説明

防爆電子機器の電源回路

【課題】防爆電子機器の負荷に流れる電流が変動する場合にも,負荷にかかる電圧を安定化させ,かつ,負荷の電圧と電流を精度よく制限する。
【解決手段】電源1に昇圧回路12を接続し,昇圧回路12から抵抗4,5を介して負荷10に電流を供給する。このとき負荷10にかかる電圧を使って昇圧回路12の昇圧電圧を制御することにより,負荷10にかかる電圧を安定化させる。ツェナーダイオード6,7が,負荷10に並列に接続され,負荷10にかかる電圧を所定の値に制限する。昇圧回路12,抵抗4,5,ツェナーダイオード6,7によって,負荷10にかかる電圧,負荷10に流れる電流を精度よく制限することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,引火・爆発の危険がある薬品や溶剤等が扱われる環境下で使用される防爆電子機器の電源回路に関する。本発明の電源回路は,特に,多くのIC,電子デバイス類を使用する無線端末等で,負荷の電流が変動する場合にも,安定した電源電圧を必要とする場合に適している。
【背景技術】
【0002】
防爆が必要な爆発性雰囲気で使用される電気機械器具に対して,安全性を確保するための規格が定められており,非特許文献1に記載されている。
【0003】
この規格では,防爆電子機器に使われる電源回路は,負荷の電力をある値以下に抑えるように定められている。すなわち,負荷に異常な電圧がかかったり,過剰な電流が流れて,発熱,発火することを防止する手段を講じることが義務づけられている。そのために,電源端子と負荷の間に複数の抵抗または電流制限回路を直列に接続して過剰な電流を抑えるとともに,負荷には複数のツェナーダイオードを並列に接続して電圧が必要以上高くならない方法が一般に使用されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】爆発性雰囲気で使用する電気機械器具,第0部:一般要件,第11部:本質安全防爆構造“i”,第25部:本質安全システム,日本工業規格,JIS C60079−1,JIS C60079−11,JIS C60079−25
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
負荷にかかる電圧をV,負荷に流れる電流をIとし,負荷抵抗をRとすると,負荷の消費電力Pは,
P=IV=I2 R=V2 / R (1)
で計算される。防爆電子機器において,負荷にかかる電力Pを,ある一定の値以下に抑えるには,電圧Vと電流Iを制限する必要がある。
【0006】
図7は,防爆電子機器に使われる従来の電源回路の例を示している。この電源回路について説明すると,電池等の電源101の出力端子102,103間の電圧Vaは,2つの抵抗104,105および2つのツェナーダイオード106,107によって,負荷110の消費電力が制限される。
【0007】
負荷110に何らかの不具合が発生して短絡状態になった場合,抵抗104,105によって電流が制限され,負荷側での発熱が抑えられるため,防爆としての性能を得ている。抵抗104,105を用いる代わりに,電流制限回路が使用されることもある。
【0008】
また,図7では,ツェナーダイオード106,107によって,端子108,109間の電圧Vbがある値以上,負荷110にかからないようにしている。ツェナーダイオード106,107は,負荷110を流れる電流が少なくなったときに,負荷110に必要以上の電圧がかからないようにするだけでなく,大本の電源電圧Vaが高い値になったときにも,電圧Vbが異常に高くなることを防止している。
【0009】
電流を制限するための抵抗として,2つの抵抗104,105を使用している理由は,一方の抵抗が導通状態になる不具合が発生しても,他方の抵抗で負荷に流れる電流をある程度抑えるためである。同様に,ツェナーダイオード106,107についても,一方が障害により遮断状態になっても他方でVbの電圧を抑えることができるように,複数個並列に接続されている。
【0010】
図7の電源回路では,負荷110で消費される電流が変動する場合,その変動に伴って,電圧Vbの値が変動することになり,安定した電源供給が必ずしもできないという不具合があった。特に,負荷110としてシグナルプロセッサ等の集積部品を多く含む無線端末を使用する場合,負荷110の全体にかかる電圧変動は,無線端末のスプリアス特性等の性能面についても大きな問題になっていた。
【0011】
これら,負荷110にかかる電圧変動の問題は,抵抗104,105をそれぞれ電流制限回路に置き換えても同様であり,問題解決にはなっていなかった。
【0012】
本発明の課題は,非特許文献1の規格に基づく防爆対策を行った上で,負荷の消費電流に変動がある場合にも,安定した電圧を負荷側に供給することを可能にし,負荷の電気的特性を大きく改善することである。
【0013】
さらに,(1)式の意味は,電圧または電流の制限が不正確であると,電力の制限は,電圧または電流を“2乗”するために,より大きな誤差を伴うことを意味するが,本発明は,これらの制限をより正確に行うことによって,従来より精度よく負荷の消費電力を制限する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の防爆電子機器の電源回路は,上記課題を解決するため,電源の2極間の電圧を昇圧する昇圧回路と前記昇圧回路の出力側の少なくとも一方の端子に1つ以上の抵抗を直列に接続して負荷に電流を供給する回路構成とし,さらに,前記負荷にかかる電圧がある値以上の電圧にならないように,1つ以上のツェナーダイオードが前記負荷に並列に設けられており,前記昇圧回路は,前記負荷にかかる電圧を使って昇圧の値を所定の値に制御する構成になっている。また,前記抵抗の代わりに,電流制限回路を使用することもできる。
【0015】
本発明に使用される昇圧回路として,インダクタを用いる場合と比べて正確で,軽い負荷に対して高い効率が得られるチャージポンプ回路の方が適している。すなわち,本発明の防爆用電源に用いる昇圧回路の一例として,電源の第1の端子から順に第1のダイオードと第2のダイオードを直列に接続して第1の直列回路を設け,さらに,電源の第1の端子から順に第1の電子スイッチと第2の電子スイッチを直列に接続して第2の直列回路を設け,第1のダイオードと第2のダイオードの電気的結合部分と前記第1の電子スイッチと第2の電子スイッチの電気的結合部分を第1のコンデンサを介して接続し,第2の直列回路の終端は,第2のコンデンサを介して前記第1の直列回路の終端と接続するとともに,電源の第2の端子と接続した構成となっている。さらに,この昇圧回路は,第1の電子スイッチと第2の電子スイッチの開閉をコントロールするためにスイッチ開閉信号発生手段を有し,このスイッチ開閉信号発生手段からは,前記第1の電子スイッチの開閉をコントロールするために第1のON/ OFF信号を発生するとともに,前記第2の電子スイッチの開閉をコントロールするために第2のON/ OFF信号を発生して,それぞれ前記第1の電子スイッチと前記第2の電子スイッチは,同時にONにならないようにコントロールし,また,前記負荷にかかる電圧がある一定の値以上であれば,前記第1および第2の電子スイッチの両方ともOFFになるようにコントロールする。
【0016】
また,本発明は,負荷に過大な電流が流れないように電流値を抑制する抵抗の代わりに電流制限回路を用いる場合,電流制限回路は,負荷に供給される電流値を正確にある基準値と比較する方法を用いて,その基準値に達したら供給を制限している。
【0017】
この電流制限回路の一例としては,その入力端子から順に第1の抵抗,電流制限用スイッチ回路を介して負荷へ電流を供給するとともに,前記入力端子からツェナーダイオードと第2の抵抗を直列に接続することにより入力端子の電圧より定まった値の電圧を減じて第1の基準電圧を発生し,前記入力端子と前記第1の基準電圧の間を第3の抵抗と第4の抵抗を用いて抵抗分圧することにより第2の基準電圧を発生し,前記第1の抵抗と前記電流制限用スイッチ回路間の電気的結合部分の電圧と,前記第2の基準電圧を比較手段を用いて比較し,前記比較手段で比較して得た出力によって前記電流制限用スイッチ回路の電流量をコントロールする回路を用いることができる。ここで使用する電流制限用スイッチ回路としては,一般のバイポーラトランジスタに限らず,FET(電界効果トランジスタ)も含まれる。
【発明の効果】
【0018】
本発明では,負荷に対して直列に接続される抵抗または電流制限回路と,負荷に対して並列に接続されるツェナーダイオードとによって,負荷での消費電力を制限する防爆電子機器の電源回路において,電源の出力端子側に昇圧回路を設けて,負荷にかかる電圧でその昇圧回路の昇圧値を制御することによって,負荷にかかる電圧を一定の値に安定化させているので,負荷の消費電流が変動する場合にも,負荷に対して安定した電源電圧の供給が可能である。また,負荷にかかる電圧が安定化すれば,負荷にかかる電圧を精度よく制限する効果もある。
【0019】
また,本発明では,昇圧回路としてチャージポンプ回路を使用すれば,インダクタを用いる場合と比べて,回路の小型化が図れるとともに,負荷が軽い場合に,高い効率で使用可能であるとともに,負荷として無線機器を使用する場合にも,誘導性雑音等による無線特性への影響を大幅に軽減することができる。
【0020】
さらに,チャージポンプ回路を使用することにより,インダクタを用いる場合と比べて精度のよい昇圧電圧を得ることができる。
【0021】
さらに,昇圧回路と負荷の間の電流制限回路についても,本発明の回路を使用することにより,負荷に流れる電流量を正確に測定して,定まった値の電流に精度よく制限することが可能である。すなわち,電流制限回路として,電源の電圧からツェナーダイオードを介して,電源電圧との差が一定になる基準電圧を求め,その基準電圧と負荷に流れる電流を抵抗に流して得た電圧を比較することによって,電源電圧が変動する場合にも,正確に精度よく電流の制限を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施例を示す図である。
【図2】本発明の第2の実施例を示す図である。
【図3】本発明の第3の実施例を示す図である。
【図4】本発明で使用する昇圧回路の構成例を示す図である。
【図5】昇圧回路の動作を説明するためのタイムチャートである。
【図6】本発明で使用する電流制限回路の構成例を示す図である。
【図7】防爆電子機器に使われる従来の電源回路の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下,図面を参照しながら,本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0024】
〔第1の実施例〕
図1は,本発明の第1の実施例を示す図である。第1の実施例は,図1に示すように,電源1の2極間の電圧Vaを入力して昇圧する昇圧回路12と,昇圧回路12の出力側の端子13(端子14でもよい)に直列に接続される2つの抵抗4,5とを有し,抵抗5の終端と昇圧回路12の端子14間の電圧が負荷10に印加され,また,負荷10に対して並列に接続されるツェナーダイオード6,7とを有する構成になっている。
【0025】
昇圧回路12には,負荷10の入力端子8,9間の電圧Vbが入力され,昇圧回路12は,この電圧Vbを使って昇圧の値を所定の値に制御している。
【0026】
図1に示す回路の作用を説明する。電源1の出力端子2,3間の電圧Vaは,昇圧回路12によってVcの値に昇圧されて,2つの抵抗4,5および2つのツェナーダイオード6,7によって電圧と電流が制限され,端子8,9間の出力Vbの電圧として負荷10に加えられる。図1では,負荷にかかる電圧Vbは,昇圧回路12の昇圧の値をコントロールするためにも使われ,電圧Vbの値がある基準電圧より下がりそうになると,昇圧回路12は,出力の平均電圧を高い値に昇圧し,電圧Vbの値が高い方向に向おうとすると,出力の平均電圧を低い値にコントロールする。
【0027】
ツェナーダイオード6,7によって,ある値以上の電圧が負荷10にかからないように電圧が制限され,また,負荷10に何らかの不具合が発生して短絡状態になった場合,抵抗4,5によって電流が制限され,負荷10側での発熱が抑えられる。このため,防爆としての性能を得るだけでなく,負荷にかかる電圧Vbが,常に一定になるように,安定化する。
【0028】
第1の実施例では,負荷10にかかる電圧を正確に一定になるようにコントロールしているので,負荷の電圧が安定化するだけでなく,その精度も十分な値にすることができる。
【0029】
〔第2の実施例〕
図2は,本発明の第2の実施例を示す図である。第2の実施例は,図2に示すように,図1の抵抗4,5を,それぞれ電流制限回路15,16に置き換えた構成になっている。第2の実施例では,電流制限回路15,16で,負荷10に流れる電流を正確な値に制限することにより,図1に示す第1の実施例と比べて,負荷10の消費電力をより厳密に制限することができる。
【0030】
〔第3の実施例〕
図3は,本発明の第3の実施例を示す図である。原理的には,図3に示すような回路構成も考えられる。負荷10自身の電源端子8,9を昇圧回路12側の端子13,14に対して独立させた場合である。第3の実施例として,単に抵抗4,5による電流制限効果だけでなく,例えば,昇圧回路12側に周波数の高い雑音源が含まれて,それが端子13側からだけでなく,端子14側からも負荷10に影響を与えるような場合に,抵抗4,5と負荷10側の浮遊容量あるいは負荷10に含まれるコンデンサ等の雑音軽減効果によって,図3の構成にすることも考えられる。図3の例では,端子8の電圧を,昇圧回路12側電源に対して安定化させることができる。また,図3において,抵抗4,5を電流制限回路に置き換えた場合も,周波数の高い雑音に対する負荷10側の影響が軽減されるようであれば,同じ効果が期待される。このような場合も,本発明の技術的範囲に含まれる。
【0031】
〔昇圧回路の構成例〕
図4に,第1,第2,または第3の実施例で用いられる昇圧回路の構成例を示す。図5は,図4の昇圧回路の動作を説明するためのタイムチャートである。
【0032】
図4において,電圧Va,Vc,Vd,Vx,Vy,Vz,V24は,いずれも端子3に対する電圧である。昇圧回路12において,端子3と端子14は,電気的に接続されている。
【0033】
端子2から順にダイオード20とダイオード21が直列に接続されて第1の直列回路が構成され,さらに,端子2から順に電子スイッチ18と電子スイッチ19が直列に接続されて第2の直列回路が構成されている。
【0034】
ダイオード20とダイオード21との中間部分と,電子スイッチ18と電子スイッチ19との中間部分とが,コンデンサ22を介して接続され,第1の直列回路と第2の直列回路のそれぞれ出力側が,コンデンサ23を介して接続されている。電子スイッチ19とコンデンサ23との中間部分は,端子14と接続されている。
【0035】
また,電子スイッチ18と電子スイッチ19の開閉をコントロールするために,スイッチ開閉信号発生手段としてスイッチコントロール回路17が設けられ,スイッチコントロール回路17からは,電子スイッチ18の開閉をコントロールするためのON/OFF信号S18が電子スイッチ18に入力され,電子スイッチ19の開閉をコントロールするためのON/OFF信号S19が電子スイッチ19に入力されている。
【0036】
スイッチコントロール回路17は,それぞれ電子スイッチ18と電子スイッチ19が,同時にONにならないようにコントロールするとともに,負荷にかかる電圧がある一定の値以上であれば,電子スイッチ18,19の両方ともOFFになるようにコントロールしている。この場合,端子2の電圧Vaは十分高い値であるため,電子スイッチ18,19がともにOFFの状態であっても,ダイオード20およびダイオード21を介して,端子13へ十分な電流を供給することができる。
【0037】
スイッチコントロール回路17は,比較器25へ負荷にかかる電圧Vbを入力し,この電圧Vbと,抵抗26およびツェナーダイオード27を使って得た基準電圧Vxとを比較器25により比較して,比較器32の基準電圧Vyと比較器33の基準電圧Vzを発生させている。Vbが十分高い電圧であれば,Vyは高い電圧になり,Vzは低い電圧になる。比較器32と比較器33は,三角波発生回路24から三角波V24を得て,それぞれVy,Vzと比較することによって,ON/OFF信号S18とS19を得ている。
【0038】
VbがVxより高い電圧であれば,Vyは高い値であり,S18はOFFの信号になり,このときVzは低い値で,S19もOFFの信号を出力する。しかしながら,VbがVxより低い値であれば,Vyは三角波V24の中間電圧より少し高めであり,かつVzは三角波V24の中間電圧より少し低めの電圧になるように設定されており,S18とS19には,パルス性の波形が出力される。
【0039】
図5は,この様子をタイムチャートとして図示したものである。Vbが基準電圧Vx以上であれば,Vyは三角波V24の最も高い値より上にあり,Vzは三角波V24の最も低い値より下にあるため,ON/OFF信号S18,S19はともに,低い値(OFFの状態)になる。Vbが,下がってきて,Vx以下になると,VyやVzは,ともに三角波V24の中心電圧付近になる。このとき,Vyは,三角波V24の中心電圧付近よりやや高めに,Vzは,三角波V24の中心電圧付近よりやや低めになるように,抵抗28,29および抵抗30,31の抵抗値が定められている。
【0040】
三角波V24の波形がVzより下では,S19が立ち上がり,Vyより上では,S18が立ち上がる。S19が立ち上がっているとき(ONの状態)には,コンデンサ22の一方は端子3に対して放電するために,Vdは高い電圧になることができないので,Vaに近い値のままである。S19が低い値(OFFの状態)になって,S18が高い値(ONの状態)になると,電子スイッチ18を通して,コンデンサ22にVaが加算充電される結果,Vdは,Vaの2倍の電圧(2Va)に近い値になる。その結果,2Va付近の電圧Vdが,ダイオード21を通して,コンデンサ23へかかるので,コンデンサ23には,2Va付近の電圧が維持される。
【0041】
図4に示した,昇圧回路は,原理的にチャージポンプ回路の一例であり,負荷が軽い場合には,インダクタンスを用いた場合と比べて,効率の良い昇圧が可能なだけでなく,昇圧する値も,精度のよい正確な値にすることができる。
【0042】
〔電流制限回路の構成例〕
図6に,第2の実施例で用いられる電流制限回路の構成例を示す。図6の電流制限回路は,図2では,端子番号の位置関係に関して,電流制限回路15に相当する。回路構成および動作に関して,電流制限回路15と電流制限回路16は,全く同様である。
【0043】
図6は,電流制限用スイッチ回路として,トランジスタ42が使用された場合である。トランジスタ42をどのようにON/OFFするかについて以下に示す。
【0044】
図6に記載の各部の電圧Vc,Vp,Vq,Vsは,それぞれ端子14に対する電圧である。電圧V34は,ツェナーダイオード34の両端の電圧差である。抵抗37と抵抗38の間のP点の電圧Vpは,入力端子13の電圧Vcから,V34だけ減じた値であるから,Vp=Vc−V34と計算される。
【0045】
また,抵抗36,37のそれぞれの抵抗値をR36,R37とし,抵抗36を流れる電流をI36とすると,端子13からP点までの間の電圧差は,ツェナーダイオード34によって定められ,常にV34の値であるので,I36=V34/(R36+R37)の値になる。すなわち,電源電圧の変動によってVcの値が変動する場合にも,電流I36は,常に一定の値に定められる。
【0046】
そこで,抵抗36と抵抗37の間のS点の電圧Vsは,Vs=Vc−R36×I36と計算されるが,Vcが変動した場合にも電流I36が一定であるため,Vsの値は,常に,端子13の電圧Vcから,一定値(R36×I36)を減じた値になる。
【0047】
他方,抵抗35の抵抗値をR35,抵抗35を流れる電流をI35とすると,R35とトランジスタ42の間のQ点の電圧は,Vq=Vc−R35×I35で計算される。
【0048】
トランジスタ42は,端子11へ流れる電流を通過または遮断させるために用いられている。比較器39は,S点の電圧VsとQ点の電圧Vqとを比較して,Vs>Vqであれば,トランジスタ42のベース電圧を上げて,トランジスタ42を流れる電流を遮断し,Vs<Vqであれば,トランジスタ42のベース電圧を下げて,トランジスタ42を流れる電流を通過させる。
【0049】
抵抗40,41は,比較器39の出力電圧が高い電圧であれば,トランジスタ42をOFFにして端子11へ流れる電流を遮断し,比較器39の出力電圧が低い値であれば,トランジスタ42をONにして端子11へ流れる電流を通過させるような値に選ばれる。
【0050】
比較器39は,VsとVqを比較することによって,出力を得ている。Vs−Vq>0であれば,高い電圧を,Vs−Vq<0であれば,低い電圧を出力する。
【0051】
電圧Vsと電圧Vqとの差は,
Vs−Vq=(Vc−R36×I36)−(Vc−R35×I35
=R35×I35−R36×I36
=R35×I35−(Vcに影響されない一定の電圧)
であるため,電源電圧が変動して,Vcの値が変わっても,Vs−Vqは,電源電圧変動の影響を受けないことが分る。
【0052】
すなわち,図6に示す電流制限回路は,電源電圧変動の影響を受けずに,抵抗35を流れる電流I35によって生じる電圧の値を測定することによって,トランジスタ42の通過と遮断を決めることができる。このことは,電源電圧に変動がある場合にも,抵抗35に流れる電流によってトランジスタ42の通過と遮断を決めることを意味する。
【0053】
図6は,電流制限用スイッチ回路として,PNPタイプのトランジスタを用いた場合の例であるが,NPNタイプのトランジスタを使用しても実現することができる。NPNタイプのトランジスタを用いる場合には,比較器39の極性を反対にし,トランジスタ42のエミッタとコレクタを逆にして,エミッタ側が端子11の方になるように接続する。一般のNPNやPNPタイプのバイポーラトランジスタに限らず,FET(電界効果トランジスタ)を使用して回路を構成することも可能である。
【0054】
図6に示す電流制限回路は一例であり,図2に示す電流制限回路15,16として,同様な機能を持つ他の回路構成のものを用いることもできる。
【符号の説明】
【0055】
1,101 電源
2,3,8,9,11,13,14,102,103,108,109,111 端子
4,5,26,28〜31,35〜38,40,41,104,105 抵抗
6,7,27,34,106,107 ツェナーダイオード
10,110 負荷
12 昇圧回路
15,16 電流制限回路
17 スイッチコントロール回路
18,19 電子スイッチ
20,21 ダイオード
22,23 コンデンサ
24 三角波発生回路
25,32,33,39 比較器
42 トランジスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力が制限された防爆電子機器を含む負荷に電流を供給する電源回路であって,
電源と,
前記電源の2極間の電圧を昇圧する昇圧回路と,
前記昇圧回路の出力端子と前記負荷との間に,前記負荷と直列に接続される1つ以上の抵抗または電流制限回路と,
前記負荷にかかる電圧がある値以上の電圧にならないように,前記負荷に並列に接続される1つ以上のツェナーダイオードとを有し,
前記昇圧回路は,前記負荷にかかる電圧を入力し,入力した電圧に基づいて該昇圧回路からの出力電圧が所定値になるように昇圧の値を制御する
ことを特徴とする防爆電子機器の電源回路。
【請求項2】
請求項1記載の防爆電子機器の電源回路において,
前記昇圧回路は,少なくとも複数のコンデンサと複数の電子スイッチとから構成されるチャージポンプ回路であり,前記入力した負荷にかかる電圧と,前記電源の2極間の電圧から生成した基準電圧とを比較し,前記入力した負荷にかかる電圧が前記基準電圧より小さい場合に,前記電源の2極間の電圧をチャージポンプにより昇圧して出力し,そうでない場合に,前記電源の2極間の電圧を昇圧しないで出力する
ことを特徴とする防爆電子機器の電源回路。
【請求項3】
請求項2記載の防爆電子機器の電源回路において, 前記昇圧回路は,
前記電源の第1の端子から順に第1のダイオードと第2のダイオードとを直列に接続した第1の直列回路を有し,
さらに,前記電源の第1の端子から順に第1の電子スイッチと第2の電子スイッチとを直列に接続した第2の直列回路を有し,
前記第1のダイオードと前記第2のダイオードの電気的結合部分と,前記第1の電子スイッチと前記第2の電子スイッチの電気的結合部分とが,第1のコンデンサを介して接続され,
前記第2の直列回路の終端は,第2のコンデンサを介して前記第1の直列回路の終端と接続されるとともに,前記電源の第2の端子と接続され,
前記第1の電子スイッチと前記第2の電子スイッチの開閉をコントロールするためのスイッチ開閉信号発生手段を有し,
前記スイッチ開閉信号発生手段は,前記第1の電子スイッチの開閉をコントロールする第1のON/OFF信号を発生するとともに,前記第2の電子スイッチの開閉をコントロールするために第2のON/OFF信号を発生し,それぞれ前記第1の電子スイッチと前記第2の電子スイッチは,同時にONにならないようにコントロールするとともに,前記負荷にかかる電圧がある一定の値以上であれば,前記第1の電子スイッチおよび前記第2の電子スイッチの両方ともOFFになるようにコントロールする
ことを特徴とする防爆電子機器の電源回路。
【請求項4】
請求項1,請求項2または請求項3記載の防爆電子機器の電源回路において,
前記電流制限回路は,
その入力端子から順に第1の抵抗,電流制限用スイッチ回路を介して前記負荷へ電流を供給するとともに,
前記入力端子からツェナーダイオードと第2の抵抗を直列に接続することにより,該入力端子の電圧より定まった値の電圧を減じて第1の基準電圧を発生し,
前記入力端子と前記第1の基準電圧の間を第3の抵抗と第4の抵抗を用いて抵抗分圧することにより第2の基準電圧を発生し,
前記第1の抵抗と前記電流制限用スイッチ回路間の電気的結合部分の電圧と,前記第2の基準電圧を比較手段を用いて比較し,前記比較手段で比較して得た出力によって前記電流制限用スイッチ回路の電流量をコントロールする回路である
ことを特徴とする防爆電子機器の電源回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−182875(P2012−182875A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42507(P2011−42507)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【出願人】(593143511)株式会社宮木電機製作所 (7)
【出願人】(597059465)東京レーダー株式会社 (7)
【Fターム(参考)】