説明

防曇性樹脂シートからなる容器

【目的】特に一方の面に防曇剤層が形成され、他方の面に離型剤層が形成された防曇性樹脂シートにおいて、ロール状に捲き取った捲回物の保管時における防曇剤層と離型剤層との混じり合い、 及び捲回物を捲き戻して成形に供する際の防曇剤層と離型剤層間の転写が抑制され、シートや成形体としての外観の低下等が抑制されると共に、食品包装用透明容器等としたときの低温及び高温防曇性の低下をも抑制される防曇性樹脂シートからなる容器を提供する。
【構成】樹脂シートの一方の面に、下記の(A)、(B)、及び(C)成分を含有する防曇剤層が形成されている防曇性樹脂シートからなる容器。
(A)界面活性剤
(B)親水性アクリル系共重合体
(C)オキシエチレン骨格からなる重合体

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱成形してワンウェイの食品包装用透明容器等として用いるに好適な防曇性樹脂シートからなる容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、透明樹脂シートを熱成形することにより、弁当等の各種食品のワンウェイの食品包装用透明容器の容器本体や蓋体を製造することは広く行われている。一方、市場の拡大や消費者のニーズの多様化に伴い、食品包装用容器としての要求性能も高まっており、とりわけ水分を含む内容物を包装し冷蔵保存した場合の容器内面での結露に対する低温防曇性、及び高温の内容物を包装した場合の容器内面での水蒸気の凝縮に対する高温防曇性等の向上が強く望まれている。
【0003】
一方、これらの食品包装用容器に用いられる透明樹脂シートに防曇性を賦与するために、従来より、透明樹脂シートの一方の面に防曇剤水溶液を塗布し乾燥させて防曇剤層を形成することが行われているが、その防曇剤層が形成された樹脂シートは、ロール状に捲き取った捲回物として製品とされ、それを捲き戻しながら熱成形に供されるにおいて、塗布後の乾燥が十分であっても、ロール状捲回物として保管後、捲き戻す時に防曇剤層が他方の面に剥ぎ取られ(以降、これらの剥ぎ取られる現象を「転写」と言う。)、防曇性の低下を引き起こしていた。又、 更に、成形時の金型からの離型性や成形体同士の剥離性等の賦与のために、透明樹脂シートの他方の面にシリコーンオイルのエマルジョン等を塗布し乾燥させて離型剤層を形成することも行われているが、その場合には、 ロール状捲回物として保管時に防曇剤層と離型剤層が混じり合って、 透明シートを白化させてシート外観を悪化させるばかりか、捲き戻す時に防曇剤層の転写と共に離型剤層の転写も起こして防曇性の更なる低下を引き起こし、それが、ロール状捲回物としての保管期間の長期化と共に益々顕著になるという問題があった。
【0004】
従来、この様な転写の抑制方法、或いは防曇性の維持方法として、界面活性剤及び高分子化合物からなる防曇剤層を設ける方法が多数提案され、例えば、蔗糖ラウリン酸エステル、重合度が800以下のポリビニルアルコール、及び特定粒径のシリコーンからなる防曇剤層を設ける方法(例えば、特許文献1参照。)、蔗糖脂肪酸エステル、シリコーン、及び多糖類又はポリアクリル酸ナトリウム等の親水性高分子からなる防曇剤層を設ける方法(例えば、特許文献2参照。)、蔗糖脂肪酸エステル、ヒドロキシエチルセルロース、及び多価アルコールからなる防曇剤層を設ける方法(例えば、特許文献3参照。)、特定HLBの蔗糖ラウリン酸エステル、及びポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールから選ばれる水溶性ポリマーからなる防曇剤層を設ける方法(例えば、特許文献4参照。)、蔗糖脂肪酸エステル、及びアクリル系共重合体からなる防曇剤層を設ける方法(例えば、特許文献5参照。)、蔗糖脂肪酸エステル又はポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロック共重合体又はポリエチレングリコール、及びポリビニルアルコールからなる防曇剤層を設ける方法(例えば、特許文献6参照。)、蔗糖脂肪酸エステル、及びポリビニルピロリドンからなる防曇剤層を設ける方法(例えば、特許文献7参照。)等が提案されている。
【0005】
しかしながら、これら高分子化合物を併用する場合、本発明者等の検討によると、ポリビニルアルコールは、樹脂シートの熱成形時に白化が生じ易く、又、多糖類、セルロース類、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルピロリドンでは、リサイクルした際、これらの高分子化合物が未溶融のまま凝集又はゲル化し、ブツとしてシート中に存在することとなってリサイクルすることができないという問題があり、又、アクリル系共重合体、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロック共重合体は、熱成形時の白化もなくリサイクル性も良好であるが、アクリル系共重合体を用いる特許文献5に開示される防曇剤層では転写を防ぐことはできるものの、防曇性、特に防曇持続性の点で満足のいく結果が得られず、ポリエチレングリコール等を用いる特許文献6に開示される防曇剤層では転写を十分に抑制できず、 防曇性の点でも満足のいく結果が得られないことが判明した。
【特許文献1】特公昭63−62538号公報。
【特許文献2】特許第3241797号公報。
【特許文献3】特開平8−157639号公報。
【特許文献4】特開2000−280410号公報。
【特許文献5】特開2002−60633号公報。
【特許文献6】特開2002−86639号公報。
【特許文献7】特開2002−356572号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前述の従来技術における現状に鑑みてなされたもので、特に一方の面に防曇剤層が形成され、他方の面に離型剤層が形成された防曇性樹脂シートにおいて、ロール状に捲き取った捲回物の保管時における防曇剤層と離型剤層との混じり合い、 及び捲回物を捲き戻して成形に供する際の防曇剤層と離型剤層間の転写が抑制され、シートや成形体としての外観の低下等が抑制されると共に、食品包装用透明容器等としたときの低温及び高温防曇性の低下をも抑制される防曇性樹脂シートからなる容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、防曇剤層に高分子化合物として、アクリル系共重合体、及びオキシエチレン骨格からなる重合体を併用することにより、前記目的を達成できることを見出し本発明に到達した。即ち、本発明は、樹脂シートの一方の面に、下記の(A)、(B)、及び(C)成分を含有する防曇剤層が形成されている防曇性樹脂シートからなる容器、を要旨とする。
(A)界面活性剤
(B)親水性アクリル系共重合体
(C)オキシエチレン骨格からなる重合体
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、特に一方の面に防曇剤層が形成され、他方の面に離型剤層が形成された防曇性樹脂シートにおいて、ロール状に捲き取った捲回物の保管時における防曇剤層と離型剤層との混じり合い、 及び捲回物を捲き戻して成形に供する際の防曇剤層と離型剤層間の転写が抑制され、シートや成形体としての外観の低下等が抑制されると共に、食品包装用透明容器等としたときの低温及び高温防曇性の低下をも抑制される防曇性樹脂シートからなる容器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の防曇性樹脂シートにおいて、防曇剤層を構成する(A)成分の界面活性剤としては、この種分野において防曇剤層に用いられることが知られている界面活性剤であればよく、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレン(硬化)ヒマシ油エーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロック共重合体等の非イオン性界面活性剤、脂肪酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホカルボン酸塩、アルキル燐酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸エステル塩等のアニオン性界面活性剤、アルキルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩等のカチオン性界面活性剤、アルキルアミノ酢酸ベタイン、アルキルアミドプロピルベタイン、アルキルスルホベタイン等の両性界面活性剤等が挙げられる。
【0010】
これらの中で、良好な防曇性を発現する点から、ポリグリセリン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、及び脂肪酸塩が好ましい。ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、そのラウリン酸エステルが更に好ましく、特にジグリセリンラウリン酸エステルが好ましい。又、蔗糖脂肪酸エステルとしては、そのラウリン酸エステルが更に好ましい。又、脂肪酸塩としては、混合脂肪酸塩が更に好ましく、 特に炭素数が12〜18の脂肪酸を主成分とした混合脂肪酸のナトリウム塩又はカリウム塩が好ましい。尚、 前記界面活性剤は、それぞれ単独でも2種以上を組み合わせてもよい。
【0011】
又、本発明の防曇性樹脂シートにおいて、防曇剤層を構成する(B)成分の親水性アクリル系共重合体としては、親水性基を有するアクリル系単量体に由来する構成繰返し単位を含むものであればよいが、該構成繰返し単位と、親水性基を有さないアクリル系単量体に由来する構成繰返し単位とからなる共重合体であるのが好ましい。
【0012】
その親水性基を有するアクリル系単量体としては、 水と相互作用が強い極性の原子団である親水性基、即ち、 水中で陽イオンとして解離するカチオン性基、陰イオンとして解離するアニオン性基、 或いは解離しない非イオン性基を有する公知のアクリル系単量体が挙げられる。
【0013】
そのカチオン性基を有するアクリル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル及びその塩、 (メタ)アクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロライド、2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド等が、又、そのアニオン性基を有するアクリル系単量体としては、例えば、 (メタ)アクリル酸及びその塩、(メタ)アクリル酸−2−スルホエチル及びその塩、ヒドロキシエチル(メタ)アクリロイルホスフェート及びその塩等が、又、非イオン性基を有するアクリル系単量体としては、 例えば、 ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。尚、ここで、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」又は/及び「メタクリル」を意味するものとする。
【0014】
尚、ここで、塩としては、アルカリ金属、アルカリ土金属、及びアルミニウム族等の金属、好ましくはLi、Na、K、Mg、Ca、及びAlの塩、並びに、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0015】
これら親水性基を有するアクリル系単量体の中で、本発明においては、防曇剤層の転写抑制の点から、 アニオン性基を有するアクリル系単量体、及び非イオン性基を有するアクリル系単量体が好ましく、 アニオン性基を有するアクリル系単量体としては、(メタ)アクリル酸及びその塩が、 非イオン性基を有するアクリル系単量体としては、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが、更に好ましい。
【0016】
又、その親水基を有さないアクリル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキル(炭素数1〜8の直鎖状及び分岐状)エステル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリロニトリル等が挙げられ、これらの親水基を有さないアクリル系単量体の中で、本発明においては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、及び(メタ)アクリロニトリルが好ましく、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが更に好ましい。
【0017】
以上の親水性アクリル系共重合体の中で、本発明においては、(メタ)アクリル酸の金属塩に由来する構成繰返し単位と、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構成繰返し単位とを含む共重合体であるのが好ましい。
【0018】
尚、本発明における(B)成分の親水性アクリル系共重合体としては、更に、架橋性アクリル系単量体に由来する構成繰返し単位を、共重合体がゲル化しない範囲で含んでいてもよく、これにより防曇剤層の耐水性や硬度を向上させることができる。その架橋性アクリル系単量体としては、 例えば、 N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンポリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールポリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0019】
又、本発明の防曇性樹脂シートにおいて、防曇剤層を構成する(C)成分のオキシエチレン骨格からなる重合体としては、エチレングリコールにエチレンオキサイドを縮合開環重合させて得られるポリエチレングリコール、及びエチレンオキサイドを開環重合して得られるポリエチレンオキサイドであって、通常、平均分子量が500以上のものが挙げられるが、 防曇維持性の点からポリエチレンオキサイドが好ましい。
【0020】
そのポリエチレンオキサイドとしては、以下に示す方法で測定した粘度平均分子量Mvが5万〜800万であるのが好ましく、7万〜600万であるのが更に好ましく、9万〜400万であるのが特に好ましい。ポリエチレンオキサイドの粘度平均分子量が前記範囲未満では、防曇剤層と樹脂シートとの密着性に起因すると考えられる防曇持続性が低下する傾向となり、一方、前記範囲超過では、防曇剤層としての透明性が低下する傾向となる。
【0021】
ここでいう粘度平均分子量Mvは、 F.E.Bailey Jr.et al.,J.Polym.Sci.,32,517(1958)に記載される次式を用いて、ポリエチレンオキサイド水溶液について、温度30℃で測定した固有粘度[η]から算出したものである。
[η]=1.25×10−4×Mv0.78
【0022】
本発明において、 防曇剤層を構成する(A)成分の前記界面活性剤、(B)成分の前記親水性アクリル系共重合体、 (C)成分の前記オキシエチレン骨格からなる重合体の各重量割合は、 (A)成分と、(B)成分と(C)成分との合計量との重量割合が、三成分の合計量に対して、(A)成分20〜97重量%、(B)成分と(C)成分との合計量80〜3重量%であるのが好ましく、(A)成分25〜95重量%、(B)成分と(C)成分との合計量75〜5重量%であるのが更に好ましく、(A)成分30〜93重量%、(B)成分と(C)成分との合計量70〜7重量%であるのが特に好ましい。(A)成分が前記範囲未満で、(B)成分と(C)成分との合計量が前記範囲超過では、防曇性自体が不十分となる傾向となり、一方、(A)成分が前記範囲超過で、(B)成分と(C)成分との合計量が前記範囲未満では、 防曇剤層と離型剤層間の混じり合い及び転写を十分に抑止できず、経時的な防曇性の低下を生じ易い傾向となる。
【0023】
又、(B)成分と(C)成分との重量割合が、両成分の合計量に対して、(B)成分5〜90重量%、(C)成分95〜10重量%であるのが好ましく、(B)成分10〜80重量%、(C)成分90〜20重量%であるのが更に好ましく、(B)成分20〜70重量%、(C)成分80〜30重量%であるのが特に好ましい。(B)成分が前記範囲未満で(C)成分が前記範囲超過では、 防曇剤層と離型剤層間の混じり合い及び転写を十分に抑止できず、経時的な防曇性の低下を生じ易い傾向となり、一方、 (B)成分が前記範囲超過で(C)成分が前記範囲未満では、 防曇剤層と樹脂シートとの密着性に起因すると考えられる防曇持続性が低下する傾向となる。
【0024】
本発明において、前記防曇剤層の膜厚は、5〜1,000mg/mであるのが好ましく、10〜500mg/mであるのが更に好ましく、20〜200mg/mであるのが特に好ましい。防曇剤層の膜厚が前記範囲未満では、防曇性自体が不十分となる傾向となり、一方、前記範囲超過では、シートが白化して外観が悪化する傾向となる。
【0025】
本発明の防曇性樹脂シートは、樹脂シートの少なくとも一方の面に、前記(A)、(B)、及び(C)成分を含有する防曇剤層が形成されてなり、他方の面にも同様の防曇剤層が形成されていて、両面に防曇性が賦与されたものであってもよいが、他方の面には、成形時の金型からの離型性や成形体同士の剥離性等の賦与のために、シリコーンオイル等を含む離型剤層が形成されたものであるのが好ましい。
【0026】
その離型剤層におけるシリコーンオイルとしては、例えば、メチル水素ポリシロキサン、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、ポリオキシアルキレン(炭素数2〜4)変性ジメチルポリシロキサン等から選択されたものであるのが好ましい。これらの中で、離型性及び安全衛生性等の点から、ジメチルポリシロキサン、及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレン変性ジメチルポリシロキサンが更に好ましく、 特にジメチルポリシロキサンが好ましい。
【0027】
又、シリコーンオイルは、25℃での粘度が、10〜100,000mm/sであるのが好ましく、50〜50,000mm/sであるのが更に好ましく、100〜30,000mm/sであるのが特に好ましい。又、シリコーンオイルは、それぞれ単独でも2種以上を組み合わせてもよい。
【0028】
尚、前記離型剤層には、本発明の効果を損なわない範囲で、前述の界面活性剤や、或いは必要に応じて、ブロッキング防止剤、帯電防止剤、粘度調節剤、消泡剤、紫外線吸収剤、着色防止剤、抗菌剤、及び顔料、染料等の着色剤等が添加されていてもよい。
【0029】
本発明において、前記離型剤層の膜厚は、1〜100mg/mであるのが好ましく、3〜70mg/mであるのが更に好ましく、5〜50mg/mであるのが特に好ましい。離型剤層の膜厚が前記範囲未満では、離型性自体が不十分となる傾向となり、一方、前記範囲超過でも離型性の向上は認められない。
【0030】
尚、本発明において、前記防曇剤層及び前記離型剤層の各膜厚の測定は、防曇性樹脂シート上の防曇剤、及び離型剤を洗浄して洗液を集め、重量法、ガスクロマトグラフィー法、高速液体クロマトグラフィー法等ですることができるが、膜厚既知のシートを標準サンプルとしてFT−IR(ATR法)により検量線を作成し、膜厚未知の測定値と比較する方法が簡便である。
【0031】
本発明の防曇性樹脂シートで対象となる樹脂シートとしては、防曇性の食品包装用透明容器に用いられる樹脂、例えば、ポリスチレン系樹脂、アモルファスポリエチレンテレフタレート(A−PET)等のポリエステル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ乳酸系樹脂、及びポリ塩化ビニル系樹脂等の熱可塑性樹脂の未延伸シート、一軸或いは二軸延伸シート等が挙げられる。これらの中で、二軸延伸ポリスチレン系樹脂シート、及び未延伸A−PETシートが好ましい。尚、樹脂シートとしての厚みは、0.1〜0.7mm程度であるのが好ましい。
【0032】
本発明の防曇性樹脂シートは、通常、必要により前記樹脂シート表面を公知の表面処理方法を用いて、例えばコロナ放電処理により表面張力を50〜60mN/mの範囲に調整し、又は、高周波処理等の処理を施した後、その一方の表面に、0.1〜5重量%程度の濃度に調整した前記(A)〜(C)成分の防曇剤を含有する水溶液を、スプレーコーター、エアーナイフコーター、スクィーズロールコーター、グラビアロールコーター、ナイフコーター等の公知の塗布方法で、乾燥膜厚が前記膜厚となる量で塗布し、熱風乾燥機等により乾燥させて防曇剤層を形成させ、次いで、他方の面に離型剤層を形成する場合、他方の面に、0.1〜5重量%程度の濃度に調整した離型剤液を同様の方法で、乾燥膜厚が前記膜厚となる量で塗布し、熱風乾燥機等により乾燥させて離型剤層を形成させることにより製造される。尚、防曇剤層と離型剤層の形成順序は逆であってもよい。製造された防曇性樹脂シートは、通常、防曇剤層を外側とし離型剤層を内側として両層が重合するように、ロール状に捲き取られて捲回物とされる。
【0033】
ロール状に捲き取られた防曇性樹脂シート捲回物は、捲き戻されながら、主として、真空成形法、圧空成形法等の熱成形法により、防曇剤層が内面となるように容器本体及び/又は蓋体等に賦形され、防曇性食品包装用容器の容器本体及び/又は蓋体として用いられる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。尚、以下の実施例、比較例で用いた防曇剤層形成用成分としての(A)界面活性剤、(B)親水性アクリル系共重合体、(C)オキシエチレン骨格からなる重合体、及び離型剤層形成用成分としての(D)シリコーンオイルを以下に示す。
【0035】
<(A)界面活性剤>
A−1;ジグリセリンラウリン酸エステル
A−2;混合脂肪酸ナトリウム塩(炭素数14〜18の脂肪酸が主成分)
A−3;蔗糖ラウリン酸エステル
<(B)親水性アクリル系共重合体>
B−1;メタクリル酸アルキルエステル/アクリル酸アルキルエステル/アクリル酸ナトリウム塩の三元共重合体
B−2;メタクリル酸アルキルエステル/アクリル酸アルキルエステル/ヒドロキシアルキルメタクリレート/メタクリル酸ナトリウム塩の四元共重合体
B−3;メタクリル酸アルキルエステル/アクリル酸アルキルエステル/エチレングリコールジメタクリレート/メタクリル酸ナトリウム塩の四元共重合体
【0036】
<(C)オキシエチレン骨格からなる重合体>
C−1;ポリエチレンオキサイド(粘度平均分子量10万〜17万)
C−2;ポリエチレンオキサイド(粘度平均分子量250万〜300万)
C−3;ポリエチレングリコール(平均分子量7400〜9000)
<シリコーンオイル>
D−1;ジメチルポリシロキサン(25℃での粘度10,000mm/s)
【0037】
又、以下の実施例、比較例における防曇性樹脂シートの性能評価は、以下の方法及び基準に従って行った。特に断りがない限り「○」以上が本発明の対象レベルである。
【0038】
<シートのベタツキ>
防曇性樹脂シートの防曇剤層面を指で押さえ、引き離した時のベタツキ感を以下の基準で評価した。
◎:殆どベタツキを感じない。
○:ベタツキを感じるが、実用上許容できるレベルにある。
△:ベタツキがやや強く、指紋の跡がはっきり残る。
×:ベタツキが激しく、ヌルヌルしている。
【0039】
<シートの透明性>
防曇性樹脂シートの曇価(ヘーズ)を、JIS K7105に準拠して、ヘーズメーター(日本電色工業社製「NDH−300A」を用いて測定(n=5の平均値)し、そのヘーズ値と、肉眼により観察したシート外観の両方を、以下の基準で評価した。
◎:ヘーズ1.5未満、又は白いムラ(転写模様)が全く見られない。
○:ヘーズ1.5〜2未満、又はうっすらとした白いムラ(転写模様)が見られる。
△:ヘーズ2〜3未満、又は白いムラ(転写模様)が目立つ。
×:ヘーズ3以上、又はくっきりとした白いムラ(転写模様)が見られる。
【0040】
<蓋体の低温防曇性>
ポリスチレンシートから開口部180mm×120mm、深さ20mmに熱成形した容器本体(嵌合タイプ)に23℃の水150ccを入れ、一方、本発明の防曇性樹脂シートから、防曇剤層が内面となるように開口部180mm×120mm、深さ30mmに熱成形した蓋体(嵌合タイプ)で蓋をして、5℃のショーケース内に静置し、30分後、及び3時間後における蓋体内面の曇りの発生状況、液膜・水滴の付着状況を目視観察し、それぞれ初期防曇性、防曇持続性として、以下の基準で評価した。
◎:蓋体に曇りがなく、液膜が均一であり、内容物の視認性が良好なレベル。
○:蓋体に曇りはなく、液膜が不均一でやや水滴の付着が見られるが、内容物の視認性は問題ないレベル。
△:蓋体に曇りはないが、液膜が不均一でかなりの水滴付着が見られ、内容物の視認性に問題があるレベル。
×:蓋体の一部に曇りが見られるか、蓋体のほぼ全面で水滴付着が激しく内容物の視認が困難なレベル。
【0041】
<蓋体の高温防曇性>
ポリスチレンシートから開口部180mm×120mm、深さ20mmに熱成形した容器本体(嵌合タイプ)に80℃のお湯150ccを入れ、一方、本発明の防曇性樹脂シートから、防曇剤層が内面となるように開口部180mm×1205mm、深さ30mmに熱成形した蓋体(嵌合タイプ)で蓋をして、23℃雰囲気に静置し、2分後、及び1間後における蓋体内面の曇りの発生状況、液膜・水滴の付着状況を目視観察し、それぞれ初期防曇性、持続防曇性として、以下の基準で評価した。
◎:蓋体に曇りがなく、液膜が均一であり、内容物の視認性が良好なレベル。
○:蓋体に曇りはなく、液膜が不均一でやや水滴の付着が見られるが、内容物の視認性は問題ないレベル。
△:蓋体に曇りはないが、液膜が不均一でかなりの水滴付着が見られ、内容物の視認性に問題があるレベル。
×:蓋体の一部に曇りが見られるか、蓋体のほぼ全面で水滴付着が激しく内容物の視認が困難なレベル。
【0042】
実施例1〜4、比較例1〜2
二軸延伸ポリスチレンシート(厚み0.3mm)の一方の面にコロナ処理を施した後、コロナ処理した面に、表1に示す組成の防曇剤の水溶液を、他方の面に、表1に示す離型剤のエマルジョンを、それぞれスプレーコーターで塗布し、塗工面を均一化し、乾燥させた後、防曇剤層を外側とし離型剤層を内側としてロール状に捲き取って捲回物とした。巻き取った直後の捲回物を捲き戻してシートをサンプリングし、防曇剤層の膜厚、及び離型剤層の膜厚をFT−IR(ATR法)により測定し、結果を表1に示した。尚、膜厚の測定は、防曇剤層については1730cm−1付近の、離型剤層については1260cm−1付近の各特性吸収と、ポリスチレンの1940cm−1付近の特性吸収との比を、防曇剤組成又は離型剤組成、及び各膜厚が既知のシートから作成した検量線と比較することで定量した。
【0043】
一方、巻き取った捲回物を室温で約2ヶ月間保管した後、捲き戻したシートのベタツキ、透明性、及び熱成形した蓋体の防曇性を、前述の方法で評価し、結果を表1に示した。
【0044】
実施例5〜6、比較例3
未延伸A−PETシート(厚み0.3mm)の一方の面に、表1に示す組成の防曇剤の水溶液を、他方の面に、表1に示す離型剤のエマルジョンを、それぞれスプレーコーターで塗布し、塗工面を均一化し、乾燥させた後、防曇剤層を外側とし離型剤層を内側としてロール状に捲き取って捲回物とした。巻き取った直後の捲回物を捲き戻してシートをサンプリングし、防曇剤層の膜厚、及び離型剤層の膜厚をFT−IR(ATR法)により測定し、結果を表1に示した。尚、膜厚の測定は、防曇剤層については1730cm−1付近の、離型剤層については1260cm−1付近の各特性吸収と、A−PETの特性吸収との比を、防曇剤組成又は離型剤組成、及び各膜厚が既知のシートから作成した検量線と比較することで定量した。
【0045】
一方、巻き取った捲回物を室温で約2ケ月間保管した後、捲き戻したシートのベタツキ、透明性、及び熱成形した蓋体の防曇性を、前述の方法で評価し、結果を表1に示した。
【0046】
【表1】

【0047】
比較例1、2、及び3より、防曇剤層としては、界面活性剤の他に、高分子化合物として、親水性アクリル系共重合体とオキシエチレン骨格からなる重合体が必要であることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の容器に用いる防曇性樹脂シートは、ロール状に捲き取った捲回物の保管時における防曇剤層と離型剤層との混じり合い、 及び捲回物を捲き戻して成形に供する際の防曇剤層と離型剤層間の転写が抑制され、シートや成形体としての外観の低下等が抑制されると共に、食品包装用透明容器等としたときの低温及び高温防曇性の低下をも抑制されるので、熱成形により防曇性食品包装用透明容器等として用いるに好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂シートの少なくとも一方の面に、下記の(A)、(B)、及び(C)成分を含有する防曇剤層が形成されていることを特徴とする防曇性樹脂シートからなる容器。
(A)界面活性剤
(B)親水性アクリル系共重合体
(C)オキシエチレン骨格からなる重合体
【請求項2】
(A)成分の界面活性剤が、ポリグリセリン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、及び脂肪酸塩よりなる群から選択された少なくとも1種を含む請求項1に記載の容器。
【請求項3】
(B)成分の親水性アクリル系共重合体が、(メタ)アクリル酸塩に由来する構成繰返し単位を含む共重合体である請求項1又は2に記載の容器。
【請求項4】
(C)成分のオキシエチレン骨格からなる重合体が、粘度平均分子量5万〜800万のポリエチレンオキサイドである請求項1乃至3にいずれかに記載の容器。
【請求項5】
(A)成分と、(B)成分と(C)成分との合計量との重量割合が、三成分の合計量に対して、(A)成分97〜20重量%、(B)成分と(C)成分との合計量3〜80重量%であり、且つ、(B)成分と(C)成分との重量割合が、両成分の合計量に対して、(B)成分5〜90重量%、(C)成分95〜10重量%である請求項1乃至4のいずれかに記載の容器。
【請求項6】
樹脂シートの他方の面に、離型剤層が形成されている請求項1乃至5のいずれかに記載の容器。

【公開番号】特開2008−214635(P2008−214635A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−57650(P2008−57650)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【分割の表示】特願2004−165856(P2004−165856)の分割
【原出願日】平成16年6月3日(2004.6.3)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】