広げることがない。
【0017】
また、本発明の開閉式攪拌装置には攪拌翼開放治具が設けられているので、攪拌装置を引き上げるときに、確実に攪拌翼を開放させることができる。
【0018】
また、本発明の開閉式攪拌装置は、攪拌翼を攪拌位置に固定するためのストッパーと、その固定状態を解除するための解除機構を備えているので、攪拌翼を攪拌位置で確実に固定し、また必要なときに固定状態を確実に解除することができる。
【0019】
また、本発明の開閉式攪拌装置では、攪拌ロッドのロッド本体の全部又は一部が、ベースマシンの連結構造に応じて交換可能に構成されている。これにより、様々な形状の連結部が想定される多種のベースマシンに対し、本発明の開閉式攪拌装置を広く適用することが可能になる。したがって、同じ掘削攪拌体を多種のベースマシンに取り付けることが可能なので、ベースマシンの選択肢を大幅に広げることができる。また、掘削攪拌体については1タイプの設計で、多種のベースマシンに対応することができるので、攪拌装置の製造コストを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る開閉式攪拌装置の貫入時の状態を示しており、図1(A)は正面図であり、図1(B)はa−a線に沿った断面図である。
【図2】図1の開閉式攪拌装置の攪拌翼を開放させ始めた状態を示している。
【図3】本発明に係る開閉式攪拌装置の攪拌時の状態を示しており、図3(A)は正面図であり、図3(B)はb−b線に沿った断面図である。
【図4】本発明に係る開閉式攪拌装置の引抜き時の状態を示している。
【図5】本発明の開閉式攪拌装置が備える攪拌ロッドを示す概略組立図である。
【図6】開閉式攪拌装置の攪拌翼を貫入位置(図1)から攪拌位置(図3)に変位させる際の動作を示す図である。
【図7】開閉式攪拌装置の攪拌翼を攪拌位置(図3)から引抜位置(図4)に変位させる際の動作を示す図である。
【図8】本発明に係る開閉式攪拌装置を用いて施工する際における、攪拌翼の開閉動作を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面に基づいて、本発明に係る開閉式攪拌翼の実施形態について説明する。
【0022】
(開閉式攪拌装置の構成)
開閉式攪拌装置1は、先端に掘削ビット41を備える攪拌ロッド2と、この攪拌ロッドの先端側に設けられた一対の開閉式攪拌翼43と、これらの攪拌翼の開放動作を補助する攪拌翼開放治具31と、攪拌翼43を所定の開放位置で固定するためのストッパー61と、このストッパーによる固定状態を解除するための解除機構(ガイド孔33,位置決めピン45)とを有している。
【0023】
攪拌ロッド2は流体吐出用の流路を有しており、ロッド本体3と掘削攪拌体4から構成されている。ロッド本体3は、図5に示すように、ボーリングマシン等のベースマシンに対し取り外し可能に連結されるロッドジョイント21(カップリング)と、該ロッドジョイントと掘削攪拌体4とを連結するための連結部材23と、を有している。ロッドジョイント21は、ベースマシンの連結部の形状に応じて交換可能に構成されている。したがって、様々なタイプのベースマシンの連結部に適用できるように、予め、様々な連結構造のロッドジョイントが多種製造される。連結部材23の上端側はロッドジョイント21に連結され、下端側には、掘削攪拌体4の上部にある軸部分が挿着される。
【0024】
上記構成のロッド本体3の連結部材23には略L字状のガイド孔33が形成してあり、掘削攪拌体4の軸部分には位置決めピン45が固設してある。掘削攪拌体4は、位置決めピン45がガイド孔33に沿って移動できる範囲内で、ロッド本体3に対し相対的に変位することが可能である。掘削攪拌体4の先端側には掘削ビット41が設けられ、該掘削ビットの上部において一対の攪拌翼43が開閉可能に設けられている。
【0025】
ロッド本体3の流路と掘削攪拌体4の流路は連通しており、この流路を介して流体が地中へ吐出され、該流体が攪拌翼43によって周辺土壌と攪拌される。なお、地中に吐出される流体は特に限定されず、土壌浄化材、地盤改良材、水など様々な種類の流体を採用することができる。また、これらの流体の態様は特に限定されず、流動可能である限り気体、液体、粉粒体など様々な態様で使用することができる。
【0026】
一対の攪拌翼43は、掘削攪拌体4の軸部分を挟んで対向するように設けられている。攪拌翼43は、例えば梯子状に形成され、その基端部に回転体51,52を有している(図3(B)参照)。攪拌翼43の回転体51,52は連結軸53によって攪拌ロッド2の掘削攪拌体4に連結されており、各攪拌翼は回転体51,52を基点として上下方向で自在にスイング可能である。なお、本発明における攪拌翼の構成は特に限定されず、上下方向にスイングするものである限り様々な変形例を採用することができる。例えば、連結軸53を僅かに傾斜させて開翼状態の攪拌翼を攪拌方向に対し傾斜させるようにしてもよい。
【0027】
上記構成の攪拌翼43は、地盤への貫入時には、その先端を上に向け該攪拌翼が上に閉じた状態になる「貫入位置」にセットされる(図1)。この貫入位置では、攪拌翼43はロッド本体3と外観上一体となって全体として一つの柱状体を構成している。
攪拌時には、攪拌翼43を貫入位置から下方へスイングさせて開放し(図1→図2→図3)、攪拌径Dが貫入時の削孔径に比して大となる「攪拌位置」にセットされ、ストッパー61により固定される。図示する実施形態では、一対の攪拌翼43は90°スイングして相反する方向(水平方向)に延出しており、その結果、攪拌翼先端の旋回軌跡である攪拌径D(図3)が最大となる。
引抜時には、ストッパー61による攪拌翼43の固定状態を解除して、該攪拌翼を垂れ下がった「引抜位置」にスイングさせ下に閉じた状態にする(図4)。
【0028】
攪拌翼43の基端部にある一方の回転体51には、平坦な係合面が形成されている。この係合面は、攪拌翼43が攪拌位置(図3)にあるときに、ストッパー61の平坦な底面側と当接する。このようにストッパー61と回転体51の平坦面同士が当接することにより、攪拌翼43のスイングが妨げられるので、攪拌翼が図3に示す攪拌位置に固定される。
【0029】
攪拌翼開放治具31は、ロッド本体3の外周面に沿って上下方向に摺動自在に設けられている。この攪拌翼開放治具31は、攪拌ロッド2を引き上げることで周辺地盤から受ける抵抗により下方に摺動し、攪拌翼43を付勢する役割を担っている。攪拌翼開放治具31による下方への付勢がきっかけとなって、攪拌翼43が貫入位置(図1)から攪拌位置(図3)へスイングし始める。このような攪拌翼開放治具を設けることにより、攪拌装置を引き上げるときに攪拌翼を確実に開放させることができる。
【0030】
ストッパー61は、攪拌ロッド2のロッド本体3の下端部に設けられ、攪拌翼43の回転体51の上方に位置している。このストッパー61は、図1(B)、図3(B)に示すように相反する方向に水平に延出するように2つ設けられ、各ストッパーは、ロッド本体3に対し回転可能に設けられた回転部材に対して固設されている。攪拌翼43が図3に示す攪拌位置にあるときには、ストッパー61の底面側が攪拌翼43の回転体51の平坦な係合面と当接して、該攪拌翼を攪拌位置に固定する。
【0031】
上記構成のストッパー61は、圧縮コイルバネ62によって付勢されて、その基端にある回転部材のスライド回転を伴いながら旋回することが可能である。ただし、クラッチ65(ストッパーの回転止め部材)が設けられているため、所定の角度範囲内でしか旋回できない。
図1に示す貫入位置では、ストッパー61は、圧縮コイルバネ62により付勢されているが、攪拌翼43の羽根が邪魔しているため、旋回することはない。
図1の貫入位置から図3の攪拌位置へ変位する過程では、攪拌翼43の開放に伴ってその羽根がストッパー61から遠ざかるため、ストッパー61は圧縮コイルバネ62により付勢されて徐々に旋回する。
なお、ストッパー61を付勢し変位させるための手段は、圧縮コイルバネに限定されるものではなく、例えば空気バネ(エアスプリング)やラバースプリングなどの種々の付勢手段を採用することが可能である。
【0032】
ストッパー61による攪拌翼43の固定状態を解除するための解除機構は、ロッド本体3の外周面に形成されたガイド孔33と、このガイド孔に沿って移動可能な位置決めピン45とから構成される。位置決めピン45は、図5に示すように掘削攪拌体4の軸部分に固設されている。位置決めピン45を案内するガイド孔33は、横孔と縦孔が連なって形成された略L字状の形態を有している。ロッド本体3のL字状ガイド孔33と、掘削攪拌体4の位置決めピン45との係合関係により、掘削攪拌体4はロッド本体3に対し所定角度の範囲内で相対回転可能であり、また、所定長さだけ相対移動可能である。
【0033】
(攪拌翼の開閉動作)
次に、施工時における攪拌翼43の開閉動作について、図8に示す一連の工程を参照しながら説明する。なお、攪拌装置1の具体的構成については必要に応じて図1〜図5を参照し、開放した攪拌翼43を固定するための動作については図6を参照し、攪拌翼43の固定状態を解除するための動作については図7を参照する。
【0034】
図8(a)に示す貫入開始前には、図1に示すように攪拌翼43の先端を上に向けて該攪拌翼が上に閉じた状態になる「貫入位置」にセットするとともに、攪拌翼開放治具31が攪拌翼43の先端の上部に位置するように位置決めする。次に、正転(右回転)させながら攪拌装置1の貫入を開始する。
【0035】
攪拌装置1を貫入している間は(図8(a)→(b))、攪拌翼43は図1に示す閉翼状態を維持し、攪拌翼43がロッド本体3と外観上一体となって全体として1つの柱状体を構成する。そのため、貫入時において攪拌翼43が貫入の妨げとなることはない。
【0036】
貫入を続けて目標深度まで達したら(図8(b))、正転させながら攪拌装置1を所定長さ引き上げる。すると、攪拌翼43の先端上部にある攪拌翼開放治具31が、攪拌装置1の引き上げに伴う土砂の抵抗を受けて下方に摺動し、貫入位置から攪拌位置へスイングするように攪拌翼43を付勢する。この攪拌翼開放治具31による付勢がきっかけとなって、攪拌翼43が開脚するようにスイングし始める(図8(b)→(c))。以後は、攪拌翼43が直接、引き上げに伴う土砂の抵抗を受けて、周辺地盤に突き刺さりながら下方にスイングする(図8(c))。一方、攪拌翼43の開脚に伴って、図6の(a)から(f)に示すように、ストッパー61が圧縮コイルバネ62によって付勢されて所定角度だけ旋回する。
【0037】
そして、攪拌翼43が90°スイングして攪拌径が最大となる位置(水平位置)に至ると、図6(f)に示すように、旋回したストッパー61の平坦な底面に対し、攪拌翼43の基部にある回転体51の平坦な係合面が当接して、回転体51の回転が妨げられる。これにより、各攪拌翼は図3の攪拌位置に固定される(図8(c))。
以後は、攪拌装置1を正転させながら、所定深度領域での貫入と引上を必要サイクル繰り返して、旋回する攪拌翼43による攪拌を行う(図8(c)→(d)→(e)→(f))。
【0038】
図8(c)乃至(f)に示す攪拌工程を終えて攪拌装置1を地中から引き抜く際には、攪拌装置を逆転させる。すると、攪拌翼43や掘削ビット41を介して受けた周辺地盤の抵抗により、ロッド本体3の先端側に挿設した掘削攪拌体4が相対回転し始める。このとき、図7に示すように、掘削攪拌体4の位置決めピン45がロッド本体3のガイド孔33に沿って横方向に移動し、縦孔に至ると掘削攪拌体4は地盤の反力を受けてその位置にとどまり、ロッド本体3が引抜き力によって当該縦孔の長さ分だけ上昇する。その結果、図7(c)に示すように、ストッパー61が攪拌翼43の回転体51から所定長さ離れるので、該ストッパーによる攪拌翼の固定状態が解除される。
【0039】
そして、攪拌装置1を逆転させながら引き上げると(図8(f)→(g))、攪拌翼43が引き上げに伴う周辺地盤の抵抗を受け、図4に示すような垂れ下がった「引抜位置」にスイングして下向きに閉翼する。以降は、攪拌翼43が引き抜きの障害となることがなく、攪拌装置1を地盤から引き抜くことができる。
【0040】
(開閉式攪拌装置の効果)
上述したとおり本発明の攪拌装置によれば、開閉式の攪拌翼は、土砂から受ける抵抗によって開閉するようになっている。したがって、従来装置にように、攪拌翼を開閉するための油圧シリンダやロッド(押し棒)などの大掛かりな装置や動力源を必要としない。その結果、攪拌装置を単純でシンプルな構造にでき、攪拌ロッドの径サイズをより小さくすることが可能になる。これにより、攪拌装置をより低コストで製造することができ、また、攪拌ロッドを細く設計できるので貫入抵抗を軽減することが可能になる。
【0041】
また、貫入、引抜および回転方向(正転・逆転)の切替だけで、攪拌翼を確実に開閉することができるので、攪拌翼開閉の制御が簡単であり、汎用のボーリングマシン等ベースマシンとなる機械が広範囲から選択可能となる。
【0042】
しかも、上方に閉じている攪拌翼を、所定深度領域において側方に開脚、開放させるようにしているので、拡径比(開翼状態での攪拌径/閉翼状態での削孔径)が従来よりも大きくなる。これにより、所定深度への到達時間や閉翼状態での引抜き時間が短縮され、効率的な攪拌を行うことが可能になり、その結果、工期が短縮して施工コストを低減させることができる。
【0043】
また、攪拌翼を開閉するための油圧シリンダや油圧ラインなどが不要なため、汎用の削孔機に対し、本発明で用いる開閉式攪拌翼を取付けるだけで、簡単に開閉式攪拌装置として機能させることができる。
【0044】
また、例えば深層部の土壌に対して浄化処理を行う場合には、対象深度領域の土壌だけを攪拌して浄化することができ、攪拌による汚染影響や地盤を乱す影響を浅層部に広げることがないといった効果が期待できる。また、閉翼状態の攪拌装置を細くてコンパクトに設計することができるので、対象深度領域の上部に硬質地盤やガラ混じり地盤があっても、対象深度まで容易に貫入することができる。
【0045】
また本発明によれば、攪拌工程を終えて装置を地中から引き抜く際には、攪拌翼を垂れ下がった位置に閉じさせて、引き抜くようにしている。したがって、貫入時のみならず引抜き時においても、攪拌翼が障害となることはなく、また、攪拌による汚染影響や地盤を乱す影響を浅層部に広げることがない。
【0046】
また、本発明の開閉式攪拌装置では、攪拌ロッドのロッド本体の全部又は一部が、ベースマシンの連結構造に応じて交換可能に構成されている。これにより、様々な形状の連結部が想定される多種のベースマシンに対し、本発明の開閉式攪拌装置を広く適用することが可能になる。したがって、同じ掘削攪拌体を多種のベースマシンに取り付けることが可能なので、ベースマシンの選択肢を大幅に広げることができる。また、掘削攪拌体については1タイプの設計で、多種のベースマシンに対応することができるので、攪拌装置の製造コストを低減させることができる。
【符号の説明】
【0047】
1 開閉式攪拌装置
2 攪拌ロッド
3 ロッド本体
4 掘削攪拌体
21 ロッドジョイント(カップリング)
23 連結部材
31 攪拌翼開放治具
33 ガイド孔
41 掘削ビット
43 開閉式攪拌翼
45 位置決めピン
51 回転体
52 回転体
53 連結軸
61 ストッパー
62 圧縮コイルバネ
65 クラッチ(ストッパーの回転止め部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に貫入させる攪拌ロッドと、
前記攪拌ロッドに設けられ、上下方向にスイング可能な攪拌翼と、
前記攪拌翼が攪拌ロッドから側方に突き出るようにスイングした位置において、該攪拌翼を固定するためのストッパーと、を有しており、
前記攪拌翼は、前記攪拌ロッドを引き上げるときに周辺地盤から受ける抵抗により、下方にスイング可能であることを特徴とする開閉式攪拌装置。
【請求項2】
前記ストッパーによる攪拌翼の固定状態を解除するための解除機構を有していることを特徴とする請求項1記載の開閉式攪拌装置。
【請求項3】
上下方向にスイング可能な前記攪拌翼は、
貫入時には、その先端を上に向け攪拌翼が上に閉じた状態になる貫入位置にセットされ、
攪拌時には、前記貫入位置からスイングさせて、攪拌径が貫入時に比して大となる攪拌位置にセットされ、前記ストッパーにより固定され、
引抜時には、前記ストッパーによる固定を解除して、垂れ下がった引抜位置にスイングさせる、ことを特徴とする請求項2記載の開閉式攪拌装置。
【請求項4】
前記貫入位置から前記攪拌位置へスイングするように攪拌翼を付勢する攪拌翼開放治具を有していることを特徴とする請求項3記載の開閉式攪拌装置。
【請求項5】
前記攪拌ロッドが、
ベースマシンに連結されるロッド本体と、
前記ロッド本体に装着され、前記攪拌翼を備える掘削攪拌体と、を有しており、
前記ロッド本体の全部又は一部が、ベースマシンの連結部の形状に応じて交換可能に構成されていることを特徴とする請求項1記載の開閉式攪拌装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−162959(P2011−162959A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−24420(P2010−24420)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【出願人】(391019740)三信建設工業株式会社 (59)
【出願人】(391064418)株式会社クロサワジオメック (4)
【Fターム(参考)】