説明

防曇性物品および該防曇性物品の製造方法

【課題】優れた防曇性能と耐久性を兼ね備え、種々の環境下で、優れた防曇性能を長期間持続できる防曇性物品および該防曇性物品の製造方法を提供する。
【解決手段】基体2と、該基体2の表面に防曇膜5とを有する防曇性物品1であって、防曇膜5は、基体2の表面に順次積層された低吸湿性架橋樹脂層3と高吸湿性架橋樹脂層4とを有しており、低吸湿性架橋樹脂層3は、膜厚が1.0μm以上、飽和吸湿量が10mg/cm以下であり、かつ防曇膜5の飽和吸湿量が20mg/cm以上であることを特徴とする防曇性物品1。また、架橋性成分と硬化剤とを含む液状組成物を基体表面に塗布後、反応させて低吸湿性架橋樹脂層を形成し、その後に、架橋性成分と硬化剤とを含む液状組成物を、低吸湿性架橋樹脂層表面に塗布後、反応させて高吸湿性架橋樹脂層を形成する、防曇性物品1の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば、ガラスやプラスチック等の透明基体に、微細な水滴が付着して透明性が損なわれることを防ぐ、防曇性物品および該防曇性物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、ガラスやプラスチック等の透明な基体は、基体表面が露点温度以下になった場合、表面に微細な水滴が付着し、該水滴によって透過光が散乱されるため、透明性が損なわれる、いわゆる「曇り」の状態となる。曇りを防ぐ手段としては、これまで種々の提案がなされている。
【0003】
特許文献1には、基体表面を界面活性剤で処理して表面張力を下げることにより、基体表面の曇りを防ぐ方法が示されている。しかし、この方法は、界面活性剤を基体表面に固定するのが難しく、長期間にわたり表面張力を維持することが困難である。
また、基体表面に親水性基を付与するための処理を行い、基体表面を親水性にすることにより曇りを防ぐ方法が示されている(特許文献2、3)。この方法では、たとえば、金属酸化物粒子を含有する親水性樹脂や親水性無機化合物が用いられるが、いずれの場合も特に無機系の汚れが吸着固定され易く、長期間親水性を維持することが困難である。
【0004】
また、基体にヒーター等を設置して加温することにより、基体表面を露点温度以上に維持して曇りを防ぐ方法もある。しかし、この技術では、防曇性能は半永久的に持続できるものの、通電に伴うエネルギーを常に必要とするため非常に高コストとなってしまう。
その他、基体表面に撥水性化合物を処理し、基体表面に微小水滴が付着するのを防ぐ方法がある。しかし、充分な防曇性能を得るには、直径1mm以下の極微小な水滴であっても滑落させられる、または付着を防げるという程の高い撥水性が必要であり、このような高い撥水性は達成されていない。
【0005】
特許文献4には、基体表面に吸湿性化合物の層を設け、基体表面の雰囲気湿度を低減することにより、基体表面の曇りを防止する方法が示されている。この方法では、例えば、吸湿性樹脂が用いられる。しかし、吸湿性樹脂は、防曇性能には優れている一方で、耐摩耗性及び耐候性が劣るという問題がある。ただし、樹脂表面を疎水的に設計すれば、特に無機系の汚れを防ぐ効果に優れ、防曇性能を長期間維持するのが容易となる。
以上のことから、防曇性能を低コストで実現し、かつそれを容易に持続させるには、吸湿性樹脂が有用であると考えられる。
【0006】
吸湿性樹脂を用いる方法としては、防曇性能と耐摩耗性とを兼ね備えた、界面活性剤とトリアルカノールアミンとを有するウレタン樹脂を形成する塗布剤および該塗布剤による防曇性膜が示されている(特許文献5)。
また、防曇性能と耐アルカリ性とを兼ね備えた方法として、アルキレン基を有する加水分解性シランと、加水分解性ジルコニウムまたは加水分解性チタニウムとからなるプライマー層上に、吸湿性および/または親水性樹脂膜を塗布する方法が示されている(特許文献6参照)。
【特許文献1】特開2003−238207号公報
【特許文献2】特開2001−356201号公報
【特許文献3】特開2000−192021号公報
【特許文献4】特開2002−53792号公報
【特許文献5】特開2004−269851号公報
【特許文献6】国際公開第05/056488号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献5の技術では、界面活性剤を基体に固定することが難しく、防曇性能を長期間にわたり充分に維持することが困難な場合があった。また、特許文献6の技術では、形成される2層膜の耐湿性、耐酸性及び耐アルカリ性が充分でなかった。したがって、防曇性能に優れ、さらに各種耐久性を兼ね備えた防曇性物品が望まれている。
そこで本発明は、優れた防曇性能に加えて、耐摩耗性、密着性、耐汚染性、耐酸性、耐アルカリ性といった耐久性を兼ね備え、種々の環境下で、優れた防曇性能を長期間持続できる防曇性物品および該防曇性物品の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、基体と、該基体表面に防曇膜とを有する防曇性物品であって、防曇膜は、基体表面に順次積層された低吸湿性架橋樹脂層と、該低吸湿性架橋樹脂層よりも飽和吸湿量の高い高吸湿性架橋樹脂層とを有しており、低吸湿性架橋樹脂層は、膜厚が1.0μm以上、飽和吸湿量が10mg/cm以下であり、かつ防曇膜の飽和吸湿量が20mg/cm以上であることを特徴とする防曇性物品を提供する。
【0009】
本発明の防曇性物品では、基体は、ソーダライムガラスであるのが好ましい。また、低吸湿性架橋樹脂層および高吸湿性架橋樹脂層は、共にポリエポキシド類と硬化剤との反応により形成される架橋性樹脂であるのが好ましい。
また、本発明の防曇性物品の製造方法は、架橋性成分と硬化剤とを含む液状組成物を基体表面に塗布後に、反応させることにより、架橋性樹脂からなる低吸湿性架橋樹脂層を形成させ、その後に、架橋性成分と硬化剤とを含む液状組成物を、基体表面に形成された低吸湿性架橋樹脂層の表面に塗布後に、反応させることにより、架橋性樹脂からなる高吸湿性架橋樹脂層を形成させる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の防曇性物品は、優れた防曇性能を示し、かつ耐摩耗性、密着性、耐汚染性、耐酸性、耐アルカリ性といった耐久性を兼ね備え、種々の環境下で、防曇性能を長期間持続できる。また、本発明の製造方法によれば、前記防曇性物品が製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の防曇性物品1は、図1に示すように、基体2の表面に防曇膜5が設けられている。防曇膜5は、低吸湿性架橋樹脂層3と高吸湿性架橋樹脂層4とから構成されている。
[基体2]
基体2としては、たとえば、ガラス、プラスチック、金属、セラミックス、またはこれらの組み合わせ(複合材料、積層材料等)からなる基体であるのが好ましく、ガラス若しくはプラスチックからなる透明基体、または鏡であるのがより好ましい。ガラスとしては、ソーダライムガラスが特に好ましい。
基体2の形状は平板でもよく、全面または一部が曲率を有していてもよい。基体2の厚さは防曇性物品の用途により適宜選択できるが、一般的には1〜10mmであるのが好ましい。
【0012】
また、基体2は、表面に反応性基を有することが好ましい。反応性基としては、親水性基が好ましく、親水性基としては水酸基が好ましい。また、基体に酸素プラズマ処理、コロナ放電処理、オゾン処理等を施し、表面に付着した有機物を分解除去したり、表面に微細な凹凸構造を形成させたりすることにより、基体表面を親水性としてもよい。ガラスや金属酸化物は通常、表面に水酸基を有している。
【0013】
また、基体2は、低吸湿性架橋樹脂層3との密着性を高める目的で、ガラス等の表面にシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア等の金属酸化物薄膜や有機基含有金属酸化物薄膜が設けられたものでもよい。
金属酸化物薄膜は、加水分解性基を有する金属化合物を用い、ゾルゲル法で形成できる。金属化合物としては、テトラアルコキシシラン、テトライソシアネートシラン、またそのオリゴマー等が好ましい。
有機基含有金属酸化物薄膜は、有機金属系カップリング剤で基体表面を処理することにより得られる。有機金属系カップリング剤としては、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤等が使用でき、シラン系カップリング剤を用いるのが好ましい。以下、基体表面をあらかじめ処理するためのカップリング剤を「表面処理用カップリング剤」とする。
【0014】
[防曇膜5]
防曇膜5の飽和吸湿量は20mg/cm以上である。また、防曇膜5の飽和吸湿量は、45〜150mg/cmであるのが好ましく、60〜100mg/cmであるのがさらに好ましい。飽和吸湿量が下限値以上であることにより高い防曇性能が得られる。一方、飽和吸湿量が上限値以下であることにより吸湿時の耐久性や密着性が下がるのを防ぎやすい。
【0015】
低吸湿性架橋樹脂層3は、低吸湿性の架橋性樹脂で構成されている。架橋性樹脂とは、3次元網目構造を有する非線状の重合体であり、2以上の架橋性基を有するモノマー、オリゴマー、ポリマーである架橋性成分が架橋されて3次元網目構造が形成されたものであるのが好ましい。
【0016】
低吸湿性架橋樹脂層3を形成する架橋性樹脂としては、たとえば、デンプン系樹脂、セルロース系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、架橋ポリウレタンが挙げられる。
デンプン系樹脂としては、たとえば、デンプン−アクリロニトリルグラフト重合体加水分解物、デンプン−アクリル酸グラフト重合体等の複合体が挙げられる。
セルロース系樹脂としては、セルロース−アクリロニトリルグラフト重合体、カルボキシメチルセルロースの架橋体が挙げられる。
ポリビニルアルコール系樹脂としては、たとえば、ポリビニルアルコール架橋重合体が挙げられる。
アクリル系樹脂としては、たとえば、ポリアクリル酸ナトリウム架橋体、ポリアクリル酸エステル架橋体が挙げられる。
ポリエーテル系樹脂としては、たとえば、ポリエチレングリコール・ジアクリレート架橋重合体、ポリアルキレンオキシド−ポリカルボン酸架橋体が挙げられる。
架橋ポリウレタンとしては、たとえば、ポリエーテルポリオールやポリエステルポリオールとポリイソシアネートとの反応物が挙げられる。
低吸湿性架橋樹脂層3を形成する架橋性樹脂は、接着性の点から、上層となる高吸湿性架橋樹脂層4と同じ種類であることが好ましい。
【0017】
高吸湿性架橋樹脂層4は、低吸湿性架橋樹脂層3と同様に吸湿性の架橋性樹脂からなるが、高吸湿性架橋樹脂層4の飽和吸湿量(単位体積当たりの飽和吸湿量)は低吸湿性架橋樹脂層3よりも大きい。高吸湿性架橋樹脂層4を形成する架橋性樹脂としては、特に限定されないが、低吸湿性架橋樹脂層3と同じものが挙げられる。また、高吸湿性架橋樹脂層4は、JIS R 3212に従って実施した耐摩耗性試験による試験前後のヘイズ値の変化が20%以下であるのが好ましい。
【0018】
低吸湿性架橋樹脂層3の飽和吸湿量は10mg/cm以下である。低吸湿性架橋樹脂層3の飽和吸湿量は5mg/cm以下であるのが好ましく、1mg/cm以下であるのがさらに好ましい。低吸湿性架橋樹脂層3の飽和吸湿量が10mg/cm以下であれば、基体2から防曇膜5が剥離するのを防げ、結果として、耐酸性・耐アルカリ性に優れる。
高吸湿性架橋樹脂層4の飽和吸湿量は低吸湿性架橋樹脂層3よりも大きい。高吸湿性架橋樹脂層4の飽和吸湿量は、20mg/cm以上であるのが好ましく、45mg/cm以上であるのがより好ましい。これにより、防曇膜5全体として必要な飽和吸湿量が確保し易くなる。一方、防曇膜5の耐久性が低くなるのを防ぐ観点から、高吸湿性架橋樹脂層4の飽和吸湿量は、150mg/cm以下であるのが好ましく、100mg/cm以下であるのがより好ましい。
【0019】
低吸湿性架橋樹脂層3の膜厚は、1.0μm以上であり、5μm以上であるのが好ましく、10μm以上であるのがより好ましい。低吸湿性架橋樹脂層3の膜厚が1.0μm以上であれば、基体2から防曇膜5が剥離するのを防げ、結果として、耐酸性・耐アルカリ性に優れる。また、高吸湿性架橋樹脂層4の膨張・収縮に起因して界面に発生する応力を緩和するという理由からも、低吸湿性架橋樹脂層3の膜厚は、5μm以上であるのが好ましく、10μm以上であるのがより好ましい。
高吸湿性架橋樹脂層4の膜厚は、3μm以上であるのが好ましく、10μm以上であるのがより好ましい。これにより、防曇膜5全体として必要な飽和吸湿量が確保し易くなる。一方、防曇膜5の耐久性が低くなるのを防ぐ観点から、高吸湿性架橋樹脂層4の膜厚は、50μm以下であるのが好ましく、30μm以下であるのがより好ましい。
低吸湿性架橋樹脂層3の膜厚を1.0μm以上、飽和吸湿量を10mg/cm以下とし、さらに防曇膜5の飽和吸湿量を20mg/cm以上とすれば、高い防曇性能と耐久性が両立できる。
【0020】
架橋性樹脂の飽和吸湿量は、架橋性樹脂中の親水性基の量に比例するので親水性基の量を調節することにより制御できる。親水性基としては、たとえば、水酸基、カルボキシ基、スルホニル基、アミド基、アミノ基、四級アンモニウム塩基、オキシアルキレン基が挙げられる。架橋性樹脂中の親水性基の量は、架橋性成分および硬化剤に含まれる親水性基の量(たとえば、水酸基価)を調節することにより制御できる。また、架橋反応によって親水性基が形成されるような場合には、架橋性成分および硬化剤の官能基数や架橋度を調節することにより飽和吸湿量が制御できる。
【0021】
また、飽和吸湿量は架橋性樹脂中の架橋度にも依存する。ある単位量当たりの架橋性樹脂に含まれる架橋点の数が多ければ、架橋性樹脂が緻密な3次元網目構造となり、保水のための空間が小さくなるため吸湿性が低くなると考えられる。一方、単位量当たりに含まれる架橋点が少なければ、保水のための空間が大きくなり、吸湿性が高くなると考えられる。架橋性樹脂のガラス転移点は、架橋性樹脂中の架橋点の数と関連が深く、一般に、ガラス転移点が高い樹脂は、ある単位量当たりに含まれる架橋点の数が多いと考えられる。
【0022】
したがって、防曇性能を高くするには、架橋性樹脂のガラス転移点を低くするのがよく、耐久性を高めるには、架橋性樹脂のガラス転移点を高くするのがよい。
以上のことから、低吸湿性架橋樹脂層3を形成する架橋性樹脂のガラス転移点は、架橋性樹脂の種類にもよるが、10〜200℃であるのが好ましく、30〜150℃であるのがより好ましい。また、高吸湿性架橋樹脂層4を形成する架橋性樹脂のガラス転移点は、架橋性樹脂の種類にもよるが、50〜200℃であるのが好ましく、90〜150℃であるのがより好ましい。低吸湿性架橋樹脂層3および高吸湿性架橋樹脂層4を形成する架橋性樹脂のガラス転移点をこの範囲とすれば、防曇性能と耐久性とを高いレベルで両立させ易い。
【0023】
ガラス転移点は、JIS K 7121に準拠して測定した値である。具体的には、基体上に低吸湿性架橋樹脂層3または高吸湿性架橋樹脂層4を設け、これを20℃、相対湿度50%の環境下に1時間放置した後、示差走査熱量計を用いて測定した値である。ただし、測定時の加熱速度は10℃/分とする。
【0024】
本発明の防曇性物品1が防曇性能と耐久性を兼ね備えている理由は、以下のように考えられる。
一般に、基体表面に吸湿性架橋樹脂層を形成させる場合、吸湿により発現する防曇性能は、形成した吸湿性架橋樹脂層の吸湿性と相関する。吸湿性架橋樹脂層の吸湿性が高いほど、基体表面に形成した吸湿性架橋樹脂層表面の雰囲気湿度を低減させる効果が長期間持続するため、防曇性能が高くなる。また、吸湿性架橋樹脂層は、吸湿するときに膨張し、放湿するときに収縮する。そのため、高い防曇性能を有する吸湿性架橋樹脂層は、大きな膨張・収縮を繰り返すこととなり、基体と吸湿性架橋樹脂層との接着界面に界面応力が蓄積し、密着性が低下する傾向が高く、吸湿性架橋樹脂層の剥離等が起こる場合がある。
また、吸湿性架橋樹脂層は、吸湿時に、水と共に洗浄剤や飲料水に由来するアルカリイオン、酸性イオンを内部に取り込む。アルカリイオンや酸性イオンが基体と吸湿性架橋樹脂層との接着界面へと移行すると、基体表面の反応性基と架橋性樹脂との結合が切断され、吸湿性架橋樹脂層の剥離や分解が起こる場合がある。また、基体がソーダライムガラスである場合には、吸湿性架橋樹脂層が水を取り込んで接着界面に水が移行すると、基体からアルカリ成分が出てくるため同様の問題が生じる。
【0025】
これに対し、本発明の低吸湿性架橋樹脂層3は、飽和吸湿量が小さく、膨張・収縮の程度が小さいため、基体2との密着性が高い。また、低吸湿性架橋樹脂層3は高吸湿性架橋樹脂層4と同様の架橋性樹脂からなるため、高吸湿性架橋樹脂層4との密着性も高く、高吸湿性架橋樹脂層4の膨張・収縮に追従することができる。また、低吸湿性架橋樹脂層3は、一定の膜厚を有するため、基体2と高吸湿性架橋樹脂層4との間での大きな界面応力の蓄積が緩和でき、基体2から防曇膜5が剥離するのを防げる。
また、本発明の防曇性物品1では、飽和吸湿量が小さく膜厚の大きな低吸湿性架橋樹脂層3が設けられるため、高吸湿性架橋樹脂層4が水と共に取り込んだアルカリイオン、酸性イオン等が、低吸湿性架橋樹脂層3と基体2との間にくるのを阻害でき、基体2と防曇膜5との間の結合が切断されることがほとんどない。そのため、基体2から防曇膜5が剥離するのが防げる。同様に、低吸湿性架橋樹脂層3と基体2の間に水が移行してくることも防げるため、基体2がガラスであっても、基体からのアルカリ成分による防曇膜5の剥離等の問題がほとんど起きなくなる。
【0026】
[防曇膜5の形成方法]
低吸湿性架橋樹脂層3の形成方法としては、(1)架橋性成分と硬化剤とを基体2表面で反応させる方法、(2)架橋性成分をフィルム状に成形し、基体2表面と該フィルムとを硬化剤を用いて結合させる方法、および(3)低吸湿性架橋樹脂層3を形成する架橋性樹脂をフィルム状に成形し、該フィルムを基体2と貼り合わせる方法等が挙げられる。
高吸湿性架橋樹脂層4の形成方法としては、低吸湿性架橋樹脂層3の形成方法と同様に、(1)架橋性成分と硬化剤とを低吸湿性架橋樹脂層3表面で反応させる方法、(2)架橋性成分をフィルム状に成形し、低吸湿性架橋樹脂層3表面と該フィルムとを硬化剤を用いて結合させる方法、および(3)高吸湿性架橋樹脂層4を形成する架橋性樹脂をフィルム状に成形し、該フィルムを低吸湿性架橋樹脂層3と貼り合わせる方法等が挙げられる。
なかでも、(1)または(2)の方法が好ましく、大面積の基体表面に低吸湿性架橋樹脂層3および高吸湿性架橋樹脂層4を設ける場合や工業的量産の際に良好な外観を維持できることから(1)の方法がより好ましい。
【0027】
以下、(1)の方法について詳述する。まず、低吸湿性架橋樹脂層3用の、架橋性成分と硬化剤とを必須成分とする組成物(以下、液状組成物Aとする)を基体2の表面に塗布し、乾燥し、反応させて低吸湿性架橋樹脂層3を形成する。その後、高吸湿性架橋樹脂層4用の、架橋性成分と硬化剤とを必須成分とする組成物(以下、液状組成物Bとする)を低吸湿性架橋樹脂層3の表面に塗布し、乾燥、反応させ、高吸湿性架橋樹脂層4を形成する。
【0028】
液状組成物Aおよび液状組成物Bは、塗布作業性を向上させるために溶剤を含むことが好ましい。よって、溶剤を含む液状組成物A、液状組成物Bを調製して、基体2表面または低吸湿性架橋樹脂層3表面に塗布し、乾燥して、反応させるのがよい。また、溶剤中で、架橋性成分と硬化剤とを予めある程度反応させた、液状組成物A、液状組成物Bを、基体2表面または低吸湿性架橋樹脂層3表面に塗布し、乾燥して、さらに反応させてもよい。溶剤中で、架橋性成分と硬化剤とを予めある程度反応させる場合には、予め反応させるときの反応温度は、40℃以上とすれば架橋反応が確実に進行するため好ましい。
【0029】
架橋性成分は、架橋性基を有するモノマー、オリゴマーまたはポリマーであって、後述する硬化剤の存在下に反応して架橋性樹脂となるものであれば特に限定されない。架橋性基としては、たとえば、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、アミノ基、ウレイド基、クロロ基、チオール基、スルフィド基、水酸基、カルボキシ基、および酸無水物基が挙げられる。なかでも、カルボキシ基、エポキシ基、および水酸基が好ましく、エポキシ基がより好ましい。架橋性成分が有する架橋性基の数は、本発明において必要とされる防曇性能および耐久性を満足する限り何個であってもよい。また、架橋性成分は1種のみを使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
架橋性成分が架橋性基を有するモノマーまたはオリゴマーである場合は、1分子中に含まれる架橋性基の数は2個以上であるのが好ましく、2〜10個であるのがより好ましい。場合によっては、架橋性基を1個だけ有する成分を含んでいてもよいが、その場合には、架橋性成分における1分子当たりの平均の架橋性基の数が1.5以上となるようにするのが好ましい。
【0031】
架橋性成分がモノマーまたはオリゴマーである場合、架橋性成分はポリエポキシド類であることが好ましい。ポリエポキシド類とは、架橋性基としてエポキシ基を有し、硬化剤との反応により架橋性樹脂となる成分である。ポリエポキシド類の平均エポキシ基数は2以上であり、2〜10であることが好ましい。
【0032】
ポリエポキシド類としては、たとえば、グリシジルエーテル化合物、グリシジルエステル化合物、およびグリシジルアミン化合物等のグリシジル化合物が挙げられる。なかでもグリシジルエーテル化合物が好ましく、脂肪族グリシジルエーテル化合物がより好ましい。グリシジルエーテル化合物としては、2官能以上のアルコールのグリシジルエーテルであることが好ましく、耐久性および防曇性能が良好になることから3官能以上のアルコールのグリシジルエーテルであることがより好ましい。また、これらのアルコールは、脂肪族アルコール、脂環式アルコール、または糖アルコールであることが好ましい。
【0033】
具体的には、たとえば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテルが挙げられる。また、ここで「ポリ」とは平均して2を超えるものであることを示す。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0034】
本発明における低吸湿性架橋樹脂層3としては、特に架橋密度に優れた架橋性樹脂が得られることから、6個以上の水酸基を有する脂肪族ポリオールのポリグリシジルエーテル(1分子当たり平均のグリシジル基が5を超えるもの)が好ましい。具体的には、ソルビトールポリグリシジルエーテルが挙げられる。
本発明における高吸湿性架橋樹脂層4としては、特に防曇性能の良好な架橋性樹脂が得られることから、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル等の、3個以上の水酸基を有する脂肪族ポリオールのポリグリシジルエーテル(1分子当たり平均のグリシジル基が2を超えるもの)が好ましい。
以上のように、本発明の防曇性物品1では、低吸湿性架橋樹脂層3および高吸湿性架橋樹脂層4が、共にポリエポキシド類であるのが好ましい。
【0035】
架橋性成分が架橋性基を有するポリマーである場合、後述する硬化剤と反応して架橋性樹脂になるものであれば特に制限はない。架橋性基を有するポリマーとしては線状のポリマーであることが好ましい。架橋性基としては、架橋性成分がモノマーおよびオリゴマーである場合と同様のものが例示でき、カルボキシ基、エポキシ基、および水酸基が好ましい。架橋性成分であるポリマーが有する架橋性基の数は、本発明において必要とされる防曇性能および耐久性を満足する限りは何個でもよく、通常は架橋性成分である高分子1モル当たり1〜20個することが好ましい。また、ポリマーの分子量は数平均分子量で500〜50000であることが好ましい。
【0036】
本発明における架橋性成分の架橋反応は、3次元網目構造の架橋性樹脂を形成できればよく、ラジカル重合、イオン重合、重縮合反応、重付加反応等が挙げられる。架橋性成分としてポリエポキシド類を使用する場合は、イオン重合または重付加反応であるのが好ましい。それぞれの反応に適した硬化剤を使用することにより、基体2の表面に強固な低吸湿性架橋樹脂層3および高吸湿性架橋樹脂層4を形成できる。
【0037】
本発明において好ましく使用される硬化剤は下記のいずれかである。硬化剤(α)は重付加反応に好適であり、硬化剤(β)はイオン重合に好適である。
硬化剤(α):架橋性成分が有する架橋性基と反応し得る反応性基を有する化合物であり、架橋性成分と反応して3次元網目構造の架橋性樹脂を形成する化合物。
硬化剤(β):架橋性成分の架橋反応を触媒することによって、3次元網目構造の架橋性樹脂の形成を促す化合物。
【0038】
硬化剤(α)の反応性基は、硬化剤(α)と組み合わせる架橋性成分の架橋性基の種類に応じ、該架橋性基と反応できる反応性基から選択される。硬化剤(α)の反応性基としては、たとえば、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、アミノ基、ウレイド基、クロロプロピル基、メルカプト基、スルフィド基、イソシアネート基、水酸基、カルボキシ基、酸無水物基が挙げられる。架橋性成分の架橋性基がカルボキシ基の場合には、硬化剤(α)の反応性基はアミノ基が好ましく、エポキシ基がより好ましい。架橋性成分の架橋性基が水酸基の場合には、硬化剤(α)の反応性基はエポキシ基やイソシアネート基が好ましい。また、架橋性成分の架橋性基がエポキシ基の場合には、硬化剤(α)の反応性基はカルボキシ基、アミノ基、酸無水物基、水酸基が好ましい。また、硬化剤(α)1分子が有する反応性基の数は平均1.5個以上であり、高吸湿性架橋樹脂層4の形成には、2〜8個であることが好ましい。硬化剤(α)の反応性基の数がこの範囲であれば、防曇性能と耐摩耗性とのバランスに優れた吸湿性架橋樹脂が得られる。
【0039】
硬化剤(α)は2種以上を併用できる。たとえば、主たる第1の硬化剤(α)と共に第2の硬化剤(α)を併用する場合には、第2の硬化剤(α)の反応性基は、架橋性成分の架橋性基と反応するだけでなく、第1の硬化剤(α)の反応性基と反応するものであってもよい。第1の硬化剤(α)と反応する第2の硬化剤(α)は、第1の硬化剤(α)を介して架橋性成分と結合する。このような第2の硬化剤(α)を併用することにより、架橋性成分と主たる第1の硬化剤(α)とによる架橋性樹脂の形成を促進できる。また、このとき、第2の硬化剤(α)の反応性基は、第1の硬化剤(α)の反応性基と同じであっても、異なってもよい。たとえば、エポキシ基を有する架橋性成分とアミノ基を有する第1の硬化剤(α)との組み合わせに、さらに水酸基を有する第2の硬化剤(α)や酸無水物基を有する第2の硬化剤(α)を併用することにより、架橋性樹脂の形成が促進される。また、この第2の硬化剤(α)は、架橋性成分の架橋反応を促進する他に、架橋性樹脂の物性を調節する目的でも使用できる。たとえば、第2の硬化剤(α)によって高吸湿性架橋樹脂層4の吸湿性を高めることができる。
【0040】
本発明で使用できる硬化剤(α)としては、たとえば、ポリアミン系化合物、ポリカルボン酸系化合物(ポリカルボン酸無水物を含む)、ポリオール系化合物、ポリイソシアネート系化合物、ポリエポキシ系化合物が挙げられる。これら硬化剤(α)は架橋性成分の架橋性基に応じて選択される。エポキシ基を有する架橋性成分の架橋に使用する硬化剤(α)としては、前記化合物のなかでもポリアミン系化合物が好ましい。また、ポリアミン系化合物の第1の硬化剤(α)と共に、第2の硬化剤(α)としてポリオール系化合物やポリカルボン酸無水物等を併用することも好ましい。
【0041】
ポリアミン系化合物としては、脂肪族ポリアミン系化合物、脂環式ポリアミン系化合物が好ましい。具体的には、たとえば、エチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、メンセンジアミン、メタフェニレンジアミン、ポリプロピレングリコールポリアミン、ポリエチレングリコールポリアミン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカンが挙げられる。
ポリカルボン酸系化合物としては、たとえば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸が挙げられる。
ポリオール系化合物としては、たとえば、多価アルコール−エチレンオキシド付加物、多価アルコール−プロピレンオキシド付加物、ポリエステルポリオール挙げられる。
ポリイソシアネート系化合物としてはヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートが挙げられる。
ポリエポキシ系化合物としては、たとえば、グリシジルエーテル化合物、グリシジルエステル化合物、およびグリシジルアミン化合物等のグリシジル化合物が挙げられる。なかでもグリシジルエーテル化合物が好ましく、脂肪族グリシジルエーテル化合物がより好ましい。グリシジルエーテル化合物としては、2官能以上のアルコールのグリシジルエーテルであることが好ましく、耐久性および防曇性能が良好になることから3官能以上のアルコールのグリシジルエーテルであることがより好ましい。また、これらのアルコールは、脂肪族アルコール、脂環式アルコール、または糖アルコールであることが好ましい。
具体的には、たとえば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテルが挙げられる。また、ここで「ポリ」とは平均して2を超えるものであることを示す。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。
【0042】
架橋性成分に対する硬化剤(α)の割合は、架橋性基と反応性基の数がほぼ等しくなる割合が適当であり、架橋性基に対する反応性基の当量比が0.8〜1.2程度になるのが好ましい。ただし、第2の硬化剤(α)や、架橋性成分や硬化剤(α)以外の、架橋反応系に共存する反応性化合物(例えば、アミノ基を有するシランカップリング剤)が存在する場合は、それらを含めた相互に反応する反応性基の架橋性基に対する当量比を0.8〜1.2程度とするのが適当である。また、たとえ架橋性樹脂中に残存しても差し支えない架橋性基や反応性基であれば、該反応性基の、他の反応性基に対する割合はさらに多くてもよい。
液状組成物Aや液状組成物Bがポリエポキシド類を含む場合は、該液状組成物に含まれるポリエポキシド類の含有量は、硬化剤の種類によって異なる。硬化剤として硬化剤(α)を用いる場合は、ポリエポキシド類、硬化剤(α)、およびカップリング剤との合計質量に対する、ポリエポキシド類の質量割合は40〜80質量%であるのが好ましい。また、このときの硬化剤の量は、架橋性成分、硬化剤(α)、およびカップリング剤の合計質量に対する硬化剤(α)の質量割合が10〜60質量%であるのが好ましい。
【0043】
前記のように、第2の硬化剤(α)は架橋性成分を架橋する他に、架橋性樹脂の物性調整のために使用することができる。たとえば、硬化剤であるアミン系化合物と反応する酸無水物系化合物を使用して、アミノ基と酸無水物基が反応した親水性の結合を架橋性樹脂にもたらすことができる。このときには、第2の硬化剤(α)中の1つの反応性基のみが反応した場合であっても機能が発揮される。また、架橋性樹脂の物性が調整できるものであれば、架橋性成分や第1の硬化剤(α)に結合し得る反応性基を1つだけ有する化合物であってもよい。この場合、この反応性基を1つだけ有する化合物は架橋機能を有しない化合物である。第1の硬化剤(α)に加えて、反応性基を1つ有する化合物を使用する場合、その量は第1の硬化剤(α)に対して等質量以下が好ましく、0.01〜0.5倍質量であるのがより好ましい。なお、第1の硬化剤(α)もまた架橋性樹脂の機能に影響を与えるものであり、その点で第2の硬化剤(α)との間に本質的な区別はない。
【0044】
硬化剤(β)は、架橋性成分の架橋反応を促進する物質であり、一般に重合触媒として知られている化合物が使用できる。硬化剤(β)としては、たとえば、ジシアンジアミド類、有機酸ジヒドラジド類、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール類、ジメチルベンジルアミン類、ホスフィン類、イミダゾール類、アリルジアゾニウム塩、アリルスルホニウム塩が挙げられる。なかでも、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール類、ホスフィン類、アリルスルホニウム塩が好ましい。
【0045】
硬化剤(β)の使用量は、架橋性成分の種類によっても異なるが、架橋性成分としてポリエポキシド類を用いた場合は、ポリエポキシド類に対して2〜20質量%であるのが好ましい。硬化剤(β)の使用量を2質量%以上とすれば、反応が充分に進行し、充分な吸湿性や耐久性が実現できる。また、硬化剤(β)使用量を20質量%以下であれば、得られる架橋性樹脂中に残渣が残存して架橋性樹脂の黄変等の外観上の問題が発生するのを防ぎ易い。
液状組成物Aや液状組成物Bがポリエポキシド類を含み、硬化剤として硬化剤(β)を用いる場合は、ポリエポキシド類、硬化剤(β)、およびカップリング剤との合計質量に対する、ポリエポキシド類の質量割合は60〜95質量%であるのが好ましい。また、このときの硬化剤(β)の量は、架橋性成分、硬化剤(β)、およびカップリング剤の合計質量に対する硬化剤(β)の質量割合が1〜40質量%であるのが好ましい。
【0046】
溶剤としては、架橋性成分や硬化剤等の成分の溶解性が良好な溶剤であり、かつこれらの成分に対して不活性な溶剤であれば特に限定されない。具体的には、たとえば、アルコール類、酢酸エステル類、エーテル類、ケトン類、水が挙げられる。
架橋性成分としてポリエポキシド類を使用する場合は、溶剤としてプロトン性溶剤を用いると、種類によっては溶剤とポリエポキシド類とが反応して架橋性樹脂が形成されにくい場合がある。したがって、プロトン性溶剤を使用する場合は、ポリエポキシド類と反応し難い溶剤を選択することが好ましい。使用可能なプロトン性溶剤としてはエタノールイソプロピルアルコールが挙げられる。また、溶剤としては、メチルエチルケトン、酢酸ブチル、プロピレンカーボネート、およびジエチレングリコールジメチルエーテルが好ましい。
【0047】
溶剤は1種のみを使用してもよく、2種以上を併用して用いてもよい。また、架橋性成分や硬化剤等の成分は溶剤との混合物として使用される場合がある。この場合には、該混合物中に含まれる溶剤を、液状組成物Aまたは液状組成物Bにおける溶剤としてもよく、さらに他の溶剤を加えて液状組成物Aまたは液状組成物Bとしてもよい。
また、液状組成物Aまたは液状組成物Bがポリエポキシド類を含む場合は、溶剤の量は、ポリエポキシド類、硬化剤、および後述のカップリング剤の合計質量に対して1〜5倍量であることが好ましい。
【0048】
本発明では、液状組成物Aを基体表面で反応させる際にカップリング剤を共存させておくことにより、基体2と低吸湿性架橋樹脂層3との密着性を向上させることができる。同様に、液状組成物Bを低吸湿性架橋樹脂層3表面で反応させる際にカップリング剤を共存させることにより、低吸湿性架橋樹脂層3と高吸湿性架橋樹脂層4との密着性を向上させることができる。また、前記のように基体2の表面をあらかじめカップリング剤(表面処理用カップリング剤)で処理しておくことによっても、基体2と低吸湿性架橋樹脂層3との密着性を向上させることができる。液状組成物Aおよび液状組成物Bにカップリング剤を配合することは必須ではない。しかし、たとえあらかじめ表面処理用カップリング剤で処理した基体2を使用する場合であっても、液状組成物Aおよび液状組成物Bにはカップリング剤を共存させておくことが好ましい。カップリング剤が架橋性成分または硬化剤と反応性のある官能基を有している場合は、密着性を向上させる目的以外に、低吸湿性架橋樹脂層3および高吸湿性架橋樹脂層4の物性を調整する目的でも使用できる。以下、液状組成物Aおよび液状組成物Bに配合するカップリング剤を単にカップリング剤とする。
液状組成物Aおよび液状組成物Bがポリエポキシド類を含む場合も、該液状組成物はカップリング剤を含んでいることが好ましく、カップリング剤としてはシラン系カップリング剤が好ましい。シラン系カップリング剤等のカップリング剤を添加することにより、基体2と低吸湿性架橋樹脂層3の密着性、および低吸湿性架橋樹脂層3と高吸湿性架橋樹脂層4との密着性を高めることができる。シラン系カップリング剤としては、前記のシラン系カップリング剤と同じのものが使用でき、好ましい態様も同じである。シラン系カップリング剤の使用量についても前記と同じ量で用いるのが好ましい。
【0049】
カップリング剤は、有機金属系カップリング剤または多官能の有機化合物であるのが好ましい。
有機金属系カップリング剤としては、たとえば、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤が挙げられ、シラン系カップリング剤が好ましい。これらカップリング剤は、架橋性成分の架橋性基、硬化剤の反応性基、および基体2の表面および低吸湿性架橋樹脂層3の表面に残存する反応性基と反応し得る反応性基を有することが好ましい。ここで、カップリング剤は金属原子−炭素原子間の結合を1個以上(好ましくは、1個または2個)有する化合物であることが好ましい。シラン系カップリング剤の場合には、ケイ素原子に1個の加水分解性基および3個の1価有機基(ただし、ケイ素原子に結合する末端は炭素原子である。)が結合している化合物、ケイ素原子に2個の加水分解性基および2個の1価有機基(ただし、ケイ素原子に結合する末端は炭素原子である。)が結合している化合物が好ましい。また、前記1価有機基としては、アルキル基のような炭化水素基であっても、官能基を有していてもよく、少なくとも1個は官能基を有しているのが好ましい。
【0050】
シラン系カップリング剤としては、たとえば、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシランが挙げられる。
なかでも、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、および3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランが好ましい。
【0051】
多官能の有機化合物とは、2個以上の官能基を有する有機化合物を意味し、架橋性成分の架橋性基、硬化剤の反応性基、基体2の表面および低吸湿性架橋樹脂層3の表面の反応性基と反応しうる反応性の基を2個以上有するものである。該反応性の基としては、たとえば、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、アミノ基、ウレイド基、クロロプロピル基、メルカプト基、スルフィド基、イソシアネート基、水酸基、カルボキシ基、酸無水物基が挙げられる。架橋性成分の架橋性基がエポキシ基である場合は、カップリング剤の反応性基はイソシアネート基、アミノ基、酸無水物基、エポキシ基、および水酸基が好ましく、イソシアネート基、エポキシ基がより好ましい。多官能の有機化合物としては、具体的には、ポリイソシアネート、ポリエポキシドが挙げられる。
【0052】
カップリング剤が多官能の有機化合物である場合、物質としては硬化剤(α)との区別はない。しかし、カップリング剤の役割と硬化剤(α)の役割とは異なる。すなわち、カップリング剤は基体2と低吸湿性架橋樹脂層3との密着性、低吸湿性架橋樹脂層3と高吸湿性架橋樹脂層4との密着性を向上させる役割を果たし、硬化剤(α)は架橋性成分と反応し、架橋性樹脂を形成する役割を果たす。
【0053】
液状組成物Aおよび液状組成物Bにおけるカップリング剤の使用量は、必須の成分でないことから下限はない。しかし、カップリング剤配合の効果を充分に発揮させるためには、架橋性成分と硬化剤とカップリング剤の合計質量に対して、カップリング剤の質量割合が0.1質量%以上であるのが好ましく、0.5質量%以上がより好ましい。カップリング剤の使用量の上限は、カップリング剤の物性や機能によって制限される。架橋性樹脂の密着性向上の目的で使用する場合は、架橋性成分と硬化剤とカップリング剤の合計質量に対するカップリング剤の質量割合が10質量%以下であるのが好ましく、5質量%以下がより好ましい。
【0054】
防曇性物品1において吸湿量が架橋性樹脂の限界量を超えた場合、用途によっては曇った状態になるよりも水膜となったほうがよい場合がある。その場合、高吸湿性架橋樹脂層4を形成する液状組成物Bに含まれるカップリング剤の量はできるだけ少ない方が好ましく、架橋性成分と硬化剤とカップリング剤の合計質量に対するカップリング剤の質量割合は、5質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましい。カップリング剤は一般的に疎水性を高めるためにプロピレンを含むことが多いが、カップリング剤の含有量を5%以下とすれば親水性が低下しすぎるのを防げる。一方、カップリング剤によって、または、硬化剤とカップリング剤によって架橋性樹脂の吸湿性等の物性を調整する場合は、比較的多量のカップリング剤を使用することがある。その場合、架橋性成分と硬化剤とカップリング剤の合計質量に対するカップリング剤の質量割合は、15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。カップリング剤の使用量が過剰にならないようにすれば、高温に曝されたときに酸化等により架橋樹脂が着色するのを防げる。
【0055】
低吸湿性架橋樹脂層3および高吸湿性架橋樹脂層4を、架橋性成分、硬化剤、溶剤、およびカップリング剤を含む液状組成物Aおよび液状組成物Bを使用して形成する場合、それらはそれぞれ適宜選択して使用することができ、たとえば以下に示す組み合わせ(溶剤の記載は省略)が採用できる。
(1)架橋性基としてエポキシ基を有する架橋性成分、アミノ基を有する硬化剤(α)、およびイソシアネート基やアミノ基やエポキシ基を有するカップリング剤の組み合わせ。
(2)架橋性基としてエポキシ基を有する架橋性成分、硬化剤(β)、およびイソシアネート基やアミノ基やエポキシ基を有するカップリング剤の組み合わせ。
(3)架橋性基としてカルボキシ基を有する架橋性成分、エポキシ基を有する硬化剤(α)、およびアミノ基やエポキシ基を有するカップリング剤の組み合わせ。
(4)架橋性基としてカルボキシ基を有する架橋性成分、アミノ基を有する硬化剤(α)、およびイソシアネート基やエポキシ基を有するカップリング剤の組み合わせ。
【0056】
ポリエポキシド類を含む液状組成物Aおよび液状組成物Bは、さらにフィラーを含んでいることが好ましい。フィラーを含むことによって、形成される架橋性樹脂の機械的強度、耐熱性を高めることができ、また架橋反応時の樹脂の硬化収縮を低減できる。フィラーとしては、金属酸化物からなるフィラーが好ましい。金属酸化物としては、たとえば、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニアが挙げられ、なかでもシリカが好ましい。このようなフィラーとしては、スノーテックスIPA−ST(日産化学工業社製)等が挙げられる。
また、前記のフィラーのほかに、ITO(Indium Tin Oxide)からなるフィラーも使用できる。ITOは赤外線吸収性を有するため、架橋性樹脂に熱線吸収性を付与できる。よって、ITOからなるフィラーを使用すれば、吸湿性に加えて熱線吸収による防曇効果も期待できる。
【0057】
フィラーは粒子状であることが好ましく、その平均粒子径は0.01〜0.3μmであり、0.01〜0.1μmであることが好ましい。また、フィラーの配合量は、ポリエポキシド類と硬化剤との合計質量に対して1〜20質量%であるのが好ましく、1〜10質量%がより好ましい。フィラーの配合量を1質量%以上とすれば、架橋性樹脂の硬化収縮の低減効果の低下を抑え易い。また、フィラーの配合量を20質量%以下とすれば、吸水するための空間が充分に確保でき、防曇性能を高くし易い。
【0058】
液状組成物A、液状組成物Bを、基体2表面または低吸湿性架橋樹脂層3表面に塗布する際は、液状組成物A、液状組成物Bの濡れ性によって塗膜の厚さが不均一になり、透視歪みを生じる場合がある。塗膜の厚さを均一にするためには、レベリング剤を添加することが好ましい。レベリング剤としては、たとえば、シリコーン系レベリング剤、フッ素系レベリング剤、界面活性剤が挙げられ、なかでもシリコーン系レベリング剤が好ましい。シリコーン系レベリング剤としては、たとえば、アミノ変性シリコーン、カルボニル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、およびアルコキシ変性シリコーン等が挙げられる。また、シリコーン系レベリング剤としてはアミノ変性シリコーンおよびポリエーテル変性シリコーンが好ましい。
その他、高吸湿性架橋樹脂層4を形成する液状組成物Bには、親水性を付与でき、防曇性能を向上させられる点から、オキシエチレン鎖、オキシプロピレン鎖等のオキシアルキレン鎖を有するシリコーン系レベリング剤を添加するのも好ましい。
【0059】
シリコーン系レベリング剤の添加量は、液状組成物Bに対して0.02〜1質量%とすることで濡れ性を改善でき、塗膜の厚さを均一にできる。また、シリコーン系レベリング剤の添加量は、塗膜の白濁が防ぎ易いことから、液状組成物Bの質量に対して0.02〜0.30質量%が好ましく、0.02〜0.10質量%がより好ましい。
【0060】
界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ベタイン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤のいずれを用いてもよい。界面活性剤がオキシエチレン鎖、オキシプロピレン鎖等のオキシアルキレン鎖を有する界面活性剤であれば、液状組成物Bに親水性を付与でき、防曇性能が向上する。
また、防曇性物品1において吸湿量が架橋性樹脂の限界量を超えた場合、用途によっては曇った状態になるよりも水膜となったほうがよい場合(洗面化粧台に使用する場合など)もある。この場合には、液状組成物Bに界面活性剤を添加する等により、吸湿量が飽和した際に水膜となる防曇性物品1を得ることができる。この目的で使用する界面活性剤は反応性基を有することが好ましい。反応性基を有することによって界面活性剤が架橋性樹脂の一部となり、効果がより高くなる。
【0061】
本発明の防曇性物品の製造方法としては、以上説明した液状組成物Aを基体2の表面に塗布し、乾燥し、反応させて低吸湿性架橋樹脂層3を形成し、その後に液状組成物Bを低吸湿性架橋樹脂層3の表面に塗布し、乾燥し、反応させて高吸湿性架橋樹脂層4を形成させるのが特に好ましい。該方法は、塗布前に予め架橋反応を行ってから塗布する方法に比べ、重合反応の制御が容易であり、得られる膜の架橋密度が調整し易いため、高い耐久性を有する防曇膜が得られ易い。また、液状組成物Aおよび液状組成物Bの安定性の低下もほとんどないため、経済性も高い。
ここで「塗布」としては、以下に示す方法が挙げられる。
液状組成物Aおよび液状組成物Bの、基体2表面や低吸湿性架橋樹脂層3表面への塗布方法としては、スピンコート、ディップコート、スプレーコート、フローコート、およびダイコート等が挙げられ、なかでもスプレーコート、フローコート、ダイコートが好ましい。
液状組成物Aを基体2の表面に塗布して得られる組成物層の厚さは3〜50μmであることが好ましく、乾燥後の膜厚は2〜40μmであることが好ましく、反応後に得られる低吸湿性架橋樹脂層3の厚さは1.0〜30μmであることが好ましい。
また、液状組成物Bを低吸湿性架橋樹脂層3の表面に塗布して得られる組成物層の厚さは10〜70μmであることが好ましく、乾燥後の膜厚は5〜60μmであることが好ましく、反応後に得られる高吸湿性架橋樹脂層4の厚さは3〜50μmであることが好ましい。
【0062】
「乾燥」とは、基体2または低吸湿性架橋樹脂層3の表面に塗布した前記液状組成物Aまたは液状組成物B中の溶剤を揮発させて除去することを意味する。乾燥条件は、液状組成物Aまたは液状組成物B中に含まれる溶剤の種類、塗膜の厚さ等により適宜設定され、たとえば、液状組成物Aまたは液状組成物Bを塗布した基体を、20〜100℃で1分間〜1時間保持することにより実施できる。
【0063】
また、「反応」とは、液状組成物Aまたは液状組成物B中に含まれる架橋性成分の架橋反応により架橋性樹脂を形成させることを意味する。この架橋反応は、基体2表面や低吸湿性架橋樹脂層3表面との結合形成反応を伴っていてもよい。防曇性物品1の耐久性の観点からは、架橋反応は基体2表面や低吸湿性架橋樹脂層3表面との結合形成反応を伴っているのが好ましい。「反応」は、たとえば、乾燥後の基体を80〜200℃で1分間〜1時間保持することにより実施できる。また、メタルハライドランプ、高圧水銀ランプ、ハロゲンランプ等を用いて紫外線または可視光線を照射することによっても実施できる。この場合の積算光量は、10〜1000mJ/cmが好ましい。
【0064】
本発明の防曇性物品1は、基体2の表面に低吸湿性架橋樹脂層3が形成され、該低吸湿性架橋樹脂層3の表面に高吸湿性架橋樹脂層4が形成される。また、低吸湿性架橋樹脂層3は、膜厚が1.0μm以上、飽和吸湿量が10mg/cm以下であり、かつ防曇膜5の飽和吸湿量が20mg/cm以上である。これにより、防曇性物品1は良好な防曇性能と高い耐久性を兼ね備える。
また、本発明の防曇性物品1では、低吸湿性架橋樹脂層3を設けることにより、高吸湿性架橋樹脂層4が水を取り込んだ場合でも、低吸湿性架橋樹脂層3と基体2との間に、取り込んだ水が移行してくることがほとんどない。そのため、基体2がガラスであったとしても、基体2からのアルカリ成分による高吸湿性架橋樹脂層4の剥離等を防げる。したがって、基体2がソーダライムガラスである場合でも、防曇性能に優れ、かつ高い耐久性を備えた防曇性物品1が提供できる。
また、本発明の防曇性物品1の架橋性樹脂が、前記の飽和吸湿量および膜厚の条件を満たし、かつ、ポリエポキシド類と硬化剤との反応によって得られる架橋性樹脂であれば、防曇性能と耐久性とがより優れたものとなる。
【0065】
尚、本発明の防曇性物品は、図1のように、必ずしも基体の全面に低吸湿性架橋樹脂層が設けられていなくともよい。また、形成した低吸湿性架橋樹脂層全体に高吸湿性架橋樹脂層が設けられていなくともよい。たとえば、低吸湿性架橋樹脂層は基体表面の一部分に形成されていてもよく、高吸湿性架橋樹脂層は低吸湿性架橋樹脂層表面の一部分に形成されていてもよい。
また、本発明の低吸湿性架橋樹脂層および高吸湿性架橋樹脂層は、単層には限定されず、本発明の条件を満たした範囲内であれば、それぞれ複数の層からなっていても構わない。
【実施例】
【0066】
以下、実施例および比較例を示し、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載で限定されることはない。
実施例および比較例における防曇性物品の評価は以下のように行った。
[膜厚の測定]
防曇性物品を20℃、相対湿度50%の環境下に1時間放置した後、触針式表面形状測定器DEKTAK3030(アルバック社製)を用いて、低吸湿性架橋樹脂層単独、および低吸湿性架橋樹脂層と高吸湿性架橋樹脂層とからなる防曇膜全体の膜厚段差を測定した。なお、高吸湿性架橋樹脂層の膜厚は、防曇膜全体の膜厚から低吸湿性架橋樹脂層単独の膜厚を差し引いて求めた。
【0067】
[飽和吸湿量の測定]
飽和吸湿量の測定は、低吸湿性架橋樹脂層単独、高吸湿性架橋樹脂層単独、および低吸湿性架橋樹脂層と高吸湿性架橋樹脂層とからなる防曇膜全体についてそれぞれ行った。
まず、基体に低吸湿性架橋樹脂層および/または高吸湿性架橋樹脂層基体を設け、これを20℃、相対湿度50%の環境下に1時間放置し、次いで該表面を40度の温水蒸気に曝露し、表面上に曇りまたは水膜による歪みが生じた直後に、微量水分計を用いて全体の水分量(I)を測定した。
また、別途、低吸湿性架橋樹脂層も高吸湿性架橋樹脂層も形成されていない、基体そのものの水分量(II)を同様の手順で測定し、水分量(I)から水分量(II)を引いた値を架橋性樹脂の体積で除した値を飽和吸湿量とした。
水分量は、微量水分計FM−300(株式会社ケット科学研究所製)によって測定した。試験サンプルを120℃で加熱し、サンプルから放出された水分を微量水分計内のモレキュラーシーブスに吸着させ、モレキュラーシーブスの重量変化を水分量とした。また、測定の終点は、1分間当たりの重量の変化量が0.02mg以下になった時点とした。また、飽和吸湿量の評価は、3.3cm×10cm×厚さ2mmのソーダライムガラス基板を用いて作製したサンプル(低吸湿性架橋樹脂層および/または高吸湿性架橋樹脂層の面積は33cm。)により実施した。
【0068】
[防曇性能の評価]
20℃、相対湿度50%の環境下に1時間放置した防曇性物品の防曇膜表面を、40℃の温水浴上に翳し、曇りが認められるまでの防曇時間(分)を測定した。通常の、防曇加工を行っていないソーダライムガラスは0.01〜0.08分で曇りを生じた。求められる防曇性能は用途により異なる。本実施例では、実用上は0.3分以上の防曇性能が必要であり、1分以上が好ましく、2分以上がより好ましいものとする。
【0069】
[耐摩耗性の評価]
JIS R 3212(車内側)に準拠して行った。Taber社5130型摩耗試験機で、摩耗輪CS−10Fを用いた。防曇性物品の防曇膜表面に摩耗輪を接触させ、4.90Nの荷重をかけて100回転し、曇価変化ΔH(%)を測定し、以下の評価基準に基づき評価した。
◎:ΔHが6%以下であった。
○:ΔHが6%超10%以下であった。
×:ΔHが10%超、または、吸湿性架橋樹脂層の剥離、の少なくとも一方が生じた。
【0070】
[密着性の評価]
防曇性物品を、−10℃に調整された冷凍庫に30分間保持した後、90℃、90%RHの恒温恒湿槽中に30分間保持する。これを1サイクルとして3サイクル行った後、クロスカット試験(100マス、1mm間隔)を行い、以下の評価基準に基づき評価した。クロスカット試験は、JIS K 5400の8.5に準拠して行った。
◎:残ったマスの数が100マス
○:残ったマスの数が90〜99マス
×:残ったマスの数が0〜89マス
【0071】
[耐汚染性の評価]
防曇性物品の防曇膜表面に、市販の毛染め液(0.5mL)を滴下し、室温で1時間放置した後、汚染前との色差を測定し、以下の評価基準に基づき評価した。
◎:△Eab=5未満
○:△Eab=5以上10未満
×:△Eab=10以上
【0072】
[耐酸性の評価]
防曇性物品を、1N塩酸水溶液に浸漬した後、水洗し、以下の評価基準に基づき評価した。
◎:30時間の浸漬で、外観に変化がなかった。
○:6時間の浸漬で外観に変化がなかったが、30時間の浸漬で外観に剥離や膜の白濁等の変化がみられた。
×:6時間の浸漬で、外観に剥離や膜の白濁等の変化がみられた。
【0073】
[耐アルカリ性の評価]
防曇性物品を、1N水酸化ナトリウム水溶液に浸漬した後、水洗し、以下の評価基準に基づき評価した。
◎:6時間の浸漬で、外観に変化がなかった。
○:2時間の浸漬で外観に変化がなかったが、6時間の浸漬で外観に剥離や膜の白濁等の変化がみられた。
×:2時間の浸漬で、外観に剥離や膜の白濁等の変化がみられた。
【0074】
[実施例1]
撹拌機、温度計がセットされたガラス容器に、ジアセトンアルコール(純正化学製)を6.34g、2−クロロエタノール(純正化学製)を1.26g、架橋性成分としてソルビトールポリグリシジルエーテル(デナコールEX−622、ナガセケムテックス社製)を5.94g、および硬化剤としてイソホロンジアミン(東京化成工業製)を1.02g入れ、25℃にて1時間撹拌した。次いで、カップリング剤として3−アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM903、信越化学工業社製)0.64gを添加し、25℃にて1時間撹拌して、液状組成物Aを得た。デナコールEX−622の平均エポキシ官能基数は4.9であり、水酸基価は67mgKOH/g(1.19meq/g)である。
また、撹拌機、温度計がセットされたガラス容器に、エタノール(純正化学製)を12.89g、硬化剤としてポリオキシアルキレントリアミン(ジェファーミンT403、ハンツマン社製)を2.17g、架橋性成分として多官能の脂肪族グリシジルエーテル化合物(デナコールEX−1610、ナガセケムテックス社製)を5.32g、およびレベリング剤としてエポキシ変性シリコーン(X−22−4741、信越化学工業社製)を0.1g入れ、25℃にて1時間撹拌した。次いで、カップリング剤として3−アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM903、信越化学工業社製)1.00gを添加し、25℃にて1時間撹拌して、液状組成物Bを得た。デナコールEX−1610の平均エポキシ官能基数は4.5である。
次に酸化セリウムで表面を研磨洗浄し、乾燥した清浄なソーダライムガラス基板(100mm×100mm×2mm)に、液状組成物Aをスピンコートによって塗布して、180℃の電気炉で4分間保持し、膜厚10.9μmの低吸湿性架橋樹脂層を形成した。次いで、形成した低吸湿性架橋樹脂層表面に、液状組成物Bをスピンコートによって塗布して、200℃の電気炉で5分間保持し、膜厚22.3μmの高吸湿性架橋樹脂層を有する防曇性物品を得た。
得られた防曇性物品の防曇膜の飽和吸湿量は、76.4mg/cmであった。
【0075】
[実施例2]
撹拌機、温度計がセットされたガラス容器に、エチレングリコールジメチルエーテル(純正化学製)を4.76g、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(東京化成工業製)を1.58g、2−クロロエタノール(純正化学製)を1.26g、架橋性成分としてソルビトールポリグリシジルエーテル(デナコールEX−622、ナガセケムテックス社製)を5.94g、および硬化剤としてイソホロンジアミン(東京化成工業製)を1.02g入れ、25℃にて1時間撹拌した。次いで、カップリング剤として3−アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM903、信越化学工業社製)0.64gを添加し、25℃にて1時間撹拌した後、酢酸ブチル(純正化学製)で2.5倍に希釈して、液状組成物Aを得た。
液状組成物Bは実施例1と同様にして得た。
次に、酸化セリウムで表面を研磨洗浄し、乾燥した清浄なソーダライムガラス基板(100mm×100mm×2mm)に、前記液状組成物Aをスピンコートによって塗布して、180℃の電気炉で4分間保持し、膜厚1.0μmの低吸湿性架橋樹脂層を形成した。次いで、形成した低吸湿性架橋樹脂層表面に、液状組成物Bをスピンコートによって塗布して、200℃の電気炉で5分間保持し、膜厚18.1μmの高吸湿性架橋樹脂層を有する防曇性物品を得た。
得られた防曇性物品の防曇膜の飽和吸湿量は、72.6mg/cmであった。
【0076】
[実施例3]
酢酸ブチルで希釈しないこと以外は、実施例2の同様に液状組成物Aを得た。
また、撹拌機、温度計がセットされたガラス容器に、s−ブタノール(純正化学製)を17.71g、硬化剤としてポリオキシアルキレントリアミン(ジェファーミンT403、ハンツマン社製)を2.17g、架橋性成分として多官能の脂肪族グリシジルエーテル化合物(デナコールEX−1610、ナガセケムテックス社製)を5.32g、およびレベリング剤としてエポキシ変性シリコーン(X−22−4741、信越化学工業社製)を0.1g入れ、25℃にて10分間、続いて50℃にて1時間撹拌し、酢酸ブチルで希釈して液状組成物Bを得た。
次に、酸化セリウムで表面を研磨洗浄し、乾燥した清浄なソーダライムガラス基板(100mm×100mm×2mm)に、液状組成物Aをスピンコートによって塗布して、180℃の電気炉で4分間保持し、膜厚10.7μmの低吸湿性架橋樹脂層を形成した。続いて、形成した低吸湿性架橋樹脂層表面に、液状組成物Bをスピンコートによって塗布して、200℃の電気炉で5分間保持し、膜厚4.4μmの高吸湿性架橋樹脂層を有する防曇性物品を得た。
得られた防曇性物品の防曇膜の飽和吸湿量は、20.7mg/cmであった。
【0077】
[比較例1]
撹拌機、温度計がセットされたガラス容器に、ジアセトンアルコール(純正化学製)を6.34g、2−クロロエタノール(純正化学製)を1.26g、架橋性成分としてソルビトールポリグリシジルエーテル(デナコールEX−622、ナガセケムテックス社製)を5.94g、および硬化剤としてイソホロンジアミン(東京化成工業製)を1.02g入れ、25℃にて1時間撹拌した。次いで、カップリング剤として3−アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM903、信越化学工業社製)(0.64g)を添加して、25℃にて1時間撹拌した後、酢酸ブチル(純正化学製)で1.67倍に希釈して、液状組成物Aを得た。
また、実施例1と同様にして液状組成物Bを得た。
次に、酸化セリウムで表面を研磨洗浄し、乾燥した清浄なソーダライムガラス基板(100mm×100mm×2mm)に、液状組成物Aをスピンコートによって塗布して、180℃の電気炉で4分間保持し、膜厚0.7μmの低吸湿性架橋樹脂層を形成した。続いて、形成した低吸湿性架橋樹脂層表面に、液状組成物Bをスピンコートによって塗布して、200℃の電気炉で5分間保持し、膜厚17.5μmの高吸湿性架橋樹脂層を有する防曇性物品を得た。
得られた防曇性物品の防曇膜の飽和吸湿量は、69.7mg/cmであった。
【0078】
[比較例2]
撹拌機、温度計がセットされたガラス容器に、エタノール(純正化学製)を8.49g、架橋性成分として多官能の脂肪族グリシジルエーテル化合物(デナコールEX−1610、ナガセケムテックス社製)を5.32g、硬化剤としてポリオキシアルキレントリアミン(ジェファーミンT403、ハンツマン社製)を2.17g入れ、25℃にて1時間撹拌した。次いで、カップリング剤として3−アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM903、信越化学工業社製)1.00gを添加して、25℃にて1時間撹拌した後、酢酸ブチル(純正化学製)で1.25倍に希釈して、液状組成物Aを得た。
また、実施例1と同様に、液状組成物Bを得た。
酸化セリウムで表面を研磨洗浄し、乾燥した清浄なソーダライムガラス基板(100mm×100mm×2mm)に、前記液状組成物Aをスピンコートによって塗布して、180℃の電気炉で4分間保持し、膜厚5.6μmの低吸湿性架橋樹脂層を形成した。次いで、形成した低吸湿性架橋樹脂層表面に、液状組成物Bをスピンコートによって塗布して、200℃の電気炉で5分間保持し、膜厚17.4μmの高吸湿性架橋樹脂層を有する防曇性物品を得た。
得られた防曇性物品の防曇膜の飽和吸湿量は、78.5mg/cmであった。
【0079】
[比較例3]
比較例2と同様にして液状組成物Aを得て、実施例1と同様にして液状組成物Bを得た。
次に、酸化セリウムで表面を研磨洗浄し、乾燥した清浄なソーダライムガラス基板(100mm×100mm×2mm)に、前記液状組成物Aをスピンコートによって塗布して、180℃の電気炉で4分間保持し、膜厚1.9μmの低吸湿性架橋樹脂層を形成した。次いで、形成した低吸湿性架橋樹脂層表面に、液状組成物Bをスピンコートによって塗布して、200℃の電気炉で5分間保持し、膜厚17.3μmの高吸湿性架橋樹脂層を有する防曇性物品を得た。
得られた防曇性物品の防曇膜の飽和吸湿量は、93.0mg/cmであった。
【0080】
[比較例4]
実施例1と同様にして液状組成物Aを得た。
また、撹拌機、温度計がセットされたガラス容器に、エタノール(純正化学製)を8.49g、硬化剤としてポリオキシアルキレントリアミン(ジェファーミンT403、ハンツマン社製)を2.17g、架橋性成分としてソルビトールポリグリシジルエーテル(デナコールEX−614、ナガセケムテックス社製)を5.18g、およびレベリング剤としてエポキシ変性シリコーン(X−22−4741、信越化学工業社製)を0.1g入れ、25℃にて1時間撹拌した。次いで、カップリング剤として3−アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM903、信越化学工業社製)1.00gを添加して、25℃にて1時間撹拌して、液状組成物Bを得た。
次に、酸化セリウムで表面を研磨洗浄し、乾燥した清浄なソーダライムガラス基板(100mm×100mm×2mm)に、前記液状組成物Aをスピンコートによって塗布して、180℃の電気炉で4分間保持し、膜厚10.6μmの低吸湿性架橋樹脂層を形成した。次いで、形成した低吸湿性架橋樹脂層表面に、液状組成物Bをスピンコートによって塗布して、200℃の電気炉で5分間保持し、膜厚20.4μmの高吸湿性架橋樹脂層を有する防曇性物品を得た。
得られた防曇性物品の防曇膜の飽和吸湿量は、8.7mg/cmであった。
実施例1〜3および比較例1〜4の防曇性能、各種耐久性の評価を表1に示す。
【0081】
【表1】

【0082】
本発明の防曇性物品である実施例1〜3は、いずれも優れた防曇性能を示した。また、高い耐摩耗性、密着性、耐汚染性、耐酸性、耐アルカリ性を兼ね備えていた。
一方、低吸湿性架橋樹脂層の膜厚が0.7μmである比較例1は、防曇性能は充分であるものの、耐アルカリ性が非常に低かった。また、低吸湿性架橋樹脂層の飽和吸湿量が46.8mg/cm、10.9mg/cmと高い比較例2、3では、充分な防曇性能を有しているものの、耐酸性および耐アルカリ性が非常に低かった。また、低吸湿性架橋樹脂層および高吸湿性架橋樹脂層からなる防曇膜の飽和吸湿量が8.7mg/cmと低い比較例4では、各種耐久性は高いが、防曇性能が0.2分と非常に低かった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の防曇性物品は、例えば、輸送機器(自動車、鉄道、船舶、飛行機等)用窓ガラス、冷蔵ショーケース、洗面化粧台用鏡、浴室用鏡、光学機器等に使用できるため、非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の防曇性物品の一実施形態例を示した断面図である。
【符号の説明】
【0085】
1 防曇性物品
2 基体
3 低吸湿性架橋樹脂層
4 高吸湿性架橋樹脂層
5 防曇膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、該基体表面に防曇膜とを有する防曇性物品であって、
防曇膜は、基体表面に順次積層された低吸湿性架橋樹脂層と、該低吸湿性架橋樹脂層よりも飽和吸湿量の高い高吸湿性架橋樹脂層とを有しており、低吸湿性架橋樹脂層は、膜厚が1.0μm以上、飽和吸湿量が10mg/cm以下であり、かつ防曇膜の飽和吸湿量が20mg/cm以上であることを特徴とする防曇性物品。
【請求項2】
基体がソーダライムガラスである、請求項1に記載の防曇性物品。
【請求項3】
低吸湿性架橋樹脂層および高吸湿性架橋樹脂層が、共にポリエポキシド類と硬化剤との反応により得られる架橋性樹脂からなる、請求項1または2に記載の防曇性物品。
【請求項4】
請求項1〜3に記載の防曇性物品の製造方法であって、
架橋性成分と硬化剤とを含む液状組成物を基体表面に塗布後に、反応させることにより、架橋性樹脂からなる低吸湿性架橋樹脂層を形成し、
その後に、架橋性成分と硬化剤とを含む液状組成物を、基体表面に形成された低吸湿性架橋樹脂層の表面に塗布後に、反応させることにより、架橋性樹脂からなる高吸湿性架橋樹脂層を形成する、防曇性物品の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−273067(P2008−273067A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−120227(P2007−120227)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】