説明

防振装置、及び、防振装置の製造方法

【課題】ストッパ部材の組み付け時にゴム弾性体側への接着剤の溢れ出しを防止することの可能な防振装置、及び、この防振装置の製造方法を提供する。
【解決手段】ゴム弾性体18の軸方向Sの外側で内筒部材16の外周には、延出ゴム部20が形成されている。延出ゴム部20の接着外周面20Aには、凹溝21が構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防振装置、及び、防振装置の製造方法に係り、特に、軸方向の移動により防振装置と他部材との衝突の際の緩衝を行うストッパ部材を有する防振装置、及び、この防振装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、振動発生部からの振動に対して防振効果を有する種々の防振装置が提案されている。その中の1つに、外筒部材と内筒部材がゴム弾性体によって連結されている、筒型の、いわゆるブッシュ式防振装置がある。このブッシュ式防振装置において、外筒部材と内筒部材の筒軸方向の相対移動による他部材との衝突を緩衝するため、ストッパ部材が取り付けられる場合がある(特許文献1参照)。このストッパ部材は、通常、内筒部材に外挿されて取り付けられている。
【0003】
このストッパ部材を内筒部材に固定する際に、接着剤を用いる場合がある。このとき、ストッパ部材と内筒部材との接着面に接着剤を塗布してストッパ部材を内筒部材に外挿するが、接着剤が本体ゴムであるゴム弾性体側へ溢れ出してしまうことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭63−141343号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事実を考慮して成されたものであり、ストッパ部材の組み付け時にゴム弾性体側への接着剤の溢れ出しを防止することの可能な防振装置、及び、この防振装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1に係る防振装置は、振動発生部および振動受部の一方に連結される外筒部材と、前記外筒部材の内周側に配置されると共に振動発生部および振動受部の他方に連結される内筒部材と、前記外筒部材の内周面と前記内筒部材の外周面との間に配置され、前記外筒部材と前記内筒部材とを弾性的に連結する弾性体と、前記内筒部材に外挿されて前記弾性体の軸方向外側に配置され、内周面が前記内筒部材の外周側に構成される接着外周面に接着剤により接着される取付部と、該取付部から前記外筒部材の径方向外側まで延出される緩衝部と、を有する、ストッパ部材と、前記弾性体の前記軸方向の外側に突出されると共に前記内筒部材の外周に前記弾性体と一体的に形成されて前記取付部が前記軸方向に当接される当接受面を有する位置決め部と、前記位置決め部よりも前記軸方向外側に延出され且つ前記位置決め部よりも小径とされ、前記弾性体と一体的に形成されて前記接着外周面を構成し、前記接着外周面に周方向に沿った凹溝が構成された延出部と、を備えている。
【0007】
本発明の防振装置によれば、ストッパ部材の取付部を内筒部材に外挿する際に、取付部の内周面またはゴム弾性体側の接着外周面に塗布された接着剤が、接着外周面に周方向に沿った凹溝に入り込む。したがって、接着剤がゴム弾性体側に溢れてしまうことを防止することができる。
【0008】
本発明の請求項2に係る防振装置は、前記取付部の内周面には、周方向に内周凹溝が構成されていること、を特徴とする。
【0009】
このように、取付部の内周面に内周凹溝を構成することにより、内周凹溝にも接着剤を溜めることができ、ゴム弾性体側への接着剤の溢れを、より確実に防止することができる。
【0010】
本発明の請求項3に係る防振装置は、前記凹溝は、前記延出部の軸方向内側に構成されていること、を特徴とする。
【0011】
このように、凹溝を延出部の軸方向内側に構成することにより、ストッパ部材を組み付ける際に、ゴム弾性体側へ移動する接着剤を凹溝へ効果的に導くことができ、ゴム弾性体側への接着剤の溢れを、より確実に防止することができる。
【0012】
本発明の請求項4に係る防振装置の製造方法は、請求項1または請求項2に記載の防振装置の製造方法であって、前記接着外周面に接着剤を塗布し、前記取付部を前記内筒部材に外挿して、前記取付部の内周面と前記接着外周面とを接着材で接着させて前記ストッパ部材を前記内筒部材に取り付けるものである。
【0013】
本発明の防振装置の製造方法によれば、ゴム弾性体側の接着外周面に接着剤を塗布するので、接着剤の塗布を取付部の内周面に行う場合と比較して、容易に行うことができる。
【0014】
また、取付部を内筒部材に外挿する際に、接着外周面の接着剤は凹溝に流入するので、ゴム弾性体側への溢れ出しを防止することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように本発明によれば、ストッパ部材の組み付け時に、ゴム弾性体側への接着剤の溢れ出しを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係る防振装置の構成を示す分解斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る防振装置の軸方向からみた正面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る防振装置のストッパ部材と防振本体の組み付け前の取付部分の断面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る防振装置のストッパ部材と防振本体の組み付け後の取付部分の断面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る防振装置の変形例に係るストッパ部材と防振本体の組み付け後の取付部分の断面図である。
【図6】本発明の実施形態に係る防振装置の他の変形例に係る防振本体の取付部分の断面図である。
【図7】本発明の実施形態に係る防振装置の変形例に係るストッパ部材と防振本体の組み付け後の取付部分の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係る防振装置、及び、防振装置の製造方法について図面を参照して説明する。
【0018】
図1及び図2には本実施形態に係る防振装置10が示されている。防振装置10は、防振本体12、及び、ストッパ部材30を備えている。
【0019】
防振本体12は、外筒部材14、内筒部材16、及び、ゴム弾性体18を備えている。外筒部材14は円筒形状とされ、防振装置10の外形を構成している。外筒部材14は、金属、樹脂等で形成することができる。
【0020】
外筒部材14の内周側には、筒軸方向に沿って筒状の内筒部材16が配置されている。内筒部材16の筒軸は、外筒部材14の筒軸中心から偏心した位置に配置され、軸方向Sにおいて、外筒部材14よりも長尺とされ、先端部が外筒部材14の端部から突出されている。
【0021】
内筒部材16の外周面と外筒部材14部材の内周面との間にはゴム弾性体18が配置され、ゴム弾性体18により内筒部材16と外筒部材14とが弾性的に連結されている。ゴム弾性体18は内周側が内筒部材16の外周面に加硫接着され、外周側が外筒部材14の内周面に加硫接着されている。ゴム弾性体18には、軸方向Sに貫通する空洞である、スグリ18A、18Bが構成されている。スグリ18Aは、内筒部材16と外筒部材14との間隔が短い側に、外筒部材14の内周に沿うように構成されている。スグリ18Bは、内筒部材16と外筒部材14との間隔が長い側に、内筒部材16へ向かって凸状となるように構成されている。
【0022】
ゴム弾性体18の軸方向Sの両端側には、ストッパ部材30を取り付けるための延出ゴム部20、及び、位置決め部24が形成されている。延出ゴム部20、及び、位置決め部24の詳細については、後述する。
【0023】
外筒部材14は、不図示のブラケットを介して、車両の振動発生部または振動受部の一方に連結される。内筒部材16は、筒内に連結軸(不図示)が挿通され、当該連結軸を介して、車両の振動発生部または振動受部の他方に連結される。
【0024】
ストッパ部材30は、緩衝部32及び取付部34を有している。取付部34は、環状とされ、内筒部材16に外挿される。すなわち、取付部34の環状の内側に内筒部材16が挿入される。取付部34の構成の詳細については後述する。
【0025】
緩衝部32は、板状で略扇形とされ、取付部34から外筒部材14の径方向外側まで延出されている。緩衝部32は、径方向外側に板厚の厚い外ゴム部32Aと、径方向内側に板厚が外ゴム部32Aよりも薄い連結部32Bで形成されている。外ゴム部32Aは、軸方向Sからみて、外筒部材14を覆う位置に配置されている。連結部32Bは、外ゴム部32Aと取付部34とを連結している。外ゴム部32Aの外面には、R状に突出した複数の小凸33が形成されている。
【0026】
図3にも示されるようにゴム弾性体18の軸方向Sの両端で内筒部材16の外周には、延出ゴム部20が形成されている。延出ゴム部20は、内筒部材16の外周面に沿って形成される厚みの薄いゴム材とされ、ゴム弾性体18から軸方向Sの外側に延出されている。延出ゴム部20は、内筒部材16の外周に固着されている。延出ゴム部20の外径は、ストッパ部材30の取付部34の内側に嵌め込み可能な径とされており、延出ゴム部20の外周面で取付部34と接着される接着外周面20Aが構成されている。延出ゴム部20の外周の2箇所には、係合凸条22が形成されている。係合凸条22は、軸方向Sに伸び、延出ゴム部20の外周から径方向外側へ突出され、後述する取付部34係合凹溝34Aと係合する。係合凸条22は、内筒部材16を挟んで対向する2箇所に形成されている。
【0027】
延出ゴム部20の接着外周面20Aには、凹溝21が構成されている。凹溝21は、接着外周面20Aの軸方向S内側、即ち、位置決め部24側に構成されている。凹溝21は、延出ゴム部20の周方向の全周にわたって構成されている。凹溝21は、接着外周面20Aに塗布された接着剤Bを入り込ませることの可能な深さ、溝幅となっている。凹溝21の深さHは0.1mm〜2.0mm程度、特に0.2mm〜0.4mm程度であることが好ましい。溝幅Wは1.0mm〜5.0mm程度、特に1.5mm〜2.5mm程度であることが好ましい。
【0028】
延出ゴム部20よりも軸方向Sの内側には、延出ゴム部20に隣接して位置決め部24が形成されている。位置決め部24は、延出ゴム部20の外径よりも大径とされ、内筒部材16の外周に沿って形成され、ゴム弾性体18の軸方向Sの外側に突出されている。位置決め部24は、延出ゴム部20及びゴム弾性体18と一体的に形成され、延出ゴム部20と位置決め部24との間には、段部が構成されている。位置決め部24には、位置決め部24の軸方向Sの外側に向かう面で当接受面24Aが構成されている。当接受面24Aには、ストッパ部材30の取付部34が軸方向Sに当接され、軸方向Sの位置決めが行われるようになっている。また、位置決め部24の当接受面24Aと外周面24Cとの間には、外角部26が構成されている。
【0029】
ストッパ部材30の取付部34は、外周部35及び先端部36を有している。先端部36は、取付部34の内周端を構成しており、内径は延出ゴム部20の外径と略同一とされている。先端部36の内周面36Aの厚み方向中央には、周方向に沿って内周凹溝36Bが構成されている。内周面36Aが延出ゴム部20の接着外周面20Aと接着剤Bを介して接着される。
【0030】
ストッパ部材30の取付部34の内周には、係合凸条22に対応する位置に係合凹溝34Aが構成されている。係合凹溝34Aが、係合凸条22と係合して、ストッパ部材30と防振本体12の相対回転が阻止されている。
【0031】
外周部35は、先端部36の外周側に構成され、厚みが連結部32Bよりも厚くなっている。先端部36と外周部35の間には、内角部37が構成されている。取付部34の内周面36Aが接着外周面20Aに当接されると共に、内角部37と外角部26とが係合され、ストッパ部材30の防振本体12に対する位置決めが行われる。
【0032】
次に、防振本体12とストッパ部材30との組み付け方法について説明する。
【0033】
まず、防振本体12の延出ゴム部20の接着外周面20Aに、接着剤Bを塗布する。そして、ストッパ部材30の取付部34を内筒部材16に固着された延出ゴム部20に外挿する。このとき、取付部34の内周面36Aが延出ゴム部20の接着外周面20Aと摺接し合い、一部の接着剤Bがゴム弾性体18側(軸方向Sの内側、図3では下側)へ移動し、凹溝21に入る。当接受面24Aに取付部34の先端部36が当接されて、内角部37と外角部26とが係合されるまで、ストッパ部材30を延出ゴム部20に外挿し、ストッパ部材30の防振本体12に対する位置決めを行う。この位置で、取付部34の内周面36Aと延出ゴム部20の接着外周面20Aとは、両者の間に介在する接着剤Bを介して接着される(図4参照)。
【0034】
本実施形態の防振装置10では、延出ゴム部20の接着外周面20Aに凹溝21が構成されているので、ストッパ部材30を組み付ける際に、接着外周面20Aに塗布された接着剤Bは、凹溝21に入り込む。したがって、接着剤Bのゴム弾性体18側への溢れ出しを防止することができる。また、凹溝21に滞留する接着剤Bを利用して、接着外周面20Aと内周面36Aの接着を良好に行うことができる。また、当接受面24Aの表面に接着剤が滞留しないので、ストッパ部材30の軸方向の位置決めを正確に行うことができる。
【0035】
また、本実施形態では、凹溝21を延出ゴム部20の位置決め部24側に形成しているので、ゴム弾性体18側へ移動した接着剤Bを、効果的に凹溝21へ導くことができる。
【0036】
なお、本実施形態では、ストッパ部材30の取付部34の内周面にも内周凹溝36Bが構成したが、内周凹溝36Bは必ずしも必要ではなく、図5に示すように、内周凹溝36Bのない構成としてもよい。本実施形態のようにストッパ部材30の取付部34の内周面36Aにも内周凹溝36Bを構成することにより、接着剤Bを内周凹溝36Bに入り込ませてゴム弾性体18側への溢れ出しをさらに確実に防止することができる。また、内周凹溝36Bに滞留する接着剤Bを利用して、接着外周面20Aと内周面36Aの接着を良好に行うことができる。
【0037】
また、本実施形態では、凹溝21を1本のみ構成したが、図6に示すように、2本目の凹溝21Aを構成しても、3本以上の凹溝を構成してもよい。
【0038】
また、本実施形態では、防振本体12側に構成された外角部26とストッパ部材30側に構成された内角部37とを係合させて位置決めを行うので、より正確に位置決めを行うことができる。
【0039】
また、本実施形態では、防振本体12とストッパ部材30との組み付けの際に、防振本体12側の接着外周面20Aに接着剤Bを塗布したが、ストッパ部材30の内周面36Aに接着剤を塗布してもよい。特に、接着外周面20Aに接着剤Bを塗布することにより、内周面36Aに塗布する場合と比較して、塗布作業を簡単に行うことができる。
【0040】
また、図7に示すように、本実施形態の延出ゴム部20の外周で内周凹溝36Bに対応する部分に、溝20Bを構成してもよい。このように、溝20Bを構成することにより、接着剤が溝20Bにも入り込み、接着剤が固まった後にストッパ部材30と防振装置本体12との軸方向の相対移動が規制され、相互の接合を強固にすることができる。なお、溝20Bの深さは、0.1mm〜1.0mm程度、特に、0.2mm〜0.3mm程度が好ましい。
【0041】
また、本実施形態では、防振装置本体12が円筒状で、内筒部材16についても円筒状の場合を例に説明したが、角筒状、角柱状の内筒と、これに外挿される形状のストッパ部材に適用しても、同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0042】
10 防振装置
12 防振本体
14 外筒部材
16 内筒部材
18 ゴム弾性体
20 延出ゴム部
20A 接着外周面
21 凹溝
24A 当接受面
24 位置決め部
30 ストッパ部材
32 緩衝部
34 取付部
35 外周部
S 軸方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動発生部および振動受部の一方に連結される外筒部材と、
前記外筒部材の内周側に配置されると共に振動発生部および振動受部の他方に連結される内筒部材と、
前記外筒部材の内周面と前記内筒部材の外周面との間に配置され、前記外筒部材と前記内筒部材とを弾性的に連結する弾性体と、
前記内筒部材に外挿されて前記弾性体の軸方向外側に配置され、内周面が前記内筒部材の外周側に構成される接着外周面に接着剤により接着される取付部と、該取付部から前記外筒部材の径方向外側まで延出される緩衝部と、を有する、ストッパ部材と、
前記弾性体の前記軸方向の外側に突出されると共に前記内筒部材の外周に前記弾性体と一体的に形成されて前記取付部が前記軸方向に当接される当接受面を有する位置決め部と、
前記位置決め部よりも前記軸方向外側に延出され且つ前記位置決め部よりも小径とされ、前記弾性体と一体的に形成されて前記接着外周面を構成し、前記接着外周面に周方向に沿った凹溝が構成された延出部と、
を備えた、防振装置。
【請求項2】
前記取付部の内周面には、周方向に内周凹溝が構成されていること、を特徴とする請求項1に記載の防振装置。
【請求項3】
前記凹溝は、前記延出部の軸方向内側に構成されていること、を特徴とする請求項1または請求項2に記載の防振装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の防振装置の製造方法であって、
前記接着外周面に接着剤を塗布し、
前記取付部を前記内筒部材に外挿して、前記取付部の内周面と前記接着外周面とを接着材で接着させて前記ストッパ部材を前記内筒部材に取り付ける、防振装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−172721(P2012−172721A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33283(P2011−33283)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】