説明

防災用電子看板およびそのシステム

【課題】各被災者がどの避難場所に避難しているかといった被災者間において得に重要な安否情報が被災地域内の被災者間で速やかに共有されることを課題とする。
【解決手段】災害時の避難所に指定されている施設にあり、災害時にあっては避難所となった全施設において共有されるべき情報を表示するための可変表示機能部と、該共有情報を通信するための通信機器からなる通信部と、を少なくとも有する事を特徴とする防災用電子看板により解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防災用途を含んだ電子看板とこれを用いた表示システムに関わる。
【背景技術】
【0002】
地震や風水害などによる災害が発生した場合における被災住民の避難方法は各地方自治体がその方針を定めているが、ほとんどの自治体においては避難場所を2段階以上に分けた非難方針を定めている。即ち、まず域内住民が1000ないし2000人程度となる様に分けた地域毎の広場、公園等に設けられる一時避難所などと呼ばれる場所に集合をする事を第1段階とし、災害の規模が大きく、暫く避難所における生活を余儀なくされた場合に、予め決められた避難路を通過して、避難生活の拠点となる設備を整えた、または速やかに整えられる、避難所などと呼ばれる場所に集合する事を第2段階とする様な方法である。
【0003】
この様な避難方法において、被災者がどの一時避難所へ避難するかは、自宅において被災した場合には自明であるが、外出中に被災した場合には被災時の居場所により異なる。あるいは自宅における被災であっても被災者が日頃避難場所に注意を払っていない市民であった場合、彼らの避難する避難場所は必ずしも自明ではない。
【0004】
災害の発生という非日常的状況においては、被災者は上記の様な方法により避難という非日常的行動を取ることになるため、被災者の安否情報は重要な情報の一種となり、これを必要とする人々に対して速やかに周知するシステムが求められる。なぜなら、この様なシステムが無い場合、被災者およびその関係者は個々に一般の電話回線を用いて安否情報を得ようとすることは必定であり、よって回線は輻輳状態となり、甚だしい場合は通信効率が非常に低下した状態、いわゆる輻輳崩壊に至るためである。
【0005】
この様な要求および問題に対する意識は以前より存在しており、NTTが1998年3月31日からサービスを開始している災害用伝言ダイヤルおよび同社が2005年8月30日より試験運用を開始した災害用ブロードバンド伝言板はその一例である(非特許文献1参照)。これらはいづれも被災者の契約している電話番号をキーとして安否情報などの遣り取りをする事により回線の輻輳を回避しつつ個対個の通信を、時間差はあるが、確保する技術である。
【0006】
しかし、災害用伝言ダイヤルは災害発生後の初期では輻輳を回避するため「被災地からの録音」および「被災地外からの聞取り」の二用途を優先することから、被災地内の被災者同士による安否確認が取れない事が問題点として挙げられる。また、或る特定の被災者の安否情報についてこれを欲する人は複数存在することが通常であり、個対個での遣り取りよりは多数へ周知するシステムが速報性の点において災害時においてはより求められる。これについては大規模災害時においては放送事業者が独自に安否情報を放送するということが起こり得るが、放送事業者が本質的に抱える放送時間の制限により安否情報のみを放送し続けるという事は無く、従って被災者およびその関係者にとって必要な情報をこの種の放送によって得るという事は難しく、そもそもこれは飽くまで放送事業者が独自に取る措置であるためシステムと呼ぶには至らない。
【0007】
これに対し、多数へ安否情報を提供するシステムとしては特許文献1の様に特定の多数へ安否情報を提供するものが提案されている。しかし「特定」多数への提供であり、或る被災者の安否情報の提供を受けるには予め該被災者の関係者である事を登録しておく必要がある。また該システムでは、データベースに登録された者の安否情報のみを災害時に取
得するものであるため、これも予め登録する必要がある。日頃より防災に関する意識を高める事は固より重要であるが、事前の登録を強制する手段を取り得ない以上、被災者の大多数が利用できる事が重要である安否情報の提供手段において、該システムの有効性は低いと断ぜざるを得ない。
【0008】
実際の利用においては避難場所に登録端末を設置することにより事後的に登録するという運用方法があり得るが、登録時には当然安否情報を提供する先の登録をも行なわなければならないため登録に時間がかかる事は必定である。
【特許文献1】特開2002−342859号公報
【非特許文献1】NTT東日本 災害への取組み [on line]、[平成20年6月6日検索]、インターネット、<URL;http://www.ntt−east.co.jp/saigai/>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って既存の安否確認方法、即ち災害用伝言ダイヤル或いは情報端末を用いたものでは、被災地内の被災者同士での安否確認が非常に困難であるという問題がある。人物の安否情報を欲する者が最も多いのはその人物が暮らす地域社会であることが当然である事を鑑みれば、域内の被災者同士の安否情報が共有されにくい事態は、安否情報に関する課題では最も優先的に解決されるべきものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記課題に鑑みて為されたものであって、避難所に指定された施設に設置された電子看板に、該電子看板の通信部により他の避難所の電子看板等と通信を行なうことで各避難所の情報を互いの電子看板が共有することで利用可能となる、各避難所に集合している被災者の情報が表示されることにより、被災地内の被災者同士での安否情報の確認を素早く容易に行なえ、以って上記課題が解決されるものである。
【0011】
すなわち請求項1に係る発明は、災害時の避難所に指定されている施設にあり、災害時にあっては避難所となった全施設において共有されるべき情報を表示するための可変表示機能部と、該共有情報を通信するための通信機器からなる通信部と、を少なくとも有する事を特徴とする防災用電子看板である。
【0012】
また請求項2に係る発明は、請求項1に記載の防災用電子看板において、
情報の通信方法が携帯電話において使用される帯域の電波および携帯電話における通信技術を用いて行われる無線通信である事を特徴とする防災用電子看板である。
【0013】
また請求項3に係る発明は、請求項1に記載の防災用電子看板において、
可変表示機能部の表示部が電子ペーパーからなる事を特徴とする防災用電子看板である。
【0014】
また請求項4に係る発明は、請求項3に記載の電子ペーパーにおいて、
分散媒中の電気泳動粒子が白色電気泳動粒子と黒色電気泳動粒子であることを特徴とする防災用電子看板である。
【0015】
また請求項5に係る発明は、請求項1〜4の何れかに記載の防災用電子看板を用いた表示システムであって、
各避難所から発生した、該避難所のみならず他の避難所を含む全避難者が享受する必要
のある情報を該電子看板から被災の無い遠隔地に設置されたサーバへ通信部により遣り取りした後、サーバから全避難所の全電子看板へ該情報を送出することで必要な情報を共有せしめる事を特徴とする防災用電子看板システムである。
【発明の効果】
【0016】
以上の如く本発明の防災用電子看板によれば、地震や風水害などの自然災害が発生した際に指定の避難場所に避難している被災者の情報を登録することにより、各被災者がどの避難場所に避難しているかといった被災者間において得に重要な安否情報が被災地域内の被災者間で速やかに共有される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に本発明の実施形態について図を用いて説明する。図1は発明の実施の形態の一つである防災用電子看板の運用システムについてその構成を示した概略図である。図中の1は指定の避難場所に予め設置されている防災用電子看板であり、少なくとも情報を表示するための表示部と情報を通信するための通信部とからなる。2は域内の電子看板1と情報の遣り取りを行なうサーバである。図1の如くサーバを介して各電子看板の表示内容を遣り取りする事で各電子看板の情報を共有する。
【0018】
図2は電子看板の構成的概略を示すブロック図である。被災者の安否情報や被災者に必要な情報は入力部4から入力されシステム制御部3で処理され記憶部5へ格納される。また、通信部7によるサーバとの通信を介して送られてくる他の電子看板との共有情報についてもシステム制御部3を通じて記憶部5へ格納される。通信手段として無線通信を用いる場合はアンテナ8により受信した電波が通信部7において検波および復調され、その信号がシステム制御部3を通じて記憶部5へ格納される。これら記憶部5に格納された情報はシステム制御部3により処理され表示部6に表示される。また、記憶部5に格納された情報は通信部7を通じて通信しサーバへ送られる。通信手段として無線通信を用いる場合は記憶部5内の情報をシステム制御部3が信号として通信部7へ送り変調されアンテナ8を通じて送信される。
【0019】
電子看板への情報の入力については先述の入力部4からだけではなく無線通信による入力も考えられ、この場合は電子看板とサーバとの通信と同様に、アンテナ8で入力電波を受信し通信部において復調した信号がシステム制御部3で処理され、記憶部5へ格納される。
【0020】
通信手段として無線通信を用いるに際しては携帯電話などに用いられる無線パケット通信にて行なうことが考えられる。或いは、携帯電話事業者に運営を協力して貰うことで無線通信を行なうことも考えられる。後者の通信手段については、公共の通信網を利用するため災害用伝言ダイヤルと同様輻輳の虞はあるが、通信部7の汎用性は高まる。また、いづれの場合もサーバは電子看板の設置された地域から遠方にあっても何ら問題なく、従って、サーバが被災しないシステムを構築する事は可能である。
【0021】
次に文字情報を表示する表示部6の構成について説明する。図3に示すように本発明による電気泳動表示パネルは、白色粒子11と着色粒子13を内包する分散媒12を用いてなるマイクロカプセル19からなるインキを、透明基材9上に透明電極10を設けた前面電極板18上に塗布することでカプセル型電気泳動層を形成し、当該カプセル型電気泳動層上に透明接着剤層15を介して画素電極16を配した背面基材17からなる背面電極板20をラミネートすることにより成り立つ。尚、図3は模式図であり、同図に描かれている各層の厚さは、実際の厚さを反映したものではない。実際には、マイクロカプセル含有層は通常、数十μm程度の非常に薄い膜を成すように形成され、一方、前面電極板および背面電極板はそれよりも遥かに厚い層を成すように形成されている。
【0022】
透明分散媒は、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂環式炭化水素、ハロゲン化炭化水素、各種エステル類、アルコール系溶媒、またはその他の脂等を単独または適宜混合した溶媒を用いることができる。
【0023】
ふるい分け、比重分離法などの任意の方法により精製されたマイクロカプセル溶液中のカプセル平均粒径は40〜70μmである。
【0024】
着色粒子は、無機炭素等の無機顔料のほか、ガラスあるいは樹脂等の微粉末、さらにはこれらの複合体などを使用する。
【0025】
白色粒子としては、公知の酸化チタン、シリカ、アルミナ、酸化亜鉛等の白色無機顔料、酢酸ビニルエマルジョンなどの有機化合物、さらにはこれらの複合体などを使用する。
【0026】
なお、着色粒子および白色粒子は必要に応じて、粒子の表面を種々の界面活性剤、分散剤、有機および無機化合物、金属等を用いて処理することで所望の表面電化を付与することができるのみならず、分散媒中での分散安定性を向上させることができる。
【0027】
分散液は、混合コアセルベーション法等の相分離法、界面重合法、in−situ法、溶解分散冷却法等、公知の方法を用いて作成させるマイクロカプセルに封入する。マイクロカプセルは例えばゴムやゼラチン状である。
【0028】
前面電極板は透明基材上に透明電極が設置されている。透明基材としてはポリエチレンテレフタレートやポリカーボネート、ポリイミド、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル等のプラスチックフィルム、あるいはガラス等が挙げられる。透明電極は例えば酸化インジウム系、酸化スズ系、酸化亜鉛系のような透明性を有する電気伝導性酸化物等が用いられる。この形成には蒸着法、スパッタ法、CVD法などの従来技術が用いられる。
【0029】
カプセル型電気泳動層は前記のようにマイクロカプセルインキを、前面電極上に塗工する。塗工方法としては、マイクログラビアコーター、キスコーター、コンマコーター、ダイコーター、バーコーダー、カーテンコーターなどの方法によって行う。これを透明接着剤層とラミネーションをすることにより電気泳動表示パネル用前面基板を作製する。
【0030】
電気泳動表示パネル用前面基板を画素電極の配置された背面基板とラミネーションすることにより、本発明の防災用電子看板における電子ペーパーによる電気泳動表示部6を製造する。以下、本発明について実施例に基づきその効果について詳述する。
【実施例】
【0031】
本発明の効果を確認すべく、上記の如き電子看板の上記の如き運用が原理的に可能である事の確認を行なった。以下にその詳細を記述する。
【0032】
まず、電子看板の表示部6の作製方法について詳述する。ISOPARG溶媒に、ポリエチレン樹脂で表面を被覆した酸化チタン粉末の白色粒子と、カーボンブラック粒子の黒色粒子とが分散された分散液を作製した。
【0033】
次いで、この分散液について、水にゼラチンとポリスチレンスルホン酸ナトリウムとを配合した水溶液と混合し、液温を40℃に調整した後、液温を保ちながら、ホモジナイザーにより攪拌し、O/Wエマルジョンを得た。
【0034】
次に、得られたO/Wエマルジョンと、40℃に調製された水にアラビアゴムを配合した水溶液とを、ディスペンサーを用いて混合し、溶液の液温を40℃に維持しつつ、酢酸を用いて溶液のpHを4に調整し、コアセルベーションによりマイクロカプセル壁を形成した。
【0035】
更に、液温を5℃に低下させた後、37重量%ホルマリン溶液を加えてマイクロカプセル壁を硬化させ、白色粒子(酸化チタン粒子)とシアン着色粒子が分散した分散液を封入したマイクロカプセルを得、篩い分けにより、平均粒径が50μm、40−60μmの粒径の割合が75%以上のマイクロカプセル溶液Cを得た。
【0036】
次に、このマイクロカプセル溶液Cを調整し、固形分40重量%の水分散混合マイクロカプセル溶液を作製し、これに固形分40重量%のウレタン系バインダ、界面活性剤、増粘剤、純水を混合することでマイクロカプセルインキを作製した。
【0037】
マイクロカプセルインキをスロットダイにてITO/PET基材上に塗布し、塗布後60℃で10分間乾燥し、得られたシートをポリエステル−ウレタン系接着剤により、64ドット×128ドットがマトリックス状に並んだセグメント基板に5kg/cm2の圧力で貼り合せ、電子ペーパーによる表示パネル装置を得た。このパネルを6枚×4枚並べることにより、凡そ1.5m×2.0mの大きさの電子看板を作製した。
【0038】
上記のようにして作製した2枚の電子看板に、あらかじめ作成した60件の安否情報のサンプルからそれぞれに15件づつ計30件の登録を、全て外部からの通信によって行なった。登録した情報の1件あたりの内容は、被災者の氏名、住所の郵便番号、現在避難している避難場所および健康状態の4種である。また、通信には無線パケット通信を用い、送信側の端末として携帯電話を使用している。登録の結果、2枚の電子看板いづれにも登録した15件の安否情報が表示部6に問題なく表示された。
【0039】
次に2枚の看板それぞれの情報の共有化を行なうべく、サーバを介した通信を行なった。即ち、電子看板に登録された安否情報をサーバへ送信し、サーバからの安否情報を受信する処理を行なったところ、2枚の電子看板それぞれに登録した計30件の安否情報が両看板に表示され、安否情報が共有された事を確認した。ここに、電子看板とサーバとの通信には無線パケット通信を用いている。
【0040】
次に2枚の電子看板に登録された情報を消去し、1分毎に1件の安否情報をそれぞれの電子看板に交互に登録、計30件づつの情報を登録する間に、5分毎に両看板の情報を共有するための通信を行い、問題なく表示されるかを確かめた。
【0041】
その結果、試験開始5分後に両看板に表示されていた3件づつの安否情報が共有され両看板に6件の同じ安否情報が表示された。その後も同様に10分後には11件の、15分後には16件の情報が共有され、1時間後にあらかじめ作成した60件の安否情報が共有されるまで両電子看板とも問題なく作動した。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施形態の一つである、防災用電子看板のシステムの概略を示した図である。
【図2】本発明の防災用電子看板の構成について概略を示した図である。
【図3】本発明における表示部の形態の一つである電子ペーパーの構成について模式的に示した図である。
【符号の説明】
【0043】
1…防災用電子看板
2…サーバ
3…システム制御部
4…入力部
5…記憶部
6…安否情報等表示部
7…通信部
8…アンテナ
9…前面基材
10…透明導電膜
11…白色粒子
12…分散媒
13…着色粒子
14…マイクロカプセル殻
15…透明接着剤層
16…画素電極
17…背面基材
18…前面電極板
19…マイクロカプセル
20…背面電極板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
災害時の避難所に指定されている施設にあり、災害時にあっては避難所となった全施設において共有されるべき情報を表示するための可変表示機能部と、該共有情報を通信するための通信機器からなる通信部と、を少なくとも有する事を特徴とする防災用電子看板。
【請求項2】
請求項1に記載の防災用電子看板において、
情報の通信方法が携帯電話において使用される帯域の電波および携帯電話における通信技術を用いて行われる無線通信である事を特徴とする防災用電子看板。
【請求項3】
請求項1に記載の防災用電子看板において、
可変表示機能部の表示部が電子ペーパーからなる事を特徴とする防災用電子看板。
【請求項4】
請求項3に記載の電子ペーパーにおいて、
分散媒中の電気泳動粒子が白色電気泳動粒子と黒色電気泳動粒子であることを特徴とする防災用電子看板。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の防災用電子看板を用いた表示システムであって、
各避難所から発生した、該避難所のみならず他の避難所を含む全避難者が享受する必要のある情報を該電子看板から被災の無い遠隔地に設置されたサーバへ通信部により遣り取りした後、サーバから全避難所の全電子看板へ該情報を送出することで必要な情報を共有せしめる事を特徴とする防災用電子看板システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−72913(P2010−72913A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−239202(P2008−239202)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】