説明

防振装置及びその製造方法

【課題】部品点数の増加を抑えながら、左右方向及び前後方向でのストッパ機能を発揮する防振装置を提供する。
【解決手段】下側取付プレート12には、本体ゴム16を挟んだ両側においてそれぞれ上方に向かって折曲形成された左右一対の内側ストッパ部34を設ける。上側取付プレート14には、本体ゴム16が加硫接着されたベース板部40の左右両側縁部から下方に向かって折曲形成した左右一対の第1外側ストッパ部42を設けるとともに、ベース板部40の前後両側縁部から下方に向かって第1外側ストッパ部42とは別に折曲形成した前後の第2外側ストッパ部44を設ける。第2外側ストッパ部44は、本体ゴム16の加硫後に上側取付プレート14の前後両側の延設部分52を折曲することで形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防振装置、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車エンジン等の振動源の振動を車体側に伝達しないように支承するエンジンマウント等の防振装置として、上下に対向配置された第1取付プレートと第2取付プレートとに対して、これら両取付プレートの間に介装されたブロック状の本体ゴムを加硫接着して、第1取付プレートと第2取付プレートを連結一体化したものが知られている。
【0003】
このような防振装置においては、エンジン等の振動源の揺動による両取付プレート間での過大な相対変位を規制するために、ストッパ機能が組み込まれる。例えば、下記特許文献1には、上側取付プレートの左右両側縁部に下側取付プレート側に向けて折曲形成した左右一対の上側ストッパ部を設けるとともに、下側取付プレートの左右両側縁部に上側取付プレート側に向けて折曲形成した左右一対の下側ストッパ部を設け、所定距離を隔てて両者を対向配置させることにより、左右方向におけるストッパが構成されている。しかしながら、この場合、前後方向でのストッパ機能がないため、前後方向での変位量が大きくなって、防振装置の耐久性の低下を招くことがある。
【0004】
そのため、左右方向だけでなく前後方向でもストッパ機能を発揮させるために、例えば、下記特許文献2では、本体ゴムに加硫接着された上側取付プレートに対して上側から重ね合わせるように別体のストッパプレートを設けて、下側取付プレートに設けられた左右一対のストッパ部を、ストッパプレートに一体に設けた枠状のストッパ部で全周にわたって取り囲むことにより、全周ストッパを構成している。また、下記特許文献3では、上側取付プレートに左右一対のストッパ部を折曲形成した上で、該一対のストッパ部の各前後両端部にストッパボルトを架設することにより、全周ストッパを構成している。しかしながら、これらの従来技術では、全周ストッパを構成するために、ストッパプレートやストッパボルトなどの別部品を必要とするため、部品点数が多く、コストや重量の増加につながる。
【0005】
また、下記特許文献4には、上側取付プレートの左右両側端部に形成されている点対称の隅角部を挟んだL字形のストッパ部を下側取付プレート側に向けて形成することにより、左右方向におけるストッパ機能と前後方向におけるストッパ機能を発揮するようにした点が開示されている。このように特許文献4の構成では、前後方向における変位規制も可能であるが、上側取付プレートがL字形のストッパ部を有するため、本体ゴムを加硫成形するための加硫型の構造が複雑となり、また、加硫型の型抜きの制約を受けるため本体ゴムの形状が大型化しやすいという問題がある。
【0006】
なお、下記特許文献5には、上側取付プレートに設けられた左右一対のストッパ部を補強するために、該ストッパ部のリングを圧入密嵌することが開示されている。しかしながら、このリングは前後方向のストッパ機能を発揮するものではなく、またリングを設けることで部品点数が多くなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−273156号公報
【特許文献2】特開2009−008251号公報
【特許文献3】実開平03−017339号公報
【特許文献4】実開平03−017338号公報
【特許文献5】実開昭60−037639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上の点に鑑み、部品点数の増加を抑えながら、左右方向及び前後方向でのストッパ機能を発揮することができる防振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る防振装置は、上下に対向配置された第1取付プレート及び第2取付プレートと、前記第1取付プレートと前記第2取付プレートに加硫接着されて両取付プレート間に介装されたブロック状の本体ゴムと、を備え、前記第1取付プレートと前記第2取付プレートが前記本体ゴムを介して連結一体化されたものである。前記第1取付プレートは、前記本体ゴムを挟んだ両側においてそれぞれ前記第2取付プレート側に向かって折曲形成された左右一対の内側ストッパ部を有する。前記第2取付プレートは、前記本体ゴムが加硫接着されたベース板部と、該ベース板部の左右両側縁部から前記第1取付プレート側に向かってそれぞれ折曲形成されて前記左右一対の内側ストッパ部の各外側面に対向する左右一対の第1外側ストッパ部と、前記ベース板部の前後両側縁部から前記第1取付プレート側に向かって前記第1外側ストッパ部とは別にそれぞれ折曲形成されて前記左右一対の内側ストッパ部の前後両端部との間で前後方向のストッパ機能を発揮する前後の第2外側ストッパ部とを有する。
【0010】
本発明に係る防振装置の製造方法は、上記防振装置を製造するに際し、左右両側縁部に前記一対の内側ストッパ部が折曲形成された断面コの字状の第1取付プレートと、左右両側縁部に前記一対の第1外側ストッパ部が折曲形成された断面コの字状の第2取付プレートとを、互いのコの字の内側が向き合うように対向配置して、これら両取付プレートに対して加硫接着により前記ブロック状の本体ゴムを介装し、該本体ゴムの加硫後に、前記第2取付プレートの前後両側の延設部分を前記第1取付プレート側に向かってそれぞれ折曲して前記第2外側ストッパ部を形成する。
【0011】
本発明の好ましい態様において、前記第2外側ストッパ部は、前記ベース板部の前後両側縁部において、前記左右一対の内側ストッパ部に対応させて左右両端部に設けられた一対のストッパ本体部と、該一対のストッパ本体部の先端部同士を橋渡し状に連結する連結部とを備えてなるものであってもよい。
【0012】
また、本発明の好ましい態様において、前記前後の第2外側ストッパ部の左右両側縁部には、前記第1外側ストッパ部の外側において前後の第2外側ストッパ部から互いに近づく方向に延びる爪部がそれぞれ折曲形成され、これら爪部が前記第1外側ストッパ部の外側面に固定されてもよい。この場合、前記爪部の先端部が、前記第1外側ストッパ部の外側面に対して外側に逃げる形状に設けられてもよく、あるいはまた、前記第1外側ストッパ部の前後両側縁部が、前記爪部の内側面に対して内側に逃げる形状に設けられてもよい。また、前記爪部は、先端側ほど幅狭のV字状に形成されてもよい。前記爪部は、前記第1外側ストッパ部の外側面に対して溶接により固定されてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、本体ゴムが加硫接着された第2取付プレートに、左右一対の第1外側ストッパ部を設けるとともに、前後の第2外側ストッパ部を、該第1外側ストッパ部とは別に折曲形成して設けたので、部品点数の増加を抑えながら、左右方向及び前後方向でのストッパ機能を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施形態に係る防振装置の正面図である。
【図2】同防振装置の下面図である。
【図3】同防振装置を自動車に装着する際の配置状態を示す縦断面図(図2のIII−III線に相当する断面)である。
【図4】同防振装置についての加硫後で第2外側ストッパ部の折曲前の正面図である。
【図5】同防振装置についての加硫後で第2外側ストッパ部の折曲前の下面図である。
【図6】第2実施形態に係る防振装置の正面図である。
【図7】同防振装置の平面図である。
【図8】同防振装置の側面図である。
【図9】同防振装置についての加硫後で第2外側ストッパ部の折曲前の正面図である。
【図10】同防振装置についての加硫後で第2外側ストッパ部の折曲前の平面図である。
【図11】同防振装置についての第2外側ストッパ部の折曲後の側面図である。
【図12】第3実施形態に係る防振装置の側面図である。
【図13】同防振装置についての加硫後で第2外側ストッパ部の折曲前の側面図である。
【図14】同防振装置についての加硫後で第2外側ストッパ部の折曲前の平面図である。
【図15】第4実施形態に係る防振装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
(第1実施形態)
図1〜3は、第1実施形態に係る防振装置としてのエンジンマウント10を示したものである。エンジンマウント10は、図1の上下方向Zに所定の距離を隔てて対向配置された第1取付プレートとしての下側取付プレート12及び第2取付プレートとしての上側取付プレート14と、それらの間に介装された本体ゴム16とを備えてなる。ここで、説明の便宜上、特に断らない限り、上下方向Zと左右方向Yは、図1における上下方向と左右方向をいい、前後方向Xは、図1における紙面に垂直な方向をいう(図2参照)。
【0017】
本体ゴム16は、上下両端面18,20と左右両端面22,24と前後両端面26,28が直交三軸上でそれぞれ離隔位置せしめられた略矩形ブロック状をなすゴム弾性体であり、下側取付プレート12と上側取付プレート14とに対して加硫接着されている。すなわち、本体ゴム16の上端面18に上側取付プレート14が加硫接着され、下端面20に下側取付プレート12が加硫接着されている。これにより、下側取付プレート12と上側取付プレート14が本体ゴム16を介して連結一体化されている。この例では、図2に示すように、本体ゴム16は、左右方向Yにおける寸法が前後方向Xにおける寸法よりも大きな平面視長方形状をなしている。
【0018】
下側取付プレート12は、エンジンと車体のいずれか一方(この例では車体)に取り付けられる板状金具である。下側取付プレート12は、本体ゴム16の下端面20に加硫接着されたベース板部30と、該ベース板部30の前後両側縁部から前後方向Xに延設された前後一対の取付片部32,32と、ベース板部30の左右両側縁部から上側取付プレート14側に向かって折曲形成された左右一対の内側ストッパ部34,34とを備えてなる。
【0019】
図2に示されるように、下側取付プレート12のベース板部30は、本体ゴム16の下端面20に対応して前後方向Xよりも左右方向Yが細長い矩形状をなしている。取付片部32は、ベース板部30の前後両側縁部の略全体からそれぞれ前後に延設されており、先端部ほど幅狭の略三角形状をなして、その先端部にボルトによる取付孔36が設けられている。
【0020】
左右一対の内側ストッパ部34,34は、本体ゴム16を挟んだ両側において左右方向Yに相対向して設けられており、略矩形平板状をなしている。内側ストッパ部34は、ベース板部30の左右両側縁部の略全体からそれぞれ上方に折曲形成されており、ベース板部30に対して垂直に立設されている。図2に示すように、内側ストッパ部34は、この例では、前後方向Xの両端部34E,34Eに対して中央部34Cが左右方向Yの外側にわずかに膨らんだ平面視円弧状の壁部に形成されている。また、内側ストッパ部34には、補強のためのビード38が中央部34Cにおける根元部に形成されている。
【0021】
内側ストッパ部34には、ストッパゴム39が被覆形成されている。ストッパゴム39は、図2に示すように、内側ストッパ部34の全周、即ち、内側面、外側面、上面及び前後両端面を被覆するように設けられている。ストッパゴム39は、本体ゴム16と一体のゴム弾性体により形成することができる。
【0022】
上側取付プレート14は、エンジンと車体のいずれか他方(この例ではエンジン)に取り付けられる板状金具である。上側取付プレート14は、本体ゴム16の上端面18に加硫接着されたベース板部40と、該ベース板部40の左右両側縁部から下側取付プレート12側に向かって折曲形成された左右一対の第1外側ストッパ部42,42と、ベース板部40の前後両側縁部から第1外側ストッパ部42とは独立して下側取付プレート12側に向かってそれぞれ折曲形成された前後の第2外側ストッパ部44,44とを備えてなる。
【0023】
上側取付プレート14のベース板部40は、本体ゴム16の上端面18に対応して前後方向Xよりも左右方向Yが細長い矩形状をなしており、略中央部には、固定ボルト46が上方に向けて突出した状態に固設されている。ベース板部40には、また、円柱状をなす位置決め用の突起部48が上方に向けて突出した状態に設けられている。
【0024】
左右一対の第1外側ストッパ部42,42は、上記一対の内側ストッパ部34,34との間で左右方向Yでのストッパ機能を発揮するものであり、一対の内側ストッパ部34,34を挟んだ両側において左右方向Yに相対向して設けられている。すなわち、左右一対の第1外側ストッパ部42,42は、左右一対の内側ストッパ部34,34の各外側面(より詳細には、ストッパゴム39の外側面)に対して間隔を隔てて対向配置されている。第1外側ストッパ部42は、ベース板部40の左右両側縁部の略全体からそれぞれ下方に折曲形成されており、ベース板部40に対して垂直に立設された略矩形平板状をなしている。
【0025】
第2外側ストッパ部44は、内側ストッパ部34との間で前後方向Xでのストッパ機能を発揮するものであり、左右一対の内側ストッパ部34,34の前後両端部34E,34E(より詳細には、ストッパゴム39の前後両端面)に対してそれぞれ前後方向Xに所定のストッパクリアランスが確保されるように離間した状態に対向配置されている。第2外側ストッパ部44は、ベース板部40の前後両側縁部から下方に向けて、第1外側ストッパ部42とは別に折曲形成されている。従って、第1外側ストッパ部42とベース板部40との折曲部53と、第2外側ストッパ部44とベース板部40との折曲部54とが、矩形状をなすベース板部40の各隅部において分断されている。より詳細には、この例では、第2外側ストッパ部44は、その全体が第1外側ストッパ部42とは独立して設けられており、そのため、第1外側ストッパ部42と第2外側ストッパ部44は、その全体がベース板部40の各隅部において分断して設けられている。第2外側ストッパ部44は、ベース板部40に対して垂直に立設された平板状をなしている。
【0026】
第2外側ストッパ部44は、ベース板部40の前後両側縁部の全体からそれぞれ下方に折曲させて設けることもできるが、この例では、ベース板部40の前後両側縁部において、左右一対の内側ストッパ部34,34に対応させて左右両端部に各一対のストッパ本体部45,45を設けて構成している。第2外側ストッパ部44は、内側ストッパ部34との間で前後方向Xのストッパ機能を発揮するものであるため、内側ストッパ部34と当接する範囲内で設けておけば十分である。そのため、第2外側ストッパ部44をベース板部40の前後両側縁部における左右両端部に限定して折曲形成した構成とすることにより、第2外側ストッパ部44を折曲形成する際の曲げ加工を容易にすることができる。
【0027】
一方で、上記左右両端部のストッパ本体部45,45をそのまま独立させて設けたのでは剛性を確保することが難しいので、本実施形態では、図1に示されるように、左右一対のストッパ本体部45,45は、連結部50によって、先端部同士が橋渡し状に連結されている。連結部50は、左右のストッパ本体部45,45の下端部同士を連結するように左右方向Yに延びる帯状の平板部であり、ストッパ本体部45から一体に延設されている。
【0028】
本実施形態のエンジンマウント10を製造する際には、図4,5に示すように、左右両側縁部に上記一対の内側ストッパ部34,34が折曲形成された断面コの字状の下側取付プレート12と、左右両側縁部に上記一対の第1外側ストッパ部42,42が折曲形成された断面コの字状の上側取付プレート14とを、互いのコの字の内側が向き合うように対向配置して、これら両取付プレート12,14に対して加硫接着により本体ゴム16を介装する。すなわち、本体ゴム16の加硫成形時には、上側取付プレート14には第2外側ストッパ部44を設けておらず、図5に示すように、上側取付プレート14の前後両側には、第2外側ストッパ部44を折曲形成する前の状態の平らな延設部分52が形成されている。この状態で、下側取付プレート12と上側取付プレート14を加硫成形型にセットし、加硫成形型内で本体ゴム16とストッパゴム39を加硫成形する。加硫成形型における型割位置は、図5において鎖線Lで示す位置に設定することができ、前後方向Xにて互いに離間する方向に型抜きすることができる。これにより、図4,5に示す加硫成形品が得られる。
【0029】
次いで、得られた加硫成形品に曲げ加工を行う。すなわち、加硫成形品に対し、上側取付プレート14の前後両側の延設部分52を下側取付プレート12側に向かってそれぞれ折曲して第2外側ストッパ部44を形成する。この際、上記のように第2外側ストッパ部44は、左右のストッパ本体部45,45を連結部50によって連結した形状となっており、曲げ加工を行う折曲部54はベース板部40の前後両側縁部における左右両端部のみとなっている。この折曲部54は、図5に示す平面視において下側取付プレート12と重ならない場所に設定されている。そのため、上側取付プレート14に対して本体ゴム16との接着面側から押さえ治具で折曲部54近傍を押さえて曲げ加工を行う際に、下側取付プレート12が邪魔にならず、曲げ加工を行い易い。かかる曲げ加工を行うことで図1,2に示すエンジンマウント10が得られる。
【0030】
以上よりなる本実施形態のエンジンマウント10は、エンジンと車体との間において図3に示すように斜めに傾けられた状態で、下側取付プレート12が不図示のボルトで取付片部32を固定することにより車体1に取り付けられ、上側取付プレート14が固定ボルト46によりエンジンに締結固定されることで、自動車に装着される。詳細には、上記前後方向Xを車両前後方向に向け、上記左右方向Yを車両幅方向において水平面から所定角度θ傾斜した状態に組み付けられる。図3は、エンジンの荷重が入力前の状態を示したものであり、荷重入力により、上側取付プレート14が図3において斜め下方に変位する。これにより、左右の第1外側ストッパ部42,42とこれに対向する各内側ストッパ部34,34との間にそれぞれ所定のストッパクリアランスが確保される。
【0031】
上記エンジンマウント10によれば、車両上下方向ないし幅方向でのエンジンの振動が一定以上となったときには、下側取付プレート12の内側ストッパ部34と、上側取付プレート14の第1外側ストッパ部42とが、ストッパゴム39を介して当接することにより、当該方向における下側取付プレート12と上側取付プレート14との過剰な相対変位が制限される。また、車両前後方向でのエンジンの振動が一定以上となったときには、下側取付プレート12の内側ストッパ部34の前後両端部34Eと、上側取付プレート14の第2外側ストッパ部44とが、ストッパゴム39を介して当接することにより、車両前後方向における下側取付プレート12と上側取付プレート14との過剰な相対変位が制限される。よって、全周でのストッパ機能を実現することができる。
【0032】
そして、本実施形態によれば、本体ゴム16が加硫接着された上側取付プレート14に、左右の第1外側ストッパ部42とは別に前後の第2外側ストッパ部44を折曲形成したので、部品点数の増加を抑えながら、また加硫成形性を損なうことなく、全周でのストッパ機能を持たせることができる。詳細には、前後の第2外側ストッパ部44を左右の第1外側ストッパ部42と独立させて設けたことにより、本体ゴム16の加硫成形に際し、第1外側ストッパ部42のみを予め折曲形成しておき、第2外側ストッパ部44が存在しない状態で加硫成形を行うことが可能となる。このように本体ゴム16の加硫時に、前後の第2外側ストッパ部44が存在しないことにより、加硫成形型の型抜き構成が複雑化することもないので、加硫成形性は損なわれない。そして、加硫後の曲げ加工により前後の第2外側ストッパ部44を形成することで、予め形成しておいた左右の第1外側ストッパ部42とともに全周ストッパ機能を持たせることができる。以上より、別体のストッパ金具を設けていた従来品に対して、部品点数、コスト及び質量の低減を図りつつ、全周でのストッパ機能を実現することができる。
【0033】
また、本実施形態によれば、加硫後の曲げ加工における加工性を考慮して左右両端部に分割した第2外側ストッパ部44を、連結部50により橋渡し状に連結したので、第2外側ストッパ部44の剛性向上を図ることができる。従って、後曲げ加工における加工性を確保しつつ、第2外側ストッパ部44の剛性向上による耐久性の向上が図られる。
【0034】
(第2実施形態)
図6〜11は、第2実施形態に係る防振装置としてのエンジンマウント10Aに関するものである。この例では、第2外側ストッパ部44の左右両側縁部に爪部60を設けた点が上述した第1実施形態とは異なる。
【0035】
すなわち、第2実施形態では、上記第1実施形態に係るエンジンマウント10において、前後一対の第2外側ストッパ部44,44の左右両側縁部に爪部60を追加している。図6〜8に示すように、爪部60は、第1外側ストッパ部42の外側において、前後の第2外側ストッパ部44,44から互いに近づく方向(前後方向X)に延びており、第2外側ストッパ部44の側縁部から垂直に折曲形成されている。爪部60は、前後の外側ストッパ部44,44の左右両側縁部にそれぞれ設けられており、合計で4個形成されている。図8に示すように、爪部60は、この例では細長い矩形板状をなしている。
【0036】
爪部60は、第1外側ストッパ部42の外側面に重なるように当該外側面に沿って延設されており、図8に示すように溶接62によって上記外側面に固定されている。より詳細には、前後の第2外側ストッパ部44,44から延びる前後の爪部60,60を突き合わせた状態で、各爪部60,60が第1外側ストッパ部42の外側面に固定されている。溶接62は、図8に示すように、各爪部60において、その上辺部と下辺部に沿ってそれぞれ施されている。このように、本実施形態では、爪部60を介して第2外側ストッパ部44が第1外側ストッパ部42に連結されているため、第1外側ストッパ部42と第2外側ストッパ部44は完全には独立していない。しかしながら、両者は別々に折曲形成されており、そのため、第1外側ストッパ部42とベース板部40との折曲部53と、第2外側ストッパ部44とベース板部40との折曲部54とは、矩形状をなすベース板部40の各隅部において分断されており、この点で第1実施形態と共通する。
【0037】
図7に示すように、爪部60の先端部は、第1外側ストッパ部42の外側面に対して外側に傾斜して逃げる形状となっており、これにより当該先端部が圧入ガイド64として形成されている。
【0038】
本実施形態のエンジンマウント10Aを製造する際には、図9,10に示すように、第2外側ストッパ部44を形成する上側取付プレート14の延設部分52に予め爪部60を折曲形成しておく。すなわち、延設部分52における左右両側縁部に爪部60を折曲形成しておく。爪部60は、第1外側ストッパ部42と同様に、下方、即ち下側取付プレート12側に向けて垂直に折曲形成されており、その先端部が図9に示すように外向きに傾斜状に曲げられて圧入ガイド64が形成されている。このような上側取付プレート14を用いて、第1実施形態と同様に、下側取付プレート12とともに加硫成形型にセットし、加硫成形型内で本体ゴム16とストッパゴム39を加硫成形する。これにより得られた図9,10に示す加硫成形品に対し、上側取付プレート14の前後両側の延設部分52を下側取付プレート12側に向かってそれぞれ折曲して第2外側ストッパ部44を形成する。
【0039】
その際、図11に示すように、延設部分52の曲げ動作に伴って、前後の爪部60,60が互いに近づく方向に変位し、第1外側ストッパ部42の外側面に重なるようになる。このとき、本実施形態であると、爪部60の先端部に圧入ガイド64が設けられているので、第2外側ストッパ部44の曲げ加工を可能にしながら、爪部60での溶接強度を確保することができる。
【0040】
すなわち、上記曲げ加工と溶接強度の両立には、爪部60の内側面と第1外側ストッパ部42の外側面との位置関係が影響する。爪部60の内側面と第1外側ストッパ部42の外側面との隙間が大きすぎると、曲げ加工には支障はないが、溶接強度が十分に確保できなくなる。逆に、爪部60の内側面が第1外側ストッパ部42の外側面よりも内側に位置すると、爪部60が邪魔になって延設部分52の曲げ加工ができなくなってしまう。そのため、両者の位置関係は、爪部60の内側面が第1外側ストッパ部42の外側面よりも内側に位置しない範囲内でできるだけ隙間なく設定されていることが好ましい。しかしながら、これらの寸法には公差があるので、公差を加味して両者の位置関係を設定することが求められる。そこで、本実施形態では、図10に示すように、上側取付プレート14の幅方向中心から爪部60の内側面までの寸法をA±a(公差:2a)とし、該幅方向中心から第1外側ストッパ部42の外側面までの寸法をB±b(公差:2b)としたとき、両者の差が最も大きくなる場合「(A+a)−(B−b)」でも、溶接可能な隙間(例えば0.5mm)となるように設定しており、これにより溶接強度を確保する。一方、このように設定すると、爪部60の内側面が最も内側に位置する場合に、(A−a)<(B+b)なる状態が想定されるが、この場合でも、圧入ガイド64を設けたことにより、爪部60を第1外側ストッパ部42の外側面に圧入することが可能となり、そのため、第2外側ストッパ部44の曲げ加工を行うことができる。よって、曲げ加工と溶接強度の確保が両立可能となる。
【0041】
上記のように延設部分52を折曲して第2外側ストッパ部44を形成した後、爪部60を第1外側ストッパ部42の外側面に溶接62して固定する。これにより、図6〜8に示すエンジンマウント10Aが得られる。
【0042】
このエンジンマウント10Aであると、後曲げにより形成した前後の第2外側ストッパ部44,44が爪部60を介して左右の第1外側ストッパ部42,42により補強されるので、前後の第2外側ストッパ部44,44の剛性を大幅に向上することができる。また、左右の第1外側ストッパ部42,42についても、その外側から前後の第2外側ストッパ部44,44の爪部60,60によって抱えられるように支持されるので、剛性が向上する。特に、加硫成形前に折曲形成しておく第1外側ストッパ部42については、図6,7に示すように、その付け根部に補強用のビード66を設けておくことができるが、後曲げにより形成される第2外側ストッパ部44には、ビードによる補強を設けることが困難な場合がある。このような場合でも、上記爪部60による補強構成を採用することで、第2外側ストッパ部44の剛性を向上することができ、有益である。このようにストッパ部42,44の剛性が向上するので、剛性向上のために上側取付プレート14の板厚を大きくする必要がなく、該板厚を薄く設定して軽量化を行うことが可能となる。しかも、これらの補強は部品点数を増やすことなく実現できるので、コスト増加を防ぐことができる。
【0043】
第2実施形態について、その他の構成および作用効果については第1実施形態と同様であり、同じ構成要素には同じ符号を付して説明は省略する。
【0044】
(第3実施形態)
図12〜14は、第3実施形態に係る防振装置としてのエンジンマウント10Bに関するものである。この例では、爪部60を第1外側ストッパ部42の外側面に圧入するための圧入ガイドの構成が上記第2実施形態とは異なる。
【0045】
すなわち、第3実施形態では、爪部60の先端部に圧入ガイドを設ける代わりに、第1外側ストッパ部42の前後両側縁部に圧入ガイド68を設けている。詳細には、第1外側ストッパ部42の前後両側縁部は、爪部60の内側面に対して内側に傾斜して逃げる形状となっており、これにより該側縁部が圧入ガイド68として形成されている。
【0046】
このように圧入ガイド68を第1外側ストッパ部42側に設けた場合でも、第2外側ストッパ部44を折曲形成する際に、延設部分52の曲げ動作に伴って、前後の爪部60,60が第1外側ストッパ部42の外側面に重なるように変位するときに、圧入ガイド68によって、爪部60の先端部を第1外側ストッパ部42の外側面に案内することができる。そのため、第2外側ストッパ部44の曲げ加工と、爪部60での溶接強度の確保を両立することができる。
【0047】
第3実施形態について、その他の構成および作用効果については第2実施形態と同様であり、同じ構成要素には同じ符号を付して説明は省略する。
【0048】
(第4実施形態)
図15は、第4実施形態に係る防振装置としてのエンジンマウント10Cに関するものである。この例では、爪部60の形状が上記第3実施形態とは異なる。
【0049】
すなわち、第4実施形態では、爪部60が、上記実施形態のような矩形状ではなく、先端側ほど幅狭のV字状(三角形状)に形成されている。詳細には、第1外側ストッパ部42の外側面において突き合わせた状態で固定される前後の爪部60,60は、一方の爪部の上辺(例えば、右側の爪部の上辺60A)と他方の爪部の下辺(例えば、左側の爪部の下辺60B)が一直線上に設けられている。これにより、爪部60の各辺に沿ってV字状に形成された溶接62は、全体としてX字状に形成されている。
【0050】
本実施形態によれば、爪部60をV字状に形成したので、各爪部60において、2本の溶接62のみで爪部60の全周を溶接することができる。すなわち、図12に示す矩形状の爪部60では、その全周を溶接するためには3本の溶接62が必要であるが、爪部60をV字状にすることで2本で全周溶接が可能となり、より短い溶接長で全周溶接を行うことができる。そのため、溶接長を抑えながら、全周溶接することにより溶接強度を上げることができる。また、上記のように、相対する爪部60,60において、一方側の上辺と他方側の下辺が一直線上になるように設定することにより、相対する爪部60,60間においても、一直線上に連続して溶接することができ、溶接工程を簡略化することで、コスト低減を図ることができる。
【0051】
第4実施形態について、その他の構成および作用効果については第3実施形態と同様であり、説明は省略する。
【0052】
(その他の実施形態)
上記実施形態では、上側取付プレート14を第2取付プレートとして該上側取付プレート14に後曲げ加工を行う第2外側ストッパ部44を設けたが、本発明は、これに限定されず、上側取付プレートを第1取付プレートとして内側ストッパを設け、下側取付プレートを第2取付プレートとして第1外側ストッパ部及び第2外側ストッパ部を設けてもよい。また、下側取付プレート12、上側取付プレート14及び本体ゴム16についての上述した各形状は好ましい一例を示したものにすぎない。また、第2〜4実施形態において爪部60を第1外側ストッパ部42の外側面に固定する方法としては、溶接には限定されず、例えばメカニカルクリンチなどの他の接合方法を採用してもよい。その他、一々列挙しないが、本発明の趣旨を逸脱しない限り、種々の変更が可能である。なお、本発明における上下、左右及び前後の各方向は、防振装置単体としての方向であり、車両への搭載状態での方向はこれにより限定されるものではない。
【符号の説明】
【0053】
10…エンジンマウント 12…下側取付プレート(第1取付プレート)
14…上側取付プレート(第2取付プレート) 16…本体ゴム
34…内側ストッパ部 34E…前後の端部
40…ベース板部 42…第1外側ストッパ部
44…第2外側ストッパ部 45…ストッパ本体部 50…連結部
52…延設部分 60…爪部 62…溶接
64、68…圧入ガイド X…前後方向 Y…左右方向
Z…上下方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下に対向配置された第1取付プレート及び第2取付プレートと、前記第1取付プレートと前記第2取付プレートに加硫接着されて両取付プレート間に介装されたブロック状の本体ゴムと、を備え、前記第1取付プレートと前記第2取付プレートが前記本体ゴムを介して連結一体化された防振装置において、
前記第1取付プレートは、前記本体ゴムを挟んだ両側においてそれぞれ前記第2取付プレート側に向かって折曲形成された左右一対の内側ストッパ部を有し、
前記第2取付プレートは、前記本体ゴムが加硫接着されたベース板部と、該ベース板部の左右両側縁部から前記第1取付プレート側に向かってそれぞれ折曲形成されて前記左右一対の内側ストッパ部の各外側面に対向する左右一対の第1外側ストッパ部と、前記ベース板部の前後両側縁部から前記第1取付プレート側に向かって前記第1外側ストッパ部とは別にそれぞれ折曲形成されて前記左右一対の内側ストッパ部の前後両端部との間で前後方向のストッパ機能を発揮する前後の第2外側ストッパ部とを有する
ことを特徴とする防振装置。
【請求項2】
前記第2外側ストッパ部が、前記本体ゴムの加硫後に、前記第2取付プレートの前後両側の延設部分を前記第1取付プレート側に向かって折曲することで形成されたものであることを特徴とする請求項1記載の防振装置。
【請求項3】
前記第2外側ストッパ部は、前記ベース板部の前後両側縁部において、前記左右一対の内側ストッパ部に対応させて左右両端部に設けられた一対のストッパ本体部と、該一対のストッパ本体部の先端部同士を橋渡し状に連結する連結部とを備えてなることを特徴とする請求項1又は2記載の防振装置。
【請求項4】
前記前後の第2外側ストッパ部の左右両側縁部には、前記第1外側ストッパ部の外側において前後の第2外側ストッパ部から互いに近づく方向に延びる爪部がそれぞれ折曲形成され、これら爪部が前記第1外側ストッパ部の外側面に固定されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の防振装置。
【請求項5】
前記爪部の先端部が、前記第1外側ストッパ部の外側面に対して外側に逃げる形状に設けられたことを特徴とする請求項4記載の防振装置。
【請求項6】
前記第1外側ストッパ部の前後両側縁部が、前記爪部の内側面に対して内側に逃げる形状に設けられたことを特徴とする請求項4記載の防振装置。
【請求項7】
前記爪部が先端側ほど幅狭のV字状に形成されたことを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載の防振装置。
【請求項8】
前記爪部が前記第1外側ストッパ部の外側面に対して溶接により固定されたことを特徴とする請求項4〜7のいずれか1項に記載の防振装置。
【請求項9】
前記第2外側ストッパ部が、前記第1外側ストッパ部とは独立して設けられたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の防振装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の防振装置の製造方法であって、
左右両側縁部に前記一対の内側ストッパ部が折曲形成された断面コの字状の第1取付プレートと、左右両側縁部に前記一対の第1外側ストッパ部が折曲形成された断面コの字状の第2取付プレートとを、互いのコの字の内側が向き合うように対向配置して、これら両取付プレートに対して加硫接着により前記ブロック状の本体ゴムを介装し、該本体ゴムの加硫後に、前記第2取付プレートの前後両側の延設部分を前記第1取付プレート側に向かってそれぞれ折曲して前記第2外側ストッパ部を形成する
ことを特徴とする防振装置の製造方法。
【請求項11】
前記第2取付プレートの前記延設部分における左右両側縁部に爪部を折曲形成しておいて、前記延設部分を折曲して前記第2外側ストッパ部を形成した後、前記爪部を前記第1外側ストッパ部の外側面に固定することを特徴とする請求項10記載の防振装置の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2012−145218(P2012−145218A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183018(P2011−183018)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】