説明

防水用のポリマーセメント組成物及びその硬化物、並びにその製造方法

【課題】 本発明は、コンクリート防水用のポリマーセメント組成物として必要な特性を有し、硬化物の乾燥時の表面色と湿潤時の表面色との色差を小さくして、硬化物層の上面に、塗装を行う必要のない、見栄えの良いセメント系のポリマーセメント組成物及びその製造方法、その硬化物の提供を目的とする。
【解決手段】 アルミナセメント及びポルトランドセメントから選ばれる成分を少なくとも1種含むセメント成分と、エチレン・酢酸ビニル共重合体エマルジョン及びアクリル系共重合体エマルジョンから選ばれる成分を少なくとも1種含む樹脂エマルジョンと、光遮蔽性顔料及び光遮蔽性フィラーから選ばれる成分を少なくとも1種含む光遮蔽性成分とを含むポリマーセメント組成物であり、
ポリマーセメント組成物の硬化物の乾燥時の物体色と、湿潤時の物体色との色差(ΔE)が下記数式(1)で表されることを特徴とするポリマーセメント組成物。
【数1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物などを施工する際に施工物への防水性の付与を目的として使用できる硬化物の乾燥時と湿潤時の色差の調整された防水用のポリマーセメント組成物及びその硬化物と、この防水用のポリマーセメント組成物製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物の屋上、地下、ベランダ等には、防水性を付与するため、ポリマーセメント組成物が施工され、種々使用されている。
【0003】
特許文献1には、白度が50以上であるアルミナセメント、顔料、骨材、及び有機高分子物質を含有してなる急硬性着色防水材組成物が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平5−238801号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
コンクリート防水用のポリマーセメント組成物の必要な特性としては、施工性、接着性、不透水性、耐水性及び下地ひび割れ追従性などがある。樹脂エマルジョンとセメント系成分とを含むポリマーセメント組成物では、得られる硬化物の乾燥時の表面色と湿潤時の表面色が大きく異なり、見栄えが悪くなる場合が起きた。そのため、ポリマーセメント組成物の硬化物層の上面に、塗料を塗布する必要があった。
【0006】
本発明は、コンクリート防水用のポリマーセメント組成物として必要な特性を有し、硬化物の乾燥時の表面色と湿潤時の表面色との色差を小さくして、硬化物層の上面に、塗装を行う必要のない、見栄えの良いセメント系のポリマーセメント組成物及びその製造方法、その硬化物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一は、アルミナセメント及びポルトランドセメントから選ばれる成分を少なくとも1種含むセメント成分と、エチレン・酢酸ビニル共重合体エマルジョン及びアクリル系共重合体エマルジョンから選ばれる成分を少なくとも1種含む樹脂エマルジョンと、光遮蔽性顔料及び光遮蔽性フィラーから選ばれる成分を少なくとも1種含む光遮蔽性成分とを含むポリマーセメント組成物であり、
ポリマーセメント組成物の硬化物の乾燥時の物体色と、湿潤時の物体色との色差(ΔE)が下記数式(1)で表されることを特徴とするポリマーセメント組成物である。
【数1】

【0008】
本発明の第二は、アルミナセメント及びポルトランドセメントから選ばれる成分を少なくとも1種含むセメント成分と、エチレン・酢酸ビニル共重合体エマルジョン及びアクリル系共重合体エマルジョンから選ばれる成分を少なくとも1種含む樹脂エマルジョンと、光遮蔽性顔料及び光遮蔽性フィラーから選ばれる成分を少なくとも1種含む光遮蔽性成分とを含むポリマーセメント組成物の硬化物であり、
ポリマーセメント組成物の硬化物の乾燥時の物体色と、湿潤時の物体色との色差(ΔE)が下記数式(1)で表されることを特徴とするポリマーセメント組成物の硬化物である。
【数2】

【0009】
本発明の第三は、アルミナセメント及びポルトランドセメントから選ばれる成分を少なくとも1種含むセメント成分と、エチレン・酢酸ビニル共重合体エマルジョン及びアクリル系共重合体エマルジョンから選ばれる成分を少なくとも1種含む樹脂エマルジョンと、光遮蔽性顔料及び光遮蔽性フィラーから選ばれる成分を少なくとも1種含む光遮蔽性成分とを含むポリマーセメント組成物の製造方法であり、
セメント成分と、樹脂エマルジョンと、光遮蔽性成分とを含むポリマーセメント組成物の硬化物を作成し、
ポリマーセメント組成物の硬化物の乾燥時の物体色と湿潤時の物体色を測定し、
乾燥時の物体色と湿潤時の物体色との色差(ΔE)が下記数式(1)で表されるように光遮蔽性成分の添加量を調整することを特徴とするポリマーセメント組成物の製造方法である。
【数3】

【0010】
本発明の第四は、本発明のポリマーセメント組成物の製造方法により製造されるポリマーセメント組成物の硬化物である。
【0011】
本発明のポリマーセメント組成物及びその硬化物、ポリマーセメント組成物の製造方法及びこの製造方法により製造されるポリマーセメント組成物の硬化物の好ましい態様を示す。これら態様は複数組み合わせることが出来る。
1)光遮蔽性成分は、二酸化チタン(酸化チタン)及びカーボンブラックから選ばれる光遮敵性顔料を少なくとも1種を含むこと。
2)ポリマーセメント組成物は、樹脂エマルジョンの固形分100質量部に対し、セメント成分を10〜150質量部含むこと。
3)樹脂エマルジョンのガラス転移温度は、10℃以下であること。
4)ポリマーセメント組成物は、さらに充填材を含むこと。
5)ポリマーセメント組成物は、さらに充填材を含み、樹脂エマルジョンの固形分100質量部に対し、セメント成分と充填材の合計量26〜500質量部を含むこと。
6)ポリマーセメント組成物の硬化物の乾燥時の明度指数と、湿潤時の明度指数とが下記数式(2)で表されること。
【数4】

7)ポリマーセメント組成物及びその硬化物は、コンクリート防水用であること。
8)ポリマーセメント組成物の乾燥時間が、1時間以上、かつ4時間45分以下であること。
9)アルミナセメントは、ホワイトアルミナセメントを含まないアルミナセメントであること。
10)アクリル系共重合体エマルジョンは、(1)メチル(メタ)アクリレート及びエチル(メタ)アクリレートから選ばれる成分、及び
(2)炭素数4〜10のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートを主成分とすること。
【0012】
本発明において、ΔE及びΔL*は、下記実施例の欄に記載の「(1)明度及び色相の評価方法」に記載の方法で算出した値である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリマーセメント組成物は、硬化物の乾燥時の物体色と、湿潤時の物体色の差が小さく、見栄えがよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明者らは、セメント成分として、ホワイトアルミナセメントをなるべく使用しないで、硬化物の乾燥時の物体色と、湿潤時の物体色の差を小さくする方法を検討した。
【0015】
ポリマーセメント組成物において、セメント成分は、アルミナセメント及びポルトランドセメントから選ばれる成分を少なくとも1種含むものである。セメント成分は、セメント成分全質量100%中、アルミナセメントを好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、特に好ましくは90質量%以上含むものが好ましい。
セメント成分として、ホワイトアルミナセメントを含まないセメントを用いることができる。
【0016】
ポリマーセメント組成物において、セメント成分と樹脂エマルジョンの固形分との含有量は、目的に応じて適宜選択できるが、セメント成分は、樹脂エマルジョンの固形分100質量部に対して、好ましくは10〜150質量部、さらに好ましくは15〜120質量部、より好ましくは20〜100質量、特に好ましくは25〜80質量部を含むことにより、防水性、施工性に優れる。
【0017】
アルミナセメントは、耐火物用、土木用、建築用などいずれの用途のアルミナセメントでも問題なく使用出来る。アルミナセメントのアルミナの含有量は、目的に応じて適宜選択できる。アルミナセメントの使用量は、目的に応じて適宜選択できるが、樹脂エマルジョンの固形分100質量部に対して、好ましくは10〜150質量部、さらに好ましくは15〜120質量部、より好ましくは20〜100質量、特に好ましくは25〜80質量部とするのが好ましい。
アルミナセメントは、水和反応により塗装物の乾燥を促進させ、硬化した塗膜の耐水性向上及び強度の確保のために必要な成分であるが、樹脂エマルジョンの固形分に対するアルミナセメントの添加量が上記範囲より小さい場合は乾燥が不十分となり、また上記範囲より大きい場合はポットライフが短く、作業性に支障を来す場合があり好ましくない。
アルミナセメントは、鉱物組成が異なるものが数種知られ市販されているが、何れも主成分はモノカルシウムアルミネートであり、市販品はその種類によらず使用することができる。
【0018】
ポルトランドセメントは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメントなどを用いることができる。水硬性成分としてポルトランドセメントを用いることにより、コスト低減に効果が認められ好ましい。
【0019】
充填材は、珪砂、スラグ粉、フライアッシュ、石灰石粉、タルク、カオリン、アルミナ粉、酸化チタン、水酸化アルミニウム、マイカ、パイロフィライト、ゼオライト、シリカゲルなどを添加して用いることが出来、これらの充填材を1種または2種以上用いることが出来る。特に珪砂の場合、表面精度の面から5〜7号の硅砂を使用することが好ましい。
充填材は、硬化膜の強度を向上させる目的で、ガラス繊維、炭素繊維などの無機繊維、有機繊維、アルミニウム、鉄、銅、銀などの金属繊維を用いることができる。
【0020】
本発明のポリマーセメント組成物では、塗膜の乾燥時間が、1〜4.75時間、好ましくは1.5〜4.5時間、さらに好ましくは2〜4.5時間とすることができ、施工性に優れる。
【0021】
本発明のポリマーセメント組成物は、さらに必要に応じて充填材を含むことができる。
充填材は、目的に応じて適宜選択して添加することができる。
本発明のポリマーセメント組成物において、セメント成分及び充填材とを含む場合には、樹脂エマルジョンの固形分100質量部に対し、セメント成分と充填材の合計量が好ましくは25〜350質量部、さらに好ましくは30〜300質量部、より好ましくは40〜250質量部、特に好ましくは50〜200質量部を含むことができる。
【0022】
光遮蔽性成分としては、光遮蔽性を有する顔料及び光遮蔽性を有するフィラーから選ばれる光遮蔽性成分を用いることができる。
光遮蔽性成分としては、光遮蔽性顔料が好ましく、二酸化チタン(酸化チタン)及び、カーボンブラックから選ばれる成分を少なくとも1種含むことが好ましい。
光遮蔽性成分のポリマーセメントへの添加量は、用いるセメント成分及び樹脂エマルジョン、さらに必要に応じて添加される充填材などにより適宜選択することができる。
光遮蔽性顔料をポリマーセメント組成物に添加する場合、樹脂エマルジョン又はセメント成分或いはセメント成分と充填材との総質量100質量部に対し、光遮蔽性顔料を好ましくは0.1〜20質量部、さらに好ましくは0.6〜18質量部、特に好ましくは0.7〜16質量部加えることが、好ましい。
【0023】
光遮蔽性を有する光遮蔽性顔料としては、白色顔料、有彩色顔料、黒色顔料などを用いることができ、これらは二種類以上を併用して使用することができる。
【0024】
白色顔料としては、二酸化チタン(酸化チタン)、鉛白、酸化亜鉛などを挙げることができ、これらは二種類以上を併用して使用することができる。
白色顔料として特に好ましいのは、遮敵効果に優れる二酸化チタン(酸化チタン)である。
【0025】
有彩色顔料は、公知のものが制限なく使用でき、例えば金属の酸化物、水酸化物、硫化物、クロム酸塩、炭酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩などの無機顔料;アゾ系、ジフェニルメタン系、トリフェニルメタン系、フタロシアニン系、ニトロ系、ニトロソ系、アントラキノン系、キナクリドンレッド系、ベンジジン系、縮合多環系等の有機顔料などを挙げることが出来る。また、着色繊維や光沢を有する金属粒子などであってもよい。有彩色顔料の色相については特に制限がなく、黄、青、赤、緑などのいずれのものでも使用することができる。これらの顔料は二種類以上を併用することができる。
【0026】
本発明で用いることのできる有彩色顔料の具体例としては、弁柄、群青、コバルトブルー、チタンイエロー、紺青、硫化亜鉛、バリウム黄、コバルト青、コバルト緑などの無機顔料;キナクリドンレッド、ポリアゾイエロー、アンスラキノンレッド、アンスラキノンイエロー、ポリアゾレッド、アゾレーキイエロー、ベリレン、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、イソインドリノンイエロー、ウォッチングレッド、パーマネントレッド、パラレッド、トルイジンマルーン、ベンジジンイエロー、ファーストスカイブルー、ブリリアントカーミン6B等の有機顔料、着色繊維、光沢を有する金属粒子などが挙げられ、これらの顔料は二種類以上を併用して使用することができる。
【0027】
黒色顔料としては、カーボンブラック、鉄黒などをあげることができる。黒色顔料は、高い光遮蔽性を付与することができる。黒色顔料は二種類以上を併用して使用することができる。特に黒色顔料としては、高い光遮蔽性を付与することができるカーボンブラックを好ましく用いることが出来る。
【0028】
光遮敵性フィラーとしては、顔料を除く、樹脂などに配合して光を遮敵するものであればよく、有機系フィラー、無機系フィラーなど、さらにこれらを二種類以上を併用して使用することができる。
【0029】
無機系フィラーとしては、タルク、クレー、マイカ、シリカ、ケイソウ土などの粒子状、板状、繊維状などの形状のものを用いることが出来る。
【0030】
樹脂エマルジョンは、エチレン・酢酸ビニル共重合体エマルジョン及びアクリル系共重合体エマルジョンから選ばれる成分を少なくとも1種含む樹脂エマルジョンであり、
樹脂エマルジョン100質量%に対し、酢酸ビニル共重合体エマルジョン及びアクリル系共重合体エマルジョンから選ばれる成分を好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上含むものである。
樹脂エマルジョンは、本発明の性質を損なわない範囲で、エチレン酢酸ビニル共重合体成分及びアクリル系重合体成分以外の他の重合体成分や、他の樹脂エマルジョンを含むことができる。
樹脂エマルジョンのガラス転移温度は、好ましくは10℃以下、さらに好ましくは0℃以下、より好ましくは−5℃以下、特に好ましくは−20℃以下であることが、低温下での下地ひび割れ追従性に優れているために好ましい。
【0031】
樹脂エマルジョンは、エチレン・酢酸ビニル共重合体エマルジョン及びアクリル系共重合体エマルジョンを除く、エチレンなどの炭素数2〜10のα−オレフィン類、炭素数9〜11の合成脂肪酸であるバーサチック酸のビニルエステル(ベホバ類)などのビニルエステル類、スチレンなどの芳香族ビニル類、塩化ビニルなどのハロゲン化ビニル類、ブタジエンなどのジエン類などから製造されるエマルジョンを、本発明の特性を損なわない範囲で添加して用いることが出来る。
樹脂エマルジョンの固形物重量は、用いるエマルジョンの全固形物重量に対し、好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上含まれていることが好ましい。
【0032】
エチレン・酢酸ビニル共重合体エマルジョンは、エチレンと酢酸ビニル、さらに必要に応じて他のビニル系モノマーとを共重合した公知のエマルジョンを用いることが出来る。
エチレン・酢酸ビニル共重合体エマルジョンとしては、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体などの水溶性高分子を乳化剤や保護コロイドとして用いる物を好ましく用いることが出来る。特にエチレン・酢酸ビニル共重合体エマルジョンは、保護コロイドとしてポリビニルアルコールを用いたものが好ましい。
エチレン・酢酸ビニル共重合体エマルジョンの重合体成分において、酢酸ビニル含有量は、好ましくは30〜90質量%、さらに好ましくは50〜90質量%、特に好ましくは60〜86質量%が好ましい。
【0033】
アクリル系共重合体エマルジョンは、公知のメチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート系モノマーから得られるものを用いることが出来、これらのモノマーにスチレンなどを添加し共重合させたものも用いることが出来る。
特にアクリル系共重合体エマルジョンは、(1)メチル(メタ)アクリレート及びエチル(メタ)アクリレートから選ばれる成分や、
(2)炭素数4〜10のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート、
などの脂肪族(メタ)アクリレート系モノマー及び脂環式(メタ)アクリレート系モノマーを主成分とする芳香族を含まないアクリル系共重合体エマルジョンを用いることが好ましい。
尚、本明細書においては、アクリレート誘導体(アクリル酸誘導体を意味する。)及びメタクリレート誘導体(メタクリル酸誘導体を意味する。)を、(メタ)アクリレートと表す。
【0034】
アクリル系樹脂エマルジョンは、(1)メチル(メタ)アクリレート及びエチル(メタ)アクリレートから選ばれる成分及び(2)炭素数4〜10のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート、必要に応じて用いる(3)OH基、COOH基及び/又はアミド結合を有する(メタ)アクリレートの(メタ)アクリレート誘導体を除く他の(メタ)アクリレート誘導体、エチレンなどの炭素数2〜10のα−オレフィン類、酢酸ビニル、炭素数9〜11の合成脂肪酸であるバーサチック酸のビニルエステル(ベホバ類)などのビニルエステル類、スチレンなどの芳香族ビニル類、塩化ビニルなどのハロゲン化ビニル類、ブタジエンなどのジエン類などの(メタ)アクリレート誘導体と共重合可能な成分を、本発明の特性を損なわない範囲で添加して用いることが出来る。
【0035】
アクリル系共重合体エマルジョンは、公知の乳化剤や保護コロイドを用いることができ、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体などの水溶性高分子、非イオン界面活性剤、イオン性界面活性剤などの乳化剤や保護コロイドを用いることが出来る。
アクリル系共重合体エマルジョンのガラス転移温度は、好ましくは10℃以下、さらに好ましくは0℃以下、より好ましくは−5〜−60℃、特に好ましくは−20〜−50℃であることが、低温下での下地ひび割れ追従性に優れているために好ましい。
【0036】
(2)炭素数4〜10のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートとしては、
n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、ペンチルアクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルアクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルアクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレートなどを挙げる事が出来、これらの単量体は2種以上組み合わせて用いることが出来る。
【0037】
アクリル系共重合体エマルジョンは、OH基、COOH基及び/又はアミド結合を有する(メタ)アクリレートを含む共重合体を用いることが出来る。
(a)COOH基を有する(メタ)アクリレートとしては、アクリル酸、メタクリル酸などの末端や側鎖などの分子中にCOOH基を1個有するもの、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などの末端や側鎖などの分子中にCOOH基を2個有するものなどを挙げる事が出来る。
(b)アミド結合を有する(メタ)アクリレートとしては、アクリルアミド、メタクリルアミドなどの分子中にアミド結合を有するものを挙げる事が出来る。
(c)分子中にOH基を有する(メタ)アクリレートとしては、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレートなどのヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどの側鎖や末端などの、分子中にOH基を1個有するもの、側鎖や末端などにOH基を2個以上有するものなどを挙げることが出来る。
アクリル系共重合体エマルジョンにおいて、OH基、COOH基及び/又はアミド結合を有する(メタ)アクリレートを2種以上組み合わせて用いることが出来る。
【0038】
アクリル系樹脂エマルジョンは、
(1)メチル(メタ)アクリレート及びエチル(メタ)アクリレートから選ばれる成分9〜35質量%、
(2)炭素数4〜10のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレート50〜80質量%、及び、
(3)OH基、COOH基及び/又はアミド結合を有する(メタ)アクリレート0.1〜11質量%を含む単量体組成物が好ましい。
【0039】
樹脂エマルジョンは、公知の製造方法により得られるものを用いることができ、例えば、乳化剤の存在下に、重合開始剤を用いて、水又は含水溶媒中で合成樹脂の原料となる重合性モノマーを乳化重合する方法などにより製造することができる。
樹脂エマルジョンは、水又は含水溶媒を含まない粉末状の合成樹脂粒子を含み、粉末状の合成樹脂粒子を用いると、水又は含水溶媒を除いた全成分を一つのパッケージとすることができ、施工現場では水を添加するだけで使用できるので便利である。
【0040】
乳化剤としては、公知のものを用いることができ、アニオン性、ノニオン性、カチオン性又は両性の界面活性剤やポリビニルアルコール等の保護コロイドなどを挙げることができる。
重合開始剤としては、水又は含水溶媒中でラジカル重合などの重合ができるものが好ましく、過酸化水素、過酢酸、過硫酸又はこれらのアンモニウム塩や硫酸塩等の水溶性の過酸化物やその塩などを挙げることができる。また、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、2,2’−アゾビスイソブチルニトリルなどの有機過酸化物、メタ亜硫酸ナトリウムやピロ亜硫酸ナトリウムなどの還元剤を併用することができる。
重合開始剤の使用量は、エマルジョンが製造できる範囲であれば適宜選択できる。
【0041】
樹脂エマルジョンは、公知の乳化剤や保護コロイドを用いることができ、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体などの水溶性高分子、非イオン界面活性剤、カチオンやアニオンなどのイオン性界面活性剤などの乳化剤や保護コロイドを用いることが出来る。
【0042】
本発明のポリマーセメント組成物は、乾燥時間や流動性を調整するため、又は本発明の特性を損なわない範囲で添加剤を含むことが出来る。
添加剤としては、一般的に用いられる凝結遅延剤、凝結促進剤などの凝結速度調整剤、消泡剤、増粘剤、減水剤又は流動化剤などを挙げることが出来る。
【0043】
本発明のポリマーセメント組成物は、硬化膜の強度や防水性を向上させる目的で、消泡剤を含むことが好ましい。
消泡剤は、シリコン系、アルコール系、ポリエーテル、フッ素系などの合成物質または植物由来の天然物質など、公知のものを用いることが出来る。
消泡剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができ、アルミナセメント及びエマルジョンの固形分と、必要に応じて添加されるタルクや珪砂など充填材との固形分との合計量100質量部に対して、2質量部以下、特に0.2質量部以下が好ましい。消泡剤の添加量は、上記より多く添加する場合、消泡効果の向上がみとめられない場合がある。
【0044】
増粘剤は、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース系、ゼラチン、ベクチンなどの蛋白質系、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコールなどの水溶性ポリマー系、ラテックス系などを用いることが出来、特にセルロース系などを用いることが出来る。
増粘剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができ、アルミナセメント100質量部に対して、0.01〜2質量部、さらに0.05〜1.5質量部、特に0.1〜1質量部含むことが好ましい。増粘剤の添加量が多くなると、流動性の低下を招く恐れがあり好ましくない。
【0045】
凝結速度調整剤としては、凝結促進を行う成分である凝結促進剤、凝結遅延を行う成分である凝結遅延剤などを用いることが出来る。
凝結速度調整剤としては、凝結促進剤及び凝結遅延剤を併用して用いることが好ましい。凝結促進剤と凝結遅延剤を併用添加することで、例えば、30分以上の可使時間を可能とする流動保持性と、その後の速やかな硬化により、即日の軽歩行及び翌日の仕上材施工を可能とする速硬性・速乾性が確保できる。さらに、低温から高温の広範囲において上記の超速硬性、流動保持性及び優れた硬化体性状の両立が可能である。
【0046】
凝結促進剤としては、公知の凝結促進剤を用いることが出来る。凝結促進剤の一例として、炭酸リチウム、塩化リチウム、硫酸リチウム、硝酸リチウム、水酸化リチウム、酢酸リチウム、酒石酸リチウム、リンゴ酸リチウム、クエン酸リチウムなどの有機酸などの、無機リチウム塩や有機リチウム塩などのリチウム塩を用いることが出来る。特に炭酸リチウムは、効果、入手容易性、価格の面から好ましい。
凝結促進剤としては、特性を妨げない粒径を用いることが好ましく、粒径は50μm以下にするのが好ましい。
特にリチウム塩を用いる場合、リチウム塩の粒径は50μm以下、さらに30μm以下、特に10μm以下が好ましく、粒径が上記範囲より大きくなるとリチウム塩の溶解度が小さくなるために好ましくなく、特に顔料添加系では微細な多数の斑点として目立ち、美観を損なう場合がある。
【0047】
凝結遅延剤としては、公知の凝結遅延剤を用いることが出来る。凝結遅延剤の一例として、硫酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム及び酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、グリコール酸などのオキシカルボン酸、又はそのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などを用いることが出来る。特に重炭酸ナトリウムや酒石酸ナトリウムは、効果、入手容易性、価格の面から好ましい。なお、添加量が多いと、流動性の低下、硬化不良を招き表面不良が生じることがあるので、注意が必要である。
【0048】
凝結速度調整剤は、用いるポリマーセメント組成物に応じて、特性を損なわない範囲で適宜添加することができ、凝結促進剤及び凝結遅延剤の成分、添加量及び混合比率を適宜選択して、流動性、可使時間を調整することができる。
凝結速度調整剤は、流動性及び可使時間を調整に用いる場合、リチウム塩及び/又はナトリウム塩の合量が、アルミナセメント100質量部に対して、0.05〜5質量部、さらに0.1〜2質量部、特に0.3〜0.7質量部の範囲で添加することが好ましい。
【0049】
減水剤は、ナフタレン系、メラミン系、ポリカルボン酸系などを用いることが出来、併用する増粘剤との最適な組合わせとなるのは、ポリカルボン酸系が好ましい。
減水剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができ、アルミナセメント100質量部に対して0.01〜0.2質量部、さらに0.02〜0.2質量部、特に0.05〜0.2質量部が好ましい。
【0050】
流動化剤とは、流動性を向上させる混和剤で公知の流動化剤を用いることが出来る。流動化剤の一例として、リグニン系、メラミン系、ポリカルボン酸系などを用いることが出来る。このうち流動性の向上効果が大きいポリカルボン酸系が好ましい。
流動化剤の添加量は、本発明の特性を損なわない範囲で添加することができ、アルミナセメント100質量部に対して0.01〜1質量部、さらに0.02〜0.5質量部、特に0.05〜0.5質量部が好ましい。
【0051】
本発明のポリマーセメント組成物は、セメント成分と、樹脂エマルジョンと、光遮蔽性成分と、さらに必要に応じて充填材及び/又は添加剤を含むポリマーセメント組成物であり、
ポリマーセメント組成物の硬化物の乾燥時の物体色と、湿潤時の物体色との色差(ΔE)が下記数式(1)で表されることを特徴とするポリマーセメント組成物である。
【数5】

【0052】
本発明のポリマーセメント組成物の硬化物は、セメント成分と、樹脂エマルジョンと、光遮蔽性成分と、さらに必要に応じて充填材及び/又は添加剤を含むポリマーセメント組成物の硬化物であり、
ポリマーセメント組成物の硬化物の乾燥時の物体色と、湿潤時の物体色との色差(ΔE)が下記数式(1)で表されるポリマーセメント組成物の硬化物である。
【数6】

【0053】
本発明のポリマーセメント組成物、ポリマーセメント組成物の硬化物及びポリマーセメント組成物の製造方法において、
数式(1)のΔEは、5以下であり、好ましくは4.5以下であり、さらに好ましくは4以下であり、特に好ましくは3.5以下であることが好ましい。
【0054】
本発明において、ポリマーセメント組成物から光遮蔽性成分を除いた、セメント成分と、樹脂エマルジョンとを含む組成物、さらに必要に応じて充填材及び/又は添加剤を含む組成物では、その組成物の硬化物の乾燥時の物体色と、湿潤時の物体色との色差(ΔE)は、数式(1)を満たさない。
好ましくは本発明において、ポリマーセメント組成物から光遮蔽性成分を除いた、セメント成分と、樹脂エマルジョンとを含む組成物、さらに必要に応じて充填材及び/又は添加剤を含む組成物では、その組成物の硬化物の乾燥時の物体色と、湿潤時の物体色との色差(ΔE)は、下記数式(3)で表されることが好ましい。
但し下記数式(3)において、好ましくはΔE>5.5であり、さらに好ましくはΔE>6、より好ましくはΔE>6.5、特に好ましくはΔE>7である。
【数7】

【0055】
本発明のポリマーセメント組成物は、セメント成分と、樹脂エマルジョンと、光遮蔽性成分と、さらに必要に応じて充填材及び/又は添加剤を含むポリマーセメント組成物であり、
ポリマーセメント組成物の硬化物の乾燥時の明度指数と、湿潤時の明度指数との明度差が下記数式(2)で表されることが好ましい。
【数8】

【0056】
本発明のポリマーセメント組成物の硬化物は、セメント成分と、樹脂エマルジョンと、光遮蔽性成分と、さらに必要に応じて充填材及び/又は添加剤を含むポリマーセメント組成物の硬化物であり、
ポリマーセメント組成物の硬化物の乾燥時の明度指数と、湿潤時の明度指数との明度差が下記数式(2)で表されることが好ましい。
【数9】

【0057】
本発明のポリマーセメント組成物を製造方法の一例を示すと、
(1A)セメント成分及び樹脂エマルジョンに、適量と想像される光遮蔽性顔料や光遮蔽性フィラーなどの光遮蔽性成分、あるいはそれらの光遮蔽性成分の任意な組み合わせ、そして必要に応じて、充填材、凝結遅延剤、凝結促進剤などの凝結速度調整剤、消泡剤、増粘剤、減水剤又は流動化剤などの添加剤、無機又は有機繊維などを添加する。
(2A)(1A)を混合し、必要に応じて所定量の水を加えて混合攪拌を行い、スラリーを得る。スラリーを硬化させ、硬化物を得る。
(3A)硬化物の乾燥時の物体色と、湿潤時の物体色との色差(ΔE)を測定し、その測定結果を数式(1)により適否を判断する。色差(ΔE)が、数式(1)を満たさない場合には、上記(1A)の工程に戻る、この場合主として光遮蔽性成分の添加量の修正(例えば、追加)を行う。色差(ΔE)が、数式(1)を満たす場合、製品として使用する。
【0058】
本発明のポリマーセメント組成物を製造方法の別の一例を示すと、
(1B)セメント成分及び樹脂エマルジョンに、そして必要に応じて、充填材、凝結遅延剤、凝結促進剤などの凝結速度調整剤、消泡剤、増粘剤、減水剤又は流動化剤などの添加剤、無機又は有機繊維などを添加する。
(2B)(1B)を混合し、必要に応じて所定量の水を加えて混合攪拌を行い、スラリーを得る。スラリーを硬化させ、硬化物を得る。
(3B)硬化物の乾燥時の物体色と、湿潤時の物体色との色差(ΔE)を測定し、その測定結果を数式(1)により適否を判断する。色差(ΔE)が数式(1)を満たす場合には製品として利用する(本発明外)、色差(ΔE)が数式(1)を満たさない場合には、下記(4B)の工程に移行する、
(4B)(1B)の組成物に、適量と想像される光遮蔽性顔料や光遮蔽性フィラーなどの光遮蔽性成分、あるいはそれらの光遮蔽性成分の任意な組み合わせを添加する。
(5B)(4B)を混合し、必要に応じて所定量の水を加えて混合攪拌を行い、スラリーを得る。スラリーを硬化させ、硬化物を得る。
(6B)硬化物の乾燥時の物体色と、湿潤時の物体色との色差(ΔE)を測定し、その測定結果を数式(1)により適否を判断する。色差(ΔE)が、数式(1)を満たさない場合には、上記(4B)の工程に戻る、この場合主として光遮蔽性成分の添加量の修正(例えば、追加)を行う。色差(ΔE)が、数式(1)を満たす場合、製品として使用する。
【0059】
本発明のポリマーセメント組成物を製造方法の別の一例を示すと、
(1C)アルミナセメント及び樹脂エマルジョンに、適量と想像される顔料やフィラーなどの光遮蔽性成分、あるいはそれらの光遮蔽性成分の任意な組み合わせ、そして必要に応じて、充填材、凝結遅延剤、凝結促進剤などの凝結速度調整剤、消泡剤、増粘剤、減水剤又は流動化剤などの添加剤、無機又は有機繊維などを添加する。
(2C)(1C)を混合し、必要に応じて所定量の水を加えて混合攪拌を行い、スラリーを得る。スラリーを硬化させ、硬化物を得る。
(3C)(i)硬化物の乾燥時の物体色と湿潤時の物体色、及び(ii)硬化物の乾燥時の明度指数(L)と湿潤時の明度指数(L)を測定し、その測定結果を数式(1)及び数式(2)により適否を判断する。
色差(ΔE)が数式(1)を満たさない場合、又は色差(ΔE)が数式(1)を満たしかつ明度差(ΔL)が数式(2)を満たさない場合には、上記(1C)の工程に戻る、この場合主として光遮蔽性成分の添加量の修正(例えば、追加)を行う。色差(ΔE)が、数式(1)を満たし、かつ明度差(ΔL)が数式(2)を満たす場合、製品として使用する。
【0060】
本発明のポリマーセメント組成物を製造方法の別の一例を示すと、
(1D)セメント成分及び樹脂エマルジョンに、そして必要に応じて、充填材、凝結遅延剤、凝結促進剤などの凝結速度調整剤、消泡剤、増粘剤、減水剤又は流動化剤などの添加剤、無機又は有機繊維などを添加する。
(2D)(1D)を混合し、必要に応じて所定量の水を加えて混合攪拌を行い、スラリーを得る。スラリーを硬化させ、硬化物を得る。
(3D)硬化物の乾燥時の物体色及び明度指数と、湿潤時の物体色及び明度指数を測定し、その測定結果を数式(1)及び数式(2)により適否を判断する。色差(ΔE)が数式(1)を満たし、かつ明度差(ΔL)が数式(2)を満たす場合には、製品として利用する(本発明外)、色差(ΔE)が数式(1)を満たさない場合、又は色差(ΔE)が数式(1)を満たしかつ明度差(ΔL)が数式(2)を満たさない場合には、下記(4D)の工程に移行する、
(4D)(1D)の組成物に、適量と想像される光遮蔽性顔料や光遮蔽性フィラーなどの光遮蔽性成分、あるいはそれらの光遮蔽性成分の任意な組み合わせを添加する。
(5D)(4D)を混合し、必要に応じて所定量の水を加えて混合攪拌を行い、スラリーを得る。スラリーを硬化させ、硬化物を得る。
(6D)硬化物の乾燥時の物体色及び明度指数と、湿潤時の物体色及び明度指数を測定し、その測定結果を数式(1)及び数式(2)により適否を判断する。色差(ΔE)が、数式(1)を満たしかつ明度差(ΔL)が数式(2)を満たす場合には製品として利用する、色差(ΔE)が、数式(1)を満たさない場合又は色差(ΔE)が、数式(1)を満たしかつ明度差(ΔL)が数式(2)を満たさないす場合は、上記(4D)の工程に戻る、この場合主として光遮蔽性成分の添加量の修正(例えば、追加)を行う。
【0061】
本発明のポリマーセメント組成物、ポリマーセメント組成物の硬化物及びポリマーセメント組成物の製造方法において、
数式(2)のΔLは、0以上であり、上限値としては5以下であり、好ましくは4.5以下であり、さらに好ましくは4以下であり、特に好ましくは3.5以下であることが好ましい。
【0062】
本発明において、ポリマーセメント組成物から光遮蔽性成分を除いた、セメント成分と、樹脂エマルジョンとを含む組成物、さらに必要に応じて充填材及び/又は添加剤を含む組成物では、その組成物の硬化物の乾燥時の明度指数と、湿潤時の明度指数とは、数式(2)を満たさないことが好ましく、さらに下記数式(4)で表されることが好ましい。
但し下記数式(4)において、好ましくはΔL>5.5であり、さらに好ましくはΔL>6、より好ましくはΔL>6.5、特に好ましくはΔL>7である。

【数10】

【0063】
本発明のポリマーセメント組成物において、ポリマーセメント組成物の硬化物の乾燥時の明度指数(L)、又は光遮蔽性成分を除いたポリマーセメント組成物の硬化物の乾燥時の明度指数(L)が、好ましくは29以上、さらに好ましくは30以上、より好ましくは31以上、特に好ましくは32以上の場合に優れた効果が得られる。
本発明のポリマーセメント組成物において、ポリマーセメント組成物の硬化物の湿潤時の明度指数(L)、又は光遮蔽性成分を除いたポリマーセメント組成物の硬化物の湿潤時の明度指数(L)が、好ましくは31以上、さらに好ましくは32以上、さらに好ましくは34以上、特に好ましくは35以上の場合に優れた効果が得られる。
本発明のポリマーセメント組成物において、ポリマーセメント組成物の硬化物の乾燥時の明度指数(L)、又は光遮蔽性成分を除いたポリマーセメント組成物の硬化物の乾燥時の明度指数(L)が、好ましくは29以上、さらに好ましくは30以上、より好ましくは31以上、特に好ましくは32以上で、かつポリマーセメント組成物の硬化物の湿潤時の明度指数(L)、又は光遮蔽性成分を除いたポリマーセメント組成物の硬化物の湿潤時の明度指数(L)が、好ましくは31以上、さらに好ましくは32以上、さらに好ましくは34以上、特に好ましくは35以上の場合に優れた効果が得られる。
【0064】
本発明のポリマーセメント組成物は、
(1)コンクリート層に、本発明のポリマーセメント組成物の硬化物層を積層することによりコンクリート構造体を得ることが出来、
さらに(2)コンクリート層にプライマーの硬化物層を設け、さらにポリマーセメント組成物の硬化物層の順に積層することによりコンクリート構造体を得ることが出来る。
コンクリート層は、モルタル又はコンクリートを固化させた層である。
【0065】
コンクリート構造体の施工の一例を示すと、
(1)コンクリート又はモルタルを屋上、床面又は壁に打設し、コテ、機械等で仕上げた後、コンクリート又はモルタルを硬化させてコンクリート層を形成させ、(2)プライマーの硬化物層表面に、本発明のポリマーセメント組成物をローラー、コテ及びスプレーなどを用いる一般的方法で塗布し、その後ポリマーセメント組成物を硬化させた硬化物層を形成させることにより、コンクリート構造体を施工することができる。
【0066】
コンクリート構造体のプライマーの硬化物層を有する施工の一例を示すと、
(1)コンクリート又はモルタルを屋上、床面又は壁に打設し、コテ、機械等で仕上げた後、コンクリート又はモルタルを硬化させてコンクリート層を形成させ、(2)コンクリート層表面に、プライマー(エマルジョンの希釈液又は希釈水溶液)をローラー、コテ及びスプレーなどを用いる一般的方法で塗布又は吹き付けを行い、その後プライマーを硬化させた硬化物層を形成させ、
(3)プライマーの硬化物層表面に、本発明のポリマーセメント組成物をローラー、コテ及びスプレーなどを用いる一般的方法で塗布し、その後ポリマーセメント組成物を硬化させた硬化物層を形成させることにより、コンクリート構造体を施工することができる。
【0067】
プライマーの硬化物層は、プライマーとして公知のエチレン−酢酸ビニル共重合体系エマルジョン、アクリル系樹脂エマルジョンなどのエマルジョンを用いることができ、これらのエマルジョンの硬化物からなる層が好ましい。
プライマーの硬化物層は、本発明のポリマーセメント組成物に含まれるアクリル系樹脂エマルジョンと同じ樹脂成分を用いることが、プライマー層と本発明のポリマーセメント組成物との層間の接着強度が優れるために好ましい。
【0068】
本発明のポリマーセメント組成物は、コンクリート防水用、コンクリート床防水用、コンクリート屋上防水用などの防水用途に用いることが出来、コンクリートの被施工物表面に塗布したコンクリート構造体を得ることが出来る。
本発明のポリマーセメント組成物は、病院、学校、寮構内等の公共施設、コンビニ、マンションなどの一般建築物の床、ベランダや屋上の防水に最適に用いることが出来る。
【0069】
本発明のポリマーセメント組成物は、攪拌容器にエマルジョンを所定量計量し、攪拌機でエマルジョンを攪拌しながら所定量のアルミナセメント及び充填材、さらに必要に応じて各種の添加剤などを添加し、数分間攪拌・混合して調整することができる。その際水の添加は、材料分離及び塗膜物性低下の面から行わないほうが好ましい。
アルミナセメント、充填材或いは添加剤などは、単独で添加しても良いし、予め他の数種と混合したものを添加しても良く、添加順序は特に選ばない。また、攪拌機は、一般的な固液攪拌機など撹拌機能を有するものを問題なく用いることが出来る。
【0070】
本発明のポリマーセメント組成物及びプライマーは、ローラー、コテ及びスプレーなどを用いる一般的方法で被施工物表面に塗布して使用される。塗布膜の乾燥後に更に同じ操作を繰り返し、複数層の塗布膜を形成させるのが好ましい。また、屋上などの施工でメッシュを塗膜間に挟んだ構造とする場合には、乾燥後の塗膜の上にメッシュを置き、メッシュの上から塗布してメッシュを固定する工程を加える工法が採用できる。さらに、最外層に別組成物を塗布・乾燥させた保護層を形成させて仕上げることも可能である。
【0071】
本発明のポリマーセメント組成物は、−10℃下地ひび伸び追従性に優れ、伸びが好ましくは2mm以上、さらに好ましくは2.5mm以上である。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明する。但し、本発明は下記実施例により制限されるものでない。
【0073】
(1)明度及び色相の評価方法: 5mm厚スレート板(300×300mm)に、予めプライマー(各実施例及び比較例と同じエマルジョンを用い、エマルジョンに水を添加し10倍に希釈した液)を0.4kg/mの量で塗布する。このスレート板のプライマー塗布面に、ポリマーセメント組成物を1.8kg/mの量で塗布し、20±3℃、湿度65±5%の条件で7日間養生し、試験体Aを得る。
明度及び色相は、試験体Aのポリマーセメント組成物を塗布した面を、ハンディー色差計(日本電色工業(株)製、NR−3000)(光源:C/2°)を用いて、明度L、色相a、色相bを測定し、これを乾燥時の明度及び色相とする。
その後、試験体Aを20±3℃の水に、24時間浸漬させる。その後試験体Aを水から取り出し、ポリマーセメント組成物の塗布面の水滴をウエスでふき取り、上記ハンディー色差計を用いて、明度L、色相a、色相bを測定し、これを湿潤時の明度及び色相とする。乾燥時と湿潤時の色差ΔE及び明度差ΔLは、以下の数式(5)及び数式(6)により算出する。
【数11】

【0074】
(2)硬化物の乾燥時の色と、湿潤時の色との目視評価:硬化物の乾燥時の色と、硬化物の湿潤時の色とを、目視で観察し、その色の差を評価する。
評価:○:ほとんど差がない、△:少し目立つ、×:差が目立つ。
【0075】
(参考例:エマルジョンAの製造)
予め、容器にイオン交換水420部、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(花王社製、エマルゲン935)28部、メチルメタクリレート322部、2−エチルヘキシルアクリレート616部、n−ブチルアクリレート462部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート60部、メタクリル酸7部、アクリルアミド7部を秤量し、単量体乳化混合液を調整した。
攪拌機、還流冷却器、温度計、滴下装置及び窒素ガス導入管を備えた3Lの反応容器に、イオン交換水560部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(花王社製、ネオペレックスG−65)2.8部を仕込み、窒素ガスで置換し、攪拌しながら内温が78℃になるまで加温した。先に調整した単量体乳化混合液を全体の0.7重量%を量り取り、反応容器に添加した。5分後、5%過硫酸ナトリウム14部を添加して、初期重合を行った。同温で、残りの単量体乳化混合液と5%過硫酸ナトリウム42部とを同時に滴下しながら、5時間重合反応を行った。滴下終了後、さらに1時間、78℃を保ったまま、攪拌を持続させた。その後、70℃まで温度を下げ、有機過酸化物と還元剤を用いて、未反応モノマーの重合を完結させた。その後、室温まで下げ、消泡剤、防腐剤、光安定剤、紫外線吸収剤を添加し、アンモニア水、イオン交換水でpH、不揮発分を調整し、アクリル系のエマルジョンAを得た。
アクリル系のエマルジョンAは、メチルメタクリレート約23重量%、2−エチルヘキシルアクリレート約44重量%、n−ブチルアクリレート約33重量%から得られる、ガラス転移温度が−40℃である。
【0076】
[実施例1〜5、比較例1〜3]
(1)原料は、以下の物を用いた。
・アルミナセメント:市販アルミナセメント(JIS・R−2511による第3種)。
・ポルトランドセメント:早強セメント、ブレーン比表面積4,500cm/g。
・珪砂:市販の珪砂7号。
・酸化チタン:石原テクノ社製、タイペークCR−97。
・カーボンブラック:市販品。
・アクリル系エマルジョン:エマルジョンA。
・増粘剤:市販品。
【0077】
(2)ポリマーセメント組成物の調製
2Lのポリ容器にエマルジョンA、アルミナセメント、珪砂及び光遮蔽性顔料(酸化チタン、カーボンブラック)を、表1に示す配合割合(合計1250g)で加え、0.15KW攪拌機を使用し1300rpmの条件下で3分間混合し、ポリマーセメント組成物を得た。
得られたポリマーセメント組成物は、硬化物を製造し、乾燥時及び湿潤時の明度及び色相の測定を行い、結果を表1に示す。
表1の配合割合において、エマルジョンは固形分量である。
【0078】
比較例2及び比較例3の組成物では、さらに酸化チタンなどの光遮蔽性成分を追加することにより、見栄えの良い製品として使用することができる。
【0079】
【表1】

【0080】
実施例1〜5のポリマーセメント組成物は、浸水前後の明度差及び色差が小さい。
比較例2及び比較例3の組成物では、さらに酸化チタンなどの光遮蔽性成分を追加することにより、見栄えの良い製品として使用することができる。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナセメント及びポルトランドセメントから選ばれる成分を少なくとも1種含むセメント成分と、エチレン・酢酸ビニル共重合体エマルジョン及びアクリル系共重合体エマルジョンから選ばれる成分を少なくとも1種含む樹脂エマルジョンと、光遮蔽性顔料及び光遮蔽性フィラーから選ばれる成分を少なくとも1種含む光遮蔽性成分とを含むポリマーセメント組成物であり、
ポリマーセメント組成物の硬化物の乾燥時の物体色と、湿潤時の物体色との色差(ΔE)が下記数式(1)で表されることを特徴とするポリマーセメント組成物。
【数1】

【請求項2】
光遮蔽性成分は、二酸化チタン(酸化チタン)及びカーボンブラックから選ばれる光遮敵性顔料を少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1に記載のポリマーセメント組成物。
【請求項3】
樹脂エマルジョンの固形分100質量部に対し、セメント成分を10〜150質量部含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のポリマーセメント組成物。
【請求項4】
ポリマーセメント組成物は、さらに充填材を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリマーセメント組成物。
【請求項5】
ポリマーセメント組成物は、さらに充填材を含み、
樹脂エマルジョンの固形分100質量部に対し、セメント成分と充填材の合計量26〜500質量部を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリマーセメント組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリマーセメント組成物から得られることを特徴とするポリマーセメント組成物の硬化物。
【請求項7】
アルミナセメント及びポルトランドセメントから選ばれる成分を少なくとも1種含むセメント成分と、エチレン・酢酸ビニル共重合体エマルジョン及びアクリル系共重合体エマルジョンから選ばれる成分を少なくとも1種含む樹脂エマルジョンと、光遮蔽性顔料及び光遮蔽性フィラーから選ばれる成分を少なくとも1種含む光遮蔽性成分とを含むポリマーセメント組成物の製造方法であり、
セメント成分と、樹脂エマルジョンと、光遮蔽性成分とを含むポリマーセメント組成物の硬化物を作成し、
ポリマーセメント組成物の硬化物の乾燥時の物体色と湿潤時の物体色を測定し、
乾燥時の物体色と湿潤時の物体色との色差(ΔE)が下記数式(1)で表されるように光遮蔽性成分の添加量を調整することを特徴とするポリマーセメント組成物の製造方法。
【数2】

【請求項8】
光遮蔽性成分は、二酸化チタン(酸化チタン)及びカーボンブラックから選ばれる光遮敵性顔料を少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項7に記載のポリマーセメント組成物の製造方法。
【請求項9】
ポリマーセメント組成物は、樹脂エマルジョンの固形分100質量部に対し、セメント成分を10〜150質量部含むことを特徴とする請求項7又は請求項8に記載のポリマーセメント組成物の製造方法。
【請求項10】
ポリマーセメント組成物は、さらに充填材を含むことを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載のポリマーセメント組成物の製造方法。
【請求項11】
ポリマーセメント組成物は、さらに充填材を含み、
樹脂エマルジョンの固形分100質量部に対し、セメント成分と充填材の合計量26〜500質量部を含むことを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載のポリマーセメント組成物の製造方法。
【請求項12】
請求項7〜11のいずれか1項に記載のポリマーセメント組成物の製造方法により製造されるポリマーセメント組成物の硬化物。



【公開番号】特開2006−151703(P2006−151703A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−340369(P2004−340369)
【出願日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】