説明

防錆包装フィルム用コート剤組成物および防錆包装フィルム

【課題】長期間防錆性を持続することができ、透明性、ヒートシール性および耐ブロッキング性に優れた防錆層を形成できる防錆包装フィルム用コート剤組成物および該組成物を塗布してなる防錆包装フィルム。
【解決手段】アクリル系共重合体(A)100質量部に対して、イソプレン系ゴム(B)2〜40質量部、オレフィン系重合体(C)2〜60質量部および常温で液体であり、上記アクリル系共重合体(A)と相溶性を有する気化性防錆剤1〜30質量部を含有することを特徴とする防錆包装フィルム用のコート剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防錆包装フィルム用コート剤組成物および防錆包装フィルムに関する。更に詳しくは、機械部品などの金属製品に錆が発生するのを防止する防錆包装フィルム用のコート剤組成物および該組成物を塗布した防錆包装フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
機械部品などの金属製品は、錆の発生により、外観不良、寸法誤差または導電性低下などの製品劣化を引き起こす。このため、従来、金属製品の輸送または保管の際は、金属製品の表面に防錆油を塗布したり、気化性防錆剤を含浸または塗布した防錆紙で金属製品を梱包したりして、金属製品などに錆が発生するのを防止している。
【0003】
しかしながら、防錆油を塗布する方法は、金属製品の使用に際し、油分を洗浄する必要があり、また、防錆紙により梱包する方法は、防錆紙が不透明であるため内容物の確認ができないばかりか、防錆紙は透湿性が高く、防錆紙で金属製品を梱包した後、更にバリヤー性を有するフィルムにより別途密封梱包することを要した。
【0004】
上記課題に対して、近年、樹脂組成物に気化性防錆剤を配合してなるコート剤組成物を原反フィルム上に塗布して防錆層を形成させてなる防錆包装フィルムや気化性防錆剤を配合した原反フィルム用樹脂をフィルム状に混練押し出し成型してなる防錆包装フィルムなどが使用されている。これらの防錆包装フィルムは、透明性、防湿性およびヒートシール性などを兼ね備えており、具体的には、防錆ストレッチフィルムや防錆梱包袋として使用されている。
【0005】
上記防錆包装フィルムとして、例えば、特許文献1には、ポリオレフィン系フィルムの表面に、気化性防錆剤を含むエチレン−ビニルアルコール共重合体の樹脂層を形成させてなる防錆包装フィルムが開示されている。しかしながら、この防錆包装フィルムは、上記樹脂層のヒートシール性が十分でなく、防錆梱包袋として使用した際に、シール部から破袋して防錆性が損なわれるおそれがあった。
【0006】
また、ヒートシール性を改良したものとして、特許文献2には、ヒートシール性を有する熱可塑性樹脂を含んだ溶液に、該熱可塑性樹脂と相溶性を有しない常温で固体の気化性防錆剤を分散させた分散液をフィルムに塗布、乾燥してなる防錆包装フィルムが開示されている。しかしながら、この防錆包装フィルムは、上記分散液により形成される防錆層のヒートシール性は良いものの耐ブロッキング性が十分でなく、また、上記防錆層の透明性が低いため、内容物の確認をし難い問題があった。
【0007】
更には、防錆包装フィルム全体の課題として、海外輸出など金属製品を長期間輸送または保管する場合に対応するため、防錆効果の持続期間がより長いことが求められており、防錆剤を含有するコート剤組成物の改良が望まれている。
【0008】
【特許文献1】特開昭51−39784号公報
【特許文献2】特開平3−87252号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、長期間防錆効果を持続することができ、透明性、ヒートシール性および耐ブロッキング性に優れた防錆層を形成できる防錆包装フィルム用コート剤組成物および該組成物を塗布してなる防錆包装フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を重ねたところ、以下の本発明により上記問題が解決されることを見出した。即ち、本発明は、アクリル系共重合体(A)100質量部に対して、イソプレン系ゴム(B)2〜40質量部、オレフィン系重合体(C)2〜60質量部および常温で液体であり、上記アクリル系共重合体(A)と相溶性を有する気化性防錆剤(D)1〜30質量部を含有することを特徴とする防錆包装フィルム用のコート剤組成物を提供する。
【0011】
また、本発明のコート剤組成物は、アクリル系共重合体(A)が、主鎖にペンダントした反応基含有シランカップリング剤の残基を有するアクリル系共重合体であることが好ましい。
【0012】
また、本発明のコート剤組成物は、アクリル系共重合体(A)が、炭素数1〜18のアルキル(メタ)アクリル酸エステルモノマー(a)65〜97.9質量%と、不飽和カルボン酸モノマー(b)0.1〜5質量%と、モノマー(a)およびモノマー(b)以外のモノマー(c)2〜30質量%とのモノマー混合物100質量部と、重合性シランカップリング剤0.05〜5質量部との、ガラス転移温度が−25〜50℃の共重合体であることが好ましい。
【0013】
また、本発明のコート剤組成物は、イソプレン系ゴム(B)が、天然ゴム、変性天然ゴム、合成イソプレンゴムおよび変性合成イソプレンゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0014】
また、本発明は、表面に本発明のコート剤組成物を積層してなることを特徴とする防錆包装フィルムを提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、長期間防錆効果を持続することができ、透明性、ヒートシール性および耐ブロッキング性に優れた防錆層を形成できる防錆包装フィルム用コート剤組成物および該組成物を塗布した防錆包装フィルムを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に発明を実施するための最良の形態を挙げて本発明を更に詳しく説明する。
尚、本発明の特許請求の範囲および明細書における「(メタ)アクリル」という用語は、「アクリル」および「メタクリル」の双方を意味し、また「(メタ)アクリレート」という用語は、「アクリレート」および「メタクリレート」の双方を意味する。
【0017】
本発明のコート剤組成物は、その主成分としてアクリル系共重合体(A)を含むことから、該組成物から形成される層は高い透明性を有する。該アクリル系共重合体(A)は、アクリル系モノマー、必要に応じて他のモノマーなどからなる共重合体であり、従来公知のいずれのものも用いることができる。
【0018】
特に、上記アクリル系共重合体(A)は、主鎖にペンダントした反応基含有シランカップリング剤の残基を有するアクリル系共重合体であることが好ましい。このアクリル系共重合体(A)を含有するコート剤組成物は、形成される防錆層の表面付近に上記シランカップリング剤の残基が配向するため、上記防錆層のブロッキングを有効に防止することができる。上記シランカップリング剤の残基は、重合性シランカップリング剤由来の残基でもよいし、共重合体の反応基と反応するシランカップリング剤由来の残基でもよい。好ましくは、重合性シランカップリング剤由来の残基である。
【0019】
上記重合性シランカップリング剤は、アクリル系共重合体(A)を構成するモノマー成分と共重合するシランカップリング剤である。例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシランなどが挙げられ、これらの群から選ばれる少なくとも1種を使用することができる。
【0020】
上記した共重合体の反応基と反応するシランカップリング剤は、共重合体が有する水酸基、カルボキシル基などの反応基と反応性を有するシランカップリング剤である。例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、エポキシ基含有アルコキシシランオリゴマーなどのエポキシ基含有シランカップリング剤、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメチルジエトキシシラン、メルカプト基含有アルコキシシランオリゴマーなどのメルカプト基含有シランカップリング剤、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基含有シランカップリング剤またはγ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどのイソシアネート基含有シランカップリング剤などが挙げられ、これらの群から選ばれる少なくとも1種を使用することができる。
【0021】
特に、上記アクリル系共重合体(A)は、アクリル系共重合体(A)が、炭素数1〜18のアルキル(メタ)アクリル酸エステルモノマー(a)65〜97.9質量%と、不飽和カルボン酸モノマー(b)0.1〜5質量%と、モノマー(a)およびモノマー(b)以外のモノマー(c)2〜30質量%とのモノマー混合物100質量部と、重合性シランカップリング剤0.05〜5質量部との、ガラス転移温度が−25〜50℃の共重合体であることがより好ましい。ガラス転移温度が、−25℃未満の場合は、防錆層の耐ブロッキング性が上記範囲内と比べて劣り、50℃を超える場合は、防錆層のヒートシール性が上記範囲内と比べて劣る。以下、この好ましい形態における各構成成分について説明する。
【0022】
上記モノマー(a)としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2−エチルへキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレートまたはラウリル(メタ)アクリレートなどのモノマーが挙げられ、これらの群から選ばれる少なくとも1種を使用することができる。上記モノマー(a)の共重合比が、上記範囲内であることにより、コート剤組成物により形成される防錆層がより優れた透明性を有する。
【0023】
上記モノマー(b)としては、例えば、(メタ)アクリル酸、フマル酸、イタコン酸、マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチルまたはカルボキシエチル(メタ)アクリレートなどのモノマーが挙げられ、これらの群から選ばれる少なくとも1種を使用することができる。上記モノマー(b)の共重合比が、上記範囲内であることにより、防錆層の原反フィルムに対する接着力をより向上させることができる。
【0024】
上記モノマー(c)としては、例えば、スチレン、メチルスチレン、フェノキシエチル(メタ)アクリレートまたはベンジル(メタ)アクリレートなどの芳香族基含有モノマーなどが挙げられ、これらの群から選ばれる少なくとも1種を使用することができる。好ましくは、アクリル系共重合体(A)の構造内でハードセグメントとして存在し得るモノマーである。この場合、上記モノマー(c)の共重合比が、上記範囲内であることにより、他の成分からなるソフトセグメントと相分離構造を形成し、応力緩和効果を生じさせ、防錆層と原反フィルムとの接着力をより向上させることができる。
【0025】
上記アクリル系共重合体(A)は、通常の重合方法、例えば、溶液重合、塊状重合、乳化重合または懸濁重合などにより製造することができ、好ましくは、乳化重合である。この乳化重合に使用する界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩、アセチレン基含有ノニオン界面活性剤などを用いることができる。また、重合に使用する重合開始剤としては、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩、ベンゾイルパーオキシド、ラウリルパーオキシドなどの過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスバレロニトリルなどのアゾビス化合物または高分子アゾ重合開始剤などを挙げることができ、これらは単独でもまたは組み合わせても使用することができる。本発明では上記乳化重合液をそのまま使用することが好ましい。
【0026】
また、上記重合においては、アクリル系共重合体(A)の分子量を調整するために連鎖移動剤を使用することができる。例えば、メチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、デシルメルカプタン、ベンジルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、ステアリルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸およびそのエステル、2−エチルヘキシルチオグリコール、チオグリコール酸オクチルなどのメルカプタン類;メタノール、エタノール、プロパノール、n−ブタノール、イソプロパノール、t−ブタノール、ヘキサノール、ベンジルアルコール、アリルアルコールなどのアルコール類;クロルエタン、フルオロエタン、トリクロロエチレンなどのハロゲン化炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、フルフラール、ベンズアルデヒドなどのカルボニル類;メチル−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、α−メチルスチレンなどが挙げられる。好ましくはメルカプト基を有する連鎖移動剤である。
【0027】
上記連鎖移動剤の使用量は、上記モノマー(a)、上記モノマー(b)および上記モノマー(c)からなるモノマー混合物100質量部に対して、0.01〜2質量部であることが好ましい。
【0028】
本発明のコート剤組成物は、自着性に優れたイソプレン系ゴム(B)を含有することにより、ヒートシール性に優れた防錆層を形成できる。上記イソプレン系ゴム(B)としては、例えば、天然ゴム、変性天然ゴム、合成イソプレンゴムまたは変性合成イソプレンゴムなどが挙げられ、これらの群から選ばれる少なくとも1種を使用できる。また、変性したイソプレン系ゴム(B)としては、例えば、天然ゴムまたは合成イソプレンゴムにメチル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレートをグラフト重合した共重合体が挙げられ、この場合、防錆層のヒートシール性をより向上させることができる。また、別の形態としては、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)が挙げられ、防錆層の耐ブロッキング性および透明性をより向上させることができる。上記のイソプレン系ゴム(B)は、ラテックスとして、例えば、商品名「MG−40s」((株)レジテックス製)として市場から入手して本発明で使用できる。
【0029】
上記イソプレン系ゴム(B)の配合量は、前記アクリル系共重合体(A)100質量部に対して、2〜40質量部であることを必要とする。上記含有量が、2質量部未満の場合は、防錆層のヒートシール性が不十分となり、40質量部を超える場合は、防錆層の耐ブロッキング性が不十分となる。
【0030】
本発明のコート剤組成物は、オレフィン系重合体(C)を含有することにより、耐ブロッキング性に優れた防錆層を形成できる。更には、オレフィン系樹脂からなるフィルムを原反フィルムとして用いた際には、投錨効果により、原反フィルムと防錆層の密着性を向上させることができる。上記オレフィン系重合体(C)としては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体などが挙げられ、これらの群から選ばれる少なくとも1種を使用できる。特に、上記オレフィン系重合体(C)は、防錆層のヒートシール性および柔軟性の点から軟質またはエラストマーであることが好ましい。上記のオレフィン系重合体(C)は、樹脂ペレットとして、例えば、商品名「ペトロセン」(東ソー(株)製のLDPE)、商品名「エクセル」(住友化学(株)製のエチレン−プロピレン共重合体)、商品名「エバフレックス」(三井・デュポンポリケミカル(株)製のエチレン−酢酸ビニル共重合体)又は商品名「ニュクレル」(三井・デュポンポリケミカル(株)製のエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体)などを市場から入手して本発明で使用でき、又、水性ディスパージョンとして、例えば、商品名「ケミパールA−100」(三井化学(株)製)などを市場から入手して本発明で使用できる。
【0031】
上記オレフィン系重合体(C)の配合量は、前記アクリル系共重合体100質量部に対して、2〜60質量部であることを必要とする。上記含有量が、2質量部未満の場合は、防錆層の耐ブロッキング性および原反フィルムに対する密着性が不十分となり、60質量部を超える場合は、防錆層のヒートシール性が不十分となる。
【0032】
本発明のコート剤組成物は、前記アクリル系共重合体(A)と相溶性を有する常温で液体の気化性防錆剤(D)を含有する。このため、固体で前記アクリル系共重合体(A)と相溶性を有しない防錆剤と比べて、コート剤組成物により形成される防錆層は、優れた透明性を有し、また、防錆剤成分が遊離することによるヒートシール性の低下を抑制でき、更には、防錆効果を長時間持続させることができる。上記防錆剤(D)としては、例えば、ジイソプロピルアミン亜硝酸塩、ジシクロヘキシルアミン亜硝酸塩などの亜硝酸アミン塩、安息香酸モノエタノールアミン塩、アミン塩のカルボン酸塩又はカルボン酸のエステル類などを挙げることができ、これらの群から選ばれる少なくとも1種を使用することができる。上記の気化性防錆剤(D)は、例えば、商品名「キレスコート2A」(キレスト(株)製)として市場から入手して本発明で使用できる。
【0033】
上記防錆剤(D)の配合量は、前記アクリル系共重合体(A)100質量部に対して、1〜30質量部であることを必要とする。上記含有量が、1質量部未満の場合は、短期間の防錆効果しか得られず、30質量部を超える場合は、防錆層のヒートシール性が不十分となる。
【0034】
また、本発明のコート剤組成物は、必要な特性に応じて、本発明の効果を損なわない範囲において、種々の添加剤を配合してもよい。例えば、アンモニア水、モノエタノールアミンなどのpH調整剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、充填剤、顔料などを配合することができる。また、本発明のコート剤組成物は、前記(A)〜(C)の成分はいずれも水性乳化液などとして入手されることから、(A)〜(C)の成分と(D)成分とを混合した水性液とすることが好ましい。該水性液の固形分は特に限定されないが、通常30〜65質量%である。
【0035】
本発明の防錆包装フィルムは、原反フィルムの表面に本発明のコート剤組成物を積層してなることから、長期間防錆性を持続することができ、優れた透明性、ヒートシール性および耐ブロッキング性を有することができる。このため、本発明の防錆包装フィルムは防錆梱包袋として有効に使用できる。更に、上述した本発明のコート剤組成物は、アクリル系共重合体(A)を主成分としていることから、本発明の防錆包装フィルムを防錆ストレッチフィルムとして使用した場合、優れた密着性を有する。尚、上記した「原反フィルム」とは、コート剤組成物を塗布していない防錆包装フィルムを示す。
【0036】
上記原反フィルムは、特に限定されないが、オレフィン系樹脂からなるフィルムが好ましい。この場合、オレフィン系重合体(C)を含んだ本発明のコート剤組成物が形成する防錆層と優れた密着性を有する。オレフィン系樹脂からなるフィルムとしては、例えば、LDPEフィルム、エチレン−酢酸ビニル樹脂フィルムなどを挙げることができる。また、上記コート剤組成物の原反フィルムに対する密着性をより向上させるために、原反フィルムの表面には、コロナ放電処理などの表面処理を行うことができる。
【0037】
また、上記原反フィルムの厚さは、特に制限はなく、いずれのものも使用できるが、例えば、20〜200μmのものを使用することができ、これらは用途または目的により異なる。
【0038】
本発明の防錆包装フィルムは、通常使用されている塗布方法、例えば、バーコート、ロールコート、スプレーコート、ディップコートなどにより、上記原反フィルムの表面に本発明のコート剤組成物を塗布および乾燥して作製できる。
【0039】
本発明のコート剤組成物の塗布量は、5〜20g/m2・dryの範囲内であることが好ましい。上記塗布量が、5g/m2・dry未満の場合は、防錆包装フィルムが防錆効果を持続する期間が短くなり、20g/m2・dryを超える場合は、防錆包装フィルムの透明性が上記範囲内と比較して劣る。
【実施例】
【0040】
次に実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、下記の実施例によって限定されるものではない。尚、文中および表中「部」および「%」とあるのは、特に断りのない限り質量基準である。また、表中の構成成分の配合量は、溶媒を除いた成分量(固形分)を示す。
【0041】
<アクリル系共重合体の作製>
[製造例1]
イオン交換水50部、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩(商品名:ニューコール707SF、日本乳化剤(株)製)5.84部、アセチレン基含有ノニオン界面活性剤(商品名:サーフィノールPSA−216、日信化学工業(株)製)2.0部、ブチルアクリレート(BA)49部、メチルメタクリレート(MMA)39部、スチレン(ST)10部、アクリル酸2.0部、ビニルトリメトキシシラン(商品名:KBM−1003、信越化学工業(株)製)1部およびn−ドデシルメルカプタン0.5部を秤量して攪拌し、乳化混合液を調製した。
【0042】
次いで、攪拌機、還流冷却器、温度計、滴下装置および窒素ガス導入管を装備した反応装置に、イオン交換水70部およびポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩(商品名:ニューコール707SF、日本乳化剤(株)製)0.83部を仕込み、上記装置内の空気を窒素ガスに置換した後、仕込んだこの溶液を攪拌しながら、上記装置の内温を80℃に加温した。次に、この溶液中に10%水溶液の過硫酸ナトリウム0.5部を添加した後、直ちに上記乳化混合液を3時間かけて滴下した。滴下終了後、上記装置の内温を80℃に保ちながら、更に2時間反応を行なった後、内温を室温まで冷却して、アクリル系共重合体のエマルションA1を作製した。得られたエマルションA1の物性値は、粘度560mPa・s/25℃、固形分46%、pH2.8、ガラス転移温度(Tg)(アクリル系共重合体)−2.1℃、平均粒子径(アクリル系共重合体の粒子)105nmであった。
【0043】
[製造例2〜5]
製造例1における構成成分および/または配合量を変える以外は、製造例1と全く同様にして、製造例2〜5のエマルションA2〜A5を作製した。得られたエマルションA2〜A5の構成成分および配合量並びに物性値を表1−1または表1−2に示す。
【0044】
[製造例6]
製造例1におけるビニルトリメトキシシランを使用しなかった以外は、製造例1と全く同様にして、製造例6のエマルションA6を作製した。得られたエマルションA6における構成成分および配合量並びに物性値を表1−2に示す。
【0045】
[製造例7]
エマルションA6に、更にアミノプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM−903、信越化学工業(株)製)を0.5部反応させることにより、アクリル系共重合体のエマルションA7を作製した。得られたエマルションA7における構成成分および配合量並びに物性値を表1−2に示す。
【0046】

【0047】

【0048】
<コート剤組成物、防錆包装フィルムの作製および評価>
[実施例1]
エマルションA1を217.4部(固形分100部)用意し、これに25%アンモニア水1.1部、モノエタノールアミン2.17部を添加して、pHを9前後に調整した。次に、これにポリオレフィン系重合体のディスパージョン(商品名:ケミパールA−100、三井化学(株)製)を65.2部(固形分26.1部)添加して攪拌混合させた後、天然ゴム−MMAグラフト共重合体ラテックス(商品名:MG−40s、(株)レジテックス製)21.7部(固形分13.0部)および常温で液体でありアクリル系共重合体と相溶性を有する気化性防錆剤(商品名:キレスコート2A、キレスト(株)製)5.0部(固形分5部)を添加し、実施例1のコート剤組成物を作製した。尚、得られた実施例1のコート剤組成物の物性値は、粘度90mPa・s/25℃、固形分46.0%、pH8.0であった。
【0049】
次に、得られた実施例1のコート剤組成物を、接触角度が40°になるようにコロナ放電処理機で表面処理された100μm厚のLDPEフィルムの表面処理面に、バーコーターを使用して塗布量が約10g/m2・dryとなるように塗布した。その後、この塗布面を80℃の熱風乾燥機で30秒間乾燥させ、防錆包装フィルムを作製した。この防錆包装フィルムを23℃×50%RH内で24時間養生させた後、後述する試験方法にて評価した。評価結果は全ての項目で良好であった。評価結果を表2−1に示す。
【0050】
[実施例2〜7]
表2−1または表2−2に示すように、アクリル系共重合体のエマルション、イソプレン系ゴム、オレフィン系重合体および気化性防錆剤の種類および/または量を変える以外は、実施例1と全く同様にして、実施例2〜7のコート剤組成物および防錆梱包フィルムを作製し、これらを後述の試験方法にて評価した。評価結果は全ての項目で良好であった。評価結果を表2−1または表2−2に示す。
【0051】
[実施例8]
実施例1におけるエマルションA1をエマルションA6に変える以外は、実施例1と全く同様にして、実施例8のコート剤組成物および防錆梱包フィルムを作製し、後述の試験方法にて評価した。評価結果は、耐ブロッキング性試験において、ほぼ全面に貼り付きが生じたが、容易に剥離でき、実用上問題ないレベルであった。評価結果を表2−2に示す。
【0052】
[実施例9]
実施例1におけるエマルションA1をエマルションA7に変える以外は、実施例1と全く同様にして、実施例9のコート剤組成物および防錆梱包フィルムを作製し、後述の試験方法にて評価した。評価結果は、耐ブロッキング性試験において、一部に貼り付きが生じたが、容易に剥離でき、実用上問題ないレベルであった。評価結果を表2−2に示す。
【0053】
[比較例1]
実施例1における気化性防錆剤を使用しなかった以外は、実施例1と全く同様にして、比較例1のコート剤組成物および防錆梱包フィルムを作製し、後述の試験方法にて評価した。評価結果は、防錆試験において、極めて短期間しか防錆効果が得られなかった。評価結果を表3に示す。
【0054】
[比較例2]
実施例1におけるエマルションA1をエマルションA4に変え、更にオレフィン系重合体の配合量を26.1部から65部に変える以外は、実施例1と全く同様にして、比較例2のコート剤組成物および防錆梱包フィルムを作製し、後述の試験方法にて評価した。評価結果は、耐ブロッキング性試験において、ほぼ全面にブロッキングが生じ、剥離が困難であった。評価結果を表3に示す。
【0055】
[比較例3]
実施例1におけるエマルションA1をエマルションA5に変え、更にイソプレン系ゴムの配合量を13部から45部に、オレフィン系重合体の配合量を26.1部から2.0部に代える以外は、実施例1と全く同様にして、比較例3のコート剤組成物および防錆梱包フィルムを作製し、後述の試験方法にて評価した。評価結果は、ヒートシール性試験において、ヒートシール強度が不十分であった。評価結果を表3に示す。
【0056】
[比較例4]
実施例1におけるエマルションA1をエマルションA2に変え、更にイソプレン系ゴムを使用しなかった以外は、実施例1と全く同様にして、比較例4のコート剤組成物および防錆梱包フィルムを作製し、後述の試験方法にて評価した。評価結果は、ヒートシール性試験において、ヒートシール強度が不十分であった。評価結果を表3に示す。
【0057】
[比較例5]
実施例1におけるエマルションA1をエマルションA2に変え、更に気化性防錆剤を、常温で固体であり、アクリル系共重合体と相溶性を有しない気化性防錆剤(商品名:キレスコートV・C・I 320A、キレスト(株)製)に変える以外は、実施例1と全く同様にして、比較例5のコート剤組成物および防錆梱包フィルムを作製し、後述の試験方法にて評価した。評価結果は、防錆試験において短期間の防錆効果しか得られず、また、皮膜透過率試験において透明性が不十分であった。評価結果を表3に示す。
【0058】

【0059】
<SIS乳化液の作製方法>
スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(商品名:KRATON D−1107CP、シェル化学(株)製)100部、トルエン17.6部およびポリオキシエチレンオクチルフェノールエーテル型ノニオン界面活性剤(商品名:ニューコール864、日本乳化剤(株)製)12部を容器に入れ、80℃の温度で溶解し、SIS溶解液を作製した。次に、80℃の温水にトリエタノールアミンを0.5部添加し、攪拌しながら、上記で作製したSIS溶解液を添加してSIS乳化液を得た。尚、この乳化液の粘度は、1,200mPa・s/25℃、固形分は60.2%、pHは8.3であった。
【0060】

【0061】

【0062】
<試験方法および評価基準>
[防錆性試験]
防錆包装フィルムを、内寸が100mm×100mmの袋にした。次に、JIS−G−3141に規定された60mm×80mm×1.2mm冷間圧延鋼板(SPCC)を用意し、その表面を、JIS−R−6251に規定されたAA240番の研磨布で研磨し、灯油、メタノールおよびアセトンで脱脂処理を行ない試験板とした。次に、上記試験板を上記で作製した袋に入れた後、袋の開口部をヒートシールして内部を密閉状態とした。密閉状態の袋を50℃×95%以上に保たれた恒温恒湿槽に一定時間放置した後、上記試験板に発生する錆の有無を目視で確認した。錆発生有無の確認は1日毎に行った。
【0063】
[ヒートシール性試験]
防錆包装フィルムのコート剤組成物が塗布された面同士を重ね合わせた後、この重ね合わせた部分をシール温度150℃、シール圧2kg/cm2、シール時間1秒間の条件にてヒートシールテスター(理学工業(株)製)を用いてシールした。23℃で24時間放置した後、引張速度100mm/分でシール部分15mmを剥がすのに要する力を測定した。
【0064】
[耐ブロッキング性試験]
防錆包装フィルムのコート剤組成物が塗布された面同士を重ね合わせた後、この重ね合わせた部分に200g/cm2の荷重をかけ、この状態で40℃×90%の恒温恒湿槽内に72時間放置した。その後、常温で24時間冷却し、上記の重ね合わせた部分を引き剥がして、目視でブロッキングの発生を確認した。評価基準は下記の通りである。
・評価基準(◎、○および△が実用レベルである。)
◎:全く貼り付きを生じなかった。
○:一部に貼り付きが生じたが、剥離が容易であった。
△:ほぼ全面に貼り付きが生じたが、剥離が容易であった。
×:ほぼ全面で貼り付きが生じ、剥離が困難であった。
【0065】
[透過率試験]
防錆包装フィルムの透過率を濁度計(商品名:NDH2000、日本電色(株)製)を使用して測定した。尚、表中の透過率における単位「%」は質量基準ではない。
【0066】
[ガラス転移温度]
尚、アクリル系共重合体のガラス転移温度は、各単量体成分により形成されるホモポリマーのガラス転移温度から次式による計算式から求めた。
1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+・・・・+Wn/Tgn
但し、Tg:共重合体のガラス転移温度(絶対温度)、W1〜Wn:単量体成分1〜単量体成分nの重量分率、Tg1〜Tgn:単量体成分1〜単量体成分nのホモポリマーのガラス転移温度(絶対温度)。
【0067】
ホモポリマーのガラス転移温度の例を挙げると、下記に示す通りである。ブチルアクリレート(BA):−50℃、メチルメタクリレート(MMA):105℃、2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA):−70℃、スチレン:100℃、アクリル酸:106℃。
【0068】
[平均粒子径]
又、アクリル系共重合体の平均粒子径は、レーザー光散乱サブミクロン粒子アナライザー(Particle Sizing Systems INC製、NICOMP Model370)にて測定した。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明によれば、長期間防錆性を持続することができ、透明性、ヒートシール性および耐ブロッキング性に優れた防錆層を形成できる防錆包装フィルム用コート剤組成物および該組成物を塗布した防錆包装フィルムを提供することができる。従って、本発明のコート剤組成物は、防錆包装フィルム用のコート剤組成物として最適であり、本発明の防錆包装フィルムは、防錆梱包袋として小型の金属製品を梱包したり、防錆ストレッチフィルムとして大型の金属製品を巻き付けて梱包したりする防錆包装フィルムとして最適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系共重合体(A)100質量部に対して、イソプレン系ゴム(B)2〜40質量部、オレフィン系重合体(C)2〜60質量部および常温で液体であり、上記アクリル系共重合体(A)と相溶性を有する気化性防錆剤(D)1〜30質量部を含有することを特徴とする防錆包装フィルム用のコート剤組成物。
【請求項2】
アクリル系共重合体(A)が、主鎖にペンダントした反応基含有シランカップリング剤の残基を有するアクリル系共重合体である請求項1に記載のコート剤組成物。
【請求項3】
アクリル系共重合体(A)が、炭素数1〜18のアルキル(メタ)アクリル酸エステルモノマー(a)65〜97.9質量%と、不飽和カルボン酸モノマー(b)0.1〜5質量%と、モノマー(a)およびモノマー(b)以外のモノマー(c)2〜30質量%とのモノマー混合物100質量部と、重合性シランカップリング剤0.05〜5質量部との、ガラス転移温度が−25〜50℃の共重合体である請求項1に記載のコート剤組成物。
【請求項4】
イソプレン系ゴム(B)が、天然ゴム、変性天然ゴム、合成イソプレンゴムおよび変性合成イソプレンゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれか1項に記載のコート剤組成物。
【請求項5】
表面に請求項1〜4のいずれか1項に記載のコート剤組成物を積層してなることを特徴とする防錆包装フィルム。

【公開番号】特開2008−127504(P2008−127504A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−316080(P2006−316080)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(000105877)サイデン化学株式会社 (39)
【Fターム(参考)】