説明

防眩性コーティング組成物、防眩フィルムおよびその製造方法

本発明は、映り込み、白ぼけ等が改善された防眩フィルムを簡便に形成することができる防眩性コーティング組成物を提供する。本発明の防眩性コーティング組成物は、透明基材上に塗布され防眩層を形成する防眩性コーティング組成物であって、この防眩性コーティング組成物が第1成分および第2成分を含み、この防眩性コーティング組成物を基材上に塗布した後に第1成分および第2成分の物性の差に基づいて第1成分と第2成分とが相分離し、表面にランダムな凹凸を有する樹脂層が形成されるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種透明プラスチックフィルム、透明プラスチック板およびガラスなどの透明基材に対して防眩性を付与することができる防眩性コーティング組成物、およびこの防眩性コーティング組成物から形成される防眩層を有する防眩フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置(液晶ディスプレイ)は、薄型、軽量、低消費電力などの利点を有しており、コンピュータ、ワードプロセッサ、テレビジョン、携帯電話、携帯情報端末機器等の様々な分野で使用されている。これらの液晶表示装置においては、ディスプレイ表面上に、表面を粗面化する防眩(AG:Anti Glare)フィルム、屈折率を調整する低反射(LR:Low Reflection)フィルム、無反射フィルム(AR:Anti Reflection)などが設けられている。これらによって、外光の反射によるコントラスト低下、およびディスプレイ表面に背景が反射する映り込みなどといった不具合の解消が図られている。
【0003】
液晶表示装置の表示性能を改善する防眩フィルムの製造方法として、一般に、フィルム製造時に、切削、型押し成型、貼り合わせなどの加工によってその表面を粗面化する方法、または、樹脂粒子を含む層をフィルム上に設けてフィルムの表面を粗面化する方法、などが挙げられる。現在、後者の樹脂粒子を含む層をフィルム上に設ける方法が広く用いられている。
【0004】
特開2002−221610号公報(特許文献1)には、透光性樹脂と透光性微粒子とを含む防眩層が積層された防眩フィルムであって、透光性樹脂と透光性微粒子との屈折率の差が0.3以下であって、透光性樹脂が防眩層の表面より0.1〜0.3μm突出してなる防眩フィルムが記載されている。このような防眩フィルムの製造において、例えば使用する微粒子が均一に分散しないという問題が挙げられる。溶液中に樹脂を均一に分散させるためには、例えば溶液粘度を制御・調整するなどの注意が必要とされる。微粒子が均一に分散せずに凝集すると、表面上の凹凸形状が所望の範囲から外れてしまい、透過画像鮮明性が低下したり、いわゆる白ぼけが起こるなどの不具合が生じることがある。
【0005】
一方、フィルム製造時に、切削、型押し成型、貼り合わせなどの加工によって表面を粗面化する場合は、その粗面の凹凸をランダムに設けることが困難であり、凹凸がある規則に従ってしまうことがある。凹凸がある規則に従う場合は、凹凸面で反射される光が互いに干渉を起こすことがあり、反射光を強めあったりモアレ模様が生じたりなどディスプレイの表示に不具合を起こす原因となる。すなわち、モアレ模様の発生は、表示装置の画素の配列方向に対して、防眩層の微細凹凸構造の配列方向が重なることが原因である。画素が規則的に並んでいるのに対して、その規則に重なる様に微細凹凸構造が位置した場合に起きる傾向がある。また、型押し成型によって防眩層を形成する場合は、防眩層の型押し工程、そしてこの型押しに用いられる型の洗浄などの工程が必要となり、煩雑である。さらに、型押しに用いられる型の成型表面上に異物が付着しないように注意を払う必要もある。
【0006】
特開2003−004917号公報(特許文献2)には、防眩フィルムと偏光子とを備える防眩層付偏光板であって、前記防眩層の微細凹凸構造の配列方向が前記偏光子の吸収軸方向又は透過軸方向に対して22.5°±12.5°であることを特徴とする防眩層付偏光板が記載されている。ここに記載されるように、加工によって微細凹凸構造を設ける場合は配列方向の角度などを細かく調節する必要があり、製造工程が煩雑となる。また、表示画面の高精細化、カラー化により表示素子の画素がより小さくなると、モアレ模様の発生の確率がより高くなると考えられる。そのため、この問題を解決する技術が必要とされている。
【0007】
特開2000−267086号公報(特許文献3)には、互いに相分離しやすい複数の種類の樹脂を混合した混合樹脂液を塗布する工程を含む、反射型液晶表示装置用電極基板の製造方法が記載されている。また、特開2001−305316号公報(特許文献4)には、少なくとも2種類の樹脂部を互いに分散保持する構成により、凹凸が形成されてなる樹脂層を有する反射板が記載されている。しかし、これらの基板または反射板は、ディスプレイ表面に背景が反射する映り込み、そして透過画像鮮明性、白ぼけといった性能を全く考慮しなくてもよいものであるため、これらの性能が重要視される防眩フィルムとは解決課題が異なるものである。
【0008】
【特許文献1】特開2002−221610号公報
【特許文献2】特開2003−004917号公報
【特許文献3】特開2000−267086号公報
【特許文献4】特開2001−305316号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記従来技術の問題点を解決することを課題とする。より特定すれば、本発明は、映り込み、白ぼけ等が改善された防眩フィルムを簡便に形成することができる防眩性コーティング組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、透明基材上に塗布され防眩層を形成する防眩性コーティング組成物であって、
この防眩性コーティング組成物が第1成分および第2成分を含み、
この防眩性コーティング組成物を基材上に塗布した後に、この第1成分および第2成分の物性の差に基づいて第1成分と第2成分とが相分離し、表面にランダムな凹凸を有する樹脂層が形成される、
防眩性コーティング組成物、を提供するものであり、これにより上記目的が達成される。
【0011】
上記第1成分および第2成分が、それぞれ独立して、モノマー、オリゴマーおよび樹脂からなる群から選択される1種または2種以上の組み合わせであるのが好ましい。
【0012】
また、第1成分のSP値と第2成分のSP値との差が0.5以上であるのが好ましい。
【0013】
本発明の防眩性コーティング組成物は、さらに有機溶媒を含んでもよい。そして、第1成分のSP値(SP)、第2成分のSP値(SP)および有機溶媒のSP値(SPsol)が、下記条件;
SP<SP、および
SPとSPsolとの差が2以下である;
を満たす関係にあるのが好ましい。
【0014】
上記第1成分がオリゴマーまたは樹脂であり、上記第2成分がモノマーであるのが好ましい。
【0015】
また、上記第1成分が不飽和二重結合含有アクリル共重合体であり、上記第2成分が多官能性不飽和二重結合含有モノマーであるのが好ましい。
【0016】
また、上記第1成分がシリコーンアクリルブロック共重合体であり、上記第2成分がアクリル共重合体であるのも好ましい。
【0017】
本発明の防眩性コーティング組成物は、上記第1成分および第2成分が樹脂であって、第1成分および第2成分のうちいずれか一方が、組成物塗布時の環境温度より低いTgを有し、他の一方が組成物塗布時の環境温度より高いTgを有するのも好ましい。
【0018】
また本発明の防眩性コーティング組成物は、上記第1成分または第2成分のいずれか一方がモノマーであって、
第1成分および第2成分のTgの差が20℃以上であり、および
第1成分および第2成分において、より高いTgを有する成分のTgが20℃以上であるものも好ましい。
【0019】
本発明の防眩性コーティング組成物は、さらに硬化剤を含んでもよい。
【0020】
また、本発明の防眩性コーティング組成物は、好ましくは樹脂粒子を含まないことを特徴とする。
【0021】
本発明はまた、防眩フィルムも提供する。この防眩フィルムは、透明基材および防眩層を有するものであって、この防眩層は上記の防眩性コーティング組成物から形成される。
【0022】
防眩フィルムのヘーズが20%未満であるのが好ましい。
【0023】
また、防眩フィルムのRz JIS94(十点平均粗さ)が1.0μm以下であるのが好ましい。
【0024】
さらに、防眩フィルムの表面の粗さ曲線要素の平均長さ(Sm)が100μm以下であるのが好ましい。
【0025】
さらに、防眩フィルムの散乱角に対する散乱光強度が極大値を有さないのが好ましい。
【0026】
本発明はまた、防眩フィルムの製造方法も提供する。製造方法の一例として、下記工程:
透明基材に、上記の防眩性コーティング組成物を塗布する塗布工程、および
得られた塗膜を硬化させる硬化工程、
を包含する方法が挙げられる。
【0027】
また、製造方法の他の例として、
透明基材に、上記の防眩性コーティング組成物を塗布する塗布工程、
得られた塗膜を乾燥させて相分離させる乾燥工程、および
乾燥させた塗膜を硬化させる硬化工程、
を包含する方法も挙げられる。
【0028】
さらに、製造方法の他の例として、
透明基材に、上記の防眩性コーティング組成物を塗布する塗布工程、および
得られた塗膜に光を照射して、相分離および硬化させる光照射工程、
を包含する方法も挙げられる。
【0029】
本発明は、上記の防眩フィルムの製造方法により得られる防眩フィルムも提供する。
【0030】
本発明はまた、上記の防眩フィルムと偏光素子とを有する偏光板であって、透明基材に設けられた防眩層とは反対面である防眩フィルム表面と偏光素子表面とが対向して積層されている、偏光板も提供する。
【0031】
本発明はまた、平面状の透光性表示体と、この透光性表示体を背面から照射する光源装置と、この透光性表示体の表面に積層された上記の防眩フィルムと、を有する透過型表示装置も提供する。
【0032】
本発明はまた、上記の防眩フィルムがディスプレイの最表層に用いられた液晶表示装置も提供する。
【発明の効果】
【0033】
本発明の防眩性コーティング組成物は、基材上に塗布し必要に応じて乾燥させた後に、硬化させるのみで、表面に凹凸を有する樹脂層である防眩層を設けることができる。従って、樹脂層を形成してから凹凸の下地となる突起物を形成するなどといった2つの工程を経る方法と比べると、表面に凹凸を有する防眩層をより簡便な工程で形成することができる。
【0034】
また、本発明により防眩層の表面に凹凸を形成した場合、自然発生的に凹凸配置が決まるので、防眩層の表面に不規則な凹凸形状を形成することができる。このため、凹凸配置の規則性に起因するモアレが発生しないという特長を有する。本発明の防眩性コーティング組成物を用いることにより、表面に凹凸を有した防眩層を容易に形成することができ、これを用いて防眩フィルムを容易に製造することができる。得られる防眩フィルムは、映り込みがなく、そしてヘーズ(曇価)が低く全光線透過率が高いという、優れた性能を有するものである。ここでヘーズとは、全光線透過量に対する散乱光透過量の比をいう。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の防眩フィルムの断面該略図である。
【図2】パラメーターRz JIS94の説明図である。
【図3】全光線透過率の概略説明図である。
【図4】本発明の防眩フィルムを用いた偏光板の断面概略図である。
【図5】本発明の防眩フィルムを用いた透過型表示装置の断面概略図である。
【図6】実施例1の防眩フィルムの防眩層表面上の、超深度形状測定顕微鏡による三次元画像である。
【図7】実施例2の防眩フィルムの防眩層表面上の、超深度形状測定顕微鏡による三次元画像である。
【図8】実施例3の防眩フィルムの防眩層表面上の、超深度形状測定顕微鏡による三次元画像である。
【符号の説明】
【0036】
1…防眩フィルム、3…防眩層、5…透明基材、10…偏光板、12…偏光層、14…透明基材、20…液晶表示装置、22…偏光板、24…液晶パネル、26…偏光板、28…バックライト。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
防眩性コーティング組成物
本発明の防眩性コーティング組成物は、透明基材上に塗布され防眩層を形成するものである。この防眩性コーティング組成物には、第1成分および第2成分の2種類の成分が少なくとも含まれる。これら第1成分および第2成分は、防眩性コーティング組成物を基材上に塗布される場合において、第1成分および第2成分それぞれの物性の差に基づいて、第1成分と第2成分とが相分離する、という特徴を有する。
【0038】
この第1成分および第2成分の例として、それぞれ独立して、モノマー、オリゴマーおよび樹脂からなる群から選択される1種または2種以上の組み合わせである場合が挙げられる。
【0039】
第1成分および第2成分として、例えば、多官能性モノマーなどのモノマー、(メタ)アクリル樹脂、オレフィン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリシロキサン樹脂、ポリシラン樹脂、ポリイミド樹脂またはフッ素樹脂を骨格構造に含む樹脂などを用いることができる。これらの樹脂は、低分子量であるいわゆるオリゴマーであってもよい。多官能性モノマーとして、例えば、多価アルコールと(メタ)アクリレートとの脱アルコール反応物、具体的には、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどを用いることができる。(メタ)アクリル樹脂を骨格構造に含む樹脂として、(メタ)アクリルモノマーを重合または共重合した樹脂、(メタ)アクリルモノマーと他のエチレン性不飽和二重結合を有するモノマーとを共重合した樹脂などが挙げられる。オレフィン樹脂を骨格構造に含む樹脂として、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・塩化ビニル共重合体などが挙げられる。ポリエーテル樹脂を骨格構造に含む樹脂は、分子鎖中にエーテル結合を含む樹脂であり、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどが挙げられる。ポリエステル樹脂を骨格構造に含む樹脂は、分子鎖中にエステル結合を含む樹脂であり、例えば不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどが挙げられる。ポリウレタン樹脂を骨格構造に含む樹脂は、分子鎖中にウレタン結合を含む樹脂である。ポリシロキサン樹脂を骨格構造に含む樹脂は、分子鎖中にシロキサン結合を含む樹脂である。ポリシラン樹脂を骨格構造に含む樹脂は、分子鎖中にシラン結合を含む樹脂である。ポリイミド樹脂を骨格構造に含む樹脂は、分子鎖中にイミド結合を含む樹脂である。フッ素樹脂を骨格構造に含む樹脂は、ポリエチレンの水素の一部または全部をフッ素で置きかえられた構造を含む樹脂である。
【0040】
オリゴマーおよび樹脂として、上記骨格構造の2種以上からなる共重合体であってもよく、上記骨格構造とそれ以外のモノマーとからなる共重合体であってもよい。
【0041】
本発明における第1成分および第2成分は、同種の骨格構造を含むオリゴマーまたは樹脂を用いてもよく、また互いに異なる骨格構造を含むオリゴマーまたは樹脂を用いてもよい。また、第1成分および第2成分のうち何れか一方がモノマーであって、他の一方がオリゴマーまたは樹脂であってもよい。
【0042】
また本発明における第1成分および第2成分はそれぞれ、互いに反応する官能基を有しているのが好ましい。このような官能基を互いに反応させることによって、コーティング組成物によって得られる防眩層の耐性を高めることができる。このような官能基の組合せとして、例えば、活性水素を有する官能基(水酸基、アミノ基、チオール基、カルボキシル基など)とエポキシ基、活性水素を有する官能基とイソシアネート基、エチレン性不飽和基とエチレン性不飽和基(エチレン性不飽和基の重合が生じる)、シラノール基とシラノール基(シラノール基の縮重合が生じる)、シラノール基とエポキシ基、活性水素を有する官能基と活性水素を有する官能基、活性メチレンとアクリロイル基、オキサゾリン基とカルボキシル基などが挙げられる。また、ここにいう「互いに反応する官能基」とは、第1成分および第2成分のみを混合しただけでは反応は進行しないが、触媒または硬化剤を併せて混合することにより互いに反応するものも含まれる。ここで使用できる触媒として、例えば光開始剤、ラジカル開始剤、酸・塩基触媒、金属触媒などが挙げられる。使用できる硬化剤として、例えば、メラミン硬化剤、(ブロック)イソシアネート硬化剤、エポキシ硬化剤などが挙げられる。
【0043】
第1成分および第2成分それぞれが、互いに反応する官能基を有する場合は、第1成分と第2成分との混合物は、熱硬化性、光硬化性(紫外線硬化性、可視光硬化性、赤外線硬化性など)といった硬化性を有することとなる。
【0044】
本発明においては、好ましくは第1成分および第2成分として、(メタ)アクリル樹脂を骨格構造に含む樹脂を使用することができる。
【0045】
また、第1成分および第2成分の分子量は、分子量(第1成分および第2成分が樹脂である場合は重量平均分子量)で100〜100000であるのが好ましい。
【0046】
第1成分と第2成分との相分離をもたらす、第1成分および第2成分それぞれの物性の差として、例えばそれぞれの樹脂のSP値、ガラス転移温度(Tg)、表面張力、数平均分子量などが一定の差異を有する場合が挙げられる。
【0047】
SP値とは、solubility parameter(溶解性パラメーター)の略であり、溶解性の尺度となるものである。SP値は数値が大きいほど極性が高く、逆に数値が小さいほど極性が低いことを示す。
【0048】
例えば、SP値は次の方法によって実測することができる[参考文献:SUH、CLARKE、J.P.S.A−1、5、1671〜1681(1967)]。
【0049】
測定温度:20℃
サンプル:樹脂0.5gを100mlビーカーに秤量し、良溶媒10mlをホールピペットを用いて加え、マグネティックスターラーにより溶解する。
溶媒:
良溶媒…ジオキサン、アセトンなど
貧溶媒…n−ヘキサン、イオン交換水など
濁点測定:50mlビュレットを用いて貧溶媒を滴下し、濁りが生じた点を滴下量とする。
【0050】
樹脂のSP値δは次式によって与えられる。
【0051】
【数1】

【数2】

【数3】

【0052】
Vi:溶媒の分子容(ml/mol)
φi:濁点における各溶媒の体積分率
δi:溶媒のSP値
ml:低SP貧溶媒混合系
mh:高SP貧溶媒混合系
【0053】
第1成分と第2成分との相分離をもたらす第1成分および第2成分それぞれの物性の差がSP値の差である場合、第1成分のSP値と第2成分のSP値との差は0.5以上であるのが好ましい。このSP値の差が0.8以上であるのがさらに好ましい。このSP値の差の上限は特に限定されないが、一般には15以下である。第1成分のSP値と第2成分のSP値との差が0.5以上ある場合は、互いの樹脂の相溶性が低く、それによりコーティング組成物の塗布後に第1成分と第2成分との相分離がもたらされると考えられる。
【0054】
本発明の防眩性コーティング組成物は、さらに有機溶媒を含んでもよい。そして、防眩性コーティング組成物に含まれる、第1成分、第2成分および有機溶媒について、第1成分のSP値(SP)、第2成分のSP値(SP)および有機溶媒のSP値(SPsol)が、下記条件;
SP<SP、および
SPとSPsolとの差が2以下である;
を満たす関係にあるのがより好ましい。SPとSPsolとの差が2以下であることによって、低ヘーズでありかつ防眩性能に優れた防眩フィルムを調製することができることとなる。SPとSPsolとの差は1以下、つまり0〜1の範囲内であるのがさらに好ましい。
【0055】
なお、SPおよびSPsolは、これらの差が2以下であればよい。SP<SPsolであってもよく、SP>SPsolであってもよい。
【0056】
上記式の関係を満たす第1成分および第2成分の一例として、第1成分がオリゴマーまたは樹脂であり、前記第2成分がモノマーである場合が挙げられる。第1成分のオリゴマーまたは樹脂として、不飽和二重結合含有アクリル共重合体であるのがより好ましい。第2成分のモノマーとして、多官能性不飽和二重結合含有モノマーであるのがより好ましい。なお、本明細書でいう「オリゴマー」とは、繰り返し単位を有する重合体であって、この繰り返し単位の数が3〜10であるものをいう。
【0057】
不飽和二重結合含有アクリル共重合体は、例えば(メタ)アクリルモノマーを重合または共重合した樹脂、(メタ)アクリルモノマーと他のエチレン性不飽和二重結合を有するモノマーとを共重合した樹脂、(メタ)アクリルモノマーと他のエチレン性不飽和二重結合およびエポキシ基を有するモノマーとを反応させた樹脂、(メタ)アクリルモノマーと他のエチレン性不飽和二重結合およびイソシアネート基を有するモノマーとを反応させた樹脂、などが挙げられる。これらの不飽和二重結合含有アクリル共重合体は1種を単独で用いてもよく、また2種以上を混合して用いてもよい。
【0058】
多官能性不飽和二重結合含有モノマーとして、上記の多官能性モノマー、例えば、多価アルコールと(メタ)アクリレートとの脱アルコール反応物、具体的には、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートなどを用いることができる。この他にも、ポリエチレングリコール#200ジアクリレート(共栄社化学(株)社製)などの、ポリエチレングリコール骨格を有するアクリレートモノマーを使用することもできる。これらの多官能性不飽和二重結合含有モノマーは1種を単独で用いてもよく、また2種以上を混合して用いてもよい。
【0059】
上記式の関係を満たす第1成分および第2成分の他の一例として、第1成分および第2成分が、共にオリゴマーまたは樹脂である場合が挙げられる。第1成分および第2成分として、(メタ)アクリル樹脂を骨格構造に含む樹脂を用いるのが好ましい。この第1成分は、不飽和二重結合含有アクリル共重合体であるのがより好ましく、また第2成分は多官能性不飽和二重結合含有モノマーであるのがより好ましい。
【0060】
第1成分および第2成分が上記組み合わせである場合に好ましい有機溶媒として、例えば、メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール系溶媒;アニソール、フェネトールプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルなどのエーテル系溶媒などが挙げられる。これらの溶媒は1種を単独で用いてもよく、また2種以上の有機溶媒を混合して用いてもよい。また、2種以上の有機溶媒を用いる場合は、用いられる有機溶媒のうち少なくとも1種が、上記の「SPとSPsolとの差が2以下である」という条件を満たせばよく、使用する全ての有機溶媒が上記条件を満たす必要はない。
【0061】
第1成分および第2成分が樹脂である場合、ガラス転移温度(Tg)は、通常の動的粘弾性によるTgの測定方法と同様の方法により得ることができる。このTgは、例えば、RHEOVIBRON MODEL RHEO2000、3000(商品名、オリエンテック社製)等を用いて測定することができる。
【0062】
第1成分および第2成分が樹脂である場合において、第1成分と第2成分との相分離をもたらす第1成分および第2成分それぞれの物性の差がTgの差である場合、第1成分および第2成分のうちいずれか一方が、組成物塗布時の環境温度より低いTgを有し、他の一方が組成物塗布時の環境温度より高いTgを有するのが好ましい。この場合は、環境温度より高いTgを有する樹脂は、その環境温度では分子運動が制御されたガラス状態であるため、塗布後にコーティング組成物中で凝集し、それにより第1成分と第2成分との相分離がもたらされると考えられる。
【0063】
例として、第1成分および第2成分が樹脂である場合において、組成物塗布時の環境温度が20〜150℃であって、組成物塗布時の環境温度より低いTgを有する樹脂のTgが−70〜120℃、そして組成物塗布時の環境温度より高いTgを有する樹脂のTgが90〜200℃である場合が挙げられる。上記の環境温度は40〜120℃であるのが好ましく、環境温度より低いTgを有する樹脂のTgは−60〜80℃であるのが好ましく、そして環境温度より高いTgを有する樹脂のTgは100〜150℃であるのが好ましい。この場合、組成物塗布時の環境温度より低いTgを有する樹脂が第1成分であって、組成物塗布時の環境温度より高いTgを有する樹脂が第2成分であってもよく、またはその逆であってもよい。
【0064】
また、第1成分または第2成分のうち何れか一方がモノマーである場合は、これらの第1成分および第2成分のTgの差が20℃以上であり、そして第1成分および第2成分において、より高いTgを有する成分のTgが20℃以上であるのが好ましい。この第1成分および第2成分のTgの差は、30℃以上であるのがより好ましく、50℃以上であるのがさらに好ましい。この第1成分および第2成分のTgの差の上限は、特に制限されるものではないが、例えば100℃以下である場合などが挙げられる。この場合は、より高いTgを有する成分は、より分子運動が制御されているため、塗布後にコーティング組成物中で凝集し、それにより第1成分と第2成分との相分離がもたらされると考えられる。
【0065】
例として、第1成分または第2成分のうち何れか一方がモノマーである場合において、より低いTgを有する成分、つまりモノマーのTgが−70〜0℃であり、そしてより高いTgを有する樹脂のTgが20〜200℃である場合が挙げられる。この場合、組成物塗布時の環境温度として、例えば20〜120℃である場合などが挙げられる。より好ましい例として、より低いTgを有するモノマー成分のTgが−60〜0℃であり、そしてより高いTgを有する樹脂のTgは30〜150℃である場合が挙げられる。この場合、組成物塗布時の環境温度として、例えば20〜120℃である場合などが挙げられる。これらの場合において、モノマーが第1成分であってもよく、また第2成分であってもよい。
【0066】
なお、第1成分または第2成分がモノマーである場合は、上記方法を用いてガラス転移温度を測定することは困難である。一般にモノマーのガラス転移温度は、そのモノマーの融点とほぼ等しいと考えられている。本明細書において、第1成分または第2成分がモノマーである場合、このモノマーのTgはモノマーの融点と等しいものとする。
【0067】
第1成分と第2成分との相分離をもたらす第1成分および第2成分それぞれの物性の差が表面張力の差である場合、第1成分の表面張力と第2成分の表面張力との差が1〜70dyn/cmであるのが好ましい。この差が5〜30dyn/cmであるのがさらに好ましい。第1成分の表面張力と第2成分の表面張力との差が1〜70dyn/cmである場合は、より高い表面張力を有する樹脂が凝集する傾向にあり、それにより組成物の塗布後に第1成分と第2成分との相分離がもたらされると考えられる。
【0068】
表面張力は、ビックケミー社製ダイノメーターを用いて輪環法で測定した静的表面張力を求めることによって測定することができる。
【0069】
本発明のコーティング組成物には、上記の第1成分および第2成分のほかに、通常使用される樹脂が含まれてもよい。本発明のコーティング組成物は、上記のような第1成分および第2成分を用いることによって、樹脂粒子などを含ませなくても、凹凸を有する樹脂層を形成することができることに特徴がある。そのため、本発明のコーティング組成物は、樹脂粒子を含まないのが好ましい。
【0070】
本発明のコーティング組成物は、第1成分と第2成分を、必要に応じた溶媒、触媒、硬化剤と併せて混合することにより調製される。コーティング組成物中における第1成分と第2成分との比率は、1:99〜99:1が好ましく、1:99〜50:50がより好ましく、1:99〜20:80がさらに好ましい。触媒を用いる場合は、第1成分および第2成分そして必要に応じた他の樹脂(これらを合わせて「樹脂成分」という。)100重量部に対して、0.01〜20重量部、好ましくは1〜10重量部加えることができる。硬化剤を用いる場合は、上記樹脂成分100重量部に対して、0.1〜50重量部、好ましくは1〜30重量部加えることができる。溶媒を用いる場合は、上記樹脂成分100重量部に対して、1〜9900重量部、好ましくは100〜900重量部加えることができる。
【0071】
本発明で用いられるコーティング組成物中の溶媒は、特に限定されるものではなく、第1成分および第2成分、塗装の下地となる部分の材質および組成物の塗装方法などを考慮して適時選択される。用いられる溶媒の具体例としては、例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶媒;メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒;ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、アニソール、フェネトールなどのエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、エチレングリコールジアセテートなどのエステル系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのセロソルブ系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロゲン系溶媒;などが挙げられる。これらの溶媒を単独で使用してもよく、また2種以上を併用して使用してもよい。これらの溶媒のうち、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、アルコール系溶媒およびケトン系溶媒が好ましく使用される。
【0072】
本発明の防眩性コーティング組成物は、必要に応じて、種々の添加剤を添加することができる。このような添加剤として、帯電防止剤、可塑剤、界面活性剤、酸化防止剤、及び紫外線吸収剤などの常用の添加剤が挙げられる。
【0073】
防眩フィルム
本発明の防眩フィルムは、透明基材と防眩層とを有する。この防眩層は、上記の防眩性コーティング組成物から形成される。
【0074】
透明基材としては、各種透明プラスチックフィルム、透明プラスチック板およびガラスなどを使用することができる。透明プラスチックフィルムとして、例えばトリアセチルセルロース(TAC)フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ジアセチレンセルロースフィルム、アセテートブチレートセルロースフィルム、ポリエーテルサルホンフィルム、ポリアクリル系樹脂フィルム、ポリウレタン系樹脂フィルム、ポリエステルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリスルホンフィルム、ポリエーテルフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリエーテルケトンフィルム、(メタ)アクリルニトリルフィルム等が使用できる。透明基材として、トリアセチルセルロースを使用するのが好ましい。トリアセチルセルロースの屈折率は1.48程である。トリアセチルセルロースは、偏光板の偏光層を保護する保護フィルムとして汎用されているため、透明基材として使用することにより得られる防眩フィルムをそのまま保護フィルムとして用いることができる。なお、透明基材の厚さは、用途に応じて適時選択することができるが、一般に25〜1000μm程で用いられる。
【0075】
防眩層は、透明基材上に、上記の防眩性コーティング組成物を塗布することにより形成される。コーティング組成物の塗布方法は、コーティング組成物および塗装工程の状況に応じて適時選択することができ、例えばディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法やエクストルージョンコート法(米国特許2681294号明細書)などにより塗布することができる。
【0076】
防眩層の厚みは、特に制限されるものではなく、種々の要因を考慮して適時設定することができる。例えば、乾燥膜厚が0.01〜20μmとなるようにコーティング組成物を塗布することができる。
【0077】
透明基材に塗布された塗膜をそのまま硬化させてもよく、また硬化させる前に塗膜を乾燥させて、硬化前に予め相分離させておいてもよい。塗膜を硬化させる前に乾燥させる場合は、30〜200℃、より好ましくは40〜150℃で、0.1〜60分間、より好ましくは1〜30分間乾燥させて、溶媒を除去し、予め相分離させることができる。第1成分と第2成分との混合物が光硬化性である場合に、硬化前に乾燥させて予め相分離させておくことは、防眩層中の溶媒を効果的に除去でき、かつ所望の大きさの凹凸を設けることができるという利点がある。
【0078】
硬化させる前に相分離させる他の方法として、塗膜に光を照射して相分離させる方法を用いることもできる。照射する光として、例えば露光量0.1〜1.5J/cmの光、好ましくは0.5〜1.5J/cmの光を用いることができる。またこの照射光の波長は特に限定されるものではないが、例えば360nm以下の波長を有する照射光などを用いることができる。例えば光開始剤として2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オンなどを用いる場合は、照射光は310nm付近の波長を有する光を照射するのが好ましく、そしてさらに360nm付近の波長を有する光を照射するのがより好ましい。このような光は、高圧水銀灯、超高圧水銀灯などを用いて得ることができる。このように光を照射することによって、相分離および硬化が生じることとなる。光を照射して相分離させることによって、コーティング組成物に含まれる溶媒の乾燥ムラに起因する表面形状のムラを回避できるという利点がある。
【0079】
コーティング組成物の塗布により得られた塗膜を、または乾燥させた塗膜を、硬化させることによって、防眩層が形成される。第1成分と第2成分との混合物が熱硬化性である場合は、40〜280℃、より好ましくは80〜250℃で、0.1〜180分間、より好ましくは1〜60分間加熱することにより、硬化させることができる。第1成分と第2成分との混合物が光硬化性である場合は、必要に応じた波長の光を発する光源を用いて光を照射することによって、硬化させることができる。なお、光照射は、上記のとおり相分離させる目的で用いることもできる。
【0080】
こうして形成される防眩フィルムの断面該略図を図1に示す。防眩フィルム1は、防眩層3と透明基材5とを有している。本発明の防眩フィルム表面の凹凸は自然発生的に凹凸配置が決まるので、樹脂層の表面に不規則な凹凸形状を形成することができる。
【0081】
防眩層の表面の凹凸形状は、Rz JIS94(十点平均粗さ)のパラメーターを使用して評価することができる。ここでRz JIS94は、JIS B0601の付属書1表1において規格化されたパラメーターである。このRz JIS94は、表面上の凹凸の高さ粗さを表わす指標である。図2は、パラメーターRz JIS94の説明図である。この図中において、実線曲線は防眩層の断面を示している。十点平均粗さ(Rz JIS94)は、例えば(株)キーエンス製、超深度形状測定顕微鏡などを用いて、JIS B0601の付属書1に準拠して測定することができる。なお、JIS B0601は、ISO 4287を翻訳し、技術的内容及び規格票の様式を変更することなく作成した日本工業規格である。
【0082】
本発明の防眩フィルムは、Rz JIS94が1.0μm以下であるのが好ましい。Rz JIS94が1.0μmを超える場合は、ヘーズが高くなり、白ぼけが発生するなど、防眩用途として不具合が生じることがある。Rz JIS94は0.8μm以下であるのがより好ましく、0.5μm以下であるのがさらに好ましい。下限は0.1μmであるのが好ましい。
【0083】
本発明の防眩フィルムは、全光線透過率が90%以上であるのが好ましく、95%以上であるのがより好ましい。特に本件発明においては、樹脂粒子を含有していないため、上記のように高い全光線透過率を達成することが可能となる。全光線透過率(T(%))は、防眩フィルムに対する入射光強度(T)と防眩フィルムを透過した全透過光強度(T)とを測定し、下記式により算出される。全光線透過率の概略説明図を図3に示す。
【数4】

【0084】
全光線透過率の測定は、例えばヘーズメーター(スガ試験機社製)を用いて測定することができる。
【0085】
本発明の防眩フィルムは、ヘーズが20%未満であるのが好ましく、18%以下であるのがより好ましく、15%以下であるのがさらに好ましく、10%以下であるのがとりわけ好ましい。本発明によって、上記の通りヘーズが低く、かつ防眩性に優れるという、優れた性能を有する防眩フィルムを調製することができる。ヘーズが低いことの利点として、防眩フィルムを液晶表示装置に設けた場合に、表示される画像の鮮明性を損なわないこと、白ぼけが発生しにくいことなどが挙げられる。このようなヘーズの低い防眩フィルムは、特に高詳細液晶表示装置に表示される画像の鮮明性を損なわないという利点がある。
【0086】
ヘーズは、JIS K7105に準拠して、下記式より算出することができる。
【数5】

H:ヘーズ(曇価)(%)
:拡散透光率(%)
:全光線透過率(%)
【0087】
ヘーズの測定は、例えばヘーズメーター(スガ試験機社製)を用いて測定することができる。
【0088】
本発明の防眩フィルムは、RZ JISが1.5μm以下であるのが好ましい。ここでRZ JISとは、粗さ曲線の最大高さ粗さであり、JIS B0601−2001において規定されるパラメーターである。RZ JISが1.0μm以下であるのがより好ましく、0.7μm以下であるのがさらに好ましい。下限は0.1μmであるのが好ましい。本発明の防眩フィルムは、樹脂粒子などの粒子を含むことなく調製できることを特徴とする。樹脂粒子などを用いて防眩フィルム上の凹凸を形成する場合は、防眩フィルムの調製中に樹脂粒子の凝集が生じることが多い。そしてこの凝集によって、RZ JIS(最大高さ粗さ)の値は高くなってしまう。防眩フィルムのRZ JIS(最大高さ粗さ)の値が1.5μmを超える場合は、防眩フィルムを透過する画像の鮮明性が低下したり、白ぼけが生じるといった不具合が生じる恐れがある。
【0089】
本発明の防眩フィルムは、Smが100μm以下であるのが好ましく、50μm以下であるのがさらに好ましい。下限は5μmであるのが好ましい。ここでSmとは、表面の粗さ曲線要素の平均長さであり、一般に粗さ曲線の山谷平均間隔または凹凸の平均間隔と言われるものである。Smは、例えば(株)キーエンス製、超深度形状測定顕微鏡などを用いて、JIS B0633に準拠して測定することができる。なお、JIS B0633は、ISO 4288を翻訳し、技術的内容及び規格票の様式を変更することなく作成した日本工業規格である。
【0090】
本発明の防眩フィルムは、防眩層の表面の不規則な凹凸形状の配置が、自然発生的に決まるものである。そして本発明の防眩フィルムは、散乱角に対する散乱光強度が極大値を有さないのが好ましい。防眩フィルムの面に対して法線方向、つまりフィルム面に対して直角方向から光を照射した場合、透過光は、この照射光がそのまま進行する方向、つまり散乱角が0°の方向、が最大である。そして照射光が防眩フィルムにより散乱することによって、この法線方向から角度がずれた方向にも光が透過することとなる。この散乱した光が散乱光(透過散乱光)である。本発明の防眩フィルムは、この散乱角に対する散乱光強度が極大値を有さないのが好ましい。この散乱光が極大値を有する場合は、特定の角度に対して散乱光が集まることとなり、これにより光の干渉が生じることがある。光の干渉の発生は、防眩フィルムを透過する画像の鮮明性の低下をもたらす恐れがあるため、好ましくない。
【0091】
本発明の防眩フィルムは、さらに低屈折率層を有していてもよい。低屈折率層は、低屈折率樹脂で構成されている。低屈折率層を防眩層の少なくとも一方の面に積層することにより、光学部材などにおいて、低屈折率層を最表面となるように配設した場合などに、外部からの光(外部光源など)が、防眩性フィルムの表面で反射するのを有効に防止することができる。また、低屈折率層を最表面となるように配置することによって、防眩フィルムのヘーズをさらに低くすることができる。低屈折率層を最表面となるように配置する、つまり透明基材の上に防眩層を形成し、この防眩層の上にさらに低屈折率層を形成することによって、得られる防眩フィルムのヘーズをさらに下げることができる。
【0092】
低屈折率樹脂の屈折率は、例えば、1.35〜1.39、好ましくは1.36〜1.39、さらに好ましくは1.38〜1.39程度である。
【0093】
低屈折率層の厚みは、例えば、0.05〜2μm、好ましくは0.1〜1μm(例えば、0.1〜0.5μm)、さらに好ましくは0.1〜0.3μm程度である。
【0094】
低屈折率樹脂としては、例えば、メチルペンテン樹脂、ジエチレングリコールビス(アリルカーボネート)樹脂、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリビニルフルオライド(PVF)などのフッ素樹脂などが挙げられる。また、低屈折率層は、通常、フッ素含有化合物を含有するのが好ましい。フッ素含有化合物を用いることによって、低屈折率層の屈折率を所望に応じて低減することができる。
【0095】
フッ素含有化合物としては、フッ素原子と、熱や活性エネルギー線(紫外線や電子線など)などにより反応する官能基(架橋性基又は重合性基などの硬化性基など)とを有し、熱や活性エネルギー線などにより硬化又は架橋してフッ素含有樹脂(特に硬化又は架橋樹脂)を形成可能なフッ素含有樹脂前駆体が挙げられる。このようなフッ素含有樹脂前駆体としては、例えば、フッ素原子含有熱硬化性化合物又は樹脂[フッ素原子とともに、反応性基(エポキシ基、イソシアネート基、カルボキシル基、ヒドロキシル基など)、重合性基(ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイル基など)などを有する低分子量化合物]、活性光線(紫外線など)により硬化可能なフッ素原子含有光硬化性化合物又は樹脂(光硬化性フッ素含有モノマー又はオリゴマーなどの紫外線硬化性化合物など)などを挙げることができる。
【0096】
フッ素原子含有熱硬化性化合物又は樹脂としては、例えば、少なくともフッ素含有モノマーを用いて得られる低分子量樹脂、例えば、構成モノマーとしてのポリオール成分の一部又は全部に代えてフッ素含有ポリオール(特にジオール)を用いて得られるエポキシ系フッ素含有樹脂;同様に、ポリオール及び/又はポリカルボン酸成分の一部又は全部に代えて、フッ素原子含有ポリオール及び/又はフッ素原子含有ポリカルボン酸成分を用いて得られる不飽和ポリエステル系フッ素含有樹脂;ポリオール及び/又はポリイソシアネート成分の一部又は全部に代えて、フッ素原子含有ポリオール及び/又はポリイソシアネート成分を用いて得られるウレタン系フッ素含有樹脂などが例示できる。これらの熱硬化性化合物又は樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0097】
フッ素原子含有光硬化性化合物には、例えば、単量体、オリゴマー(又は樹脂、特に低分子量樹脂)が含まれ、単量体としては、例えば、前記防眩層の項で例示の単官能性単量体及び多官能性単量体に対応するフッ素原子含有単量体[(メタ)アクリル酸のフッ化アルキルエステルなどのフッ素原子含有(メタ)アクリル系単量体、フルオロオレフィン類などのビニル系単量体などの単官能性単量体;1−フルオロ−1,2−ジ(メタ)アクリロイルオキシエチレンなどのフッ化アルキレングリコールのジ(メタ)アクリレートなど]が例示できる。また、オリゴマー又は樹脂としては、前記防眩層の項で例示のオリゴマー又は樹脂に対応するフッ素原子含有オリゴマー又は樹脂などが使用できる。これらの光硬化性化合物は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0098】
フッ素含有樹脂の硬化性前駆体は、例えば、溶液(コート液)状の形態で入手でき、このようなコート液は、例えば、日本合成ゴム(株)製「TT1006A」及び「JN7215」や、大日本インキ化学工業(株)製「ディフェンサTR−330」などとして入手できる。
【0099】
本発明の防眩性フィルムは、透明基材として低屈折率層を用いて、防眩層及び低屈折率層で構成してもよい。本発明の防眩性フィルムはまた、透明基材と、この透明基材上に順次形成された防眩層及び低屈折率層とで構成してもよい。
【0100】
偏光板
本発明の防眩性反射防止フィルムは、液晶表示装置(液晶ディスプレイ)の偏光板に用いることができる。本発明の防眩フィルムを用いた偏光板の断面概略図を図4に示す。図4に例示される偏光板10は、偏光層(偏光素子)12の一方の面(図4において上面側)に上記の防眩フィルム1が設けられた構成である。
【0101】
偏光層12は、2層の透明基材5、14の間に積層されていている。透明基材5、14としてTACフィルムを使用することができる。この偏光層12は3層構造であり、第1層及び第3層がポリビニルアルコール(PVA)にヨウ素を加えたフィルム、中間の第2層がPVAフィルムからなっている。この防眩フィルム1は透明基材5に防眩層3を積層した構成である。
【0102】
前記偏光層12の両外側に設けられる透明基材として、TACフィルムを用いる場合は、複屈折がなく偏光が乱されないので、偏光素子となるPVA及びPVA+ヨウ素フィルムと積層しても、偏光が乱されない。従って、このような偏光板10を用いて表示品位の優れた液晶表示装置を得ることができる。
【0103】
上記のような偏光板10における偏光層12を構成する偏光素子としては、ヨウ素又は染料により染色し、延伸してなるPVAフィルムに、ポリビニルホルマールフィルム、ポリビニルアセタールフィルム、エチレン−酢酸ビニル共重合体系ケン化フィルム等がある。
【0104】
なお、偏光層12を構成する各フィルムを積層するにあたっては、接着性の増加及び静電防止のために、前記透明基材にケン化処理を行うとよい。
【0105】
液晶表示装置
本発明の防眩性反射防止フィルムは、液晶表示装置(液晶ディスプレイ)に用いることができる。図5は、本発明の防眩フィルムを用いた透過型表示装置の断面概略図である。
【0106】
図5に示される液晶表示装置20は、上記偏光板10と同様な偏光板22と、液晶パネル24と、偏光板26とを、この順で積層すると共に、偏光板26側の背面にバックライト28を配置した透明型の液晶表示装置である。
【0107】
前記液晶表示装置20における液晶パネル24で使用される液晶モードとしては、ツイストネマチックタイプ(TN)、スーパーツイストネマチックタイプ(STN)、相転移タイプ(PC)、高分子分散タイプ(PDLC)等のいずれであってもよい。
【0108】
液晶の駆動モードとしては、単純マトリックスタイプ、アクティブマトリックスタイプのどちらでもよく、アクティブマトリックスタイプの場合では、TFT、MIM等の駆動方式が取られる。液晶パネル24は、カラータイプあるいはモノクロタイプのいずれであってもよい。
【0109】
本発明の防眩性反射防止フィルムは、液晶表示装置の他に、プラズマディスプレイパネル(PDP)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)や陰極管表示装置(CRT)のような画像表示装置にも用いることができる。本発明の防眩フィルムを液晶表示装置に用いる場合、防眩層が設けられていない方の透明基材表面上に粘着層を設ける等して、ディスプレイの最表面に配置することができる。本発明による防眩フィルムの防眩層上に、さらに反射防止処理などを行なってもよい。
【実施例】
【0110】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。尚、特に断らない限り、「部」は重量部を表わす。
【0111】
調整例1 シリコーンアクリルブロック共重合体の調製
VPS−1001N(アゾ基含有ポリシロキサン化合物、和光純薬工業社製、ポリシロキサン鎖の分子量10,000、固形分50%)243.9gと、シクロヘキシルメタクリレート 144.0g、スチレン 43.7g、ヒドロキシルエチルメタクリレート 52.3g及び酢酸ブチル 343.3gからなる混合物とを混合した。この混合溶液を、撹拌羽根、窒素導入管、冷却管及び滴下漏斗を備えた1000ml反応容器中の、窒素雰囲気下で120℃に加温した酢酸ブチル 270.0gに、3時間かけて等速で滴下し、その後、120℃で30分間混合し、反応させた。ターシャリーブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート 0.60gを含む酢酸ブチル 15.0g溶液を、30分間かけて等速滴下してから、さらに120℃で1時間混合して反応させて、数平均分子量34,000、重量平均分子量125,000のシリコーンアクリルブロック共重合体を得た。この樹脂は、Sp値:10.8、Tg:69℃、表面張力:16dyn/cmであった。
【0112】
調整例2 不飽和二重結合含有シリコーンアクリルブロック共重合体の調製
VPS−1001N(アゾ基含有ポリシロキサン化合物、和光純薬工業社製、ポリシロキサン鎖の分子量10,000、固形分50%)243.9gと、シクロヘキシルメタクリレート 68.2g、スチレン 103.9g、グリシジルメタクリレート 44.3g及び酢酸ブチル 343.3gからなる混合物とを混合した。この混合溶液を、撹拌羽根、窒素導入管、冷却管及び滴下漏斗を備えた1000ml反応容器中の、窒素雰囲気下で120℃に加温した酢酸ブチル270.0gに、3時間かけて等速で滴下し、その後、120℃で30分間反応させた。ターシャリーブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート0.60gを含む酢酸ブチル15.0g溶液を30分間かけて等速滴下してから、さらに120℃で1時間反応させた。この反応液にターシャルブチルアンモニウムブロマイド 3.12gとハイドロキノン 0.2gを含む酢酸ブチル 10g溶液を滴下し、空気バブリングしながら、アクリル酸 23.6gを120℃で5時間かけて等速滴下した。さらに120℃で1時間反応させて、数平気分子量19,000、重量平均分子量83,000の不飽和二重結合含有シリコーンアクリルブロック共重合体を得た。この樹脂は、Sp値:10.6、Tg:76℃、表面張力:18dyn/cmであった。
【0113】
調整例3 アクリル共重合体の調製
イソボロニルメタクリレート 280.8g、メチルメタクリレート 4.2g、メタクリル酸 15.0g及びプロピレングリコールモノメチルエーテル 340.0gからなる混合物を混合した。この混合液を、撹拌羽根、窒素導入管、冷却管及び滴下漏斗を備えた1000ml反応容器中の、窒素雰囲気下で110℃に加温したプロピレングリコールモノメチルエーテル 200gに、3時間かけて等速で滴下し、その後、110℃で30分間反応させた。ターシャリーブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート 3.0gを含むプロピレングリコールモノメチルエーテル 120gの溶液を、30分間かけて等速滴下してから、さらにターシャリーブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート 0.3gを含むプロピレングリコールモノメチルエーテルの25.5g溶液を30分間滴下して、数平均分子量6,400、重量平均分子量14,800のアクリル共重合体を得た。この樹脂は、Sp値:9.9、Tg:113℃、表面張力:29dyn/cmであった。
【0114】
調整例4 不飽和二重結合含有アクリル共重合体の調製
イソボロニルメタクリレート 187.2g、メチルメタクリレート 2.8g、メタクリル酸 10.0g及びプロピレングリコールモノメチルエーテル 160.0gからなる混合物を混合した。この混合液を、撹拌羽根、窒素導入管、冷却管及び滴下漏斗を備えた1000ml反応容器中の、窒素雰囲気下で100℃に加温したプロピレングリコールモノメチルエーテル 200.0gに、ターシャルブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエートを含むプロピレングリコールモノメチルエーテルの80.0g溶液と同時に3時間かけて等速で滴下し、その後、1時間100℃で反応させた。その後、ターシャルブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート 0.2gを含むプロピレングリコールモノメチルエーテル溶液を滴下して100℃で1時間反応させた。その反応溶液にテトラブチルアンモニウムブロマイド 1.5gとハイドロキノン0.2gを含む5.0gのプロピレングリコールモノメチルエーテル溶液を加え、空気バブリングしながら、さらにグリシジルメタクリレート 17.3gとプロピレングリコールモノメチルエーテル 5gの溶液を1時間かけて滴下し、その後5時間かけて更に反応させた。数平均分子量8,800、重量平均分子量18,000の不飽和二重結合含有アクリル共重合体を得た。この樹脂は、Sp値:9.8、Tg:113℃、表面張力:31dyn/cmであった。
【0115】
調整例5 不飽和二重結合含有アクリル共重合体の調製
イソボロニルメタクリレート 147.2g、メチルメタクリレート 2.8g、エチルヒドロキシアクリレート 4.0g、メチルアクリル酸 10.0g及びプロピレングリコールモノメチルエーテル 160.0gからなる混合物を混合した。この混合液を、撹拌羽根、窒素導入管、冷却管及び滴下漏斗を備えた1000ml反応容器中の、窒素雰囲気下で110℃に加温したプロビレングリコールモノメチルエーテル 200.0gに、ターシャルブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート 2gを含むプロピレングリコールモノメチルエーテルの80.0g溶液と同時に3時間かけて等速で滴下し、その後、110℃で30分間反応させた。その後、ターシャルブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート 0.2gを含むプロピレングリコールモノメチルエーテル 17gの溶液を滴下して110℃で30分間反応させた。その反応溶液にテトラブチルアンモニウムブロマイド 1.5gとハイドロキノン0.1gを含む5.0gのプロピレングリコールモノメチルエーテル溶液を加え、空気バブリングしながら、グリシジルメタクリレート 17.3gとプロピレングリコールモノメチルエーテル 5gの溶液を1時間かけて滴下し、その後5時間かけて更に反応させた。数平均分子量8,800、重量平均分子量18,000の不飽和二重結合含有アクリル共重合体を得た。この樹脂は、Sp値:9.9、Tg:55℃、表面張力:27dyn/cmであった。
【0116】
調整例6 不飽和二重結合含有アクリル共重合体の調製
イソボロニルメタクリレート 171.6g、メチルメタクリレート 2.6g、メチルアクリル酸 9.2gからなる混合物を混合した。この混合液を、攪拌羽根、窒素導入管、冷却管及び滴下漏斗を備えた1000ml反応容器中の、窒素雰囲気下で110℃に加温したプロピレングリコールモノメチルエーテル 330.0gに、ターシャルブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート 1.8gを含むプロピレングリコールモノメチルエーテル 80.0g溶液と同時に3時間かけて等速で滴下し、その後、110℃で30分間反応させた。その後、ターシャルブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート 0.2gをプロピレングリコールモノメチルエーテル 17.0gの溶液を滴下してテトラブチルアンモニウムブロマイド 1.4gとハイドロキノン0.1gを含む5.0gのプロピレングリコールモノメチルエーテル溶液を加え、空気バブリングしながら、4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル 22.4gとプロピレングリコールモノメチルエーテル 5.0gの溶液を2時間かけて滴下し、その後5時間かけて更に反応させた。数平均分子量5,500、重量平均分子量18,000の不飽和二重結合含有アクリル共重合体を得た。この樹脂は、Sp値:10.0、Tg:92℃、表面張力:31dyn/cmであった。
【0117】
実施例1
調製例1のシリコーンアクリルブロック共重合体(この樹脂のSp値:10.8、Tg:69℃)32重量部、調製例3のアクリル共重合体48重量部(この樹脂のSp値:9.9、Tg:113℃)、更に熱硬化剤であるメラミン硬化剤20重量部、熱硬化触媒であるパラトルエンスルホン酸6重量部、パーフルオロアルキル基含有オリゴマー0.1重量部を、溶媒であるアニソール(Sp値:9.5)に混合して不揮発分率が23重量%になるように溶液を作成した。得られた溶液を、環境温度23℃で、トリアセチルセルロースフィルム基板に、スピンコーターにて800rpmの回転数で10秒間にて薄膜塗布した。膜厚5μmの塗布膜を100℃で10分間加熱硬化し、防眩フィルムを得た。
【0118】
得られた防眩フィルムの評価および防眩層表面の凹凸の評価を下記記載のように行なった。なお、これらの評価方法により得られた結果を表2に示す。
【0119】
十点平均粗さ(Rz JIS94
表面上の凹凸の十点平均粗さ(Rz JIS94)を、キーエンス製、超深度形状測定顕微鏡を用いてJIS−B0601の付属書1に準拠して測定し、Rz JIS94値を得た。
【0120】
粗さ曲線の最大高さ粗さ(Rz JIS
表面上の凹凸の粗さ曲線の最大高さ粗さ(Rz JIS)を、キーエンス製、超深度形状測定顕微鏡を用いてJIS−B0601に準拠して測定し、Rz JIS値を得た。なお、この粗さ曲線の最大高さ粗さ(Rz JIS)は実施例4および5のみ測定した。
【0121】
全光線透過率
ヘーズメーター(スガ試験機社製)を用いて、防眩フィルムに対する入射光強度(T)と防眩フィルムを透過した全透過光強度(T)とを測定し、下記式により全光線透過率(T(%))を算出した。
【数6】

【0122】
白ぼけ
防眩層の表面の凸凹により外光が拡散反射され視覚的に白濁感を与えること(白ぼけ)を、目視にて判断した。目視判断にて白濁感がない場合を○、少し白濁感がある場合を△、白濁感が目視ではっきり確認できる場合を×と評価した。
【0123】
表面の粗さ曲線要素の平均長さ(Sm)
表面の粗さ曲線要素の平均長さ(Sm)を、キーエンス製、超深度形状測定顕微鏡を用いてJIS−B0633に準拠して測定し、Sm値を得た。
【0124】
ヘーズ(曇価)
ヘーズメーター(スガ試験機社製)を用いて、防眩フィルムの拡散透光率(T(%))および上記全光線透過率(T(%))を測定し、ヘーズを算出した。
【数7】

H:ヘーズ(曇価)(%)
:拡散透光率(%)
:全光線透過率(%)
【0125】
この防眩層表面の凹凸状態の超深度形状測定顕微鏡による三次元画像は図6のごとくの海島構造を示した。得られた防眩フィルムは、蛍光灯下での蛍光灯の映り込みが無く、防眩性に優れたものであった。
【0126】
実施例2
調製例2の不飽和二重結合含有シリコーンアクリルブロック共重合体(この樹脂のSp値:10.6、Tg:76℃)40重量部、調製例4の不飽和二重結合含有アクリル共重合体(この樹脂のSp値:9.8、Tg:113℃)60重量部、光開始剤である2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド5重量部、パーフルオロアルキル基含有オリゴマー0.1重量部を、溶媒であるアニソールに混合して不揮発分率が20重量%となるように溶液を作成した。この溶液を、環境温度23℃で、トリアセチルセルロースフィルム基板にスピンコーターにて1000rpmの回転数で10秒間塗布し、次いで120℃で10分間加熱して溶媒を揮散させて、膜厚を8μmとした。そのフィルム膜を超高圧水銀灯で紫外線を照射して紫外線エネルギーが1J/cmになるように露光した。得られた防眩フィルムおよび防眩層表面の凹凸を実施例1と同様に評価した。評価結果を表2に示す。
【0127】
この防眩層表面の凹凸状態を超深度形状測定顕微鏡測定した三次元画像は図7のごとくの海島構造を示した。得られた防眩フィルムは蛍光灯下での蛍光灯の映り込みが無く、防眩性に優れたものであった。
【0128】
実施例3
多官能性不飽和二重結合含有モノマーであるジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(このモノマーのSp値:12.1)75重量部と調製例5の不飽和二重結合含有アクリル共重合体(この樹脂のSp値:9.9、Tg:55℃)、光開始剤である2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド5重量部、パーフルオロアルキル基含有オリゴマー0.1重量部に、プロピレングリコールモノメチルエーテル(SP値:10.1)を溶媒として不揮発分率が23重量%となるように調整した。この溶液を、環境温度23℃で、トリアセチルセルロースフィルム基板にバーコーター(No.18)にてバーコート塗布し、膜厚が6μmとなるように50℃で10分間加熱して溶媒を除去乾燥した。その後、この膜を超高圧水銀灯で紫外線を1J/cmのエネルギーとなるように露光して防眩層を形成した。得られた防眩フィルムおよび防眩層表面の凹凸を実施例1と同様に評価した。評価結果を表2に示す。
【0129】
この防眩層表面の凹凸状態の超深度形状測定顕微鏡による三次元画像は、図8のごとく海島構造を示した。得られた防眩フィルムは、蛍光灯下での蛍光灯の映り込みが無く、防眩性に優れたものであった。
【0130】
実施例4
調製例6の不飽和二重結合含有アクリル共重合体(この樹脂のSp値:10.0、Tg:92℃)20重量部と多官能性不飽和二重結合含有モノマーであるペンタエリスリトールトリアクリレート(このモノマーのSp値:12.7)90重量部、光開始剤である2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン 7重量部を、溶媒であるイソブチルアルコール(SP値:11.3)に混合して不揮発分率が40重量%となるように溶液を作成した。この溶液を、環境温度23℃で、トリアセチルセルロースフィルム基板にバーコーター(No.12)にてバーコート塗布し、膜厚が6μmとなるように60℃で1分間加熱して溶媒を除去乾燥し、防眩層を形成した。その後、この膜を超高圧水銀灯で紫外線を1J/cmのエネルギーとなるように露光して硬化させた。得られた防眩フィルム及び防眩層表面の凹凸を実施例1と同様に評価した。評価結果を表2に示す。
【0131】
実施例5
調製例6の不飽和二重結合含有アクリル共重合体(この樹脂のSp値:10.0、Tg:92℃)5重量部と多官能性不飽和二重結合含有モノマーであるペンタエリスリトールトリアクリレート(このモノマーのSp値:12.7)50重量部、ポリエチレングリコール#200ジアクリレート(このモノマーのSp値:13.6)50重量部、光開始剤である2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン 13重量部を、溶媒であるメチルイソブチルケトン(SP値:8.3)に混合して不揮発分が60重量%となるように溶液を作成した。この溶液を、環境温度23℃で、トリアセチルセルロースフィルム基板にバーコーター(No.5)にてバーコート塗布し、膜厚が4μmとなるように80℃で3分間加熱して溶媒を除去乾燥した。その後、この膜を超高圧水銀灯で紫外線を1J/cmのエネルギーとなるように露光して防眩層を形成し、硬化させた。得られた防眩フィルム及び防眩層表面の凹凸を実施例1と同様に評価した。評価結果を表2に示す。
【0132】
比較例1(特許文献1に基づく参考例)
紫外線硬化性樹脂(日本化薬製PETA)100部、トリアセチルセルロース(バイエル社製)1.7重量部、光硬化開始剤(チバガイギー社製、イルガキュアー184)5重量部およびスチレンビーズ(総研化学製、粒径2.5μm)20重量部を混合した。トルエンを用いて固形分40%に調整し、環境温度23℃で、トリアセチルセルロースフィルム基板上に、スピンコーターを用いて乾燥膜厚3.5μmとなるように塗布した。80℃で10分間溶剤乾燥し、次いで紫外線を200mJ/cm(superscript:2)照射して、防眩層を形成した。得られた防眩フィルムおよび防眩層を実施例1と同様に評価した。評価結果を表2に示す。
【0133】
比較例2(特許文献3に基づく参考例)
トリアセチルセルロースフィルム基板上に、フッ素基を導入したエポキシ樹脂とアクリル樹脂とを2:1の割合で混合した溶液を、環境温度23℃で、スピンコーターにて塗布した。温度80℃で90分間加熱処理して塗布した樹脂を硬化させ、凸凹表面形状の防眩層を形成した。得られた防眩フィルムおよび防眩層を実施例1と同様に評価した。評価結果を表2に示す。この防眩層表面は海島構造を示した。得られた防眩フィルムは、蛍光灯下での映り込みがないが、全光線透過率は80%と低く、また白ぼけ評価は×であった。
【0134】
【表1】

【0135】
【表2】

【0136】
上記実施例において、本発明のコーティング組成物から形成される防眩フィルムは、比較例によるものと比較して、全光線透過率が高くまた白ぼけもない等の優れた性能を有することが確認された。また、実施例4および5に示すとおり、本発明により、ヘーズが低くかつ全光線透過率が高くまた白ぼけもないという優れた性能を有する防眩フィルムを調製できることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材上に塗布され防眩層を形成する防眩性コーティング組成物であって、
該防眩性コーティング組成物が第1成分および第2成分を含み、
該防眩性コーティング組成物を基材上に塗布した後に、該第1成分および第2成分の物性の差に基づいて第1成分と第2成分とが相分離し、表面にランダムな凹凸を有する樹脂層が形成される、
防眩性コーティング組成物。
【請求項2】
前記第1成分および第2成分が、それぞれ独立して、モノマー、オリゴマーおよび樹脂からなる群から選択される1種または2種以上の組み合わせである、請求項1記載の防眩性コーティング組成物。
【請求項3】
第1成分のSP値と第2成分のSP値との差が0.5以上である、請求項1または2記載の防眩性コーティング組成物。
【請求項4】
さらに有機溶媒を含む防眩性コーティング組成物であって、
第1成分のSP値(SP)、第2成分のSP値(SP)および有機溶媒のSP値(SPsol)が、下記条件;
SP<SP、および
SPとSPsolとの差が2以下である;
を満たす関係にある、請求項3記載の防眩性コーティング組成物。
【請求項5】
前記第1成分がオリゴマーまたは樹脂であり、前記第2成分がモノマーである、請求項3または4記載の防眩性コーティング組成物。
【請求項6】
前記第1成分が不飽和二重結合含有アクリル共重合体であり、前記第2成分が多官能性不飽和二重結合含有モノマーである、請求項5記載の防眩性コーティング組成物。
【請求項7】
前記第1成分がシリコーンアクリルブロック共重合体であり、前記第2成分がアクリル共重合体である、請求項3または4記載の防眩性コーティング組成物。
【請求項8】
前記第1成分および第2成分が樹脂であって、第1成分および第2成分のうちいずれか一方が、組成物塗布時の環境温度より低いTgを有し、他の一方が組成物塗布時の環境温度より高いTgを有する、請求項1または2記載の防眩性コーティング組成物。
【請求項9】
前記第1成分または第2成分のいずれか一方がモノマーであって、
第1成分および第2成分のTgの差が20℃以上であり、および
第1成分および第2成分において、より高いTgを有する成分のTgが20℃以上である、請求項1〜3いずれかに記載の防眩性コーティング組成物。
【請求項10】
さらに硬化剤を含む、請求項1〜9いずれかに記載の防眩性コーティング組成物。
【請求項11】
樹脂粒子を含まないことを特徴とする、請求項1〜10いずれか記載の防眩性コーティング組成物。
【請求項12】
透明基材および防眩層を有する防眩フィルムであって、該防眩層が請求項1〜11いずれかに記載の防眩性コーティング組成物から形成される、防眩フィルム。
【請求項13】
防眩フィルムのヘーズが20%未満である、請求項12記載の防眩フィルム。
【請求項14】
防眩フィルムのRz JIS94(十点平均粗さ)が1.0μm以下である、請求項12記載の防眩フィルム。
【請求項15】
防眩フィルムの表面の粗さ曲線要素の平均長さ(Sm)が100μm以下である、請求項12記載の防眩フィルム。
【請求項16】
防眩フィルムの散乱角に対する散乱光強度が極大値を有さない、請求項12記載の防眩フィルム。
【請求項17】
透明基材に、請求項1〜11いずれかに記載の防眩性コーティング組成物を塗布する塗布工程、および
得られた塗膜を硬化させる硬化工程、
を包含する、防眩フィルムの製造方法。
【請求項18】
透明基材に、請求項1〜11いずれかに記載の防眩性コーティング組成物を塗布する塗布工程、
得られた塗膜を乾燥させて相分離させる乾燥工程、および
乾燥させた塗膜を硬化させる硬化工程、
を包含する、防眩フィルムの製造方法。
【請求項19】
透明基材に、請求項1〜11いずれかに記載の防眩性コーティング組成物を塗布する塗布工程、および
得られた塗膜に光を照射して、相分離および硬化させる光照射工程、
を包含する、防眩フィルムの製造方法。
【請求項20】
請求項17〜19いずれかに記載の防眩フィルムの製造方法により得られる防眩フィルム。
【請求項21】
請求項12〜16いずれかに記載の防眩フィルムと偏光素子とを有する偏光板であって、透明基材に設けられた防眩層とは反対面である防眩フィルム表面と偏光素子表面とが対向して積層されている、偏光板。
【請求項22】
平面状の透光性表示体と、該透光性表示体を背面から照射する光源装置と、該透光性表示体の表面に積層された請求項12〜16いずれかに記載の防眩フィルムと、を有する透過型表示装置。
【請求項23】
請求項12〜16いずれかに記載の防眩フィルムがディスプレイの最表層に用いられた液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【国際公開番号】WO2005/073763
【国際公開日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【発行日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−517515(P2005−517515)
【国際出願番号】PCT/JP2005/001217
【国際出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】