説明

防振装置及びその製造方法

【課題】ストッパーをゴム弾性体と一体に成形することなく、ストッパーが防振装置から脱落するのを抑制する。
【解決手段】サイドストッパー13は、内筒体10から軸直交方向外側に延長していて、筒軸直交方向内側端部に内筒体10が挿通される挿通孔13aが形成され、且つ、この挿通孔13aの周縁部13cにおける筒軸方向外側端面に凹部13dが形成されているとともに、内筒体10に接着剤で接着されている。この接着剤は、内筒体10とサイドストッパー13との間における少なくとも凹部13dに対応する部分に介在している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内筒体とゴム弾性体とを有する防振装置本体と、内部に該防振装置本体が固定された固定部材と、上記内筒体の軸方向端部に外嵌され、該内筒体及び該固定部材の筒軸方向の相対移動を規制するためのゴム製のストッパーとを備えている防振装置及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の防振装置としては自動車のエンジンマウントが従来から良く知られている(例えば特許文献1を参照)。この特許文献1に示すエンジンマウントは、例えば、自動車のパワープラントと車体との間に介在されて、そのパワープラントの荷重を支持するとともに、当該パワープラントからの振動を吸収し或いは減衰させて、車体への振動伝達を抑制するためのものである。特許文献1のエンジンマウントは、内筒体と外筒体とがゴム弾性体により連結されてなるマウント本体と、内部にそのマウント本体が圧入された筒状金具と、内筒体の軸方向両端部に外嵌され、両筒体の軸方向の相対移動を規制するためのゴム製のストッパーとを備えている所謂液体封入式のものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−74573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のものでは、作業者がエンジンマウントをストッパーを摘んで持ち上げると、ストッパーがエンジンマウントから脱落するという課題がある。この課題を解決するため、ストッパーをゴム弾性体と一体に成形することが考えられるが、マウント本体を成形する成形型の構造が複雑となるとともに、その大型化や取数の減少も招き、さらに、ストッパーとゴム弾性体のゴム硬度が同一となるため、防振特性のチューニングの自由度が悪化する。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、ストッパーをゴム弾性体と一体に成形することなく、ストッパーが防振装置から脱落するのを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明は、内筒体とゴム弾性体とを有する防振装置本体と、内部に該防振装置本体が固定された固定部材と、上記内筒体の軸方向端部に外嵌され、該内筒体及び該固定部材の筒軸方向の相対移動を規制するためのゴム製のストッパーとを備えている防振装置を対象とし、次のような解決手段を講じた。
【0007】
すなわち、第1の発明は、上記ストッパーは、上記内筒体から軸直交方向外側に延長していて、筒軸直交方向内側端部に該内筒体が挿通される挿通孔が形成され、且つ、該挿通孔の周縁部における筒軸方向外側端面に凹部が形成されているとともに、上記内筒体に接着剤で接着されており、上記接着剤は、上記内筒体と上記ストッパーとの間における少なくとも上記凹部に対応する部分に介在していることを特徴とするものである。
【0008】
これによれば、ストッパーを内筒体の軸方向端部に接着剤で接着しているため、ストッパーをゴム弾性体と一体に成形することなく、ストッパーが防振装置から脱落するのを抑制することができる。
【0009】
また、ストッパーの挿通孔の周縁部における筒軸方向外側端面に凹部を形成しているため、この凹部に内筒体とサイドストッパーとの間から漏出した接着剤を溜めることができ、その漏出した接着剤が至る所に流出するのを抑制することができる。
【0010】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記ストッパーは、上記内筒体の上下方向に延びる中心線に対して上記防振装置の重心とは反対側に且つ上下方向一方側に延長しており、上記凹部は、上記内筒体の中心軸を通って上記ストッパーの延長方向に延びる直線に対して上記防振装置の重心と同じ側に形成されていることを特徴とするものである。
【0011】
これによれば、ストッパーを内筒体の上下方向に延びる中心線に対して防振装置の重心とは反対側に且つ上下方向一方側に延長させており、凹部を内筒体の中心軸を通ってストッパーの延長方向に延びる直線に対して防振装置の重心と同じ側に形成しているため、作業者が防振装置をストッパーを摘んで持ち上げると、ストッパーにおける凹部の形成部分が防振装置の支持部となり、荷重がストッパーにおける凹部の形成部分に集中する。
【0012】
ここで、本発明によれば、接着剤を内筒体とストッパーとの間における凹部に対応する部分に介在させているため、接着剤を、内筒体とストッパーとの間における上記荷重が集中する部分に介在させることができ、その部分に荷重が集中するにも拘わらず、ストッパーが防振装置から脱落するのを抑制することができる。
【0013】
尚、本発明における内筒体の上下方向とは、防振装置を内筒体の軸線が水平方向(例えば車両前後方向)を向くように配置した際の内筒体の上下方向である。
【0014】
第3の発明は、上記第1又は2の発明において、上記接着剤は、上記内筒体と上記ストッパーとの間における上記凹部に対応する部分及び該部分の周方向両側部分にのみ介在していることを特徴とするものである。
【0015】
これによれば、接着剤を内筒体とストッパーとの間における凹部に対応する部分及びこの部分の周方向両側部分にのみ介在させているため、その全周に亘って介在させている場合と比較して、接着剤量を減少させることができる。
【0016】
また、上記第2の発明においては、接着剤を内筒体とストッパーとの間における凹部に対応する部分及びこの部分の周方向両側部分に介在させているため、接着剤を内筒体とストッパーとの間における作業者が防振装置をストッパーを摘んで持ち上げた際に荷重が集中する部分及びこの部分の周方向両側部分に介在させることができ、ストッパーが防振装置から脱落するのを確実に抑制することができる。
【0017】
第4の発明は、上記第1〜3のいずれか1つの発明において、上記凹部の底面は、筒軸直交方向外側から内側に行くに従って筒軸方向内側に傾斜していることを特徴とするものである。
【0018】
これによれば、凹部の底面は、筒軸直交方向外側から内側に行くに従って筒軸方向内側に傾斜しているため、ストッパーの筒軸方向外側端面を上側に向けた状態にすると、凹部に溜まった接着剤の一部をその底面を流して内筒体とサイドストッパーとの間に戻すことができる。
【0019】
また、別の発明は、上記第1〜4のいずれか1つの発明に係る防振装置の製造方法を対象とし、次のような解決手段を講じた。
【0020】
すなわち、第5の発明は、上記防振装置本体を上記固定部材の内部に固定する固定ステップと、上記ストッパーを上記内筒体の軸方向端部に外嵌する外嵌ステップと、上記ストッパーの筒軸方向外側端面を押圧することにより、上記内筒体と上記ストッパーとの間における少なくとも上記凹部に対応する部分に隙間を空ける押圧ステップと、上記ストッパーへの押圧状態を維持したまま、接着剤を上記隙間に供給する供給ステップと、上記ストッパーへの押圧状態を解除する解除ステップとを備えていることを特徴とするものである。
【0021】
これによれば、上記第1〜4のいずれか1つの発明と同様の効果が得られる。
【0022】
また、ストッパーはゴム製のものであるため、解除ステップにおいて、ストッパーへの押圧状態を解除すると再び元の状態に回復し、内筒体とストッパーとが密着し、内筒体とストッパーとの間の接着剤が加圧され、その接着性を向上させることができる。
【0023】
第6の発明は、上記第5の発明において、上記押圧ステップでは、上記凹部の筒軸直交方向外側部分を押圧することを特徴とするものである。
【0024】
これによれば、押圧ステップにおいて、ストッパーにおける凹部の筒軸直交方向外側部分の筒軸方向外側端面を押圧するため、内筒体とストッパーとの間における凹部に対応する部分に確実に隙間を空けることができる。
【0025】
第7の発明は、上記第5又は6の発明において、上記押圧ステップでは、上記内筒体と上記ストッパーとの間における上記凹部に対応する部分及び該部分の周方向両側部分に隙間を空けることを特徴とするものである。
【0026】
これによれば、押圧ステップにおいて、内筒体とストッパーとの間における凹部に対応する部分及びこの部分の周方向両側部分に隙間を空けるため、上記第3の発明において、接着剤を内筒体とストッパーとの間における凹部に対応する部分及びこの部分の周方向両側部分に確実に介在させることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、ストッパーを内筒体の軸方向端部に接着剤で接着しているため、ストッパーをゴム弾性体と一体に成形することなく、ストッパーが防振装置から脱落するのを抑制することができ、また、ストッパーの挿通孔の周縁部における筒軸方向外側端面に凹部を形成しているため、この凹部に内筒体とサイドストッパーとの間から漏出した接着剤を溜めることができ、その漏出した接着剤が至る所に流出するのを抑制することができる。
【0028】
また、別の発明によれば、ストッパーはゴム製のものであるため、解除ステップにおいて、ストッパーへの押圧状態を解除すると再び元の状態に回復し、内筒体とストッパーとが密着し、内筒体とストッパーとの間の接着剤が加圧され、その接着性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態に係るエンジンマウントを示す斜視図である。
【図2】エンジンマウントを示す正面図である。
【図3】図2のIII−III線矢視断面模式図である。
【図4】図2のIV−IV線矢視断面模式図である。
【図5】サイドストッパーを示す正面図である。
【図6】エンジンマウントの製造工程の一部を示す図4相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0031】
図1は、本発明の実施形態に係るエンジンマウントを示す斜視図、図2は、エンジンマウントを示す正面図、図3は、図2のIII−III線矢視断面模式図、図4は、図2のIV−IV線矢視断面模式図、図5は、サイドストッパーを示す正面図である。本実施形態では、本発明に係る所謂ソリッド式防振装置を自動車のエンジンマウントMに適用し、このエンジンマウントMは、図示しない自動車のパワープラントと車体との間に介在されて、そのパワープラントの荷重を支持するとともに、当該パワープラントからの振動を吸収し或いは減衰させて、車体への振動伝達を抑制するためのものである。すなわち、エンジンマウントMは、例えばエンジンルームに横置きに搭載されるパワープラントのトランスミッション側の端部を吊り下げるものであり、内筒体10の軸線が概ね車両前後方向を向くように配置されている。
【0032】
エンジンマウントMの本体(防振装置本体。以下、マウント本体という)1は、中空筒状の金属製内筒体10と、この内筒体10の外周囲に設けられた中空円筒状の金属製外筒体11と、これら両筒体10,11の間に設けられて両筒体10,11を互いに連結するゴム弾性体12とを備えるものである。内筒体10の軸方向一端部(図1及び図2では手前側端部)にはゴム製のサイドストッパー13が外嵌されている。そして、内部にマウント本体1が圧入固定された中空略円筒状の筒状金具2(固定部材)が、その外周の車幅方向一方側(図2では右側)に一体に形成された金属製ブラケット2aによって振動受け側の図示しない車体フレームに連結される一方、内筒体10は、その軸方向両端部がそれぞれボルト等により結合される図示しないブラケットによって、振動源側のパワープラントに連結されるようになっている。
【0033】
尚、図1及び図2は、車体に取り付けられてパワープラントの静荷重が加わる1G状態を示しており、この状態では内筒体10における中空部10aの中心軸Aが外筒体11及び筒状金具2における中空部の中心軸と概ね合致している。また、図1及び図2に示す符号10bは、中空部10aの上側に内筒体10の軸方向に貫通形成された肉抜き部である。
【0034】
上記内筒体10は、その軸方向長さが外筒体11よりも長く、軸方向両端部が外筒体11からそれぞれ突出している。内筒体10は、その軸方向から見たときに円形以外の非円形状をなしており、本実施形態では、左右対称の略五角形状である。内筒体10の軸方向両端部の外周は、ゴム弾性体12と一体に成形されたゴム膜12aによりそれぞれ被覆されており、このゴム膜12aのうち内筒体10の軸方向一方側端部のものには、その外周にサイドストッパー13が嵌合される嵌合溝12bが形成されている。
【0035】
上記ゴム弾性体12は、内筒体10から車幅方向両側に延長されて内筒体10を外筒体11に対して弾性支持する主ばね部12cを有しており、この主ばね部12cは、その形状や大きさなどが所定の防振特性を発揮するように設定されている。ゴム弾性体12には、内筒体10の上下方向(軸直方向)両側に軸方向に貫通する貫通孔12dがそれぞれ形成されている。
【0036】
上記サイドストッパー13は、内筒体10から軸直交方向外側(外筒体11の径方向外側)に延長され、軸直交方向外側端に行くに従って徐々に広がっている。本実施形態では、サイドストッパー13は、筒軸方向から見たときに内筒体10の上下方向に延びる車幅方向中心線Cに対してエンジンマウントMの重心Gとは反対側(図2では左側)に且つ下側(上下方向一方側)に延びている。つまり、サイドストッパー13は、内筒体10から左斜め下に延長されている。
【0037】
尚、本実施形態では、比較的重量のあるブラケット2aが筒状金具2の外周の車幅方向一方側に形成されているため、エンジンマウントMの重心Gは、筒軸方向から見たときに内筒体10の車幅方向中心線Cに対して筒状金具2のブラケット2aと同じ側(図2では右側)に位置している。本実施形態では、エンジンマウントMの重心Gは、筒軸方向から見たときに内筒体10における中空部10aの中心軸Aの、右斜め上近傍に位置している。
【0038】
サイドストッパー13の筒軸直交方向内側端部(外筒体11の径方向の内側端部。内筒体10側の端部)には、内筒体10が挿通される挿通孔13aが形成されており、この挿通孔13aは、内筒体10と対応するように左右対称の略五角形状をなしている。一方、サイドストッパー13の筒軸直交方向外側端部(外筒体11の径方向の外側端部。内筒体10とは反対側の端部)には、他の部分よりも厚肉となっている当接部13bが形成されており、この当接部13bは、筒状金具2の後述する被当接部2bとパワープラント側のブラケットとの間に配置されている。
【0039】
上記挿通孔13aの周縁部13cにおけるサイドストッパー13の延長側の部分(当接部13bに対応する部分。図2では挿通孔13aの左縁部の上下方向中央部から下縁部までの部分)の筒軸方向外側端面(図1及び図2では手前側端面)には、その周縁に沿うように凹部13dが形成されており、この凹部13dは、筒軸方向から見たときに内筒体における中空部10aの中心軸Aを通ってサイドストッパー13の延長方向に略延びる直線Lに対してエンジンマウントMの重心Gと同じ側に形成されている。本実施形態では、凹部13dは、略五角形状をなす内筒体10の下側頂点の直下側(内筒体10の中空部10aの下側)に配置されている。
【0040】
凹部13dは、挿通孔13aの内周面に向かって開口しており、その底面13eは、下側(筒軸直交方向外側)から上側(内側)に行くに従って筒軸方向内側(図1及び図2では奥側)に傾斜する傾斜面をなしている。凹部13dは、詳細は後述するが、接着剤Bを内筒体10とサイドストッパー13との間に供給する際のその供給位置(すなわち、内筒体10とサイドストッパー13との接着位置)を示す役割と、内筒体10とサイドストッパー13との間から漏出した接着剤Bを溜める役割とを有している。凹部13dの形状構造や大きさは、その漏出した接着剤Bを溜めるのに余裕があり過ぎず、且つ、凹部13dに溜まった接着剤Bがそこから漏れ出ないように設定されている。本実施形態では、凹部13dは、筒軸方向から見たときに略矩形状をなしており、比較的浅い形状をなしている。
【0041】
そして、サイドストッパー13は、内筒体10の軸方向一方側端部におけるゴム膜12aの嵌合溝12bに接着剤Bで接着固定されており、この接着剤Bは、内筒体10とサイドストッパー13との間における凹部13dに対応する部分及びこの部分の周方向両側部分にのみ介在している。本実施形態では、接着剤Bは、略五角形状をなす内筒体10の下側頂点を構成する二直線に対応する部分にのみ配置されている。
【0042】
ところで、エンジンマウントMの重心Gは、筒軸方向から見たときに内筒体10の車幅方向中心線Cに対して筒状金具2のブラケット2aと同じ側に位置しているため、作業者がエンジンマウントMをサイドストッパー13(例えば当接部13bの中央部)を摘んで持ち上げると、サイドストッパー13における内筒体10の下側頂点の直下側部分がエンジンマウントMの支持部となり、荷重がサイドストッパー13における内筒体10の下側頂点の直下側部分に最も集中する。つまり、上記凹部13dは、上記荷重が最も集中する部分に形成されている。言い換えると、凹部13dは、車幅方向に関してエンジンマウントMの重心G位置と作業者がエンジンマウントMをサイドストッパー13の当接部13bを摘んで持ち上げる際のその摘み位置との間に配置されている。
【0043】
上記筒状金具2の軸方向のサイドストッパー13側端部には、サイドストッパー13の当接部13bと対応するように鍔状の被当接部2bが形成されており、この当接部13bが被当接部2bやパワープラント側のブラケットに当接することによって、内筒体10及び筒状金具2(両筒体10,11)の軸方向の相対移動が規制されるようになっている。
【0044】
エンジンマウントMの製造方法を以下、図2及び図6を用いて説明する。まず、内筒体10と外筒体11とがゴム弾性体12により連結されてなるマウント本体1を筒状金具2の内部に圧入固定する(固定ステップ)。次に、サイドストッパー13を内筒体10の軸方向一方側端部におけるゴム膜12aの嵌合溝12bに外嵌することにより、エンジンマウントMの中間製品を製造する(外嵌ステップ)。
【0045】
そして、その中間製品を、内筒体10とサイドストッパー13とを接着するために中間製品を支持する図示しない支持治具にサイドストッパー13の筒軸方向外側端面を上側に向けた状態でセットする。それから、図2及び図6に示すように、シリンダによって駆動される押圧部材3によりサイドストッパー13における凹部13dの筒軸直交方向外側近傍部分(図2では下側近傍部分)の筒軸方向外側端面をその厚み方向(上下方向)に押圧することにより、サイドストッパー13の挿通孔13aの周縁部13cにおける凹部13dに対応する部分及びこの部分の周方向両側部分を捲り、内筒体10とサイドストッパー13との間における凹部13dに対応する部分及びこの部分の周方向両側部分に隙間Sを空ける(押圧ステップ)。この隙間Sは、サイドストッパー13の筒軸方向外側端面側(図6では上側)に開口しているが、その筒軸方向内側端面側には開口していない。
【0046】
その後、押圧部材3によるサイドストッパー13への押圧状態を維持したまま、接着剤Bを一定量だけ供給する図示しないディスペンサのノズルをその隙間Sにおける凹部13dに対応する部分に挿入し、そのノズルによりその凹部に対応する部分から接着剤Bを隙間Sに注入供給する(供給ステップ)。
【0047】
次に、押圧部材3によるサイドストッパー13への押圧状態を解除する(解除ステップ)。サイドストッパー13はゴム製のものであるため、押圧部材3によるサイドストッパー13への押圧状態を解除すると再び元の状態に回復し、内筒体10とサイドストッパー13とが密着し、内筒体10とサイドストッパー13との間の接着剤Bが加圧される。こうして加圧されることにより内筒体10とサイドストッパー13との間から漏出した接着剤Bは凹部13dに溜まる。凹部13dの底面13eは、筒軸直交方向外側から内側に行くに従って筒軸方向内側に傾斜しているため、凹部13dに溜まった接着剤Bの一部がその底面13eを流れて内筒体10とサイドストッパー13との間に戻り、その残部は凹部13dに留まる。
【0048】
接着剤Bが固まった後、画像認識装置により内筒体10とサイドストッパー13とが接着されているかを判定する。本実施形態では、凹部13dがそこで固まった接着剤Bにより白くなっているかを検査し、白くなっているときは内筒体10とサイドストッパー13とが接着されていると判定し、白くなっていないときには接着されていないと判定する。その後、エンジンマウントMの完成品を支持治具から取り外す。
【0049】
以上のようにして、エンジンマウントMが製造される。
【0050】
−効果−
以上より、本実施形態によれば、サイドストッパー13を内筒体10の軸方向一端部に接着剤Bで接着しているため、サイドストッパー13をゴム弾性体12と一体に成形することなく、サイドストッパー13がエンジンマウントMから脱落するのを抑制することができる。
【0051】
また、サイドストッパー13の挿通孔13aの周縁部13cにおける筒軸方向外側端面に凹部13dを形成しているため、この凹部13dに内筒体10とサイドサイドストッパー13との間から漏出した接着剤Bを溜めることができ、その漏出した接着剤Bが至る所に流出するのを抑制することができる。
【0052】
さらに、サイドストッパー13を内筒体10の上下方向に延びる車幅方向中心線Cに対してエンジンマウントMの重心Gとは反対側に且つ上下方向一方側に延長させており、凹部13dを内筒体10における中空部10aの中心軸Aを通ってサイドストッパー13の延長方向に延びる直線Lに対してエンジンマウントMの重心Gと同じ側に形成しているため、作業者がエンジンマウントMをサイドストッパー13を摘んで持ち上げると、サイドストッパー13における凹部13dの形成部分がエンジンマウントMの支持部となり、荷重がサイドストッパー13における凹部13dの形成部分に集中する。
【0053】
ここで、本実施形態によれば、接着剤Bを内筒体10とサイドストッパー13との間における凹部13dに対応する部分に介在させているため、接着剤Bを、内筒体10とサイドストッパー13との間における上記荷重が集中する部分に介在させることができ、その部分に荷重が集中するにも拘わらず、サイドストッパー13がエンジンマウントMから脱落するのを抑制することができる。
【0054】
さらにまた、接着剤Bを内筒体10とサイドストッパー13との間における凹部13dに対応する部分及びこの部分の周方向両側部分にのみ介在させているため、その全周に亘って介在させている場合と比較して、接着剤B量を減少させることができる。
【0055】
また、接着剤Bを内筒体10とサイドストッパー13との間における凹部13dに対応する部分及びこの部分の周方向両側部分に介在させているため、接着剤Bを内筒体10とサイドストッパー13との間における作業者がエンジンマウントMをサイドストッパー13を摘んで持ち上げた際に荷重が集中する部分及びこの部分の周方向両側部分に介在させることができ、サイドストッパー13がエンジンマウントMから脱落するのを確実に抑制することができる。
【0056】
さらに、凹部13dの底面13eは、筒軸直交方向外側から内側に行くに従って筒軸方向内側に傾斜しているため、サイドストッパー13の筒軸方向外側端面を上側に向けた状態にすると、凹部13dに溜まった接着剤Bの一部をその底面13eを流して内筒体10とサイドサイドストッパー13との間に戻すことができる。
【0057】
さらにまた、サイドストッパー13はゴム製のものであるため、解除ステップにおいて、サイドストッパー13への押圧状態を解除すると再び元の状態に回復し、内筒体10とサイドストッパー13とが密着し、内筒体10とサイドストッパー13との間の接着剤Bが加圧され、その接着性を向上させることができる。
【0058】
また、押圧ステップにおいて、サイドストッパー13における凹部13dの筒軸直交方向外側部分の筒軸方向外側端面を押圧するため、内筒体10とサイドストッパー13との間における凹部13dに対応する部分に確実に隙間を空けることができる。
【0059】
さらに、押圧ステップにおいて、内筒体10とサイドストッパー13との間における凹部13dに対応する部分及びこの部分の周方向両側部分に隙間を空けるため、接着剤Bを内筒体10とサイドストッパー13との間における凹部13dに対応する部分及びこの部分の周方向両側部分に確実に介在させることができる。
【0060】
(その他の実施形態)
上記実施形態では、ソリッド式防振装置をエンジンマウントMに適用しているが、これに限らず、例えば、所謂液体封入式防振装置を適用してもよい。
【0061】
また、上記実施形態では、マウント本体1は、内筒体10と外筒体11とがゴム弾性体12により連結されてなるものであるが、これに限らず、例えば、内筒体10とゴム弾性体12とからなる外筒体の無いものであってもよい。この場合、ゴム弾性体12は、筒状金具2の内部に直接、一体に成形されて固定される。
【0062】
さらに、上記実施形態では、内筒体10及び挿通孔13aは略五角形状をなしているが、これに限らず、略五角形以外の非円形状や円形状をなしてもよい。
【0063】
さらにまた、上記実施形態では、接着剤Bは、内筒体10とサイドストッパー13との間における凹部13dに対応する部分及びこの部分の周方向両側部分にのみ介在しているが、少なくとも凹部13dに対応する部分に介在すればよく、例えば、全周に亘って介在してもよい。但し、接着剤B量を減少させる観点からは、筒周方向の一部に介在するのが好ましい。
【0064】
また、上記実施形態では、サイドストッパー13は、内筒体10の車幅方向中心線Cに対してエンジンマウントMの重心Gとは反対側に且つ上下方向一方側に延長されているが、内筒体10から軸直交方向外側に延びる限り、その他の方向に延長されてもよい。
【0065】
さらに、上記実施形態では、押圧ステップでは、サイドストッパー13における凹部13dの下側近傍部分を押圧しているが、その他の部分を押圧してもよい。但し、内筒体10とサイドストッパー13との間における凹部13dに対応する部分及びこの部分の周方向両側部分に確実に隙間Sを空ける観点からは、凹部13dの下側近傍部分を押圧するのが好ましい。
【0066】
さらにまた、上記実施形態では、画像認識装置により内筒体10とサイドストッパー13とが接着されているかを判定しているが、これに限らず、サイドストッパー13に突起部や切欠き部を形成し、これを利用してサイドストッパー13を下側に引っ張り、その荷重が所定荷重以上であるときは内筒体10とサイドストッパー13とが接着されていると判定してもよい。さらに、サイドストッパー13を下側に引っ張り、画像認識装置により内筒体10とサイドストッパー13との間の隙間の有無を検査し、隙間の無いときは内筒体10とサイドストッパー13とが接着されていると判定してもよい。
【0067】
また、上記実施形態では、サイドストッパー13を内筒体10の軸方向一端部に外嵌しているが、その他端部にも外嵌してもよい。この他端部のサイドストッパー13も一端部のものと同様の構成としてもよい。
【0068】
本発明は、実施形態に限定されず、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく他の色々な形で実施することができる。
【0069】
このように、上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書には何ら拘束されない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0070】
以上説明したように、本発明に係る防振装置及びその製造方法は、ストッパーをゴム弾性体と一体に成形することなく、ストッパーが防振装置から脱落するのを抑制することが必要な用途等に適用することができる。
【符号の説明】
【0071】
M エンジンマウント(防振装置)
1 マウント本体(防振装置本体)
2 筒状金具(固定部材)
10 内筒体
11 外筒体
12 ゴム弾性体
12a ゴム膜
12b 嵌合溝
13 サイドストッパー
13a 挿通孔
13c 周縁部
13d 凹部
13e 底面
A 内筒体における中空部の中心軸
B 接着剤
C 内筒体の中空部の車幅方向中心線
G エンジンマウントの重心
L 直線
S 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内筒体とゴム弾性体とを有する防振装置本体と、内部に該防振装置本体が固定された固定部材と、上記内筒体の軸方向端部に外嵌され、該内筒体及び該固定部材の筒軸方向の相対移動を規制するためのゴム製のストッパーとを備えている防振装置であって、
上記ストッパーは、上記内筒体から軸直交方向外側に延長していて、筒軸直交方向内側端部に該内筒体が挿通される挿通孔が形成され、且つ、該挿通孔の周縁部における筒軸方向外側端面に凹部が形成されているとともに、上記内筒体に接着剤で接着されており、
上記接着剤は、上記内筒体と上記ストッパーとの間における少なくとも上記凹部に対応する部分に介在していることを特徴とする防振装置。
【請求項2】
請求項1記載の防振装置において、
上記ストッパーは、上記内筒体の上下方向に延びる中心線に対して上記防振装置の重心とは反対側に且つ上下方向一方側に延長しており、
上記凹部は、上記内筒体の中心軸を通って上記ストッパーの延長方向に延びる直線に対して上記防振装置の重心と同じ側に形成されていることを特徴とする防振装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の防振装置において、
上記接着剤は、上記内筒体と上記ストッパーとの間における上記凹部に対応する部分及び該部分の周方向両側部分にのみ介在していることを特徴とする防振装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の防振装置において、
上記凹部の底面は、筒軸直交方向外側から内側に行くに従って筒軸方向内側に傾斜していることを特徴とする防振装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載の防振装置の製造方法であって、
上記防振装置本体を上記固定部材の内部に固定する固定ステップと、
上記ストッパーを上記内筒体の軸方向端部に外嵌する外嵌ステップと、
上記ストッパーの筒軸方向外側端面を押圧することにより、上記内筒体と上記ストッパーとの間における少なくとも上記凹部に対応する部分に隙間を空ける押圧ステップと、
上記ストッパーへの押圧状態を維持したまま、接着剤を上記隙間に供給する供給ステップと、
上記ストッパーへの押圧状態を解除する解除ステップとを備えていることを特徴とする防振装置の製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の防振装置の製造方法において、
上記押圧ステップでは、上記凹部の筒軸直交方向外側部分を押圧することを特徴とする防振装置の製造方法。
【請求項7】
請求項5又は6記載の防振装置の製造方法において、
上記押圧ステップでは、上記内筒体と上記ストッパーとの間における上記凹部に対応する部分及び該部分の周方向両側部分に隙間を空けることを特徴とする防振装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−237336(P2012−237336A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105307(P2011−105307)
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(000201869)倉敷化工株式会社 (282)
【Fターム(参考)】