説明

防曇ガラスを備えた車両及び車両用窓ガラスのセット

【課題】防曇性と耐久性、経済性のバランスを考慮し、部位毎に適した防曇ガラスで窓を構成された車両の提供。
【解決手段】吸水性の防曇層を有する防曇ガラスからなるフロントガラス2と、親水性の防曇層を有する防曇ガラスからなる昇降窓ガラス4,5を備えた車両、好ましくは吸水性の防曇層を有するリアガラス3を備え、吸水性の防曇層を有する側面前部の三角窓ガラス6を備えた車両。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防曇ガラスを備えた車両及び車両用窓ガラスのセットに関する。
【背景技術】
【0002】
空気中にある物体の表面温度が露点以下になると、物体表面に結露しやすくなる。一般に、この現象を曇りが発生したと呼んでいる。例えば、自動車の窓、浴室の鏡などのガラス面に曇りが生じると視認性が妨げられるために、窓や鏡としての機能が損なわれたり、不快に感じたりする恐れがある。計器盤のカバーグラスが曇るとデータの読み取りが困難になる場合もある。このため、自動車の窓や計器に取り付けられたガラス表面には、曇りを防止するための防曇技術が採用されている。
【0003】
自動車の窓ガラス等の防曇技術としては、ガラスの表面温度を高くする方法が最も一般的に用いられている。すなわち、フロントガラスであればガラス表面に温風を吹きかけ、リアガラスであればガラス内部に埋め込んだヒータでガラスを加熱している。一方、気温と湿度の高い夏期には、車内を冷房して空気中の湿度を下げ、露点を下げる方法がとられている。
【0004】
しかし、車両の室内は、乗降のためのドアの開閉や窓の開閉、外気の取り入れ等により車内の温度や湿度を常に制御しておくことは難しい。特に、外気温が低いときや、湿度が高いときに放置してあった車両を、十分暖機しないで走行開始すると、運転開始時に大量の曇りが発生しやすい。
【0005】
そこで、近年では、車両の窓ガラスの表面に種々の防曇膜を形成する試みがなされている。防曇膜としては、例えば親水性の防曇膜が挙げられる。ガラス表面に親水性の防曇膜を形成すると、防曇層の被膜の表面自由エネルギーが高まり、ガラスの表面温度が露点以下になっても、ガラス表面付近に発生した水分は、まずその親水性被膜上に速やかに広がり、水滴となることを防ぐ。このような親水タイプの防曇膜としては、界面活性剤やポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールなどの有機系の親水性被膜でもよいが、これらは水溶性であったり、耐摩耗性がなかったりして、恒久的な対策になりづらい。車両用の防曇膜としては、良好な防曇性のほかに、ガラスに対する密着性に優れ、硬く傷がつきにくく、耐摩耗性に優れること、そして長期にわたる良好な防曇性の維持が求められる。
【0006】
耐摩耗性に優れる防曇膜としては、無機性材料からなる親水性被膜が知られている。例えば、特許文献1には、けい酸アルカリ金属塩(水ガラス)を含む層が形成されている自己浄化機能を有する防曇性膜が開示されている。けい酸アルカリ金属塩を含む層はガラス質の平滑な層であるため、汚れがつきにくく、アルカリイオン成分による自己浄化機能があるというものである。特許文献2には、ガラス表面に水ガラスとホウ酸を溶かした防曇水溶液を塗布し、加熱して成膜する方法が記載されており、成膜温度が低い無機性防曇剤が開示されている。特許文献3には、鏡表面にアルコキシシラン加水分解物及び水ガラスよりなるマトリックス中に親水性超微粒子が分散された、親水性被膜が被覆された防曇鏡が開示されている。特許文献4には、光触媒性酸化チタンゾルとアモルファス金属酸化物を含有する表面層が形成された光触媒性親水性部材が開示されている。光触媒の光励起に応じて表面が親水化されるようになるので、表面を高度の親水性に維持できるようになるというものである。
【0007】
このような親水タイプの防曇膜においては、膜表面に結露した水分による水膜が形成される。そして、水分の凝縮が多くなってくると、水膜に厚さのばらつき、すなわち歪みが生じてくる。ガラス表面の水膜に歪みが生じると、透過光線の屈折に影響を与えるようになる。すなわち、運転者等からのガラス越しの見通し、車外の視認性が低下することがある。特に水膜が流れるほどに厚くなると運転にも支障が出てくる恐れがある。
【0008】
これに対して、吸水タイプの防曇材も開発されている。吸水タイプの防曇材としては、例えば、吸水性樹脂製の比較的厚さのある膜がある。例えば、吸水性高分子を使用した単層膜からなる防曇性基材として、特許文献5には、表層部分が−P=N−骨格を有する高分子化合物からなる基材上に、防曇性被膜としてケン化度70mol%以上、平均重合度300以上のポリビニルアルコールに架橋剤を加えたものを、硬化性被膜として防曇性を付与した被覆積層体が開示されている。特許文献6には、ポリビニールアセタール樹脂のみを塗布した後、常温で乾燥させて防曇膜とする塗布型防曇剤が開示されている。特許文献7には、水酸基を有する有機物であるポリビニルアルコールと、有機金属化合物であるテトラメトキシシランとを縮合重合させた防曇剤が開示されている。
【0009】
さらに、特許文献8には、ポリビニルアセタール樹脂とシリルイソシアネートからなる吸水性複合膜の表面に3〜10nm厚の撥水性のシリカ化合物の透水性膜を形成した防曇性膜が開示されている。
【特許文献1】特開2000−321412号公報
【特許文献2】特開2000−203883号公報
【特許文献3】特開2001−337211号公報
【特許文献4】特開2001−129916号公報
【特許文献5】特開平5−51471号公報
【特許文献6】特開平6−157794号公報
【特許文献7】特開平10−212471号公報
【特許文献8】特開2001−293825号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のように防曇ガラスには特徴があり、親水タイプの防曇層を有する防曇ガラスは、無機原料を含む材料からなる防曇層を備えているものが多く、耐摩耗性は良好であるが、大量の曇りの発生した場合には、防曇層の表面に水膜ができやすく、透視歪みが発生する恐れがある。一方、吸水タイプの防曇層を有する防曇ガラスは、膜中に水分を蓄えることにより曇りの発生を抑えているため、かなり大量の曇りの発生には対処できる。しかし、吸水層が有機材料を主体とした膜であるため、無機原料を含む材料からなる親水タイプの防曇層に比べると、耐摩耗性などの機械的強度が劣る場合がある。さらに、吸水性タイプの防曇層の機械的強度を向上させるため、吸水性タイプの防曇膜の上に無機材料を主体とした保護層を形成した防曇層は、防曇性に加え耐摩耗性などの機能も付加することができる。このように、防曇ガラスの種類により特徴があるにもかかわらず、車両用の防曇ガラスとしては、車両の部位毎のガラスに要求される機能を考慮して防曇ガラスが選択するという発想はこれまではなかった。
【0011】
このような観点から、本発明では、防曇性と耐久性、経済性のバランスを考慮し、それぞれの部位毎に適した防曇ガラスで構成された車両及び車両用窓カラスのセットの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、下記の手段により、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
本発明は、吸水性の防曇層を有する防曇ガラスからなるフロントガラスと、親水性の防曇層を有する防曇ガラスからなる昇降窓ガラスを備えた車両である。さらに、吸水性の防曇層を有する防曇ガラスからなるリアガラスを備えていることが好ましい。また、吸水性の防曇層を有する防曇ガラスからなる側面前部の三角窓ガラスを備えていることが好ましい。
【0014】
本発明の好ましい態様として、吸水性の防曇層を有するガラスを構成する吸水性の防曇層が吸水性樹脂層を有し、更に好ましくは保護層を有する上記車両がある。さらに、吸水性の防曇層の厚さが5〜50μmであることが好ましい。また、保護層の厚さが3〜10nmであることが好ましい。
【0015】
本発明の好ましい態様として、親水性の防曇層を有するガラスを構成する親水性の防曇層は、無機原料を含む材料からなる上記車両がある。さらに、親水性の防曇層の厚さが10〜100nmであることが好ましい。
【0016】
さらに、本発明は、一台の車両用窓ガラスのセットであって、吸水性の防曇層を有するフロントガラスと、親水性の防曇層を有するスライド式開閉窓ガラスとを備えた車両用窓ガラスのセットである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、防曇性と耐久性、経済性のバランスを考慮し、それぞれの部位毎に適した、いわゆる適材適所の防曇ガラスで構成された車両及び車両用窓ガラスのセットを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、車両の部位毎の窓ガラスの構成に関するものである。通常、車両には運転者等が前方を視認するためのフロントガラス、後方を視認するためのリアガラス、側面のドアなどに付けたスライド式開閉のできる昇降窓ガラスなどがある。そして、本発明の車両は、車内側面に防曇層を有する窓ガラスを備えた車両であって、防曇層を有する窓ガラスのうち、少なくともフロントガラスは吸水性の防曇層が設けられた窓ガラス、昇降窓ガラスは親水性の防曇層が設けられた窓ガラスである。
【0019】
本発明においては、「親水性の防曇層」は「結露した水分が防曇層の表面で水膜となることによって、防曇層の表面での水滴の形成を抑制する防曇層」を指し、「吸水性の防曇層」は「結露した水分を防曇層の内部に保持することによって、防曇層の表面での水滴の形成を抑制する防曇層」を指す。
【0020】
フロントガラスは、運転者が車両を運転する際に最も重要な前方を監視するため車両の前方に備えられたガラスであり、常に視認性が良好でなくてはならない。すなわち、フロントガラスは、曇りの発生は勿論、ガラス表面の水膜の歪みによる前方物体のぼやけや歪みを極力抑える必要がある。通常、フロントガラスの下部には、フロントガラスに向けて温風及び乾燥冷気の噴き出し口が設けられており、フロントガラスに大量の水分が付着する恐れのある車内環境条件の場合は、運転者は、温風又は乾燥冷気の噴き出しにより、フロントガラス表面での結露発生そのものを抑えるようにしている。しかし、この温風及び乾燥冷気の噴き出しによる防曇効果は、寒冷期の車両運転開始時や急激な車内の温度、湿度変化に対しては十分対応できないことが多い。防曇層の主な役割は、この温風及び乾燥冷気の噴き出しによる効果が現れるまでの曇りを防止することである。本発明におけるフロントガラスは、ある程度多量の水分付着に対しても、その水分を吸収できる吸水性の防曇層を有する防曇ガラスを備えているので、この間、フロントガラスの曇りの発生は勿論、ガラス表面に水膜を発生させず、前方視界のぼやけや歪みを防止している。
【0021】
側面の窓ガラスも曇りによる車外の視認性の悪化は好ましくない。一方、側面の昇降式開閉窓の昇降窓ガラスは、ガラスを昇降する度にガラス表面が窓枠やモール等と擦れ合うことが多い。このため、ガラス表面の防曇層は、剥離したり擦り傷が付いたりし易い。この発明における側面のスライド式開閉窓の窓ガラスは、親水性の防曇層を備えている。親水性の防曇層は、通常、無機材料を主体にしてできており、耐摩耗性やガラスとの密着強度は高い。それ故、この発明における側面の昇降式開閉窓の窓ガラスは、窓ガラスの開閉を繰り返しても、防曇層の剥離や擦傷が起こらない。このスライド式開閉窓の窓ガラスは、ガラス表面に薄い水膜を発生させる程度の結露条件による水分発生に対しては、十分な防曇効果を発揮する。このため、ほとんどの場合は、この窓ガラスにおいても、視認性に問題を生じることはない。さらに、車内環境によって一時的に車外の視認性に多少の影響があるような水膜が発生しても、車内の空調設備により車内環境の調整ができれば、水膜は乾燥していき、視認性の問題は解消される。
【0022】
上述の運転者の視認性の重要度とガラスの耐擦傷性防止の必要性から考慮すると、リアガラスについても吸水性の防曇層を備えた防曇ガラスとすることが好ましい。また、車両側面に設置されている固定式窓又は非昇降式の開閉可能窓、例えば側面前部に付いている三角窓やバンタイプの車両の側面後部に付いている窓などもあるが、これらの非昇降式の窓は、吸水性の防曇層を備えた防曇ガラスとすることが好ましい。特に、側面前部に付いている三角窓は運転者の視認性が重要であり、吸水性の防曇層を備えた防曇ガラスとすることが好ましい。なお、側面前部に付いている三角窓以外の非昇降式の窓は、製造コスト等との兼ね合いで親水性の防曇層を備えた防曇ガラスとすることが好ましい場合もある。
【0023】
本発明における吸水性の防曇層は、厚さが5〜50μm、特に10〜30μmであることが好ましい。吸水性の防曇層の厚さが5μmよりも薄いと吸水できる水分量が少なく十分な防曇効果を持続できない場合がある。また、吸水性の防曇層の厚さが50μmを超えると、防曇層とガラスとの密着性や防曇ガラスの製造工程上不利な場合がある。
【0024】
吸水性の防曇層は、吸水性樹脂層を有することが好ましい。さらに、吸水性の防曇層は、吸水性樹脂層の表面に保護層を有することが好ましい。保護層、硬度があり、耐擦傷性に優れた材料、例えばシリカなどの無機材料で形成すればよい。保護層の厚さは、3〜10nm、特に4〜7nmであることが好ましい。保護層の厚さが3nmよりも薄いと、硬度や耐擦傷性に優れた保護層の役割を十分発揮できない場合がある。保護層の厚さが10nmを超えると、保護層に対する水分の透過性が悪くなり、十分な防曇効果が期待できなくなる場合がある。
【0025】
本発明に係る防曇ガラスにおける親水性の防曇層は、無機系原料を含む材料からなることが好ましい。また、親水性の防曇層の厚さが10〜100nmであることが好ましい。ここでいう無機系原料を含む材料は、無機材料だけでなく、珪素、アルミニウム、チタン、ジルコニウムなどの無機元素を含む有機金属化合物や前記無機元素を含む材料と有機化合物との混合物でもよい。また、この親水性の防曇層は、基材であるガラス表面を物理的及び/又は化学的に処理して親水性の防曇層としたものでもよい。この防曇ガラスにおける親水性の防曇層の厚さが10nmより薄いと、十分な防曇性が発揮できない場合がある。親水性の防曇層の厚さが100nmを超えると、ガラスとの密着性や防曇ガラスの製造工程上不利な場合がある。
【0026】
本発明を、図を参照にしながら、以下の実施形態により具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではなく、これらの実施形態を、本発明の主旨及び範囲を逸脱することなく、変更又は変形することができる。
【0027】
本発明の第1の実施形態を図1に示した。図1は、セダンタイプの乗用車を真上から見た概略平面図である。この実施形態の乗用車1は、窓ガラスを10枚備えており、フロントガラス2、リアガラス3、側面にはそれぞれ2枚ずつの、前ドアのスライド式窓ガラス4、後ドアのスライド式窓ガラス5、前部の三角窓ガラス6、後部の三角窓ガラス7を備えている。そして、フロントガラス2、リアガラス3、2枚の前部の三角窓ガラス6は、吸水性の防曇層を備えた防曇ガラスからなっている。リアガラス3、2枚の前部の三角窓ガラス6は、親水性の防曇層を備えた防曇ガラスとしてもよいが、運転者の車外の視認性、操縦性を考慮すれば、吸水性の防曇層を備えた防曇ガラスとすることが好ましい。また、残りの前ドアのスライド式窓ガラス4、後ドアのスライド式窓ガラス5、後部の三角窓ガラス7は、親水性の防曇層を備えた防曇ガラスからなっている。後部の三角窓ガラス7は、吸水性の防曇層を備えた防曇ガラスとしてもよい。
【0028】
このような窓ガラスの構成とすることで、寒冷地で車両を始動する際や、高温高湿の車内に冷房を起動させたときなどに発生する窓ガラスへの結露による曇りを防止することができる。さらに、結露による水分発生量が多いときでも、フロントガラス2、リアガラス3、2枚の前部の三角窓ガラス6には、曇りも水膜も発生せず運転者等の車外の視認性は良好に保たれる。その後、空調等が効果を発揮して、車内の環境が正常になれば、結露そのものが発生しなくなり、防曇層中に吸収された水分も徐々に空気中に戻っていく。
【0029】
一方、親水性の防曇層を備えた防曇ガラスからなる残りの窓ガラス、前ドアのスライド式窓ガラス4、後ドアのスライド式窓ガラス5、後部の三角窓ガラス7は、当初、防曇ガラス表面には薄い水膜ができて曇りの発生を防いでいる。通常は、このような状態の間に、空調等により、車内の環境が正常になり、結露そのものが発生しなくなり、防曇ガラス上の水分も徐々に乾燥し、空気中に戻っていくので問題はない。このため、少なくともスライド式の窓ガラスである前ドアの窓ガラス4、後ドアの窓ガラス5は、耐擦傷性の高い親水性、特に無機系材料からなる親水性の防曇層を備えた防曇ガラスとし、窓ガラスのスライド開閉による防曇層の剥離や擦傷を防止することを優先する。
【0030】
このような防曇ガラスの構成にすることにより、この実施形態の乗用車は、運転者の視認性、操縦性を損なわない窓ガラスの防曇性と耐久性や製造の容易性のバランスが適正に保たれている。
【0031】
この発明の第2の実施形態は、図2に示すように、比較的小型のセダンタイプの乗用車やバンタイプの乗用車に見られる窓ガラスの構成をしている。この実施形態の乗用車1では、フロントガラス2、リアガラス3、2枚の前部三角窓ガラス6は、吸水性の防曇層を備えた防曇ガラスからなっている。この場合も、リアガラス3、2枚の前部の三角窓ガラス6は、親水性の防曇層を備えた防曇ガラスとしてもよいが、運転者の車外の視認性、操縦性を考慮すれば、吸水性の防曇層を備えた防曇ガラスとすることが好ましい。また、残りの前ドアのスライド式窓ガラス4、後ドアのスライド式窓ガラス5は、親水性の防曇層を備えた防曇ガラスからなっている。後ドアのスライド式窓ガラス5は、非スライド式の窓ガラス5となっている場合もあり、その場合は、非スライド式の窓ガラス5を吸水性の防曇層を備えた防曇ガラスとしてもよい。このような窓ガラスの構成とすることで、前述の第1の実施形態の乗用車と同じ作用効果が発揮される。
【0032】
この発明の第3の実施形態としては、図3に示すようなトラック10における窓ガラスの構成である。この実施形態では、フロントガラス12、リアガラス13は、吸水性の防曇層を備えた防曇ガラスからなっている。この場合も、リアガラス13は、親水性の防曇層を備えた防曇ガラスとしてもよいが、運転者の車外の視認性、操縦性を考慮すれば、吸水性の防曇層を備えた防曇ガラスとすることが好ましい。しかし、トラック、特に小型トラックの場合は、リアガラス13は運転席や助手席のすぐ後にある場合が多く、ガラス表面に人体の頭部や衣服などがこすれる場合が多い。このため、ガラス表面に耐擦傷性が要求される場合は、親水性の防曇層、特に無機系原料を含む材料からなる親水性の防曇層を設けた防曇ガラスのほうが好ましいこともある。側面のドアのスライド式窓ガラス14は、親水性の防曇層を備えた防曇ガラスからなっている。トラックについても、このような窓ガラスの構成とすることで、前述の第1の実施形態の車両と同様の作用効果が発揮される。
【0033】
本発明における防曇ガラスの積層構造について説明する。本発明における防曇ガラスは、吸水性の防曇ガラスも親水性の防曇ガラスも、ガラス基材の室内側にあたる表面に防曇層を備えている。図4及び図5にその積層構造を示した。図4は、ガラス基材16の表面に吸水性の防曇層17を被覆した防曇ガラス15を示している。図5も、吸水性の防曇層16を被覆した防曇ガラス15を示しているが、この防曇ガラス15は、吸水性の防曇層16の上に保護層17を設けた構造になっている。図6は、親水性の防曇層20を備えた防曇ガラスである。
【0034】
防曇層を構成する防曇材について説明する。本発明に使用する防曇材は既存の防曇材が使用できる。例えば、背景技術の欄で説明した防曇材を、それぞれのタイプに応じて本発明に係る防曇材として使用してもよい。吸水性(吸水タイプとも呼ばれている。)の防曇材と親水性の防曇材(親水タイプとも呼ばれている。)とがある。本発明においては、この2種類の防曇材を使用した防曇ガラスを使い分けることが必要である。
【0035】
吸水性の防曇材とは、結露した水分を防曇材の内部に保持することによって、防曇材の表面での水滴の形成を抑制する機能を持つ防曇材を指し、具体的には親水性の官能基を持つ、いわゆる吸水性樹脂が挙げられる。官能基の例としては、水酸基、カルボキシル基、エステル基、エーテル基、カルボニル基、アセタール基、ケタール基、アミノ基、アミド基、イミド基、シアノ基、カルバミン酸エステル(ウレタン)基などの官能基が挙げられる。樹脂の種類としては、吸水性を有するカルボン酸エステル系樹脂(アクリル酸系樹脂など)、エポキシ系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール等のポリオール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂等のアセタール系樹脂、ポリエステルポリオール、アルカノールアミン系ウレタン樹脂などが挙げられる。これらの樹脂は、上述の官能基を付加してり変性されたり、共重合体とされたり、架橋して3次元構造とされたりして使用することもできる。具体的な樹脂として、例えば、ポリビニルアルコールやポリカルボン酸を水ガラスなどのアモルファス金属酸化物とジルコニウム系架橋剤で架橋した複合樹脂、ポリビニルアセタール樹脂とアルキルシリルイソシアネートとの複合膜、ポリオールとアルキルシリルイソシアネートとを含むウレタン樹脂などがある。
【0036】
吸水性の防曇材層の表面に保護層を形成し、全体として吸水性の防曇層とすることもできる(図5に示す構造の防曇層)。この例としては、上記ポリビニルアセタール樹脂とアルキルシリルイソシアネートとの複合膜の表面にアルキルシリルイソシアネートの加水分解物の薄膜形成したものがある。
【0037】
親水性の防曇材とは、結露した水分が防曇材の表面で水膜となることによって、表面での水滴の形成を抑制する機能を持つ材料を指し、具体例としては、有機材料系の防曇材として、例えばポリビニルアルコ−ルやポリビニルピロリドンなどに代表される親水性有機高分子や非イオン系界面活性剤をガラス表面に塗布処理した親水性の防曇材がある。無機材料系の防曇材として、例えば、硼珪酸ガラス基板を酸でエッチングして多孔質化する方法やソ−ダライムガラスをフッ酸でエッチングして表面に凹凸をつけた親水性の防曇材や、リン酸を含むバルクガラスにリン酸の液または蒸気を接触させた親水性の防曇層がある。また、ガラス表面に5酸化リンとシリカの金属アルコキシドの加水分解物を塗布して焼成した防曇材、シリカ微粒子を含むチタニアと金属酸化物の複合層からなる防曇材、シリカとジルコニアからなるマトリックスにチタニア等の微粒子を分散した防曇材、リン、アルミニウム、珪素系の薄膜を塩基性溶液で処理した防曇材等が挙げられる。親水性の防曇材としては、上記の他にどのような親水性の薄膜を用いてもよいが、有機材料系の防曇材は一般に耐久性が劣る場合が多いので、恒久的に防曇性を求めるのであれば、無機系材料からなる防曇材が好ましい。ガラス表面へのスプレー等により、一時的に効果を期待するのであれば、有機材料系の防曇材でも十分である。
【0038】
ガラス基材は、通常の車両用のガラス基材であればどのようなガラス基材でもよい。乗用車のフロントガラスは、合わせガラスが多いが、強化ガラスや通常のガラスでもよい。また、リアガラスのように内部にヒータを備えたガラスやガラス基材の表面や内部の一部に装飾等を施したガラスでもよい。さらに、ポリカーボネート板やアクリル板のような樹脂製のガラス(本発明では、素材的にはガラスではないが、窓等にガラスと同様に使用されている透明樹脂板もガラスと呼んでいる。)でもよい。
【0039】
本発明における防曇ガラスの製造方法は、特に限定されるものではなく、通常の防曇ガラスの製造方法で製造すればよい。例えば、ガラス基材に上述の防曇材料を塗布したり、防曇材料の原料となる材料を混合塗布して、加熱、紫外線照射等により反応させてガラス基材表面で防曇層を形成してもよい。一般に、樹脂系の材料を使用する吸水性の防曇層の形成においては、高温処理は不向きなので、防曇ガラス製造におけるガラス基材への防曇層の形成は、最後の工程とすることが多い。親水性の防曇層においては、ガラス基材表面を物理的、化学的に変化させて防曇層を形成することもできる。
【0040】
この防曇ガラスの適用対象は、自動車だけでなく、電車、汽車、気動車、ケーブルカー等の各種車両にも適用できる。さらに、車両に準ずる船舶の窓、飛行機の窓、その他視認性及び耐擦傷性を要求される窓ガラスのような部位にはすべて適用できる。すなわち、視認性をより強く要求される部位のガラスには、吸水性の防曇ガラスを使用し、スライドガラス窓のように擦傷性の高い部位のガラスには、主に無機材料からなる親水性の防曇ガラスを使用する構成とすればよい。
【0041】
また、本発明は、車両用の防曇ガラスのセットでもある。上述の防曇ガラス製のフロントガラス、昇降窓ガラス、好ましくは更にリアガラス、三角窓ガラスなど、意匠性、基本的な素材などを統一した一台の車両用の窓ガラスのセットとして提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の乗用車の平面図
【図2】本発明の他の例の乗用車の平面図
【図3】本発明のトラックの断面図
【図4】吸水性の防曇層を備えた防曇ガラスの層構造図
【図5】吸水性の防曇層を備えた防曇ガラスの層構造図
【図6】親水性の防曇層を備えた防曇ガラスの層構造図
【符号の説明】
【0043】
1:乗用車
2:12:フロントガラス
3:13:リアガラス
4:前ドア窓ガラス
5:後ドア窓ガラス
6:前三角窓ガラス
7:後三角窓ガラス
8:車体
10:トラック
14:ドア窓ガラス
15:防曇ガラス
16:ガラス層
17:防曇層
18:保護層
19:防曇ガラス
20:防曇層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸水性の防曇層を有する防曇ガラスからなるフロントガラスと、親水性の防曇層を有する防曇ガラスからなる昇降窓ガラスを備えた車両。
【請求項2】
吸水性の防曇層を有する防曇ガラスからなるリアガラスを備えた請求項1に記載の車両。
【請求項3】
吸水性の防曇層を有する防曇ガラスからなる側面前部の三角窓ガラスを備えた請求項1又は2に記載の車両。
【請求項4】
前記吸水性の防曇層は、吸水性樹脂層を有する請求項1〜3のいずれか一項に記載の車両。
【請求項5】
前記吸水性の防曇層の厚さが5〜50μmである請求項1〜4のいずれか一項に記載の車両。
【請求項6】
前記吸水性の防曇層は、保護層を有する請求項1〜5のいずれか一項に記載の車両。
【請求項7】
前記保護層の厚さが3〜10nmである請求項6に記載の車両。
【請求項8】
前記親水性の防曇層は、無機原料を含む材料からなる請求項1〜7のいずれか一項に記載の車両。
【請求項9】
前記親水性の防曇層の厚さが10〜100nmである請求項1〜8のいずれか一項に記載の車両。
【請求項10】
一台の車両用窓ガラスのセットであって、吸水性の防曇層を有するフロントガラスと、親水性の防曇層を有するスライド式開閉窓ガラスとを備えた車両用窓ガラスのセット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−114760(P2008−114760A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−300729(P2006−300729)
【出願日】平成18年11月6日(2006.11.6)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】