説明

防汚性石材タイル

【課題】 有機性の汚れを効率的に分解除去できる活性の高い、しかも石材タイル表面の色調や質感を害さない透明の光触媒被膜を備えた防汚性石材タイルを提供すること。
【解決手段】 イソプロピルアルコール4wt%にチタンテトライソプロポキシド16wt%を分散させ、これに、リン分が酸化チタンに対して7mol%となるようにリン酸を溶解させた80wt%の割合の水を混合し、攪拌した後、この混合液に、外割で2wt%の濃硝酸を加えて加水分解・重縮合させ、更に40℃の温度で3時間熟成させ、透明で沈殿がないゾル状態の安定したリン添加酸化チタンゾル溶液を得た。次いでこのリン添加酸化チタンゾル溶液を石材タイルの表面に刷毛で薄く塗布し、常温で乾燥させた後、焼成炉に入れて500℃の温度で15分間焼き付け処理し、表面にリン添加酸化チタンの皮膜を備えた防汚性石材タイルを得た。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に酸化チタン皮膜を備えた防汚性石材タイル、特に光触媒活性の高い酸化チタン被膜を備えた防汚性石材タイルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築物の外装用として配された石材タイルの表面は、日時の経過と共に付着する種々の汚染物質によって汚れが生じ、その本来持っている色調や質感が失われてくる。特に都会では、汚れが甚だしく、短期でひどい汚れとなり、頻繁な洗浄が必要になる。
【0003】
このような問題の対策として、太陽光等に含まれる紫外線の照射を受けて、表面に生じた電荷により有機物の分解を行う光触媒被膜を対象物表面に被覆する光触媒技術が取り入れられている。光触媒物質としては、多くの場合に、光照射によって生じる電荷の酸化力が高く化学的にも安定な酸化チタンが利用されている。石材タイルの表面に付着する有機性の汚れを光触媒の作用により分解除去しようとする趣旨である。
【0004】
光触媒は、照射光の光量や光触媒物質の特性に起因して有機物の分解効率などの活性が変化することが知られている。また光触媒の効果は、比較的反応速度が遅く、分解対象となる物質の濃度が希薄な場合には有効であるが、濃度の高いところや光量の少ないところでは十分な効果を得ることが期待できない。
【0005】
また表面に光触媒被膜を備えた建築物用の外装タイルでは、太陽光が直接当たる日向部分と、間接的にしか当たらない日陰部分とで光触媒活性にムラが生じることが問題視されており、もともと反応速度の遅い光触媒の機能が十分に発揮されないことが懸念されている。
【0006】
これらの問題に対して、光触媒自体の反応性を高めて十分な効果を得るための種々の対策が検討されている。
【0007】
光触媒の活性を向上させる手法としては、太陽光中に大量に含まれ可視光に対する反応性を高めたり、白金などの金属を担持させて電荷分離効率や量子効率を高める手法等が提案されている。また、光触媒物質の粉末を微細化したり多孔質化することで表面積を向上させたり、或いは吸着性の高い物質と混合することで反応の効率を高める手法も提案されている。
【0008】
しかしながら、いずれの手法による光触媒材料も建築物外装用の石材タイル表面に光触媒被膜形成用に使用した場合には、その表面の色調や質感を維持することができない問題がある。
【0009】
例えば、可視光側に反応性を拡張する可視光応答化の手法では、最も効果の高い窒素ドープによれば生成した光触媒は黄褐色になり、白金を担持させた場合には薄黒く変色し、いずれにしても被膜を形成する石材タイル表面の色調や質感に悪影響を与えるといわざるを得ない。更にこれらの手法では、特殊な燃焼炉を必要としたり、高価な金属を使用するなど処理コストが大幅に増加するため、汎用的な製品である建築物外装用の石材タイルへの適用が期待できるものではない。
【0010】
以上のような酸化チタンの光触媒活性を向上させる技術には非特許文献1で報告された例がある。これは、チタンテトライソプロポキシドと溶媒のイソプロピルアルコールとの混合溶液に濃硝酸を加えて加水分解し、生成した酸化チタンのゾル溶液に更に酸化チタンに対して5mol %の割合でリンイオン又はホウ素イオンを添加し、陽極に白金板、陰極にステンレス板を使用して定電位電解を行ったところ、低電位側でゼリー状の被膜を形成し、これを乾燥すると薄い透明な被膜となり、高電位側で白色粉末状の被覆を形成したが、いずれもリンイオン又はホウ素イオンを添加しなかった場合と比較して最大で4倍程度のアセトアルデヒド分解速度を得ることができたというものであり、このようなリンイオン等を添加した場合の傾向は、通常のゾルゲル法で作成した酸化チタン被膜でも見られるものであるとのことである。
【0011】
【非特許文献1】飯村修志、光触媒の高機能化処理、「ECO INDUSTRY」、発行所名、2004年5月25日、第9巻、第6号、p.27−31
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、有機性の汚れを効率的に分解除去できる活性の高い、しかも対象物表面の色調や質感を害さない透明の光触媒被膜を備えた建築物外装用の防汚性石材タイルを提供することを解決の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の1は、表面に透明で沈殿のないリン添加酸化チタンゾル溶液によって光触媒皮膜を形成した防汚性石材タイルである。
【0014】
本発明の2は、本発明の1の防汚性石材タイルに於いて、前記リン添加酸化チタンゾル溶液として、金属アルコキシド法により製造したリン添加酸化チタンゾル溶液であって、初期の酸化チタンの粒径を20nm以下に制御した上でリン添加を行い、酸触媒のもとで加水分解・重縮合させ、かつ熟成して得たリン添加酸化チタンゾル溶液を用いたものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の1の防汚性石材タイルによれば、その表面の光触媒被膜を透明で極めて高い光触媒活性を備えたものとすることができるため、建築物の外装用石材タイルとして採用した場合に、表面に付着することのある有機性の汚れ成分を効率的に分解除去し、長期にわたって汚れのない状態を保持することができる。また前記のように、その表面の光触媒被膜を透明で極めて薄い膜に形成し得るものであるため、該石材タイルの表面の色調及び質感を阻害せず、皮膜の形成による違和感を感じさせないものとなる。
【0016】
本発明の2の防汚性石材タイルによれば、その表面の光触媒皮膜を、前記金属アルコキシド法によって初期の酸化チタンの粒径を20nm以下に制御して製造した沈殿がない透明で安定したリン添加酸化チタンゾル溶液によって作成するものであるため、該光触媒皮膜を、透明で光触媒活性が高いものとなし得、対象である石材タイル表面の色調及び質感に悪影響を与えないものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、表面に透明で沈殿のないリン添加酸化チタンゾル溶液によって光触媒皮膜を形成した防汚性石材タイルである。
【0018】
前記石材タイルは、天然の石材を板状に加工したものであり、その表面は平坦・平滑なものでも、種々の凹凸模様が形成されているものであっても適用可能である。
【0019】
前記リン添加酸化チタンゾル溶液は、石材タイルの表面に光触媒皮膜を形成するための光触媒材料であるが、これは、酸化チタンの特性を損なうことなく、その光触媒活性を向上させる趣旨でリンを添加したものである。
【0020】
また該リン添加酸化チタンゾル溶液は、前記のように、透明で沈澱のないものである必要があり、これは、形成する光触媒皮膜を活性の高い透明で均一な皮膜とするためである。形成される皮膜の光触媒活性は、用いるリン添加酸化チタンゾル溶液の安定性と密接な関係があり、白濁した沈殿を生じているゾル溶液から作成できる被膜は、不透明で不均一な皮膜となり、光触媒活性の低いものとなる。光触媒活性の高い、透明で良好な被膜を作成するためには、前記したように、沈殿が抑制された透明乃至半透明の安定したリン添加酸化チタンゾル溶液である必要がある。
【0021】
このようなリン添加酸化チタンゾル溶液としては、金属アルコキシド法により製造したそれであって、初期の酸化チタンの粒径を20nm以下に制御した上でリン添加を行い、酸触媒のもとで加水分解・重縮合させ、かつ熟成して得たそれを採用するのが適当である。
【0022】
これを少し詳しく説明すると、次のようになる。
金属アルコキシド法によれば、リン添加酸化チタンゾル溶液は、チタンのアルコキシド、例えば、チタンテトライソプロポキシドをイソプロピルアルコール等の溶媒に分散させ、これを濃硝酸等の酸触媒の下で加水分解・重縮合させて作成する。リンの添加は、酸触媒を加える前に、チタンアルコキシドの溶液中に加水分解用の水に溶解させた状態で行うのが適当であるが、前記のように、このとき、初期の酸化チタンの粒径を20nm以下に制御しておくべきものである。これによって、沈殿が抑制され、透明乃至半透明となった、安定したリン添加酸化チタンゾル溶液を得ることができる。
【0023】
前記のように、初期の酸化チタンの粒径を20nm以下に制御するのは、安定したリン添加酸化チタンのゾル溶液を得るための条件である。これは、初期の酸化チタンの粒径を種々に変えて行った多数の実験の結果から知り得たものであり、より好ましくは、初期の酸化チタンの粒径を0.1〜18nmに制御してリンを添加すれば、一定の割合のリン添加範囲内で、沈殿が抑制された安定した透明乃至半透明のリン添加酸化チタンゾル溶液を確実に作成することができる。
【0024】
この初期の酸化チタン粒径の20nm以下への制御は、溶媒中のチタンアルコキシドの濃度、溶液混合時の攪拌の有無、酸触媒の濃度、熟成温度及び熟成時間を適切に調整することによって行うことが可能である。
【0025】
これらの調整は、多数の実験結果から知り得た以下のような現象に基づいて行うことができる。
溶媒中のチタンアルコキシドの濃度 : 低い → 酸化チタン粒径小
溶液混合時の攪拌 : 有り → 酸化チタン粒径小
酸触媒の濃度 : 低い → 酸化チタン粒径大
熟成温度 : 高い → 酸化チタン粒径大
熟成時間 : 長い → 酸化チタン粒径大
【0026】
他方、前記リンの添加量は、酸化チタンに対して7〜13mol%、好ましくは7〜8mol%の割合の量とするのが適当である。生成するリン添加酸化チタンゾル溶液は、以上の溶媒中のチタンアルコキシドの濃度、溶液混合時の攪拌の有無、酸触媒の濃度、熟成温度及び熟成時間を調整することで、沈殿を抑制した透明乃至半透明の安定したものとなし得るが、前記リンの添加量を以上のような割合の量にすると、一層透明乃至半透明の安定性の増したものとなし得、加えて、これを対象物表面に塗布して得られる皮膜を透明で光触媒活性の一層高いものとすることができる。
【0027】
また図1は、リン添加量と酸化チタン光触媒反応速度との関連性を示したものであるが、この図に示すように、初期の酸化チタンの粒径を15nmに制御した酸化チタンゾル溶液にリンを添加した場合のデータから、酸化チタンに対して7〜13mol%の割合でリンを添加したゾル溶液を用いて形成した酸化チタン被膜が高い光触媒活性を示しており、中でも7〜8mol%の割合でリンを添加したリン添加酸化チタンゾル溶液で形成した被膜が高い光触媒活性を示している。
【0028】
以上に示したリン添加酸化チタンゾル溶液の好ましい製造過程を整理して以下に順を追って説明する。
【0029】
先ずイソプロピルアルコール等の溶媒中にチタンのアルコキシドであるチタンテトライソプロポキシドを分散させる。好ましくは、前記初期の酸化チタン粒径の調整の観点から適切な濃度に調整して分散させる。他方、加水分解用の水にリン酸を加える。これも好ましくは、前記のように、酸化チタンに対して7〜13mol%、より適切には7〜8mol%の割合の量を加水分解用の水に加える。次いで、前記チタンテトライソプロポキシドの溶液に前記リン酸の水溶液を混合する。このとき、前記初期の酸化チタン粒径の調整の観点から攪拌し又は攪拌を行わないこととする。
【0030】
この後、前記混合液中に、触媒として、例えば、濃硝酸を加える。濃硝酸の濃度は、前記初期の酸化チタン粒径の調整の観点から適切に調整する。例えば、20〜40wt%程度の範囲に調整する。このように酸触媒を加えて加水分解・重縮合を進行させ、更に前記初期の酸化チタン粒径の調整の観点から熟成温度及び熟成時間を調整し、例えば、前者を40℃前後、後者を3時間前後として熟成させ、沈殿のない透明でゾル状態の安定したリン添加酸化チタンゾル溶液を得ることができる。
【0031】
以上のリン添加酸化チタンゾル溶液による前記石材タイルの表面への光触媒被膜の形成は、該ゾル溶液をその表面に塗布することから始める。該ゾル溶液の塗布は、ゾル溶液の中に石材タイルを浸して引き上げるディップ法や、ロールを使ってゾル溶液を掬い上げ石材タイル表面に転写させるロール法、或いは刷毛で塗布する方法を使用する等、薄い均一な被膜を形成できるものであればどのような方法でも採用可能である。
【0032】
以上のようにして石材タイル表面に塗布したリン添加酸化チタンゾル溶液は、これを自然乾燥してゲル化させ、その後、焼成炉に入れて500℃前後の温度で15〜20分程度焼き付け処理を行い、硬化したリン添加酸化チタン皮膜を形成させる。こうして前記石材タイルの表面は、透明な高い光触媒活性を有するリン添加酸化チタン皮膜で被覆され、防汚性石材タイルとなる。
【0033】
本発明の防汚性石材タイルの光触媒被膜は、以上のように、透明で均一なものとなり、対象物である石材表面の色調や質感を損なうことがない。
【実施例】
【0034】
本発明の防汚性石材タイルの一つの製造例を実施例1として示す。
【0035】
<実施例1>
先ず石材タイル表面へ塗布するリン添加酸化チタンゾル溶液を準備する。イソプロピルアルコール中にチタンテトライソプロポキシドを分散させる。前者が4wt%、後者が16wt%となる割合で、前者に後者を分散させる。これに、リン分が酸化チタンに対して7mol%となるようにリン酸を溶解させた80wt%の割合の水を混合し、攪拌した後、この混合液に、触媒として外割で2wt%の濃硝酸を加えて加水分解・重縮合させ、更に40℃の温度で3時間熟成させ、透明で沈殿がないゾル状態の安定したリン添加酸化チタンゾル溶液を得た。
【0036】
次いで天然石を板状に加工して製作した石材タイルの表面に、前記リン添加酸化チタンゾル溶液を刷毛で薄く塗布し、常温で乾燥させた後、これを焼成炉に入れ500℃の温度で15分間焼き付け処理し、表面にリン添加酸化チタンの皮膜を備えた実施例1の防汚性石材タイルを得た。
【0037】
この防汚性石材タイルの表面に形成したリン添加酸化チタンの皮膜は、無色透明で該石材タイル表面の元来の色調や質感に全く変化を与えるものではなかった。
【0038】
<比較例1>
実施例1とリン酸を用いなかった点を除いては全く同様にして酸化チタンゾル溶液を製造し、この酸化チタンゾル溶液を同様の石材タイルの表面に刷毛で塗布し、全く同様にして表面に酸化チタン被膜を備えた比較例1の防汚性石材タイルを製造した。
【0039】
この比較例1で用いた酸化チタンゾル溶液は、リンは添加されていないが、透明で安定したゾル溶液となったため、防汚性石材タイル表面に形成された酸化チタン被膜は、実施例1の防汚性石材タイル表面のリン添加酸化チタン被膜と同様に透明で該石材タイル表面の元来の色調や質感に変化を与えるものではなかった。
【0040】
<光触媒反応試験及びその結果からの考察>
実施例1及び比較例1の各防汚性石材タイルの表面に形成した皮膜について、光触媒反応試験として、アセトアルデヒドガスの分解反応速度の測定を行い、測定結果を図2に示した。
【0041】
図2に示すように、実施例1の皮膜は、比較例1の皮膜に比べて短時間にアセトアルデヒドガス濃度が低下しており光触媒活性が高いことが分かる。またこれを分解反応速度定数を算出して両者を比較すると、実施例1の皮膜は比較例1の皮膜に比べて約2.5倍の分解反応速度を達成するものであった。このようにこの実施例1の防汚性石材タイル表面の光触媒皮膜は優れた光触媒機能を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】リン添加量と酸化チタン光触媒反応速度との関連性を示す図。
【図2】防汚性石材タイル表面の光触媒被膜の光触媒反応試験結果を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に透明で沈殿のないリン添加酸化チタンゾル溶液によって光触媒皮膜を形成した防汚性石材タイル。
【請求項2】
前記リン添加酸化チタンゾル溶液として、金属アルコキシド法により製造したリン添加酸化チタンゾル溶液であって、初期の酸化チタンの粒径を20nm以下に制御した上でリン添加を行い、酸触媒のもとで加水分解・重縮合させ、かつ熟成して得たリン添加酸化チタンゾル溶液を用いた請求項1の防汚性石材タイル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−75704(P2007−75704A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−265142(P2005−265142)
【出願日】平成17年9月13日(2005.9.13)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年3月14日から16日 社団法人表面技術協会主催の「第111回 講演大会」において文書をもって発表
【出願人】(591106462)茨城県 (45)
【出願人】(594043409)株式会社タカタ (1)
【Fターム(参考)】