説明

防振用減衰装置

【課題】本発明は、防振用減衰装置に関し、従来の防振用減衰装置において滑りねじ部の遊びや締まりが生じることが課題であって、それを解決することである。
【解決手段】直線運動する直線運動手段と、該直線運動手段の直線運動を回転運動に変換する回転運動変換手段と、該回転運動変換手段によって回転され粘性体の粘性抵抗により運動エネルギーを減衰させる粘性減衰手段とを有する減衰装置であって、前記回転運動変換手段の回転運動させるねじ軸に螺合されているナット部分を、ナット2と該ナットを内周壁面側に固着する金属製筒体のナットハウジング3とでなるものを一対で対向配置にして前記ねじ軸27に装着し、その対向するナットハウジング3面の間に前記ナット2とねじ軸27とにおけるバックラッシを調節するリング状のスペーサ26を介在させて構成した防振用減衰装置1とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の走行によって生じる振動エネルギーを減衰させる防振用減衰装置に係り、更に詳しくは、主に列車または車・トラック等の交通車両の走行によって生じる高架橋等構造物の微小な振動を抑えるため、滑りねじを利用した減衰装置における、ねじの遊びまたは締まりを除去する構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、図9(A)に示すように、直線運動する直線運動手段21と、該直線運動手段の直線運動を回転運動に変換する回転運動変換手段22と、該回転運動変換手段によって回転され粘性体の粘性抵抗により運動エネルギーを減衰させる粘性減衰手段23と、前記各手段を支持する装置本体24とからなる。前記回転運動変換手段22は、滑りねじを利用した構造であり、台形または角ねじといった滑りねじを利用した力の伝達手段を有している。
【0003】
前記ねじ部材には、ナット:銅合金、ねじ軸:合金鋼を用い、安定した滑り摩擦を供する材料の組み合わせで構成されている。そして、振動減衰の対象となる高架橋等構造物の振動により、減衰装置に入力される変位量は、例えば、0.2mm〜2mm程度である。減衰装置としての入力変位量に対する遊び(バックラッシ)は、初期状態で1/20程度が理想である。よって、例えば入力変位量が片振幅で0.4mmであれば、遊びは0.02mmとなる。
【0004】
このような非常に小さい変位量に対応するために、図9(B)に示すように、工作機械に用いられる送りねじ機構と同様に、二つのナット25を用いてねじ軸方向にスペーサ26等を介して調整する方法や、二つのナットを回して調整する方法が採用され、ねじの遊びをゼロに近づけるようにしている
【特許文献1】特開2004−84845号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の防振用減衰装置では、その製作面及び保守性から、二つのナット25によりスペーサ26を介して、ねじ軸のねじ面を外側より挟み込む構造としている。よって、前記ねじ軸とナットの各部材は熱膨張係数が異なることから、例えば、連続的に装置が作動し、ねじ部で顕著な発熱が生じて温度が上昇する場合や、環境温度が大きく上昇変化する場合においては、図10(A)に示すように、ねじ軸とナットの熱膨張差によりバックラッシが増加し、微小な振動変位に対して有効な減衰効果が得られなくなるおそれがある。ちなみに、ねじの噛み合い長さが100mmで温度が40℃上昇した場合のねじ軸とナットとの相対膨張差は0.032mmとなり、バックラッシの目標値(0.02mm)より大きくなり入力変位量に対する遊びが大きくなる。
【0006】
一方、環境温度が大きく下降変化する場合においては、前記バックラッシが減少する。例えば、図10(B)に示すように、ねじの噛み合い長さが100mmで温度が30℃低下した場合では、ねじ軸とナットとの相対収縮差は0.024mmとなり、前記バックラッシの目標値(0.02mm)よりも大きくなり、ねじ部において締まり(抱き付き)が発生し、減衰力の不安定と、ねじの噛み合い部における異常摩耗を誘発するおそれがある。このように、防振用減衰装置が使用される環境により、初期バックラッシが大きく変化しないような構造が要求されている。本発明に係る防振用減衰装置は、このような課題を解決するために提案されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る防振用減衰装置の上記課題を解決して目的を達成するための要旨は、直線運動する直線運動手段と、該直線運動手段の直線運動を回転運動に変換する回転運動変換手段と、該回転運動変換手段によって回転され粘性体の粘性抵抗により運動エネルギーを減衰させる粘性減衰手段とを有する減衰装置であって、前記回転運動変換手段の回転運動させるねじ軸に螺合されているナット部分を、ナットと該ナットを内周壁面側に固着する金属製筒体のナットハウジングとでなるものを一対で対向配置にして前記ねじ軸に装着し、その対向するナットハウジング面の間に前記ナットとねじ軸とにおけるバックラッシを調節するリング状のスペーサを介在させて構成したことである。
【0008】
前記ねじ軸とナットハウジングとの熱膨張係数は、同一であることであり、
更に、前記ナットハウジングは、その内周壁面の片側の側壁端部において径方向内側に突出する突起部が突設されて前記内周壁面に段部が形成され、前記段部にナットの側壁面が当接され当該ナットがナットハウジングに固着されることで該ナットにとってこの段部が軸心方向の拘束面となると共に、前記ナットハウジングがねじ軸に装着される際には前記段部が互いに背向してスペーサ側に配置されること、または、
前記ナットハウジングは、その内周壁面の片側の側壁端部において径方向内側に突出する突起部が突設されて前記内周壁面に段部が形成され、前記段部にナットの側壁面が当接され当該ナットがナットハウジングに固着されることで該ナットにとってこの段部が軸心方向の拘束面となると共に、前記ナットハウジングがねじ軸に装着される際には前記段部が互いに中間のスペーサと反対側に配置されることであり、
前記ナットの最小肉厚とナットハウジングの肉厚との比は1:2〜3であることを含むものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の防振用減衰装置によれば、温度が上下してもナットの体積容量が小さく、また、ナットハウジングによってナットの径方向の拘束があるので、滑りねじの温度変化に伴う遊び、若しくは、締まりの発生を緩和させることができる。また、ナットがコンパクトになるのでコスト低減となる。更に、ナットの雌ねじ加工が容易となる。
【0010】
また、ねじ軸とナットハウジングとの熱膨張係数を同一にしているので、温度変化における径方向と長手方向との全体系においてねじ軸とナットハウジングとの膨張量若しくは収縮量を合わせる。これにより、ナットの温度変化よる影響を緩和させる。
前記ナットハウジングの内周壁面の端部に段部を形成して、ナットの長手方向の温度変化を一方向に拘束することで、滑りねじの遊びの発生を緩和させる。
前記ナットの肉厚はナットハウジングの肉厚の1/2〜1/3であるので、ナットの温度変化を抑えて、滑りねじの遊びや締まりの発生を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に係る防振用減衰装置1について説明する。従来例に係る部分と同じ部分には、従来例と同じ符号を付けて説明する。図1に示すように、直線運動する直線運動手段21と、該直線運動手段21の直線運動を回転運動に変換する回転運動変換手段22と、該回転運動変換手段2によって回転され粘性体の粘性抵抗により運動エネルギーを減衰させる粘性減衰手段23(図9参照)とを有する減衰装置である。
【0012】
そして、前記回転運動変換手段22の回転運動させるねじ軸27に螺合されているナット部分を、ナット2と該ナット2を内周壁面側に固着する金属製筒体のナットハウジング3とでなるものを一対で対向配置にして前記ねじ軸27に装着する。前記ナット2の最小肉厚とナットハウジング3の肉厚との比は1:2〜3である。
【0013】
その対向するナットハウジング3の面の間に、前記ナット2とねじ軸27とのねじ山におけるバックラッシを調節するリング状のスペーサ26を介在させて構成したものである。前記ナットハウジング3と前記ねじ軸27との軸受けは、ベアリング4によって成されている。
【0014】
また、前記ねじ軸27とナットハウジング3との熱膨張係数は同一であり、鋼又は合金鋼である。前記ナット2は、銅合金製である。このナット2は、ナットハウジング3に、焼き嵌め、冷やし嵌め、圧入等により、固着される。
【0015】
前記ナットハウジング3は、図2(A)に示すように、その内周壁面の片側の側壁端部において、径方向内側に突出するリング状の突起部(フランジ部)3aが突設されて前記内周壁面に段部3bが形成されている。この段部3bにナット2の側壁面が当接され当該ナット2がナットハウジング3に固着されることで、該ナット2にとってこの段部3bが軸心方向の拘束面となると共に、前記ナットハウジング3がねじ軸27に装着される際には、前記段部3bが互いに背向してスペーサ26側に配置される。
【0016】
前記図2(A)に示す状態が初期状態である。前記ナット2は、ねじ軸27のねじ部との間に、理想的なバックラッシAが設けられている。この調整は、前記スペーサ26の厚みにより調整する。この初期状態の設定は、例えば、図2(A)において、左側のナット2aは、ねじ山の右側でねじ軸27のねじ山に当接しており、右側のナット2bは、ねじ山の左側でねじ軸27のねじ山に当接している。このように、コンパクトに分割した一対のナット2a,2bで、ねじ軸27のねじ山を両側から挟み付けるように設定される。
【0017】
このように一対のナット2a,2bが、ねじ軸27のねじ部に対して、バックラッシAの設ける位置が反対側になっているので、ねじ軸27に引張方向の力が作用する場合と、圧縮方向の力が作用する場合とでは、図2(B),(C)に示すように、いずれか片方のナット2に受圧面が生じる。これにより、ねじ軸27の軸線方向の移動に置いて、前記ナット2との間にガタ付きが無く、無駄なく直線運動が回転運動に変換されるものである。
【0018】
そして、図3に示すように、振動などの影響でナット2のねじ山とねじ軸27のねじ山との間で摩擦により熱が発生すると、ナット2の方が熱膨張係数が大きいので、相対的に図示のように膨張する。かかる状態では、前記ナット2の体積容量がナットハウジング3に比べて小さく、このナットハウジング3によって前記ナット2はその外径と、段部3bによって片側の端面とが拘束されているので、長手方向と径方向とで寸法変化が相殺されて、滑りねじの温度変化に伴う遊びの発生が緩和される。
【0019】
また、図4に示すように、温度が下降して熱収縮する場合には、前記ナット2の体積容量がナットハウジング3に比べて小さく、このナットハウジング3によって前記ナット2はその外径と、段部3bによって片側の端面とが拘束されているので、長手方向と径方向とで寸法変化が相殺されて、滑りねじの温度変化に伴う締まりの発生が緩和される。
【0020】
本発明に係る防振用減衰装置1の第2実施例として、図5に示すように、ナットハウジング3は、その内周壁面の片側の側壁端部において径方向内側に突出するリング状の突起部(フランジ部)3aが突設されて前記内周壁面に段部3bが形成され、前記段部3bにナット2の側壁面が当接され当該ナット2がナットハウジング3に固着されることで該ナット2にとってこの段部3bが軸心方向の拘束面となると共に、前記ナットハウジング3がねじ軸27に装着される際には前記段部3bが互いに中間のスペーサ26と反対側に配置されるものである。
【0021】
この第2実施例は、前記第1実施例に対して、段部3bの位置が反対側にあるものである。そして、図6(A)に示すように、前記一対のナット2a,2bは、ねじ軸27のねじ山に対して、長手方向に沿って、中心のスペーサ26から外側に押しつけるようにして配置される。一対のナット2a,2bの間には、十分な空間がある。これが初期状態となる。そして、図6(B),(C)に示すように、ねじ軸27に引張力若しくは圧縮力が作用すると、いずれか一方のナット2に受圧面が生じる。
【0022】
また、この防振用減衰装置1においても温度変化により、図7若しくは図8に示すように、ナット2の寸法変化があるが、これも、前記第1実施例と同様に、ナットの長手方向と径方向とに寸法変化が相殺されて、熱膨張の場合における遊びの発生、熱収縮の場合における締まりの発生が緩和されるものである。このようにして、防振用減衰装置1が屋外等で使用されて、環境温度が変化しても、目標とするバックラッシ内に納まり減衰装置の減衰性能が低下しない構造となるものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る防振用減衰装置1の縦断面図である。
【図2】同本発明の防振用減衰装置1におけるナット2とねじ軸とのねじ山の、初期状態の断面図(A)、引張力が作用した場合の断面図(B)、圧縮力が作用した場合の断面図(C)である。
【図3】防振用減衰装置1において、ナットとねじ軸とのねじ山に熱膨張が生じた場合の寸法変化の模式図である。
【図4】防振用減衰装置1において、ナットとねじ軸とのねじ山に熱収縮が生じた場合の寸法変化の模式図である。
【図5】防振用減衰装置1の第2実施例を示す、一部の縦断面図である。
【図6】同本発明の防振用減衰装置1の第2実施例におけるナット2とねじ軸とのねじ山の、初期状態の断面図(A)、引張力が作用した場合の断面図(B)、圧縮力が作用した場合の断面図(C)である。
【図7】第2実施例の防振用減衰装置1において、ナットとねじ軸とのねじ山に熱膨張が生じた場合の寸法変化の模式図である。
【図8】同第2実施例の防振用減衰装置1において、ナットとねじ軸とのねじ山に熱収縮が生じた場合の寸法変化の模式図である。
【図9】従来例に係る防振用減衰装置の縦断面図(A)、その一部拡大断面図(B)である。
【図10】同従来例に係る防振用減衰装置における、ナットとねじ軸とのねじ山に熱膨張が生じた場合の寸法変化の模式図(A)と、ナットとねじ軸とのねじ山に熱収縮が生じた場合の寸法変化の模式図(B)とである。
【符号の説明】
【0024】
1 防振用減衰装置、
2 ナット、 2a,2b ナット、
3 ナットハウジング、 3a 突起部、
3b 段部、
4 ベアリング、
21 直線運動手段、
22 回転運動変換手段、
23 粘性減衰手段、
24 装置本体、
25 ナット、
26 スペーサ、
27 ねじ軸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線運動する直線運動手段と、該直線運動手段の直線運動を回転運動に変換する回転運動変換手段と、該回転運動変換手段によって回転され粘性体の粘性抵抗により運動エネルギーを減衰させる粘性減衰手段とを有する減衰装置であって、
前記回転運動変換手段の回転運動させるねじ軸に螺合されているナット部分を、
ナットと該ナットを内周壁面側に固着する金属製筒体のナットハウジングとでなるものを一対で対向配置にして前記ねじ軸に装着し、
その対向するナットハウジング面の間に前記ナットとねじ軸とにおけるバックラッシを調節するリング状のスペーサを介在させて構成したこと、
を特徴とする防振用減衰装置。
【請求項2】
ねじ軸とナットハウジングとの熱膨張係数は同一であること、
を特徴とする請求項1に記載の防振用減衰装置。
【請求項3】
ナットハウジングは、その内周壁面の片側の側壁端部において径方向内側に突出する突起部が突設されて前記内周壁面に段部が形成され、
前記段部にナットの側壁面が当接され当該ナットがナットハウジングに固着されることで該ナットにとってこの段部が軸心方向の拘束面となると共に、前記ナットハウジングがねじ軸に装着される際には前記段部が互いに背向してスペーサ側に配置されること、
を特徴とする請求項1または2に記載の防振用減衰装置。
【請求項4】
ナットハウジングは、その内周壁面の片側の側壁端部において径方向内側に突出する突起部が突設されて前記内周壁面に段部が形成され、
前記段部にナットの側壁面が当接され当該ナットがナットハウジングに固着されることで該ナットにとってこの段部が軸心方向の拘束面となると共に、前記ナットハウジングがねじ軸に装着される際には前記段部が互いに中間のスペーサと反対側に配置されること、
を特徴とする請求項1または2に記載の防振用減衰装置。
【請求項5】
ナットの最小肉厚とナットハウジングの肉厚との比は1:2〜3であること、
を特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の防振用減衰装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−281428(P2009−281428A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−131817(P2008−131817)
【出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【出願人】(000175582)三協オイルレス工業株式会社 (32)
【Fターム(参考)】