説明

防蝉用光ドロップケーブル

【課題】クマゼミの産卵管の刺入による光ファイバ心線11の損傷や断線の恐れがないものとする。
【解決手段】光ファイバ心線11と抗張力体12とを同一材料で被覆してなる光ドロップケーブル10である。若い樹木T等の樹皮は弾力があり、その樹皮に産卵してもその産卵孔は塞がり、卵は孵らない。また、耐摩耗性があれば、産卵管を刺入し得ない。このため、前記被覆した外被15を、前記若い樹木の樹皮と同様な弾力性があり、かつ耐摩耗性のポリウレタン樹脂とする。この樹脂の外被15であると、その樹脂の弾力及び耐摩耗性により、産卵孔が塞がれ卵が孵らなくなったり、産卵管を刺入し得なくなったりするため、クマゼミは、その外被15には産卵しない。産卵行動がなければ、クマゼミの産卵管の刺入による光ファイバ素線の損傷や断線の恐れはない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、クマゼミ等の蝉の産卵管刺入(さしいれ)による被害を防止した屋外用光ドロップケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
光ドロップケーブルは、例えば、図9に示すように、屋外の電柱32に架設された光ケーブル支線31から光クロージャ34を介して各家庭33への引き込みに使用される。
この光ドロップケーブル10は、通常、図1〜図4に示すように、光ファイバ心線11の両側にテンションメンバ(抗張力体)12を配置し、その光ファイバ心線11及びテンションメンバ12を支持線(吊線)13とともに、樹脂により被覆した構成である(特許文献1、2参照)。
【0003】
この光ドロップケーブル10は、図9に示すように、通常、屋外に設置され、当然に、その設置個所には種々の蝉(昆虫)が飛来する。その蝉の中には、樹皮内に直接産卵管を刺入して卵を産み付ける習性を持つもの、樹皮に咬み疵を付け、その疵を経て樹皮内に卵を産み付ける習性を持つもの等がいる。
こうした習性を持つ蝉、とりわけ強力な産卵管を持つクマゼミが、光ドロップケーブル10の上記樹脂被覆である外被15に卵を産み付けると、その産み付けの際、産卵管を外被15に刺入させて光ファイバ心線(素線)11を損傷させ、あるいは断線させる事故が起こっている。
【0004】
このようなクマゼミの産卵管刺入による事故を防止する対策技術として、その産卵管刺入の可能性のあるノッチ14に工夫をしたものがある(特許文献1、2参照)。
また、外被15の外形形状を断面円形等として、外被15の外形をクマゼミが止まり難くしたものもある(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−090593号公報
【特許文献2】特開2002−328276号公報
【特許文献3】特開2006−65288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1、2に記載の工夫は、ノッチ14の頂点を光ファイバ心線11に向かない位置にして、その産卵管の刺入方向を光ファイバ心線11に向かないようにしたものである。
しかし、蝉が、必ずしも、ノッチ14の形成態様に基づきその光ファイバ心線11に向かない方向に(頂点に向かって)産卵管を刺入するとは限らず、光ファイバ心線11に向って刺入する場合もある。その場合には、光ファイバ心線11を損傷させ、あるいは断線させる恐れがある。
【0007】
また、上記特許文献3に記載の工夫は、ある程度の効果は認められるが、実際の設置状態において、外被15に産卵管の刺入が認められ、その産卵管の刺入防止対策として十分ではない。
【0008】
この発明は、クマゼミ等の蝉の産卵管の刺入を確実に阻止することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、蝉、特にクマゼミの性質を研究し、その産卵態様を観察したところ、図10(a)に示すように、クマゼミAは、木Tに産卵する際、まず、腹部の感覚毛の触感及び口吻aにより、産卵場所に適するか否かを確認し(試し刺しを行い)、つぎに、その好ましい場所に、産卵管bを突き刺して産卵する点を確認した。
その産卵管bは、同図(b)に示すように、尖ったキリ状の中心片b1の両側に側片b2がその中心片b1を被うように嵌り合って管(長さ:5.5〜11.5mm、径:0.4〜0.9mm)を形成したものであり、その両側片b2の先のノコギリ部(径:0.8〜1.1mm)を交互に摺り合わせて、キリで孔を開けるように深く彫り込んで孔を掘り、その孔内に産卵する。
【0010】
この産卵態様において、その産卵は殆ど枯れ木Tにされており、青々と葉の茂った枝や、水気の多い若い樹木等の、蝉が好んで樹液を吸う生木での産卵は無かった。
この理由を確認するため、枯木と生木に、画鋲(針径:0.9mm 図7参照))を約5mm深さまで刺し込み、枯木と生木の表面傷跡である孔(穴)cの径、外観状態を観察した結果を下記表1に示し、その孔cの断面図を図6((a):枯木、(b):生木)に示す。なお、針径:0.9mm、刺し込み深さ:5mmとしたのは、上記クマゼミAの産卵管b及びその産卵態様に似せるためである。
上記孔径は、顕微鏡で観察し、顕微鏡に付属するデジタルマイクロメータで孔にメータを合わせて、そのX軸方向とY軸方向の孔径を測定した(以下、同じ)。
【0011】
【表1】

【0012】
この表1及び図6から、枯木は生木に比べて表面傷跡の径が大きく、また、生木は孔cが塞がっているのに対し、枯木は孔cの塞がりが殆ど無いことが分る。この点は、図7の「画鋲刺し 枯木 表面、同生木 表面」からも窺える。
このことから、若い樹木T等はさらに成長し、その樹皮内に産卵すると、その成長につれて産卵孔が塞がり、卵が孵らなくなる。また、若い樹木T等の樹皮は弾力があり、その成長と同様に、産卵後、産卵管bを引き抜くと、その樹皮の弾力により産卵孔が塞がれ(例えば、釘が刺さったチューブレスタイヤからその釘を抜いた時、その刺し孔が塞がる態様)、同様に、卵が孵らなくなることが窺える。
クマゼミは、その産卵孔が塞がれることを本能的に感じて、若い樹木T等には産卵しないのではと考える。
【0013】
この発明は、その考えに基づき成したものであって、上記課題を解決するために、上記外被15を、クマゼミ等の蝉の産卵管が刺入されてその産卵管が抜かれた後、その刺入孔が弾力によって塞がれる樹脂、すなわち、高い反発弾性率を有する樹脂からなるものとしたのである。
【0014】
また、上記「外被が高い反発弾性率を有すれば、蝉の産卵管の刺入はない」とする考えに基づく実験において、蝉が光ドロップケーブルに産卵しようとする際、腹部の感覚毛の触感及び口吻aにより、産卵場所に適するか否かを確認することなく、産卵管bを突き刺している場合もあった。この場合、上記産卵管bのノコギリ状両側片b2が外被に噛み込めないと、産卵を諦めてしまう現象を確認した。発明者らは、この現象は、産卵管bを突き刺し難い強度性能(耐傷性、耐彫り込み性等)を示す外被表面の耐摩耗性が高いことによるものと考えた。
【0015】
この発明は、その考えに基づいても成したものであって、上記課題を解決するために、上記外被15を、クマゼミ等の蝉の産卵管が刺入されない耐摩耗性を有する樹脂からなるものとしたのである。
【0016】
このような高い反発弾性率を有する樹脂又は耐摩耗性の樹脂により外被15を構成すれば、後述の実験例から理解できるように、クマゼミ等の蝉による光ドロップケーブルへの産卵行為は行われず、産卵は皆無に近いものとなる。
その反発弾性率は、落下位置の高さT0に対して跳ね返る高さT1の割合(T1/T0)であって、例えば、JISK7311による30〜80%、耐摩耗性は、例えば、JISC3005の1000回転摩耗0.25mm以下、同2000回転摩耗0.35mm以下とする。
反発弾性率:JISK7311による30〜80%は、一般的なゴム弾性を示す範囲であり、30%未満であると、塑性を示すようになって、容易に変形し、かつ元に戻らなくなったり、戻りが遅くなったりする。一方、80%を超えると、材料が硬くなる。したがって、この一般的なゴム弾性の範囲であると、下記の実験などから、産卵管の刺入はなされない、と考え得るからである。
また、耐摩耗性:JISC3005の1000回転摩耗0.25mm及び同2000回転摩耗0.35mmをそれぞれ超えると、ケーブル外被表面に傷がつき易くなり、産卵管が刺入される(ノコギリ状両側片b2が外被に噛み込む)可能性があるからである。
【0017】
この発明の構成としては、光ファイバ心線と抗張力体とを同一材料で被覆してなる屋外用光ドロップケーブルにおいて、前記被覆した外被を、クマゼミ等の蝉の産卵管が刺入されない反発弾性率と耐摩耗性の何れか一方、又はその反発弾性率と耐摩耗性の両方を有する樹脂からなるものとした構成を採用することができる。
【0018】
この構成において、「屋外用」としたのは、蝉の産卵による問題は、屋内では問題とならず、その屋外用光ドロップケーブルであるから、その蝉の産卵による問題を把握し、その把握に基づき、この発明を行った意義を明確にしたものである。
また、「クマゼミ等の蝉の産卵管が刺入されない反発弾性率と耐摩耗性の何れか一方、又はその反発弾性率と耐摩耗性の両方を有する」としたのは、「クマゼミ等の蝉の産卵管が刺入されない反発弾性率と耐摩耗性」の両者を有することが好ましいが、屋外用光ドロップケーブルとしての他の条件を満たす範囲において、外被がクマゼミ等の蝉の産卵管が刺入されない反発弾性率を有すれば、耐摩耗性に着目した場合のクマゼミ等の蝉の産卵管が刺入されない範囲以外においても、その産卵管が刺入されない場合があり、またその逆の場合があるため、その場合も含む意である。
【0019】
上記外被をなす樹脂としては、一般的にそのような反発弾性率や耐摩耗性の性質を得やすい熱可塑性エラストマーを採用することができ、その中において、実験等により、所要の反発弾性率や耐摩耗性を得ることができるもの、例えば、ウレタン系、オレフィン系、スチレン系、エステル系、塩化ビニル系等から適宜に選択すれば良い。これらの熱可塑性エラストマーは熱を加えると溶け、冷やすと固まるゴム弾性体を言い、加硫ゴムとプラスチックの中間物性を持つため、反発弾性率が高く、耐摩耗性も高いものである。
因みに、従来において、外被が熱可塑性エラストマーからなる屋内用ケーブルは存在するが、そのケーブルは、蝉の産卵による問題を把握し、その対策として外被を熱可塑性エラストマーとしたものではない。
【0020】
この熱可塑性エラストマーは、分子構造中のハードセグメント部にウレタン結合をもつ(有する)ものとすれば、機械的強度、特に、より耐摩耗性が高いものとすることができる。
また、熱可塑性エラストマーは、分子構造中のソフトセグメント部にエーテル結合をもち(有し)、さらにカーボンブラック等の紫外線吸収剤を添加したものとして、耐候性を高めたものとするとよい。エーテルは耐加水分解性があり、紫外線吸収剤によって耐紫外線性が確保され、この発明の光ドロップケーブルは、屋外用であるため、高い耐候性を有することは有利である。
さらに、熱可塑性エラストマーは、滑剤の添加によって外被表面の滑り性を向上させれば、滑性によって、上記産卵管bのノコギリ状両側片b2が滑って外被に噛み込みにくくなる可能性が期待できるとともに、配線時の引き出し等の工事作業性を高めることができる。
また、熱可塑性エラストマーは、ポリオレフィン樹脂をブレンド配合して、押出し加工性を向上させることもできる。
【0021】
上記の熱可塑性エラストマー等の上記樹脂は、反発弾性率:JISK7311による30〜80%、耐摩耗性:JISC3005の1000回転摩耗0.25mm以下、同2000回転摩耗0.35mm以下のものとすることが好ましく、耐摩耗性は、同1000回転摩耗0.15mm以下、同2000回転摩耗0.20mm以下のものとすることが更に好ましい。
因みに、ウレタン系熱可塑性エラストマーは、同反発弾性率:30〜70%、同耐摩耗性1000回転摩耗:0.15mm以下、同2000回転摩耗:0.20mm以下である。
【0022】
その熱可塑性エラストマーの1つであるポリウレタンは刺入孔が弾力によって塞がれる樹脂であることを確認するため、従来、ドロップケーブルの外被として使用されている難燃ポリエチレンと難燃低摩擦ポリウレタンの比較試験を行い、その結果を表2〜表4に示す。
その表2、3は、2mm厚の難燃ポリエチレンシート及び難燃低摩擦ポリウレタンシートに、上記画鋲(針径:0.9mm)を刺し通したものであり、表2はその表面傷跡の孔径、表3は孔空きの径をそれぞれ示す。また、表4は径:1mmの針(図7参照)を同じく2mm厚の難燃ポリエチレンシート及び難燃低摩擦ポリウレタンシートに刺し通した表面傷跡の孔径を示す。また、図7に、「画鋲刺し」における難燃ポリエチレンシート及び難燃低摩擦ポリウレタンシートの表裏面の状態を示し、図8に針による同シートの表面状態を示す。
【0023】
【表2】

【0024】
【表3】

【0025】
【表4】

【0026】
表2から、表面傷跡は、難燃ポリエチレンに対し難燃低摩擦ポリウレタンが約61%であって、約39%ほど小さくなっている。なお、難燃ポリエチレンにおいて、画鋲径:0.9mmより大きい傷があるのは、画鋲を抜き刺しする際の手振れによるものである。
表3から、難燃ポリエチレンの場合、約0.7mm径の孔が開くのに対し、難燃低摩擦ポリウレタンは全ての孔が塞がっていた。
表4から、表面傷跡は、「1.5mm深さ刺し」、「1.0mm深さ刺し」ともに、難燃ポリエチレンに対して難燃低摩擦ポリウレタンが約57%となって、約43%ほど小さくなっている。
【0027】
これらから、難燃ポリエチレンに対して難燃低摩擦ポリウレタンが、クマゼミ等の蝉の産卵管が仮に刺入されたとしてもその産卵管が抜かれた後、その刺入孔が弾力によって塞がれる樹脂であることが確認できる。そのことを実際の光ドロップケーブルにおいて確認するため、図1に示す難燃ポリエチレン光ドロップケーブル10及び難燃低摩擦ポリウレタン光ドロップケーブル10の外被15のノッチ14に径1mmの針を垂直に0.5mm深さ刺し、その後の孔径、外観状態の観察結果を表5及び図8に示す。
これらの結果から、難燃ポリエチレン外被に比べて難燃低摩擦ポリウレタン外被が産卵を防止する点において優れていることが理解できる。
【0028】
【表5】

【0029】
なお、外被をなす樹脂は、その引張り強度は、JISK7311による10〜50MPaの範囲、伸びは、JISK7311による1200%以下とすることが好ましい。
引張り強度が10MPaに満たないと、ケーブルを引張ったときに外被が破れる可能性が高く、一方、同50MPaを超えると、外被が硬くなり過ぎ、柔軟性がなくなったり、ゴム弾性が損なわれたりする。
また、伸びが1200%を超えると、柔らかい材料となり、ゴム弾性が損なわれ、上記反発弾性率:JISK7311による30〜80%が得にくい。
因みに、ウレタン系熱可塑性エラストマーは、同引張り強度:20〜50MPa、同伸び:300〜800%である。
【発明の効果】
【0030】
この発明は、以上のように構成したので、クマゼミ等の蝉の産卵管の刺入による光ドロップケーブルの損傷及び断線の恐れがないものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】一実施例の断面図
【図2】他の実施例の断面図
【図3】他の実施例の断面図
【図4】他の実施例の断面図
【図5】各実施例及び比較例における外被損傷図
【図6】枯木と生木の損傷状態図
【図7】難燃ポリエチレンと難燃低摩擦ポリウレタンの画鋲刺しによる損傷状態図及び針、画鋲の部分正面図
【図8】難燃ポリエチレンと難燃低摩擦ポリウレタンの針刺しによる損傷状態図
【図9】光ドロップケーブルの施設説明図
【図10】クマゼミの産卵説明図
【発明を実施するための形態】
【0032】
まず、図1〜図4に示す断面形状の光ドロップケーブル10を採用し、その各図において、11は外径:0.25mmφの光ファイバ心線、12は0.45mmφのアラミド繊維強化プラスチック紐のテンションメンバ、13は1.2mmφの亜鉛メッキ鋼線(支持線)、14はノッチ、15は光ファイバ心線11及びテンションメンバ12の保護外被、16はその保護外被15と同一に樹脂成形した亜鉛メッキ鋼線の保護被膜(外被)である。図中、17はケーブル本体(光ファイバ心線11)と支持線13とを繋ぐブリッジ、Gは微小ギャップである。
【0033】
つぎに、その図1の光ドロップケーブル10は多角形断面状であって、横幅(図1において横方向、以下同じ):約5.5mm、縦幅(図1において縦方向、以下同じ):約2.0mm、同図2の光ドロップケーブル10は断面小判状であって、横幅:約5.5mm、縦幅:約2.0mm、同図3の光ドロップケーブル10は断面楕円状であって、横幅:約5.5mm、縦幅:約2.0mm、同図4の光ドロップケーブル10は断面楕円状であって、横幅:約4.8mm、縦幅:約2.2mmである。
【0034】
この各図に示す構成の光ドロップケーブル10において、表6に示す樹脂特性の外被15、16でもって、表7に示す実施例1〜4及び比較例1を製作した。その各実施例1〜4の外被は、ポリエーテルをベースとした熱可塑性ポリウレタンエラストマー:60重量%、ポリマブレンド樹脂としてオレフィン系樹脂:30重量%、難燃剤:8重量%、紫外線吸収剤としてのカーボンブラック等を残り重量%としたものであって、実施例4を除き滑材を適宜量配合した。
表6中、「残率」は、各環境条件下で(加速)劣化させた後の物性値を劣化させる前の初期値で割って%表示したものであって、その各環境条件下、初期値に対して、どのくらい特性が維持されているかを示すもので、材料の長期信頼性の指標となる。「加熱変形率」は、加熱前の試料厚みをT0とし、これを、75±2℃で30分間加熱し、その後、9.8Nの荷重を30分間加えた後の試料厚みをTiとして、(T0−Ti)/T0×100の値であって、高温状態での物性が評価できる。「−」は、比較例は従来から一般的に使用されている材料であって、その実績から十分に信頼性があるとされているため、その測定は行わなかった意である。
【0035】
【表6】

【0036】
【表7】

【0037】
この比較例1及び実施例1〜4を、樹木の外周面周りに約3cm間隔で、2〜4mの長さにすだれ状に設置し(すだれ試験)、平成18年7月24日〜同年9月4日までの試験結果(刺し傷数)を表8に示し、そのケーブル外被15、16のクマゼミAの産卵管bによる損傷内訳を図5(a)に示す。表7中の()内は刺し傷のあった設置個所数を示す。その損傷は、外被15、16の目視によってその傷の有無を観察し、その後、ケーブル10を解体し、光ファイバ心線11の損傷の有無を目視、手の感触及び顕微鏡観察して、確認した。
この試験結果によれば、各実施例についてはいずれもケーブル外被15、16へのクマゼミの産卵管による損傷がなかったのに対し、比較例1にはその損傷が数多く認められた。
【0038】
【表8】

【0039】
また、上記特許文献1、2に示されるノッチ14をずらす工夫を行うとともに、外被15、16に難燃ポリエチレンを使用した比較例2〜5の上記の「すだれ試験」と同一の態様・同一期間の試験結果を表9に示し、そのケーブル外被15、16のクマゼミAの産卵管bによる損傷内訳を図5(b)に示す。この結果から、外被15、16が難燃ポリエチレンのものは損傷が激しことが理解できる。
【0040】
【表9】

【0041】
さらに、幅18cm×長さ36cm×高さ25cmの飼育ケースに、約35cmの実施例及び比較例とクマゼミ4〜5匹を入れ、産卵行動を観察した結果を表10に示す。
この観察結果及び表10から、クマゼミが腹部の感覚毛の感触及び口吻により産卵個所に適するか否かも確認するが、確認しない(できない)クマゼミは産卵管を刺しに行っていることがわかる。その結果として、実施例では、外被に損傷(浅い傷)はあるものの比較例では外被に損傷(深い傷)はあり、光ファイバの損傷もみられた。
実施例のポリウレタンには剛直的な硬さはなく、鋭利な刃先は刺さるが、擦れや彫り込みに対して強靱な特性(耐摩耗性)を示す。このため、産卵管の鋭利な部分が突き刺さって浅い傷は生じるものの、ノコギリ刃状のパーツ部が噛み込めず、弾かれてしまい、深く刺し込むことができない、と考える。これは、産卵管の突き刺し行動として、鋭利な刃先を刺し込んでいくのではなく、きっかけとして、先端部の鋭利な部分を突き刺して産卵管を固定し、その後は、産卵管の両側のパーツを使って彫けずり込んでいくためと考える。
この表10において、「初期品」とは、外被の成形後、常温に置いていたもの、「100℃×30日」とは、同100℃の温水に30日間浸したもの、「60℃温水×30日」とは、同60℃の温水に39日間浸したものであって、これらは、加速劣化試験に係わるものであり、実施例が加速劣化試験からも長時間使用しても問題のないことがわかる。
【0042】
【表10】

【0043】
上記各実施例は、支持線13を有するものであるが、その支持線13を有しない光ドロップケーブル10においてもその外被15にこの発明の樹脂を使用することにより、その作用効果を得ることができることは勿論である。また、テンションメンバ12も、必ずしも光ファイバ心線11の両側に設ける必要はなく(一方のみでよい)、逆に、3本以上とすることもできる。
【0044】
さらに、外被15、16の配合割合は、上記に限らず、一般的なポリエーテルをベースとした熱可塑性ポリウレタンエラストマー:50〜70重量%、ポリマブレンド樹脂としてのオレフィン系樹脂:20〜40重量%、難燃剤:5〜10重量%の難燃低摩擦ポリウレタン等を使用できるとともに、そのポリウレタンに限らず、十分な反発弾性率、耐摩耗性を有してクマゼミ等の蝉の産卵管が刺入されない樹脂であれば、何れの樹脂でも良い。
光ファイバ心線11は上記実施例の2心に限定されず、より合わせの複数心ファイバ、4心テープ心線、8心テープ心線、テープ心線を複数枚積層したもの等でもよい。また、外被15と光ファイバ心線11との間に微小ギャップGがない充実構造でも良い。
【符号の説明】
【0045】
10 光ドロップケーブル
11 光ファイバ心線
12 テンションメンバ(抗張力体)
13 支持線
14 ノッチ
15、16 外被

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ心線(11)と抗張力体(12)とを同一材料で被覆してなる屋外用光ドロップケーブル(10)において、
上記被覆した外被(15)を、クマゼミ等の蝉の産卵管(b)が刺入されない反発弾性率と耐摩耗性の何れか一方、又はその反発弾性率と耐摩耗性の両方を有する樹脂からなるものとしたことを特徴とする防蝉用光ドロップケーブル。
【請求項2】
上記反発弾性率はJISK7311による30〜80%、耐摩耗性はJISC3005の1000回転摩耗0.25mm以下、同2000回転摩耗0.35mm以下としたことを特徴とする請求項1に記載の防蝉用光ドロップケーブル。
【請求項3】
上記樹脂は、反発弾性率:JISK7311による30〜80%、耐摩耗性:JISC3005の1000回転摩耗0.25mm以下、同2000回転摩耗0.35mm以下のものとしたことを特徴とする請求項1に記載の防蝉用光ドロップケーブル。
【請求項4】
上記樹脂を熱可塑性エラストマーとしたことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1つに記載の防蝉用光ドロップケーブル。
【請求項5】
上記熱可塑性エラストマーは、分子構造中のハードセグメント部にウレタン結合を有するものであることを特徴とする請求項4に記載の防蝉用光ドロップケーブル。
【請求項6】
上記熱可塑性エラストマーは、分子構造中のソフトセグメント部にエーテル結合を有し、さらに紫外線吸収剤を添加したものであることを特徴とする請求項4又は5に記載の防蝉用光ドロップケーブル。
【請求項7】
上記熱可塑性エラストマーは、滑剤の添加によって外被表面の滑り性を向上させたことを特徴とする請求項4乃至6の何れか1つに記載の防蝉用光ドロップケーブル。
【請求項8】
上記熱可塑性エラストマーは、ポリオレフィン樹脂をブレンド配合して、押出し加工性を向上させたことを特徴とする請求項4乃至7の何れか1つに記載の防蝉用光ドロップケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図10】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−271538(P2009−271538A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−131118(P2009−131118)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【分割の表示】特願2008−546952(P2008−546952)の分割
【原出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【出願人】(000108742)タツタ電線株式会社 (76)
【Fターム(参考)】